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政府委員(安達健二君) 映画の
著作者、
著作権の帰属等につきましては、非常にむずかしい問題がございますが、新しい
著作権法の第十六条におきましては、映画の
著作者はだれであるかということにつきまして、この原作者を除きまして、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の
著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」というように、監督以下の方々が
著作者であるということを、まず第一前提にいたしておるわけでございます。
著作者の有する
権利は、
一つは
著作者の人格権という問題でございます。それから経済的に利用する
権利を単純に
著作権といっておるわけでございます。したがいまして、監督等の
著作者は映画に関する
著作者としての人格権、これを無断で変更されない、変更禁止する
権利というような、要するに、
著作者の人格的な
権利は保有するということをまず第一前提にいたしておるわけでございます。ところがもう
一つ、映画の
著作物を経済的に利用する、これを複製し、頒布し、映画館で上映するという
権利になりますると、これは映画の
著作権の経済的利用を有効にするためにはできるだけ簡明にしなければならないということで、その経済的利用権は、映画の製作者、メーカー、主として映画会社等に帰属すると、こういうような現行法になっておるわけでございます。
それから一方、ただいま御
審議していただいておりまする
条約の考え方でございますが、この映画の
著作権——ここで言っている
著作権は経済的利用権でございますが、その
著作権者をだれにするかということが、それぞれの
国内法で定めてよろしいということにいたしておりますが、その次の(2)の(5)項でもちまして、しかしながら、この映画の「製作に寄与した
著作者」、まあ監督等その他ございますが、あるいは実演家の俳優等もございましょうが、こういうことについて、映画の製作に参加することを約束してしまえば、「反対の又は特別の定めがない限り」は、その映画の
著作物の経済的利用については「反対することができない。」ということで、国際的に見ますると、そういう映画の
著作権は映画の製作者に帰属したものとして扱って差しつかえないと、こういうのが(2)の(5)項の
規定でございます。ところが、
国内法によりまして、映画の監督にも経済的利用権としての
著作権を与えている国もある、そういう国が困るではないかということで、これはこの前のこの
規定ができました
ストックホルム改正会議の最終
段階になりまして、主として東
ヨーロッパの国等におきまして、映画の監督にも
著作権を与えているから、一般的に映画の監督権に
著作権をなくすることは困るからということで、(3)項の
規定が入ったわけでございます。しかしながら、その後段におきましては、そういうことをきめている国、すなわち、映画の監督に
著作権を留保している国は、逆にそういう旨を
同盟国に通知しなきゃならぬということで、すなわち、そういうのは国際的に言いますと、いわば例外的になるわけでございまして、そういうような国は、外国に通知しておきませんと非常に困るからというので、そういう国は特に通知をしなさいという
規定でございます。したがいまして、考え方といたしまして、あるいは世界の傾向から言いますると、映画の
著作権を製作者等に
統一的に
処理して、経済的利用をはかる必要があるだろうというのが大勢でございますけれ
ども、なおしかし、監督等に留保するような国については、他の国にも通知をしてそれも認めようというのがこの
条約の一般的な考え方でございます。そういう考え方から言いますると、新しい
著作権法は、この
条約に沿っていることはもちろんでございますけれ
ども、世界的な大勢からしては、大体そういう線に近いものではないだろうかという感じがいたすわけでございます。
で、ただ映画の監督等の方々におきましては、映画の監督等にも、一そういう経済的な利用権についての
権利もほしいという意見は前々からあるところでございまして、この新
著作権法案の御
審議の祭にも、いろいろとそういう意見が出されまして、この問題はなかなかむずかしい問題だから、ひとつ将来の検討課題にするようにということで、衆参両院とも附帯決議に、今後検討すべき課題として、映画の
著作権の帰属の問題が掲げられているところでございます。