○竹本孫一君 私は、民社党を代表して、ただいま
提案されております
私的独占の禁止及び
公正取引の確保に関する
法律の一部を
改正する
法律案に対し、若干の基本的質問を行い、三木総理並びに関係大臣の所見を伺いたいと思います。
第一点は、独占禁止法
改正の前提である現在の資本主義経済体制を、
政府はいかに認識しておるかという問題であります。
かつて、偉大な経済学者のシュンペーターは、資本主義を論じまして、「静態的な封建経済はなお封建経済であり、静態的な社会主義もまた社会主義経済であり得るだろう。けれども、静態的な資本主義経済は形容矛盾にほかならない」と言いまして、資本主義のダイナミズムを強調して、活力を失った資本主義はもはや資本主義ではない、かように喝破しておるのであります。
しかるに、
わが国の経済の最近の実情を見ておりますと、
高度成長の中で、強き者はいよいよ強くなってまいりまして、いまでは三井、三菱などの六つの
企業集団は、その傘下に百六十六社を結集して、このわずか百六十六社が日本経済全体に占める地位は、総資産で二四・二%、資本金で二五%、売上高で二三・六%を占めて、一握りの者が日本経済を左右しているのであります。
同時に大事なことは、最近の顕著な傾向でありますが、これらの
企業集団間の激しい競争というものがだんだんになくなりまして、いまや、お互いの癒着と巧みな協調に変わりつつあることであります。
日本経済は、百三十万の法人、四百万の
中小企業の活気に満ちた自由な競争というものは姿を消しまして、
政府の昨年の経済白書も指摘しておりますように、第一は集中度の高まり、第二は業界内の秩序の形成、第三は新規参入の困難性の増大、第四は流通販売における優劣の強まり、これらが日本の経済の特色であります。
したがいまして、いまや、自由主義経済の特色であり、また独禁法の目的でもあります公正かつ自由なる競争は死滅をして、価格の引き上げ、生産の縮小、技術革新の停滞、
消費者に対する勝手な支配など、自由なるべき資本主義は、独占と硬直化の中で、
国民経済にとって前向きのプラス要因ではなくて、いまや後ろ向きの阻害要因に転化しておるということであります。(
拍手)
そこで、私は、三木総理にお伺いいたしたいのでありますけれども、今回のいわゆる骨抜き
政府改正案で、
わが国産業社会の硬直化をもたらした
私的独占を打ち破り、公正で自由な競争を中心に、活力のある、創意に満ちた産業社会を再建して、
国民の理解と協力を得ることができるとお考えになりますか。また、大
企業や独占だけの活力ではなく、われわれに必要なものは、日本経済全体としての活力の回復が重要な
課題であると思いますが、
政府のお考えを伺いたいのであります。
第二に、これからの経済体制取り組みの問題でありますが、日本は、これから、アメリカ型で自由競争中心、またはプライスメカニズム万能、こういった考え方を貫いていき、その立場から独禁法の厳しい運用に最大の力点を置いていく、こういう方向をとるのか、あるいは、共産主義的な全面的な国営論は一応別といたしまして、ドイツやイギリスなど欧州型で、一方では、独禁法を強化しながら自由競争の長所を生かしていく、同時に、他方では、独占、寡占の弊害に対しては、それに対抗する公
企業を育成する、あるいは一部産業の国有化をやる、あるいは価格の値下げ命令を発動する、あるいは
労働者の
経営参加を法制化する、かような多様な社会化の方策を講じて、一方で資本主義の持病を治しながら、その活力を保持していくという方向に向かおうとしておるのか、いずれの路線を進むつもりであるか、
政府の基本的な考えをお示し願いたいのであります。
われわれ
国民は、三木さんの進歩的なポーズに多くのものを期待して、そのお手並みを拝見したいと待望しておりましたけれども、独禁法の
経過を見ておりますと、お手並み拝見をする前に、足並みの乱れの方を拝見したということは、まことに残念であります。
もちろん、構造規制には慎重でなければなりませんし、また、国際競争力の確保ということは、重要なる政治
課題であります。しかしながら、今回の
改正の
経過を見ておると、公取試案をことごとくと言ってよいほど骨抜きにしまして、営業譲渡命令に至りましては、その発動までに各種の制約あるいは適用除外の条件を設けまして、十一の関門を設けておるのであります。まさに、がんじがらめの制約で、実際には命令の発動はできないようにしてしまったのであります。
また、経済力の過度の集中排除、株式保有の制限対策につきましても、十年間の
経過期間を設けるなど、現状を追認するだけではなくて、将来にわたりまして、有効な対策を講ずる道をも封じてしまっているのであります。
一体、これで福祉日本の経済憲法と言えるであろうかということを疑うのであります。
そこには、アメリカ型の自由主義経済を維持
発展させようという考え方も見ることができませんし、いわんや、ドイツ、イギリス、スウェーデンのように、大
企業の社会化を積極的に推進するという意欲も、全く見ることができません。ただ、あるのは、現在の官僚と財界が癒着した大
企業の
利益擁護を図る、
消費者不在の姿勢だけであると言っても過言ではないと思うのであります。
一体、独禁法は公法であるのか、私法であるのか、あるいは、特別法として他の
法律に優先するものであるのか、優先しないものであるのか、
政府の法的見解も伺っておきたいと思います。(
拍手)
特に通産大臣、あなたは、公取の独禁法
改正試案は産業
政策への介入であると言って
反対をしておられますが、それでは、あなた自身は、現在の大
企業中心の硬直化、独占体制に対して、いかなる改革案をお持ちであり、いかなるビジョンを持っておるか、伺いたいのであります。
大
企業中心の産業第一主義が批判されたからこそ、経済民主化の有力なる手段として
公正取引委員会ができた、この歴史的経緯をお忘れになりましたか。通産行政の財界寄りの矛盾を批判する、より高い
国民的立場に立って、公取の司法的機能が行われるのだということもお忘れになりましたか。それを一々、協議協議と言って、実質的には通産大臣の同意がなければ何もできないことにしてしまった。あなた方の御議論は、要するに、独占または独占の弊害を禁止するために独占禁止法の
改正を論ずるのではなく、財界の邪魔者である公取をなくするために、いわば公取禁止法をつくろうとしておられるような感じを持つのであります。
通産大臣は、公取の機能は、一般の産業行政よりもより高い立場に立つものと考えられるか、平等の立場に立つものと考えられるか、あるいは、より低い立場に立つものと考えておられるか、そのお考えを明確にお伺いいたしたいと思うのであります。
第三に、私は、大
企業体制下における価格問題について質問したいと思います。
自由競争の長所は、生産性の
向上の成果を製品価格の値下げによって
消費者に還元するという、いわゆる価格競争が自由に行われるという点にあります。ところが、いまや
わが国の実態は、価格
値上げカルテルが横行して、毎年七十件前後のカルテルが摘発せられておるし、地方ではやみカルテルが相次いで行われておる。カルテル列島の名をほしいままにしておるのであります。また、大
企業間の同調的な
値上げが頻繁に行われまして、ビールについても、化粧品、フィルムにつきましても、価格競争は行われてはいない。行われているのは、製品差別化競争だけであります。
これに対して、今回の独禁法
改正案は、課徴金を新設する、あるいは、社長や専務などの法人の代表者に
責任罰を導入するといったような刑事罰の強化を図るなど、若干の前進は認められますけれども、しかし、先ほど来御議論になっておりますように、カルテルは悪であり、違法にカルテルを行っても、
企業のやり得には絶対にならないという当初の厳しい制裁規定は大幅に緩和をされて、価格の原状回復命令も消されてしまったのであります。ましてや、寡占
企業の同調的
値上げ対策に至りましては、単なる
報告義務だけが課せられておるだけでありまして、何の歯どめもありません。これこそ、
政府・自民党の
消費者無視の姿勢を端的に示したものであります。
特に問題は、今後低成長下になってまいります。資源の需給も厳しくなってまいります。したがって、ますます寡占価格がふえてまいるだろうと思いますが、この寡占価格をいかに
国民の立場からコントロールするかということが、一番重大な問題であります。
すでに、この観点から、ドイツにおきましては、一九七三年に競争制限禁止法の
改正強化を行い、特に市場支配的
企業の地位乱用の規制を強化いたしまして、昨年においては、ブラウン社の電気かみそりの八%の
値上げとか、あるいはガソリン価格の一リットル当たり一ペニッヒの
値上げ、これらは全部勧告によって撤回をさせた。さらに、メルク社のビタミンB12の価格のごときは、六〇%から七〇%の思い切った引き下げ命令を出しておるのであります。イギリスにおいても、同様な
措置がすでに講じられております。
われわれ民社党は、寡占価格規制法を制定して、値下げ勧告、命令も最終的には出せるようにすべきことを
主張しておるのであります。したがいまして、
政府・自民党が公取
委員会の価格介入は越権行為であるという
主張は、世界の大勢に反し、
国民大衆の生活要求を圧殺するものであると言わなければならないと思うのであります。
三木総理のこの価格問題に関する御見解と御決意をお伺いしたいのであります。
また、
政府は、世界先進国のこの独禁法を強化するという歴史の流れというものを、
一体、どれだけ調査されておるか、その点も伺いたいのであります。
さらに、福田副総理に伺いますが、独禁法の
改正は、
物価が落ちつき始めたからもう要らないというような議論もあるようでございますけれども、独禁法の
改正は、公正なる競争秩序をつくることが第一義的目的でありますから、
物価が若干落ちついたとしましても、経済の公正なる秩序をつくるための
改正そのものは依然として必要であると思いますが、大臣のお考えはいかがでありますか。
さらに、ついででございますが、相次ぐ
公共料金の引き上げにもかかわらず、来年三月には
消費者物価は
上昇を一けたに抑えるという自信は、依然として副総理はお持ちであるかどうかも伺っておきたいと思います。
最後に、
政府に要望を兼ねてお伺いをしたいのでありますが、高橋公取
委員長がいみじくも述べておりますが、独禁法の歴史は骨抜きの歴史であります。今回の
改正の
経過もこのことを実証しているように思います。かくて、
国民の三木さんに対する期待と信頼は、
政府みずからがこれを踏みにじり、
三木内閣の政治的威信は、大きく地に落ちるのではないかと思います。
三木総理、あなたは、真に
国民の
利益と経済の民主化を進める立場から、あるべき独禁法の姿に近づけるために、この
国会では十分この法案の審議を尽くしまして、よりよき修正はこれを受け入れるべきであろうと思いますが、その用意がおありになりますか。
また、これから
国会の審議の過程におきましては、独禁法だけではなくて、六つの
内外重大な案件を持っておるわけでございますけれども、独禁法こそは、その六大案件の中では最優先すべきものであると考えますが、いかなるお考えでございますか、
政策の優先順位についてお伺いいたしたいと思います。
いずれにいたしましても、こうした
国民の期待をつなぎ、
三木内閣の一番大きな大切な公約であります独禁法の
改正の
国民の期待に沿うような
努力というもの、また、その方向における
政府の決断を強く要求いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
内閣総理大臣三木武夫君
登壇〕