○
福田(赳)
国務大臣 一言ごあいさつを申し上げます。
経済運営の
方針につきましては、さきに本
会議で
経済演説をお聞き取りくださったのであります。なおまた、重ねて本日は書面で皆様のお手元に小冊子を配付してございます。それで皆さん御承知と思いますが、私が特に頭にある重要な点につきまして申し上げさせていただきます。
いま日本の
経済が当面する問題は非常にたくさんありますけれども、大きく分けますと二つだと思うのです。一つは、十五カ年にわたりまして
高度成長政策、その流れに従いまして
経済が運営されてきたわけでありますが、それを国際情勢の
変化に即応いたしまして根本的に修正しなければならぬ、そういう
長期的な
経済運営の姿勢、あり方についての問題でございます。もう一つの問題は、当面この混乱した
わが国の
経済をどういうふうに収拾していくかという差し迫った問題でございます。
まず、最初の
長期的な立場に立ちましての姿勢転換の問題につきましては、何と言ってもこれは人類が始まって以来の大きな
変化の
時代だと私は思うのです。いままで人類は
資源というものについて頭を悩ますことなしに生活をしてきているわけでございますが、そういうことが許されない、
資源有限
時代、こういう意識が人類の間に台頭し、これが定着しつつある。そういう
世界の意識
変化の中では、
世界の国々の
経済のかじの取り方もまたおのずから
変化してくるわけでございます。省
資源、資
エネルギーと言いますか、そういう空気が
世界を風靡するという大勢になる。そういう中におきまして、
資源小国であり、食糧小国であるわが日本がどういう行き方をするかというと、これはもう論を待たない。特に
わが国はこの
資源有限
時代の到来ということに頭を置いて
経済諸政策の運営に当たらなければならぬ、こういうふうに思います。しかし、この
経済政策の転換という問題は、これはひとり
資源問題ばかりではないのです。国際収支の問題を考えましても、
物価の問題を考えましても、
公害の問題を考えましても、あらゆる
社会的諸問題、これを正視いたしますれば、いままでの
高度成長政策ではやってはいけない。やはりここでもう思い切って、静かで控え目な
成長ということを考えて、その線に従っての大転換をしなければならぬ、こういう時期に来ておる、こういうふうに思うのでありまして、そういう考え方に従いまして、
わが国は、これからの
経済の先々の行く道を根本的に変えます、そしてその指針といたしまして、
昭和五十一年度を初年度とする
経済社会基本計画と申しますか、そういうものを策定いたします、そしてその上に乗って
わが国の
経済社会の運営をやってまいりたい、かように考えておるのであります。
この考え方によりますれば、
経済成長発展の速度、これは非常に低くなります。いままでとまるっきり違う速度にならざるを得ない。同時に、内容におきましても、いままでは何といっても
成長の成果、それを次の
成長発展につぎ込む、特に工業、諸
産業の拡大
発展、そういうものに
エネルギーが使われたわけでありまするが、その基調を変更いたしまして、われわれの
経済発展の終局の
目標とするところは何であるか、これはやはりわれわれの生活
環境を整え、安定した
社会をつくり上げることである、こういうことに思いをいたし、いままでのように
成長の成果を
産業の
開発に多くをつぎ込むという考え方から、われわれの生活周辺に多くをつぎ込むという方向へ大きく転換をしなければならぬと考えております。
それから同時に、
成長の速度が鈍るということになりますると、やはり
社会的公正の
確保という問題に多くの配慮をしなければならないだろう、こういうふうに考えておるわけであります。
さらに言えば、省
資源、
省エネルギーという考え方を
経済社会の全域に浸透させなければならぬ。大体そういう三つの内容を盛り込まなければならぬというふうに考えております。近く
経済審議会に五十一年度からの
長期計画はいかなるものであるべきかという点につきまして諮問をいたしたい、かように考えております。
それから、当面する
経済の混乱をどういうふうに収拾するかということ、この点につきましては、私は大観いたしましてわりあいに順調に推移している、こういうふうに見ておるのであります。昨年度におきましては、とにかく国際収支が一年度の間に百三十億ドルの赤字を生じた、それから
物価にいたしましても、
消費者物価が一年度の間に二四%も上がる、そういうような状態、そこからの脱出でございますので、そう容易なことではございませんでしたが、国際収支も着実に
改善の方向にあります。今年度は五十億ドル程度の赤字、こういうことはやむを得ない、こういうふうに思うのです。しかし、昨年度の百三十億ドルの赤字ということに比べますると、これはもう大変な
改善であろう、こういうふうに思います。
それから、
物価につきましても、御承知のように卸売
物価は実に安定してきた。
消費者物価につきましても、昨年の十二月は月間〇・四%の上昇です。それから、一月の東京区部で見ますると、月間〇・二%の上昇であるというところまで来ておるわけであります。まあ一息というところに来たなという感じを持ち、何とか最善を尽くしまして、かねがね
国会にも申し上げておりますが、三月時点における一五%年間上昇、この
目標を何とかして実現したいし、また五十年度における一けた台の
消費者物価、これも万難を排して実現をしたいというふうに考えておるのであります。五十一年度のなるべく早い時点には
消費者物価の上昇率を定期預金の金利水準、これ以下に何とかして持っていきたいということを念願といたしておるわけであります。
そういう
経済安定、
物価鎮静、その途上で問題になりますのは二つあるのです。
一つは賃金と
物価の
関係でございます。申し上げるまでもございませんけれども、
高度成長期におきましては
経済のパターンが高賃金、高
成長、しかも卸売
物価はずっと横ばいである。十三年間横ばいを続けている。
消費者物価も五、六%の上昇にとどまったというゆえんのものは、高
成長でありまするから生産性が上がる。そして、賃金が上がりましても生産性の中に賃金の上がりが吸収されまして
物価への圧力となり得なかった。そういう状態でございましたが、さて低
成長時代に入るということになった場合に、低
成長、高賃金というパターンがとり得るかというと、そういうことはできません。やはり低
成長下になりますれば生産性の上昇が非常に少ない。そうなるときに、賃金だけがいままでの惰性で上がるということになれば、賃金の上昇が
物価への大きな上昇圧力となる、これは必至であります。
そういうことを考えまして、初めての試練と申しますか、ことしの春闘におきまして、労使双方が
時代が違ったのだという
認識のもとに立ちまして、良識ある決定を見られるように切に要望いたしておるわけであります。
ただ、
政府は、賃金決定には介入はいたしません。これは労使双方の決定するところに期待するほかはないのでありますが、ただ、
政府といたしましては、労使の間の賃金決定がなだらかにいくための
環境づくりにつきましては、これは最善の努力をしなければならぬ。その
最大なものは
物価の鎮静であります。とにかく
物価の鎮静ということが当面の
最大の
課題であり、これはまた賃金問題とも深くかかわりのある問題であるという意識のもとに
物価問題に取り組んでまいりたい、かように考えております。
それからもう一つの問題があります。それは
物価安定、国際収支均衡というこの
施策と
景気との
関係であります。
物価やあるいは国際収支の
関係から言いますと、ただいま申し上げましたように比較的好ましい動きを示しておる状態でございますけれども、他面その摩擦がかなり出てきておる、こういう問題であります。これは
わが国のみならず諸外国においても同様の現象があり、ことに諸外国においては
わが国よりももっと厳しい状態においてそういう現象が出ておるという国が多いようであります。そういう諸外国の情勢でありますので、ヨーロッパの主要な国々はあるいは公定歩合の引き下げを行う、あるいは財政の支出を行う、そういうような諸政策をとり出しております。もちろんこれらの国々におきまして
物価鎮静という努力をあきらめたわけじゃありませんけれども、同時に
景気対策というものを強く打ち出しておるという傾向が見られるわけであります。また、アメリカにおきましても、年頭教書に見られるように同じような傾向をとり出しておる。
そういう間におきまして、
わが国におきましても、どうだろうか、いままでの総需要抑制政策の与える
摩擦現象に対しまして政策転換を考えたらどうだろうという声があるのであります。しかし、
わが国として非常に大事なことは、何といっても
物価の問題、国際収支の問題である。そういう時点において、外国が外国の事情に従いまして政策の一部転換をするという動きがありまして、直ちに
わが国がそれに追随するかということになりますと、これは慎重にやらなければならぬ、こういうふうに考えておるのであります。
さきに
経済対策閣僚会議を開きまして、こういう問題にいかに対処するかという
基本的な考え方を協議したのでありますが、結論は、総需要抑制政策はこれを堅持する、ただし総需要抑制政策の与える
摩擦現象に対しましては、財政上、金融上所要の
施策をきめ細かくとっていくというこの二点に尽きるわけでございます。まだ具体的な摩擦回避
対策、これにつきましてはそう多くは打ち出されておりませんけれども、今週の末ごろ、
経済対策閣僚会議を開きまして、とるべき
施策の一部を決定いたしたい、かように考えておる次第でございます。
非常に大混乱の後、戦後
最大の混乱ともいわれるこういう後でございますので、こんなむずかしい時局はいまだかつてなかった、こういうふうに思いますが、私も責任の重大なるゆえんをよく心得まして、皆様の御教示のもとに職責を誤たないというふうにいたしたいと存じます。
何とぞ御鞭撻のほどをお願い申し上げます。