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石橋政嗣君 三木総理大臣、私は、この壇上であなたに向かって、このように呼びかける最初の議員となりました。これも何かのめぐり合わせだと思いますので、本論に入る前に、やはり一言、
お祝いの
ことばを述べたいと思います。
ほんとうに御苦労さまでございます。
お祝いといえば、本来なら、おめでとうございますと申し上げるべきかもしれません。しかし、敗戦直後の
混乱期を除けば、戦後のどの時期よりもきびしく重苦しい時代に
総理大臣に就任されたあなたには、やはり御苦労さまという
ことばのほうが、私にはふさわしいように思えてならないのであります。あなた自身も、
自民党の総裁に指名されたおりに、身の引き締まる思いだと言われておられたことですし、私なりの祝辞をすなおに受けとめていただけるものと思います。
さて、私は、
日本社会党を代表いたしまして、これから
三木総理大臣の
所信表明演説に対し、若干の質問を行ないたいと思いますが、どうか率直、かつ誠意ある御答弁をお願いいたします。
総理は、みずから議会の子をもって任じておられるのですから、議会における
質疑応答を、いままでのように形式的なものに終わらせず、充実したものとし、親たる議会の権威を高め、議会の子にふさわしい
親孝行ぶりを身をもって示していただきたいと思うものであります。(拍手)
ところで、総理、具体的な質問に入る前に、ちょっと次の演説に耳を傾けていただきたいと思います。
「私は、今日の時局を戦後最大の危局であると思っています。このままいくと、日本の
議会民主政治の崩壊に通じかねない危局であると深く憂えております。世間の論議は文芸春秋の記事に集中していますが、今日の危局を生んだのはもっと深く早くからであり、その原因は少なくとも三つあると思うのです。
第一は、金力、権力に依存し過ぎて、世論の動向を軽視した
田中政治の行き詰まり、第二は、国民の一番心配している物価、不況、
エネルギーの問題に対する
見通しの不明確さと対策の不十分さに対する
国民的不満、第三は、
自民党が
党内センスでしかものごとを考えない
閉鎖的政党となり、
国民的視野と立場で考えないことに対する国民のいら立ち、こういうことが互いにからみ合って今日の危局を招いたのであります。」
総理はすでにお気づきだと思いますが、これは私の言いたいことをそのまま述べてはいますけれども、私の演説ではありません。去る十一月五日、徳島において「岐路に立つ
日本政治」と題して行なった、あなた自身の演説なのであります。
日本の現状は、あなたがこの演説の中で指摘しているとおり、この機会に思い切ったメスを入れなければ、まさにたいへんなことになるのであります。確かに、
田中内閣の退陣、
三木総理の出現によって、現在は
小康状態にあります。それはなぜか。それは言うまでもなく、国民の多くがあなたに一るの望みを託しているからにほかならないのです。
総理、あなたは、あなたがこの国民の期待を裏切ったらどういうことになるか、それを片時も忘れないでください。それが、あなたと同じように日本の
議会制民主主義の将来に多大の危惧を抱いている私の腹からの訴えであります。
さてそこで、私はこの訴えを基調として、これからいろいろと総理にお尋ねしてみたいと思います。
第一は、先ほどから引用しております十一月五日の演説であなたも指摘している、
金力政治、
権力政治についてであります。いま国民の政治に対する信頼を取り戻すためには、何はともあれ、この
金力政治の芽をつみ取り解消することが絶対に必要であることは言うまでもありません。そのためには、まず、現在国民の疑惑の対象となっている一連の金脈問題の真相を国民の前に明らかにすることであります。
総理、この場で、金脈問題の
真相究明には積極的に取り組むと約束してください。そして、当面最大の障害となっている公務員の
守秘義務、秘密を守る義務についても、議会の子らしく、国権の
最高機関たる国会の
国政調査権のほうが優先することは当然であると言明し、国会の調査に協力すると言明していただきたいのであります。
同時に、
公職選挙法を改正して
選挙公営の拡大をはかる、
国務大臣の資産の
公開等に関する法律を制定する、
政治資金規正法を抜本的に改正して、会社、
企業等、
営利団体からの
政治献金を一切禁止し、会費たるといなとを問わずすべて献金はガラス張りにするということをも、あわせて約束していただきたいと思います。(拍手)
そして、まず隗より始めよ。法律の制定または改正を待たず、
国務大臣の資産の公開を実行し、
三木派としては
営利団体からの
資金集めを直ちに中止するということをも、この場で言明していただきたいのであります。そうすれば、おそらく国民はひとしく、あなたの掲げる清潔、誠実のスローガンに対し、心からなる称賛の拍手を贈るに違いないと思うのであります。もしこれすらできないというのであれば、総理、あなたは口舌の徒という非難を受けるおそれすらあるのではないでしょうか。
自分の派閥のことですから、よもやお忘れではないと思いますが、念のために
三木派の集めた献金の総額を申し上げておきますと、
自民党の
総裁選挙のあった年、すなわち昭和四十七年が十億五千万円、翌四十八年の分が
政策懇談会、
近代化研究会、合わせて五億三千百十万円であります。これは自治省に届けられた分でありますが、決して少ない金額ではありません。総理の明快な答弁を期待いたします。
第二は、これも先月五日の総理の演説の中で触れられている
物価高と不況の問題であります。あなたは演説の中で、これらの問題に対する
田中内閣の
見通しの不明確さと対策の不十分さをきびしく批判しておられますが、それでは一体あなた自身はどうなさるつもりなのかという点であります。
歯にきぬを着せずに申し上げますと、一般の評価は、新首相は経済に弱いとされているのであります。しかし、これだけ明確に
田中内閣の政策の貧困と無策を国民とともに嘆き、かつ憤っておられるあなたが、具体的な対策を持ち合わせていないはずはない、私はそう思います。そう思って、期待を持って先日の
所信表明演説を待っておりました。しかし、残念ながら期待は完全に裏切られたのであります。
所信表明演説を聞き、そのあと何度読み返してみても、そこには総論あって各論なく、
精神訓話を読む思いしかしなかったのであります。これは何も私一人の感想ではないはずです。あの演説を聞いて、これで
不況下の
物価高がやがて何とかおさまるであろうと納得し、安堵した人がはたしているでありましょうか。
私は、総理が十一月五日の
徳島演説で、今日の日本の
高度成長をささえた条件が、国際的にも国内的にもすべてくずれ去ったと断定している点は、全く正しいと思っております。この判断があればこそ、
安定成長路線に切りかえ、
資源輸入を節約し、
財政支出も切り詰めるという政策が打ち出されてきたのだと思います。しかし、それが度を越せば不況を深刻にし、大きな社会問題を引き起こす。そこで、総
需要抑制の
ワク組みをくずしてはならないが、その
ワク組みの中では、実情に応じ、きめこまかい
現実政策もとらなくてはならないというわけです。
しかし、これでは、評論としてはりっぱでも、
具体策は何もないといわざるを得ないではありませんか。肝心なことは、そのきめこまかい
現実政策こそが示されるべきだということです。実情に応じた
現実政策だからといって、場当たり的なものであってよいはずはありません。それとも、これから先情勢がどのように動くか全く見当がつかないので、対策の
立てようがないとでもいうのでありましょうか。まさかそうではありますまい。
そこで、お伺いをいたします。
第一は、
安定成長路線に切りかえるというのでございますが、
安定成長とは一体どの程度の範囲の
伸び率をいうのか。本年度の
経済成長率は大体どの程度になる
見通しなのか。そして来年度はどの程度に持っていく計画なのか。
第二は、目標とする
経済成長を遂げるために必要な石油の量は幾らなのか。資源、特に石油の量を節約するというのですが、一体どの程度の節約を見込んでおられるのか。節約の要請と、さきの
宮澤外務大臣の、石油の輸入は前年度より五%増しという発言との矛盾は一体どうなのか。同時に、石油などの輸入に必要なドルの
保有量の現状及び来年度の
見通しを、
外貨準備高だけではなく、
為替銀行ポジションの面からも御説明をお願いいたします。
第三は、
財政支出を切り詰めるというのでありますが、来年度予算の規模をどの程度に押えるつもりなのか、前年度比でお示しを願います。
第四は、総
需要抑制の
ワク組みはくずさない、
財政支出は切り詰めるということは、結局のところ金融を緩和するということなのか、もしそうだとするならば、私には若干意見があります。
総
需要抑制の究極の目標が物価の安定にあるとするならば、不況の
深刻化を防止するというかね合いで考えられるべき措置は、いたずらに金融の緩和をはかることではなく、
生活福祉重点、
地方財政充実、特に、おくれている
老齢年金と住宅、
下水道等の整備のための予算をこそ思い切って増額し、
財政投融資の配分についても重点的に行なうべきではないのでしょうか。
金融緩和はあくまでも
中小企業の分のみに限定すべきです。この主張に対してもあわせてお答え願えれば幸いであります。
ところで、私たちがいま一番不満なのは、物価を安定させるために必要であり、そしていますぐにできることを、すべてこれからスタートする
経済対策閣僚会議の討議にゆだねると言って逃げていることであります。いま直ちに決断しなければならない問題をしばらく凍結し、ほとぼりのさめるまで待つというのでは、総理の言う誠実という看板に反する、全く不誠実な態度と断ぜざるを得ません。(拍手)
総理、なぜあなたは
物価抑制策の一つとして、また、
インフレ、
物価高に悩む庶民へのせめてもの思いやりとして、焦眉の問題となっている酒、たばこ、塩、
郵便料金、
電信電話料金、
国鉄運賃等の
値上げは当分行なわないと言明しないのでありますか。
また、
公共料金の
値上げとともに、
物価高のいま一つの主因となっている
やみカルテルを撲滅するためにも、
独占禁止法の
改正案を必ず
通常国会に提出すると言わないのでありますか。
社会党は独自の案を示していますが、
カルテルをやればひどい目にあうということをはっきりさせるためにも、また、
カルテルがつくりにくい
企業構造にするためにも、せめて
公正取引委員会の案を最低のものとして、早急に
政府案をまとめると言明していただきたいと思います。(拍手)
ところで、私
たち政治に携わる者がいま一番真剣に考えなければならないいま一つの重要問題は、
インフレによってますます拡大した社会的不公平、格差をどうして解消するかということだと思います。
高度経済成長の中でたっぷりともうけ、力をつけた大企業や商社が、投機や
便乗値上げによってさらに
ぼろもうけをしているのに、これを放置したまま、
労働者に向かってのみ賃上げの抑制を説き、
勤労国民に対して節約と耐乏のお説教をたれてみたところで、一体だれが承服するでありましよう。
インフレの
不当利得を得た大企業、大
規模資産に対し、土地再
評価益課税や富裕税を新設して、これを吸い上げ、他方、四人家族二百八十万円まで無税とするような低
所得者重点の思い切った緊急の
調整減税を断行するといったことこそが必要なのであります。
租税特別措置法の改廃も必要であります。
さらには、全国一律の
最低賃金制度をつくり、
生活保護世帯、
心身障害者、
母子世帯などの給付の底上げを行ない、年金はすべて
賦課方式によって生活できる水準まで引き上げるといったことを実行することが大切だと思うのですが、いかがでございますか。(拍手)あなたの言われるとおり、三十年もこつこつつとめ上げてきた人々が、退職後の
生活設計が立たないなどというばかげた現状を改めるために、年金の思い切った引き上げ、これは、いま直ちに実現に着手すると、ここで言明していただきたいと思います。(拍手)
次は、
エネルギー問題と
外交姿勢についてであります。
エネルギー問題は、あなたのおっしゃるとおり、確かに「日本にとっては経済の分野を越えて
政治外交の分野にわたる問題」であります。あなたは、このような観点から「日本の
エネルギー政策、特に
石油政策は、どうしても多角的な方式にならざるを得ない」と言い、「人類に与えられた有限の資源をめぐって、人類が若し、政治的、
軍事的争いをやれば、それは
人類共滅の道といわざるを得ない。だから
産油国と、
消費国との対決などは、絶対に回避しなければならない」と主張しておられるわけです。
これは、あなたが副総理としてイギリスを訪問し、
ロンドン商工会議所で行なった講演の一部でありますが、まさに達見だと思います。
このような見識に基づいて、あなたは、日本の
エネルギー政策は多角的にならざるを得ないという結論を導き出しているわけですが、それでいながら、しかし「中
ソ関係とか、
アメリカと
アラブ関係とか、いろいろ複雑な政治的、
軍事的関心がからんできたので、
多角的政策もなかなか容易なことではありません」と、ここでもまた
評論家のようなことを言っているのであります。せめて
所信表明演説では明確な方向が示されるのではないかと期待したわけですが、ついに何も聞くことはできませんでした。
総理、あなたは、どのように困難であろうと、国家、国民のために正しいと信ずる道を歩むべきではないのですか。この際、明確に、
アメリカに追随し、
産油国と対抗的な
消費国同盟に加わることはない、また資源略奪的な
開発輸入は直ちに中止する、そして、これからは、
日米安保の
ワク組みから脱して、真に自主的な外交を展開し、互恵平等の
国際協力への道に転換すると、あらためて明言したらいかがでございますか。(拍手)
そのような
決意表明がない限り、「
三木内閣にかわっても、
日米友好関係の維持・強化が
日本外交の基軸であることにいささかの変化もありません。」ということは、どのように弁明しようと、従来の
一辺倒外交を続けるということにほかならず、就任前のあなたの
抱負経綸は早くも消し飛んでしまったものといわざるを得ないのであります。
このほか、あなたの主張が大幅に後退したのではないかと思わせるものに、日韓の
友好関係の強調があります。
総理、あなたは、金大中氏の事件や早川、
太刀川両君の問題は完全に
解決済みという見解をとっておられるのですか。韓国と対等に
話し合いもできないで、何が
自主外交ですか。
自主外交どころか、
外交不在というべきではないのですか。(拍手)
それに、朝鮮民主主義人民共和国に対してはどのように対応しようというのですか。全
アジア諸国との間の
友好関係をいう以上、隣国に対する態度に何ら触れないということはまことに不自然だと思うのであります。明快な御答弁をお願いいたします。
次は、食糧問題です。
もし日本の農業、
食糧事情が現状のまま推移するならば、主たる
輸入先の
アメリカやカナダの作柄や政策上の変化次第で、日本は確かに
石油危機以上の騒ぎとなることは必然であります。そして、それこそは、
歴代自民党内閣が
農民切り捨て政策、
安上がり農政をとり続け、一九六〇年代には、現在のECと同程度の
自給率九〇%を維持していたにもかかわらず、いまではわずか総合で四〇%台に落ち込んだ結果にほかならないのであります。総理、石油の次は食糧だなどとささやかれていることは、先刻御承知のことと思います。このような杞憂を現実のものとしないためにも、いまこそ農業の再建をはかるときであります。
この面からも、いたずらに
アメリカの
食糧戦略に加担し、追随するのではなく、少なくとも、今後十年の間に
自給率九〇%への復帰を目ざして、
農業基盤の整備や
農産物価格保障等、抜本的な対策を樹立する必要があるのではないのですか。御意見を伺いたいと思います。(拍手)
次は、公害・環境問題です。
あなたは、さきにも引用した
ロンドン商工会議所における講演の中で、「公害問題の
緊急性は世界一だと思います。私は
環境庁長官として、空気や水の汚染の
予防規制について、
個別的発生源についての厳重な規制と、さらに、地域全体としての厳重な
総量規制をも行なおうとしています。いろいろ抵抗もありますが、将来の世代に対する
現代政治家の責任を強く感じますので、きびしく規制を貫く覚悟です」と述べておられます。私は、この姿勢、かかる心がまえに対しても心から敬意を表します。
ついては、総理になられたいま、あらためてこの考えを実行に移すことを約束していただきたいのであります。直ちに、懸案となっている完全な
原因者負担の原則、無
過失賠償責任制、公害の
内部告発制、
挙証責任の
転換制等について決着をつけ、これらを全面的に受け入れた抜本的な改革を緊急に実施する意思をこの場で表明していただきたいと思います。(拍手)
さらに、当面焦眉の問題である
自動車の五十一年
排ガス規制の問題でありますが、いま、
中央公害対策審議会は大型、小型の二
段階制をとり、
規制値を緩和し、規制を二年間延ばそうという態度を示しているのでありますが、まことに遺憾にたえません。
総理、あなたは、
ロンドンの講演でさらに、「
日本商品は過去と比べてかなり
国際競争力が、価格の点で落ちています。現に、
自動車の対
米輸出については、日本のトヨタも日産も、
アメリカの小型車より
割り高になっています。
割り高のおもな理由は、
輸入原材料の値上がり、人件費を筆頭とする諸経費のアップ、円の切り上げなどですが)それにもう一つつけ加えなければならぬことがあります。それは、三木という
環境庁長官が指令したきびしい
公害対策のためのコストであります。私はこれからの政治の最重要問題はエコロジーではないかとさえ思っています」と胸を張って高らかに宣言しているのです。もし、この
自動車排ガス規制が大幅に後退するようなことがあれば、それこそあなたの国際的な信用問題にまで及ぶと言っても、決して言い過ぎではないのではないでしょうか。(拍手)
総理、政府はいま、国民の命と健康を尊重するか、それとも
自動車メーカーの利益を優先させるか、重大な
政治判断の岐路に立たされているのです。
中公審答申のいかんにかかわらず、必ず昭和四十七年十月の告示どおり実施するというき然たる決意をここに明確に表明してくださるよう、お願いをいたします。(拍手)
次に、教育問題について、
三木総理並びに
永井文部大臣にお尋ねしたいと思います。
教育の
重要性についてはここであらためて申し上げません。総理が派閥のエゴを排して民間から
永井文相を起用したことに対しては、これまた敬意を表するにやぶさかではありません。しかし、率直に申し上げて、
永井文相によって、従来からの反動的な
教育政策の転換が可能なのだろうかと考えますと、どうしても否定的にならざるを得ないのであります。
総理できるかできないか、そのかぎを握っているのはやはりあなた自身であります。あなたは、
中教審路線に対して批判的な立場をとり、
教育委員の
公選制に賛成し、
大学公社論を提唱した水井氏を文相に起用して拍手を浴びたわけですが、
ほんとうに
永井文政をささえることができますか。もしこれをささえることができなかった暁には、あなたは、
三木内閣の
フレッシュPR用に
永井道雄という人の顔と名前を利用しただけにすぎないと非難されることを覚悟すべきであります。(拍手)
総理、あなたは
ほんとうに
民主教育の原点に立ち戻って、反動化した
教育制度を再検討する意思を持っておられるのですか。持っているというのであれば、そのあかしとして、
中教審を廃止し、
教育職員団体の代表をも含む
ほんとうに民主的な、
内閣直属の
教育審議機関を持つべきだと思いますが、いかがですか、お尋ねいたします。
次に、
永井文相にお聞きしたい。
あなたは
文部大臣に就任直後、「教育を国民のものにするために、
教育内容に干渉するのでなく、その充実に努力する。そのために、文部省は
サービス機関であるとの信念のもとに
話し合いに徹して、
日教組との対立をなくしたい」と前向きの所信を表明しておられます。
他方、
日教組の
槇枝委員長も、
永井文相の誕生に敬意を表し、「永井新文相の教育に対する識見が今後の
文教政策に生かされるならば、
日教組は協力して日本の教育の荒廃を救うことができるものと期待している」との談話を発表しています。
私は、このような両者の発言を聞くに及んで、
自民党内閣における限界を知りながらも、やはり一つの期待を持つものであります。
ついては
文部大臣、次の四点についてお答えください。
第一、
大学進学制度の抜本的な改革を断行する意思がありますか。
第二、私学に対し
大幅助成を行なう意思がございますか。
第三、
中教審答申を再検討して、制度、条件を改革する意思がございますか。
第四、これらの改革を実行するために、
話し合い行政に徹し、政治と教育の不一致の是正に全力を注ぐ決意がありますか。
以上、四点についてお答えを願います。(拍手)
次は、
原爆被爆者援護法の制定についてであります。
三木総理、あなたは昭和四十七年八月八日、
国務大臣、副総理であった当時、
三木事務所において、
全国被爆者団体の代表に対し、
国家補償による
被爆者援護法を制定することは当然であると言明されたことをよもやお忘れではないと思います。
自民党内においても、
三木派を中心に、百名をこえる
衆参両院議員が
援護法制定に
賛成署名をしていることも全
被爆者周知の事実であります。
政府は口を開けば、日本は
世界唯一の
被爆国であると言ってきましたし、二発の原爆による
死没者は三十万人余といわれ、この人柱の上に今日の世界平和があることからしても、再びこの悲劇を繰り返さぬという決意を、国の責任による
被爆者援護法によって明らかにすることは当然のことです。
日本社会党は他のすべての野党とともに、今
臨時国会に、人道上の見地、
恩恵的立場からの政府の
被爆者対策二法案を乗り越えて、
国家補償の精神による
原子爆弾被爆者援護法案を提出いたしました。今後われわれはいつでも、政府・
自民党の要求があれば、
野党案を基礎とした超党派的な
法案作成の
話し合いに応ずる用意があります。
三木総理、来年は被爆三十周年に当たります。もうこれ以上待てないという全
被爆者の願いと、再び原爆による
犠牲者を出すなという
原水爆禁止の全国民の願いにこたえて、次の国会に必ず
被爆者援護法案を提出してください。このことを強く要求し、これに対する見解を求めるものであります。(拍手)
次は、
ラロック証言を中心とする核問題であります。
アメリカの
ラロック提督が、本年九月十日、
米上下両院原子力合同委員会軍事利用小委員会において、「私の経験から言えるのは、
核兵器積載の能力を持っているすべての船は、
核兵器を積載しているということです。それらの船が、日本など他の国の港に入る時も、
核兵器をはずすことはありません」と証言していることは、すでに御承知のことと思います。
総理、あなたは、
所信表明演説の中で「清潔で偽りのない誠実な政治を実践し、国民の政治に対する信頼を回復することに精魂を傾ける」と誓われましたが、この
ラロック証言をお聞きになってどのような感想をお持ちでございますか。提督の言うとおりだろうと思われますか。それとも、
ラロック提督は
アメリカの国会でうそをついているとお考えでございますか。偽りのない誠実な政治を目ざす
三木総理の忌憚のない御意見を伺いたいと思います。(拍手)
この
ラロック証言は、われわれが、
日米安保条約に基づき、
アメリカの核のかさの下に入り、その軍事力によって日本の安全の確保をはかろうという政策をとりながら、一方において、
アメリカの装備に何らかの制約を加えるなどということができるはずはないと一貫して主張してきたその主張の正しさを裏づけるものであることは言うまでもありません。
アメリカの原子力潜水艦や航空母艦が日本の港に入るとき、一々
核兵器を取りはずすなどということを信ずるほうがどうかしているのではないのですか。率直な御意見を伺いたいと思います。
総理、あなたは外務大臣当時、オーストラリア国立大学において講演した際、「私は、政府として国民を説得し得ないことは外国に対し約束してはいけない、しかし、約束したことは何としてでも国民を納得させて、その約束を守らねばならぬと思っている」と述べておられます。私は、このあなたの信条を全面的に支持いたします。
ついては総理、幸いにもというべきでしょうか、去る十二月九日公表された
アメリカ上院外交委員会の二つの分科会合同聴聞会の記録によりますと、シュレジンジャー国防長官は、「
核兵器の存在場所について肯定も否定もしない」という従来の
アメリカ政府の基本原則を再検討していると述べ、さらに「関係当事国が同意すれば、
アメリカはその国に置いている
核兵器の数を公表することに異論はない」と証言していることが明らかとなっているのであります。
総理、あなたの信条に従がって、国民にこれ以上うそをつかないようにするために、
アメリカに事実の発表を要請したらいかがですか。この証言の内容は後日訂正されたなどという逃げ口上を言わず、偽りのない誠実な政治を目ざす者として、やってみますと答えていただくことを期待してやみません。(拍手)
なおこの際、核拡散防止条約の批准問題についてのお考えをもあわせてお答えいただきたいと思います。
最後に、二点の質問をいたします。
一つは、どんな理由があろうと、
三木内閣は、
議会制民主主義のルールを無視して、
自民党内のたらい回しによって誕生した内閣でありますから、なるべく早く国会の解散を断行し、国民に信を問うべきだと思うがどうかという点であります。
いま一つは、野党との対話についてであります。
あなたはかって、対決と挑発は、一時は勇ましいが長続きしない、混乱を招くだけだ、政治的勇気とはそういうものじゃないと喝破されました。これまた至言であります。この考えの上に立って、野党との対話をも強調されておられるのだと思います。
そこで注文したいのです。対話は当然のことであり、けっこうです。しかし、
話し合いは単なる形だけのものであってはなりません。実のあるものでなければ意味がないのです。その意味で、国会の運営についても、与野党が共同で責任を持つために、国会役員の構成を改めていただきたいと思います。また、各種の審議会等にはどんどん野党代表を加え、原案作成の段階から意見をくみ上げるようにしてください。それに、強行採決は絶対にやらない、野党の主張が正しいと判断したら、これまたどしどし修正に応ずることも、この際約束していただきたいと思います。(拍手)
総理、おっしゃるとおり、時局はまさに重大であります。しかも、この難局を乗り切り、政治の信頼を回復することができるかどうか、それはやはりあなたの双肩にかかっているといわざるを得ないのであります。そして、その成否のかぎこそは、一にかかって、あなた自身が言ったことを実行するかどうかなのです。
私のこの質問演説の中でも、私が支持し、称賛した部分がずいぶんあったことにお気づきだと思います。これらを絶対に後退させないでください。
所信表明演説を聞いた限りでの感想は、弁解あって反省なく、解説はあっても対策なし、早くも退却が始まったという印象が非常に強烈なのであります。
評論家などという、政治家にとって恥ずべき風評を裏づけることのないよう、明快な答弁と今後の実行をお願いいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)
〔内閣
総理大臣三木武夫君登壇〕