○木村国務大臣 今回のクワラルンプールにおきます事件につきましては皆さんから大変御心配をいただき、また、いろいろと重要な御注意等もいただいておりまして、心から感謝申し上げる次第でございます。
幸いに、本日十時十五分、犯人その他を乗せました
日本航空機がリビアのトリポリの空港に着きまして、ただいま私がこちらに参ります時点では、四名のマレーシア人と
日本人の人質と、それから
日本航空の乗務員等、すべて
航空機からおりましてホテルに向かったという情報を得ておりますので、ただいままでの段階ではまずまず無事にその任務を果たしてくれておるということをまず御
報告申し上げておくわけでございます。
ところで、今回の事件につきまして、いま
久保委員がお示しのように、実は、
前回シンガポールのときにほぼ同じような要請を
日本航空に対してやりまして、
日本航空側もこれを引き受けて、無事事態の
解決をやったわけでございますが、そのときの時点におきまして、
日本航空の機長会の方から、こういうことには今後応じられないということできつい抗議の文書を総理大臣に
提出をしておるいきさつがございます。それは私も十分に理解をしておるわけでございます。
そこで、今回このような事態になりまして、
日本で刑が確定しており、また係争中で身柄を拘束されておる七名の犯人をクアラルンプールの空港に連れてこいということが、向こうで約五十名に近い人質をもってAIAビルに立てこもっておる犯人からの要求であったわけでございます。
政府といたしましてはいろいろな角度から検討いたしたわけでございますが、事がマレーシアで起きた事件であるわけでございますし、また、あそこで人質になっております一般の方
たち、スウェーデンあるいはアメリカの外交官を含めまして約五十名の人命の尊重ということから、また、犯人の中にどうも
日本人らしき者もおるということでもございますし、その五十名の
人たちの生命を保護するために、彼らの要求であります
日本で勾留あるいは刑の執行中の七名の犯罪人を引き渡すということ以外に方法はない、と、こういうふうに政治的に判断をいたしたわけでございます。
そこで、
日本航空の乗務員並びに
日本航空機を使ってこれをやる以外に方法がないのでございまして、私はまず
日本航空の朝田
社長に来てもらいました。そして、官房長官立ち合いのもとで今回の事情について詳しく
説明をいたし、この際人命尊重という立場からぜひ協力をしていただきたいという要請をしたわけでございます。今回の事柄は全く挙げて全部の責任を
政府が負います、また、今回のフライトにつきましても、
日本航空によるフライトとはわれわれは
考えなくて、
政府がみずからフライトをやるのだということで、すべての責任を
政府が背負うのでひとつまげてわれわれの要請を聞いていただきたい、と、こういうことを申し伝えまして、朝田
社長もこれを引き受けてくれまして、乗務員等と十分
話し合いの上であのような決断をしてもらったわけでございます。
そこで、いよいよ出発するに当たりまして、私は羽田の空港に参りまして、十一名の乗務員並びに
関係者、乗り組む
人たちに直接会いまして、同じことを御本
人たちの前で私は
政府を代表して申し上げたようなわけでございます。したがいまして、乗務員の方
たちにも
政府の意のあるところは十分に理解をしてこの任務についてくれたことと私は
考えておるわけでございます。
続きまして、この
人たちが最大限度に安全が保障されるための措置――こういう非常事態のときでございますからもちろんそれにも限度はありましょうけれ
ども、われわれの
努力によって安全が最大限度に確保できるための措置は何としても講じなければならないと
考えまして、クアラルンプールと十分連絡をとりながら今回の飛行の段取りをつけたわけでございます。
まず、第一点は、犯人の要求では乗務員は三名に限るということで来ておりました。これはクアラルンプールまで行きまして、いずれそれから先も使われることは予想することでございますので、これはどんなに長時間になり、あるいはどんな地域に行かざるを得ないかもわかりませんので、三名という乗務員ではとうてい安全は期せられないし、飛行の安全も生命の安全も期せられないので、これは困る、あくまでも二組のクルーが必要であるということで、最後までこれを主張し続けたわけでございます。
それから、どこに行くにいたしましても、目的地がはっきりして、目的地で着陸を認められて、そこで任務が終わるということが明確でなければならない、また、飛行の途中ではそれぞれ
関係国の上空を通過するわけでございますので、上空通過の承認を求めなければならない、また、途中で給油の必要があるようなコースになります場合には、給油のオーケーも絶対とらなければならない、と、これらの点を最後まで主張しまして曲げなかったわけでございます。そのために犯人の言うところと大分違いができてまいりまして、彼らが計画しておるクアラルンプールを出発する時間等も相当に延長になったわけでございますし、また、彼らの計画もこちらの主張によってずいぶん曲がってきたということも事実でございます。
コースにつきましても、通過国の承認を得られないために一度決まりかけましたコースも急遽変えざるを得なかった、給油地も変えざるを得なかったというふうなことで、われわれとしては最大の
努力をいたしました結果、途中経過いたします
関係国の了承も、また給油に必要な空港における一時着陸、給油ということも全部了承をとりつけまして、そしてもうこれ以上にわれわれとしてはやるべきことはないというところまで突きとめまして了承したような結果でございます。
したがいまして、無事目的地までは現在着いてくれておりますけれ
ども、帰りは犯人等をおろして帰るわけでございますが、しかし、帰り道にも、異常な飛行になるわけでございますから、どこでどういう事故があるかもわからぬわけでございますから、羽田に機材、機体並びに乗務員が無事に到着するまではわれわれとしては決して安心はできないわけでございますが、そういうふうな経過をたどりまして、また、われわれとしては最大な限度に生命、財産の安全を図る方法を講じまして今回の飛行を行ったということでございまして、
日本航空に対してはもちろんそういうことで命令する権限もなければ、
関係にもないわけでございます。また、個々の乗務員の諸君に対しましてももちろん乗務命令を出すべき性質の事柄ではございませんので、これは
日本航空自体としては
政府の要請を受けてくれましたし、また、乗務員自体は
社長の要請を受けて自発的に乗ってくれたという経過になっておりますことを御
報告申し上げる次第でございます。
なお、これらが無事に円滑に今日までいきました陰には、マレーシア
政府当局も並み並みならぬ
努力をしてくれましたことを申し添えまして、感謝をいたしたい、かように
考えておるような次第でございます。