○薗村
政府委員 まず一九五七年条約をちょっと簡単に御説明をさせていただきます。
一九五七年条約はブラッセルで採択されました海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約というものでございます。この国際条約は、世界各国で船が他人に損害を与えましたときにいろいろな原則に基づいてその損害を賠償するというようないろいろなかっこうがございますけれ
ども、
日本では実は明治以来商法の六百九十条にございますように委付主義と申しまして、船舶の所有者等が他人に損害を与えたときにその航海の終わりにおいて船舶その他の海産を
相手方に委付をしてその責任を免れることができる、こういうふうになっておるのでございますが、この委付主義につきましてはいろいろ欠陥が多いということで、これによっている国がもう世界でほとんどなくなってきた。わが国でもこの制度が援用される例がほとんどないというような実情がございますこと、それからそれにかわるべき金額責任主義というものは損害賠償責任の体系として合理的であって、近代的な海運企業に最もよく適合しているということ、それからわが国としても戦後長きにわたって弱体でありました海運企業もその経営基盤が強化されて、企業の危険に対して保険制度を利用することによって担保しようという
考え方に変わってまいりました。一方、わが国における責任保険の
体制も大幅に整備、強化されたという事情がございます。それから、わが国の海運の世界海運に占める地位も非常に向上してまいりましたということから、わが国海運といたしましてもこの一九五七年条約を批准いたしまして、これを国内法化をして委付主義から金額主義に移行する必要が出てまいりました。現にこの一九五七年の条約は一九六八年、昭和四十三年に発効して現在世界の二十六カ国が加盟しているという
現状でございます。
そこで、法務省において法制審議会の御審議を得まして、この答申を基礎に関係省庁で所要の調整を行いながら法案の作成の作業を進めて、今国会に一九五七年条約を国内法化するために船舶所有者等の責任の制限に関する
法律案というものを提出する運びとなって、法務
委員会で近く御審議を仰ぐという経緯になっておるのでございます。
〔
委員長退席、増岡
委員長代理着席〕
それから次の一九六九年の油濁責任条約のことでございますが、これは事の発端は一九六七年の三月に御
承知のとおり英仏海峡でトリー・キャニオン号事件という大きな油濁事件が発生をいたしました。そこで、油濁問題をめぐっていろいろな問題がその当時提起されたのでございます。
一つは、不法行為責任の成立には通常世界各国ともに故意または過失の存在を必要としておるというのが通例でございますけれ
ども、タンカーによる油濁事故について船主が無過失であっても、責任はないんだと言い切っていいであろうかということでございます。
それから二番目には、多額の損害を生ずることのおそれのあるタンカーの事故について、一九五七年条約に定めてありますところの船主の責任制限の条約による責任制限というものを認めていいだろうかということが第二点でございます。
それから第三番目には、沿岸国の
政府が支出しました油濁防止の
費用は当然その不法行為に基づく損害の一部として賠償請求の対象にしていいと思われるけれ
どもどうであろうか。
それから四番目には、油の輸送に対して発生するこの種の事故については、責任はタンカーの船主だけでなくて、それによって受益をしているところの荷主も一部負担をしていいのではないか。
こういった四点ほどの問題がその当時問題として提起されまして、そのために、IMCOといいます国際機関で
法律委員会を設けまして、この問題について
検討するということになりました。
一方、万国海法会という学会でも同じ問題を取り上げるということでございまして、両方
協力して油濁責任の賠償についての条約案を作成することになった。
この結果、一九六九年の十一月にブラッセルでIMCO主宰のもとに開催された国際
会議でつくられたのが油濁民事責任条約でございまして、これを今回国内法化したいということで、運輸
委員会に御審議をこれからお願いしようとしているところでございます。
それからさらに一九七一年条約というのがございます。これは条約の副題に一九六九年の油濁損害についての民事責任に関する国際条約の補足という題がございます点でも明らかでございますように、一九六九年の条約を補足して、両々相まって油濁責任の損害の賠償制度を十分なものにするというために採択された条約でございます。で、一九六九年の油濁民事責任条約が採択されるときに二つの点が提起されたわけでございます。
一つは、一九七一年条約によりまして船主に対して無過失責任という厳格な責任を課することにいたしますとともに、その責任の限度額を一九五七年条約によるところの船主の責任の場合にトン当たり二万四千円、これは
日本の価額で申し上げたのですが、これを倍増してトン当たり四万八千円にしようということが一つでございます。
次には、しかしながらそれでもなおその被害者に十分な補償を与えるものではないではないかという点が心配されますので、その賠償のために国際基金を設立をして被害者にもっと十分な補償をしようという点とともに、二万四千円から四万八千円に倍増しました船舶所有者の責任が全部船舶所有者にかかることはやや過酷な点があるということで、そのうちの一部を船舶責任者の責任を軽減するということがなされたのでございます。この一九六九年の条約を採択するときに決議された
内容に基づきまして、先ほど申しました国際機関であるIMCOで一九七一年の十一月から十二月にかけてブラッセルで国際
会議が行われまして、国際基金条約が採択をされるに至った。そこで、この基本条約を国内法化するという
意味で、これから当
委員会で御審議をいただこうということでございます。