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矢野委員 ところが、いま
三木さんも言われた
安定成長のために、
政府はいま何をやろうとしているか、あるいはこの一年間何をやってきたか。少なくとも
国民の目から見て印象的にはっきりしておることは、
物価安定を合い言葉にして、総需要抑制
政策、金融、
財政の引き締めの強行——私は大枠として、この総需要抑制
政策に反対するものではございません。これは念のために申し上げておきます。しかし
政府の考え方は、ただ金を締めればいいんだということで、そして伸び率指数のみ、たとえば
成長率の伸び、
物価上昇率の伸び、この伸び率を抑えるんだというところに非常に力点がかかっておるように見えるわけであります。
私が言いたいことは、そんな金を締めてそして伸び率を抑える、いわゆる抑制型の考え方よりも、なぜいままで
日本の経済が
高度成長経済、はっきり言えば異常
成長経済に走らざるを得なかったかというこの原因、あるいはまた走らせるようなこの枠組み、ここに徹底的なメスを加えて、そして
安定成長のいわば構造的な舞台装置と申しますか、これをはっきりつくってこそ、これから本当の意味の安定した経済ができるんじゃないかと思うのですよ。ところが、
総理がいま強い決意だとおっしゃっていますけれども、現実にいまやってこられたこと、またこれからやろうとすることは、やはりこの金融引き締め、そしてそれで需要を抑え生産を抑えて、そして景気を減速さしていくんだというところに、どう考えても力点がかかっているわけで、構造的な、たとえば
資源の配分、所得の再配分、そういったところに
根本的なメスを加えるという
姿勢が、残念ながら見受けられません。
わが党の竹入
委員長の
代表質問におきまして、あなたに対する四つの踏み絵ということで、
一つは
政治資金規正法の改正、そして独占禁止法の改正、
自動車排ガスの問題、老人の年金問題、こういったことをあなたに提起したわけであります。これはなぜかと言いますと、そのような
数字の伸び率だけじゃない、構造的な、
安定成長あるいは福祉
成長と申しますか、舞台装置をつくるためには、少なくともこの四つの条件が必要なんですよ、という意味で申し上げておるわけであります。
具体的に申し上げましょう。たとえば環境整備を
企業の責任においてやらせる、これは
国民の健康や国土を守るために当然のことでありますけれども、そのように
企業の責任を明確にすることによって、
企業のいわゆる総資本対生産高の比率は下がってくるのは、これはあたりまえですね、それだけ
企業のコストが環境整備にかかるから。そういうようなことから、結果的に経済を減速さしていくという考え方、金融を締めるだけではなくしてですね。あるいはまた、大
企業の持っておる莫大な土地、これはもう一遍も再評価してありませんね。これを再評価することによって、法人の土地再評価税というものを取る。それを福祉基金として
国民に回す。そういうことによってまた、
成長は結果として減速していくじゃありませんか。あるいはまた、
政府の公共事業につきましても、生産オンリーじゃない、
国民生活優先の生活関連公共事業にもっと力を入れていく、あるいは
財政面におきましても、そのような
立場で運用していく。これは大
企業は、いままで
政府から受けておったこのカンフルがなくなるという意味で、つらいでしょうけれども、そのつらさを越えてこそ初めて、本当の
安定成長が実現できると思うのです。
あるいは独占禁止法の問題もそうであります。独占禁止法は、何も
企業をいじめるというよりも、本来、資本主義の持っておる自由競争の原理、これを独禁法を厳しくすることによって回復さして、そうして経済のバイタリティーをもう
一つよみがえらせようというところにねらいがあるのでしょう。また、そういった過程において、当然経済は減速していくわけであります。
いろいろ申し上げましたけれども、そのような具体的な諸問題について、
総理が本当に、なるほどこれは経済構造、
資源の配分、所得の再配分に
根本的なメスを加えようとしているんだという、強い決意というよりも、具体的な方策あるいはまたビジョン、そのためのスケジュール、こういったものがなければ、幾ら
三木さんがおっしゃっても、これは信用できないのですよ。だから、失礼な言い方でありますけれども、
三木総理のことを、総論あって各論なしだなんていうことを言いますが、私から言わしめれば、総論というものは本来そのようなビジョンでありスケジュールである。具体的諸問題、独禁法とか、
企業の
公害についての責任の明確化、あるいはまた
財政の配分の問題、こういう具体的なビジョンと内容、これが総論であって、私から言わせれば、総論も各論もない、言葉だけなんだということに、まあ大変失礼な言い方でありますけれども、思うわけであります。だから、こういった考え方ですね、これをひとつ前提にして、私の
質問にお答えいただきたいわけであります。
特に、最近
政府は、三月には消費者
物価対前年同月比一五%ということを合い言葉にして、総需要抑制
政策はさらに堅持するんだという。そのこと自体、私は反対しません。それとセットになった構造改革があれば、私は反対しません。しかし、それなしに、ただ三月の消費者
物価は一五%に抑えるんだ。終わったら、これはまた大
企業から言われて、構造改革を伴わない大
企業優先の
政策へ戻っていく。また昔来た道、脱兎のようにまた
成長経済の方に戻ってしまう。なぜそうかと言えば、経済の構造が変わっていない、金を締めたり緩めたりだけで操作をしていらっしゃる。だから私は、これまた失礼な言い方でありますけれども、あなたの路線は、
成長路線ではなく乱高下路線である。上がったり下がったり、しかも締めるときには、中小零細
企業や
国民の犠牲において、この
成長率をカットしていく。これは後ほど具体的に資料をもって申し上げますけれども、
成長率が下がるといっても、弱い人の犠牲において
成長率が下がっているんじゃありませんか。そして、少し
数字の上で何とかかっこうがつけば、構造が変わっていないから、またもとへ戻って、大
企業優先の反社会的なことが行なわれる。もうこういう乱高下路線は困るわけであります。
そういう意味で、以下具体的に、まず
最初に税制の問題、次に銀行問題、ざらに福祉あるいは国際金融問題などについて伺っていきたいと思います。総論が長くなりましたが、一応、私の
質問の
立場というものを御理解いただいた上でお答えを願いたい、そういう意味で申し上げたわけでございます。
そこで、社会的公正、最近非常にあなたが使われて、何となくそういう世の中が来るのかしらというような幻想を
国民が持っておるのかもわかりません。言葉だけじゃ楽にならないんです、はっきり言いまして。この社会的公正というものは、本来二つの面がなくちゃならぬ。
一つは、本当にこのインフレのために苦しんでおる弱い
立場の方方を守るということ。二つは、強い者、大
企業とか大金持ちが勝手気ままなことをやりました。この不労所得をどのように吸収して弱い
立場の方々に回すか。弱者対策と強者対策、この二つの面が明確に出て、社会的公正ということが言えるんじゃないかと思うわけです。
それが一番効果的といいますか、本来それを目的としておるのが、私は税制度だと思うわけでありますけれども、少なくとも、この税制度を見る限りにおいては、この社会的公正ということは裏切られたんじゃないかと思います。たとえば、所得減税といいましても、これは全くのミニ減税でありますし、
物価上昇、名目賃金の値上がり、これを考えれば、これはもう逆に大増税、大衆課税の強化。あるいはまた、これはもう、大金持ちであっても、働く人であっても、一日に飲む酒というのは、そんなに百倍も千倍も変わりませんね。たばこだって変わりません。つまり、そういうふうな大衆が使うお酒とかたばこの値上げをするということは、これは逆累進というかっこうになる。つまり、大衆課税の強化じゃないかという問題がありますね。特に、お医者さんの税金の特例措置、土地譲渡の問題、利子・配当の問題、こういったことを見たら、どう考えても、取りやすいところから取って、抵抗の強いところや、言っちゃ悪いですけれども、
政治献金その他の関係のあるところからは、つまり大
企業からは余りもらわないようにしようということじゃないかと勘ぐりたくなるわけです。
そこで、所得税の問題で具体的に伺いますが、大蔵大臣、五点続けて申し上げますから、お答えを願いたいと思います。
所得税の減税について、
政府は毎年、消費者
物価上昇に対して
物価調整所要額というものを公表し、措置してこられたわけであります。これは、たとえば昨年の十月の勤労者世帯の可処分所得、使えるお金というものはマイナス六・一%であるということからも、名目賃金はふえても実際に使えるお金は減っておる。毎年この
物価調整所要額というものを明確にしてこられたけれども、今回、このどえらいインフレ、この減税に当たって、どの程度の
物価調整所要額というのをお考えになったのか、その根拠を聞かせてもらいたい。でなければ、この減税が
物価値上がりを頭に置いた減税であるかどうか、われわれには判断がつかないわけであります。これが第一点。
第二点は、所得税納入者の数。給与所得者、どちらかというと収入の少ない人ですね。この給与所得者の納税人数というものは、四十九年の見込みが二千七百十四万人、そして今回の税制改革、五十年は給与一八%アップということを一応見込みますと、二千七百五十一万人と、給与所得者の納税人口、人数というものが、今回の税制度によって大幅にふえるわけです。一方申告所得者、これは八百万以上の方が申告をするということになっておるようでありますが、これは多額収入者です。この申告所得者は、四十九年は五百七十三万人、五十年は五百五十八万人。減っておるわけであります。納税者の数ということから見ましても、今回の税制度は明らかに、給与所得者の納税人口がふえ、多額納税者である申告所得者の数が減ってきておる。これはどう考えても大衆課税の強化じゃないか、お金持ち優遇じゃないかと思うわけでありますが、この人数の面からひとつ御説明願いたい。これが第二点。
第三点は、給与所得者控除というものは、四十八年度までは最高七十六万円で頭打ちになっておったわけですね。それ以上幾ら収入がふえても控除は七十六万円ということで、それ以上の控除は認められなかったわけです。去年から年収六百万円を超える収入につきましては一〇%の控除を認めるということで、これは青天井になったわけであります。つまり一千万円なら百万の控除、二千万円なら二百万の控除。それまでは七十六万で頭打ちということになっておった。こういう青天井の控除というのは、金持ちに非常に親切じゃないかとだれしも考えるわけであります。ところが本年度は、このような悪いやり方、金持ち優遇のやり方が是正されておらない。相変わらず青天井になっておる。極端なことを言えば、一億の方は一千万控除してもらえる。従来までは七十六万が頭打ちであった。これについてなぜ是正しなかったか。これが第三点であります。
第四点は、利子・配当の所得、こういったもので暮らしている方々、これは課税最低限は年々大幅に引き上げられてきておりますが、四十九年は標準家族で三百五十七万円、これが課税最低限ですね。そして五十年、今回の税制改革では四百四万九千円。利子・配当の所得で暮らしている人の課税最低限は約四十八万円も上がっておる。ところが、汗を流して働いておる給与所得者の控除、課税最低限というのは、四十九年は百五十万七千円、ことしは少しばかり上げて百八十三万。それでも三十二万しか上がっておらない。これまた明らかに、働いておる者の税金は厳しくて、不労所得とまでは言いませんが、楽をして利子・配当をもらっておる方々の課税最低限の上がり方が大きいわけですから、これまた金持ち優遇じゃないか。これが第四点であります。
第五点は、自然増収、これはずいぶんふえておるわけでありますけれども、自然増収に対する減税の割合、これは五十年度は低過ぎるんじゃないかというように思います。たとえば四十七年は、自然増収が八千二百六十二億、減税が二千四百八十二億で、割合が三〇%。四十八年は、自然増収が二兆五千六百五十六億、減税が三千三百五十五億、一三・一%。四十九年は、自然増収が三兆六千八百五十四億、減税が一兆二十億、二七・二%。ことしは三兆五千七百八十億の自然増収の見込み。三兆五千億も見込まれながら減税は二千五十億、わずかに五・七%。いままで、二〇%、三〇%、このように自然増収に対する減税の割合が多かったわけでありますが、ことしはえらくこの割合が少なくなってきておる。自然増収というのは本来税の取り過ぎなんです。その割り戻しと言うと変でありますけれども、それに対する減税の割合が低いというのは、全くこれはもう増税であります。これが第五点であります。
私、ずいぶん長くしゃべりましたが、次にいろいろお聞きしたいことがありますものですから、まとめてお聞きしたわけでございます。この五点、お答えを願います。大蔵大臣から。