○
国務大臣(
福田赳夫君) 私、このたび副総理、
経済企画庁長官に任命になりましたので、
皆さんによろしく御指導賜わりたいと
お願いを申し上げます。
ちょうどいい機会でありますので、私の考えておる
諸点につきまして申し上げさしていただきますが、詳細にはこの書面で
皆さんにお読み取り願いたいと、かように存じますが、その中で重要な
諸点につきまして申し上げさしていただきたいと思います。
いま
わが国経済が当面しておる問題は、大きく分けますと
二つだと思うんです。で、
一つは
わが国の
経済政策の
基調を明確にこの際転換しなきゃならぬと、こういう問題であります、それからもう
一つは当面のこの
インフレとデフレの混在するこの
事態をどういうふうに打開してまいるかという問題だと思います。
第一のこの
経済姿勢、
経済基調の転換の点につきましては、これはまず第一に考えて見なけりゃならぬ問題は
わが国を取り巻く
国際環境の問題だと、いま
世界が非常に大きな曲がりかどにきておる。私はいまのこの曲がりかどという
状態は、これは非常に大げさに言いますと、これは人類始まって以来の変化だと、つまりいままで人間が地球上の
資源はこれは無限であるという
前提のもとに生きてきた、金さえ積みますれば
幾らでも
資源は入るという世の中で生きてきたわけでありますが、これが
資源は有限であるという
意識のもとで暮らさなければならない、そういうことだと思います。そういう中におきまして
世界経済は非常ないま
混乱期でございますが、この
混乱は私は今世紀になりましてからは最大の
混乱だ。その例を過去に求めまするならば、一九三〇年代にただ
一つこれにたぐいするものがあったと、こういうくらいな今日は大
混乱であると、こういうふうな
認識でございますが、一九三〇年代のあの大
混乱は、一九二九年のアメリカの
フーバー不況から端を発しまして、五年間で実に
世界の総
生産が四割縮減した、総貿易は三割減ったということだからたいへんな騒ぎです。私は、今日の
事態はああいう深刻な
落ち込みにはなりますまいと、こういうふうに見ております。それは、
世界の
経済協力機構、
協力体制が非常に整備された、この活動があの当時のような
落ち込みは抑止するであろうと、こういうふうに見ておりますが、しかし、あのときよりも深刻な問題をかかえておるというのが、最初に申し上げました
資源有限という
時代に入ってきたということであります。その象徴的な事件が、昨年十一月のアラビアの石油問題に例を見るごときことだろうと、こういうふうに思っておる。そういう転換した
有限意識の
世界情勢の中では、
資源保有国というものが、これがまあ
経済社会においては
売り手市場の
立場になる。また同時に、この
資源を、
経済的目的を離れまして、政治的あるいは戦略的にこれを用いるという
動きをとる
傾向が出てくるであろう。そういうことになりますと、
資源消費国側は、そういう
資源保有国側の
動きに対しまして身がまえの
姿勢をとらなきやならぬ、つまりそれは省
資源、省エネルギーという
姿勢であると、こういうふうに思うんです。そういうことを考えますと、私は、この
世界経済のこれからは、一九六〇年代に実現したようなはなばなしい繁栄、とにかく六〇年代は五・七%
成長、非常に高い水準の
成長を達成したわけでありますが、そういう
成長はこれからは
世界経済として考えられない。まあ、見通し得る将来、当面かなり長きにわたって低
成長時代、しかもその低
成長というのが安定した低
成長でなくて、その低
成長時代の中で
石油戦略手段というようなことをとる国があり得るという
波乱含みの低
成長時代、そういう時期になってくるんじゃあるまいか。
そういう展望を持ちますと、
わが国がこれからどういう
経済政策の
基調でいくべきかということになりますと、
結論は私はもうおのずから明らかだと思うんです。まあ、一昨年までのあの
高度成長というような、ああいう夢は再びもう実現すべくもない。
資源の厳重な制約がある。また、私は
資源ばかりじゃないと思うんです。
物価をこのようにしたのは何だというと、やっぱり
拡大政策といいますか、あの超
高度成長、こういうものがこれをもたらした大きな原因でもある。あるいは
日本列島が公害列島化されようとしておる、その問題も考えなきゃならぬ。いろいろな要素を考えてみるときに、
わが国はもう
高度成長政策、またその背景にあるところの
高度成長思想、これから完全に抜け出て新しい道を探らなきゃならぬ。新しい道とは何だといえば、これはおのずから明らかだと思うんです。やはり静かな、控え目な
成長ということを考えるほかはない。その中におきまして、
高度成長という量的な
拡大の中では、やっぱり
産業優先の
考え方、これが進められたわけですが、静かな控え目の
成長、そういう中におきましては、
産業、これも考えなきゃなりませんけれども、これが優先せず、やっぱりわれわれの
生活が優先するという内容のものでなけりゃならぬ、こういうふうに考えるのであります。
そういうような
考え方に立ちますと、いままで
高度成長政策推進の主軸となってきておりました
経済社会発展計画、新
全国総合開発計画等の国の
基本計画はこれを根本的に改定する、そしてまあ出直し、ほんとに白紙というくらいな
立場に立ちまして、根本的な洗い直しをしてつくり直すということにしなければならない、こういうふうに考え、この
成長の量、また
成長の中身、両面にわたりましての検討を始めまして、そして
昭和五十一
年度からこの両
計画とも新しい
計画のもとに発足することにいたしたい、かように考えておるのであります。
で、当面の問題は第二の、われわれの今日の課題である
インフレ問題をいかに解決していくかと、こういう問題だと思います。いまこの当面の問題につきましては、
インフレ抑制かあるいは景気かというような論争もありますが、私はもう非常に割り切った
考え方でいこうと。これは、
インフレの
抑制が最も優先する、よって、まあ
摩擦も生じましょう、その
摩擦に対しましては、それぞれ機動的、弾力的な手当てをする、そういう
姿勢でなければならぬと、こういうふうに考えます。いま今日、
物価インフレの問題は、いわゆる
狂乱物価、これは
需給インフレでありますが、その
段階を脱しまして、静かではあるが、根強く
物価を押し上げる、そういう力の働いておる時期、
コストインフレの時期に来ておると、こういうふうに理解するわけであります。
狂乱状態はことしの二月で大体まあおさまりまして、その後は
卸売り物価もまあ毎月平均〇・六五ぐらいなところで
上昇を続けておる。
消費者物価は、十月までをとってみますと、本
年度に入りましてから一・四%の速度で
上昇いたしておる。そういう
状態で静まりは見せておるものの、なお根強い
上昇圧力というものがある。それは何かと言いますれば、
コストでございます。
コストのうち、ことしをとって見ますと、一番大きかったのは何と言っても一月一日から原油の
輸入価格が四倍になったと、これが大きく響いた。次いで四月の
春闘、これによる
賃金、これが三二・九%の
上昇であった、これが響いておると、こういうふうに思います。しかし、それらの
コスト要因というものに対しまして、何とかしてこの
コスト要因を乗り越えて、そして
消費者物価の安定を実現しなきゃならぬ、そういう
考え方のもとに、本年の
物価につきましては、来年三月の時点における
消費者物価の
上昇率が本年の三月に比べまして一五%の
上昇にとどまるようにということを期しまして、諸般の
対策を講じておるわけであります。幸いにして十一月の
消費者物価上昇が〇・五%というふうになったわけであります。ですから、十二月、一月、二月、三月の
上昇が、これが〇・七五%、これでまいりますと、まだこれ一五%ということになるのでありますが、まあこれがためには、総
需要抑制政策、これはもちろん続けてまいります。同時に、
個別物資の
需給と、それから輸送、そういうものにつきましても万全の
努力をしていきたい。なお、
公共料金につきましては、三月までは全面的にこれを凍結するということにいたしたい。まあこれは、また第二次の
石油ショックがありましたなんというような異常な
事態がありますれば
格別でございますが、何とかしてこの一五%
上昇目標というものは、ぜひその
程度以内にとどめたいというふうに考えております。で、さらに来
年度、つまり来年四月以降一年間の
物価上昇をどういうふうに見ておるかという問題でありますが、これにつきましては私は、この
年度間の
上昇率を一けた台に何とかしてみたいということを念願しておるのであります。私は、これは総
需要抑制政策を進め、そして万般の配慮をするということになりますれば、これは実現は不可能ではない、こういうふうに考えておりますが、その途上におきまして
コストインフレ過程でありますので、その
コストとして大きな問題が
二つある。
一つは、
公共料金の問題です。
一つは、
賃金の問題でございます。しこうして、両者はからみ合っておる。
私は
公共料金の問題につきましては、これはいま
関係各省から
五つの品目につきまして、
料金、
価格の
引き上げが提案をされておるのであります。小麦、塩、たばこ、
電信電話及び
郵便料、この
五つでございます。それらにつきまして、何とか、大事な時期でありますので、これが
料率の
引き上げの見送りをいたしたい、こういうふうに考えておりますが、他面、これを、その
企業体などの
立場からその
企業運営の健全な
運営のためにというので、強い
上昇、
引き上げの
要請もあるわけであります。また、
財政当局から
財政の
健全性を保持するというたてまえからまた強い
引き上げの
要請も受けているのであります。しかしながら、とにかく来年の
物価というもの、これはやはりことしに比べて格段の落ち着きを見せたという
状態を実現しなきゃならないという非常に大事な時期であるということを考えますと、
財政上の
理由もありましょう、あるいは
企業上の
理由もありましょう、ありましょうが、それを乗り越えてやはりここで
公共料金引き上げ抑制という
方向への
ふん切りをつけるべきであるというふうに考えます。いま
企業当局やあるいは
財政当局とそういう
方向を何とか実現したいというので、最後的な
努力をしておる、こういう
段階でございます。
もう
一つの問題は
賃金の問題であります。
賃金問題、これはもとより
労使の間で
決定さるべきものであって、
政府といたしましては、その
決定には介入をいたしません。しかし、この
賃金がいかに
決定されるかということは、これは
日本経済の今後に非常に大きな関連があるんだという
認識でございます。一昨年までの
経済は、十三年間にわたりまして高
賃金、高
成長というパターンである。また、そのもとにおきまして
物価は比較的
安定状態であった。
卸売り物価のごときは、ずっと十三年間続けて横ばいでございます。
消費者物価は五%ないし六%の
上昇にとどまるというような
状態でありましたが、それは何かといえば、
高度成長でございまするから、
企業の規模も
拡大される、それにつれまして
企業の
生産性も
向上される、したがって、
賃金が上がりましても、その
しわ寄せが
製品価格の
上昇というところにはいかなかった。ただ、
生産性の
向上のしにくい
小売り業者等においては
製品価格にこれを
しわ寄せをするという
傾向もありまして、
卸売り物価は安定したが、
消費者物価は若干の
上昇をするという現象を生みましたけれども、ともかく
高度成長下においては、
生産性の
向上が顕著に見られたわけであります。しかし、五十
年度という年はこれは
安定成長軌道が敷かれるまでの踊り場である、
経過期間であるということを考えると、かなり低目の
成長ということを
前提としなきゃならぬと思います。大体四%
程度の
成長かと、こういうふうに思っておるわけでありますが、そのくらいの
成長下においては
生産性の
向上というものは非常に低いわけです。そういうことになりますと、
賃金が上がる、いままでの
惰性で去年は三二・九%だったからことしは
幾らというような
惰性できめられますると、そのきまった
賃金というものが
消費者物価に大きくはね返ってくる、
消費者物価がまた
上昇するということになればまた
賃金を上げなきゃならぬということになる、
賃金と
物価の悪循環が始まります。そしてまあ社会的不公正はますます
拡大をする、非常な不安定な
日本社会になる、その上さらに
対外輸出競争力、これは大きく減殺をされるということになって、これはもう
日本経済の大問題になってくるんだろう、こういうふうに思うときに、この
春闘というもの、来年の
春闘というもの、これからの
賃金というもの、これが
物価には、また
わが国の
経済にいかに大きな
関係を持つかということをあらためて全
国民が理解すべきであるし、特にこの
賃金問題の
決定の当事者であるところの
労使双方においてあらためてそういう性格の違いのある
賃金問題の
決定であるということの
認識を深めていただきたいということを念願しておるわけであります。しかしこの
賃金が
労使の間におきましてなだらかに、合理的に
決定される
前提といたしまして、
政府はその持っておる力の
全力をかかげて
環境づくりをしなければならない、こういうふうに考えるのでありまして、その
環境づくりの中でひとつ大きな
政府のなし得る問題、これはやっぱり
公共料金の問題、こういうふうにとらえておるわけでありまして、
公共料金を据え置くということになると、いま
各省から要求されておる
料率の
引き上げ等によって生ずる増収は一兆二千億円ぐらいになる、全部それを押えるということになると一兆二千億円の
各省の要求を削減をすると、こういうことになりまするけれども、私はもうこの
物価問題というものは金では買えない大きな問題だろうと、こういうふうな
認識でございますので、多少金の面で将来に後遺症を残すという問題がありましても、それに
ふん切りをつけて、この際は
公共料金、
コストインフレ下の
コストの重大な
要因であるところの
公共料金につきましては凍結する、これを
物価の鎮静するまでは凍結するというような、そういう
考え方をとるべきじゃないかと、こういうふうに考えましてせっかく
努力しており、一両日中にその
結論を出したいと、かように考えておる次第でございます。内外とにかく非常な転換期でございまして、微力その任にたえ得るかどうかわかりませんけれども、とにかく
全力を尽くしてこのむずかしい
二つの問題に取り組むという決意でございますので、何とぞ
皆さんから
格別の御教示と御
鞭撻にあずかりたいということを
お願いを申し上げまして、ご
あいさつといたします。(
拍手)