○寺前
委員 第七十五
国会の
社会労働委員会における最初の
委員会であり、
労働大臣の
所信表明があった直後のことでございますので、私はきょうは、
基本的に新しい
国会に臨むに当たっての
労働大臣の姿勢を、部分ではございますが、お聞きをしたいと思います。
先ほど
労働大臣は、「働く
人々の生命と健康を守ることは
国民福祉の
基本であり、いかなる
経済情勢下においてもゆるがせにできない問題であります」という御指摘がありました。そして「災害をこうむられた方々に対しましては、その保護に万全を期してまいる
考えであります。」という御指摘がありました。私は、特に
労働者の保護立法として重要な位置を占めております
労働基準法、この法の番人として
労働大臣が大きな
役割りを果たしてくださることを心から期待をするものであります。特に
労働基準法の第一条では、「
労働条件は、
労働者が人たるに値する
生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。この法律で定める
労働条件の基準は
最低のものであるから、
労働関係の当事者は、この基準を理由として
労働条件を低下させてはならないことはもとより、その
向上を図るように努めなければならない。」
最低の基準を示すものだ。第二条では「
労働条件は、
労働者と
使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
労働者及び
使用者は、
労働協約、就業規則及び
労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。」以下、均等待遇の問題とか男女同一
賃金の原則とか強制
労働の禁止とかその他、こういうように基準法というのは「
労働者が人たるに値する
生活を営むための必要を充たす」ための諸指摘を行っております。
そこで私は、この基準法が本当に大切にされているのかどうか、最近の一、二の例を通じて
労働省のとっている
施策についてお聞きをしたいと思うのであります。
それは
労働大臣も御存じのように、いろいろな
職場においてこのごろ職業性に起因するところの傷病というのがいろいろ起こっております。また職業性に起因するかどうかというその基準の設定においてもいろいろ検討されているところであります。そういう問題の一つとして、私のところに
国際電電の会社の
労働者の訴えがありました。
国際電電の
職場においてはかなりいろいろ交換手の間で問題があるようです。電話交換の部屋で、あるところで十四名の交換手が一年じゅう二十四時間の交代勤務で仕事をしている。そこで調べてみると、みんな肩がこるという話が出てくる、頸肩腕症候群としての
治療を受けている、休養しているという人がかなり生まれてきているという実態が生まれております。
ことしの二月五日付で
労働省の基準局が発せられたところの「キーパンチャー等上肢作業にもとづく疾病の業務上外の認定基準について」という文書を見ても、従来は見られなかった電話交換手の頸肩腕症候群の指摘がここには新しく加わってきているようであります。確かに電話交換手の中においての疾病問題というのは一つの問題になってきております。ところが、
大臣も御存じだと思いますが、
労働者が自分の
労働条件、自分の権利を守っていくために組合をつくり、
使用者との間に団体交渉を行い、そうして一定の
労働協約を
確立していくものであります。
国際電電の会社においても
労働者との間にそういう
労働協約が結ばれ、就業規則がちゃんとつくられていっております。
国際電電においては会社の側と
労働者の間に就業規則で災害補償の規定がその第十三章に載っております。「職員が業務上負傷し、疾病にかかりまたは死亡した場合においては、その者またはその者の遺族に対し、第十二章の規定による災害補償保険給付のほか、この章に定める補償を行なう。」すなわち、いわゆる労災保険の補償のほかに、会社との間に協定を結んでその補償をやるという
制度を就業規則でかち取っておるのであります。そうしてこの結果は、
労働者はほとんど一〇〇%に近いところのいろいろな補償、
休業補償その他もかち取っているというのがこの規則上の問題であります。ただ前提は業務上の疾病の場合ということにこれが就業規則でなっているわけです。ところが現実には、あの電話交換手の
職場においては、業務上の認定云々というようなことを言っておったら、御存じのように電話交換手が業務上の疾病として職業性に起因するという位置づけが最近やっと検討に値する
内容として通達に載ったぐらいですから、いままで肩こりその他の姿でもってもう耐えられないという姿になってきた
労働者たちが業務上の疾病として会社の災害補償の規定、就業規則の
適用がとれないという
事態がある、しかし、そんなことを言っておったって現実は進まないというところで
労働組合と会社との間に特別に
労働協約を結ぶようになりました。「頸肩腕症候群り患者の特別
対策に関する諸確認」というのを
国際電電の会社と
労働組合との間に四十九年の六月四日に結んだわけであります。これは就業規則によるところの災害補償より水準は低いわけです。なぜかというと、これは業務上の認定というのが前提にない。会社の言葉を通じて言いますと、こう言っています。「先般来いってきているが、頸肩腕症候群の業務上、外を議論しても罹患者に対する本当の
措置にはならないとの
観点から、現に患者が発生している事実にもとづき、早急にその
対策を講じたいことが本旨だ。現段階の特別
措置ということで」行うということを会社は言っているわけです。要するに、そのことを論議しておったら早急の
対策として間に合わないから、現に発生しているという事実に基づいて特別な
対策を組みましょう、こういう協定が結ばれているわけです。
ところが、この協定だけでは、これは満足いく姿にはなりません。なぜかというと、それは結果としては私傷扱いなんですから。
労働災害の業務上の扱いじゃないですから、これがいろいろなところに制約を受けてきます。それはお医者さんにしても、その協定の中では特定の医師の診断に任すということにしなければならないことになりますし、そこで医師選択の自由がなくなる。したがってお医者さんにもうこれでやめなさいと言われたら、会社の指定する医者ということになってくると、そこではほかの医者は違う意見を持っていても、それに従わなければならない、そういう問題も含んでくるでしょう。業務上ということが明確になったら、天下晴れて
職場の
改善を要求することもできる
内容になってきます。私傷扱いでは本当の一時的な
対策にしかすぎない。だから、どうしたって本当の業務上の災害として認めてもらわないことにはいろいろな面において影響を受けるというのが、
労働者としての次への発展の要求になってくるのは当然であります。
そこで、この問題をめぐってこの特別な
労働協約ができる以前からの争いというのが
国際電電で起こっているのであります。
四十六年の六月に入社された小林ちず子さんという人、東京
国際電話局の電話交換をしておられた方ですが、四十八年の六月に発病しておられます。そして何度か
課長さんに助けてくださいということを
申し出ておられます。そうしてらちが明かないところから、四十九年の二月三日の日にお兄さんと一緒に
国際電話局の
局長さんのところに、口頭で業務上として認定していただけないでしょうか、そしてここに言われるところの就業規則の
適用をお願いしたい、明くる日には藤谷弁護士さんとまた
局長のところに
申し出に行かれたわけですが、会社側はそれを拒否してくる。ところが小林ちず子さんだけではなくて、その後この
職場においては患者が次々と発生してきている。そういう
事態の中で、四十九年の六月十二日ですか、東京の中央
労働基準監督署に行って——基準法を見たら、基準法の八十五条では、こういうような
事態に対しての
労働者としての審査及び仲裁の要求をすることができるというふうに書いてある。読んでみます。「業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁に対して、審査又は事件の仲裁を申し立てることができる。行政官庁は、必要があると認める場合においては、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。」云々と、ずっと書かれているわけであります。この八十五条の前提になるのは、もちろん第八章の「災害補償」というところであります。すなわち七十五条で「
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、
使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、命令で定める。」簡単に言いましたら、
労働基準法において、
労働者は使用主との間には
労働協約を結んでその
労働条件を
確保することができる。そしてその
労働者が業務上の負傷または疾病にかかった場合には、その災害補償を要求することができるし、
使用者はその補償をしなければならない。その範囲は、七十六条以下、
休業補償その他の項で、こういうものは
最低しなければならないという指摘があるわけです。そして八十五条で、業務上の負傷、疾病または死亡の認定、療養の方法云々について異論がある場合には
申し出なさい、行政官庁はその審査または事件の仲裁をすることができる、こういうふうになっているわけです。ですから、会社で自分がひどい目に遭っている、会社でぜひとも就業規則、これに基づくところの補償をしてもらいたいということを会社に言っても、取り上げてくれない。そこで監督署へ行って、基準法によるならば、はっきりと
労働協約で結んであり、あるいは就業規則で明確になっている、それで補償の範囲は
最低これこれしなければならぬとここにも書いてある、それを会社がやってくれない、八十五条で、この
労働協約の補償に関する
分野をやってくれない以上はぜひともひとつ監督署よろしく頼むということを
申し出る権利があるじゃないかということで、監督署にお願いに行ったというのが四十九年の六月十二日です。同時に、そのときにあわせて、
休業補償を労災の面からも
適用してくださいということを
申し出たのであります。これはいわゆる労災保険の問題です。
そうしたら七月八日、それに対するところのどういう回答が出てきたかというと、基準法における八十五条でのその請求は、これはぐあいが悪いということが出てきた。そうして
休業補償のほうは、あなたは六〇%の
賃金の給付を受けておられるのだから、請求する要件を欠いているということになる。要するに、もう六割もらっておられるのだから労災保険の方の
休業補償というのは要らぬじゃないか、現にちゃんとお金をもらっているのだからということで、それもけられてしまった。そこで、労災保険における療養補償の方の請求をされたらどうですかという話が出てきたというわけです。
ところが本人は、冗談じゃございませんということを問題にしているわけです。なぜかと言うたら、会社の規則で業務上を認定したときにはちゃんとこういうふうにやります、こうある以上は、その協約で——就業規則ですから、労災保険のプラス分をちゃんと請求することができるんだ、だから、当然のこととして八十五条によって、その就業規則どおりのことをやってくださいということを監督署がやってくれてあたりまえじゃないか、何でそんなことになるんだということで、本人が怒り出したわけです。それで、これは本人だけではありません。九月十二日になると岡本まき子さん、十月の十八日になると林康子さん、後藤いく子さん、十一月五日になると塚本三枝子さん、小畑喜代子さん、柴田光子さん、十一月の十二日になると小松美知代さん、こういう
人々が、就業規則に基づいての私たち
労働者としての権利を保護してくださいということを監督署に
申し出られるわけですが、監督署の方は、だめだ、八十五条に基づくやつはだめだ、こうおっしゃる。そこで、弁護士さんに相談をしたりして、勉強を始めたわけです。
それで、まず四十九年度版の「
労働基準法」という、
労働省労働基準局が編さんし、著者になっているというのですか、この本、これは四十九年度版ですよ、これを調べてみた。そしたら、八十五条という問題に対する解釈がちゃんと書いてある、
趣旨が。「本条は、災害補償について争いのある場合の救済について規定したもの」だ、災害補償についての争いだ。何も災害補償というのは、あの労災保険だけが災害補償上の問題じゃありません、
労働者にとっては。ちゃんと
基本は、使用主との間に協定を結ぶのが
労働者の
基本ですから。その解説を今度は見る。「業務上の負傷、疾病又は死亡の認定 療養補償、
休業補償その他の各条の補償等を行なうについて
使用者の行なった業務上外の認定を指す。したがって、第七八条に規定する
労働基準監督署長の重大過失の認定はここには含まれないと解する。」要するに、労災保険での認定諸問題の問題は、これは労災保険法上の問題だから、それはここには入らない。それ以外のところの療養補償、
休業補償その他の各条の補償等を行うについて
使用者の行った業務上外の認定をここでは指すんだという指定をぴちっとこの解釈でもしている。四十九年度版のあなたたちの基準局が出したこの本を見ても、まさにそうなっている。何でけられるのかようわからないということで、そこでもまた繰り返し
労働者の方で疑問になってきた。そうしたら、初めて明らかになってきたことは、四十八年の三月二十九日に各都道府県
労働基準
局長あてに
労働省労働基準局補償
課長が「
事務連絡第八号」というのを出しているということが明らかになった。この
事務連絡の第一項を読むと、こう書いてある。「
労働基準法第八五条及び第八六条の規定に基づく審査、仲裁の
対象は、
労働基準法上の災害補償の実施に関する
事項に限られるものである。したがって、審査、仲裁は、労災保険
適用事業場以外の
労働基準法
適用事業場に係るものにほほ限られることになるが、
休業三日以内の
休業補償に関しては、労災保険
適用事業場であっても審査、仲裁の
対象となる。ただし、この場合には、療養補償給付請求書を提出させ決定したうえで、
休業補償に関し、審査、仲裁をすることが望ましい。なお、ここにいう「
労働基準法上の災害補償」には、
労使間において定められたいわゆる法定外の補償は含まれない。」という指摘がここにあるわけです。
私はこれを聞いてますますわからぬようになってきた。基準法というものが、労災保険の
適用事業所、そこでの労災補償については、ここについては全部労災に任せてしまいますのだという指摘であります。私は冗談じゃないと思いますよ。労災補償というのは国の
制度でありますけれども、それは一つの補償の
制度です。
労働者が使用主との間にどのような補償をとらすかという基準を決めたのが、これが基準法ですよ。これは
労働者の
労働条件の
最低を規定するところのものです、
最低の「人たるに値する」に。その
最低を補償するものだ。その
最低のもとにおいて
使用者との間に
労働協約を結ぶあるいは就業規則がある、このものに対するところのこの
基本的な権利、これを結び上げたところの
内容について、労災保険の
適用事業所であろうとなかろうと、この基準法はすべてを拘束するところのものであると言わなければならないと思います。また労災補償法におけるところの労災補償というのは部分にしかすぎません。もっともっと
改善の要求はあります。個々の
企業との間にどのようにもっと高い水準を結んだって、これはあたりまえであって、そのことの争いをめぐっての見解に対して基準局にその審査を求めるということが何でできないのかということは、この法律の解釈は、一体この法律のどこの条項からそんなことが
考えられるのか、私は不思議でならないのです。一体一
課長でもってわれわれが
国会でつくったところの法律がそんな勝手な解釈ができるものなんだろうか。
適用事業所に限るとは何事だ。ですから、こういう
考え方からいくと、私は大変な問題になると思うのです。これは基準
局長は知った上でこういうことが出されているのか。私はこの解釈問題はきわめて重大な解釈問題だと思うのだけれども、基準
局長の見解を私は聞きたいと思います。