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1975-06-17 第75回国会 衆議院 外務委員会 第23号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年六月十七日(火曜日)     午前十時一分開議  出席委員    委員長 栗原 祐幸君    理事 石井  一君 理事 鯨岡 兵輔君    理事 小林 正巳君 理事 水野  清君    理事 毛利 松平君 理事 河上 民雄君    理事 堂森 芳夫君 理事 正森 成二君       加藤 紘一君    坂本三十次君       正示啓次郎君    田中  覚君       谷垣 專一君    戸井田三郎君       山田 久就君    江田 三郎君       土井たか子君    三宅 正一君       大久保直彦君    渡部 一郎君       永末 英一君  出席政府委員         科学技術庁原子         力局次長    半澤 治雄君         外務省国際連合         局長      鈴木 文彦君  委員外出席者         防衛庁防衛局調         査第二課長   三好富美雄君         参  考  人         (科学評論家) 今井 隆吉君         参  考  人         (上智大学教授前田  壽君         参  考  人         (千葉大学助教         授)      川崎昭一郎君         参  考  人         (上智大学教         授)      蝋山 道雄君         参  考  人         (軍事評論家) 久住 忠男君         外務委員会調査         室長      中川  進君     ————————————— 本日の会議に付した案件  核兵器の不拡散に関する条約締結について承  認を求めるの件(条約第一二号)      ————◇—————
  2. 栗原祐幸

    栗原委員長 これより会議を開きます。  核兵器の不拡散に関する条約締結について承認を求めるの件を議題といたします。  本件審査のため、本日、参考人として科学評論家今井隆吉君、上智大学教授前田壽君、千葉大学助教授川崎昭一郎君、上智大学教授蝋山道雄君及び軍事評論家久住忠雄君が御出席になっております。  この際、参考人各位一言あいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ本委員会に御出席くださいましてまことにありがとうございます。  ただいま、本委員会におきましては、核兵器の不拡散に関する条約締結について承認を求めるの件を審査しておりますが、本件につきまして参考人方々の忌憚のない御意見を伺いたいと存じます。  なお、御意見の御開陳は、お一人十五分程度にお願いすることとし、その後、委員からの質疑の際、十分お答えくださいますようお願い申し上げます。  御意見開陳は、今井参考人前田参考人川崎参考人、蝋山参考人及び久住参考人の順序でお願いいたします。  それでは、今井参考人にお願いいたします。
  3. 今井隆吉

    今井参考人 核拡散防止に関する条約について意見を申し述べるようにというお招きでありますので、考え方を要約して申し上げたいと思います。  そもそもこの条約は、申し上げるまでもなく国際政治軍事情勢原子力平和利用あるいは技術というような多岐にわたる問題に関連をしておりますので、簡単に申し上げるのは非常にむずかしいことだと思います。しかし、本日は各方面専門家方々も御出席でいらっしゃいますので、まず最初に簡単に要点を申し上げまして、詳細の点については御関心がおありでございましたら後ほど御説明するということにしたいと思います。  この条約につきましては、私はきわめて初めのころから批准を推進するという意見を持っており、そういう趣旨をいろいろな折に発表もしております。これは、核拡散防止条約が一〇〇%理想的な条約であるとか、あるいはこれが世界に新しい道徳律をもたらしたというような意味ではないわけでありまして、言うまでもなくこれは現状維持条約でありますし、それだけにいろいろな形の制約があるのも当然かと思います。しかし、わが国国益ということを考え1国益と申しますのは、この際政治経済軍事にわたる広範な意味の、新しく包合した意味広義安全保障というような面から考えまして核防条約に加盟することが有利であるというふうに考えております。  この条約をめぐる世界情勢というのは、一九六八年に条約が書かれましたときから、再検討会議が行われましたことしに至るまでの間にいろいろな変化が起きており、その間、核というものについてもその評価が変わってきているという面があると思います。それにもかかわりませず、あるいはそれのゆえにこそ核防条約に加盟することの必要というのは一層強まったのであるというふうに考えております。  変化といいますのは、考えてみますと、これは言うまでもなく米ソ間のデタントというか、核兵器国間の政治的な接近ということが一番大きな問題かと思います。それに伴いまして、あるいはそれと軌を一にいたしまして、兵器としての核の評価が変わってきているということが言えるかと思います。これは戦略的な核という面でも、戦術的な核という面でもいろいろな変化があらわれている。それから三番目には、特に石油問題から端を発しましてエネルギー問題に関する関心度合いが非常に強まり、あるいは必要性が強まったということから、平和利用の核というものが非常に広まってきたということがございます。これは当然エネルギー面の問題と同時に、核能力拡散という問題になってまいります。あわせて申しますと、核を含めまして一般的に先進技術というものに対する批判が世界的に広まっているということも言えるかと思います。これは環境問題なんかに対する関心度合いの高まりということからも言えることでございまっしょう。  最初に、いわゆるデタントということについてでございますけれども、これは核を持った大国間の政治的な接近であると言われ、あるいはいわゆる冷戦構造の崩壊であるとも言われておりますし、現在の時点ではいろんなことがあわせて起きておりまして、次の安定がどういう形で生まれてくるのか、実現されるのかについてはまだ模索の状態であるということが言われております。これはヨーロッパにおいてもアジアにおいても現状を申し上げるまでもなくいろいろな問題点があるわけでございます。  しかし、この間を通じまして、核が使えない兵器になってきたということが広く言われるようになってまいりました。これは単純に核の大量破壊という意味だけでございませんで、戦略核戦術核を通じて核兵器というものの体系が、特に米ソの間では技術的にも非常に複雑なものを含むようになった。これはいわゆる大陸間弾道弾から始まりましてクルーズミサイルに至るまで、人工衛星その他のものをいろいろ含めて、技術的には非常に複雑な体系があって、これが米ソ間でもっていわば全般的にばかりでなくて各段階でもって均衡をするという状態になってきているかと思います。こういう意味でもって考えますと、特に北大西洋条約諸国、NATOと、それからワルシャワ条約諸国との間の対立あるいは対決というものについても様相が変わってきているということがよく言われることでございます。  それから次に比較的重要な問題だと私が思っておりますのは、兵器としての核の有用性というものが非常に変わってきたということが言われております。これは単純に大量殺人あるいは大量破壊をするということに興味があるというような変な話を別にいたしますと、兵器というのはそもそも戦争の目的を遂行するという点から考えると、無差別に何でもいいからたくさん壊してしまうというのが一番いい兵器ではないであろう、それよりも目標とするものを確実に破壊することができるというのが一番大事なんだというようなことから考えますと、最近の命中精度の向上というようなものに伴いまして、核兵器というのが必ずしも一番いい兵器ではないのではないかという議論が各方面に見られるようになってきたと思います。  三番目に、やはりこの何年間かの変化といたしましては、兵器としてそういう意味のある体系とは別に、単に政治的な威信を求めるためだけの核兵器、いわゆる非常に単純なかつ原始的な兵器というものをつくることがあちらこちらでできるようになったのではないかという懸念がございます。  まあこの三つのことを背景にして考えますと、日本について考える場合に、日本には特に威信を求めるために核をつくってみせる必要性は全くない、日本威信というのは明らかであるということが一つございましょう。  それから、日本軍事的に意味のある核を持とうと思うと、いわゆる戦略的な第二撃能力に値するものを持たなければ意味がないわけでございまして、これは技術的あるいは経済的に考えてわが国能力をはるかに超えるものであるということがございます。  それから、申すまでもなく日本という国は、狭い国土に人口が密集しあるいは工業が密集しているわけですから、核攻撃に対しては非常に脆弱であるということも言われますし、また非常に大事なことは、わが国核産業というのはもちろん平和が唯一のものでございますけれども、どういう形にしましても一切の原料、特にウラン外国からの輸入に仰がなければいけないということがございまして、この輸入がとまれば平和とか軍事とか論ずる余地がなく、核というものはどういう形でも持てないのだという状況があると思います。したがいまして、そういうことを考えますと、核武装の現実的なオプションというのはわが国はもとより初めからなかったし、現在もないわけでございますし、将来もありそうなことではないということになると思います。  そういたしますと、先ほど申し上げた政治的な威信を求めるための核が拡散するということは、これは全世界的な影響を持つものではないといたしましても、局所的、地域的には非常に重大な脅威になり得るものでございまして、わが国立場から考えても、このような核が広がるということは非常に好ましくないことであるということになるかと思います。それからまた、今後国際的な軍備管理の推進に当たってわが国役割りというようなことを考えますと、このデタントというか、政治的な変化に伴ういろいろな状況を考えても、核拡散防止条約にはわが国としては早期に加盟する必要があるのだと思います。  次に平和利用の核のことでございます。中心になりますのは原子力発電という形態でありますけれども、現在のところこれはわが国に限りませず、エネルギーを発生させる手段として、ここ十五年とか二十五年とかいう期間の間に現実的に産業技術として成り立つ可能性のあるものというのは原子力しかないだろうと言われております。これは太陽熱とか地熱とかいろいろ候補はあるのですけれども、一般的な考え方としてこれがすぐ産業技術として役に立つとは考えられない。そういうことから、世界各国原子力発電計画というのが非常に規模が大きくなって広まりつつあるということがございます。  ただ、これが直ちに核兵器拡散につながるというのはちょっと考え方がおかしいのでございまして、いわゆる動力炉というものから出てくるプルトニウムがそのまま兵器に使えると思っている人は余りないようでございます。したがいまして原子力発電が広がって年産プルトニウム世界で何トンになるからそれだけ核兵器があちらこちらでつくられるという考えは、少し短絡した考え方のようでして、むしろそういうことよりも研究炉であるとか研究施設あるいは研究者というふうに技術能力が高まって広がってくることそれ自体が問題であるというふうに考えられています。  それから、先ほどもちょっと申し上げましたように、わが国原子力平和利用に関してはほとんどすべてのものが外国依存であるというのは、エネルギー源として考えますと、たとえばわが国にはウラン鉱石というのがほとんど存在しないといっていいくらいだと思います。これは従来の計算でいいますと、昭和六十年度に一年間に必要とするウランがちょうどわが国埋蔵量と一致する程度でございまして、したがって年間数千トンというものを現在の状況でいいますとカナダ、オーストラリアというような国から全面的に輸入をしなければいけないということになっております。  それから原子炉燃料として使いますためには濃縮という作業が必要なわけですけれども、濃縮施設を大量に持っているのはアメリカソ連だけでございまして、現在の時点では、一九八〇年代にはこれも年間数千トンという濃縮サービスの購入を、いまのわが国体制ではほほ全面的にアメリカ依存せざるを得なくなっております。このためにアメリカでつくられる次の濃縮工場をどうするか、それに日本がどのような形で参加するかというようなことが現在非常に問題になっているわけであります。一九八〇年代になりますと、これに加えましてフランス工場からも濃縮サービス輸入できるだろうと言われております。これはフランススぺイン、イタリアの共同による国際工場なわけです。このほかヨーロッパでイギリス、西ドイツ、オランダの共同している遠心工場からも輸入ができるようにいずれはなるのではないかと言われておりますし、もちろん国産濃縮工場ということは真剣に検討されているわけであります。しかし技術の水準それからこれに要する巨大な投資というようなことを考えますと、国産濃縮工場がそう簡単に実現するものだとは関係者はだれも思っていないのだというような状況であります。  さらに、原子力発電基本になっています現在の軽水炉技術というのは、ほぼ全面的にアメリカからの技術導入になっております。この辺の事情は細かいことはいろいろございますけれども、実際にわが国軽水炉を製造販売しているメーカーというのは、全部アメリカのライセンスによっているということを申し上げれば、細かいことは別といたしまして大体の状況は御納得いただけるかと思います。したがいまして、原子力平和利用という面で考えますと、わが国現状は、資源としても技術としても外国への依存、特にアメリカへの依存度が非常に大きくなっているというのが否定のできない事実であるかと思います。  このような平和利用核防条約との関連という点を考えてみますと、一番よく言われますのが保障措置あるいは査察制度と言われるものでございます。これは国際原子力機関が実施することに条約の三条で決まっているものでございますけれども、そもそもこの核防条約ができました時点では、この査察制度には非常に問題点がたくさんございました。そのために一九七〇年にこの保障措置制度を改めるための国際会議が行われまして、それに伴って標準協定と通常呼ばれるものがつくられました。この標準協定は、実はほぼ半分近くが日本人の英作文だという話がありますくらい、この標準協定の作成に当たりましては、わが国の意向というものが非常に強烈に反映されているということが言えるかと思います。これによりまして、査察員が無制限にどんなときにもどんなところへも立ち入れるというような条項が一切排除されたということがございます。それによって査察制度というものを客観的な科学的なものに直したのだと私どもは申しますけれども、査察員が主観的にいろいろなことをするのではないということに直すことができたと思っております。この体系をいわゆるユーラトムという独自の査察系統を持っているところに適用するための方式というのがその後いろいろ検討されて、ユーラトム条約というのがつくられたわけでございますけれども、ことしの二月にわが国がつくった国際原子力機関との間に交渉しました査察条約というのは、これと全く同じ方式を採用することになっております。  これらのことを通じて、いわゆる査察問題が産業界から見ても満足すべき状況になったのだ——これは物事は決して完全ということはございませんので、いろいろ問題点は残っておりますけれども、満足すべき状況になったのだということは原子力産業界自体が認めましたわけで、そのために原子力産業会議というのがわざわざこれで結構であるという声明を出したというような経緯がございます。  保障措置と並んでもう一つございますのが最近問題になってきましたフィジカルプロテクション、物的防護と一応訳されておりますが、これはいわゆる核ジャックに対する、核物質ないしそういうものをどろぼうされるのに対する防御手段のことでございます。この面は最近アメリカソ連が非常に強く核散問題と関連して騒ぎ始めたものでございまして、わが国でも当然、この種の問題というのは余り宣伝するわけにはいかない種類のものだと思いますけれども、いまの物的防護についていろいろな手段が講じられており、今後国際的にも非常に問題になっていくのだろうというふうに考えられております。  この二つのこと、つまり保障措置あるいは査察と、その物的防護二つを道具にいたしまして、最近の情勢では、特にアメリカソ連等中心にして、輸出入の政策関連して締めつけをしようという感じが大変強くなってきたというふうに考えられます。これは最近のジュネーブで行われました再検討会議なんかでも顕著に出てきた傾向でございますけれども、何か感じとしては核防のクラブみたいなふうになってきて、核防に加盟している諸国の間では技術あるいは物資の交流を自由に行うけれども、核防に加盟していない国に対しては、いろいろな面で締めつけを行いたい。これらは拡散の問題のほかに、特に非同盟諸国核防に参加することの恩恵を明確にしろという形で迫ったという経緯がございますので、こういう形になっているかと思います。  最後に、核防条約原子力平和利用面での研究開発の自由がどういう関連があるかということがいろいろ問題にされたかと思いますけれども、現在のところ、いま申し上げましたように、保障措置その他の面が、産業あるいは技術に実際問題として妨げにはならないだろう。特にこの面では、西独のように利害をわが国と共通にする国もございまして、その面では余り心配はされていない。むしろそれよりも、条約の第四条による技術交流というようなものの促進、特にわが国の場合には、ウラン濃縮技術交流促進というようなことに関心が非常に持たれております。  したがいまして、核拡散防止条約というのは、条約文章の表現の解釈の上ではいろいろと問題があるかと伺ってはおりますけれども、全般的な問題として考えますと、平和利用の面からも、やはりこの条約に早急に加入している方がわが国立場から言っては有利なのであるというふうに考えております。  一応、これで終わります。(拍手)
  4. 栗原祐幸

    栗原委員長 ありがとうございました。  次に、前田参考人にお願いをいたします。
  5. 前田壽

    前田参考人 前田です。  私は、いわゆる核防条約というよりも、むしろ広い意味核兵器拡散防止問題として取り上げてみたいと思っております。そのために、核防条約NPTというように呼ぶようにさせていただきたいと思います。  まず最初に、NPTが問題になり始めてからすでに十年を経過しているということであります。大体一九六五年ころから、NPT、つまり米ソが推進するところのNPTというものが始まったわけでありまして、六八年に調印を開始し、七〇年に発効したのですけれども、すでに十年もたっている。この時間的な経過というものを軽視してはいけないのではないかというように思います。すなわち、その十年間に非常に情勢変化しているということであります。  たとえば、国際関係について見ますと、米ソ協調体制というものは六三年あたりから明確になってきて、いまも続いているわけですけれども、その後、米中の和解でありますとか、あるいは中国の核武装が進展したとか、それから米ソ間にSALTが開始された、それからインドが平和利用と称するところの核爆発装置を持つようになった、それから原子力発電が一層普及するようになった、その他数えれば非常に多いわけですが、情勢が非常に変化してきている、つまりNPT背景になっているところの情勢変化しているということであります。  したがって、日本としては、これに見合うところの核兵器拡散防止政策が必要になってくるわけであります。  しかしながら、日本の場合、新政策を立てるというよりも、むしろその前に、もともと広い意味核兵器拡散防止政策というものが確立していたのであろうかどうかということに疑問があるわけであります。私は、日本としましては、まず広い意味安全保障政策政治経済、外交その他広義にわたるところの安全保障政策があり、それに基づいて軍縮軍備規制政策が生まれ、その一環として核兵器拡散防止政策ができて、そのまた一部として対NPT政策が生まれるべきである。ところが、そういうような手順を踏んだところの政策の確立というような点では、私たち国民として、手順がうまく踏まれたのかどうか疑問を持つものであります。  それと、先ほど申し上げましたこの十年間日本が有効に使ったかどうかということにも問題があるかと思います。原子炉燃料保障措置などにつきまして日本大変活躍をして制度改善するということに成功しておりますけれども、NPTといいますのは非常に広範な関連を持っておりますので、そういう意味での総合的な検討が十分に行われたかどうかということであります。  申すまでもなく、NPTというのは横の拡散防止だけをねらったものでありまして、日本としてはもちろん縦の拡散をも含めました真の意味核拡防を目指すということに基本方針を置くべきであると思います。これはいろいろな理由がありますし、先ほど今井参考人もおっしゃったことでありますが、ともかく日本としては非核政策をとらざるを得ないという状況にあります。  そこで、日本が追求すべき核拡散防止というものは、横の核防と縦の核防のほかに、条件としまして、すべての核兵器国がそれに参加すること、それからすべての潜在的核兵器国が参加すること、その他大多数の世界の国々が参加するということが重要な要件になると思います。これはNPTのように核大国を主とした考え方ではなくて、中小国の利益ということをも念頭に置いたところの取り決めということになるわけで、これはいわば大変理想的な方針で、これに基づけば、NPTでなくって別の条約を必要とするという考え方になるかと思います。  しかしまた、こういうような理想的な条約が、別個の条約が早急な実現の見込みがないということもまた明確であります。そこで、この際NPTに加わって、その当事国となって、他の九十数カ国と一緒にNPT改善に努めると同時に、真の意味核拡防取り決めに向かって日本が努力をするということが一つの道であろうかと思います。そういう意味で、現在NPT批准に踏み切ることに私は賛成であります。  その理由ですが、NPTは大変な不平等条約でありますけれども、現在これに加わらないことの利点というものが余り大きくないということであります。  それから加入しないことの不利点としましては、すでに述べられたことでありますけれども、海外での日本核武装についての疑惑を高めるとか、あるいは原子力平和利用面での不利というようなことが考えられるということであります。  しかしながら、もう一つNPTについて考えなければならないのは、いまの一応の批准賛成という措置についてのもう一つ理由でありますが、NPT有効寿命というのはそんなに長いものではないのではないかということであります。未来永劫日本の行動を縛るというように考える必要がないのではないか。これは歴史を見てみましても、軍縮ないし軍備規制条約寿命というものは短いわけでありまして、常に改善あるいは改良を考えていかねばならない性格を持っております。それと、NPTの場合には、保障措置制度についての技術的な有効性もそんなに長くは続かないのではないかという見方が専門家の間に多いわけであります。そこで、NPT当事国になったといたしましてもその改善に努めなければならないわけですが、NPT条約の大幅な変質というのは大変むずかしい。これは十年前に米ソがつくろうとした意図から見ましても、大変むずかしいわけです。  そのことは、たとえば最近終わりましたNPT検討会議の結果を見てもわかるかと思います。非同盟十八カ国が幾つかの提案を出したそうですが、新聞によりますと、NPT加盟国がいま九十三カ国ですけれども、百カ国に達した段階でアメリカソ連、イギリスが十年間にわたる地下核実験の全面的停止を宣言する、それ以後、加盟国が五カ国ふえるごとに宣言の期限を三年ずつ延長するというような提案を出しております。ところが、これが五月三十日に採択されました再検討会議の宣言を見てみますと、いろいろたくさん書いておりますけれども、すべての実験的爆発の永久的停止を達成するという決意を確認するとか、それから「すべての核兵器実験を禁止する条約締結が核軍備競争を停止する最も重要な措置一つであるとの見解を表明する。」「地下核兵器実験の制限に関する条約の署名国たる核兵器国に対し、地下核兵器実験の回数を最小に制限するよう要請する。」というようなことでありまして、非同盟国が述べたようなドラスティックなものからは全くかけ離れた、単に要望する、しかも実際的効果の余り考えられないものになっているわけであります。  それからもう一つ、非同盟十八カ国としましては、SALTに関しまして、同じようにNPT加盟国が百カ国に達した段階で、米ソは攻撃用の戦略兵器を昨年の十一月ウラジオストクで米ソ首脳が合意をしました上限をいずれも半分に減らし、その後、加盟国が五カ国ふえるごとに、その半分に減らしたものをさらに一〇%ずつ削減するというようなことを要望したわけです。それが五月三十日の宣言を見てみますと、七四年十一月に決められた新協定をできるだけ速やかに締結するために努力するよう訴えるというようなこと、まだほかにありますけれども、そういうことで、要するに実際的効果の余りないような要望に終わっている。これは、日本が活躍しました核攻撃ないし核攻撃の威嚇に対する保障に関しても、基本的には同じであります。長くなるので詳しくは申し上げませんが、そういうことでありまして、NPTを本格的に性格を変えてしまおうとすれば、米ソNPTを推進した精神と相反するようにだんだんなってくるわけで、その点は非常に困難な問題を含んでいるわけであります。したがって、日本としましては、NPT批准した場合、それは核拡散防止問題についての終点ではなくてむしろ起点である、始まるスターティングポイントであるというように考えるべきだと思います。すなわち、NPTに加わってNPT改善に努める一方、NPTと並行してとれる措置あるいはNPTに代替される措置というものを研究し、検討し、追求していかねばならないということになると思います。  それと、これからの措置でありますが、日本国益に沿うところの措置を追求すると同時に、日本国益に反する措置を予防するという観点も必要であろうかと思います。  では、実際にどういうことが考えられるのか、これは、私たちとしては従来から登場したような措置がすぐ頭に浮かぶわけですけれども、一応世界的な措置と地域的な措置に分けられるかと思います。世界的な措置としましては核軍縮であるとか、核実験の禁止、核兵器の使用禁止あるいは核攻撃、核威嚇からの保護というようなことが考えられますし、地域的措置としましては、非核地域の設定というようなことが考えられるわけでありますが、これは個々にそれぞれ切り離した措置というよりも、むしろいろいろ関連させた問題として考えていけるのではないかと思います。  たとえば日本の場合ですく北東アジアに非核地域をつくって、それにアメリカソ連、中国、日本その他の関係国がこれに参加をするということになりますと、非核地域というのはその地域の中に核兵器を置かないというだけではなくて、その地域が核攻撃ないし核攻撃の威嚇からも保護されるということでありまして、いろいろな措置の組み合わせになるかと思います。こういうものも一つ考え方であろうかと思います。  それから、これから将来の問題としまして大変大事なことは、世界的な措置でありましても地域的な措置でありましても、核兵器国あるいは潜在的核兵器国がすべてそれに参加するということが重要な条件になるかと思います。たとえば本格的な包括的核実験禁止ということになりますと、これは米ソだけではなくて、あるいは米ソ英だけではなくて、フランス、中国をも含めた条約が必要であろうかと思います。つまり、現在のように中仏が入っていないという条件、これはやはり中仏に入ってもらって交渉することが非常に重要な条件になるかと思います。  それから国内的な問題としまして、初めにちょっと触れたことに関連するわけですが、総合的な検討が必要であろうかと思います。核兵器拡散と申しますのは軍縮軍備規制エネルギー、環境その他非常に多方面に関係するわけでありまして、これは外交問題だけではないわけであります。したがって、軍縮軍備規制の提案をするということだけで事が終わるわけではなく、むしろそういう提案の前に国民的規模で、しかも多角的にこれを検討して、その結果として軍縮提案なり軍備規制提案が出てくるべきものでありまして、真の意味核拡散防止措置日本にとって利益になる核拡散防止措置というものはそういうような広い視野に立って検討すべきである、そこから外国に出すべき提案が生まれてくるというように考えます。  以上でございます。(拍手)
  6. 栗原祐幸

    栗原委員長 ありがとうございました。  次に、川崎参考人にお願いいたします。
  7. 川崎昭一郎

    川崎参考人 川崎です。  私は、原水爆禁止の問題に関心を持ち、そしてそのために微力を尽くしてきました核物理学者の一人として意見を述べさしていただきたいと思います。  ことしは広島、長崎に原爆が投下されましてちょうど三十年に当たるわけでありますけれども、この機会に、戦後今日までに至るいわゆる核軍縮交渉の経過を振り返ってみたいと考えます。  戦後の交渉を振り返ってみますと、それは残念ながら、核保有国、とりわけアメリカソ連中心になって進められてまいりまして、そしてその中で、核保有国の国家利益を優先する考え方で行われてきたと考えます。また、特に核兵器技術が高度化するに従いまして問題が専門化され、技術問題化されるきらいもあったと思います。そういう中で、核軍縮交渉とは申しておりますけれども、その本質は核軍縮ではなくて、核軍備の管理方式の問題が中心であったのではないかと思います。いわゆるディスアーマメントではなくて、アームズコントロールという点で流れてきたというふうに考えます。したがって、私は、今日までの核軍縮交渉の延長線の上で核兵器の廃絶を展望することは非常に困難ではないか、そういう意見を持っているわけであります。そして、こういう点についての認識が最近次第に生まれてきておりまして、いろいろな国際会議におきましても、今日現在の核保有国の側における真剣な努力を求める世論は日増しに強まってきているのではないかと思います。やはり現在、世界の心ある人々は、今日のアームズコントロールの壁を何とか突き破って、そして真のディスアーマメントの方に向かっていくにはどうすればいいかということを真剣に考えているのだと思います。そのためには、もちろん政府間の努力も必要ですし、また世界の世論を高める、そういったようなことも必要であろうかと思いますけれども、やはりそこが今日非常に大事な点だと思うわけです。そして、核防条約についてもこういった歴史の中でその位置づけを見ないといけないと考えております。  私どもの仲間の間でも、本当に原水爆禁止を願う純粋な立場から、今度のNPTが核軍縮へ向かうファーストステップであるという考えを持っておられる方が少なからずいることは十分承知しているわけでありますけれども、果たしてこの核防条約が核軍縮にとって本当に役に立つものであるかどうかということを考えてみたいと思います。そのためには、やはりこの五年間の事実に基づいて判断することが大切であると思います。  そうしますと、核防条約以後の今日までの五年間というのは、戦後の核兵器開発競争の中でも最も急テンポに新しい質の核が生まれてきた時期であると考えざるを得ません。  たとえば、弾道弾迎撃ミサイルABMであるとかあるいは個別誘導の多弾頭核ミサイルMIRV、そういうものはやはり全部最近の五年間に生まれ、そして配備されているわけであります。そういう核兵器の開発、改良、質的な向上という点では、現在でもその努力が少しも衰えてないわけでして、アメリカにおいては現在のポセイドン潜水艦よりももっと強力なトライデントの計画も進んでおりますし、また新しい戦略爆撃機B1というようなことも言われております。さらに、弾頭の面でも現在のMIRVよりももっと高度な技術を要するマヌーバビリティを高めたようなMaRVというような弾頭も準備されておりますし、さらに相手国の固い目標を破壊する能力を絶えず高めるための努力が払われておりますし、さらに現在、最も第一撃能力として注目されております原子力潜水艦を攻撃するための技術、アンタイサブマリン・ウォーフェアという点でも研究が進められております。そういうふうに質的発展がずっとこの五年間、今日なお続いているというのが実情であります。  また、戦略核弾頭の数についても、やはり七〇年以降非常に速いテンポでアメリカにおいてふえているという面があります。アメリカでは、現在、一日に四個の割合で新しい戦略核がつくられているということも言われております。さらに、そういったアメリカの核、核保有国の核を世界に配備展開する面でも、少しもそれは制限されていないということだと思います。  そういうふうにNPT以後のこの五年間の事実を振り返ってまいりますと、NPTはもともとこういった核保有国の側におけるバーチカルな、垂直方向の拡散を禁止していなかったわけでありますけれども、もちろん、核防条約の中でそういう核軍縮への努力、そういったことは精神的にはうたっていたわけでありますけれども、実際にはそういったものは核の増強を抑えることができなかったということが現実の事実としてあるわけです。そういう点で、私は、このNPTが核軍縮へのファーストステップ、そういうふうに考えることができないものである、そういったことはとうてい考え得ないものであるというふうに思っております。  それがNPTの一般的な本質でありますけれども、しかし、その核拡散防止条約がそれぞれの国にどういう影響を及ぼすかということは、その国の置かれた現実の条件によっていろいろ違ってくると思われますけれども、特にそれに加盟している国が一番問題にしているのは、一つは、非核保有国の安全保障の問題でありますし、また原子力平和利用との関連の問題でありますけれども、特に安全保障の問題について考えてみますと、一つは、核保有国に対する核軍縮への努力ということは一方では強調されているわけですけれども、それもなかなかうまくいっていないということと、もう一つの面としては、やはりその安全保障ということとの関係で核を持っている国に守ってもらう、そういった考え方があると思います。すなわち、核抑止力へ依存するという考え方でありますけれども、日本の場合ですと、具体的にはアメリカの核抑止力に依存するということにどうしてもなってくるわけです。日米安保条約依存するということになってまいりますけれども、これは核防条約が生まれてから、その直後の国際連合の安全保障理事会の決議の中でも、やはりそういった非核保有国の安全保障というのは従来の国連のフレームワークの中で考えるということがありますので、そういったことがバックグラウンドにありますので、どうしてもNPT体制の中での安全保障といいますと、そういった核抑止力に依存するという考え方が必然的に出てくるのだと思います。したがって私は、NPT体制に入るということは、現在の核抑止力ということを認めることにつながる問題でありますし、やはり現実主義的な立場といいますか、核を認める立場にどうしても立つことになると思います。そして日本の場合ですと、とりわけアメリカの核のかさに入るということ、アメリカの核戦略体制の中に一層コミットするということにならざるを得ないと思います。したがって、私は、NPTというのは核軍縮につながるものでもないし、また日本の非核化という点からいっても非常に問題が多いと思います。むしろ逆に、かえって日本立場を危険に陥れるのではないかというふうに考えております。  それならば、特に唯一の原爆被爆国である日本がどういう役割りを果たさなければならないかという点について言いますと、もちろん平和外交を推進することは重要でありますけれども、やはり現在の時点で一番努力を集中すべきことは、世界的にはまだその声は小さいかもわかりませんけれども、やはりこれまでの戦後何十年かにわたって続いたアームズコントロールというような発想、それを何とかディスアーマメントの方に転換させる、発想を根本的に転換させる、そういう点で日本がイニシアチブを発揮すべきであると考えますそしてそういったイニシアチブを発揮するためには、日本NPT体制の一員として核抑止力を認め、あるいは核の存在を是認する立場に立って発言するのではなくて、むしろNPTの外で、もっと高い次元において核廃絶の立場をよりクリアにした上で発言することが非常に大事であろうかと思います。そしてそういうことができるのは、やはり日本をおいてほかにはありませんし、日本がそれを行うことが最もエフェクティブであると考えるわけであります。  そういう意味で私は、たとえば現在いろんな方面で言われております核兵器の製造、実験、貯蔵、使用を全面的に禁止する国際協定を一日も早く提起させる、そういう問題を何か遠い未来の問題ではなくて、やはり具体的な目標として設定して、そのために日本が全体としてうまずたゆまず努力していくことがたとえば一つの非常に大事な点であろうと思います。  そういう点で、私は、特に核防条約の核軍縮との関係、核廃絶への展望との関係で意見を述べたわけでありますけれども、御検討いただければ幸いと存じます。(拍手)
  8. 栗原祐幸

    栗原委員長 ありがとうございました。次に蝋山参考人にお願いをいたします。蝋山参考人
  9. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 蝋山でございます。  核防条約が一九六八年七月、米英ソ三国によって署名されまして以来、私は、常に日本の早期署名及び批准を唱道してまいりましたが、今日はからずもこの衆議院外務委員会におきまして私の意見開陳する機会を与えてくださいましたことをまことに感謝いたします。  言うまでもなく、核防条約が米英ソ三国によって提示されてから、わが国が一九七〇年二月に調印するまで一年半もかかったわけでありますが、それは主として三つの点に核防条約に対する疑念があり、署名慎重論が強かったからであります。したがいまして、政府も署名に際しましては批准保留の理由を明らかにした声明を出したわけであります。つまり、その批准保留の理由と申しますか、批准の条件といたしましては、第一に、すでに核を保有している諸国が核軍縮に向かって努力すること、第二には、核保有国が核防条約の締約国となった非核保有国の安全を保障すること、そして第三に、原子力平和利用について非核兵器国が不利にならないよう平等性を確保すること、この三つに要約されるものであります。  ところがことしの三月に至りまして、かねて核防条約の第三条に規定されております原子力平和利用に関する保障措置につきまして、わが国の政府が国際原子力機関との間に行ってまいりました協定締結の交渉が日本に不利をもたらさない形で妥結いたしましたので、日本にとって批准をためらわせる問題は核軍縮安全保障の二点になったわけであります。したがいまして、私といたしましても保障措置問題は一応解決したものとみなし、残る二点についての意見を述べさせていただくことといたします。  第一の点、核保有国の核軍縮への努力を要望する問題につきましては、特に異論は持っておりません。言うまでもなく核兵器は非常に恐ろしい破壊力を持った兵器でありますから、このようなものが地球上から払拭されるに越したことはないわけであります。しかし真の問題は、すべての国家が、人類の全員が核兵器を恐ろしい兵器とみなし、その廃棄に賛成していないという事実から発生しております。それは恐ろしい兵器ではありますがそれだけにその有用性もまた生まれてくるというふうに考えざるを得ないわけであります。もしすべての人間が核兵器は無用であると考えるならば、この核防条約そのものの必要性も生まれてこないはずであります。つまり核兵器は国家安全保障手段として有効であると考える人々がいるからこそ、すでにこれを保有している国々はその廃棄をしぶるわけでありますし、いまだ保有していない国はその保有の権利を奪われることに対して抵抗するのであります。そのために、一方においてすでに核兵器を保有している国家にはその保有の権利を認めながら、他方、未来の核保有国の権利を奪うこの核防条約は、不平等条約とみなされるわけであります。日本がこれまで批准しなかった理由もまたこの点にあるのでありまして、確かに核防条約の不平等性というものは認めざるを得ないわけであります。  しかしながら、核防条約の不平等性を盾にとりましてその批准に反対することに十分な意味があるでありましょうか。日本批准に反対することによって核防条約の不平等性を解消することができるでありましょうか。私はそれができるとは思わないわけであります。ただ不平等であると感ずる理由は、単なる形式的な理由ではなくて、自主的に不平等であるという判断をするわけでありますけれども、その理由をよく考えてみることが必要ではなかろうかというふうに思うわけであります。  第一の考え方は、核を持っていない国よりも、核を持っている国々が世界を危険にさらしているという考え方であります。第二の考え方は、核兵器の持つ特別な機能を重視して、核兵器国核兵器を保有することによって自国の安全を高めるばかりでなく、核を保有することによって国際政治の動向を自国に有利な方向に動かすことができるとする考え方でありまして、このことから、核保有は保有する国の威信を高めるという考え方も派生するわけであります。  第一の考え方、つまり核保有国が世界を危険にさらしているという考え方については、一般論としてそのようなことが言えるであろうと考えますが、第二の考え方については私は大きな疑念を抱いております。核兵器はそんなにすばらしい兵器であり、核防条約批准は、二十年間にわたって日本からこの有効な安全保障手段を奪うことになるのでありましょうか。     〔委員長退席、毛利委員長代理着席〕 少なくとも日本に関する限り、私は核兵器が有効な安全保障手段を提供するとは考えていないばかりでなく、むしろ日本の安全を低下させるものであるというふうに考えております。  その理由を簡単に述べさせていただきたいと思います。実はこの議論を始めますと、何時間でもかかるほど実に複雑な問題でありますので、これを全く簡略にするということは本当はできないわけでありますけれども、時間の都合上ごく簡単に述べさせていただくことにいたしまして、もし御質問がございますならば、後でまた意見を改めて述べさせていただきたいと思います。  とにかくこの点につきましては、すでに今井参考人も触れられたわけでございますけれども、私は、核防条約批准によって核武装の選択権を放棄することが日本にとって著しい不利になるということは考えられないわけでありまして、批准をしないということが核大国軍縮を迫る外交的なてこにならないというふうに考えるわけであります。もし核大国が、日本の保留によって核拡散の潜在的な危険性が続くばかりでなく、むしろそれが高まったというような判断をしたとしたならば、核保有国は核兵器の増強によってその危険を抑止しようとするかもしれません。御承知のとおり、いわゆる核抑止力がその有効性を発揮するためには、敵の先制核攻撃に耐えた後、有効な報復核攻撃を行えるだけのいわゆる非脆弱な核兵器体系を保有する必要があるわけでありますけれども、それは単に一発や二発の核爆発を行えるということとは本質的に違うものでありまして、この問題は時間の経過とともに核保有国と潜在的核保有国の能力の差は開いてまいります。特に日本の場合は、中ソ両国が潜在的敵対国となる公算が大きいので、その条件が特に強いというふうに考えられるわけでありまして、いわゆる日本の核の選択権を将来の世代に任せるという考え方も実はほとんど意味を持たないというふうに考えるわけであります。  したがって、核防条約批准の是非に関して残る問題は、日本が核の選択を現時点で放棄した場合、日米安保条約に頼っている日本の安全はどうなるかという、自民党の安全保障調査会並びに外交調査会の方々が心配されてまいりました問題に収斂されると思われるわけであります。これは同時に、条約批准を非核三原則の観点から心配されてきました在野諸党の関心とも直接につながっております。  私の了解するところでは、四月二十二日に出されました自民党の政府に対する六項目の要望事項の真意は、安全保障は国の存亡にかかわるきわめて重大な問題であるとの観点から、危機的状況におけるアメリカ軍による日本防衛の確約を取りつけるために、非核三原則を緩めて米軍の核兵器日本持ち込みを認め、有事に際する米軍の日本の基地からの戦闘行動を認めようとするところにあるように思われます。このような考え方は、日本の安全をアメリカの核のかさに求める以上、論理的な必然であるというふうにも考えられますけれども、もう少しきめの細かい考察が必要だろうと思われます。きめの細かい考察とは、戦略核兵器と戦術核兵器との区別の問題であります。  戦略核兵器につきましては、これがアメリカの抑止戦略の根幹をなしていることは言うまでもなく、それに対抗するソビエトの戦略核兵器体系の存在によって現在の世界的な軍事バランスが保たれ、またそこからいわゆるデタント状況というものが生まれてきているわけであります。このことがよいことか悪いことか議論する余地はありますけれども、これが日本核防条約批准拒否の説得的な理由にならないということは、すでに述べたとおりであります。日本にとっての直接の問題はむしろ戦術核兵器にあるのでありますけれども、戦術核兵器役割りは戦略核兵器の場合ほど明白ではございません。その有用性についても、ベトナム戦争を通じて遂に一遍もこれを用いることができなかったということからもわかりますとおりに、大いに疑問があるわけでありまして、アメリカが極東の防衛に関してこれに頼っているという条件は、客観的に見て見当たりません。その点、ことしアメリカのシュレジンジャー国防長官が国防白書の中で、これらの能力の維持は敵対勢力が同じ能力を持つ限り抑止にとって不可欠のものであると述べている点を想起していただきたいと思います。私の考えるところでは、アメリカは戦術核兵器に頼ることなく極東の情勢に対応しようとしているのであって、日本にとって非核三原則を守るということは、アメリカにとっての大きな障害とはならないというふうに考えております。  これまで私は、核防条約批准反対論が十分な合理的な理由を示していないということを述べてきたわけでありますけれども、最後に、日本批准しなかった場合こうむるかもしれない不利な点についてちょっと触れたいと思います。  第一に、日本は去る三月国際原子力機関との交渉によって、ユーラトム諸国からうらやましがられるほどの有利な保障措置協定を手に入れることができたわけでありますけれども、その目的である原子力平和利用促進にとって、条約批准をしないということが非常に大きな障害になる確率が高いということであります。これは今井参考人も触れられた点でありますけれども、言うまでもなく、ウラニウム資源の確保の問題とつながっているわけであります。今後大規模なウラニウム鉱床の開発、採鉱がなければ、世界のウラニウム市場は一九七八年ごろから売り手市場に転ずるというふうに見込まれておるわけであります。現在日本原子力産業界は、将来に向かってこのウラニウムの確保ということに一生懸命になっているわけでありますけれども、現在日本がウラニウム精鉱を調達している状況を調べてみますと、南アフリカから約四三・六%、カナダから四一・八%、フランスから七・八%、オーストラリアから五・四%、アメリカから一・八%であります。それからさらに、これは今井参考人も御指摘になりましたとおり、濃縮の過程でほとんどすべてアメリカの世話になっているという条件もまた別についているわけであります。このような事実をもとにして考えてみました場合、現在高まりつつあります資源ナショナリズムの流れに乗りまして、六月十三日ロンドンで南アフリカ、カナダ、フランス、オーストラリア、イギリスの五カ国がウラニウム生産者同盟の結成会議を開いたわけであります。この同盟結成の目的は決してウラニウムの独占にあるのではなくて、世界エネルギーの供給を保障するためにウラニウムの平和利用を目指すということになっておりますけれども、このような形の組織ができてまいりますと、日本にとって、すでに必ずしも容易ではないウラニウムの確保ということが将来容易になるという傾向は全く見られない。むしろ逆の方向に向かっているというふうに見た方がいいのではないかと思うわけであります。  そういう点から考えまして、批准反対は日本安全保障を何ら高めないばかりか、むしろそれを低める方向に働くというふうに考えざるを得ないわけであります。反対の理由あるいは慎重な態度をとる理由が何であろうとも、外国から見れば、日本は何か一物を隠している、つまり核武装への可能性を常に残しているという観察をされるわけでありまして、そのような考え方がいわば国際政治の現実である以上、日本はそのように見られること自身を避けなければ、いかに憲法を持とうとも、あるいは非核三原則を持とうとも、日本の外交的な将来というものを確保することはできないように思われるわけであります。  どうもありがとうございました。(拍手)
  10. 毛利松平

    ○毛利委員長代理 ありがとうございました。  次に、久住参考人にお願いをいたします。
  11. 久住忠男

    久住参考人 私は、国際法の専門家でもなければ、原子力技術専門家でもありませんが、軍事政治の接点、政治と戦略との共通点といったものについて、ふだん勉強しておる者の一人でございます。その点から言いますと、軍備管理に関係いたしました核防条約は、日本にとっても、あるいは国際的に見ましても非常に重要な条約であるというふうな認識を持っております。  まず最初に、核防条約の性格と問題点といったものをごく簡単につまんで申しますと、その性格は、第一義的性格、これは核戦争を防止するということにあると考えます。また、それにつけ加えまして核軍縮のワンステップとしての条約である、こういうふうにも考えるわけであります。核防条約がなく、無限に核拡散をいたしますと、核戦争の発生する可能性は多分にふえてまいります。また、核軍縮のワンステップとしての核防条約の価値は、この条約が調印され、多くの国が批准をいたしまして以後、すでに、主として米ソ両国間でありますけれども、核兵器関係の条約並びに協定が六つも成立しているという事実に着目しなければならないと思うのであります。  第二義的目的と申しますのは、条約文に明文化されていたりいなかったりいたしますけれども、問題になるものでありますが、これは努力によって修正可能なという特徴を持っております。最初の第一義的目的は逃るるべからざるこの条約の指標であるというふうな点からいたしまして、第二義的目的というものは各国の努力により、国際的な努力により修正可能な点であります。これは原子力平和利用軍事利用との境界の不明確さ、すでに前の参考人がいろいろ述べられました。日本は疑われております。最近発行されました国際戦略研究所の「戦略概観」によりますと、日本はいまだに批准しておらない、核兵器への最短距離にある国だというふうに明らかに明記してあります。しかし、この平和利用軍事利用との境界線はわれわれの努力によりまして、国際的な努力によって明確なる境界線をここに打ち立てることが可能な点だと思うのであります。  もう一つの第二義的目的は、米ソ大国の優位を維持するとか、あるいは日本と西ドイツに核兵器を持たさないといった条約文には明記してない部分、いわゆる不平等性でございます。この点は、日本と西ドイツに核兵器を持たさないといった過去のねらいが、現在の経済情勢その他の国際関係においてどのような影響を与えているかといいますと、これは必ずしも、米ソがかつて考えたかもしれないような問題とは逆の結果になっていることは皆様御承知のとおりであります。石油危機以来の日本と西ドイツの状況等を見れば明らかであります。また、米ソ大国が核の優位を維持するという点は、結果において世界の核の抑止力の安定という点において寄与しておるという現実に対して、公平なる批判を下すべきだと思うのであります。     〔毛利委員長代理退席、委員長着席〕 単に米ソ核兵器でもって世界に優位を誇るからといって、その点だけを非難するというのでは片手落ちだと申し上げたいのであります。そういう点から言いまして、この不平等性の議論等は、より多角的な批判をすべき問題点を含んでおると思うのであります。  そこで、最近の国際情勢、これはすでに御案内のとおりでありまして、この委員会ではすでに大変りっぱな審議が過去においてなされました。速記録において拝見いたしました。  私は、最近の国際情勢は次の三つの特徴があると考えております。  第一は、変化がきわめて急激であるということであります。すでに前の参考人からいろいろ御説明がありました。われわれに先んずるいかなる世代の間の変化よりも、われわれの世代における各方面変化は最も急激であります。  第二の特徴は、国境観念の希薄化であります。だんだんに国境関係のソシアルバリュアというものの高さが低くなりつつあるという問題であります。  第三の問題は、価値体系の多様化と進化、これらを論じておりますと時間がございませんので、題目だけを申し上げたわけであります。  そこで、本日私が特にここで強調したいのは、安全保障上から見ました私の言う戦略の五原則から、この核防条約をどのように見るかという点に重点を置いてお話を進めたいと思います。  五つの原則があります。  第一は国民的合意の達成であります。核防条約批准する、すなわち核兵器を持たない、非核三原則にのっとった政策を進めるということは、御承知のとおりわが国民の数少ない国民的合意を得られた政策一つであると存ずるものであります。これは核防条約の第一義的目的と申しましたのに合致するものであります。また、国民的合意というのは一国だけの合意ではだめであります。世界の世論とにらみ合わした世界的コンセンサスのもとになければ、とうていわが国安全保障には効果を発揮することはできない、かように考えるわけであります。  第二の原則は、主体性の維持であります。最近の国境観念の希薄化と先ほど申しましたが、希薄化に伴いまして、特に、逆に必要になってきたのは、日本の主体性を持つことであります。国境観念が希薄化してまいりますと、ややもするとそれに巻き込まれまして、何が何だかわからない、主体性のない民族、国家に堕するおそれがあります。ここでどうしても主体性のある政策が必要になってくる。  日本にはポリシーがない、ストラテジーがないということは、欧米の専門家あたりと話すときに常に指摘される事実であります。そのときにわれわれが言いますのは三つの重大なる世界戦略を持っておるということであります。第一は、核戦争の防止。第二は、資源政策の積極的確立。第三は、地球環境の維持。これらの世界戦略にイニシアチブをとろうといたしますと、核防条約批准に反対するなどといった態度ではとうてい国際社会に対する説得力を持つことはできないと考えるわけであります。国際的孤立状態にあって何の主体性維持だということに相なろうかと思うのであります。  第三の原則は、変化への対応であります。核兵器の保有が国家の安全保障に不可欠といった時代が過ぎたことは、前の多くの参考人の共通して述べられた点でございます。われわれは、新しい時代の新しい政策に取り組むための努力に大きな重点を注がなければならない。いわくエネルギー政策原子力利用の時代に備えまして、少しでもこれに不利な条件は即刻排除しなければならない。  約一年半前でありますが、私はIAEAのさる高級職員と話をする機会がありましたが、日本原子力現状はこのままほっておくと大変におくれるよ、警告をしておくというお話でありました。そのうちにあっちこっちからいろいろな問題が起こるに違いないという専門家の予言であります。  過去一年間に何が起きたか、これは国会議員の皆様のよく承知しておられるところでありまして、国民は非常に不安に感じておる次第であります。われわれは、孤立的、独善的な原子力開発を進めておったのではとうてい世界の水準に追いつくことはできない。核防条約批准促進することによりまして、インパクトを与え、刺激を与えまして、ここに、国際情勢変化に対応する新しい日本政策を推進するための契機をおつくり願いたいと念願してやまないわけであります。  第四の原則は、オプションの多様化であります。オプションと申しましても、論理的なオプションと実現可能なオプションとがあります。核装備をするなどというオプションは全く夢想的なオプションでありまして、そういうものに執着し、現実的にやらなければならない日本安全保障のための多くの施策を怠るということは本末転倒もおびただしい。これは夢想家のやることでありまして、現実の政治政策のやることではないと私は考えるわけであります。このために最も必要なのは、抑止力の強化のための平和外交の推進であるということを私は申し上げたいのであります。現実に核兵器を使わなくても抑止力を強化して平和外交を推進する方策はたくさんございます。  第五の最後の原則は、最悪の事態に処する体制をとっておくということであります。古い戦略論からいたしますと、核兵器を保有していない国は国防上最悪の事態にあると言えるかもわかりません。また、そういうことを考えている人があるかもしれませんが、しかし、仮にわが国核兵器を保有する自由を保留するために核防条約批准を拒否したといたしますと、その結果はちっともよくならない。日本情勢、国防上最悪の事態はちっとも変わらない。それは先ほど来も話がありましたが、いろいろな核兵器の複雑なる点から言いましても、いまからそんなことを始めてもアメリカやソビエトの進んだ核体制に追いつけるはずはない。  飛躍するかもわかりませんが、私はここで一つの昔話を申し上げたい。それは徳川幕府の初期に影響力を持っておりました柳生新陰流の秘伝書と称するものに書いてあることでありまして、石舟斎宗厳が編み出したと伝えられる無刀の術であります。秘伝書にはこう書いてあります。「われはきられぬを勝とする也。人の刀をとるを芸とする道理にてはなし。わが刀なき時は、人にきられまじき用の習也。敵とわが身の間何程あれば、太刀があたらぬと言事をつもりしる也。」間合いの論理であります。しかし、別にまた、間合いにとらわれて間合いを失うなという教えもあります。犯すべからざる色を備えることによりましてわれわれは最悪の事態から立ち直ることができるのであります。  われわれは、こう申し上げると、とらなければならない多くの非軍事政策がたくさんあることに気がつくわけであります。また外交的な措置もたくさんございます。新しい国際システムによる平和維持のための積極的外交の推進によりまして、われわれは確実にこの間合いをとることが可能である。それはわれわれ自身の責任であり、また世界の平和に対する義務であると感ずる次第であります。  以上のような理由によりまして、私は、核防条約批准し、みずから国際的孤立に陥るような政策を避けることこそ、この無刀の術の教える間合いをとるゆえんであると考える次第でございます  ありがとうございました。(拍手)
  12. 栗原祐幸

    栗原委員長 ありがとうございました。  以上で参考人の御意見開陳は終わりました。     —————————————
  13. 栗原祐幸

    栗原委員長 これより質疑に入ります。  なお、質疑の際には、参考人を御指名の上お願いいたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。正示啓次郎君。
  14. 正示啓次郎

    ○正示委員 きょうは参考人の先生方大変御苦労さまでございます。これから約三十分時間を与えられましたので、大変勉強になったお話をさらに敷衍してお教えをいただきたいと思います。  まず第一に、今井参考人にお伺いいたします。  先ほど蝋山参考人久住参考人からもいろいろお話がございましたけれども、蝋山参考人は、自民党の外交部会、外交調査会あるいは防衛問題の委員会等での非核三原則を緩めるということを御指摘になりました。また久住参考人はフリーハンド論に言及されたのでありますが、最近の事態はそういうことはもうすでにアウトオブデートになっております。最近の外務委員会の速記録をお調べいただきますと、また予算委員会等でもはっきりと、いわゆる非核三原則と日米安保条約というものは完全に無関係である。すなわち、非核三原則を緩めるとか、フリーハンドがどうだとかいう段階は過ぎまして、先ほど来の速やかに承認するようにという御議論の線に大体自民党の考え方は来ておるということをまず御指摘申し上げますが、それにいたしましても、今井参考人にさらに、蝋山参考人がお述べになったように国会が承認をちゅうちょする場合の影響でございますね、これを政治的、経済的観点から少し詳しくお述べをいただきたい。このことをまずお願いいたします。
  15. 今井隆吉

    今井参考人 承認をちゅうちょされましたときの影響というのは、あくまでも将来の予測でございますので、考え得ることということだと思います。  政治的な問題として直ちにすぐ目の前の影響という形で考えられますことの一つは、わが国核拡散防止条約批准するための努力をしているという前提があって、従来、国際原子力機関との保障措置協定にいたしましても、あるいは最近の再検討会議におけるわが国のいろいろな活動にいたしましても、世界諸国というのは、日本批准のための努力をしているんだという前提に立って、日本のやりたいことに対してかなり協力をしてくれているということがあると思います。  これは笑い話みたいでありますけれども、再検討会議の際にも議長から、非常に喜ばしいニュースがあって、このたび批准書を寄託した国があるという話がありますと、さては日本かというので各国が日本の方を向くわけでございます。そうすると、その国はルワンダであるというような発言があって、やれやれということになる。日本批准をするだろうということは、非常にいろいろな分野から、各国から期待をされているという事実がございます。これは現実にそうなっているということでございますし、ある意味では、わが国はその事態を上手に使っていろいろ有利な条件をとってきたということがあるかと思います。したがいまして、ここで批准をしないということになりますと、それはだまされたというのは言い方が悪いのでありますけれども、先方の主観的な判断にすぎないかもしれませんけれども、そういう感じの事態に至るだろうということはかなり考えられることだと思います。  それから同一の筋の話でございますけれども、やはりこれはアメリカその他でいろいろ言われることですけれども、過去、ちょうど核防条約が成立したころというのは、日本が非核三原則と言い、あるいは憲法と言っても、やはり日本核武装するのではないかという疑惑の念が非常に強かったという感じがございます。私どもいろいろな国際的な会議に出ましても、セミナーなんかに出ましても、一体いつ日本核武装するんだ、もう一つ二つできているのではないかというふうな感じの質問がよくあったものでございます。現在の状態というのはそれと非常に変わっておりまして、やはり日本は、よその国から客観的に見ても、核武装することは意味がないんだというふうに理解されているかと思います。したがいまして、各国の日本に対する態度というのは、日本はある意味で言うと、批准の有無にかかわらず、すでに核防の方向に志向している国である、国是としてもそうなっているんだという了解でいわばつき合っているのであって、これがそうではないんだ。たとえば国の名を挙げますと、よく言われますのがインドのように、単に核防に入らないというだけでなくて、核爆発装置を自分からつくるんだというふうに志向している国であるということになれば、つき合い方が非常に変わってくるんだということがよく言われます。この辺が、実は先ほどちょっと申し上げましたウランにいたしましても濃縮のサービスにいたしましても、それから実はそういう物資あるいは機材のほかに、遺憾ながら、わが国の場合、原子力平和利用の非常な基本になっております技術が特にアメリカとの関連が深いというようなことを考えますと、最近のインドあるいはエジプトに対する機材輸出に対する米国議会の調子その他からもおわかりいただけますように、もし日本が本当に核防体制の外にあって核武装する懸念を残すのだということになると、これは条約に明文があるわけではございませんので、そういう形では、ありませんけれども、原子力平和利用に必要とする機材あるいは物資あるいは技術わが国に取り入れることには、これは最初に申し上げましたように予測の問題でございますので、必ずそうなるという言い方は申し上げかねますけれども、非常な障害が起きるだろうということは、私ども関係者としては簡単に予測のできることだと思います。
  16. 正示啓次郎

    ○正示委員 続いて川崎先生にお願いしたいんですが、先生、原水禁運動に大変情熱を燃やしておられるようでございまして、大変結構でございます。ところで、先ほど時間の関係もありましたと思いますから、いささか詳しく伺いたいんですが、たてまえとして現状を肯定するようなことになる、最近の事績と事実を基礎にそういうお話がございました。まあ私ども承知しておるところでは、だんだんたてまえ論、イデオロギー論が現実主義、これに向かって、ところをかえていくような、これはまあ日本共産党・革新共同さんもだんだんそういうふうな路線をたどっておられるように私は思います。そこで、原水禁運動に携わられる方の中にもいろいろな議論がある。この体制の中に入って、そこで、前田参考人がいろいろお述べになったような大きな理想に向かって強力な運動を展開していくというふうなことが正しいじゃないか、そういうお考えもあるということであろうと思うのでありますが、どこまでもこういうNPT体制へ入って、その中から大きな理想を達成するというふうなやり方、これは相入れないものであるというふうなお考えでございましょうか。それとも、やはりこの方が現実的であって、まあ先生、非常に実践運動にも携わっておられるように拝聴いたしましたので、研究室の議論としてはそういうことも一つの理論としてあり得ようと思いますが、実践運動を体験しておられる先生として、どういうふうにその点をお考えになるか、もう一度御見解を伺いたいと思います。
  17. 川崎昭一郎

    川崎参考人 お答えいたします。  私も、国際政治の中では現実主義的に考えることも非常に大事な点だと思いますけれども、しかし、特に事、核問題に関する限りは、やはり日本は非常にある意味で厳粛な立場にあるし、特別な立場にあると思うのです。それで、先ほどちょっと簡単になった面もありますけれども、私は、世界の大きな流れの中で、やはりこれまで核保有国中心にずっとリードをされてきたわけですけれども、それに対して、もっと、核を持たない国であるとか、小さな国であるとか、非同盟の国、そういう人々の発言が次第に強くなってきているということが一面で、あると思うのです。それで特に、たとえばNPT以後、幾つか交渉とか取り決めが特に米ソ中心にありましたけれども、そういうのを一つ一つ見ていった場合に、たとえばSALTなどにおきましても、最初は攻撃兵器よりもABMの問題が先に問題になりまして、当初二つ、両方にツーセットずつ認めていたのがワンセットに途中減らされるとかいうことがありましたけれども、それも実際に核保有国の持っているものを削減するということではなくて、いろいろな財政的な理由からも、なかなかABMなどというものはそう持てないことがかなりはっきりした時点でそういう削減が行われておりますし、むしろ当初、NPT直後の時期に多弾頭核ミサイルのことをものすごく皆さんが心配していたわけですけれどもそういう問題はある程度フリーにしておいて、そして一方においてSALTを進めながら、そういったMIRVの方はどんどんまた開発するというようなこともありましたし、それからたとえば最近の地下実験について百五十キロトン以上を制限するというような協定がありましたけれども、それもよく考えてみますと、最近では特に弾頭がMIRV化されますと、弾頭一つ当たりの破壊力はかえって小さくなっているわけです。たとえばアメリカのICBMのミニットマンですと、百六十キロトンだと思いますけれども、一つの弾頭の破壊力ですね、それからポセイドンですと、六十キロトンというようなことで、結局百五十キロトンというのはちょうどそういったMIRV化された弾頭の爆発力すれすれのところに線を引くというようなことですね。ですから、実際にそういった線を引いて、少し一歩進めたように見えますけれども、実はちょうど現在の技術段階がそこまで達した、その技術段階にあわせて線を引いたという面がありますし、海底の軍事利用を禁止する条約の問題でも、やっぱり一番問題になっております海洋といいますか、潜水艦のことはノータッチでやるというふうに、どうもそういう核保有国の技術レベルに合わせた形でそれをフォローアップしてきているというような動きでずっと来たと思うのですね。そういう延長線ではどうにもならないということがやっぱり最近は認められてきて、少しずついろいろな形で、不十分でありますけれども、たとえばNPTのレビュー会議でも、そういった核保有国に対して反省を求める声がいろいろな形で出ていると思いますけれども、そういう新しい動きを、やはり日本こそは体現して政策にあらわしていく必要があろうかと思います。それですから、ぼくは核兵器がハードウエアとすれば、核戦略とか、核抑止というのはいわばソフイウエアの問題ですけれども、やはりその辺のところはかなり日本の場合はシビアに考えていくことは非常に大事ではないか。その辺で原則を崩した立場に立ちますと、もうそういった高い理想を掲げて発言できる国はどこにもないのではないかと思いますので、ぼくはそこは一般的に、現実的な発想も大事な場合があると思いますけれども、核の問題に関する限りは、そういう考え方を貫くべきではないかというふうに思っている次第です。
  18. 正示啓次郎

    ○正示委員 いま重ねてお述べのように、先ほども御指摘になりましたが、米ソのやっておることにも大変われわれは不満がある。そういうことをこれから大いに堂々と論戦をしていくためにもこの土俵の中に入っていく、相撲を堂々と取るための一つの土俵の中に入る、こんなようなことも言えると思いますが、その土俵に入ってこない中国とフランス、先生は米ソのことについていまお触れになりましたが、中国、フランスについてはどういうふうにお考えでしょうか。もう一言、入ってこない彼らに対してはどうお考えでしょうか。
  19. 川崎昭一郎

    川崎参考人 私は、やはり核兵器はすべて一日も早く廃絶してほしいと考えておりますし、そういう中国とかフランスが大気圏内で実験を続けているとか、そういうことは非常に残念に思っております。  やはり現在のすべての核保有国の核を完全に禁止するということを目指したい、そういった考えであります。
  20. 正示啓次郎

    ○正示委員 そうしますと、アームズコントロールからディスアーマメントへという御提言でございましたが、できたら中国もフランスも入ってきて、日本も入って、みんなでもみ合い、へし合いディスアーマメントの理想へ進む方がどうも実際的だという御意見かのように伺いましたが、この点について、川崎先生の御意見を先ほどお聞きになっておられました前田先生、大変大きな理想を掲げておられることにおいては、私は一つも変わらない先生のお立場だと思うのですが、前田参考人の、ひとつ川崎先生が言われたことに対する御意見を、その御意見に対する御意見を拝聴いたしたいと思います。
  21. 前田壽

    前田参考人 私が述べましたことが大変理想的なというふうにおとりになったようですが、理想的なことも述べましたが、基本的なそういう姿勢が非常に重要であるということを申し上げて、しかしながらそれは早期実現は困難である、あるいは不可能である。したがってNPTの中へ入ってそれに努力すると同時に、またNPTとは性格の違ったもの、あるいはNPTと並行してとれるような具体的な措置も進めていくべきであるというように述べたつもりなんです。  そのほかにつきましては、何か……。
  22. 正示啓次郎

    ○正示委員 同じ理想を高く掲げてという意味において前田先生と川崎先生は、私は同じ立場に立たれておると、こういうふうに拝聴したわけであります。ところが、川崎先生はそういう理想達成の上からいって、どうもNPT体制は入るべきじゃない、これは現状を肯定するようなことであり、米ソのやっておるようなことはどうも一種のまやかしといいますか、盛んにりっぱなこと、理想を掲げているけれども、やっていることはそうじゃないじゃないかというふうな御議論がありました。これに対して前田先生はやはり一つの一環として、あるいはファーストステップとしてNPT批准をすべきである、こういう御意見でございました。  そこで私は同じ理想に向かっていかれる川崎先生のお立場というものと前田先生のお立場は少し違うように思いますので、前田先生から、ひとつ川崎先生のお述べになった立場について何か御感想があれば伺いたいと、こういう趣旨のお願いなんであります。前田参考人 実際に川崎参考人と詳しく話し合えば相違点が明確になるかと思いますが、そういうことを明確にしないでコメントすることもできないので、私だけの考え方を述べさせていただきます。  私は、基本的に川崎さんのおっしゃったアームズコントロールという考え方から日本はディスアーマメントの考え方に進むべきであるということには賛成であります。  その間にもう一つ入れたいわけですけれども、国際連合憲章を見ますと、第二十六条その他にディスアーマメントという言葉、すなわち軍備の撤廃ということと、もう一つはレギュレーションオブ アーマメンツ、すなわち軍備の規制ということが入っているわけです。ディスアーマメントは軍備の撤廃でありますが、軍備の規制という、レギュレーション オブ アーマメンツというのは、アームズコントロールとは非常に違うわけでありまして、これはディスアーマメントへ将来導いていくところのものであり、実質的にもレギュレーション オブ アーマメンツというのは、世界各国の軍備に割く資源を最少限にするという、そういう精神に立っているわけです。したがって、レギュレーション オブ アーマメンツというのは軍備規制と仮に訳しますが、この軍備規制というのは軍縮へつながるところのステップであるという考え方です。それに対してアームズコントロールというのは、これは核兵器が登場し、しかも米ソの核軍備が相対立して危検な状態になった。どうしても米ソの間で核戦争の危険性を減らさなければならない、なくさなければならない、そういうように核戦略と結びついて登場してきた考え方であります。その典型的な例がSALT、米ソ戦略兵器制限交渉の協定であります。したがって、日本としてはこういう核戦略と結びついた考え方をとるべきではなく、日本非核政策をとるとすれば、ディスアーマメントないし国連憲章に言うところの軍備規制ということを基本的な概念として考えるべきである、そういうように思っております。  しかし、そういう基本的な線、それと現実にとる措置との問題があるわけです。これは先ほど来正示先生がおっしゃっている問題と関連させますと、私はやはりこの軍縮軍備規制の問題というのは一挙に大きなこと、理想的なことを実現することは不可能でありまして、やはり一歩一歩進んでいかざるを得ない。そうしますと、現在とり得ることは、現在の情勢というものを多角的にとらえて、そこで現実的な実際に可能な措置を考えざるを得ない。ですから、NPTを取り上げましても、これ自身は全くディスア一マメントの条約ではありませんけれども、この中に入って交渉をしていくならば、あるいはレギュレーション オブ アーマメンツの方向へそのものが進まなくとも、あるいはその審議の中からそういう別の条約を、一層よい条約を生み出すという可能性もないわけではないわけです。  それからもう一点重要なことは、私も強調したいと思っておりますのは、やはり中仏が中へ入ってくること、つまり歴史的に見ましても、軍縮条約軍備規制条約というのは、これは主要な軍備を持つ国を抜きにして結んだのでは実際的ではない、効果的ではないわけであります。したがって、その点は非常に重要であるかと思います。
  23. 正示啓次郎

    ○正示委員 もう時間もだんだん迫ってきましたので、あと蝋山先生と久住先生に簡単に一言ずつお述べをいただきたいのは、このNPT条約、おかげさまで大変熱心な審議と、それからまたきょうは先生方の非常に有益な御意見を伺って、これは批准のゴールへ向かって非常に大きく前進したと思うのですね。ところが蝋山先生、久住先生、先ほど私冒頭で申し上げたように、自由民主党の中に何かまだ時代おくれの、こういう審議に余り参加しない連中がおるわけですね。その連中はやはり昔のオールドファッションの考えを持っておるのではないか、こういうふうなこと。これはまあもう言語道断ですけれども、きのうは三木総理に向かって暴力ざたに及ぶような一部はね上がりの分子がおるわけですね。これに対して両先生から一言頭の上へ冷水を浴びせておいていただきたい。そのことを両先生に、もうあと十二時ちょっと前までしか時間ありませんので、簡単にひとつ両先生からお述べいただきたい。
  24. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 実は、自民党の内部におきますいわゆるタカ派と称せられる諸先生方の詳しい論理的な御意見というものを私は伺ったことがないわけでございます。残念ながら新聞でその片りんをかいま見る程度でございます。さらに、昨日三木総理を襲いました右翼の人に至りましては、別に何も言わないで行動するわけでございますから、これに対して論理的な反応をするということは不可能なわけでございます。  私が常々希望いたしましたことは、党内といえどもそこで行われる非常に重要な議論につきましては、国民がわかるような形で外部に発表していただけたら、それに対して私どももまた反論を加えたり賛成したりすることができると思うわけでございますが、私のいままで述べました一般論から言いまして、この核防条約批准に反対することが日本国益に何ら合致しないということを重ねて強調させていただきたいと思います。
  25. 久住忠男

    久住参考人 核防条約に反対される方が日本安全保障を考えてのことということで思い込んでおられる点については理解を持っておりますが、しかしそれがすでに時代おくれのものであるということは、自民党の方にも私ははっきり申し上げる機会が過去にありました。そういたしましたら、いや、自民党の中ではフリーハンド論なんかないよというような御意見も聞かしていただきまして、それは大変結構ですね、こういうことでしたが、そこで私の申し上げたのは、国民の中で、そこらでマイクのボリュームを上げてがなり立てている連中がいるというようなことを含めまして、国民の中にはまだわかっていないのがいるのだから、ひとつ国会議員さん、大いに啓蒙に努めて、この条約批准に向かって大いに推進を図っていただきたい、こういうふうに申し上げているわけでありまして、自民党のだれそれさんがどうとかいう意味のことは、もし私が申し上げたので印象があったとすればそれは間違いでありまして、そういうことは存じませんが、ただ一部の方が依然としてそういう強い異論を持ち、いわゆるタカ派的な考え方を持っており、私のようなのがいつの間にか変節したといったような批判をされる方がいらっしゃることは、私は直接は聞いたことはありませんが、間接的に承っておるわけでございます。  先ほど申しましたように、私は大それた話を申し上げましたが、戦略の五原則からいたしまして、この条約日本安全保障のために絶対に必要である、世の中はどんどんと進化しておる、この進化におくれ、変化におくれるということは日本をして落後者の群れに投ずることになるということを大きな声で申し上げている次第でございます。
  26. 正示啓次郎

    ○正示委員 重ねて、五先生ありがとうございました。  これをもって私の質疑を終わります。
  27. 栗原祐幸

  28. 土井たか子

    ○土井委員 質問を申し上げるに先立ちまして、本日、大変お忙しい中を当委員会に御出席の諸先生にまず御礼を申し上げたいと存じます。  さて、きょう実は御発言を伺いました今井参考人はかつてジュリストに論文を掲載をなすっている。私それを拝読をいたしまして、種々その中からも問題点がございますが、まずきょうの御発言とも触れる部分で「核防体制の中で米ソに対して核軍縮の実行を迫る主導権を取るほうがはるかに有利な外交方針であろう。」というふうに論文の中でも今井参考人はお述べになっていらっしゃるわけです。ただ、日本といたしましては、御承知のとおりに、アメリカと安保条約締結をいたしまして、核のかさの下にある国でございます。したがいまして、この核防体制の中で、わが国が核軍縮の実行を米ソに対して迫る主導権を果たして持ち得るかどうか、これは大変問題になるところだと思うのですが、これに対して、主導権をとる方がはるかに有利な外交方針だというふうにお述べになっていらっしゃる先生とされましては、主導権をとるのに一体日本としてどうあるべきだというふうにお考えになっていらっしゃるか、そこの点をお伺いしたいと思います。
  29. 今井隆吉

    今井参考人 ただいまの点は、先ほど来出ておりました問題点といろいろ関連があるかと思います。  最初に、先ほど来御指摘がありましたように、米ソがSALTその他を通じてやってきたことがこれは軍縮ではないんだという御指摘が幾つかあったかと思います。軍縮というか軍備管理といいましても、明らかにこれは外交政策上の一環として米ソが行っていることなわけでありますから、当然その面でいろいろな問題が出てきていることは明らかなことだと思います。これは先ほど蝋山さんも言われたことですけれども、核軍縮あるいは核の撤廃ということが、世界のだれもが納得し、世界のだれもが推進をしたいと思うことであるならば、今日問題になっているような形の問題は起きないわけであります。どうしてもやはり、これは核兵器の固有の論理のようなものがあるのだと思いますけれども、核を持った国はその核を広げようとする、縦の拡散ということが必然的に起きてきているということは、これは歴史的な事実だと思います。それから核を持っていない国が、これは国家の威信ということが最近では中心になっておりますけれども、それぞれの立場から安全保障上必要だという見解をとってその拡散を広めてくるという傾向が出てきた、これも事実だと思います。     〔委員長退席、石井委員長代理着席〕 したがいまして、核の問題というのは幾つか段階があるはずでございます。一つは、全般的にわが国が理想とし、特に人類全部が理想とすべきであるという、核兵器そのものを何とかして減らし、撤廃する方向へ持っていきたいという基本的な議論、それから実際にはSALTその他の交渉の面にあらわれておりますように、核を軸とし、核に基づく国際政治の場での駆け引きというようなもの、そのどの部分にわが国安全保障という問題がかかっているかという考え方の問題になるかと思います。  アメリカの核のかさという話がよくありますけれども、一体アメリカの核のかさというのは何なのかということは、非常にわかりにくい問題でございまして、よく考えてみると、仮にアメリカの方のかさだとすると、日本に攻撃を加えようと思う国があったとして、こういう攻撃を加えたらアメリカが多分戦略核の引き金を引くのではないかという想定をするということが核のかさなわけで、どうも幾ら空を見上げてもかさがかかっているわけではないという、これは非常に長い議論がいろいろあるわけでございますね。そういう観点から考えますと、長期的に考えた安全保障の面で一体日本が何をなし遂げるのが一番いいのか。それから核軍備を撤廃するという理想論の中から何をなし遂げるのが一番いいのか。これは先ほど来現実主義とかいろいろ言葉が出ておりましたけれども、やはり両方の考えというのは並行して進めていくというのが大切なんだと思います。  そういたしますと、核のかさがあるから核の軍縮を推進することはできないというのは、これは確かに、二つの論理をその面へ持ってきて一緒に並べてしまえば、そういう言い方というのもあるいはあるのかもしれませんけれども、現実に日本安全保障あるいは世界の平和というような立場から考えましたときに、全部一緒にしてしまうわけにはいかないのだと思います。  先ほども前田さんからも軍縮軍備規制軍備管理の相違についてお話がありましたけれども、具体的に日本としてどういうことができるか、あるいはもっと立場をかえますと、具体的にどういうことをやっていてほしかったかということから考えますと、核を減らしていくために、先ほど、私最初核兵器というものの役柄が変わってきたのではないかということをちょっと申し上げましたけれども、そういう実際的な問題をつかまえて、戦略核を減らすのはもとよりでございますし、戦術核については、ヨーロッパでもアジアでも、現在戦術核軍事的な有用性を非常に持っていると思っている国は余りないように思います。であるとしたら、これはいろいろな国の同意が得やすい形に向っているわけですから、できるだけ早く、そういうものは使わない、あるいは撤去するとか、いろいろなやり方はあるかと思います。  申し上げるまでもなく、ヨーロッパでの幾つかの軍縮あるいは軍備管理の交渉というのはSALTばかりでございませんで、相互兵力削減とかヨーロッパ安全保障会議とか、いろいろなものが行われているわけですけれども、交渉として成り立つためには、やはりアメリカソ連がそれぞれ乗れる話でないといけないということがあるかと思います。  技術的にどういう形でこういう軍縮というのを、あるいは軍備管理を進めていけばいいかということは、細かいことはいろいろあるのでございますけれども、全般的なお尋ねのポイントについて御返事を申し上げますと、何かちょっとぐるぐる回った話になったかと思いますが、いま申し上げたようなことで、実際にわが国としては核を減らしていくことに対して積極的な発言をし、あるいは提案をする機会がいろいろあるのだというふうに考えております。
  30. 土井たか子

    ○土井委員 今井参考人の同じこの論文の中で、私もこの点については定義がないために、どういうことであるかということを考えるのに大変あれこれ思い悩むわけでありますが、つまり第一条に言う「核爆発装置」というのは一体中身はどういうふうなことを指して問題にしているかという部分であります。     〔石井委員長代理退席、委員長着席〕 このことについて今井参考人の論文の中に、最近の技術進歩のおかげでレーザー光線を使って核融合を起こさせる実験がアメリカでは盛んに行われているというふうな記述がございます。具体的にこういうふうないろいろな研究が進んでまいりますと、それ自身が紛れもない核爆発であるという範疇に入れて考えなければならない限り、非核兵器保有国は、この方式による核融合の研究を果たしてしていいのか悪いのか、この点が大変に問題になってくるところだと思うのですね。だれが一体それのよいか悪いかを判定するか、この点もまた一つ問題として出てくるだろうと思いますし、またそのような判定を待たずに、どこかの国がそういう実験に着手した場合に、それに対しての取り扱いはどういうことになっていくのかというふうな具体的な問題も出てこようと思うのです。アメリカの実験をいたしておりますレーザー光線を使っての核融合というのが具体的にどの程度まで進んでいるのかというのは、私は、専門的知識を持ち合わせていないことも加えて、よくわからないわけでございますが、この点について、技術そのものは取得させないけれども、技術の恩恵は与えるというふうな点から考えられていって、どうも民生の価値を持つような技術については、それが兵器技術につながるからというふうな理由で一部の国には保有を認め、ほかには認めないというこの不平等と申しますか差別と申しますか、こういうふうなことも片や決められているわけでございますから、それとの兼ね合いで、いまこの部分の記述について、先生はそれならば一体だれがこういう問題についての判定をすべきであるというふうに一応お考えになっていらっしゃるか。それから判定を受けない以前に、こういう開発や実験に手をつけている国々に対して、これは果たして核防違反になるというふうにきめつけて考えるとができるのかどうか、この辺についてのお考えを、もしおありになるならお聞かせいただきたいと思います。
  31. 今井隆吉

    今井参考人 レーザー融合というのは、実は現状をまず最初にちょっと申し上げますと、これは二重水素と三重水素の非常に小さな、二ミリとか三ミリとかいうオーダーの小さなものをガラスの中へ入れまして、それに非常に強力なレーザーを当てると、これはインプロージョンというのですけれども、プルトニウム爆弾を破裂させるときと同じようなメカニズムで、爆発的に融合現象が起きるということを指しております。レーザーによって核融合を起こすことができるだろうというのは、これはずいぶん前から言われていたのですけれども、最近になりまして——最近と言ってもここ二、三年でございますけれども、アメリカでその実験に成功したのだという話がございます。これは、核融合が成り立ったというのはどういうときに成り立ったかという定義の問題や何かがございまして、本当に成り立ったのかどうかというのは議論があるのですけれども、ただ一つこの場合は話が多少楽なのは、それだけの強力なレーザーを開発している国というのは実はほかにないのでございます。したがいまして、小さい実験をするための装置というのはいま建設中ということなんですけれども、三階建てか四階建てくらいの大きな建物の中で初めてそれだけのレーザーを集中することができる。したがいまして、このもの自体は明らかに私はこれは核爆発だと思いますけれども、しかし、核防条約の範疇でもって問題になってくる形には当分ならなそうだ。これはアメリカ専門家なんかと話をしておりますと、あれが持ち運びができるものになったり、あるいは実際にエネルギー経済的な規模でつくるようになったりするのは、ちょっといまのところどのくらい先になるか見当がつかないのだという言い方をいたします。したがいまして、レーザー核融合というのは問題点を提起するために非常にいい例なもので、多分それで私もそこの「ジュリスト」に書いたのだと思いますけれども、最初に申し上げておきたいことは、これは現実に核防条約上の問題には恐らくならないだろうと思います。ただ、核防条約の中でいま御指摘のありました定義が欠けておるということは非常に致命的な欠陥の一つでして、条約最初に六八年に書かれましたときに、私どもも一部お手伝いしたことがあるのですけれども、核爆発装置の定義というのを書こうというので各国がいろんな努力をしてみました。ところが結局有効な定義というのは書き得なかったということがございます。それから、そのために、これはマルチの条約でありながら定義がないものですから、そういう種類の問題が起きたときにだれが問題を解決するかという事務局に当たるものがついていないということがございます。いまのレーザーの話は一つですし、それからそのほかに、一般に平和利用核爆発と言われるもので、穴を掘ったり、それから天然ガスを採取したりするのに核爆発が使えるということがございまして、これは特にアメリカソ連で幾つか実験が行われ、感じとしては、アメリカはどうも非常にむずかしいというのでやめてしまったけれども、ソ連はやれると思っているという感じになっているかと思います。この辺のところが核兵器核爆発装置の区別が実際に技術上できるかできないか。できる場合には話は簡単でございまして、いまのレーザー融合というのは恐らく区別ができる、実際の技術上の問題としてはできるのだという判断に大体みんななっていると思います。特に一番実験をやっているアメリカが、自分たちの判断ではこれは核防条約に言う核爆発装置ではないのだという意見を出しておりまして、これは先ほど来の問題のように、だれが定義をする権利があるかということになるとだれもないわけでございますから、そういう意味では問題が残りますけれども、実際問題にはならないと思います。むしろ核防条約自体が持っている技術上の矛盾という形で言いますと、研究開発が自由であるということと、しかし核爆発装置は持ってはいけないということ、それでいて核爆発装置の定義は、いまレーザー融合についても申し上げましたように、いろいろその都度、技術現状に従って判断をするよりしようがないということが今後の問題として残ると思います。この辺のところは、条約そのものの改良というか手続上の改良、あるいは条約に伴う保障措置その他の手続上の改良という問題が残っていると思います。ただ、基本的な問題として考えると、原理原則だけかもしれませんけれども、やはり核防条約に加盟するということは、現在の形では考えられないのではない技術の開発に対して制約を受けていることになるというのはこれは事実でございます。むしろ条約の中に入っていることによって、いまのレーザーの融合の問題が一応の解決ができましたように、具体的な問題個々に応じて実際の研究の自由が阻害されないように解決をしていくということが大切なんだ、そういうふうに思っています。
  32. 土井たか子

    ○土井委員 川崎参考人にお尋ねをしたいのですが、先ほど川崎先生は、ディスアーマメントについて、NPTに入るよりもNPTの外で、より高い次元でアームズコントロールからディスアーマメントに向かって努力すべきであるという御趣旨の御発言でございました。先生御自身がお考えになって、ただいまこのNPTの外でより高い次元でと言われる場合には、現に核を保有している核兵器保有国と、それから非核兵器保有国との間でどういうふうな問題が認識されなければならないのか。それから特に高い次元とおっしゃるこの内容では、どういうことを先生は大事な問題としてお考えになっていらっしゃるか。これはすでに論旨の中にも出ていると思いますけれども、確認の意味も含めてお尋ねをしたいと思います。特に、いまのこのNPTに対しての非締約国ということに対して、何らかのことさら御認識を持ってこういう問題についておっしゃっているかということも含めてお聞かせいただければ幸いです。
  33. 川崎昭一郎

    川崎参考人 私は核兵器を禁止する問題は、やはりすべての国が参加する形で行われなければならないと考えますし、すべての核保有国及びすべての国が参加できるような場をつくることが非常に大事だと思います。たとえば、それは世界軍縮会議という文字どおりの意味のそういったものも一つの考えだと思いますけれども、そういうところで、先ほどぼくちょっと申しましたけれども、核兵器の製造、実験、貯蔵、使用を禁止するような国際協定の問題を提起していくようなことは一つの具体的な提案になろうかと思いますけれども、現在非常に多くの核がもうすでに存在している。もうNPTが結ばれた当時と比較してもさらに莫大な核が世界に存在しておりますし、そして実際に核兵器が使われない段階でも、地球の環境に非常に深刻な影響を及ぼしております。一方環境破壊についてのいろいろな認識は一般的に高まっておりますし、その中でやはり何といいましても核による汚染ですね。すでに実験は少なくはなっておるわけですけれども、ホールアウトなんかの状態も非常に深刻なものが現在でもあるわけでありますし、そういった世論にも訴えながら、しかも一たび核が戦争で爆発させられた場合にはどんなに大きな被害が出るか、その辺もやはり広島、長崎から時間がたちますと知らない世代も出てきておりますし、その辺はかなり日本としては絶えず改めて世界に訴えて、そして本質的な解決を迫るように動くべきではないかというふうに考えております。
  34. 土井たか子

    ○土井委員 問題が少し横にそれますが、先ほど来査察の問題についてもそれぞれお触れになった部分があるわけですが、いまこの条約の第三条適用の結果を直ちに核防条約の違反ということができるかというふうな問題が具体的に出た場合に、大変疑義がたくさん出てまいります。査察のあり方ということで、本来査察というものはこうあるべきではないかというふうな御意見がおありになれば、ひとつその点をお聞かせいただきたいと思うのです。  今井参考人、それから前田参考人、それから蝋山参考人、このお三方にお願いいたしたいと思います。
  35. 今井隆吉

    今井参考人 査察は、初め始まりましたときには、どこへでも立ち入ってどんな秘密でも見られるという形で考えられていた節がございます。ところが実際問題としまして、これを技術として考えますと、どこへ行って何でも見てくるというのは査察員個人の主観的な判断が支配することになります。これは好ましくないというのが、わが国が六八年、七〇年にかけまして国際原子力機関査察の改正を非常に強く運動した根拠でございます。この考え方は、特に西ドイツその他の同意を得まして、それから査察自体を次のような形のものに改めることにいたしました。  それは平和利用の核燃料サイクルから核物質が何らか理由はわからないけれども、ある程度以上なくなってしまったら、それは早期警戒網みたいなもので警報が鳴るという形のものに直したい。これは技術的な問題になりますけれども、そのためには確率論を使いましたサンプリングの理論という、標本抽出の理論というのがございまして、それによって査察を実行するということになってきたわけでございます。したがいまして、今日、査察というのは、だれかが兵器をつくっているかどうかを見張っているのではなくて、平和利用燃料サイクルの中からある量以上の物質が届け出の理由と違う形でなくなってしまったということを見つけようということになっております。したがいまして、このこと自体は、すでに査察の本来の政治的な目標とはある程度遊離した——遊離したというのは言葉が悪いかもしれませんが、分離した形でもって一つ技術体系につくり直したということになるかと思います。今後原子力平和利用というのが世界じゅうに広まっていったとしましたときに、どういう形でこれが適用されるのが一番いいのかということは、さらに今後残る問題というのはいろいろあると思います。ことに、先ほど私もちょっと申し上げましたように、動力炉から出てくるプルトニウムというものでいい爆弾をつくるのは恐らくできないだろうと言われている現状その他から考えますと、査察をどういうところに集中的にかけていき、どういう形で違反——と言いますのは、この場合核防条約の違反ではなくて、査察協定の違反になるわけです。その両者をどう結びつけていくかというふうなことは、今後技術の問題としてはずいぶん問題が残っていると思います。
  36. 前田壽

    前田参考人 査察といいますのは、実は検証あるいは管理ということの一部である。これはもともと条約を紙の上だけで約束するのでは心もとないから、何か国際的な機関などが本当にその条約を履行しているかどうか実情を調べるということに端を発しているわけで、古くは十八世紀の平和案にもそういうものが出ているわけなんです。これはヨーロッパを対象としたものです。それから第二次大戦前一九二七年のソ連の軍備全廃案でもこういう問題が出ております。国際管理として出ているわけです。それで戦後になりますと、この紙の上だけの約束では心もとないということで、査察ということが検証あるいは保障措置の一部として非常に重視されてきた。ところが非常にむずかしい問題は対国家主権のことでありまして、国際査察員と言いましても、どこかの国に属するわけで、要するに外国人が入ってきて、その国の中を見るという主権との関連があるわけです。したがって、非常に困難である。たとえばソビエトの場合には原則的にこれに反対をしているわけです。現在、この査察が行われておりますのは、軍縮軍備規制の関係では、南極条約では実際に行われております。しかしながら、これはいわば非常にやりやすいわけで、外国に入っていくわけではないわけですから、これは別にいたしますと、やはり実際に行われているのは原子力平和利用に関するもので、それもNPTに関する第三条に基づくところの査察はまだ始まっておりませんで、実際には双務協定に基づくところの査察が行われている。こういうことで非常に多く論議されておりますけれども、実際に行われている査察というのは、いわば微々たるものであるということであります。  これは、考えてみますと、NPTに関する査察でも、その他の軍備縮小に関する査察でもそうでありますけれども、完全無欠な査察ということは、これは不可能であります。たとえば原爆なんかも非常に小さくなっているわけで、どこに隠しているかわからないわずか数発の原爆を、国内くまなく探して見つけ出すということは不可能である。それからNPTの場合も、これはいかに査察陣を強化しても、完全に不法な軍事利用転換を防ぐということはできないわけであります。実際に、この完全な査察をしようとして大いに査察官をふやすことになれば、一つの笑い話ですけれども、査察の費用の方が軍備よりも高くつくというようなことになって、国じゅうお巡りだらけというようなことになるわけで、実際にはこの査察という問題は、本当は完璧であるべきだと考えるわけですけれども、現実の問題としてはやはり費用対効果の問題になってくる。そこで、この程度ならば心配がなかろうというようなところを考え出さざるを得ないわけであります。
  37. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 今井隆吉博士はこの査察の問題につきましては国際的な権威の一人でありますし、それから前田教授は軍縮史の研究におきましてはやはり日本の第一人者でございます。したがいまして、この両参考人のおっしゃいましたことに対して、私はむしろ素人でございますので、特に取り立ててつけ加えることはございませんけれども、私なりの観点からお答えしてみますと、このようなことになるかと思います。  前田教授が指摘されましたように、人類が初めて軍縮問題という意識を持ちました十八世紀のヨーロッパにおいても、すでにこの査察の問題が出たということでございますけれども、これは先ほどから話されておりますところの軍備管理軍縮の違いというような問題に結びついてくるかと思います。つまり査察しなければならない。条約に署名しただけでは信用してもらえないあるいは信用したら危ないという意識が、常にこの国家関係には存在してきたということを示しているわけでございます。したがいまして、軍備管理という考え方軍縮と違うのは、これはまさに先ほど何回か御指摘がございましたように、戦略的な要請から生まれながら、同時に戦略的な問題がむしろ自分の国の安全保障を低めてしまわないように、当事国ができるだけ軍備について管理を行うという考え方になるわけでございまして、これは軍縮という考え方がどちらかといいますと、世界全体あるいは人類全体というような考え方に立つのに対しまして、軍備管理考え方というのはむしろ国益に基づいて自分のことをまず考えるという伝統的な考え方に立っているわけでございます。その点で、残念ながら世界全体の問題あるいは人類全体の問題に対する考え方というものが、これまで有効性を持たれず、国益の観点からなされる軍備管理だけがある程度まで成功してきたという事実につながってくるわけでございます。  そこで、この核防条約における査察あるいは保障措置の問題でございますけれども、これを日本の場合に引き直して考えてみますと、一般論としましては、生産されていくプルトニウムを少しずつくすねている間に、一年間に一発とか二発の広島型の爆弾程度のものがつくれるという考え方があるわけでございますけれども、日本にとりまして、もしも核武装するというようなことが意味があるとするならば、先ほど私が意見を述べさせていただきましたとおりに、一発、二発の単なる爆弾を持ったというだけでは、およそ役に立たないわけでございます。したがって、日本核武装するというような場合が来た場合には、これは政府がはっきりとした方針を打ち出して、しかも世論の支持を取りつけて、その核武装のための予算をを取り、そのために研究者を組織し、技術者を集めるという形で、恐ろしく大がかりな計画になってくると思います。そういう意味で、むしろ日本についての査察の問題というのは、大した問題ではないというふうに私は理解しております。  むしろ、最近、アメリカやソビエトが大変心配しておりますのは、国家の政府ではなくて、個人ないし個人の団体がそういう核爆発物質を手に入れて、いわゆる核ジャックの問題でございますね、その問題を心配するという点。もう一つは、現在日本のような最も高度な技術を持っている潜在的核兵器国ではなくて、むしろ技術日本ほどないけれども、常にある意味で潜在的な敵国を持って紛争関係にあるような国、たとえばインドとパキスタン、あるいはイスラエルとアラブ諸国といったようなところで、この一発、二発の核兵器がつくれるというところに、世界の平和を撹乱する非常に大きな条件があると考えているというふうに私は思っております。したがって、日本にとっては大した問題ではないけれども、やはり核防条約全体の問題といたしますと、何とかして一発、二発くすねるという問題をなくそう、つまり締約国を信用していないという問題があるわけでして一信頼関係が成り立たなければ、核防条約の成果は上がらない。にもかかわらず、そこには常に相互不信感がつきまとっているというのが、私の考えますところでは、残念ながら国際政治現状を反映しているものというふうに思うわけでございます。
  38. 土井たか子

    ○土井委員 それでは、いまの質問について久住先生はどうお考えになっていらっしゃるかをお尋ねしましょう。
  39. 久住忠男

    久住参考人 査察ということについての一般的御質問であったと思いますが、査察は、先ほど来いろいろお話がありましたように、過去に非常に大きな問題になり、軍備管理上の最大の難点と申しましょうか、困難な問題で、それで軍縮交渉の行き詰まったことが何回もありました。  ところが、これに活路を開きましたのが科学技術の進歩でございまして、たとえば米ソの戦略兵器制限交渉等におきまして、ソビエトはあくまでも国内査察だけで、要するに外国の立入査察を一切認めないという立場でありましたが、御承知の宇宙開発によりまして、サテライト、写真撮影偵察衛星が詳細なる情報を入手することを可能にしたということが、米ソの話し合いを進めたという事実は、御承知のとおりでございます。また、ここで問題になっております核防条約査察におきましても、これは今井参考人の御専門でございますが、いわゆるブラックボックスというので、出道と入り道に対する査察ということでもって、相当合理的な、またコストの余りかからない、あるいは日本自身の自主性というものを損なわない、あるいは企業の採算を妨害しないというような形の査察体制が可能であるというふうな結論になったと承っておりますので、そういう意味から見ましても、査察という難問題も、科学技術の進歩によりまして大いに変化してきておる現状を認識する必要があると私は考えております。
  40. 土井たか子

    ○土井委員 最後に一問お尋ねをして終わりたいと思いますが、非核三原則というのは、ただいま政府の解釈によりますと、わが国の国是であるということになっております。これは政府のわが国の国是であるという解釈を待つまでもなく、日本国憲法からすると、当然非核三原則というのは考えられなければならないところでございます。言うまでもない話です。ところが大変皮肉なことに、これが安保条約との兼ね合いで現実においては大変認識される問題であります。  今回のこの条約審議についても、特に第一条の条文の中から、核兵器国が非核兵器国に対して、援助や奨励や勧誘を行わないことは約束しながら、核の配置については、これが条約の規制の対象から外されておりますから、配置に対してはやはり問題になる。したがって、わざわざ非核三原則というものは厳守いたしますということを、この条約承認するか承認しないかという国会審議の場において政府は断わらなければならない状況です。  そこでお尋ねをしたいのですが、一般に一つ技術について平和利用軍事利用を区別するかぎというのは、私は技術そのものにあるのじゃなかろうと思うのです。それならどこにあるかということになってくると、やはり利用する人の意志にある、利用する人の意図にある。その利用する人がそういう意思や意図に従ってつくり出していく、その成果というものによって客観的には判断されるということになっていくであろう。そうすると、何といいましても、いま川崎参考人を除きまして、四参考人の諸先生からは、不平等条約であるということは認めながら、しかしいまこの条約締結するということが必要なのではないかという御発言をきょう承ったわけであります。この条約に加わらないという利点は大きくないという、非常にニュアンスに富んだ表現もなさりながら、結局は不平等条約ではあるけれども、この条約に入るということが必要ではないかという論旨を展開されているわけでありますが、これから二十年の間にずいぶん世界情勢は私は変わると思うのであります。安保条約も変わると思うのです。日本の政権も変わるということを確信して私たちはがんばっているわけでありますから、自民党の政権から社会党の政権になるかもしれません。そういうときに、この条約締結について、やはり私たちとしては、非核三原則ということを堅持しますということは言うまでもない話ですけれども、しかしもう一つ日本安全保障ということを考えた場合に、恒久平和というものをいかにして樹立していくかというもっと広い視野に立って世界的規模で見た場合に、対アメリカということだけでなしに、もっと広い世界的視野に立って考えた場合に、何らかこの条約締結するに際して、日本としてははっきりさせておくべき日本立場というのがあるのじゃないかということを私はしきりに考えるわけであります。それは国内に対してもそうであると同時に、国際社会に向かってはっきりさせておくべき問題があるのではないか。私自身に対して何かと言われたら、恐らく中立宣言ということをはっきりするのが必要じゃないかということを私は言いたいわけでありますけれども、ひとつ、きょう御出席参考人の諸先生、そういう点についてのお考えがもしおありになるなら、ひとつお聞かせをいただきたいと思うのです。前田参考人に、私がいま申し上げた、特に中立などということに対して、私は必要だと考えているわけでありますけれども、何らかのお考えがおありになると私は思いますので、その点を加えてお聞かせをいただければありがたいと思います。
  41. 前田壽

    前田参考人 いま問題になっております軍縮軍備規制の問題を取り上げてみましても、何らか幾つかのステップを飛び越えていくということは不可能でありまして、すべて現状を出発点としなければならない、そういう現実があると思います。  そこで、日本が中立、つまり非同盟国、具体的には日米安保条約を廃棄するということが可能になって、しかも日本の安全が強化されるという時期が来れば、それはいいことだと思います。  しかし、最初に申し上げたように、現在、直ちに日米安保条約を廃棄するという情勢にない。こういう問題は、これは単なる軍事同盟だけの問題ではなくて、非常に複雑な国際関係にあるわけですから、そういうことを考慮に入れた上で判断しなければならないということであります。  それで、私が先ほど来申し上げている軍備規制に関する考え方も、漸進的に可能なものから進めていくということでありまして、NPTに入って後、最初検討期まで二十年あるわけですが、前にも申し上げたように、それほどこの条約が続くかどうかもわからない。条約をよくすると同時に、その他の面でも努力をするということで、一つ例に挙げましたことをもう一度、北東アジア非核地域の問題を例に引きますと、これには日本周辺にあるアメリカ、ソビエト、中国という三つの核保有国を仲間に入れて条約を結ぶということでありますので、もしこういうことができるということになれば、大変状況が変わってくると思うのです。したがって、そういうような状況を勘案しながら考えるべき問題であるというように思います。
  42. 土井たか子

    ○土井委員 他の参考人の諸先生からは、もう別に御意見がなければ、私はこれで終わりたいと思いますが……。
  43. 栗原祐幸

    栗原委員長 ございませんか——。それじゃ……。
  44. 土井たか子

    ○土井委員 ありがとうございました。
  45. 石井一

    ○石井委員長代理 正森成二君。
  46. 正森成二

    ○正森委員 最初に、川崎昭一郎参考人に伺いたいと思います。  先ほど自由民主党の正示先生から、NPT以後の五年間でいろいろ行われた条約というのは、アームズコントロールにすぎなかったという点について、先生からお話があったと思います。二、三例を挙げておっしゃっていただきましたので、それで十分かと思いますが、もし説明し足りない点がございましたら、若干その点についてお聞かせいただきまして、次の質問に移りたいと思いますが、先ほどの正示さんに対する御答弁の中でもうよろしゅうございますか。
  47. 川崎昭一郎

    川崎参考人 特別につけ加えることはありませんので……。
  48. 正森成二

    ○正森委員 それでは、NPT条約というのは、核兵器の存在を当然に前提としております。そして、わが国の場合は非核三原則がありますが、核四政策と言われておりますように、核抑止力に頼るということが当然の前提になっておるわけですね。こういう核抑止力に頼って非核保有国の安全を確保するというような考え方は、どういうぐあいに考えたらよろしいのでしょうか、それについて御意見がございましたら、忌憚のない御意見をお聞かせください。
  49. 川崎昭一郎

    川崎参考人 それでは意見を申し述べます。  現在、世界核兵器があり余るほどあると言われております。オーバーキルという言葉も使われておりますけれども、昨年十一月にウラジオストクで米ソ間の協定がありましたが、それによりますと、戦略兵器の運搬手段の数はトータルで二千四百、そのうちMIRV化されたもの、多弾頭化されたものは千三百二十という、そういった上限が決められたわけでありますけれども、恐らくその限度内でも約二万発以上の戦略核を持つことができるようになっていると思います。  これは少し前のいまから一年前のデータになりますけれども、現在、ソ連に人口が十万以上の都市が二百十八あるという計算になっておりますが、それに対して一年前にアメリカは、その二百十八のソ連の人口十万以上の都市をすべて三十六回破壊できるだけの核を持っているという、そういった評価が出ております。恐らくこの三十六回も破壊するという数は何が根拠になっているかといいますと、従来、対都市戦略ということがしぱしば言われておりますけれども、都市というのは非常にやわらかい目標ですので、単に都市だけではなくて対兵力、相手のミサイル基地とかその格納庫とか、そういったかたい目標を攻撃することを念頭に置いてのそういった数になっていようかと思います。またあるいは、最初に第一撃を受けて九割方こちらの攻撃兵器が破壊されても、なおその残った一割で全都市を破壊できる、そういった数と見ることもできるわけでありますけれども、そういうふうに都市を攻撃するあるいは兵力を攻撃するあるいは第一撃、第二撃ですね、そういった考え方が、いわゆる核抑止力という考え方の中に貫かれているわけでありますが、単にそれが都市をターゲットにするにせよあるいは軍事基地をターゲットにするにせよ、相互にそういう核兵器の撃ち合いをやった場合に、それがどんな被害をもたらすか。それは恐らく、単に当事国にとどまらなくて、北半球全体の大部分の人口に対して放射性の降灰等において非常に大きな被害を与えることは明らかだろうと思いますけれども、にもかかわらず、そういったようなことが構想されているわけであります。そして、そういうアメリカが言っているような、相手の大都市のかなりの部分を破壊するとか、あるいは相手国の社会としての存立基盤を失うほど破壊するとか、あるいは逆に攻撃された場合、かなりな部分を破壊されても何分の一かは残るというような発想ですけれども、そういったことを念頭に置いて、そしてそういった威圧感を与えて戦争を防ぐというような考え方ですけれども、それは確かにアメリカのような領土の広い国においてはある程度考えられるのかもわかりませんけれども、特に日本のような土地も狭いし、あるいは高度に集中化されたような、機能が集中化したような日本では、本当にもうわずかな核でも国内で破裂した場合には成り立たないわけであります。ですから、そういった核抑止力に関連した第一撃とか第二撃とかあるいは損害を限定するとか、そういった諸概念というのはもともと日本にはなじまない概念だと思うのです。そういったアメリカ等で用いられている核抑止という概念をそのまま日本の国の方針の中に導入してきて議論するという考え自身が非常に危険であるし、非合理的な考えであると思いますし、やはり核防条約に参加することによって国の安全をそうした抑止力に依存するというような、核保有国の抑止力に依存するという考え方は何としても危険であろうと思っております。
  50. 正森成二

    ○正森委員 いま川崎参考人のお話を伺っておりますと、NPTに頼り、あるいは核抑止力に頼るというあり方では日本の安全については問題があるというような御意見でしたが、それならそれにかわるものとして一体何に頼ったらいいのか、先生のお考えがあればお聞かせ願いたいと思います。
  51. 川崎昭一郎

    川崎参考人 私、先ほどからも何度か申しましたけれども、日本の場合は核兵器を廃絶するという立場をあくまでも貫くべきであるし、そして具体的には核兵器の製造、実験、貯蔵、使用を全面的に禁止する国際協定、そういった具体的な目標を提起して、そしてそれがどんなに困難であってもやはりその実現に向かって努力することが大事であろうと思います。  そして、日本NPTに入らないと、何か日本が核を持つというふうに諸外国で、心配されると言いますけれども、私は、その問題は単にNPTに入るかどうかという問題よりも、むしろ日本の外交政策といいますか、そういうこと全般に関連した問題だと思うのです。そしてやはり現在でも日本にはアメリカ原子力潜水艦が入港してきているという実態がありますし、ラロック証言とかいろいろな形で核持ち込みの疑惑があるわけですね。そういう問題であるとか、あるいはベトナム戦争の期間を通じても日本がかなり重要な役割りアメリカのサイドに立って果たしていた、そういった総体が日本の進路に対していろいろ疑惑を起こさせるのだと思うのです。ですから、むしろそういった核兵器廃絶の立場をはっきりさして、そして核兵器を全面禁止する、この問題はとにかく原則的には核兵器を持たないすべての国の賛成を得られる問題でありますし、それから核保有国であっても正面から反対できる性質の問題ではないし、それから査察等の問題からいっても非常に複雑な問題をむしろ伴わない問題ですから、そういったことをはっきり掲げ、そういったイニシアチブをとるならば、日本の平和外交というものは認められると私は思うわけです。特にそういう点では、いま国際連合にしろ、いろいろな国際的な舞台においても力関係はだんだんそういった新しい考え方、新しい意見が反映しやすくなりつつあるわけですから、そういった歴史の流れをちゃんと見きわめて対処していくことが必要であろうと私は思います。
  52. 正森成二

    ○正森委員 そういたしますと、先生が初めの意見開陳の中で高い次元で日本は行動していくと言われましたのは、唯一の被爆国として、また憲法第九条というような規定がある国として、平和外交に徹して、核兵器の製造、貯蔵そして実験、使用、そういうものを全面的に禁止するというディスアーマメントに向かって前進していく、そういうことを結局言われたことになるわけですか。
  53. 川崎昭一郎

    川崎参考人 ただいま述べられましたように、私はそういった特に核兵器の全面禁止を、いまの時期に、原爆三十年の時期にもう一度要求することは大事であろうかと思います。やはり現在ではまだコントロールされながら、核軍備がコントロールされつつふえているというような状況であって、まだコントロールされつつ減ってはきていないわけですね。ですから、核兵器全面禁止国際協定の締結という課題を一年延ばせば延ばすほど核兵器の数は多くなるし、困難になるわけでありますから、やはりそれをいまからきちっと具体的な目標として提起していくことです。それがやはりディスアーマメントにつながる最も重要なアプローチになると思います。
  54. 正森成二

    ○正森委員 せっかくお見えになっておりますので、今井先生に少し伺わしていただきたいと思います。  今井参考人はたしか保障措置協定についてIAEAでの討議などにも参加されたかと存じておりますが、時間がございませんので簡単で結構でございますが、その会議での西ドイツの主張というのはどういうものでございましたでしょうか。簡単で結構です。
  55. 今井隆吉

    今井参考人 西ドイツの主張とおっしゃいますと、どの時点のものでございましょう。恐れ入りますが——。
  56. 正森成二

    ○正森委員 結局、わが国ユーラトム並みと言っているわけですね。しかし、その実効性がユーラトム諸国あるいは西ドイツと比べてどうかという点がありますし、西ドイツは技術が非常に進んでおりますので、機密の点などについても日本とは立場が違うと思いますし、また西ドイツは核をすでに持っている国との平等性というものを非常に強く主張していると思いますし、それらの二、三の点について西ドイツがどういうような主張をしておりましたでしょうか。西ドイツが国益を守る上から主張した点についてお述べください。
  57. 今井隆吉

    今井参考人 いまおっしゃいましたような諸点については、実は西ドイツの主張することとわが国が主張したこととは特に相違はないかと思います。それは、根拠を一応別にいたしまして、現実に保障措置の上での平等性の確保、あるいは機密の保持その他につきましては、これは先ほど申し上げましたように、七〇年以来の国際原子力機関保障措置標準協定というものの内容は、かなりまでドイツとわが国とが主導権をとってああいう形に直してきたということがございますので、主な主張点について特に相違はないのだと思います。  具体的に相違が出てまいりましたのは、西ドイツがユーラトムの一環として実際に国際原子力機関と協定を結んだということの後にあるかと思います。ユーラトムとの協定というのは、ユーラトムが独自の査察機構を持っているということを協定の中で特に承認して、それに伴う措置を協定に書き込んだわけでございますね。わが国が主張しましたことは、国際原子力機関というのは、御承知かと思いますけれども、憲章によって技術問題を取り扱う機関でございまして、特に政治的な判断をするのではないというたてまえになっております。そういたしますとわが国が、ユーラトムが持っているのと同じような査察機構を持てば、これは同じ組み合わせ、同じ方式が採用できるわけでございまして、この点は、実は一昨年の暮れに東京でもって技術パネルをいたしましたときに、原則として承認をされ、かつコーディネーションと一般に呼んでいるのでございますけれども、その組み合わせ方の方式というのは承認をされていたわけでございます。したがいまして、日本がそれに基づく査察協定を結ぶことに対しては、西ドイツにいたしましてもユーラトム諸国にいたしましても、表面上の異論はなかったということでございます。むしろ、当然そういう場合になりますと政治上の考慮が出てくるわけでして、ユーラトムという原子力先進諸国を結びつけ、かつ、フランスが入っているものとIAEA、国際原子力機関との条約日本の場合と同じになるというのは何だかおもしろくないという気分があったことは確かでございます。それが先ほど申し上げましたように、これは西ドイツなんかの代表の人たちがかなりはっきり言っておりましたことは、そういう意味政治的におもしろくないということはあるけれども、核防条約という、これは先ほど来のお話のように、ある種の理想に向かって一歩踏み出す条約の中に日本という非常に重要な国が入ってくれることを考えると、端的に申しますと、この種の国内的な不満はがまんをするよりしょうがない、こういう言い方だったと思います。
  58. 正森成二

    ○正森委員 わが国ユーラトム並みと、こう言われておりますし、議定書でもいわゆる最恵国待遇と言われるようなものが書かれておるのですけれども、しかし国内の制度が伴っていなければなかなか実効性は発揮されないと思うのですけれども、先生の目からごらんになって、日本査察制度あるいは体制というのはどうなんだろうか。また、現行法規や現行体制で十分なのだろうかという点について、専門家としての御意見を簡単にお述べください。
  59. 今井隆吉

    今井参考人 現行の体制のままでは不十分だと考えております。これはちょっと技術的な話に及んで恐縮なんでございますけれども、日本ユーラトムと同じ扱いでやれるということを言いましたときに、これは単なる政治的な主張だけでございませんで、技術との体系を一応組み上げてみせたわけでございます。技術体系として、技術的に同じ効果が上げられる。したがって、同じ組み合わせの仕方をすればいいんだということの、ちょっと言葉が過ぎますけれども、証明をするという形になりまして、これがさっきちょっと申し上げました、一昨年の暮れに東京で技術パネルをやって決めた内容でございます。その際に、国内保障措置といいますか、ユーラトムと同じようなものというのは、必ずしもユーラトムがやっているのと全く同じことをする必要はない。たとえば、これはちょっと技術的にわたって恐縮だというところなんでございますけれども、たとえばユーラトム査察員というものを大ぜいふやすことでなし遂げたのと同じ技術上の効果を、たとえばコンピュ−ターを導入することによって情報の伝達速度を速くすることでも置きかえることができるとか、そういうことが幾つか話がございまして、原則としてそういうことが承認されているわけでございます。したがいまして、日本の国内体制というのも、実際問題としては官庁による検査というのは、これは別に国内の査察ではございませんけれども、いろいろな形で行われておりまして、それは査察の方の保障措置の方の要件をすでに満たしているものというものが幾つもあるわけでございます。したがいまして、そういうものをちゃんと組み上げて、保障措置という観点から整理をし直したり、あるいは情報伝達の方式を導入するというようなことをすれば、必ずしもユーラトムと全く同じ——あれは非常に大ぜい査察員が要るのでございますけれども、同じことをする必要はないだろう。そのための作業が行われているというふうに私は了解しておりますけれども、いまの時点でまだそれが完成していないと思います。したがいまして、いまの時点ではどうかということになりますと、いまの時点では不十分だと思いますということになります。
  60. 正森成二

    ○正森委員 いまの状態ではまだ不十分であるということでございましたが、保障措置ユーラトム並みにやろうとすれば非常に金がかかる、いまの段階では西ドイツなんかに比べて金のかけ方がけたが違うというようなことをおっしゃる学者もいらっしゃるのですね。その点について先生はどういうぐあいにお考えになりますか。
  61. 今井隆吉

    今井参考人 西ドイツとけたが違うという話は私にはちょっとよくわかりかねますけれども、技術開発の分野で西ドイツがいまの保障措置体系を改め、ユーラトム条約をつくる段階で集中的に、国営の研究所でもって技術開発をしていた時点が、ちょうど一昨年ぐらいまで非常に集中的にやっていた時期がございます。わが国の場合は多少それがずれまして、幾つか保障措置に関する研究開発というのは、どちらかというとこの三、四年が集中的に行われているのだと思います。  ただ、けたが違うかどうかまでは、ちょっと私には数字の記憶がございませんけれども、私の印象では、そんなけたは違わないものだったというふうに思います。むしろいま御指摘のございましたような、国内措置をやることで非常にお金がかかるというのは好ましくないことでございます。保障措置というのは、原子力産業の方から見ますと、これは全くノンプロダクティブな作業でございまして、そういうことに余りお金が使われるということは決して好ましいことではない。そういう観点から、いまし方申し上げましたコンピューターを導入するとか、いろいろな既存の技術あるいは既存の施設あるいは既存の人員、機構というものをなるたけ利用して実際の効果を上げることにしたいということがいまの基本思想だと思います。
  62. 正森成二

    ○正森委員 それでは日本査察制度ユーラトムに比べて、いまは不十分なんですから、まずまずというところまでいくには、先生のお考えではどれくらいかかると思われますか。
  63. 今井隆吉

    今井参考人 最初に簡単なお答えを申し上げますと、半年くらいじゃないかなと思っております。理由を申し上げますと、一つは、ユーラトム保障措置機構というのは、実はそれほどりっぱなものではないのです。これは言い方が悪いのでございますけれども、ユーラトムというのはあくまでも国際的な、マルチの国際機関でございまして、マルチの国際機関にはどうしてもそれなりの各国の利害とか、それからものを実際につくって動かすときの時間のかかり方とか、実際上の問題がいろいろございますので、ユーラトムのものが現在完成して動いているというふうにはお考えいただかない方がいいと思います。ただ、条約に基づいた機構を整備していくということではユーラトムの方が先を走っているんだという、概念としてはそういう形だと思います。     〔石井委員長代理退席、委員長着席〕 したがいまして、わが国のものをどういう形に組み上げていけばいいのか、これはすでに幾つか突っ込んだ討論が行われて、どういうふうにしたらいいかという議論になって見当がついていることなんだと思いますけれども、具体的にお役所の機構の中でそれを実現なさるのにどれだけ時間がかかるのかという辺になりますと、私にはわかりかねるところがございまして、実際問題としてどのくらいの時間かということだと、私は半年もあれば整備ができるというふうに考えております。
  64. 正森成二

    ○正森委員 簡単でよろしゅうございますが、地下核実験というのが、禁止条約にもかかわらず、あれは少ししり抜けでございますから、行われているのですが、地下核実験によって、これは汚染は生じないのかという点については、今井先生いかがでしょうか。
  65. 今井隆吉

    今井参考人 地下核実験というのは幾つか種類がございまして、影響が地表に出てこないはずのものというのが一つの方法なんでございます。これは油を掘るとか天然ガスを掘るとか、それからソ連が行っていたたしか油田の火事を消すとか、そういうのは爆発自体が全部地下の地層の中に入ってしまう。したがって、何かのかげんでもって爆発したときの衝撃波の進行でもって、地表まで道が通じてしまってものが出てくるということがない限りは、汚染が起きないんだという前提になっております。それからもう一種類は、運河を掘るとか池を掘るとかいうものでございまして、これは、爆発自体が地表に近いところで行われますので、爆発に伴ういろいろなデブリというんですけれども、残土みたいなものが表面に飛ぶことになります。したがいまして、この場合はいわゆる汚染になるかと思います。ただ、この場合に問題になっておりますのは、爆発装置自体は地中で行いますので、直接の汚染物ではなくて、放射能化された土が飛び散るんだ、それがどの範囲まで飛ぶかということが問題になっているという形だと思います。技術的な内容だけでございますけれども……。
  66. 正森成二

    ○正森委員 それでは次に久住先生に伺いたいと思います。  先生はそれぞれお立場がございましょうから、わが国安全保障に安保体制がいいと思われるか、悪いと思われるかというようなディレクトな質問はいたさないつもりでございますが、非常に興味深く思いましたのは、先生の最後の方のお説の中で、柳生石舟斎の秘伝書が出てまいりまして、無刀の術というのが出てきたと思うのですね。それはお説を伺っておりますと、結局、間合いの問題だというような、私の理解にして誤りがなければ、そういうような御説明でございました。結局それは非常に大事だというお説なんですね。そこで、私も剣道の心得はございませんけれども、それにたとえていろいろ御質問をしたいと思うのですけれども、私がこの間、本を読んでおりましたら、千葉周作の伝記でございますけれども、あるところで、剣道の全然心得のない者が決闘をいどまれて、相手は達人である、むざむざやられるのは残念だというので、千葉周作のところに必死の思いでどうしたらいいか、あすが試合ですから、行きましたら、千葉周作が、真剣を抜いて大上段に構えさせて、静かに目をつぶれ、そして体にひやりと相手の刀が当たったらそのときに真っ向から切りおろせ、そうすればうまくいけば相打ちになる、こう言うて、そのかわり自分は必ずやられるということを教えたというんですね。そうすると、その人は、どっちみち死ぬんですから、必死になって約束の場所に出かけていって、静かに心は死ぬものだと構えてやったら、相手は相当の達人だったと見えて、しばらくにらみ合ったあとで、できると言って自分が逃げたというのですね。そういう話が載っております。あるいは先生御存じかもしれません。また、一刀流の極意の和歌か短歌によりますと、切り結ぶやいばの下こそ地獄なれ、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、こういう歌があるのは御存じだと思うのですね。  私が、こういうおよそ外務委員会の質問にふさわしからぬことを言いますのは、先生が秘伝書をお出しになったから聞くわけでございますけれども、私はある意味ではベトナムの今度の二十年、三十年に及ぶ解放のための戦いというのは、みずからは核兵器も何も持っていない。そして武器も持っていない。そういう中で民族解放闘争であるかどうかというのは意見が分かれると思いますけれども、しかし万人があれは民族自決の戦いであったと、そして核大国であるアメリカも撤退せざるを得なかったということが起こっているのですね。そしてりっぱに民族の独立をかちとったと言われております。そういうことを考えますと、この千葉周作の話や一刀流の話というのは、先生の間合いということとある意味では共通する点もあるかもしれませんが、それより以上に私どもに教えるものがあるのではないかというように思うのです。禅問答のような質問ですが、いかがお考えになりますか。これで、私の質問を終わります。
  67. 久住忠男

    久住参考人 私が柳生新陰流の話を持ち出したのは、この公述にやや戦略思想的なものを入れようとする意図に基づいたものでありまして、私は世界各国の古典をあさっておりまして、戦略思想の原典から現代に通ずるあるプリンシプルを導き出そうというのが現在の念願でございます。まだその目的に非常に遠いわけでありますが、そこで日本にも何か非常にいいものがあるに違いないと思って、何とか流兵法、御承知のようにたくさんございます。徳川初期には特に多いわけであります。それらを読んでみましてほとんど失望するのであります。形式的でありまして、思想、哲学は必ずしも十分ではない、これはわれわれの先祖に対して大変口幅ったい言い方でありますが。そこで禅剣というのが昔からありますが、座禅を組むわけではありません、書物を読むだけでございますが、禅の書物あたりを読んでいると幾らかそれらしい雰囲気がある。ふと行き当たりましたのが剣道の極意書でありまして、その中に、いまの伊藤一刀齋ですか、先ほど言いました間合いにとらわれて間合いを失うというのは伊藤一刀流の極意書に書いてある言葉でございます。それから千葉周作の話ももちろん知っておりますし、維新の際のいろんなわれわれの先輩のこともいろいろと聞いております。ああいう命のやりとりをするという段階にあらわれた一つの戦略思想あるいは哲学といいますか人生観といいますか、こういうことが現実の政治外交にも非常に大きな——非常に大きななんというのは口幅ったいようですが、大きな影響力を持ち、われわれの先輩にもこういうりっぱなことを真剣に考えた人たちがいたのだということを誇りにしたいと思うゆえにああいうことを申し上げたのでありまして、いま日本核兵器がないからだめじゃないか、こういうふうに簡単におっしゃる人がおるから、そうではないんだ、本当の剣道の達人、昔は命のやりとりをしたわけですから、その人たちが考えて、剣を持たないで剣を持った男に対抗するというあの気魄、これはしかし、うろうろ逃げて回ったんじゃだめです。犬にだってかまれてしまいますから、逃げて歩いたんでは。そういう意味から言いまして適当な間合いを持ち、鋭い眼光をもって相手を見据え、常に間合いをとる、その鋭い眼光は外交でありあるいは政治であるということでありまして、先ほど新しい国際システムという言葉をちらっと使いましたが、それらのあたりは、間合いをとるための現在の国際間の諸関係を律する非常にりっぱな実例がここ二、三年の間にあらわれているわけでありまして、これを日本政治家の方たちもぜひひとつ御検討願いまして、日本の外交をして誤りなきを期していただきたい、かように存じておる次第でございます。
  68. 栗原祐幸

    栗原委員長 速記をとめて。
  69. 栗原祐幸

    栗原委員長 速記をつけて。  永末委員
  70. 永末英一

    ○永末委員 先ほど前田参考人からNPT有効性保障措置有効性もそう長くないというお話がございまして、大体何でも変化するものでございますが、これらの点に関して、われわれがこの条約に入りますと、一応二十年拘束されるわけでございますが、その間にはいろいろな変化がございましょう。久住参考人は、変化への対応というのは久住参考人が考えておられる日本の安全措置の原則の重要な一つであると申されました。したがって、そこに着目をして、この核という問題に焦点を合わしてどういう変化があり、どういう対応を考えねばならぬかということを、久住参考人の考えておられる点をお教え願いたいことと、この点に関してどういう変化があると前田参考人は考えておられるか、ひとつお示しを願いたい。
  71. 前田壽

    前田参考人 いろいろな側面があると思うのですけれども、二つだけ挙げますと、一つ政治的な側面であります。このNPTというのは一九六三年の部分的核実験禁止条約に続いてとられた措置である。そしてこの部分核禁条約というのは、性格的には、米ソが競争しながら協調体制をとるということの一つの象徴でありまして、地下以外の環境での核実験を禁止するという内容でありながら、きわめて国際政治的な条約である。その線に沿って米ソが努力をしてNPTというものを考え出したわけです。ところが、前に申し上げたように、この条約が推進されるようになった状況というのは六四年から六五年あたりからであります。現在変化してきたことはすでに申し上げたわけですが、基本的には米ソ体制というものが一つの大きな基礎になっている。ところが、その米ソ体制というものも十年前といまとでは違ってきているわけです。それは先ほど申し上げたとおりであります。今後中国の核戦力が増強される。これは米ソ並みになるということはちょっと考えられませんけれども、いずれにしても米ソにかなりの影響力を持つところの核戦力を持つというようなことになりますと、それだけでNPTに対してかなりの影響力を与えると思います。したがって、それはたとえばアメリカとかソ連の核の信憑性にかかわってくる問題であります。そうしますと、そういうことによってNPT自身が影響を受け、そして漸進的に変質せざるを得ない。NPTが変質するか、あるいは別の条約によってとってかわられるかわかりませんが、そういう問題があるかと思います。  それからもう一つ技術的な側面でありまして、これは実は今井参考人の専門でありますので、私はごく簡単に申し上げたいと思いますが、先ほど土井さんの質問に対して答えましたように、査察というものは完璧ではない。完璧にすることは不可能だということを申し上げました。実際に今度NPTに関してとられます保障措置、その中に査察も含まれるわけですが、この保障措置によりましても、完璧に軍事転換を防止することはできない。そうしますと、特に今度の新しい制度によりますと、さっき今井さんが御説明になりましたように、国家管理制度、国内の管理制度を主として、それをIAEAが検証するという原則を立てているわけですが、このシステムによりましても、ごまかそうと思えばごまかせる。つまり原子炉にたまるプルトニウム軍事転用する意図があれば、そういうように回すことができるわけだし、それを完全に防ぐことはできない。そこで、原子力発電が非常に多くの国で、しかも非常にたくさんつくられるようになりますと、そういうように完全にはチェックできないところの核分裂性物質の量もふえていくわけであります。  こういうことでありますので、技術的に見ても、現在のNPT第三条に基づく保障措置が次第に有効性を少なくしていくということは考えられると思います。
  72. 久住忠男

    久住参考人 核兵器が及ぼす影響の変化についてのお尋ねであったと思いますが、これはいろいろな面で変化してまいりました。物質的な面から言いますと、その破壊力、命中精度あるいはその保有量等におきまして、御承知のとおりアメリカとソビエトが圧倒的な優位を獲得しつつあるということであります。最近のMIRVあたりの開発並びにその配備というものの増強、そういうことがありますが、これは結果的に申しますと、米ソの間の核戦争というものをこのバランスにおいて絶対不可能にしたという働きをしているわけでありまして、また一時、相互疑心暗鬼というものがありまして、一九五五年には例のジュネーブの四巨頭会談あたりでアメリカは、オープンスカイ、空中査察案などを持ち出しましたが、先ほどの土井先生のお答えにも申しましたように、情報技術が非常に進歩いたしまして、この高度に進歩いたしました核兵器を行使するということは全く自殺行為であり、それこそ先ほどのお話の、相打ちにしかならないという事実がいよいよはっきりしてまいりまして、世界の平和は、この大きな天井、米ソのつくりました大きな天井によって保障されているという逆説になりまして、われわれが小さなかさなど差さなくても、あるいはこの米ソの力のバランスという下において、核についての脅威は十分保障し得るんじゃないかとさえ考えられるような進歩の状態、これは物質的進歩が核による安全保障に与えた影響でございます。  一方、米ソ以外の二流国、三流国あるいはインド等を含めました新しい核保有を志す国にとりまして、米ソ両国との差はますます激しくなりまして、これらの国は、もはや米ソ両国のつくりました大きなアンブレラといいますか、屋根といいますか、その下においては余り影響力のないものに莫大なる開発費並びにその維持費を投入しなければならないということで、たとえばイギリスとフランスは、もう数年前でありますが、共同で開発をしようじゃないかという話がありました。これはコントロールをどちらがするかということで話し合いがつかないというようなこともあっているわけでありますが、だんだん自分の持っておる核兵器というものをもてあましぎみと言っては言い過ぎかもわかりませんが、それに似たような感覚が出てまいりまして、また、ドゴール大統領あたりが前に主張いたしましたのは、自分の国は自分が守るんだという信念、それは大変結構でございますが、そのために核兵器を持ち、国際的な発言権を強化しようという考え方ですね、これが余り先を見た賢明な策ではなかったということは、現在のフランスの国際的な発言力の現状を見れば思い半ばに過ぎるということがあります。  また、最近におきましてはインドが、これは一発核保有国というふうにわれわれは呼んでおりますが、一発核実権をやっただけの国でありますが、それが果たして政治的、外交的いわんや軍事的にどの程度の影響力をインドに与えたかといいますと、これはインドの人は自分では自尊心を高めたと言えるかもわからぬ。インドの政治家は胸をたたいていろいろおっしゃっておられますが、しかしガンジー首相は、御承知のとおり核兵器は絶対つくりませんということを言わざるを得ない現在の国際情勢、国際環境にございまして、これの及ぼす影響力が、もうすでに一九五〇年代と比べました場合には、格段に核兵器の持つ軍事的、政治的、外交的な影響力は低下したということははっきり言えるわけでありまして、そのほかにもいろいろ言われるかもわからない。また逆に言いますと、どこの国でも核兵器一つぐらいはできるというような変化があったことも事実でございまして、外国の資料あたりを見ますと、日本あたりがニアレスト・ニュークリア・カントリーだ、こういうような評価をしているのは日本原子力工業技術の高いところ、あるいは動力用原子炉から出てくるプルトニウムの量を計算するとそういうことになるわけでありまして、したがってこの方面変化というものは、やはり核防条約によって日本の考えてもいないような誤解といいますか、外国から言わすと正解かもわかりませんが、それを一掃するという意味において、いま第三に取り上げました変化というものは重要な意義を持っている、かように考えております。
  73. 永末英一

    ○永末委員 いま久住参考人のお話で、米ソの大きな核の力、そのバランスが核戦争を起こらせないような大きな覆いの役割りをしておるというお話がございました。わが国の中では、この核防条約が非核国の安全保障について何ら資するところはない、一九六八年の国連の安保理事会決議二百五十五号も詰めて見ますと、別段非核国の安全保障をどうしようということではないというので、アメリカの核抑止力に依存しようと考えている人々が多いわけでございまして、したがってそのアメリカの核抑止力につきましても信頼性の問題がありまして、これは突き詰めていくと心理問題のパズルみたいになってしまいます。  さて、もし米ソがそういうバランスを持っておるから核戦争に対する不安がないのだといいますと、そのうちのアメリカにのみ依存するということが一体どういう意味があるのか、この辺のお考え方を伺いたいことと、これに関連して、先ほど蝋山参考人から戦術核兵器に対してアジアにおいてはこれを使用することをアメリカは考えていないようだというお話がございましたが、韓国における戦術核兵器の存在がこの前アメリカの下院で議員が明らかにいたしましたけれども、そういうものが動かないのかどうかということに対する御判断を伺いたい。  それから、いま久住参考人が言われましたことを前提にいたしますと、理想はいいのでございますけれども、現実の問題として世界平和を、つまり核戦争というものをなくするために、核をなくした方が核戦争はなくなるかもしれませんが、そうしますと核時代以前の通常兵器を持っておる国際社会に戻るのである。そうなりますと、戦争の勃発をとどめ得る力がなかったというその現実の問題について、川崎参考人はどう思われるか。もうじき本会議が始まりますものですから、ひとつ簡明に御開陳を願えれば幸いでございます。米ソが核を持っていることによって核戦争の危険がないというのならば、アメリカの核抑止力に依存しなければならぬという議論が国内にあるわけでございます。その点のことです。
  74. 久住忠男

    久住参考人 アメリカの核のかさという問題と非核三原則の矛盾ということの御質問と私は理解をしたわけでございますが、これは明らかに矛盾でございます。非核三原則は、政府はどのように説明されるか知りませんが、これは私はやはりあくまでも政策論であるというふうに考えておりまして、これが条約論ということになりますと、日米安保条約の第四条、第五条といったような問題もありまして、この核のかさというものを日本が一方的に解釈するというのが、情勢の非常な急変ということを考えますと、必ずしも条約論的には正しくない、こういうふうに思います。しかし、この矛盾というものは、先ほど来申しておりますように、一九七〇年代に入りましてからの新しい国際システムのもとにおきましては、それを事荒立てて言うのは、余りにも起こり得ないことを現実のこととして論ずると、英語で言いますと、ハイリー・ハイポセティカルと申しますか、余りにも現実離れした議論であって、この核のかさと非核三原則の矛盾をとくためには、最も重要なのは国際間の信頼関係といいますか、特に日米間の信頼関係、アメリカ日本の政府が困るようなことはしないと確約しておるわけですから、日本政府もその確約を一応受け入れて、それに対して国会等で答弁しておられるというふうに私は承知いたしおりますが、そういう意味で、この種の問題も余り一つのことにとらわれていろいろ根掘り葉掘りするということよりは、アメリカとの条約も大事だし、また中国とかソビエトとの関係をさらに改善するということも必要でございましょう。より広い範囲の世界平和のために日本が貢献をする、ある程度の犠牲を払っても世界平和のためには貢献をするという雅量を示すことによってこの問題等は自然に解消するといいますか、前向きの方向で解決し得ることを私は期待をいたしておる次第でございます。
  75. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 私に対しても同様な御質問というふうに理解してよろしゅうございますか。——私は、先ほど非核三原則の問題に関連いたしまして、アメリカは極東におきまして戦術兵器というものを使わないでできるであろうということを申し上げたわけでございますけれども、これは一般的な論理を言ったわけでございまして、アメリカが現在そういう意図のもとでやっているということを言ったわけでございません。したがってこれは、これから日本の政府とアメリカの政府が話し合いをするときに、つまりアメリカの戦術核兵器というものが、日米安保条約を維持していく上で不可欠の要件であるというふうに頭から思い込んでいくことがおかしいのではないかということを言いたかったわけでございます。それは、先ほどベトナムの状況ですらアメリカは結局使えなかったということを申し上げたわけですけれども、やはり核兵器というものは、核を持っていない国に対しては特に使いにくい状況のもとにあるということが一般論として言えると思うわけでございます。  ところで、この日本安全保障の問題、つまり日米安全保障の問題と非核三原則との矛盾に関しましては、日本にとっては非常に大きなジレンマがあるわけでございますけれども、それは御承知のとおり、朝鮮半島における政治的安定のものと関連していると思います。アメリカは、日本とも条約上の義務を負っていると同時に、韓国とも条約上の義務を負っているわけでありまして、また、日本は韓国と正式の国交を持っている。この状態の中だけで、法律的な義務という形で考えていきますと、これは日本は非核三原則を掲げる以上、論理的な矛盾が出てきてしまう。つまり、日本人の大多数が核を望まないとしても、韓国人は核を望まないとは言っていない。むしろ最近の朴大統領の発言から察するならば、韓国は、やはりいざという場合には自分自身が持ちたいというほどに考えているわけであります。そういう状況の中で日本人が、韓国あるいは朝鮮半島の安定というものがどうなろうとそんなことは知ったことではないということが言い切れるのならば、私は結構だと思います。したがって、この問題は、日本にとっての非常に大きなジレンマであるというふうに理解して、これを一方的に一つの条件を除くことによってジレンマを解消できるという性質のものではないというふうに私は理解しております。したがって、そこにはどうしても条約上の義務という観念だけで行動するのではなくて、外交的な努力というものが必要になるのではないかと思います。  それで、朝鮮半島の安定という問題に関して、つまり言いかえますれば、再び朝鮮戦争のようなものが起こるかどうかという問題については、大方の、アメリカ専門家も含めましての観測は、そのような可能性はそんなに大きくない。しかも、アメリカもソビエトも中国もそのような事態を望んでいないということが、一九五〇年の状況とは大変違っている一つの条件として理解されておるわけでありますけれども、そうだとすれば、日本にとってやらなければならないことは、軍事的な努力の面はさておいて、やはり外交的な面にあるのではなかろうか。もしも、かつて一九七二年に幸いにして中国との国交が回復できたわけでございますけれども、その中国との国交がなかったとき、つまり公然と中国が日本を敵視していた時代と国交が回復した後と、他の条件が同じであるとすれば、日本安全保障にとっては明らかに状況はよくなっている。ですからそういう意味で、これはむずかしいことでありますけれども、北朝鮮との関係の改善の方途、あるいは国連の場を通じての北朝鮮と韓国との間の関係の安定化の努力というようなものを、たった一つの処方せんというものは私はないと思うのです。そういうものを一生懸命いろいろな角度からやることによって——これは先ほど前田参考人が触れられました極東の非核地帯化の問題なども含まれてくると思いますけれども、そういうものを通じて、その日本のジレンマを長期的な観点から解消していくということが必要なのではないかと思います。  ですから、いま矛盾があるからといって、これを一刀両断のもとに解消するということは私は不可能だと思います。
  76. 川崎昭一郎

    川崎参考人 核兵器を廃絶した場合、核兵器のない時代に戻るのではないかという御指摘でありますけれども、私は、やはり核兵器時代を乗り越えるといいますか、そういった点が必要だと思うのです。といいますのは、もし仮に核兵器を廃絶したといたしましても、一たん人類が獲得した核兵器に関する知識を消し去ることはできないわけです。ですから、物理的に核兵器が廃絶されましても、また戦争という時期になれば、だれかがそういった知識を思い出して、核兵器の製造にかからないとも限らないと思います。したがって、私たちの核兵器を廃絶する努力は、同時にやはり戦争そのものを廃絶する努力と結びつかないと本当に完結しないと思うわけであります。そういう意味で、そういう方向でやはり努力していかなければならないという意味ですけれども……。
  77. 永末英一

    ○永末委員 どうもありがとうございました。
  78. 栗原祐幸

    栗原委員長 午後二時四十五分再開することとし、この際、休憩いたします。     午後一時四十五分休憩      ————◇—————     午後二時四十八分開議
  79. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。渡部一郎君。
  80. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 本日の外務委員会の質疑に当たりまして、参考人の諸先生方には大変遅くまでお残りをいただきまして、貴重な御意見を聞かしていただきましたことを私からも厚く御礼を申し上げます。  休憩前に引き続きまして早速お伺いをしたいのでありますが、先ほど前田壽先生がその御意見の中で、この核防条約批准というものは核不拡散の最終ゴールではなくて、スタートになるだろうということをおっしゃいました。私は、先生と議論の立て方は多少違いますけれども、同じような感じをいたしておりますのは、この条約は相矛盾する幾つかのポイントを含んでおりますし、拮抗する政治勢力の一つの衝突の結論という、政治的妥協がここにあらわれているわけであります。したがって、これから先、日本の核軍縮政策を直し、かつ確立することによりまして、核不拡散を推し進めるために日本の外交努力が集中されるべきであると私は考えております。  当外務委員会の質疑の途中、日本の核軍縮政策、先生が御指摘になりましたけれども、日本広義の安保政策があり、それに基づいて軍縮政策があり、その中に核軍縮政策があるというふうに考えをきちっとしていくべきだとお話しになっておられましたけれども、その意味で、これから討議して煮詰めなければならぬ問題は非常に大きいと考えているわけでございます。そこで、そういう全般的に抑えていくことがもう明らかに必要なのでありますが、先生は、いま日本の核軍縮に対するどのような貢献を政策の上ですることができるか、その辺もう少しお話を願えないかと思っておるわけであります。よろしくお願いいたします。
  81. 前田壽

    前田参考人 具体的な問題となりますと、ちょっと繰り返しになるかと思うのですが、私が強調したいのは、まず日本自身の軍縮問題に対する姿勢を検討することである。具体的にはやはり、従来の反省から入りますと、日本外国との交渉でどのように振る舞うかということに重点が置かれている。そうでなくて、日本安全保障なり国益なりに沿った政策をまず立てるということが大事で、そこから出てくると思うのですけれども、したがって実際には、具体的な提案としましては、さっき申しましたように世界的に各国に共通する問題、それから日本ないし日本の周辺に関するような問題に分けて具体的な措置が出てくるかと思います。それについてはすでにもう申し上げたのですが、もうちょっと具体的に何か御質問いただければお答えしたいと思うのですが……。
  82. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 じゃ、その続きを伺いましょうか。  そうしますと、特に先生がそこまでお考えになっていらっしゃるのですから、先生の御所論の中にはアジア非核地帯構想のようなものをお考えになっているようでありますけれども、いま日本政府が一番困ることは、大きな外交的な米ソの対決の中にあって、あるいは米ソの協調の中にあって、日本外交は何もなし得ないんじゃないかという弱味が常にある。だから地下核実験の停止について多少の意見を言うぐらいのところしかこういう問題に対しては具体的なことは言えない。また外国の提案について多少賛成なり反対する程度のことしかやっていない。じゃ何があるかというそういう問題についてお答え願えませんか。
  83. 前田壽

    前田参考人 具体的にやはり私が重要であると思うのは、これまでの欠けていた面でもあるのですけれども、地域的な軍縮軍備規制措置であります。したがって、いまちょっとお触れになりましたような非核地域の設定というような問題になるわけです。で、非核地域といいますのは、すでにちょっと触れましれけれども非核武装地帯、非核武装地域とは構想が違うわけで、非核武装地帯といいますとそこに核軍備がない、核兵器が置かれていないという意味なんです。しかし、非核地域、ニュークリアフリーゾーンという考え方は、最初一九五七年のポーランドのラペツキー外務大臣の国連演説での提案に始まったもので、そのときの考え方がやはり私は本来の意味であると思いますし、それから実現をしておりますのは一九六七年のラテンアメリカ核武装地帯です。で、いろいろな禁止事項がありますけれども、重点はそこに核兵器を置かないということと、もう一つの重点が非核地域の中に含まれれば、核攻撃あるいは核攻撃の威嚇からフリーである、隔離されている、保護されているというそういう意味になるわけです。したがって、これはむずかしい問題ですけれども、仮に日本が含まれるところのある地域でそういう非核地域ができるということになりますと、非核で、つまり核兵器がないと同時に、いわゆる核攻撃からの保障が得られるということになるわけで、先ほど来問題になりました六八年のNPT承認に関係する安全保障理事会の決議というようなものは、本質的にはやはり国連憲章の確認ということから余り多く出ないわけですが、いま申し上げているような北東アジア非核地域というようなものができますと、具体的にそれに対してアメリカソ連、中国の三核保有国が威嚇もしないという約束をするという、そういう内容を含んでいるわけで、仮にそういうものができますと、核兵器を持たなくとも安全が保障できるという問題で具体的な進展が得られるかもしれないということと、これは実際にできる実現の可能性というのは大変むずかしいと思いますけれども、日本の場合非常に重要なことは、そういう構想を推進するということそのものが、外交的に大きな意義を持つのではないか。つまり、たとえば日本の非核三原則的なものを国内で繰り返し繰り返し述べることにも限界があるわけで、それと同時に、国際的にそういう問題を実際にやる気があって推進をするということが外交的にも大きなプラスになる、そういうことを考えているわけです。  それから核実験については、いまおっしゃったように日本が持っておりませんから核実験をしないということは他国の問題であるということで大変むずかしい面があるわけですけれども、これについても従来から貢献しておりますような日本独自の技術的な力があるわけです。幸いに地震国であって地震探知技術について貢献できる。これもまた細かく申し上げれば、核実験の探知というのは別の問題であって、むずかしい問題があるのですけれども、いずれにしましても、核実験について熱意を持っているのであれば、もっとほかにとる方法はたくさんある。たとえば日本がスウェーデンとかカナダとかこういう核実験禁止に熱心な国々と組んで、核実験の状況をできるだけ世界的に公表して知らせていく、毎日の新聞に昨日の核実験という欄ができまして、その核実験が行われたところと、それからその爆発威力とかわかる範囲のことをできるだけ公表していくという、これは最初は毎日の新聞に出るというようなことは無理であろうと思いますけれども、ともかく核実験というものがどの程度世界で行われており、またどういう核兵器の開発のためにそれが行われており、また環境汚染その他でどういう害を及ぼしているかということについて、世界的規模での世論の啓蒙ということも重要かと思うのです。それはまた、国際連合でいろんな主張、提案をすることとは性格を異にした効果を上げるかもしれない、そういうようなことも考えております。
  84. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 ありがとうございました。  じゃ、今度は今井先生と久住先生に科学的、軍事的な立場からちょっとお答えいただきたいのです。  この委員会で審議している途中で、日本核武装するという決意を定めたら、どれくらいのスピードで、どのくらいの核武装ができるかというのが討論の内容になりましたときに、科学技術庁は平和問題を扱うのだから答弁できないと言うし、外務省は例によって大とぼけで何も返事しないし、その辺が穴があいているわけであります。日本核武装国家として登場するとどれくらいの危険性というか、エネルギーというかポテンシャリティーを持っておるか、その辺のところを先生方、御専門の見地からひとつ率直に、知れる材料でわれわれに教えていただけませんでしょうか。
  85. 今井隆吉

    今井参考人 大変むずかしい御質問だと思います。いろいろな前提条件を置きませんと、どういう時点で何ができるかということは考えにくいわけでございますね。ですから、核武装とおっしゃるのは、一番単純なのは、インドがやりましたように、兵器かどうかというのは非常に疑問であるけれども、核爆発か何かしたというものをつくろうということだとしますと、恐らく非常に短時日でできるだろうと思います。ただしこの場合には、原料を考えましても、あるいは技術を考えましても、これは通常の意味兵器と呼び得るものではないだろうというふうに思います。したがいまして、その核武装という段階になりますと、たとえごく少数のプルトニウム爆弾をつくるのだといたしましても、先ほどたしか蝋山さんが言われたと思いますけれども、相当、それをつくるんだということが国の方針になって出てこない限りは、実際問題としてつくるということは非常に考えにくいだろうと思います。つまり、予算がついて、施設があって、それから材料がそろって、技術者がそろってという形にならないと、兵器という場合には、一つは多量生産性ということでございましょうし、もう一つは再現性と申しますか、兵器としての信頼度の再現性がなければいけないということになると思います。したがいまして、そういう条件が全部そろったとして、そういう兵器がつくれるためというのは、恐らく二年とか三年とかいうようなオーダーの時間がかかるのではないかと思います。  これは、よくアメリカなんかとこういう趣旨でもって議論をいたしますときに、最終的に問題になってしまうのは、おまえたちは兵器をつくったことがあるんだけれどもおれたちはつくったことがないんだから、こうではないかという話しかできないということになるわけでございますね。  それで、さらに日本核武装をして意味があるところまで武装をするんだということになりますと、当然つくった核弾頭はどこかへ持っていけなければいけない、運搬手段がなければいけないことになります。そのような運搬手段が、どこまで運ぶことにするのか、どれだけの命中精度を要求されるのかということによりまして、かかる日数というのは非常に違うだろうと思います。  そういう意味では、これがさらに抑止力としての意味がある、いわゆる第二撃の話にまでなりますと、当然、運搬手段の一環として、いろいろなエレクトロニクスその他のことが非常にたくさん必要になってくると思います。  したがいまして、たとえばフランス程度までの核武装をするんだということを考えましても、これはやはりいま一番問題になりますのは、水爆をつくるとしたときに、濃縮ウランが必要だとすれば、どれだけの時間がないと濃縮ウランがつくれないかというようなことになってきますので、やはり数年とか十年とかいうオーダーのことになると思います。  これは技術的な御質問ということなので、お答え申し上げましたけれども、最初に申し上げましたようにどの段階の核武装を考えても、わが国にとってはおよそ意味のないことだということでございますので、考えてみることはできますけれども、さらにこういう種類の問題は、技術のあるいは工業の問題として時間を詰めて考えてみるということは、だれもしていないんだと思います。
  86. 久住忠男

    久住参考人 外国がまず日本核武装についての所要時間をどういうふうに見ておるかというのをお話しいたします。  アメリカ専門家から直接聞いた話でございますが、日本は恐らく決意をすれば十八カ月以内に最初の核爆発をするであろうというふうに言ったことがあります。  最近、先ほども引例いたしましたが、国際戦略研究所の出しました「ストラテジック・サーベイ一九七四」という。パンフレットによりますと、そこに十四のニア・ニュークリア・カントリーズという表が載っておりまして、決定をしてから最初の核爆発をするまでの年数を一覧表の中に書いてございます。その中に、インドとイスラエルはゼロであります。ということは、すでに持っている、もうすでに爆発をしたとかあるいはしたと同然だという意味でございましょう。その次は日本とイランでございまして、三年と書いてあります。その次は六年とか七年とかいうオーダーあるいは十年でございまして、もちろんその中には、なぜ入れなかったのか知りませんが、西ドイツとかスウェーデンとかカナダとかもそういったような日本と同様な原子力の先進国は入っておりません。これが海外における専門家と言える人の客観的な推定であります。  しかし、いま今井参考人が申されましたように、それはいわゆる一発をやるための時間であろうと思います。あるいは一発ならば、その三年というのよりも早くできるかもわかりませんが、しかしそれだけの意義しかありません。インドがほとんど意義がなかったと同じような意義しかありません。そういうことは日本ではほとんど考えられないことでありまして、やはりやるとすれば、非脆弱性の強い、ということは、相手から反撃を受けないような、報復攻撃はできるけれども、自分に対する攻撃は受けないといったようなものをつくらなければ、現在の核戦略——現在というよりももうこれもすでに過去でございますけれども、ある水準の核装備にはならないわけであります。  その非脆弱的な核装備しておる比較的小規模な国はフランスでありまして、フランスは御承知のとおり、一九六〇年に最初の核爆発実験を行いまして、現在なお核開発中でありまして、持っております核戦力はいまだに非脆弱性を持っておりません。それがためにあらゆる国際的な非難を排除いたしまして、フランスの政府国防省は核実験を南太平洋において続けているわけであります。これは、非脆弱性の強い近代的な核兵器を開発するのにいかに多くの時間がかかるかということであります。フランス経済力をもっていたしますと、だんだんに引き延ばして、開発をしているという事実を世界に知らしめることによって、政治的な何がしかのプラスを感じているのかもわかりません。あるいは経済的な負担に耐えかねて、国際的な非難の圧力によりまして、政治的な意味で開発をだんだんに引き延ばしているということかもわかりませんが、本年はすでに一九七五年でありまして、フランスは、フランス流の第二流の核装備をするのにも十五年をすでに費やしているわけでありまして、まだ完成いたしておりません。  そういう意味からしまして、日本が仮にフランスと同じような程度の開発をするにいたしましても、日本においてもフランスと同じような政治的、経済的な制約もございますので、早くいっても十数年をかけなければ、本格的な、非脆弱的な、あるいは命中精度とか運搬能力とかそういう近代的な核装備は不可能ではないかと私は推測をしておるわけであります。
  87. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 ありがとうございました。  それじゃ私は、そういうお立場から先生方の先ほどの所論が出てこられたのはよくわかるのでありますが、川崎先生は先ほど、御専門が原子物理というふうに承りました。それで、原子物理のことを余りお話しにならないで、政治的側面を比較的お話しになりましたので、日本の原子物理、主としてこの核爆発に関する学問の現在の水準ですね、特に軍事科学と連関しての水準をどういうふうに評価されておりますか、お願いいたします。
  88. 川崎昭一郎

    川崎参考人 私の専門ですけれども、核物理学ですがも特に基礎的な理論が専門ですので、直接原子力の開発とか技術等の分野をやっておりませんので、ちょっとそれを評価する立場にないのですけれども……。
  89. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 それでは蝋山先生にちょっとお伺いしたいのですが、私が質問したいのは二つ。  一つは、現在も日本政治の中における核軍縮政策というのはいかにあるべきか、当委員会で模索されている問題でありますから、それに対して御専門的な立場からひとつお示しをいただきたい。  もう一つは、御承知のように、当委員会でも賛否いろいろ分かれておりますし、この条約が通るか通らないかもまだ非常に危ないところであります。こういう時点に当たりまして、その採決あるいは賛否の模様が国際的にいろいろな評価を招くだろうと私は思っておるわけでありますが、予想される評価について、先生、お示しをいただきたい。  この二点をひとつよろしくお願いいたします。
  90. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 日本の核軍縮政策がいかにあるべきかというのは、大変重要な問題でございますけれども、かくあるべしという大ぶろしきを広げてみても、まずそれが実行できるとは思われないわけでございます。と言いますのは、核拡散防止条約というものは明らかに、これまで各参考人の先生方が御意見を述べられましたように、必ずしも理想的な核軍縮そのものではない、むしろこれは核管理の方に属するわけでございます。しかし、それが、たとえばかなり多くの国が批准をいたしまして、現在九十三カ国が締約国になっておると思いますけれども、さらにふえていった、そして、しかもその間、条約違反が起こらないという状況がもしか出てくるならば、それはいわば人類全体がそういう問題に熱意を持っているということを証明し、核防条約というような制度的な仕組みが働くという自信もまた生まれてくるであろうと思われるわけです。これはもちろんうまくいったときの仮定でございますけれども、多分そういう形でだんだんと、国家相互間にある基本的な不信感というものを徐々に徐々に少なくしていくという努力が必要なんだろうと思います。  ところが、この委員会でも問題になっておりますように、日本の国内においてすら、この核防条約評価について決して合意が成立しているわけではございません。分かれております。つまり、国家の内部で合意を形成する方が国際社会において合意を形成するよりもやさしいということを信じておられる方であるならば問題がないわけでございますけれども、常識的に考えまして、同じ日本語をしゃべる、しかも同じ歴史的背景と伝統を持っておる日本人同士がなかなか合意に到達することができないという状況で、文化も違い、価値観も違い、言葉も違い、皮膚の色も違うという多くの民族の間で合意がより容易に成立するという条件はまずないというふうに思うわけです。多分核軍縮の問題で重要なことは、実行されやすい、みんなに受け入れられやすいような制度的な枠組みということについて研究を重ねるということがまず第一であろうと思われますけれども、いかによい制度的な枠組みができ上がったとしても、問題は、それに対して多くの国々が賛意を表するかどうかというところに問題があるわけです。従来もいろいろ多くの軍縮案というものが歴史的に出されたわけですけれども、それがどうしても実行できない。  たとえば、軍縮案ではありませんけれども、国際連盟という組織にしても、あるいは国際連合という組織にしても、考え方は確かによかった。制度的にもかなりちゃんとでき上がった。規約もあったし、また、現在憲章もある。なかなかいい精神がうたわれているわけですけれども、しかし、それは思ったとおり動かないというところに問題があるわけです。国際社会においてむずかしいのは、結局、たとえば国際社会の秩序を維持するということが大切だというような問題についてすら、必ずしも合意ができていないというところにあるわけでございまして、だから、問題は、そこをいかに打破していくのか。ですから、私は、軍縮案ができれば、あるいは軍縮政策が持てればそれでいいとは考えないわけです。問題は、そこに到達する間の過程において日本がいかに努力していくか。もちろん、一般論といたしまして、軍縮というような目的と反する行動をとるということは避けなければいけないわけでございますけれども、その場合に、たとえばこの核防条約を例にとってみれば、いかに不満足なものであろうとも、これが戦争を激化させるための道具でないことは確かだろうと思います。もしもその問題について、非核三原則を持つ日本が、国会の内部において一致ができないとするならば一まず、日本が将来突然にすばらしい軍縮案を提出したり、軍縮政策を展開していく可能性というのは全くない。まず小さいところからできることを、できるだけ大きな合意の上でやっていくということが必要なのだろうと思います。  それからもう一つ、多分、先ほどもちょっと触れたことでありますけれども、一国のとる外交政策があらゆる側面において首尾一貫しているということができるならば、それは最もいいわけでありますけれども、必ずしもそうではありません。どこの国の態度、外交政策を見ましても、あるときは大変いいことを言うけれども、そのすぐ後で何か悪いことをやるというのが歴史であったわけですけれども、日本は、もしもこれまで日本の国民の大多数が支持してきたような平和憲法というものに意味を認めるならば、その平和憲法の掲げている理想というものを実現するべく、努力を重ねていく必要があろうと思うわけです。憲法の前文及び第九条に盛られている考え方というものは、あれは日本の民族的な経験から出てきたところの一つの理念の表明であろうというふうに思われます。したがって、あれを現実の国際政治の分析の結果であると考える人はいないだろうと私は思うのです。だから、問題は、理想と現実の間の、ギャップをいかにつづめていくかということにかかると思いますけれども、その場合に一つ一番重要だと考えることは、外交政策というのは一体何かということであるわけです。  一般論で言いますと、外交政策というのは、ある特定の国家目標ないし国家目的というものを実現するための理念であり手段であるということでありますけれども、日本であるならば、憲法に掲げられておりますように平和の世界をつくるということだろうと思います。しかし、考えてみれば、特にオイル・ショック以降の日本経済状態というものを見るならば、実は平和というのは日本にとって実現すべき高い理想ではなくて、実は平和こそ日本がどうしても必要な環境条件であるというふうな考え方の方がより実情に合っているのではなかろうかというふうに思うわけです。その平和な環境維持のために日本が積極的に軍事力を行使するというようなことは、もう現在の世の中においては考えられないことである。これも、実は、この点について政府もいまだかつてそういうことを言ったことはないわけで、防衛的な手段として用いると言っているにすぎないわけです。しかし、それでは、そのような考え方に立つ外交政策というのはいかにあるべきかということになりますと、どうも必ずしも十分な論議がなされているようには思いません。もちろん、これまで非武装中立というような考え方も出てきましたし、あるいは等距離中立というような考え方も出されてまいりました。しかしどうも、いずれを見ましても、敗戦直後の経済的にもひ弱な、政治的な威信の点でもまことに小さい、小国日本の自己保身のための消極的な政策理念であったように思われるわけです。ところが、現在の日本というのは、だれも小国だということを認めてくれる人はいないわけでして、少なくとも日本経済的な不況というものは、もちろん日本は外からの影響も受けるわけですけれども、外に対しても大変大きな影響を与えておるわけでございますね。そういう意味で、日本の外交政策というものは、かつての伝統的なヨーロッパの中で育っていった外交政策とは違うものにならなければ多分いけないのではなかろうかと思うわけです。  それを簡単に言いますと、伝統的な外交政策というのは、かつてクラウゼウィッツが「戦争論」の中で定義いたしましたように、別の手段、つまり戦争手段によって取ってかわられる以前の紛争解決の手段であったわけです。それが外交でありました。ところが、もしも日本にとって軍事力の行使というものが紛争解決の手段にならないという立場に立つならば、外交政策という手段日本にとって常に最後のよりどころであるわけです。そういうような観点から新しい外交政策のあり方というものを考えてくれば、当然その中に軍縮政策も含まれてくるでありましょうし、現実の隣国との関係をいかに処理していくかという現実的な問題にもつながってくるわけです。そういうようなことで、渡部議員の御質問にお答えしたことになるかどうかわかりませんけれども……。
  91. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 この核防条約の審議、及び日本がこれを承認するか承認しないか、あるいはこの採決の模様等が国際的に見てどういう波紋を呼ぶか、その点をもう一つつけ足してお答えいただきたい。
  92. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 最も極端な例を引いてその意味を御説明したいと思うわけですけれども、先ほどから渡部議員が御質問になっておりました、日本核兵器をつくれるかどうか、つくれるとすればどのくらいでできるかということに関連するわけですけれども、一番重要な問題は、核兵器をつくるというようなことになった場合に、日本産業というものは成り立つかどうかということであります。つまり、休憩時間前の私の最初意見開陳のときにちょっと述べましたけれども、日本はいま原子力エネルギーの一〇〇%を海外に頼っている状態であるわけです。ですから、もしも日本核武装は困るという国があるならば、日本が十何年かかるか知りませんけれども、久住参考人の言われたような形で、非脆弱な、有効な第二撃能力を持ったような形の核武装が完成するずっと以前に、日本はウラニウムの供給を停止される可能性というものがあるわけです。ですからそういう意味で、核武装是か非かというこれまでの議論、それも大っぴらに行われたことはないわけですけれども、いかにも科学とテクノロジーの問題だけに限られておりまして、それが国内的などのような政治的な条件のもとで可能であるとか、どのような財政的条件のもとで可能であるとか、あるいはどのような国際条件のもとで可能であるかというような議論が、一つの大きな総体として組織的になされたことはないわけです。ですから、あらゆる側面から検討を加えますと、核武装ということ自身がおよそ無意味なことであるという結論になるわけです。  これが一番極端な例であるわけですけれども、そういう意味で、まだ外国には日本はいずれ核武装するに違いないと思っている人たちがたくさんいるわけです。その人たちが全くいないという証明ができれば別ですけれども、日本がたとえば、百五十二の独立国の中で現在まですでに九十三カ国締約国になっているというような国際世論の大勢に逆らうような行動をとるならば、多分いろいろな側面で、単にウラニウム供給の問題だけではなくて、あらゆる側面で不利な条件として出てくるのではなかろうか。そういうことを全部考慮に入れて、なおかつ価値があるというふうにお考えになったときに、初めて核防条約批准する必要はないという議論が可能になるわけですし、また日本核武装すべしという議論が可能になるのだろうと思います。それができない限りにおいて、私は核防条約というものを批准することは日本にとってはほとんど不可避的な問題であるというふうに思います。
  93. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 では、私もう一つ参考人の先生方に、最後に一通り皆さんお一人ずつ簡単におっしゃっていただきたいのですが、私どもいま質問していろいろお答えを承りました。言い残されたこと、これだけはちょっと当外務委員会を通して言っておきたいとおっしゃることがございましたら、つけ足して最後に皆様方全部一通りお話くださいますようお願いいたします。
  94. 栗原祐幸

    栗原委員長 それではそういう趣旨でひとつ簡潔にお願いいたします。
  95. 今井隆吉

    今井参考人 きょうはほとんどの問題についていろいろな形で議論が出ていると思いますけれども、いま蝋山さんの言われたことも一つでございますし、核防条約というのを、やはり条約の範囲内で、あるいは条約の文章の範囲内で解釈をしていろいろ議論をするということは当然一つ必要なことでございますが、それよりも核防条約というものが、現在の世界体制、というのは必ずしも政治体制だけでございませんで、いろいろ問題点が触れられましたように、軍事上の問題、防衛の問題、それから経済の問題その他いろいろなところに関連をしているわけでございます。  先ほど来御質問のありました、いまここで条約に入らないということが起きたらどうなるかというのがやはり問題の本質に当たることかと思います。恐らく、ここまで審議を尽くされ、いろいろ保障措置協定も結び、再検討会議でのいろいろな活動もありというような状況になって、日本が改めて核防条約に入らなかったということは、単に入るのがおくれていたという時点とは世界の認識は非常に変わるのだと思います。これはいま蝋山さんからも指摘がありましたように、日本核防体制というか、核防条約というものに反対の立場を明確にとったのだということにどうしても理解されるだろうと思います。その後で起きますことがどういうことになるかというのは、必ずしもすぐ直ちに何かの輸入がとまったり、すぐ直ちにだれかが攻めてきたりということではないに違いございませんけれども、それは日本がこれからとっていく国際的な姿勢の問題として、やはり非常に重大な問題であると思います。  石油の禁輸が太平洋戦争の直接のきっかけになったというのは歴史的な事実でございますけれども、それは決して石油だけが問題の焦点であったわけではないはずでございます。同じようにウランに対して、やはり、日本に対するウランの輸出がとまるだろうかもしれないということは、単にウランが来ないということ、あるいは原子力発電ができなくなるだろうということではなくて、もっと大きな、日本と国際社会との間の関連が従来考えられていたものとは違う形になるということだと思います。  いろいろ問題点がございますけれども、要約して、私個人としてこの条約の御審議に当たって一番お考えいただきたいと思う点はそのことでございます。
  96. 前田壽

    前田参考人 先ほどの御質問のときに申し上げればよかったことだけちょっと触れてみたいと思います。  すでに蝋山さんがお述べになったことでもあるわけですけれども、軍縮政策のことですが、日本は戦争はできないし、戦争に巻き込まれてはならないということで、結局、安全保障達成についても外交が非常に重要な地位を占める。その中でも軍事力を持たないで生きていくためには、軍縮軍備規制への努力がきわめて重要な要素を持つということでありまして、日本の生存のために軍縮政策検討が重要になるということであります。特にこの点と、それから外国への思惑によって、外国政策によって日本軍縮軍備規制政策が左右されるということが仮にあるとすれば、それは非常に困った問題でありまして、日本日本自身の安全保障のための方策を確立して、それに向かうべきである。これも日本軍縮政策を立てる上で当然のことですけれども、非常に重要なことであると思います。
  97. 川崎昭一郎

    川崎参考人 日本の政府として考えていただきたいことは、この時点で、従来のアームズコントロールではなくてディスアーマメントの方に向かってのイニシアチブを発揮してほしいと思っております。  それからまた、私ども、特にサイエンティストの立場から言いますと、再処理工場もできようという事態になっておりますし、日本にも原子力技術者の数は何千名というオーダーで存在するわけでありますので、せっかく日本で持っております原子力平和利用の三原則、公開の原則、自主の原則、民主の原則をうたった原子力基本法が厳しく守られることが必要であろうと思っております。そしてこういう重要な時期ですので、日本の特に原子力にタッチしております科学者、技術者の間でも、核兵器の製造には絶対にタッチしないという決意を新たにすることは、それはそれとして非常に大事なことであると思います。
  98. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 ちょっと言い忘れたところだけつけ加えさせていただきますけれども、日本核武装というのがほとんど不可能だということをさらに強調したいわけでありますが、第一に、核兵器をつくったとしても実験することができないであろうということでございます。それは一九六三年の部分核実験停止条約をほとんど超党派で皆様方賛成されて、日本はこれは加盟国になっている、つまり地下実験以外にできない。ただ日本の内部で地下実験をするというようなことに政治的な状況がなったといたしましても、もしか神奈川大地震とか関東なんとかという地震の巣窟のようなところでやれば、その先ほどうなるかだれにもわからないわけでございますから、まずできないであろう。それから原子力基本法の第二条、自主、民主、公開の原則がございます。これは政治的雰囲気が多少政党の間で変わったとしても、科学者、技術者の間で変わるかどうかわかりません。ですから、これをまず覆すことがむずかしいのではなかろうか。さらに一九六八年には宇宙開発委設置法に対する附帯決議というのをこれまた超党派で出しておられるわけで、これはその運搬手段のロケットの方を軍事利用できないというふうになっておるわけでございます。ですから、実はNPTに至る前の段階で日本は完全にフリーハンドを失っているというふうに考えた方がよかろうということでございます。さらに、それでもなおかつ核武装するということになった場合に、十年かかるか十五年かかるかあるいは三十年かかるかわかりませんけれども、一番重要なことは、一挙に非脆弱な有効な報復核能力をつくるということはできないわけです。だんだん原始的なものから高度なものへとシステム化していくわけですけれども、その間、核戦略上一番問題になりますのは、そのときに国際緊張が最も高まるということでございます。アメリカとソビエトの間にある程度デタントの成立が可能になり、SALTの交渉が始まったのは一九六九年、つまりその時点においてやっとアメリカとソビエトの核兵器のバランスがとれたわけであります。つまり、どうしても片方の貧弱な核能力を持っている国は、一生懸命それを非脆弱なものにしていこうとする過程で、一発敵から核攻撃を食らいますと全部だめになりますから、論理的にはまず自分から先に使う戦略をとらないわけです。ということは国際緊張を非常に高めるということでありまして、現在の中ソ間の緊張の高まりというのもそれと無関係ではないと思っております。そういう点を多少強調させていただきたい。  さらに、核燃料の供給の問題。前に日本が大体五ケ国からいま供給を受けているということを申し上げたわけですが、もしも日本NPTに加盟しなかった場合に、状況が悪くなると、約四十数%の供給源であるカナダがまず供給を停止するであろう。残るのが南アフリカ及びフランスでありまして、これは多少立場が違います。フランスNPTには加盟しないけれども同一行動をとると言っているわけでありますが、残るのは四十数%を供給している南アフリカであります。その多くの部分が現在問題になっておりますナミビアから来ているわけでございます。つまり日本が南アフリカに一層依存しなければならないということになった場合に、それは当然他の外交的な問題も伴ってくるわけで、日本は第三世界において、袋だたきに遭わなければならない。つまり関連が非常に多い問題でございます。そういうことを考慮に入れていただきたい。
  99. 久住忠男

    久住参考人 冒頭の陳述で申し述べましたように、世界の戦略思想は進化をいたしてまいっております。一国の安全保障だけを考えてその国並びにその民族が長く生存できるといったような考え方は、すでに旧式といいますか、あるいは弊害さえ伴うような世界情勢になっていると思います。  そこで冒頭に私は、日本のとるべき世界戦略として三つを挙げました。  一つは、核戦争の絶対防止、そのためには核防条約が第一義的目的を持っておるということも申し上げたつもりであります。  第二は、資源問題における適正、公平なる措置の実施であります。この資源問題にはもちろんエネルギー資源という重要なるものも含まれているわけであります。これは日本核防条約締結すると否とによって、短期的には影響はないかもわかりませんが、長期的に影響なしと断ずることはできないと存ずる次第でございまして、資源問題という将来われわれに課せられました人類の生存をかけての大きな目標に向かいまして、われわれは核防条約を軽視してはいけない、かように考える次第でございます。  第三は、地球環境の維持であることは、冒頭に申し上げたとおりであります。地球環境の維持のために日本は先頭に立って、ジュネーブで西堀大使がCTB条約、包括的核実験禁止協定でありますが、その達成のために働いておられます。核実験が地球環境の現状を破壊し、永久に人類のこの地球上における生存の環境を悪化するということは、すでに論じ尽くされ、結論の出ている問題であります。そういう点にも核防条約は関係があります。その他の条約とともに関係があるわけでありまして、以上申し述べました三つの世界戦略に基づきまして、ぜひともこの際、核防条約批准されることをお願いいたしまして、私に与えられたこの機会を利用さしていただきまして、陳述を終わります。ありがとうございました。
  100. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 大変ありがとうございました。
  101. 栗原祐幸

    栗原委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、本件審査のため大変参考になりました。委員会を代表いたしまして、厚くお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)  本日はこの程度にとどめ、次回は明十八日、水曜日、開会することとし、これにて散会いたします。     午後三時四十分散会