○安原政府
委員 いま
大臣が仰せの、いわゆる非拘禁補償を現段階で採用することの
相当でない
理由ということにつきましては、この前の国会でも申し上げたと同じ
理由でございますが、まず第一に、国の公権力の行使によりまして生じました損害の補償というものは、その本質が損害賠償であるという
関係から言いますと、本来その損害の発生について当該公務員に故意、過失がある場合に限って行うべきものであるというふうに考えられますから、無過失による場合を含む補償は、それを必要とするだけの特別の
理由がある場合でなければならないというふうに考えるのが至当と思うのであります。
そこで、刑事
事件により起訴されました場合に、身柄の拘束を受けた場合とそうでない場合とでは、無罪を言い渡された者の受ける損害の程度が著しく異なることは申すまでもないところでございまして、現行
刑事補償法が拘束を受けた場合においてのみ補償することといたしておりますのは、身柄の拘束ということが国の各種の公権力の行使の中できわめて特殊のものであること、すなわち、身柄の拘束は刑事
手続の性質上その
必要性が肯定されるものであります反面、これを受ける側にとっては他に例を見ない高度の不利益な処分であり、損害が重大であるということに配慮したものと考えられるのであります。刑事
事件により起訴された場合におきまして、被告人が物質的、精神的な損害を含め、
現実に種々の不利益を受けることがあるということは否定できないのでございますけれども、しかしながら、身柄の拘束を受けた場合は別といたしまして、その他の不利益というものはおよそ公権力の行使に伴って通常生ずべき不利益の範囲に属するであると考えられるのでありまして、たとえば、国民の
権利義務に重大な
関係のあります海難
審判とか特許
審判あるいは許認可の取り消し処分等に誤りがありまして、その結果国民に損害を与えることもあり得るのでございますが、これらの場合について直ちに国がその損害を補償するという
制度は設けられておらず、その公務員に故意、過失があった場合に限って国家賠償法による賠償請求が認められているのにすぎないのでございます。その
意味におきまして、検察官が十分な根拠に基づいて適法に公訴を提起した場合について、裁判の結果無罪となったという
理由だけで、非拘禁者に対し、当該公務員の故意、過失の有無にかかわらず損害を補償するということは、いま例を挙げましたような
行政処分等との場合といわゆる均衡を失することになるのではないかと思われるのでございます。したがいまして、非拘禁者に対する補償は国家賠償法の
手続により行うのが
相当であり、このことは、国の補償に関する現行法制の基本的な立場といたしまして、憲法十七条及び第四十条の規定に照らしても明らかではないかと考えられるのであります。それが
一つの
理由であります。
次に、実際の
制度論といたしまして、ひとしく無罪の裁判を受けた場合でございましても、身柄を拘束された場合に受ける損害とそうでない場合に受ける損害とでは、質的に大きく異なっているということが言えると思います。誤って公訴を提起された者が受ける損害の程度は、身柄拘束の有無を問わず、人によって千差万別ではございますが、身柄拘束の場合はこれによって生ずる直接の損害を明確な形でとらえることができ、これをいわゆる定型化することができますが、これに反しまして非拘禁者の場合は、公訴を提起されたことによる不安、苦痛、社会的名誉の低下、失職その他得べかりし利益の喪失などが考えることができるのでございますけれども、果たしてそういう損害があったかどうか、またどの程度の損害が生じたかにつきましては、訴追された
犯罪の軽重あるいは公判
審理の長短等の要因も絡みまして、個々の
事件ごとに具体的な判断をする以外に
方法はなく、補償額の定型化ということがきわめて困難であるという、
制度を立てる上においての困難さもあるということも消極となる
理由でございます。
ただ、先ほど
大臣もお答えになりましたように、いわゆる被告人になって無罪になったという者の損害の中には、先ほど社会党の御提案にもありましたように、応訴するために弁護士に要した費用、あるいは
本人が公判廷に義務として出頭しなければならない場合の得べかりし利益の喪失あるいは交通費、旅費、それから弁護士の報酬のほかに弁護士に払わなければならない日当、交通費、旅費というようなものは、いわば刑事
事件に特有の、しかも
現実の出費でもございますが、そういうものもやはり非拘禁者の場合における補償の対象となるべき損害であるということとして考えるといたしますならば、その面においては、これは刑事
手続特有の出費でもございますので、そしておおむね多額になる場合が多いわけでもございますので、今後の方向といたしましては、そういうものについては法制審議会の御意見を聞いて、採用すべしということになればその方向で立法することも考えられるのではないかと思います。そういう
意味においては、非拘禁者の補償のうちでいま申し上げたようないわゆる訴訟費用についてはそれを分けて、その部分については補償するといたしますならば、それは非拘禁補償の一部については非拘禁補償をするということに相なろうかと思います。