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工藤参考人 全国消費者団体連絡会の
代表幹事をしております
工藤芳郎でございます。御依頼を受けました
酒税法の一部を
改正する
法律案及び
製造たばこ定価法の一部を
改正する
法律案について、私の
意見を述べさせていただきます。
結論から先に申し上げますと、私は、酒や
たばこは
国民の
日常生活と深い関係を持つものでありますから、これらの
値上げに
反対であります。以下その
理由ないし
値上げの
不当性を述べさせていただきたいと存じます。
第一は、今回の
政府の
提案理由を見せていただきますと、酒については、「現行の
酒税の
税率は、
昭和四十三年の
改正を経て今日に至っているものでありますが、その
税率が
所得水準の上昇、
物価水準の変動にかかわらず定額に据え置かれているために、
税負担が相当
程度低下しておりますので、その調整を行う必要があります。」と、こういうふうに述べられております。
たばこについても同様でございます。
この
提案理由説明は、明らかに
税収をいかにふやすかという観点からつくられたもの、説明されたものでございますけれ
ども、その効果、つまり
物価の高騰、
国民生活へ及ぼす
影響という点は捨象されているのでございます。故意に捨象をしたというのであれば、現実的でございませんし、
国民生活無視の
政治姿勢と御指摘申し上げなければなりません。また、過失というのであれば、早急にこれを改めていただきたいと思うわけでございます。
いずれにせよ、酒が、酒類全体でございますが一五%ないし二二%、
たばこはまた
平均四八%、こういう大幅な
値上げが
国民生活に及ぼす
影響というものは、きわめて大きいのでございます。
具体的に見てみますと、まず
ビールを例にとってみましょう。
ビールの大
びんの
小売価格は、最近サッポロ
ビールと
朝日麦酒が値上がりしましたのでこれを除きますが、現在百六十円であります。このうち四二%の六十七円九銭が
酒税であります。今回の
改正で二二%、十五円引き上げられますと、
酒税は一本当たり八十二円になりますから、
小売価格は百六十円から百七十五円へと
値上げをされます。いままで一日一本の
ビールを飲んでいたといたしますと、一年間に五万八千四百円を支出していたことになります。
酒税の
増税によって
小売価格が値上がりいたしますと、
年間支出は六万三
千八百七十五円になります。いままでの予算内でやりくりをすると、三百三十四日だけ飲むことができます。
あとの三十一日、つまり一カ月間は
禁ビールデーになる。
ビールを飲んではならないことになるわけでございます。
また、
たばこについて見ましても、一日
ハイライトを二箱吸う人を例にとりますと、毎日百円、月に三千円の
支出増となりますから、一カ月の
たばこ代が、これまでの四
千八百円から、七
千八百円ということになるわけでございます。
以上の具体的な事実を通じて御指摘申し上げたいことは、
三木内閣は、
田中内閣時代のいわゆる新
価格体系という名の
公共料金を
中心とする
政府主導型の
物価値上げ政策の延長もしくは第二ラウンドを始めたのではないだろうかということでございます。
御存じのとおり、ちょうど昨年の三月十六日、当時の
二階堂官房長官は
記者会見で、
石油製品の一斉大幅再
値上げを行うに際しまして、この際
石油製品価格の
改定により新
価格体系に移行するのはやむを得ないものと判断した、こう述べられました。これをきっかけに、
御存じのように、電力九社が
平均五六・八二%、東京瓦斯が四六・八五%、大阪瓦斯四六・八%、名古屋の
東邦瓦斯が四〇・三%、私鉄の
通勤定期が四五・三%、六大都市のタクシーが六六・七%、こういったものを
中心に、
公共料金の大量、集中、そしてかつてない大幅な
値上げが進められたのでございました。
そして、このような
値上げは、昨年三月十六日の毎日新聞が予想しておりますように、全面的な
値上げが一巡したところで
物価の安定も初めて期待できる、こういうふうな論評のように期待した向きもあったのでありますけれ
ども、どうも昨今の動向を見てみますと、すでに
三木内閣が発足されましてから、たとえば
全国に二百五十二の
ガス会社がございますけれ
ども、その中で現在四十七の
ガス会社から
値上げ申請が行われておりますし、また経団連が二月中旬から三月中旬にかけて景気動向に関する
意見調査という調査を行ないましたが、これを見ましても、大企業の六四%が製品
価格の
値上げを計画しているということが言われております。しかもその
値上げ幅も、紡績の六〇%を筆頭に、鉄鋼の一五%ないし二〇%、紙パルプの一〇%ないし三〇%などきわめて大きいのであります。加えて、一斉地方選後には、
消費者米価、麦価、私鉄、国鉄、電話、電報、電力などの
公共料金引き上げがメジロ押しに控えているということが言われております。
このように見てみますと、昨年スタートしたいわゆる新
価格体系という名の列車は、今日なお終着駅のない、果てしない旅路へ
国民を連れていこうとしているのではないでしょうか。
ただ、
田中内閣が公然と
値上げを宣言したのに比べまして、
三木内閣は公然とは
値上げをするとはおっしゃっておられません。ただ黙って
国民を迷路に連れていこうとしていると言えば過言でありましょうか。酒、
たばこといった
間接税、つまり担税感といいますか、負担感を持たせない実質上の
値上げこそは
三木内閣の体質を物語っているというように思われてならないのでございます。「最初は処女のごとく、最後は脱兎のごとく」ということわざがございますけれ
ども、どうかそのようにならないでほしいと期待をするものでございます。
第二の
不当性は、
三木内閣は不公正の
是正を公約とされておりますが、
間接税の逆進性から見まして、酒、
たばこの
値上げはむしろ不公正を拡大すると言わなければならないと思います。
たとえば、前に申し上げましたように、
ビールを一日一本飲んでいますと、年間二万四千四百五十五円の
酒税を負担しておることになります。それで、賃金がたとえば年間二百四十四万五千円の
労働者がいたといたしますと、この
労働者にとっては一%の負担割合でございます。一方、ちょうどその十倍に当たる年収二千四百四十五万円の社長さんがいたといたしますと、この方の負担割合は〇・一%にしかならないのであります。この
労働者がこの社長と同じ負担割合になるようにしたいとすれば、一年間にいままで三百六十五本の
ビールを飲んでいたのを、三十六・五本の
ビールしか飲まないようにしなければならないということになるのであります。これでは不公正の
是正になるどころか、勤労市民の生活水準を引き下げることを強いるものと言わなければなりません。
第三番目に御指摘申し上げたいのは、
間接税のあり方についてでございます。
その
一つは、いま
政府が検討中と言われております、
間接税と直接税との
比率を考え直さなければならないとする傾向であります。昨年発足されました
政府の税制調査会で、
田中首相が
間接税の強化を同調査会に要請したと言われておりますが、今回の
値上げもその線に沿ったものと言えるのでございまして、これまた
田中内閣当時の方針の延長でありますとともに、これがさらに進められると
付加価値税の導入につながるという
意味で、
消費者、
国民は大変不安に思っております。
取りやすいところから取りやすい方法で取るという
物価値上げ政策は、多くの
国民がその本質について理解を深めるにつれて、必ず大きな反発を呼ぶものだと私は申し上げたいのでございます。
もう
一つは、現在でも酒、
たばこはその他の主要課税物品に比べまして
間接税の負担割合が高いのでございます。たとえば真珠の指輪や総キリ三重ねもののたんすなどが非課税なのが不当であることは当然でございますけれ
ども、各主要品目に対する負担割合を広範な
国民生活本位に検討し直すということも必要だというふうに考えております。
最後に申し上げたいことは、
審議に関してでございます。
酒、
たばこともに、広範な各層
国民生活に欠かすことのできないものでございますが、特に
たばこについては、その
価格は
公共料金でございます。
昭和三十六年の五月に出されました経済企画庁「図説
物価白書」によりますと、「
公共料金とはその決定が
国会の議決、
政府の決定、
政府の認可のいずれかによって行なわれる料金または
価格をいいます。」というように解説がありまして、その内訳といたしまして、
国会の議決によるものを七種類挙げております。つまり国鉄運賃、
郵便料金、電報料金、電話料金、
たばこ、ラジオ、テレビ聴取料が挙げられているのでございます。
さて、言うまでもございませんが、
公共料金の
値上げということになりますと、多くの識者も指摘しておられますように、
値上げに際して、まず第一に決定原則が明らかにされなければなりません。さらに根拠法令、そうして算定基準、こういったものが示される必要があります。また、必要に応じて
審議会への諮問、そして答申、あるいは公聴会の開催などを通じて、広く
国民の声を吸収するのが通例でございます。
このような観点から申し上げますと、酒、
たばこについての
審議は、広範な
国民、
消費者のコンセンサスが、手続的にも内容的にも得られたようには思えないのでございます。どうか対話の政治を強調される
三木内閣のもとでは、ぜひとも
公共料金にふさわしい
審議をお願いしたいものでございます。
特に
公共料金の場合、
値上げの当否を決めるのは、一般的に適正な原価であるかどうか、あるいは能率的な経営がなされているかどうかということが大きな観点になります。そのためには、必然的に
製造原価などが明らかにされなければその適否を論ずることはできません。私たちは
消費者団体として、いつも
値上げの適否を判断する基礎資料が関係各省から寄せられないことで大変困っております。今回の酒、
たばこについては、国権の最高機関であります
国会で
慎重審議されるのでございますから、そのようなことがあってはならないということは当然でございます。しかし、新聞などで拝見いたしますと、当
委員会でもそのようなことがあったやに承っておりますが、このようなことではとうてい
国民の納得は得られないのではないでしょうか。
さらに、
専売事業
審議会並びに中央酒類
審議会の皆さん方は大変御苦労されておりますが、この構成、さらに運営についても十分再検討していく時期ではないかと存じます。
もう
一つだけこの機会につけ加えさせていただきますが、
大蔵省と
国民生活とは本来大変深い関係を持っているのでございますけれ
ども、
国民との窓口がない。私たちは銀行、保険問題についていま研究をさせていただいておりますけれ
ども、こういった点についても
国民との窓口が開かれておりません。その他の各省は、たとえば運輸白書、厚生白書と白書などを出されておりますけれ
ども、
大蔵省の大蔵白書といったようなものに私たちはお目にかかったことがございません。その
意味で、私たちが納めた
税金が
一体どのように使われているのかといったようなことさえ
国民は知ることができない。大変私は困った問題だと思っているわけでございます。
以上、私は
酒税、
たばこの定価を上げることに対して
反対する
立場から
意見を述べさせていただきましたが、どうか
委員会の諸
先生方におかれましては、
国民生活の現状、そうして
値上げ内容が十分
消費者、
国民に納得されていないのだという現状をも十分お踏まえの上で、十分慎重に御検討賜りまして、
値上げをされないように御尽力をいただきますようお願いを申し上げまして、私の発言を終わりたいと思います。