○木崎
参考人 本日、私に
意見を述べる
機会を与えてくださいましたことを
御礼申し上げます。
答申では、新
政策の基本理念を「資源・
エネルギーの安定供給の一環として
石炭を可能な限り活用してゆくこと」に置き、新
政府の目的というものは、一番目に「
国内炭の
生産を
維持し、」二番目として「
海外炭の
開発及び
輸入を円滑に行い、」三番目として「
石炭利用技術の研究を
維持すること」にあるというふうに規定しております。本日の私の
陳述は、今後の日本における
エネルギー政策の方向と
石炭政策の
関係及び
国内炭の
生産に限定して
陳述いたします。
なお、
海外炭の
開発や
輸入、それから
石炭利用技術の研究というようなことにつきましては、
答申の
趣旨に賛成でありまして、今後の具体化の推進を強く
要望いたします。
一番目として、今後の
エネルギー政策のあり方と
石炭政策についてでありますけれ
ども、今後の
エネルギー政策というものは、いままでのような
経済性の最優先ではなくて、供給面における安定供給を第一義とする方向に転換すべきでありまして、そのためには、
エネルギー源の
多様化と供給先の
分散化を図らねばならないと思います。また、その
経済性につきましては、個々の
エネルギーの
経済性にこだわらないで、各種
エネルギーの
価格をプールし、国民経済全体として負担すべきもの、そのように考えております。
以上の基本的な方向の中で、
石炭は、これは世界
規模での話でありますけれ
ども、その埋蔵量は十兆トンと言われておりまして、液化、
ガス化の技術的
開発と相まちまして、将来、一次
エネルギーの相当部分を担うことは明らかである、そのように私は考えております。
次に、
国内炭についてでありますけれ
ども、上記の情勢の中にありまして、これから申し上げますところの理由から積極的に評価すべきである。すなわち、一、
経済性を考慮した可採炭量十億五千三百万トンを有し、最も安定した供給源であること。二番目、国内
原料炭の高流動性は、各種外国
原料炭のつなぎとして不可欠であること。三番目、
海外炭の
開発輸入のため、採炭技術を温存することとともに、
石炭化学研究の基盤であること。四、外貨節約に何がしかの
役割りを果たすこと。五、
国産エネルギー資源の放棄は、他国の批判を受け、
輸入エネルギー確保のための国際協調に悪影響を及ぼすであろうということ。六、
エネルギーの高
価格時代に突入した現在では、
国内炭は経済的にも引き合うものとなりつつあること。以上は、私たちの見解でありますけれ
ども、本問題に関する
答申の
考え方というものは、
石炭鉱業審議会という性格から、総合
エネルギー調査会の領域に立ち入ることを慎重に避けながらも、全文を通読してみますと、大筋において私たちの見解と同一であるというふうに私は解釈しております。
二番目に、
国内炭の位置づけ、いわゆる二千万トンの問題でございます。
答申は、今後十年間の
出炭規模を年産二千万トン以上としております。この数量は、一、
保安の
確保、二、公鉱害の防止、三、コストの推移、四、
労働力の
確保等の諸
条件を勘案し、
現実的な視点から二千万トンとしたというふうに
説明されております。この数量の是非について、筋道を立てて判断するだけの資料を有しませんし、資料があったとしても、それを組み立てる能力を私は有しません。しかし、長年にわたりまして炭鉱の業務に専念しております私といたしましては、
経験的な実感からすれば、これはまあまあ妥当なところではないかというふうに思われます。とともに、三年間の
ローリングプランの作業の結果として、
生産量が拡大の方向に発展することは歓迎するというふうに補足
説明されていることでもあり、この位置づけの二千万トン以上については、やむを得ないというふうに考えております。
三番目に、新
政策のポイントでありますけれ
ども、まず、私たちが今度の新
政策の運動を進めるに当たって、いろいろ問題がございますけれ
ども、何がポイントと考えたかということでありますけれ
ども、その一つは
企業の収支、すなわち、その裏側にある財源問題であります。
国内炭を見直して、従来の静かな撤退路線から積極的な
国内炭維持に方向を転換し、
生産量を二千万トン以上と位置づけてみましても、
企業いわゆる炭鉱の収支がペイしなければ、
私企業体制である以上、空中の楼閣であります。しかも、このことは財源の裏づけを持って完結いたします。財源は国の
財政援助と炭価でありますが、
財政については、その使い方の再検討が必要であると思いますけれ
ども、総枠の拡大につきましては、多くを求めることは困難であるというふうに私は考えております。したがって、炭価すなわち大口
需要家の
協力こそが、今後の
石炭政策の帰趨を左右する。特に
電力につきましては、炭価の
引き上げが
電力料金に連結するだけに、
業界の
協力とこれに対する政治の
理解が特に重要であるというふうに考えております。
それからポイントの第二の問題といたしまして、
労働力の
確保対策であります。オイルショック以来の不況と四十九
年度の大幅ベースアップによりまして、労働者の
確保については、近ごろ好転していることは事実であります。しかし長期の視点では、労働者や技術者の
確保というものについては、まだまだ楽観できないのじゃないかというふうに私は思います。したがって、これが
確保対策が十分かつ実効を上げ得るものでなければ、
労働力の面から二千万トン以上の
維持は崩壊するものと言わざるを得ません。
以上が今度の新
政策の運動を組合として進める場合の、二つの大きなポイントでありましたけれ
ども、そのポイントから、この
答申というものを見直してみますと、次のようなことが言えるのではないかというふうに思います。
すなわち、一番目のポイントであるところの
企業収支と財源問題であります。
その一といたしましての
企業収支と
資金繰りでありますけれ
ども、
答申が、「
国内炭の
生産を可能なかぎり
維持するため、
石炭企業の
経常収支が
黒字となることを
目標とすべきである。」として、
国内炭維持の前提として
企業収支を重要視していることは明らかであります。これまでの
答申と異なった
現実的な側面として、この面は評価できると思います。
しかしながら、収支問題につきまして、もう一歩突っ込んだ検討が欲しかったというふうに思います。すなわち、
国内炭維持のための
企業収支を
黒字とする必要性を認めながらも、「できるだけ早い
機会に」というのは、これはどうも三年
程度を考えているようでありますけれ
ども、「できるだけ早い
機会に」というただし書きがあります。このことは、一挙に収支を
黒字にするためには、それに相当する国の
援助それから大幅な炭価のアップ、こういうものが必要であるために、実際問題として不可能であると考えたものとして一応、
理解したいと私は思います。しかし、それまでの間の
経常収支の
赤字が
資金不足となってあらわれるということに対する
配慮がなされてしかるべきであったというふうに思います。現在、日々の
資金繰りにあえいでいる
石炭企業、一部の炭鉱では、新賃金に関しまして実質的な遅配があるわけですけれ
ども、そういう
石炭企業にとりまして、
資金問題に関して
石炭鉱業合理化
事業団の調整機能についてのみ触れるにとどまっているということは遺憾であると言わざるを得ません。
次に第五次
政策、いわゆる第三次の肩がわりがあった第五次
政策でありますけれ
ども、第五次
政策以降の
累積赤字と累積債務について、何ら触れていないことが指摘されると思います。当期の
経常収支が
黒字となっても、これらの
累積赤字と累積債務が、
企業経営に今後いかなる影響を与えるかということについて、懸念されるところであります。
その二として炭価問題でありますけれ
ども、
答申では
石炭企業の収支を
黒字とするため、「
需要者は、
石炭政策の
趣旨に沿って
石炭の取引
条件等の面で
協力し、」と、炭価問題の
重要性を指摘しております。特に、
一般炭につきましては「
石炭価格と
電力料金の
関係については、
石炭政策見直しの要となる」とするとともに、「
一般炭と
原料炭は、品質、用途、競合財の面で異るが、一方、
生産側の
条件は、選炭コスト等を除さおおむね同じであるので、
国内炭の有効利用、合理的
開発及び
生産のためには、両者の
価格面におけるバランスについて
配慮する必要がある。」としております。このことは、炭価問題はせんじ詰めれば
一般炭の炭価問題であることを明らかにしたものであると私は解釈しておりますけれ
ども、
政府の決断と
電力業界の
協力を期待したいと思います。
また、「
政府は、
石炭価格引上げが直接
需要者にのみ負担をかけることのないよう適切な措置を講ずる」べきであるとしておりまして、炭価決定の基準として、一応、競合
エネルギー価格との比較を挙げながらも、
割り高となった場合には、「国民経済的に許容される範囲」という当然な
条件つきでありますけれ
ども、「吸収する
方策を検討すべきである。」としております。このことは、個々の
エネルギーの
経済性優先の
考え方を転換したものでありまして、きわめて困難な問題であることは私、認識いたしますけれ
ども、その具体的な
方策の検討に期待をいたします。
さらに、「
国内炭価格は、競合財
価格の一時的変動の如何にかかわらず、安定的に推移させるものとする。」とし、かつ、年々の
国内炭価格について
審議会が通産大臣に
答申する際、「
石炭生産のコストを審査した上で」とあることは、長期に安定的な
生産を
維持するためには、コストを補償して
企業収支を安定させることが必要であり、そうした側面から炭価問題の
重要性を表現しているものと受け取られます。
以上のとおり、炭価問題の基本的な
考え方については高く評価するものであります。しかしながら、毎年の炭価決定については、「
審議会は、毎年、
石炭生産のコストを審査した上で、上記方針に基づき、当該
年度における
国内炭価格について通商産業大臣に
答申する。通商産業大臣は、
答申に基づき、
国内炭に関する基準
価格を決定する。」と述べるにとどまっておりまして、これは
石炭鉱業審議会の性格上、当然とも考えられますけれ
ども、毎年の炭価
答申案作成の機構だとか、その手順並びにその拘束力について、もう一歩突っ込んだ検討がなされてほしかったというふうに思います。
その三として格差の是正問題であります。
政策が平均的なものでありますと、平均以下の炭鉱が没落することは、もうこれは明らかであります。一定量の
国内炭維持のためには、格差
対策というものが不可欠のものであると主張したのは、実は炭職協が
最初であり、また炭職協の積年の主張でもあります。
答申では、本問題の必要性を認めまして、「差別
価格の導入や
現行石炭鉱業安定補給金の傾斜的配分等により是正することを検討する必要がある。」としながらも、差別
価格につきましては、現在、
石炭企業はすべて
赤字でありますので、実際問題としては、当面はこの差別
価格の導入というものは困難というふうに考えているようでありまして、格差
助成の基準設定の困難性は私、十分に
理解しておりますけれ
ども、本問題に関する限り、私は及び腰であると言わざるを得ないと思います。
五番目のポイントである
労働力の
確保でありますけれ
ども、「
労働力の
確保は、基本的には、
労働条件、
生活環境の改善」にあるが、賃金等につき、その基本姿勢として「労働時間、職場
環境、
生活環境等の要素を総合し、かつ他産業とのバランスを考慮して
地下労働の特殊性が十分
配慮された適正な水準とすべきである。」としています。すなわち、
石炭鉱山にふさわしい賃金等とすべきであるということであると思いますけれ
ども、このことは従来、私たちが主張し、また要求してきたことでありまして、そのことが公的に認知されたという
意味において、高く評価したいと思います。
また、その決定は本来、労使で解決すべきものでありますけれ
ども、労使の合意があれば、
審議会としても仲介の労をとってもよい。ただし中労委の
立場を考えなさいよというただし書きはありますけれ
どもと、口頭で
説明されておりますことは、
石炭の
事情に詳しい第三者の介入により妥当な結論を期待できるとともに、紛争を避ける
意味で期待したいと思います。
このほか、
労働力の
確保に関して、次の諸点を挙げておきたいと思います。
労働時間につきましては、世間
一般の傾向にかんがみ、「労働時間の短縮等の改善を図るべき」との基本姿勢を示した上で、「
出炭量の
維持、賃金収入の
確保等」との関連から、逐次改善の方向を示しながら、「場合によっては、
審議会で慎重に検討を要する。」というふうに明記したことは、積極的な姿勢として私は評価したい、そのように考えます。
二番目に、「
経営者は少なくとも深夜労働者が昼間安眠できるような
方策を講ずるとともに、出勤率82%という現状をふまえた、合理的な対応策を検討する必要がある。」と述べていることは、当然なこととはいえ、これまでにない細かな指摘だというふうに言えると思います。
三番目に、
生活環境の整備につきまして、特に医療
関係に問題点のあることを指摘するとともに、「総合的な都市計画事業の一環として各種施設の整備を図ることも検討すべきである。」としたことは、適切な考えと私は思います。
六番目に、
保安の
確保並びに
生産技術の
開発でありますけれ
ども、これらにつきましては
答申の見解に賛成でございまして、今後とも積極的な推進を期待するところであります。特に
保安について申し上げますけれ
ども、
答申に
保安の
確保問題についていかように書かれておろうとも、
保安技術職員といたしましては最善の
努力を傾注する所存であることを、一言つけ加えておきたいと思います。
要するに、では、新
政策を全般として、どのようにおまえは評価するのかという問題になりますけれ
ども、以上、
答申は、私たち
石炭産業に従事する者の
立場からすれば、性急に、具体的な精緻な
政策を願望するがゆえに、隔靴掻痒の感なきにしもあらずということが言えると思います。しかし、このたびの
答申は「新
総合エネルギー政策のもとにおける
石炭政策」として、すなわち、従来の
石炭政策から脱皮、転換という
見地に立って組み立てられておるものでありまして、
国内炭の積極的な
維持と安定供給を前提として、
輸入炭を含めた
石炭の拡大利用を基本理念としている点を高く評価いたします。
また、
企業収支、財源、
労働力確保等の諸
対策につきまして、新しい基本理念に沿いまして、かなり明確に方向性が示されておりまして、これらの方向性について大綱的には賛成を表すものであります。
さらにその実施に当たっては、法の改正、合理化
事業団、電炭会社の運用の再検討、それから
審議会が具体的、実務的、機動的に
審議を行い得るよう、部会構成を全面的に改組する等、意欲的な面も評価し得ると思います。
私たちは、こうした観点から、この
答申の
趣旨が具体展開の
過程におきまして一〇〇%生かされて、新
政策の目的が達成されることを期待しつつ、
答申の原案に賛成いたします。
終わりにでございますけれ
ども、この
答申は、「新
総合エネルギー政策のもとにおける
石炭政策について」、その
考え方、あるべき姿を明らかにしたものでありまして、具体的な展開はこれからであります。建築工事にたとえますると、基礎工事が終了しただけでありまして、この基礎にふさわしい建物ができるか、一夜のあらしで吹っ飛んでしまうようなバラックで終わるかは、これからの問題であります。このことが、何ら具体性のない
答申と批判されたり、具体性がないゆえに過去の暗いイメージと重なり合いまして、不当に低く評価されるゆえんであります。なかんずく
国内炭を長期的に安定して
維持するための最重要項目である
企業収支と財源問題の今後の推移が、新
政策の成否を決めると言っても過言ではないと思います。この問題は根深く錯綜しているだけに、簡単に解決されるものではありませんけれ
ども、要は、
政府も
企業家も、そうして国民も、負担がふえても
国内炭は必要だという、はっきりした認識を持つか否かが、この問題を解決し、新
政策を
現実のものとするただ一つのかぎであると私は考えます。要するに、これからの推移によっては、新
政策というものは絵にかいたもちになりかねないのでありまして、政治の決断こそが、
答申という基礎にふさわしい建物を構築できるかどうかを左右していると私は思います。また、こうした観点から、私たちにとりましては、新
政策に関する限り、運動はこれからが本番と私は考えております。
最後に、私たちは、供給の安定と
生産性の向上のみが国民の期待にこたえる道であるということを、心を新たにしてかみしめながら、
委員長を初めとする諸
先生の御
理解と御支援を
お願いいたしまして、私の
陳述を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。