○河本国務
大臣 特許法等の一部を
改正する
法律案につき、その提案理由及び要旨を御
説明申し上げます。
わが国の工業所有権
制度は、九十年に及ぶ歴史を有しておりますが、現在、物質特許
制度及び多項制の採用、商標登録出願の
処理の迅速化等
幾つかの重要な問題を抱えております。また、近年における工業所有権
制度の国際化の動きは顕著なものがあり、わが国もこのような
動向に的確に対応する体制を整備する必要がありますが、そのためにも前記の諸問題を解決することが緊要となっております。
すなわち、わが国が今後さらに国民の福祉
水準の向上を図るとともに、国際社会における貢献を高めるためには、国民の知的活動の
成果が十分に発揮される環境を整備することが必要不可欠であり、特許
制度の
重要性は従来にも増して高まりつつありますが、現在の特許法においては、化学物質、医薬、飲食物等の発明について特許を与えないこととなっておりますので、研究開発活動のあり方がともすればゆがめられ、また無用の係争が生じております。さらに、わが国は、長年にわたり特許請求の範囲及び実用新案登録の請求の範囲について、いわゆる単項制を採用してきておりますが、工業所有権
制度における国際的協調を図り、出願人及び第三者の便宜に資するという新しい時代の要請にこたえるため、多項制を採用する必要性が高まってまいりました。これらの事態に対処するため、
昭和四十六年から工業所有権審議会において慎重な検討を重ねた結果、昨年九月に物質特許
制度及び多項制の採用に関する答申が
提出されたのであります。次に、商標
制度につきましては、近年における出願の激増のため、増員、機構の拡充、予算の
増加等種々の
対策を実施しているにもかかわらず、審査に要する期間は著しく長期化するとともに、特許庁には未
処理案件が累増しており、このままでは商標
制度の意義が失われるおそれがあります。また、出願の迅速な
処理は、商標
制度の国際的協調の観点からも不可欠の条件となっております。このため、商標登録出願の迅速な
処理を図ることが緊要となっており、その
対策について工業所有権審議会において慎重な検討を重ねた結果、昨年十二月に商標
制度の
改正に関する答申が
提出されたのであります。
本
法律案は、これらの答申に基づき、さらに
関係各方面の意見をも取り入れて作成したものであり、いずれも可及的速やかに
改正をすべき事項を内容とするものであります。
次に、本
法律案の概要につき、御
説明申し上げます。
第一は、物質特許
制度を採用したことであります。化学物質、医薬、飲食物等につきましては、近年、これらの
産業部門の技術
水準に急速な向上が見られ、研究開発をさらに
促進するためにはその発明の適切な保護を図る必要があること、わが国経済の発展に伴ってこれらの物質についても多種多様の商品が豊富に供給されていること等から、多くの先進工業国の例にならってわが国においてもこれらの物質の発明について特許を認めることとしたものであります。
第二は、多項制を採用したことであります。従来、特許または実用新案登録の出願に当たって、出願人は、
一つの発明または考案については単一の項目によってその請求の範囲を記載することとなっておりましたが、複数の項目によって請求の範囲を記載できる、いわゆる多項制によれば、特許権等の権利範囲を従来より明確にすることができ、また国際的にもほとんどの国が多項制を採用していること、現
段階から多項制を採用しておけば近い将来発効すると見込まれる特許協力条約にも円滑に即応することができること等から、わが国においてもこれを採用することとしたものであります。
第三は、登録商標の使用義務を強化したことであります。登録商標の中に使用されていないものが相当数存在している
状況にかんがみ、出願の迅速な
処理及び使用されないこととなるような商標の出願の抑制を図る見地から、商標権の存続期間の更新登録の際過去三年以内に使用されたことがない登録商標については更新登録を認めないこととするとともに、過去三年以内に使用されたことがない登録商標の登録を取り消すことができる、いわゆる不使用取り消し審判における使用の事実に関する挙証責任を審判の請求人から被請求人に転換することにより、不使用取り消し審判を容易に活用し得ることとしたものであります。
このほか、第七十四回臨時国会において承認されましたパリ条約のストックホルム
改正条約の批准に伴って必要となる特許法、商標法等の関連規定を整備するとともに、特許料、登録料及び手数料を最近の
物価水準等を勘案いたしまして妥当な
水準に
改正することといたしております。
本
法律案は、これらの事項について所要の
措置を講じるため、特許法、実用新案法、意匠法、商標法及び不正競争防止法についてそれぞれ所要の
改正を行うものでございます。
以上が本
法律案の趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上御賛同くださいますようお願い申し上げます。