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河本国務大臣 まず第一番に
物価の見通しの問題でございますが、幸いに
卸売物価の方は最近非常に鎮静をいたしておりまして、
政府の予定しておりました
水準よりも
相当低い
水準に動いておりますので、この方はまず
心配ないと思います。問題は
消費者物価でございますが、四月、五月の指数が
相当高い数字が出ましたので
心配をいたしておるわけでございますが、よく分析いたしてみますと季節的な
要因、臨時的な
要因が非常にありまして、必ずしもこれで今後の推移を想定するのは早計ではなかろうか、こういうふうにも感ぜられますし、それから、この春の
ベースアップも、
経済情勢を反映いたしましたほぼ妥当な線に落ちついたと思いますが、これまでの
政府の推定では、一四・五%の
ベースアップがあった場合にはあるいは四、五%ぐらいな
物価上昇の
要因になるのではないか、こういうふうに言われておりましたけれども、これは
ベースアップが全部
消費に向けられた場合のことでございまして、最近の
貯蓄動向を見ますとほとんど全部が
貯蓄の方に回っておる、非常にいい傾向が出ておりまして、そういたしますと、今度の
ベースアップによる
消費者物価を押し上げる
要因は非常に少なくなるのではないか、こういうふうにも
考えられます。
それから、一番問題は、御
指摘のございました原料の輸入問題でありますが、最近は国際的にも
カルテル化の傾向が非常に強くなりましたので、私どもも
心配をいたしておりますが、しかし、何と申しましても物の値段は需給関係によって決まるわけでございまして、物がずいぶん余っておるのにむちゃくちゃに値段を高くしてそれを売りつける、そういうことは自由主義
経済の原則を根本的に否認することにもなりますので、幾ら強力なカルテルをつくりましても、需給関係が緩んでおる場合にはそれには限度がある、こういうふうに思います。ただ、一番
心配なのは、非常に強力な
石油カルテル、OPECの問題でありますけれども、先般の六月九日から十一日までのガボン
会議におきまして、正式に油の
値上げが決定はいたしておりませんけれども、九月の総会では価格の調整について相談をするという項目がございまして、場合によっては油の
値上げをするということを示唆しておるわけでございます。その点がこれからの最大の課題であろうと思います。
日本もいろいろ努力し、アメリカも努力し、ヨーロッパもそれぞれに努力をいたしまして、大体この秋ごろからは景気も
上昇するのではないか、こういう気配が世界全体に見え始めましたやさきにおきまして油の値段が上がる、しかも余っておるのに上げる。そういうことになりますと、そのことが世界
経済全体の足を非常に引っ張ることになりまして、私どももこの点を大変
心配いたしておるわけでございますが、世界の
経済が完全に立ち直りまして活力を回復するという場合には、若干の油の
値上げがありましてもそれを吸収できる、こう私は思います。しかし、非常に衰弱をしてしまっておる、どん底にあえいでおる、こういうときには少しの油の
値上げも吸収する力がありませんし、もしそれを強行するとさらに衰弱するということにもなりますので、九月のOPECの総会を前にいたしまして、これはアメリカ、日本、西欧を
中心とする
消費国の共通の大きな課題としてこの問題を取り上げる必要があろうかと思います。三木総理が八月にはフォード大統領と会談をされるわけでございますが、そういう場合にも、この油の問題に対してどう対処するか、あるいは世界
経済全体の問題をどう
考えるか、こういう問題を大きな課題にしていただこう、こういうことでいまお願いをしておるわけでございます。
そういうふうに、油の問題を初めといたしまして一次
産品の問題は、これからの大きな課題でございますけれども、当初に申し上げましたように、需給関係が非常に緩んでおるという点を
考えますと、そうむちゃくちゃな
値上げというものはあり得ないし、そこはまた話し合いで解決できる。今回のすずの問題にいたしましても、OPECのようなああいう生産者カルテルではなくして、できるだけ生産国と
消費国がお互いに話し合って妥当な結論を見出そうということで若干時間がかかっておるわけでございますが、そういう
方向で一次
産品等の出る国々それから
消費国ともども話し合いまして、妥当な姿で処理をしていく、こういうことに努力しなければならぬと
考えております。そうしますと、この問題もそんなに
消費者物価に大きく
影響する課題ではない。
それから
公共料金の問題でございますけれども、これまでの決定した分は別といたしまして、やはり
消費者物価を一けたに抑えるということであるならば、
公共料金というものは、厳にこれはしばらくの間抑えていかなければならぬ、
物価の目標が達成されるまではこれを抑えていく必要があるのではないか、私はこういうふうに
考えておるわけでありますが、それについてはまだ
政府の最終的な合意は得られておりませんけれども、いろいろな点を総合的に努力をいたしまして、来年の三月には
消費者物価を一けたに抑えるということは、これは
政府としての最大の公約でもございますので、全力を傾ける、こういう
方針で進んでいきたいと存じます。
それから第二の問題でございますが、先般第三次
不況対策を決定をいたしました。当初、通産省といたしましてはもう少し大規模な形を
考えておったわけでございますが、国の予算、他省との調整、こういうふうないろいろな関係からあの程度に落ちついたわけでございますが、今回の
不況以前の
不況であれば、これは
不況といいましても、
経済の伸びが若干減ったという程度でありますから、だから、ある程度のことをしますと、それが誘い水になりまして景気は自動的に浮揚力を回復する、こういうことが多かったわけでございますが、現在の
経済の姿をながめてみますと、一年半前、
石油ショックが起こりました当時に比べまして、鉱工業の生産が約二割落ち込んでおります。底をついたと言いますけれども一、二割落ち込んだところで底をついておるということでございますから、非常に深い谷底に落ち込んでおる、こういうことが言えると思いますし、それから現在の日本の
産業設備がどのくらい動いておるかということでございますが、ほぼ約七割見当しか動いていない、こういうふうに大体想定をしておるわけでございます。しかも、個人
消費は御案内のとおりでございますし、貿易の
状態は輸出入とも縮小均衡の
方向にございます。民間の
設備といえども七割しか動いてないということになりますと、
設備投資に対する意欲というものはおのずから、大きな力というものはないということは自明の理でございます。
そういうことでございますので、今回の景気
対策というものは約二兆円弱の需要喚起になるというふうに言われておりますけれども、何しろ国民
経済全体の規模が百六十兆という大きな
経済になっておりますから、いろいろな要素が冷え切っておる。そこへ二兆円を出しましてもどの程度の浮揚効果があるか、実は私どもも大変懸念をしておるわけでございます。
経済企画庁あたりの推定によりますと、GNPを一%以上押し上げる力はある、こういうことを言われておるわけでございますが、そういうことになれば大変結構でありますけれども、いずれにいたしましても、今回の景気
対策というものがどの程度
産業界に
影響があったか、浸透したかということにつきまして、通産省といたしましては二、三カ月後にその実情をつぶさに調査したいと
考えております。そして次の
経済運営の
方向を明らかにしなければならぬ、こういうことで、いまそういう準備を進めておるところでございます。