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塩本参考人 私は、同盟が昭和四十一年以来お産の費用は健康
保険でというスローガンのもとに運動を一貫して続けている立場から、百二
号条約における妊娠、
分娩に関する
医療と
母性給付について
意見を述べさせていただきたいと思います。
五月三十日の外務
委員会における
議事録を送っていただきましたので、それを拝見いたしますと、とりあえず四
部門について
批准し、残りの
部門についてもできるだけ早く
批准できるように努力したいというふうに
政府は言っておられるわけですけれ
ども、私
たちが最も期待している
母性給付についてはいつ実現できるのか全くわからないというふうな感じを受けました。そういうことは女性の立場にとってみれば実に喜べないものではないかというふうに思います。ことしは
国際婦人年で、現在ジュネーブで
ILO総会が開かれているわけですけれ
ども、ここでも
婦人労働者の
機会均等と待遇の平等について
検討され、宣言が採択されることになっています。世界的な潮流を見ると、妊娠、
分娩に対する
保障というのはより一層充実させていこう、しかもその
給付はすべて
社会保険または
社会保障の中に求めていこうというのが各国の
状況です。六十回の総会においてもその方向で宣言が採択される見通しに思われます。このようなときに
日本がせっかく百二
号条約を
批准しようとしながら、妊娠だとか
分娩に関する
給付は含まないでやろうというのはどうも納得できないし、世界的に男女の平等を求める運動が盛んになっている中で、
日本の働く女性の立場から言えば、平等を求める前提となる
母性の保護がまず確立されるべきではないかというふうに思います。
さきの外務
委員会でも出されていましたけれ
ども、
日本の妊産婦死亡率はアメリカの二倍、スウェーデンの五倍にもなっています。選挙のときになるとポスターによく
子供の写真が使われています。しかし、その
子供を産む母親は、昭和四十七年の統計で見まして、出生一万人に対し四人が死亡しています。
日本全国で見れば一年に約二百万人の
子供が産まれていますから、妊娠をし出炭をするというために大体八百人のお母さん
たちが死んでいるわけです。こういうことについて厚生白書を見ますと、欧米諸国に比較すると戦前はむしろ低かった
日本の妊産婦死亡率が現在逆に約二倍の高率になっている。その死亡原因は妊娠中毒症だとか出血である、またせっかく産まれても生後七日以内の新生児の死亡率が非常に高い、これらの原因を取り除くためには保健活動と
医療対策の充実が何よりも必要であるということが強調されています。こういうことを見ながら、母親の死亡率が欧米諸国より非常に高いのに比べて、それでは
子供の死亡率はどうかというと、
日本は非常に少ないわけです。ということは、
日本の
政府だとか
国民の意識の中に、
子供は大切だけれ
どもそれを産むお母さんの命はどうでもいいのだというふうな感じがしてならないのです。行政を見ても、
子供に対する児童福祉法が昭和二十二年にできて、ここの中に妊産婦の届け出だとかこれらを含めたことが付属みたいな形で入っている。しかし母親を中心にした法律はこれから後十八年おくれて昭和四十年に母子保健法ができているわけです。
妊婦の死亡原因が
医療対策の不備であるということは厚生白書でも認めているわけですし、産
婦人科のお医者さんも認めています。しかし、
日本は妊娠中の通院の費用も出産で入院したときの費用も全部本人払いです。私
たちが職場で若い女性や男性に、これから結婚しようとする
人たちにこのことを話してもすぐには納得しないわけです。どうして出産に対して
保険がきかないのかよくわからないのが普通の
国民感情ではないでしょうか。それは、私
たちがかつてお産の費用は健保での運動を集中的にやりましたときに全国的に署名運動を行いました。百万人ほどの署名が、ほかの署名に比べて実に簡単に集まったということから見ても、
厚生省の法評論と
国民の意識というのは全く違うのではないかというふうに思います。
ILO百二
号条約でも、
分娩あるいは妊娠は
医療の対象に含まれているわけですから、
日本政府だけが案ずるより産むがやすしということわざのとおりに、
母性に対する配慮は必要なしとしているとしか思えないわけです。
ところで、私自身もこの一月に病院で出産をしました。その費用のことをちょっと紹介をしてみたいというふうに思います。検診のために約十回通院をし、昨年からことしにかけては一回千五百円でした。ここの中でいろいろな検査を二回ほどしまして、五千五百円くらい払っています。このほかに現在は都が三回分の費用を出していますので、二回分の費用がまだ実際はかかっているわけです。さらに八日間その後入院をしました。八日間の入院費は十六万八百八十五円支払っています。さらに
分娩後一カ月の検査料親と子を含めると、合わせて十八万円の出費があったわけです。三年前、長男を出産したのが四十七年の暮れですけれ
ども、このときは個人の病院で個室に入ったのですけれ
ども、約九万円でした。こういうふうな費用がかかったのに対して、それでは実際どれだけの
給付がもらえたかと言うと、三年前九万円のときはたしか三万二千円でしたし、今回の場合には私の給料が安いということで
最低保障の六万円が戻ってきたというわけです。現在各
保険の
給付を見てみますと、
国民健康
保険の場合では市町村の条例で
金額を決めることになっていて、大体二万円のようです。
厚生省も二万円を標準としてその三分の一を補助するという立場をとっているようです。日雇い健保では二万円、
政府管掌健康
保険で本人の場合、
標準報酬月額の二分の一または最低六万円、国家公務員共済組合等では、本人の場合
標準報酬月額の一カ月分または最低六万円というふうに、とても開きがあるわけです。ですからこういう決め方だと実際にかかる費用以上にもらう人もいれば、実費の何分の一にもならないという人もいるわけです。また健康
保険における一昨年の改正のときに、
標準報酬月額の二分の一または最低六万円というふうなのが本人、配偶者については最低という言葉を使わないで六万円というふうな決め方をされたというのは、本人自身が
保険金を払っているのに、どうして最低の六万円しか
保障されないのかということは、働く、しかも実際に
自分も
保険料を払っている立場から言うと、非常に不満がある内容に思います。
さらに、こんなにたくさん費用が要る、それでは病気のときのもっとたくさん費用がかかったときはどうなのかというと、高額
医療費という形で三万円を超える部分については健保から支払われる仕組みになっているわけです。ですから結局たくさん
お金がかかって
自分が賄わなければならないのは結局は出産だけではないか。もちろん難病だとかいろいろなことはあるかもしれませんけれ
ども、私
たちが身近にだれもが体験する中では、妊娠、出産だけではないかという感じがします。
分娩は
医療であるかどうかについて、さきの外務
委員会では
医療の専門家に聞かなければならないというふうな答弁がされているわけです。私自身も病院にかかっているときに、ちょうどたまたま私の前にお医者さんに
相談をしている人がいました。というのは、田舎へ帰ってお産をしたいのだ、そこには産
婦人科の病院はないけれ
ども、公営の助産所がある。そこで出産したいのだけれ
ども、どうだろうと言う人に対して、お医者さんは、いや、助産所でするのは危ないですよ、
医療ができないから医師のいるところで出産しなければいけませんよという指導をしている。こういうふうな指導が実際にもされているという中で、やはり
厚生省の
考えというのは、もちろん技術的な面でできないという理由はよくわかっていますけれ
ども、私
たちの普通の
国民感情から言えば、やはり納得できないものではないかというふうに思います。
それから今度は、妊娠、出産による休業中の補償のことですけれ
ども、公務員の場合は八〇%が補償される。しかし実際は
労働協約というのですか、人事院規則等で特別休暇扱いをされて賃金として一〇〇%補償されて、休業中は働いていると同じ給料をもらっているのが
実態です。しかし民間企業で働いている
政府管掌健康
保険の
人たちは、六〇%の補償で産前産後四十二日ずつというふうに明確に書いてありますから、たとえば六週間前だと思って休んだのに、実際の
分娩がおくれてしまえば、その長引いた分はどこからも補償がされないというのが現在の
制度になっているということは、非常に不備だと思います。
子供を産むという、
人間にとって最も基本的なことに対して、国がもっと
責任を持つべきだと思いますし、そのための費用とそれから
医療の問題についてもっと積極的な対策が必要ではないでしょうか。
あわせて、最近、地方
自治体の
財政難のことがいろいろなところで議論をされています。最近、日経
新聞の記事で見ますと、地方
自治体で、たとえば乳児
医療の無料化がどんどん進められてきています。こういうことに対して
厚生省のコメントがついていました。そのコメントを見ますと、乳幼児を見るのは母親の
責任だというコメントなんです。こういう
考え方というのは、事実をとってみても、病気になった
子供の
医療をどうするかという問題を、母親が見なさいというのはどうもとんちんかんだし、やはり何となく、妊娠だとか出産というのは自然現象なんだから何とかなるのではないかという
考え方がとても強いのではないかというふうに思います。
それからまた、これは別の記事ですけれ
ども、栃木では、検診というのですか、妊娠中の検診の費用の無料化を実施した、そういう事実に対して、そういうのはどうも福祉行政の先取りだということで、余り適切ではないのではないかというニュアンスの
新聞記事を見ながら、もっと
母性を大切にする
考え方というのを国の基本にしないと、何とはなしに行き当たりばったりで、個人が処理すればいいんだという零囲気をつくり出してしまっているのではないかという感じがします。
そういう観点から、私
たちは今国会に民社党を通じて
母性保障基本法を提案しているわけですけれ
ども、百二
号条約の前進的な
検討とそれから
母性保障基本法のようなものをぜひつくっていただきたいというふうに、国
会議員の先生にも、行政当局に対しても強く要請を申し上げたいというふうに思います。(
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