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1974-12-24 第74回国会 衆議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年十二月二十四日(火曜日)     午前十時十二分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊三次君 理事 稲葉 誠一君    理事 横山 利秋君 理事 青柳 盛雄君       小澤 太郎君    塩谷 一夫君       濱野 清吾君    福永 健司君     早稻田柳右エ門君    日野 吉夫君       正森 成二君    沖本 泰幸君       山田 太郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 稻葉  修君  出席政府委員         内閣法制次長  真田 秀夫君         公正取引委員会         事務局長    熊田淳一郎君         法務政務次官  松永  光君         法務大臣官房長 香川 保一君         法務省民事局長 川島 一郎君         法務省刑事局長 安原 美穂君         法務省矯正局長 長島  敦君         法務省保護局長 古川健次郎君         法務省人権擁護         局長      萩原 直三君  委員外出席者         衆議院法制局長 川口 頼好君         警察庁警備局警         備課長     佐々 淳行君         防衛庁人事教育         局人事第一課長 吉田  實君         大蔵省主税局税         制第三課長   西野 襄一君         国税庁税部長 横井 正美君         国税庁税部法         人税課長    宮本 一三君         農林省構造改善         局農政部農政課         長       関谷 俊作君         最高裁判所事務         総長      寺田 治郎君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 委員の異動 十二月二十日  辞任         補欠選任   塩谷 一夫君     渡辺 紘三君 同日  辞任         補欠選任   渡辺 紘三君     塩谷 一夫君     ————————————— 十二月十九日  熊本地方法務局免田出張所存置に関する請願  (馬場昇紹介)(第一〇三二号) 同月二十一日  熊本地方法務局免田出張所存置に関する請願  (瀬野栄次郎紹介)(第二一七三号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政及び検察行政に関する件  人権擁護に関する件  請 願   一 熊本地方法務局免田出張所存置に関する     請願瀬野栄次郎紹介)(第一七〇     号)   二 同(馬場昇紹介)(第一〇三二号)   三 同(瀬野栄次郎紹介)(第二一七三     号)      ————◇—————
  2. 小平久雄

    小平委員長 これより会議を開きます。  おはかりいたします。  本日、最高裁判所寺田事務総長から出席発言の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小平久雄

    小平委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 小平久雄

    小平委員長 この際、最高裁判所寺田事務総長から発言を求められておりますので、これを許します。寺田事務総長
  5. 寺田治郎

    寺田最高裁判所長官代理者 東京高等裁判所長官に転出いたしました安村前総長あとを受けまして、去る十九日最高裁判所事務総長を命ぜられました寺田でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。  いまさららしく申し上げるまでもないことではございますが、裁判所は、基本的人権を擁護し、法秩序の維持に当たるという重い責務を負託されているのでございまして、この使命を達成することができますよう、司法行政の面において微力を尽くしてまいりたいと存じます。  幸い、今日まで当委員会皆さま方の深い御理解と強い御支援によりまして、裁判所は人的、物的の両面にわたり逐次充実してまいっておりますが、今後ともなお一そうの御支援を賜わりますよう切にお願いを申し上げまして、簡単ではございますが、私のごあいさつとさせていただきます。(拍手)      ————◇—————
  6. 小平久雄

    小平委員長 この際、申し上げます。  本委員会に付託になりました請願は三件であります。  各請願の取り扱いにつきましては、先ほど理事会において協議いたしましたが、いずれも採否の決定を保留することになりましたので、さよう御了承願います。  なお、今国会、本委員会に参考送付されました陳情書は、刑法改正反対に関する陳情書外三件でございます。念のため御報告いたします。      ————◇—————
  7. 小平久雄

    小平委員長 法務行政及び検察行政に関する件並びに人権擁護に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  8. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 最初にお聞きをしたいのは、いわゆる新潟の地裁で行なわれておる小西裁判のことに関連するんですが、もちろんその裁判の内容とかそういうふうな意味ではなくて、私ども聞いている範囲では、裁判所から何か文書提出命令が出た、おそらくこれは刑訴法の百三条だと思うのですが、その出た経過ですね。それから、本件公訴事実についてどういうふうな関連性があってその提出命令が出たのか。そういうところを説明を願って、あと質問は、どうせ国の利害に重大なところに入ってくると思いますから、それについては法務省なりあるいは内閣法制局なりというところから見解を、議院証言法との関係でお聞きをしたい、こういうふうに思うわけです。
  9. 安原美穂

    安原政府委員 お尋ねの自衛隊法違反事件につきましては、公訴事実が、三等空曹小西誠昭和四十四年十月五日から二十日ごろまでの間、隊内掲示板に、隊員に対して特別警備訓練拒否をしようとした文書多数を頒布し、自衛隊員に怠業の遂行を扇動したというような公訴事実でございまして、その立証すべき事実の、いわゆる特別警備訓練拒否をしようというその特別警備訓練に関する事柄につきましての資料といたしまして、弁護人側からは、特別警備訓練というのはいわゆる治安出動訓練であって、自衛隊としては戦力に相当する違憲の訓練であるというような主張がなされまして、特別警備訓練の実態をめぐって、弁護人側から証拠提出ということで、「特別警備実施基準について」と題する空幕長通達等提出命令発付方裁判所に要求いたしまして、裁判所昭和四十八年八月三十日に、それらの文書提出命令空幕長に対して出しましたところ、空幕長が、裁判所提出命令に対しまして公務上の秘密であることを申し立てました。それが四十八年の十一月八日でございまして、これに対しまして、裁判所が、刑訴法上の監督官庁である防衛庁長官にその提出承諾を求めましたところ、同長官が、国の重大な利益に害があるということで承諾拒否した。それが四十八年十二月七日である。そういう経過になっております。
  10. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 公訴事実に、特別警備訓練反対とかあるいはサボタージュというか、それを扇動したとかなんとかいうことになっておるわけでしょう。そうなれば検察官としては当然、そのことに関連して法廷の中で憲法違反かどうかということを含めての証拠の申し立てなり何なり、論争があるということは当初から認識されておったのではないですか。
  11. 安原美穂

    安原政府委員 当然そういうことも考えながら、検察官提出できる資料範囲内において、特別警備訓練基地自衛のためであって治安出動訓練ではないということは立証ができるという判断のもとに公訴提起がなされたものでございます。
  12. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、自衛隊法にきめられておるその特別警備訓練というのは適法な訓練だと、自衛隊というか、法務省側では考えておるわけでしょう。
  13. 安原美穂

    安原政府委員 当然のことでございます。
  14. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それから、もちろんあたりまえのことですが、憲法にも違反をしない、その範囲の問題である、こういうふうに考えておるわけでしょう。これはあたりまえですけれども。
  15. 安原美穂

    安原政府委員 お説のとおりでございます。
  16. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、裁判所としては、それがこの審理に必要である、有罪立証には欠くべからざるものであるということだからこそ提出命令を出したわけでしょう。罪体立証というか、そういうものに必要だ。単なる情状の関係弁護人側提出を求めたのですか。罪体関連するとして提出を求めて、裁判所提出命令を出したのか、どっちでしょうか。
  17. 安原美穂

    安原政府委員 裁判所のお考えは必ずしも明確ではございませんが、われわれ検察官の立場から考えましたところ、公訴事実の具体性、訴因の特定という意味において、特別警備訓練拒否ということでございますので、特別警備訓練に関する資料提出が求められたものと理解いたしております。
  18. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、国側では、あるいは公益の代表者である検察庁側としては、特別警備訓練というのはもとより、ぼくもよく知りませんけれども、適法なものだというふうに考えておるわけでしょう。適法なものならば出したらいいんじゃないですか、裁判所が出せといっているんだから。あたりまえの考え方じゃないですか。違法なことをやっているのなら、違法なことを出せないということはそれはそうだけれども、適法なことで、ちっとも別にどうということはないならば出したらいいんじゃないですか。
  19. 安原美穂

    安原政府委員 先ほど冒頭申し上げましたように、検察官といたしましては、既存の提出資料によりまして特別警備訓練適法性も十分に立証できるという考えのもとに主張いたしてまいったわけでございまして、なお弁護人側申請の、提出命令対象になっております資料につきましては、防衛庁長官におかれまして、これは国の重大な利益を害するものだから提出拒否されたという関係になっておりまして、そのような判断につきましては、検察官としては介入すべき限りではないという考えでございます。
  20. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 法律にちゃんと認められていて、適法な根拠もあってやっておるんでしょう。これは間違いないんでしょう。この特別警備訓練というのは適法な根拠がないのにやっておるのですか。どうでしょうか。
  21. 安原美穂

    安原政府委員 適法な根拠に基づいて行なわれておるものであり、重ねて申し上げますが、検察官立証のためにすでに提出した資料によりまして、特別警備訓練の実質なり適法性立証できたという考えでおりますので、防衛庁提出を命令されました資料につきましては、防衛庁長官において国の重大な利益を害するという御判断でございますので、それがなければ立証できないということであれば別でございますが、すでにできるというたてまえでございますから、それ以上のものについては検察官としては介入する必要もなかったということでございます。
  22. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 検察官の出した証拠では裁判所は足りないというふうに考えたのでしょう。考えたから提出命令を出したのでしょう。これもまたあたりまえのことですよ。みんなあたりまえのことを聞いているものだから時間がたってしようがないんだけれども、やっぱりあたりまえのことを最初に聞いておかないとあとがわからなくなってしまうので聞いているわけですが……。  そこで一体、ぼくはよくわからないのですが、法律根拠があって、そして適法な行動としてやっておるその特別警備訓練なるものが一体——それは検察庁から出したものをここへ出せとはぼくは言いませんよ、裁判係属中のことですからね。とにかくそれで足りないというので裁判所が出せといったんだと思いますが、それがどうして国の利害に重大な関係があるというのでしょうかね。適法なことを適法な根拠でやっているものを出したところで、別に国の利害に重大な関係があるというふうにはちょっと考えられないのですがね。ぼくの論理が少しひっかけた論理かもわかりませんが、どうもちょっとよくわかりませんな。どういうわけでしょうか。
  23. 安原美穂

    安原政府委員 国の重大な利益ということが公訴事実の立証ということであれば仰せのようなことになるかと思いまするが、国の重大な利益というものはいろいろな面の利益がございますので、本件の場合は、立証のために重大な利益関係があるという文章でなくて、聞くところによりますと、防衛上の機密保護という国の重大な利益のために提出拒否されたということでございますので、いささか面が違うのではないかと思います。  なお詳しく何がゆえに重大な利益を害するものかということにつきましては、その判断をなさいました防衛庁当局にお聞きいただくべき筋かと思います。
  24. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 防衛庁もきょうは、たいへん失礼な言い方ですが、責任者が出てきていないわけですね。説明員の人ですからね。ぼくはそれ以上のことを防衛庁に聞いてもちょっと話が、まあ気の毒だ、と言うと語弊がありますが、そう思うのですが、いずれにしてもどうもよくわかりません。  そこで、ぼくの考えとしては、適法なものであるならば別にそこで機密としたものがあり得るわけがないのだ、日本の場合には機密保護法がないわけですからね。まあ、機密保護法があるなしということとはまた別個の問題だとか手続の問題だという議論もあると思いますが、いずれにいたしましても、どうも出さないのがよくわからないのですが、それはあとのほうの関係とは別になりますので……。  聞くのは、これは内閣法制局に聞いたほうがいいのかな。国の利害に重大なというふうに、刑訴法百三条ですか、条文には書いてありますね。これといわゆる議院証言法の中にいう文章と多少違いますわね。何か、国の利害に重大な影響がある、ですか、そういう書き方を証言法はしているわけですね。これとは違うのでしょうか、違わないのでしょうか。そこはどういうふうに理解をしたらよろしいでしょうか。
  25. 真田秀夫

    真田政府委員 刑事訴訟法の百三条なり百四十四条と議院証言法五条と、なるほどおっしゃるとおり、しさいに見ると若干表現が違っておりますが、両方読み比べて詰めて研究したことはありませんけれども、制度の趣旨からいえば大体同じようなことをいっているのじゃなかろうかと思います。
  26. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だって、文章が違うんじゃないの。片方のほうは、刑訴のほうは文言からいうとむしろ狭く解釈しているのじゃないですか。まあこれはあとでいいです。いまの刑訴のいわゆる国の利害に重大なというのと、証言法のその文章との違い、これはあとから川口さんに聞きますからお答え願いたい、こう思うのです。  そこで、小西裁判のことは現在係属中の裁判ですし、いろいろありますけれども、これは別にして、証言法のことで、だれに聞いたらいいのかよくわかりませんが、これは議員立法だから衆議院法制局ということになるのだと思うのですが、これを私、読んでみましていろいろ問題があると思うんですよ。  まず一番問題があるのは成立関係ですよ。私は三月二十八日に衆議院の本会議でこのことを質問したのですが、当時の田中総理はこういうふうに答えているのですね。「議院証言法についての御発言がございましたが、この法律昭和二十二年十二月公布のものでありますが、これは占領軍政策の中でも有名なメモランダムケースのものであることは、御承知のとおりでございます。」こう言っているのですね。あとから憲法関係刑訴関係、出てくるのですが、それは次に聞くとして、この法律ができる経過がどういうふうなものであったかということから始まらないと、この法律の本質なりあるいは適用のやり方がよくわからないのではないか、こう思うのですね。ですから、ただそれを聞くことによって必ずしもあるいは私どものほうに有利にならないかもわからないですけれども、これはまあしようがないことで、まずその点を、成立の過程を聞きたいと思います。
  27. 川口頼好

    川口法制局長 前々からその関係、よく注意して調べておりますが、事務局と私のほうには、直接GHQからメモランダムが交付されたという証拠書類はないのでございます。ただし、当時の大体のムードからいたしまして、相当な注文が事実上あったのじゃないかということはほぼ想像できるわけでございます。  と申しますのは、昭和二十二年の制定でありますが、社会的には御承知のような一種の混乱期、それで特に軍需物資の放出に関連いたしまして、衆議院隠退蔵物資等に関する特別委員会というふうなものが設けられたのでありますけれども、やや突っ込んで申しますと、社会的な悪を摘発しようとするのだけれども、一方では外部から、法律根拠がないために強く出るべきときに強く出られない。それから他方では与野党間で、どっちのほうに強く出ていくか、あるいは少しゆるめるかということの樽俎折衝に時間を費やし過ぎまして、なかなかうまくいかないというふうな事情がございまして、議院運営委員会に、何らかの証言法みたいなものを制定しなければならぬというわけで、小委員会が設けられました。  これはよけいなことかもしれませんが、当時私の局はまだ局にもなっておらぬ時代でございまして、非常に陣容の少ない、部という、事務局の一部局でこれを担当しまして、私の上司がこれを立案したのでございますが、私も間接にその当時のことを記憶しております。あとでこの問題点部分につきましては、御質問があれば私からお答えしたいというように思います。
  28. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは、田中さんは「占領軍政策の中でも有名なメモランダムケースのものである」こう言っているのです。だから、メモランダムケースだったらメモランダムがあるのじゃないのか。これはどうなっているのか。内閣法制局がおそらく田中さんの答弁をつくったのじゃないですか。違うのですか。どうなんですか。この辺のところは、いまでなくてもいいですからよく調べてくださいね。いろいろな問題があると思うのですけれども、どこでどういうふうに調べるのか、とにかくよく調べてください。  そこで問題になってくるのは、そうすると憲法との関係で、あるいは刑事訴訟法との関係で、こういう点が現行憲法現行刑事訴訟法との関連で問題があるというところはどことどこになるわけですか。
  29. 川口頼好

    川口法制局長 まず、証言法で「証人」ということばを使って、憲法でも「誰人」ということばを使っておりますが、これはあとで申し上げることと非常に関連がございますけれども、それに対してあまり深い検討がなされてない。したがって、立案のときの主たる関心事は、民訴方式によろうか、刑訴方式によろうか。国政調査権のあり方というものは、直に法律効果を伴う犯罪捜査でもありませんし、ごく普通の、ただの勉強をするというやわらかい意味の、そういうときにも調査ということばが使われるし、というふうなことで、ここらの検討がそれほど深くはなされないまま、ただ感じとして、刑訴準用するのはやはりきびし過ぎるだろう、やはり民訴方式によろうというふうな方針がまず立てられた、これが第一点でございます。  それから第二点としましては、民訴の中で公務員に課せられている守秘義務と申しますか、秘密保持義務、特にいわゆる、昔流のことばで申しますと官の秘密、現在のことばで申します職務上の秘密、これは主として官公署に課せられている秘密国政調査権との衝突関係をどのように調整すればいいか。いままさにこの間から、あるいはきのうの参議院における総理の御答弁や、目下憲法上の一つの論点になっておることでございますが、その点につきまして、まず民訴は、官公署秘密保持との関係につきまして上司の許可が要る。それがなければ証言を求められない、資料提出もできないと言って言いっぱなしておるのでありますが、国会国政調査と、それから行政機関の持っているいろいろな、たとえば外交、国防それから犯罪捜査、あるいは目下税務当局の持っている納税者との信頼関係に基づく秘密保持義務、その他いろいろございましょう、こういったものとの調整は、そういう民訴的な割り切った方式じゃなくて、簡単に申しまして、国会内閣との間の樽俎折衝によって事柄を解決し、最終的には、国家の重大な利益悪影響を及ぼすかどうかという判断にまかせる、理念的なことばを用いておりますが、そういうことで解決をしよう。民訴はもともとそういう政治的な事柄ではございませんのでそういうふうな余地がございませんから、それでその部分に関する民訴の規定の準用をやめまして、ことごとく証言法五条で解決しよう、こういうふうにしたわけでございます。  なお、ついででございますが、これはつまらぬことでありますけれども、あと二つ準用をやめておることがありまして、一つは、民事訴訟法に、たとえば店の主人公と、それからそこのでっち、小僧と申しますか、使用人との関係で、自分があるじに都合が悪いことは証言拒否できるというふうな、非常に古い封建的な字句がございまして、いまではほとんど運用されてないかと思いますけれども、これは封建的だというのでやめました。もう一つは、技術とか職業というふうなものまで証言拒否事由にしておりますが、これは国政調査の段階ではそんなものは必要ない、拒否権対象にしない、そういった方針証言法はできております。  憲法との関係あとで申します。
  30. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで前に戻って、たとえば刑訴ではいま言った国の利害に重大な関係証言法の場合はそこのところが国の利害に重大な影響というような形ですか、ことばがちょっと違いますね。ことばそのものを見ると何か範囲が違うような印象を与えるんですね。そこのところは十分な論議があってそういうふうになったのか、あるいは論議がなくてそういうふうになったのか、そこら辺のところはどうなんですか。実際に違うのですか、どうなんでしょうか。
  31. 川口頼好

    川口法制局長 大綱的には、先ほど内閣法制局真田さんがお答えになったのと同じような考えを持っておりますけれども、あえて申しますと、刑訴は非常にきびしい感じ、別な表現をとりますと、国益を「害する」という端的な言い方をしております。したがって、裏から申しますと、国益にぴたっと障害を与えない限り吐け、つまりあかせ、こういうふうに解釈される。ところが、証言法のほうはやや弾力的で、「悪影響」というふうなことばを用います。これは、もともと国政調査というのが、刑事裁判みたいにきちっとある人を有罪にするとか無罪にするとかいうふうなきびしい場でなくて、大体の政治的な判断でございますので、そういうところからこういうようになったのじゃないかと想像いたしますが、立案当時にここの議論がそれほど詳しくなされたかどうか、これはよくわかりません。
  32. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 またもとへ戻るのですが、そうすると防衛庁、きょうは責任者でないからちょっと聞くのは悪いのですが、なぜ、特別警備訓練がぴしっと国の利害に重大な関係があるとして出さなかったのかということは、何か、提出を求められた資料の中に、いまの日本の政治なりあるいは防衛体制というか防衛政策というか、そういうふうなものにぐあいが悪いところがある。ぐあいが悪いということばも非常にラフなのだけれども、そうとしかとりようがないのですね。そこら辺のところはどうなんですか。防衛庁なりあるいは法務省刑事局長でも、どっちでもいいから答えてください。
  33. 吉田實

    吉田説明員 ただいま先生御質問の「特別警備実施基準について」の通達の件でございますけれども、これは、自衛隊出動を命ぜられていない場合におきまして、航空自衛隊基地等——基地と申しますのは、基地、それから分屯地等を含むわけですが、これに対しまして多数集合または少数先鋭な相手方が不法侵入しあるいは不法行動をとった場合に、当該基地等司令等施設管理権に基づいて基地等警備を行なう際の基準を示したものでありまして、現にこれは有効でありまして、秘文書の指定をいたしておるわけでございます。したがって、これをもし明らかにしますと、今後の自衛隊基地等警備実施にあたって重大な支障を生ずる、ひいては航空自衛隊の任務達成に重大な障害を与えるということで御提出申し上げなかったわけでございます。
  34. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、おそらく防衛庁から検察側の立証に必要なものとして出したものと、出さなかったものとあるわけですよね。その両方があるわけでしょう。出したものは結局差しつかえないものを出した。出さないものは出しちゃ困るから出さなかった。結論はこういうことになるわけですね。どうもいまのあなたの説明を聞いていると、具体的にどのような秘密なのかちょっとよくわかりませんけれども、ぼくは、出したって別にどうってことはないものだ、こう思うのですが、まあそれはあなたに聞いてもあれでしょうからまた別な機会に聞くことにいたしましょう。  そこで問題となってくるのは、いま言われた憲法との関係、それから刑事訴訟法との関係ですね。これについては具体的にどこがどういうふうに関係してくるわけですか。結局、現行法の全体から見ると、証言法というのはこういう点に問題がある、あるいはこういう点を直さなくちゃいけない、こういう点が不備だ、いろいろあるでしょう。あんまりぼくのほうから聞くとぐあいが悪いのだけれども、そこら辺のところはどうでしょうか。
  35. 川口頼好

    川口法制局長 せっかく御質問がありましたので、政治的なことを一切抜きまして……。  実は、私が若いころからずっと思っておる疑問でございますが、一番根本的な疑問と申しますのは、アメリカさんとわれわれ日本人との法律の意識、特に「証人」ということばのつかまえ方が根本的に違っておる。ところが憲法自体に「誰人」と書いてあるものですからどうにもならないということがあったんじゃないかと思いますが、この点は金森先生が帝国議会で答弁をなさっておられまして、非常に困っておられます。そこで非常にえんきょくな言い回しをしておられますが、いまから端的に疑問点を申し上げますと、刑訴でも民訴でも、われわれ日本人の感覚からしますと、証人というのは、Aという人間の真実かうそかを調べるために、別なBというのを呼んで証拠として固める。そこで、民訴はああいう当事者主義ですからそれほどでもございませんけれども、刑訴におきましては、憲法から流れまして、当人自身は被告人としまして最大限の自衛権、つまり拒否権、黙秘権というものを認める。これは非常にはっきりいたしております。ところが、国会でお呼びになる証人は大体刑訴民訴の証人とは違いまして、ひどい場合には、おまえはこんなことをやったんじゃないかと言って、ことばは悪うございますけれども、つまり端的に当人の非違を糾明する。もちろん犯罪摘発権も何にもありませんし、国会は政治的に批判するだけで、法律効果は伴いませんけれども、政治的、社会的な意味において当人をいためつける効果というのは絶大なものであります。特に国政調査権というのが、ただ勉強をする、ある法律案やある事案のよし悪しをきめるために、別に資料を要求してその案の是非を検討するために勉強するという、非常にじみな次元で展開される場合にはたいして問題はございませんけれども、政治的にきわめて重大な社会的関心事を調査なさる場合には、これはもう非常に弾劾的な性格を帯びてくるのはやむを得ないことでございます。  そこで、ではおまえはどういう考えを持っているかということでこの問題について申しますと、できますことならばこの概念分析を明確にしていただきまして、刑訴みたいに完全な黙秘権なんというものまでは行き過ぎでございましょうが、いわゆる証人と当人、そのこと自体を糾明しようとする相手方とを区別して取り扱いをするような体制に直すべきじゃないか、これが根本的な私の疑問でございます。ところが、学者側も政府側も、こういったことを突っ込んでおっしゃった方はいまだ一人もおられません。しかし、現実に私、ある場合には非常に穏やかに、ある場合には激しく、国政調査権が行使されます場合に、はたから見ておりまして、これは一つの大きな問題じゃなかろうかというふうに考えております。  第二に、刑訴民訴のあり方それ自体を私批判するのはこの際ちょっと差し控えますが、国政調査と個人のプライバシー、特に基本的人権ということばを用いますと少し広がり過ぎますので、個人の名誉とか、それを聞かれたらもうとても恥ずかしくて社会的に困るというふうな人間における核みたいなもの、人間の尊厳性ということが出てくるわけでございます。こういうものに対する配慮がはたして現在の証言法は十分だろうか、これが第二番目に大きな疑問でございます。  そこで、証言法の四条と五条とに分けてちょっとこの問題を分析いたしますと、民訴準用しております部分の中身を申しますと、まずは証言拒否できる場合に、自分自身や自分の親戚が、ここからあとしゃべると刑事訴追を受けるおそれがある、このときには拒否いたします。それからもう一つ民訴に羞恥ということばがあります。自分が恥をかく、羞恥を受ける。それ以上しゃべるともうとても顔向けできないという場合はかんべんしていただきたい。そこらぐらいが中心であります。民事訴訟法は旧憲法時代からずっとそういった部分については改正がなされておりません。そこで、忙しかったせいもありましょうが、証言法立案のときにはそこまで突っ込んで問題を検討する余裕もなかったでありましょうし、さらに国政調査権昭和二十二年以後にどのような形態で発動されるのかという見通しが、おそらく政治家にも、私ども立案を担当します法制局自身にも、それほど影像は描けなかっただろうと思うのでございます。  ところがその後、国際的に見ますと、特にアメリカにおきましては、例の下院に設けられました非米活動委員会の有名な、人間の思想、信条まで議会で吐かせるというふうなひどい例が出まして、これは刑事事件になって最高裁で批判を受けたわけでありますが、このような事例と、それから逆な面もございます。これは政治の立場から申されますと、あるときにはやっちまえ、あるときにはぐあいが悪いというふうに、政治の利害関係がからみますと反対になるケースが非常に多いのでございましょうが、しかし、さればといって、憲法の精神はあくまで透徹さるべきだと思いまして、現在の段階では、プライバシーを擁護すべきだという字句は、現行法ではせいぜい羞恥ということばぐらいしかないのでございます。しかし、これではあまりにも狭過ぎる。やはり個人の尊厳を害するようなことになったらあと証言拒否できるというふうに、新しい角度から直してしかるべきじゃないか、こう思います。  第三点の問題は、今回問題になっております第五条でございます。これは四条と五条と割り切りまして、別な次元だというふうに法律の条項はなっておりますが、衆参両院で政府側が今回の問題にからんでしばしば御答弁になっておられますように、たとえば刑事捜査の伴う国家機密、職務上の秘密という問題にからみまして、一方では、あまりおしゃべりをするとこれから後の刑事捜査権の正当な行使ができにくいという、官側の機密というかどで第五条はつかんでおりますけれども、これに随伴しまして、その裏側には必ずある特定の個人のプライバシーが伴うのであります。ところが第五条は、国会と政府で国家の重大な利益悪影響を及ぼすかどうかという判断基準は示しておりますけれども、その飛ばっちりを受けて個人が痛い目にあうという問題については配慮がないのでございます。それで具体案をいま私そこまできているわけじゃありませんが、いろいろと考えてはおりますけれども、いずれにしても現在の五条は、その部分の、たとえばそういうきわどいケースになれば、その飛ばっちりを受ける人の承諾を得るとかいうふうな慎重な手続が必要であろう。  最後に、いま申し上げた以上三点のきわめてむずかしい、しかし何とか考え直していただかないと困るのじゃないかと思われるようなことにつきましては、ここらはあまりにシビアに考えますと、秘密会で、国会自身の御判断でそれらを適当に調整するという方法しか現在ではございませんが、こういったことを考えます根本は、刑事裁判、もちろん民事裁判もそうでありますが、法律上は公開でございます。その意味では、国会の審議が公開だというのと法的理屈としては同一でございます。しかし、国会における公開制というものの及ぼす政治的影響力は絶大でございます。したがって逆にいま申しますような点をシビアに先生方に考えていただきたいと、かねがね希望を持っております。  考えておりますことを忌憚なく申し上げまして、御参考に供したいと思います。
  36. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いまのお話は非常に重要ないろいろな問題を含んでおりまして、私自身もいろいろ考えているところはありますが、これは私の考えを言うというのではなくて、お話をお話として承っておくだけにしていただきたいというか、そういうふうにしておく、こういうふうにしたいと思います。  そこで問題は、きのうだか、いわゆる国政調査権守秘義務関連して統一見解なるものが出たわけですね。これは内閣法制局も、法務省関係しているのか、ちょっとよくわかりませんが、というふうに私は思うのです。そこで、正式なものはきょういただいて私も読みましたが、新聞に出ているのと全く同じですから新聞ので聞くわけですが、まず最初にやはり問題になってくるのは、いままであまり論議されてないのですが、この統一見解の一番最初に出てくるのは、「いわゆる国政調査権は」と、こうなって出てきていますね。「いわゆる」というところがぼくは非常に問題だと思うのですよ。これは相当苦心してやったのだと思うし、政府側なり何なりのいろいろな考え方がこの「いわゆる」という字の中にぼくはあらわれているというふうに思うわけですね。この「いわゆる国政調査権」というので、なぜ「いわゆる」ということばをここに使ったということでしょうか。ということは、端的にいうと、いままで行なわれておる国政調査権というものについての論議というか、あるいは理解のしかたというか、それがざっくばらんにいうときわめて錯雑したものだというか、あるいは何というのか、ぼくの口から言うのはおかしいのだけれども、いろいろな意味があって使った、こう思うのですが、なぜこの「いわゆる」という文字がここに入ったのでしょうか。
  37. 真田秀夫

    真田政府委員 非常に微妙な問題なのですが、憲法の六十二条に由来するわけです。正規の国政調査権は、憲法にもありますように、衆議院、参議院というハウスがお持ちになっているわけですが、それはまさしく憲法にじかに書いてある国政調査権でございます。いままでいろいろ御要求がありました形は、院として御決議になっての調査権とは限らないので、もう少し広く、あるいは委員会なりあるいは委員会委員さんがいろいろな資料を出してくれというふうにおっしゃって、それに応じたりお断わりするとか、いろいろなことがありますが、そういうものを全部含めましてここに「いわゆる国政調査権」という表現をとったのであろうと思います。
  38. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは院にあることは憲法に書いてありますわね。だから委員会にもあるということは、これは国会法の規定から出てくるわけでしょう。百四条ですか、出てきますね。委員会として決議をした場合には、これは正式な国政調査権になるわけか、「いわゆる」じゃなくなっちゃうわけか、そこら辺のところはどうなんですか。そうするとここでぼくらが聞いているのは何なのか。そんなことを聞くと笑われちゃうけれども、どうなんです、その関係は。院、委員会委員会に所属する議員、この関係国政調査権との関係というものをぴしっとしていかないと、議論は混乱してくるわけですよ。そこら辺のところをはっきりさせてください。
  39. 川口頼好

    川口法制局長 国会の内部のことでございますから私から申し上げます。  委員会は、国会法によりましてこれは問題ありませんね。憲法でハウスと書いてあっても、委員会がやってこれは問題ありません。  御質問の中の、各委員さんが個々別々に質問したりいろいろとお聞きになったりすること自体は一体どうなのだという点でございますが、最終的に一つの段階を追わないと審議というものはできませんから、制度自体が、すべての議員さんが同時にものをしゃべって、兵隊みたいに全く同じことをやる、そんなことはあり得ない現象でして、個個の議員さん方がいろいろな御発言をなさって、それに政府の方々が御答弁になる、これは将来、委員会の意思決定にいく一つの段階であります。その中で、政府の方々が個々の議員さん方に対して、承知いたしました、その資料は作成いたしましょうというふうになれば、これは別に法律上の問題はございません。法律上の問題になるのは、最終的に政府に対してどうしても強制的に資料をよこせというふうな強制力を伴った行動をとるには、委員会の決議をもって、かつ議長を通して、そして政府側に証人、こういうふうに手続的にきまっているわけでございまして、このことから逆に個々の議員さんには国政調査権はないのだとか、そんな結論は出てまいりません。そういうものが集約されないというと議会というのはもともと行動できない機構でございますから。しかし、今度は逆にもう一ぺんひっくり返しまして、個々の議員さんがおっしゃったこと自体をそのままで国会の意思とすることはできません。これは私から申し上げるまでもなく、最終的に法律的な強制力を持つところの資料提出要求もしくは証言要求というふうなものは、いま申しましたような正式の制度上の機構、ルールに乗っかったあとでいよいよ発動するといわざるを得ません。
  40. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、この統一見解を見ると、これは私がいつか法務委員会でも質問したとおりで、国政調査権というものと守秘義務とはやはり一つの公益の比較衡量の問題だ。これは私も前に申し上げたのです。これはあたりまえのことで、あらゆる場合みなそうなんですから。  問題は、ただそのケース・バイ・ケースということばで解決できる筋合いのものじゃないのですね。ケース・バイ・ケースにいく前にいろいろな段階があって、そしてその後にケース・バイ・ケースなんで、それじゃあなた、どこかの試験問題で国政調査権守秘義務との関係を論ずという質問が出たら、ケース・バイ・ケースでと一行書けば答えはいいのかといったら、そういうわけじゃないでしょう。だからいま言ったように、国政調査権がまず形式的に適法であるかどうかということももちろん一つの大きなウエートになるし、同時に、内容的に見て、国政調査権の行使というものがほんとうに議会制民主主義を守り発展さすとか、国民の大多数の願いであり、そしてその生活なり何なりにとってプラスになるとかなんとかいう形の最高段階の国政調査権の行使のしかたがある、私はこう思うのです、形式的、内容的に。それがA段階です。それからB、C、D、Eまでいくかもわからない。だからそれはいろいろな形の中に出てくる。  片っ方の守秘義務のほうも同じように、一番低い段階のものもあるかと思うし、一番高い段階のものもある。一番低い段階のものは、それには当然いろいろなものがあっても応じなければならないという義務が非常に高い場合のものもある、こう思うのです。その相関関係によってきまるということが考えられてくるわけですね。単にケース・バイ・ケースということ一これはケース・バイ・ケースとここには書いてないけれども、盛んに言っておるのはケース・バイ・ケースということでしょう。  そこで、その場合に、私の人の守秘義務というものが私の言うようにいろいろな段階によって考えられなければならないとするならば、一番高い段階に考えられるのは、やはり公人であって、その人の財産というか、そういうようなものを公開するとか、いろいろなものを明らかにするということが国民の大きな要求であり、適法な最高の国政調査権の行使と考えられるというふうなことになってくる。こういうふうになれば、これはまたあけなければいけない、こういうことに結論づけられてくるわけでしょう。だから、守秘義務にしても、その人なりその内容によって、しっかり法律が保護して守らなければならないものもあるし、それがだんだん薄いものがあるし、そこら辺のところが考えられてくるわけでしょう。そうすると、守秘義務の中で最高度に守らなければならないものから、あるいはそうでない、だんだん薄まっていくもの、こういうふうなものについてはどういうふうな基準判断をしたらいいかということですね。そこら辺についてはどういうふうに考えられるわけでしょうか。
  41. 真田秀夫

    真田政府委員 稲葉先生がいまおっしゃいましたような意味も含めて、この統一見解の中で書いている部分は、結局「その要請にこたえて職務上の秘密を開披するかどうかは、守秘義務によって守られるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益とを個々の事案ごとに比較衡量する」んだというふうにいっているのが、いまおっしゃったような意味も含めての本旨でございます。
  42. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、例をあげると、国政調査権の行使のほうから生ずる公益が一番高い場合で、守秘義務のほうの公益が一番低い場合、これはどうなるんですか。
  43. 真田秀夫

    真田政府委員 そういうものこそまさしく事案ごとに検討しなければいかぬわけでございまして、いまおっしゃったように、秘密にも非常に高度の秘密から、薄まってそれほど高度でないという秘密もあろうかと思いますので、そういう場合にはおそらく国政調査権を尊重して、政府のほうでは、つまり公務員のほうでは秘密事項も開披するという結論になるんじゃなかろうかと思います。
  44. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 「なかろうかと思う」ですが、「か」はいいけれども、具体的にはどんな場合……。いろいろ段階があるでしょう。ちょっと二つ、三つ例をあげて答えてくださいよ。口頭試問みたいで悪いけれども。
  45. 真田秀夫

    真田政府委員 例をあげろとおっしゃいましても、とっさに適例も思い浮かびませんけれども、たとえば犯罪捜査のことを考えましても、事件が非常に進んでしまっているとか、あるいは非常にこまかい事件であるとか、あるいは犯罪捜査の荒筋といいますか、大綱だけをお示しするというふうなことは、これは考えられるんじゃなかろうかと思います。
  46. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 犯罪捜査の場合は、これはまた別の議論が出てくると思うのです。これは前に衆議院の法務委員会でそれについての質問趣意書が出たことがありますね。山田長司さんが出しているのがありますよね、だいぶ前ですけれども。私はそれを読みましたが、それは別として……。  そうすると、守秘義務の中で、単なる私の人の守秘義務と、いわゆる公人で、たとえば総理大臣とかあるいはそれに近い人とか、そういう人の守秘義務というのは、こちらのほうの国政調査権に基づく要求が国民的な一つの大きな要求であると理解される限度においては、その守秘義務というのは薄まってくるんじゃないですか。
  47. 真田秀夫

    真田政府委員 公人にまつわる事柄を出せ、調べたいとおっしゃるような場合は、むしろ、秘密性が薄まるというよりも、国政調査権によって得られる利益のほうが強くなってくるというような感じになりますが、要するに、先ほど申しましたような比較衡量の際の一要素として考えられるんだろうと思います。
  48. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、これはこんなことをあなた方に聞いても答えられないことでしょうと思うのですが、国政調査権の乱用というのは一体あるのか。そんなことを聞くのはおかしいな。おかしいと思って聞いているんだけれども。
  49. 川口頼好

    川口法制局長 これは政府側よりも、内輪の私から申し上げたほうがいいと思います。  乱用という言い方は、非常にきびしい場合には、先ほど例に出しましたアメリカの下院の非米活動委員会で、個人の、おまえはどういう思想を持っているかとか、どういう宗教を信じているかというふうな、プライバシー中のプライバシーまで突っ込んでやった、つまり国政調査の目的や値打ちの話じゃなくて、その手段が行き過ぎました場合に、これはことばは悪いかもしれませんが、乱用と言えるでしょうね。その国政調査一般についてそういうかっこうで、国政調査権自体に常に、何といいますか、非合法な国政調査と適法な国政調査というふうな概念分析をするのは、ちょっと私はよくわかりません。そういうことはないんだろうと考えております。やってみなくちゃわかりません。それで、やって結局、わかりやすく申しますと、行き過ぎた場合にはやはり乱用と言えるんじゃないでしょうか。これはあらゆる権限に伴う当然の原理でございます。
  50. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで問題は、結論として、国政調査権守秘義務との公益を比較し判断する。そうすると、国政調査権守秘義務とが、適法に行使された国政調査権の場合に守秘義務と並行的に並ぶのか、あるいは国政調査権というものが上に立って、ぼくの言うのはその適法な場合ですよ、その範囲内においての守秘義務というものが考えられるのか。  ちょうど刑訴の一条の最初の草案のときには、「基本的人権と公共の福祉」というふうにこれは書いてありましたよ。あとで成案のときにひっくり返ったでしょう。「公共の福祉」のほうが上になりましたよね。「公共の福祉と基本的人権」というのかな、こういうふうに変わりましたよね。その経過なんかはぼくは疑問に思っているのですが、ぼくの調べた範囲ではそうですよ。  そうすると、適法に行使された場合の国政調査権守秘義務との関係が並行的なものなのか、あるいは国政調査権のほうが、いわば、ことばはちょっと悪いのですが、上位概念として把握できるものなのか。国会は国権の最高機関だということば、これは単なる飾り文句だという議論もありますが、それはそれとして、そういうふうなことの関連においてこれはどういうふうに理解をしていくのか、一つはこういうことですね。
  51. 川口頼好

    川口法制局長 抽象的ではありますけれども、考え方の基本をどういうふうに考えるかという意味では一番基底的な問題かと思います。  私の考え方を一つの筋書き的に申しますと、この国政調査権と公務員の守秘義務とを対置いたします場合に、国会につとめておりまから身内の者としてざっくばらんに申し上げますと、それは非常におもしろいことでございまして、私がたとえば政府の役人になったと考えますというと、一方で、しゃべったらおまえ監獄にぶち込むぞと書いてあるわけです。刑罰をもって秘密を保持する。非常に法律がきびしいのでございます。ところが、証言法国政調査権の本質論からしますと、国政調査というのは、何でも情報を提供してもらわぬとぐあいが悪い、何でも話せ、こういうふうなのは、これは必然的でございます。これはまっ正面から衝突するのでございます。並行でも何でもないのでございまして、秘密をあかしてもらわなければ国政調査は実現はできない。ところが他方の法律のほうは、秘密をばらしたら刑務所にぶち込むと書いてある。この論理、これは明らかな論理的な矛盾でございまして、非常に高度な判断でここらを調整するしかない。ですから、政府や私どもの答弁がこのキーポイントに対して何かばく然としているという印象をお持ちかもしれませんが、問題の本質はもっともっと論理的矛盾から出発している。これをよくお含み願いたいと思います。  したがって私の、国政調査権に比重を傾けたようなトーンで申しますというと、たとえば公務員法にしても税法やその他のもろもろの特別法規にしましても、正当な理由がなくてべらべらしゃべった者はというふうに解釈すべきものだろうと考えております。一方では刑法三十五条をかぶせて読むべきだろうと思います。他方で今度は先ほど申しました論理矛盾を、議院証言法はまさに調節剤として第五条で解決しているわけです。一方で秘密を守らないと刑務所にぶち込むという法律があり、他方で国政調査権の要求は何でもあかせと書いてある。この調節をどうすればいいかというのがまさに議院証言法五条なんです。そしてそこは民訴と違って、最終的には国会内閣という最高の権力機関、この相互折衝によってこのむずかしいデリケートな問題を解決していく、こういう形にならざるを得ないと思います。  その場合に、秘密を守らないと国家が国家として非常に困るという度合いと、それからこれを国民世論の要望に従って、国会がこの問題は政治的にどうしてもあかさなければいけないという要望とですが、何しろこの国会内閣総理大臣の上に裁判官というのがおりません。一方で行政権は、国会から相当な制肘を受けるにしても、やはり独立の立場をとって、たとえば外交とか国防とかいうものは、これはどうしても責任を持ってもらわなければならない。そこから当然に秘密を、ここからあとは申し上げられないという断固たるけじめというものがなくてはいけますまい。国会の要望とそこらは、ここで抽象的な判断基準を幾ら議論しましてもあまり実益はないと思うのでございます。  以上です。
  52. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 この問題についてはもちろん非常に大きなむずかしい問題ですよね。国会の内部自身でもこれは論議を十分に、冷静に、しかも客観的にというか、そういう形ですべきものだというふうに私はもちろん考えるわけです。一応統一見解も出たことですが、統一見解があまり簡単過ぎるものでね。簡単にしたというところに、いろいろ考えた結果だ、こう思うわけですが、それはそれとして、その問題は一応これで終わりにしましょう。   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕  そこで最後に、いわゆる石油カルテルのような問題がいろいろ出てきておるわけなんですが、よくわからないのは、これについてたとえば告発の規定が不備だったとか不備でないとか、いろいろなことが現実に言われているわけですけれども、その点については私はきょう質問するのはやめましょう。  そこで、なぜ第一審が東京高裁なのかということですね。これが三審制を否定するので憲法違反だという説も出ているわけでしょう。これは選挙の当選無効とか、それから選挙無効の裁判ももちろん第一審が東京高裁ですね。そのほかに特許法の場合も何かあるかもわかりませんが、よくわかりません。なぜ東京高裁を第一審にしているのかということですね。これと憲法との関係がどういうふうなのかということです。これは法務省からでしょうか。
  53. 安原美穂

    安原政府委員 いま稲葉先生がおっしゃいましたように、これはまさに御案内のとおり、これの憲法違反議論公訴棄却ということをめぐって裁判所で係争中のことでございますので、できるだけそういうことについては裁判所判断をまつのがいいのではないかと思いますけれども、一応この独禁法の違反、特に八十九条から九十一条までの罪にかかわる訴訟につきまして東京高裁がいわゆる第一審になる、専属管轄になるということになりました制度の由来につきまして、一応一般的にいわれておりますことを御紹介申し上げるということにいたしたい、かように思います。  そこで、まず第一に、東京高裁が一審になりますので、いわゆる普通の事件の三審とは違いまして二審になるということの前提といたしまして考えられますのに、この事件は、御案内のとおり公正取引委員会が告発するという、告発が訴訟条件になっているいわゆる親告罪でございまして、公正取引委員会が、刑罰を科する必要がある、罰則の発動が必要であるということを考えない限りはこれは刑事事件とはならない、刑罰が科せられない案件でございます。同時に、公取といたされまして、この同じ罰則にかかる八十九条から九十一条の違反事実につきましては、同じ対象につきまして同時に審決の手続がなされる対象にもなっておるわけでございます。そういう意味におきまして、公正取引委員会は審決の対象にするという意味におきまして、十分な調査の上で客観的に事実を確定なさる。そのゆえにこそ、その事実の証拠裁判所を実質的に拘束するような規定があるわけでございます。そういう意味において、公正取引委員会は審決機関という観点から、当該違反の事実の有無を確定なさる機能と権限とをお持ちになっておる。その機能と権限を持っている公正取引委員会が、告発の必要があるということで告発をなさった場合に刑事事件となるという意味において、その審決あるいは判断対象になる過程における公正取引委員会の審査そのものは、裁判所の第一審に相当する程度に慎重にかつ客観的になされるものであるというふうに理解すべきではないかということが一つ。そういう意味におきまして申し上げますのは、通常の司法手続における第一審の認定と実質的に同一視してもいいのではないかということが考えられたこと。  それからもう一つは、これらの条項の罪は、適正な自由競争を破壊し、資本主義の健全な発展を阻害する、経済社会の根幹にかかわる重大な犯罪である。俗にいわゆる経済憲法違反の罪といわれておりますところのものでございまして、これらの罪につきましては、特に迅速適正に処理する必要があることを考えられたのであろう。そのことは、裁判所法の十六条の四号に、内乱の罪につきまして同じく東京高裁の専属管轄になっておることも、その趣旨は、重大な事件であるがゆえに、後に述べますように、合議体五人という裁判官で構成する迅速適正な裁判を期待するというのが、内乱の罪につきまして高裁が第一審に持つということの意味であるというふうに理解されておりますが、それと同じようなことがこの第八十九条から九十一条の罪について考えられたのではないか。すなわち迅速適正に処理する必要性ということが考えられた。  それからその次に、東京高裁の一審とは申しましても、いま少し述べましたように、五人の裁判官による合議体によって審議すべきことが定められておるという意味におきまして、普通三人の合議体が五人であるということが、第一審は省略いたすにいたしましても、二審限りとするということについての制度的保障が、合議体五人の裁判官によって構成する慎重な手続ということによって保障されておるのではないかということが考えられること。  それから、東京高裁は別に公正取引委員会の審決にかかる訴訟等につきまして専属管轄権、裁判権を持っていることが法八十五条にございますが、それと並びまして刑事事件の裁判権も、これら行政措置の当否に関する審決の裁判所で統一的に処理されるべきではないかというようなことが考えられたこと等、合理的な理由があるということで、今日までいわゆる憲法十四条の違反あるいはデュープロセスに反するとか、あるいは裁判を受ける権利を奪うというような、憲法上保障しておる権利にはそむかないのではないかと考えられたというふうに理解いたしております。
  54. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、審決が第一審だとするのか、第一審に準ずるものなのか。審決前に今度のやみカルテルの場合には告発があったらしいですね、よくわかりませんが。そうすると、その告発は別に審決の前後は問わないのですか。告発から審決までの間にだいぶ時間があったらしいようなことをいっているわけですね。そこで、審決が一審と同じならば、防御権というものが十分行使されなければいけないのに、その点が行使されていないから憲法違反だというような考え方が出てくるわけでしょう。ここら辺のところは立法当時からどういうふうになっておるわけですか。
  55. 安原美穂

    安原政府委員 審決前に告発することは独禁法上は何ら違法ではないということでございます。要するに、先ほど申しましたように、第一審に相当するような審決に重複する程度の調査を経て告発がなされるというところに刑事事件としての告発の意味があるということにおいては、第一審的機能を果たしておるとも見られるわけでございます。また、それだけが理由でもないわけでございまして、私的独占禁止法上は、審決があって、その受諾を拒否したときに告発するということになっていない以上、その点は、審決があったかどうかということは告訴の適法条件ではないというふうに理解はいたしておりまするが、なお実際問題として、なぜ審決前に告発をされたのかというようなことは私どもも知らないところでございまして、むしろ公正取引委員会御当局からお聞き取りを願いたい、かように思います。
  56. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 問題は現実に裁判のことですから、しかも公訴棄却の申し立てをしているようですから、それにかかわらず実体審理に入っていることですから、もうこれ以上私も聞かないのです。  そこで、私もよくわからないのですが、いま経済刑法だとかなんとか、いろいろ盛んに重用しているような話が出たのですけれども、それにしてはこの罰則が西ドイツあるいはアメリカと比べて、アメリカの場合シャーマン法七条かクレートン法四条というのですか、西ドイツの場合には課徴金を取る——アメリカですか、課徴金を取るのは。これと立法が違いますね。制度の由来が違うんだから一がいにいえないかもわからぬけれども、言われるわりにはやけに罰則が軽いんではないですか。どういうふうになっていますか。アメリカや西ドイツと比べてこういうふうに日本の場合は、経済的な犯罪ですね、経済刑法だといっているが、やみカルテルなんかに対する罰則がどうして極端に軽いのですか。そこはどういうふうなところから来ているの。
  57. 熊田淳一郎

    ○熊田政府委員 ただいまのわが国の独禁法の罰則が非常に軽いということはそのとおりでござまして、これは昭和二十四年に改正になりましてから以後、全然罰則についての改正がないというところからそういうふうになっているわけでございますが、私どもといたしましてはすでに独禁法の改正試案の骨子というようなものを公表いたしております。その中にも含まれておりますけれども、現行の罰則をもう少し強化したいというつもりがあるわけでございます。わが国の場合には最高五十万円という額でございまして、これは現在のほかの法律によります罰則との対比から見ましても非常に軽過ぎるというところから、ほかの法律で最高の罰則の額であるところの五百万円程度には少なくとも引き上げるべきであるという考え方を持っておるわけでございます。  アメリカの場合あるいはドイツの場合との対比でございますけれども、アメリカは罰則の規定がございまして、最高五万ドルという罰則がございます。それからドイツの場合にはいまおっしゃいましたように課徴金の制度、これは十万ドイツマルクあるいは超過取得利益の三倍以下のどちらか高いほうというような課徴金を課するという規定がございますが、これはわが国とはそれぞれ考え方が異なっておると思います。特にドイツの場合には、罰則といいますよりも過料であるところの課徴金を課する、これが基本的な考え方でございます。それからアメリカの場合には、罰金のほかに三倍額賠償制度というのがございまして、これは賠償に若干制裁的な意味が含まれておると申しますか、私人によって制裁を科するというような意味合いをもちまして三倍額というふうになっておるわけでございます。これはわが国の場合と異なっております。  わが国は、罰則とそれから無過失損害賠償という規定も独禁法にございますが、そういうことでございまして、いまのわが国の罰則が非常に軽過ぎるというところから、今回それを少なくとも十倍程度には上げたいという考え方と、それからカルテルにつきましては、現在の独禁法の規定というのは非常に実効性が薄いというところから、これに実効性を持たせますために課徴金というような考え方を新たに導入してはどうか。それからさらには、価格がカルテルによって引き上げられました場合に、現在の排除命令では一向に下がらないということもございまして、原状回復命令というようなものを課することができるようにしてはどうか、こういう考え方を持っておるわけでございます。それによりまして、カルテルがやり得であるというような考え方ができぬのではないかというふうに考えております。
  58. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 カルテルをやり得である——やり得じゃないということじゃないのですか……。  私が聞きたいのは、この罰金で、五十万円を五百万円にしたって大会社は何でもないでしょう。そんなことじゃなくて、同時にこれは法務省のほう、民事局長おられるから聞くわけですけれども、通告してないかもしれませんが、たとえばシャーマン法なりクレートン法で、カルテルや何かで損害を受けた企業や人が裁判所に訴えて、受けた損失の三倍と訴訟費用の賠償を取ることができる、こういうふうにいわれておりますね。ぼくはシャーマン法とクレートン法のことをよく知りませんが、法務省は一生懸命研究していると思うのですが、これはどういう法律で、なぜこういうふうなことがあって、それに対して日本の場合にはどうしてカルテルがやり得だとなるのか。アメリカでもドイツでもそうですが、カルテルをやればペイしないんだという考え方が外国では非常に強いわけでしょう。日本の場合にはわずかな罰金で、おそらく、検事がどの程度求刑するのかわかりませんが、本当に軽い求刑でしょう。これは裁判の結果がわかるわけじゃないから言っちゃいけないけれども、そんなことでしょう。カルテルで被害を受けた人に対する救済の方法、これはクラスアクションなんかも入ってくると思うのですが、そういうようなことについてどうして法務省は積極的に取り組まないのですか。どうなんです、それは取り組んでいるんですか。
  59. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 実は私、シャーマン法とかクレートン法のことはよく研究していませんので承知しておりませんが、アメリカで三倍程度の損害賠償を取るというような制度があるということは聞いております。日本にはそういう制度がないわけでございますが、今回考えております立法の中で、たとえばいま強制執行法の全面改正を考えておるわけですが、そういう中にそういうものを入れたらどうかというような意見も一部にございまして、これからもう少し研究してみたいと思っております。現在のところ日本にはそういう制度はございません。
  60. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 強制執行法の改正というのは、強制執行法というのは判決が確定した後の話でしょう。その判決の前の話で、民訴の改正なり民訴の特別法の問題になるかとも思うのですが、これは大臣、以下言いますから。  実際にカルテルでいろいろ巨額の利益を得る、それが経済刑法に該当する、それについて罰金をあなた、五十万を五百万にしたとか、懲役刑はありますが三年以下かな、その程度のことでケリがつくというのは国民感情からいってもおかしいということですね。これについて、おそらくこの罰則のことについては法務省は公取なり通産省から相談を受けたわけでしょう。だから、それについて一体これでいいのか、どうするのかということが一つと、それからいま民事局長言いましたが、アメリカのシャーマン法なりクレートン法、これは民事局長は権威じゃなかったかなと思っているのですが、これについてばかりじゃありませんけれども、実際にカルテルによって損害を受けた人がその訴訟を起こす場合に、単に訴訟が手続的にやりいいというだけの問題じゃなくて、そこで受けた損害の何倍、あるいは訴訟費用——訴訟費用をいま取れるのは、民訴で書いてなくたって、交通事故の場合はいろんな理論づけをして相手方から訴訟費用を取っているわけですね、弁護士費用なんかは。そういうようなことも含めて、カルテルによって被害を受けた一般国民の救済のために、より迅速な、より便宜なというか、そのカルテルをやった人がペイしないという体験を与えるような、より国民を救済する法案というか方法というものを、法務省当局としてあなたが考え、そして部内に命じてそれを今後やらせるというつもりがあるか、こういう二つの点について大臣にお尋ねをしたいと思います。
  61. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 一般的に犯罪による被害者の救済のことは別にございますね。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕 いま議論になっております。この間も横山さんから御質問を受けました。その場合は、人殺しとかどろぼうとか、そういう対個人的な犯罪については、被害者の救済ということはわりに範囲が狭うございますから考えやすいですね。  ところが、カルテルによる犯罪の被害というものは社会全体みたいなもので、非常に被害者の範囲が広いので、また把握しにくいものですから、それについてはやはり罰則でもうんと重くして、一罰百戒という、社会的救済以外に道がないというふうに私自身は考えるわけです。先ほども刑事局長が言いましたように、経済憲法、経済憲法犯ということです。刑法じゃないのですね、彼の言うのは。経済憲法ともいうべき、自由経済のルールを守る基本の憲法、その犯罪だからこれは厳重にしなければいかぬ。  私も今後法務行政を担当する者として、責任者として、ことにこの内閣の一員として、政治をきれいにする意味の政治資金規正法とか選挙法とか、そういう選挙にまつわる犯罪についてはきつくやらなければいかぬ、これが一つ。もう一つは公害犯。公害犯はきつくやらなければいかぬ。  もう一つがあなたのおっしゃるこれなのです。この経済憲法事犯というものはあまりにもルーズになっておりますから、あまりにも野方図に、もうけほうだいもうけて社会に害を及ぼすということになっておりますから、稲葉委員のおっしゃるように、私もその辺は同感で、五百万円や二千万円では刑罰の意味をなさない、こういう感じを持つわけでございまして、御指摘のような方向に、これから法務行政担当者として部内を督励してやっていきたい、こういうふうに考えておる次第でございます。
  62. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そのとおりなんです。いま言ったように五百万円などというのは一体どこから出てきたのかわからないんですね。こんなことではどうにもしようがないですね。だからその点についてはいま大臣が言われたように、何億か何十億か知りませんが、そこらのところまで、エスカレートするわけじゃありませんけれども、話を持っていって、しっかりと一罰百戒の実をあげなければ意味がないと思うのですね。罰金についてもどの辺のところまで上げるのか。いずれにしても五百万円なんて軽過ぎる、どの程度まで上げなければ、常識的に、国民感情からいっても妥当でないというふうにお考えなんでしょうか。大ざっぱでいいです。
  63. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 その辺のところは私、経済学上の知識が非常に乏しいものですから、それから何億なんていうお金を持ったことがないものですから、その辺はもう少し経済のことをよく知っている人、どのくらいになれば刑罰的な意味があるかどうかについて検討さしていただくようにさしてください。いまここで一億円ぐらいが適当だとか十億円が適当だとか言ってみても、私にはここでいますぐ御返答いたしかねます。まことに相済みません。
  64. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これで質問を終わるのですが、ただ、いま言ったように、罰金が五百万円だということでは意味がないということだけ、はっきりお答え願えればけっこうです。
  65. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 それははっきりお答えできます。刑罰の意味をなしません。
  66. 小平久雄

    小平委員長 横山利秋君。
  67. 横山利秋

    ○横山委員 これで本年も最後の御質問になるかもしれませんから、問題がたくさんございますので少し時間が足りないと思います。簡潔に質問を続けますから、政府側もイエス、ノーをはっきりしてほしいのであります。  大臣、最初に、私の手元にこういう請願が来ています。「来たる五十年四月に予定されておる刑務所、拘置所での土曜日の面会、差し入れの廃止は、国民の基本的人権に対する重大な侵犯であると考えられますので、この措置を中止されるよう、署名を添えて請願いたします。」私の手元に来たのは横浜市鶴見区馬場四の三四の九、水戸巌さんほか九十九名なんでありますが、話をちょっと聞いてみますとどうも行き違いがあるようです。こういう署名が全国的にこれからどんどん発展するということは、法務行政のあり方としても、誤解がもしあるとしたらどうもPRが思わしくないではないか。事態をひとつ説明をしてもらいたい。
  68. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 まことに意外千万なことでございまして、昭和五十年四月から刑務所等被収容者に対する土曜日の接見及び差し入れを廃止する計画は全くございません。また週休二日制の施行を見た後におきましても、できる限り、土曜日であろうが接見等は廃止しない方向でいま検討を進めております。それのためには人員の増加とかいろいろあるでしょうが、そういう方向で進めております。横山さんからせっかくこういう機会に、そういう誤解に基づく御陳情を披瀝されましたこの機会に、法務大臣としては、そういうことは全くない、国民の誤解を解いておくために明言をいたしておきたいと存じます。ありがとうございました。
  69. 横山利秋

    ○横山委員 たいへんけっこうな御答弁でございまして、おそらくこの請願をこれからも続けられるかもしれなかった人々に対して安心を与えると思うのであります。承れば、将来週休二日制を刑務所や拘置所の職員に対してもするための準備といいますか、心がまえといいますか、そういう作業が誤解を与えたという話でございますが、週休二日制は、刑務所、拘置所の職員であろうと将来当然実施されるべきことなんでありますから、それはそれとして作業をしていただかなければなりません。そういうことがこのような誤解を与えて、土曜日には面会、差し入れが廃止されるというふうな誤解を与えたというところに、何かあなたのほうで国民に対するPRなり仕事のやり方で足らざる点があったのではないか、誤解を与えるべき原因があったのではないかということは、今回の問題の反省のよすがとして十分ひとつ考えていただきたいと思うのでありますが、何かお心当たりがございますか。
  70. 長島敦

    ○長島政府委員 誤解を与えましたといたしますれば、東京拘置所で実は掲示をいたしまして、そういう週休二日制の試行をやっておりまして、土曜日の人手が少し足りなくなってきておりますので、できればふだんの日に御面会なり差し入れが可能な方はなるべくそういうふうにお計らいいただきたいというようなお願い書というものを掲示したことがございまして、それがそういう誤解を招いたと思いますが、拘置所はすでにそれを撤去いたしておりますし、それから試行に入りました後も職員の数等は減らしておりませんし、従来どおりの体制でずっとやっておるわけでございまして、今後そういう誤解のないように注意してまいりたいというふうに考えております。
  71. 横山利秋

    ○横山委員 十分ひとつ注意をしていただきたい。強く要望します。  その次に、先般同僚委員質問をいたしました実子特例法に関する一つ考え方でございまして、その同僚の質問あと、つい最近、札幌市会でございますが、議決をいたしまして、政府に対して実子特例法の実行について要望することになったそうであります。この問題はなかなか根強いものがある。将来ともいろいろ、学者間におきましても私どもの世界におきましても、検討さるべき問題がやはりあるというふうに感じられてなりません。もちろん、それによって起こり得べき諸問題、たとえば、日本における戸籍法というものは血でつながっておるのが原則であるというような問題やら、古来の日本の伝統、道徳上の問題とか、いろいろあります。また、生みっぱなしということが放置されるというこの問題もないとは言いませんけれども、いま現実に日本に起こっておる諸問題に目をふさいでこの種の問題が実行されていくという可能性をも考えますと、実子特例法の諸問題についてはもう少し現実に目を開いて検討さるべきではないかという感じがいたしますが、新任大臣の御感想を承りたい。
  72. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 御指摘の問題はきわめて専門的な知識を必要とすると存じますので、民事局長をして答弁させますが、お許しをいただきたい。
  73. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 実子特例法の問題につきましては、仰せのようにいろいろ要望が出ておることは私も承知しておりまして、この問題につきましては法務省といたしましても検討をいたしたいというふうに考えております。ただ、事は民法の身分制度に関する問題でございますので、従来の慣例に従いまして法制審議会の民法部会でまず御検討をいただく、そういう手順を踏む必要がございます。現在民法部会におきましてほかの問題を、相続の問題を検討中でございますので、これが一段落いたしました時期を見てさらにこの問題についても御意見を伺っていきたい、このように考えております。
  74. 横山利秋

    ○横山委員 少なくとも、問題の所在というものが放置するわけにいかぬ、検討をする、検討の過程でまた意見を聞きたいというお話でございますが、大臣も同様でございますか。
  75. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 同様でございます。
  76. 横山利秋

    ○横山委員 その次に、やはり先般ここで議論になった一つの問題でありますが、刑事被害者補償法の問題であります。  最近、とにかくどこで起こるかわからない爆弾事件なり、あるいは突如としてアパートの中で暴力学生の内ゲバの問題といい、そういうようなことによって何の関係もない人が突如として刑事上の被害者になるということが日常茶飯事のようにすら考えられるようになりました。そこで、兵庫で話題に上がったわけでありますが、刑事被害者補償法の制定が一つの問題の中心になりました。先般も私も政府側の答弁は少し伺っておったわけでありますが、これまた前向きで検討しようというお話であります。この点も、実は先般の政府側の答弁も承りましたが、大臣御自身のこの問題についての見解を伺いたい。
  77. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 刑事犯罪被害者の補償制度につきましては、二つの場合を分けて考える。一つは窃盗とか殺人とかいう犯罪の被害者に対する救済、犯人が不明の場合または犯人に賠償能力がない場合、被害者、その遺族が賠償を受けることができないで、きわめて同情すべき悲惨な立場に置かれることがあるというような場合に、国が犯人にかわってその補償をするという、そういう制度でございますが、他の補償制度との権衡、補償の要件、範囲、額、手続等、制度の内容をどうするかの問題点がたくさんございますが、国民の福祉をできる限り充実させるという考え方の一環として十分に検討してまいりたいと思うのです。ことに、御指摘になりましたような、近ごろ頻発する爆弾事件などは、努力をしているのでありますけれども、巧妙でなかなかつかまりません。そうして何の関係もない、責任のない人が非常に被害を受けているというこの状態は、警察当局を指揮監督する立場にある法務大臣といたしましても遺憾千万であります。犯人の検挙に全力を尽くすことはもちろんでありますけれども、その間たくさんの被害者が出ているわけであります。先ほど稲葉委員の御質問にもありましたが、カルテルのような経済事犯による被害者は、実に経済的な損害は国民全部に及ぶほどの膨大なものであります。そういう経済犯罪の被害者はなかなか捕捉できませんで、これは先ほどお答え申し上げましたように、そういう犯罪は厳罰に処するという方向で、社会的警戒心を起こして防止するという以外にないと思いますが、いま申されましたような事案に対しましては、先ほどいろいろ申し上げました制度の内容の困難性はありますけれども、一生懸命に、そうして急いでこれをやって、国民の福祉の要望に、国民の権利の要望に職責を果たしたいという所存でございます。
  78. 横山利秋

    ○横山委員 いまお話がございました、何とか前向きに処理をしたいという、ものの考え方の構想を承ったわけでありますが、そのお話しのような考え方でいきますと、要するに国費をもってその補償を何かしてやりたい、こういうふうに理解をしてよろしゅうございましょうか。要するに私の聞きたいのは、いまたとえば犯人がわからない、ないしは犯人が補償能力を持たないということを伺いますと、交通事故を思い出すわけでありますね、交通事故のひき逃げの場合、あるいは犯人が補償能力を持たない場合は、これは交通事故の保険で、自動車を持っている人の保険制度がある。いまの刑事被害者の場合は、犯人がわからない、ないしは犯人がわかっても補償能力がないという場合で、共通の問題がございますが、いま大臣がお答えになったのは、そういう保険制度でなくて、国がその補償をしてあげよう、こういうふうに理解してよろしいのですか。
  79. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 国の補償の問題でございます。
  80. 横山利秋

    ○横山委員 これは御検討を始めていらっしゃるわけでございますが、もう年末で、これから来年の予算要求も大詰めに近づこうとしておるのでありますし、法案提出の期間も迫るわけでありますが、来年度の予算、来年度の法律案を目ざしていらっしゃるのでありましょうか、どうでありましょうか。
  81. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 それが実はいま、この間もこれらの御質問を受けましたから、先ほど申し上げましたような困難性を伴うているが、外国に模範となるような立法例はあるのかね、あったらさがしておけやという段階でございますから、正直に申し上げますと、差し迫っている通常国会に法案を整備して提出するという、御要望に沿うような準備までには至っておりません。白状を申し上げます。
  82. 横山利秋

    ○横山委員 事情はわかりますが、国民の関心のところでありますから、なるべく急いでお願いをしたい。  次の質問はこういうことであります。熊本県を中心にいたしまして、地方自治体が憲法改正についての決議を次から次へといたしております。私の調査したところによりますと、熊本県下では八十七町村中すでに三十一町村で決議が強行され、十二月の定例議会で残りの全町村がこれを行ない、来年一月二十日開催予定の九州ブロックの議長会議にこれを持ち込み、さらに全国的な運動に広げるという趣旨だそうであります。  その内容は、憲法二十四条を改正して、家督相続制の復活をしたい、こういうことの趣旨の模様であります。たとえば、一例を熊本県天草郡有明町議会の決議で引用をいたしますと、「戦後の高度経済成長政策のなかで農業政策は甚だしく混乱におちいり、いまや食糧危機が叫ばれ憂慮される事態になりました。この農業問題の根底にあるものは、現憲法第二十四条による家の崩壊にあると断じ、有明町議会はこの状態を座視することはできず、別紙のとおり決議したので一日も早く改正されるよう要望します。」「憲法改正に関する要望」として、  「次の事項を、法律で明定できるよう、憲法第二十四条を改正されたい。  一 家督相続の制度並びに相続権の優位性  一 家督相続人の直系尊族扶養及び祭祀主宰義務 右、有明町議会の決議により強く要望する。」  この趣旨のものが、多少前文は違いますけれども、熊本県上益城郡嘉島町議会をはじめ各地で行なわれておるわけであります。一言でいいますと、今日の農業の混乱、破壊は、まさに憲法二十四条、また民法における均分相続にあり、こう断じておるわけであります。このものの考え方なりこの方向について、まことに憂慮にたえないと私は考えるわけであります。  そこで、それならばなぜそれをいま法務大臣にお伺いする気になったかということなんでありますが、法務大臣は自由民主党の憲法調査会会長の職責にあられました。そして、この間私が、稻葉さんの憲法改正に関する考え、現在法務大臣としての考えを承ったところであります。しかし、参考のためにいろいろと、いわゆる稻葉試案という、憲法改正大綱草案なるものを四十七年六月十六日に発表されましたので、その中で稻葉さんがどういうお考えをお持ちなのかを見てみました。法務大臣としては現憲法を守って、忠実に履行されるのではあるけれども、それは承りましたが、その根底にある稻葉さんのお考えというものは、これは精神と肉体を分離するといったところで、あなたの信念であるとするならば、これはなかなか、ああそうですかというわけにまいりません。  そこで、稻葉試案の中における関係条章を見ますと、「第三章 国民の権利及び義務」の中で、「家庭は祖先から受けて子孫に伝承すべき人間の生命を育てる礎石であり、また社会の基底であることにかんがみ、国は家庭を保護することを規定する。注 人権に関する世界宣言第十六条「家庭は、社会の自然なしかも基本的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。」」とあるのであります。この家庭というものを特に憲法の中へ入れて、「国は家庭を保護することを規定する」という、この「家庭」と古来の「家」というものとを、一体どういう区別を稻葉さんはしておられるのであろうかと、私はまず疑問を持ったわけであります。  それからもう一つございました。廣瀬試案というのがございますが、この廣瀬試案の、「家の保護」「婚姻又は血縁に基礎を置く生活協同体を家とし、国は、家が社会組織の自然的な単位集団として日本国の存立の健全な基礎となるように、これを保護する責務を負う。2 家に関する事項については、法律は、個人の尊厳と両性の平等に立脚し、かつ、家族の和親結合と家の持続発展に資するように制定しなければならない。3 婚姻は、両性の合意のみを基礎として成立する。」とあります。  廣瀬試案と稻葉試案の共通点は「家」という思想であり、そしてまた文字上の違いは、稻葉試案は「家庭」というものを持っており、廣瀬試案は「家」であり、しかも廣瀬試案は現行憲法にあります「個人の尊厳と両性の平等に立脚し、」という文句が入っており、稻葉試案には入っていないということなんであります。これからいたしますと、稻葉試案には家庭というものが非常に力説されて、個人の尊厳、個人の権利と両性の平等に立脚しという趣旨のものがないというのは一体どういうことなんだろうか。この家庭というもの、家というものを、従来明治憲法の当時からございました家というもの、それを中心にして憲法並びに民法を改正しようとするのであろうかどうかということを私はきょうお伺いをいたしたいのであります。そのお伺いをいたしたい本来的な趣旨は、いま熊本県をはじめ各地で行なわれようとしておる憲法二十四条の改正、家督相続制復活にあなたの思想というものがつながるものになるおそれがある、そういう感じがいたしますので、この辺をひとつお考えを承りたい。
  83. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 お尋ねでございますから、まず私の、というよりは内閣の一員である法務大臣、というよりは内閣全体として、憲法に対する基本的な態度、これは統一見解みたいなものがあるわけです。したがって、これを申しますのは、御指摘になるように、おまえは憲法改正論者だから、憲法九十九条にいう、国務大臣として、現行憲法がある以上はこれを守っていくのだと言うているけれどもあやしいものだ、こういう御不安があると思うのですね。それはないんだという意味で、根拠として申し上げますから、それをまず申し上げて、それから具体的ないまの問題に入ります。  これは、憲法調査会長たりし私の見解ではないですよ。田中内閣のときに私文部大臣でした。そのときに、総理大臣、文部大臣、法制局長官の間でまとめたものなんです。  わが国の憲法は、連合国軍の占領下というきわめて異常な環境の中で占領軍当局の示唆により急遽制定されたという経緯があり、その成立過程の点では、必ずしも理想的なものではなかったといえよう。しかしながら、国の基本法である憲法を改正することには、きわめて慎重な配慮を要するものであることは言うまでもない。したがって、政府としては、憲法改正についていま直ちに取り組むつもりはない。着手するつもりはありません。  ところで、自由民主党は憲法改正をすることを綱領に掲げ、私もその綱領に従って、かつて憲法調査会会長として改正の作業に取りかかった。そして、御指摘のような時期に私の試案を発表すると同時に、それは自由民主党憲法調査会の案、試みの案、こういうふうになっておるわけです。そういうことをやりますのは、憲法がみずから第九十六条においてその改正手続を定めていることに徴しても明らかなように、現行憲法が改正されることがあり得ることは憲法の肯認するところであって、自由民主党においては、占領下に制定された現行憲法の自主的改正をはかることをその綱領として掲げている。私も、自由民主党の党員として、この綱領を是なりと信ずるものであります。法務大臣としても、また総理大臣としても、おそらく三木さんも。しかしながら、憲法の長所である民主主義、国民主権、基本的人権尊重主義、平和主義、国際協調主義も含めて平和主義の原則は国民の血肉となっていると認めますので、あくまでも堅持すべきことは言うまでもない。いずれにしても、民主国家では憲法は国民のものであり、憲法改正問題は国民とともに考え、国民とともに進むべきものでありますから、国民の世論が自然に一つの方向に向かって成熟した際に初めて結論を下すべきものである。まだそういう段階にはなっていないという認識です。しかし、そういう段階になるように、自由民主党の党員は綱領に準則して努力すべきものではある、こういう心境でございますね。  国会議員が現行憲法を尊重し擁護する義務を負うことは、憲法第九十九条の明定するところでありますけれども、憲法がみずから第九十六条においてその改正手続を定めていることに徴しても明らかなように、憲法の規定が所定の手続を経て改正されることがあり得ることもまた憲法の肯認するところであって、現行憲法について、その運用の状況等にかんがみ、改正の要否及びその方向を調査研究し、あるいはこれについての意見々表明することが憲法によって禁止されているということばないと思うのです。つまり、現行憲法の規定が有効に存在することを前提として、これを尊重し擁護しなければならないという九十九条と、将来のあるべき憲法の姿について調査研究し、これについて立法論として意見を申し述べることとは決して相矛盾するものではない、両立し得るものである。こういう見解でございまして、私どもの政党が現行憲法について検討し、立法論としてその改正意見を発表することが何ら問題のないことについては以上述べたとおりです。  また、自由民主党の憲法調査会が発表した憲法改正大綱草案の内容について、いま御指摘になった点もありますが、一般論として、同調査会は、先ほど言った国民主権であるとか、基本的人権の尊重主義であるとか、平和主義であるとか、国際協調主義であるとか、この憲法の長所であり基本原則とするところは、原理はすでに日本国民の中に定着している、そういう定着した諸原則を厳守しつつ、その実効性をより確実ならしめるために私どもはそういう案をつくった、こういう見解を持つものであります。したがって、田中内閣のときに、政府としては、国民世論の支持が得られるような改正案ができ上がった状態に至らぬ現段階では、いま直ちに憲法改正に取り組むつもりはないという結論を出しているわけですね。  そこで、憲法第三章全体について見まして、基本的人権の保障が、自由民主党憲法調査会の見解としては、根底に、公共の福祉という一般概念で国民の権利を制限する法律をつくっていきますことは、何が公共の福祉であるかの判断は結局国民が決定する。国民の代表たる国会が決定する。国会が決定するということになると、多数決になっておりますから、多数党が公共の福祉の概念を決定していく。そして、これも公共の福祉、これも公共の福祉といって、だんだん権利を狭めていくおそれがあるのではないかという判断から、国民の基本的権利を制限する条件は憲法上ある程度明らかにしたらいい。そうすれば、憲法改正の手続を経なければそれ以上の制限はできないのですから。  ところが、いまのは、公共の福祉という概念で、普通の法律でもって制限していく可能性が出てきますから、基本的人権の保障において全からざるものがあるという見解がございましてそういったような改正案を出しておるわけでございますから、いま横山先生御指摘の憲法二十四条について、旧憲法当時の戸主権中心の家督相続を入れた家の存在を復元するのだという考えは毛頭ございませんのです。憲法第三章、国民の権利義務について、一般論として私ども考えていたことを、申し上げましたようなことを御理解いただければ、憲法二十四条について、家庭はこれを保護していこう。ことに、その家庭に老人があればみんなで見られるような老人の対策も、民法上もっと充実していかなければいかぬ。二十四条の個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、そういう社会福祉立法もつくっていかなければいかぬだろう。こういう前向きの姿勢を示したものでございまして、御指摘になるように、御心配になるように、明治憲法下の民法上の制度を復元しようといったような、うしろ向きの精神ではありませんことを御了解願いたいと思うのです。
  84. 横山利秋

    ○横山委員 稻葉試案と言ったのは間違いでしたな。自民党試案、自民党の案ですか。
  85. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 党の案ということではないのです。それは党議の決定を経ておりませんから。政調の審議も経てない、それから総務会の議決も経ておりませんで、憲法調査会としてはこれでよかろうという、憲法調査会の試案という段階でございますから。
  86. 横山利秋

    ○横山委員 そこでいうところの「家庭」というものについて、いま大臣の個人の見解についてお話がございましたが、それならば家庭とは何だ、かんだとやっておりますとたいへん時間がかかりますから、きょうはお話を承ったということであり、そのお話の中には、この「家庭」は明治憲法の家とは絶対違うのだ、また復元をしようとする気持ちは毛頭ないのだというお話を承ったにとどめます。  そこで今度は農林省に伺いますが、農林省が今日まで日本の農業について論じて、いろいろ白書もございますが、その政府の見解の中で、今日まで、熊本県のこの決議にございますように、日本の農業が崩壊していくのは憲法二十四条、民法の均分相続が根底の原因である、重要な主要な原因であるという定義をなさったことがございますか。またそういうことが原因だと思いますか。この点を伺います。
  87. 関谷俊作

    ○関谷説明員 お答え申し上げます。  ただいま熊本県下等の決議につきましては拝見さしていただきましたが、その内容には農業の問題も触れてございますが、御承知のように、農業の場合には、土地の問題と申しますか、農地の問題、非常に基本的な問題でございますので、やはりそれが相続によって細分化されないように家族経営をできるだけ維持していく、こういうことは農政上の基本的な方針でございまして、三十六年に制定されました農業基本法の中にも、できるだけ細分化を防止する、こういう規定もございます。ただ、このことが、いま御質問にもございましたような、憲法の大原則、第二十四条に掲げるような大原則でありますとか、あるいは家督相続の問題とか、そういうことと関連して議論をする、こういう考え方は一切ございませんで、あくまでも現在の憲法、それにのっとりました家族制度、こういうこととの関連において、できるだけ経営の細分化は防止していきたい、こういう施策をいましておるわけでございます。
  88. 横山利秋

    ○横山委員 当然だと私は思うのであります。また、もし、今日の日本の農業の荒廃が憲法二十四条に源を発し、あるいは家督相続制を廃止したことによるというようなことが片りんだにも政府にあるとするならば、これは重大問題なのであります。しかし、そういう感覚が政府にもない、議会筋にもないにもかかわらず、憲法二十四条がその原因だというような各地方自治体の決議というものは、これはいかがかと思うのであります。こういうことに農業の荒廃の原因を求められ、そうして各地方自治体がこういうことを主軸にして憲法改正運動をするということは、農業に対する真実の理解、農業の現状に対するあるいは改善策あるいは過去の経緯に対する理解が、誤った理解がされておる、こう思うのでありますが、農林省として各地方自治体に対して、そのような理解は間違っておるという指示をなさるおつもりはありませんか。
  89. 関谷俊作

    ○関谷説明員 ただいまお答え申し上げました昭和三十六年の農業基本法におきましても自立経営という概念が提起されておりますが、これも、あくまでも近代的な正常な構成を有する家族経営、こういうことで農業を考えるということでございますので、いま御指摘のありましたように、あるいはその点について私どものほうでそのような、熊本県下等のような誤解を生ずるような原因がございましたら、十分調査しまして、御指摘がありましたような趣旨の徹底ということは従来から引き続きましていたしてまいりたい、こう考えております。
  90. 横山利秋

    ○横山委員 農業基本法にもこの種の問題にかかわる一つの方向が出ておりますし、またここ数日来、政府・与党の中でも話が出ておるそうでありますが、かねて私どもが言うております相続税の改善、特にその中における農地の相続人、長年農業経営を行なう人たちに対する相続税の軽減という現実的な解決というものが現に進行しておる。またそうしょうと、お互いに超党派の雰囲気もあるという中に、なぜそういう現実的な解決を主張しないで、憲法二十四条の改正を、民法の改正を、なぜそういうことに持っていこうとするのか。この決議の中には、「家督相続の制度並びに相続権の優位性」、「家督相続人の直系尊族扶養及び祭祀主宰義務」こういう方向にこの問題を持っていこうとしている。非常に私は、何といいますか、あるいはある意味では政治的過ぎる。憲法改正のものの考え方、推進論者らしいのだけれども、それは問題の主題を取り違えている。農業がこんなことに利用されるのは、まことに農業の問題を担当する皆さんとしても迷惑千万だ、解決の方法はほかにある、また現に進行しておる、こう私は思うのであります。もしも、稻葉さんの言うような素朴な意味で、憲法改正を論ずるなら論ずればいい。しかしながら、こういう問題で、憲法改正を農業の問題にすりかえて持っていくというのは邪道である。その邪道に対して、いまよく調査をするとおっしゃるのですけれども、農林省としても一ぺん大臣によくお話しなすって、これは方向を間違えておる、また農業がこういうことに利用されてはかなわぬ、問題の解決はほかにいま進行中である、この種の決議は適当でないという指導をしてもらいたいと思いますが、重ねて答弁を得たいと思います。
  91. 関谷俊作

    ○関谷説明員 農家相続の実態でございますが、私どもも、ただいま申し上げました農業基本法との関連におきまして、従来何回か実態調査を行なっております。いままでのところでは、いわゆる単独相続という、財産分割をしないで次の世代に農地等の資産が承継される、そういうものの割合が高うございまして、特に農地がその際に分割されるという傾向は、現在の制度が続きました状態でも一般的にはわりあい少ないような状態になっております。しかし、その現行憲法なり現行制度のもとで、施策として、いま御指摘のありましたような農地の分割方式というか、経営の維持、こういうことについては私どもも逐次対策を講じてまいっておりまして、これは一つは税制関係でございますが、農地を後継者に一括生前贈与した場合の贈与税の特例措置、それから農林省固有の制度としましては、御承知かと思いますが、農業者年金制度を設けました際に、その中に、後継者に一括経営を移譲する、農地を一括移譲する場合にはそれに対応した特別の年金を交付する、こういう制度を設けております。このほか、農林漁業金融公庫からの融資でございまして、これは共同相続人間である一人の共同相続人、つまり農業承継者がほかの共同相続人の相続分をいわば取得する、譲り受ける、その場合の、相続資金とわれわれは呼んでおりますが、その資金を農林漁業金融公庫から年利五分、二十年償還で貸し付けるということになっておりまして、特にこの最後の公庫の資金につきましては、五十年度にこれを大幅に貸し付け限度を拡充したい。なお、御指摘のございました相続税制等についてもかねて検討をなされておるようでございます。それらの措置を通じまして、施策として農地の細分化を防止する、経営を維持する、こういうことをいたしておる次第でございます。
  92. 横山利秋

    ○横山委員 私の質問に答えてください。こういうことの決議が邪道であるから、農林省としてはそれは筋道が違う、農林省としてはこういうことをやっておるのだから、そういう決議を農業の問題ですりかえてやっては困るということを、大臣と相談して通達をしてもらいたい、こう言っているのです。
  93. 関谷俊作

    ○関谷説明員 熊本県下の議決につきましては、実は、まことに恐縮でございますが、今回の議決の内容等を調査して初めてわかったような次第でございます。御指摘もございましたことでございますので、早急に、そのよってきたるところ、特に県下一円でそういう事態が生じておるということでございますので、農林省としても、農業と家族経営との関係について、その関係者ともよく協議をいたしたい、こういうふうに考えております。
  94. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 いま法務大臣ということでお名ざしがありましたが、法務大臣という立場を離れまして、私の自由民主党憲法調査会長当時つくりました自由民主党憲法調査会試案がここに問題になりまして、それがやや誤解されたような形でそういったような熊本県下の事態が発生しましたとすれば、当時の憲法調査会長としての稻葉修の責任でもございますし、われわれの意図するところは、ファミリーをもう少し手厚く擁護したらいいのじゃないかというだけの話で、憲法二十四条そのものをいじって、明治憲法下の戸主権中心の家督相続の家の復活を目途としているのではない。したがって、そのことは直接には、農地の分割方式ということに対して憲法上、二十四条を改正してやろうなどという考えではないのだということの徹底がなかったように思いますし、その改正案、大綱草案をつくった責任者の一人として、農林省にそういうことをやってもらわなければ、農林省も被害者みたいな形になって迷惑だと思うのでございまして、その辺のところは、現調査会長の小島先生もここにおられますし、そういうわけでございますから、そういう方面の責任において、横山先生御指摘のような誤解のないように善処をしたい。法務大臣としてではございませんけれども、お答え申し上げておきます。
  95. 横山利秋

    ○横山委員 それなら、法務大臣じゃない稻葉さん、元憲法調査会会長である稻葉さん、自民党党員である稻葉さん、これは自民党がどんどん下部でやっているんですよ。あなたのほうの憲法調査会の試案にもない。そして、いま聞けばそんなことはおかしいとおっしゃる。ところが地方、熊本県下をはじめ九州地方においては、もちろんひどく保守系の人もおるけれども、自民党の町会議員や村会議員もこれに一生懸命になって走り回っておるのですよ。ですから自民党としても善処してくださいよ。小島憲法調査会長がここにおられるけれども、あなたがぼんやりしているからこういうことになってくるんだ。何しているんですか。  それから農林省も、あなたは課長さんだから自分の職分でないかもしれぬけれども、私が言うておるのは、あなたにやってくれと言っておるんじゃないですよ。あなたはそんな権限があるんじゃない。私がこういう主張をしておることを大臣によく言うてくれ。横山が、とにかくこういう農業の問題に籍口して憲法二十四条を改正するということは邪道である、間違っておる、農林省としては迷惑千万じゃないか、農林省として善処しろと私が言っておることをあなたが大臣に言うて、善処するように伝えてくれと言うておるのであって、あなたがそれに対して返事をひねっておるということはおかしいじゃないか。伝えてくれるのかくれぬのか、どうなんだ。
  96. 関谷俊作

    ○関谷説明員 どうもお答えが十分でございませんで失礼いたしました。  国会の問題、私どもここに課長答弁しておりますが、先生のお話しのございましたこと、私どもとしても大臣に情勢を報告し、またよく協議いたします。この問題、非常に重要な問題と考えておりますが、横山先生御指摘のございましたように、憲法改正論に結びつけられるということは農林省としては全然考えられないということでございますので、鋭意協議いたします。
  97. 横山利秋

    ○横山委員 大蔵省に伺います。  もう時間がございませんので簡単に、きょうの新聞報道によるこの問題に関連するくだりを確かめたいと思うのでありますが、「農地に対する相続税の納税猶予制度の創設=農業の特殊性を考慮して、次の特例措置を講ずる。」として、政府・与党が二十三日にきめた相続税、贈与税の内容が出ております。そのポイントになりますのは、結局は、土地評価委員会の審議を経て決定される評価額、農業投資価格といいますか、をこえる農地価格に対する相続税の納税を猶予するというところにあるようでありますが、政府側はこの点についてどうお考えになっていますか。
  98. 西野襄一

    ○西野説明員 ただいま横山先生御指摘になりましたことにつきまして、まず現在の相続税の仕組みでございますけれども、相続人との関連でございますが、現在の相続税におきましては、まず相続財産というものにつきまして、法定相続人によってそれが分けられた場合に、各法定相続分で相続人が取得したものとしまして、税率おのおのを乗じまして各人の税額を合計いたしまして、それから実際に相続人が取得した割合によりまして各人の税額を計算するという仕組みになっておるわけでございます。したがいまして、長子一人が相続いたしましても、それから相続人全員で財産を相続いたしましても、控除や税率が同様に適用されるようにくふうされておりまして、税額に差がない。これが、農業の相続の形態という点に着目いたしまして、三十三年の改正で入ったところでございます。  それから、そのほかの相続の問題の背景でございますけれども、これは最近における地価の上昇が急激であったということに伴うものでございますが、これは農家に限る問題ではございませんで、最近の課税状況などを見てまいりますと、四十一年の場合には、なくなった方に対しまして課税される被相続人の数というものを見てまいりますと百人について一・四人の割合でございましたのですが、最近、四十七年で見ますとそれが四・四、それから四十八年で見ますと四・二ということでふえてまいっておりまして、全体として相続税の負担が高まってきておるというような点がございます。そういうことで、こういうふうに相続税の負担が急激にふえてきておる状況についてどういうふうに考えたらいいか。それからまた農業につきましても、そういったふうな問題についてどう考えたらいいかということでございまして、現在、来年度の税制改正につきまして政府の税制調査会にも御検討をお願いしておりまして、私どもといたしましてはその答申を待ちまして対処したいというふうに考えておるわけです。
  99. 横山利秋

    ○横山委員 余分なことをたくさん言って、質問にちっとも答えてないのだね、あなたは。きょうの新聞に載っておる、政府・与党で農地に関する相続税の納税猶予制度の創設をしたことについてどう考えておるかと言っておるのに、余分なことばかり言って何も質問に答えないじゃないですか。どうなんですか。
  100. 西野襄一

    ○西野説明員 新聞に報じられておりますそういったふうな農業の相続税に対する負担の軽減のあり方につきまして、税制調査会の御意見も承りながら検討したいということでございます。
  101. 横山利秋

    ○横山委員 わかりました。  次の問題に移ります。  先般来、国会で八鹿高校の問題が非常に議論をされました。そして、ここに共産党の皆さんもいらっしゃるのでありますが、事は私どもの社会党に対する、名ざしではありませんけれども、一部の政党とかという話で非難をされておりまして、わが党としてもたいへんこの問題について釈然としない状況に立ち至っておるわけであります。  そこで、法務大臣と人権擁護局長がいらっしゃいますから、基本的なものの考え方について一ぺん伺いたいと思うのであります。私のこれから申し上げることは少し法理論からはずれているかもしれませんが、人間としてひとつ聞いてもらいたいと思います。  これは何も部落の人たちばかりではありません。あらゆる人間がそうでありますけれども、人間というものは自分の弱点を持っています。あるいは人に言ってもらいたくない点があります。恥ずるところではないけれども、やはりからだの悪い子供を持っておる親は、近所の人が自分の子供についていろいろなことを言うのをたいへんいやに思うのであります。  人間の一番アキレス腱となっている問題、部落の問題もその一つでありまして、島崎藤村の「破戒」という小説の中で、いかなる状況であろうとも部落であると言うなかれという、あの小説の根底を貫く一つの問題についてわれわれは非常に感銘を受けておるわけでありますが、世の中は広うございますから、そういうことについて、日本人すべてが藤村の「破戒」を読んでおるわけではありませんし、部落の人たちがいないところもあるわけなんでありますから、これは全部の国民が知っておるわけではありません。また、島崎藤村の時代の、「破戒」における丑松でございましたか、彼が持っておりました人生観といいますか、そういう時代とはいま違うのでありますから、私どもは、そういう部落の人であろうとも何ら恥ずるところはなく、また堂々と権利主張を訴えるべき時代であるというふうに私は考えています。  それはそうであるにしたところで、この満座の中で、かつて共産党の委員長さんでもあるところで、めくらとか、どめくらとか言ったということで、盲人協会から猛烈なあれを受けて謝罪をなさったこともあるんですが、まだそのくらいならいいんですけれども、えた帰れ、よつ帰れというふうに満座の中で言われたときにどんなに人間的激怒を覚えるかということは、部落の歴史、部落の習慣、部落のいろいろな問題を検討していない人にはわからない、まさにそれは知ることができない、そう私も思うんであります。  同僚委員の中にはこの問題の経緯をよく御存じの人もあるかと思うのでありますが、一つの侮辱をする、あるいは、部落の問題のみならず、いろいろなばかにした言辞を吐く。それが普通のばかやろうとかそういうことではなくして、全く致命的な言い方をする。たとえば、これは例でございますから何でありますが、おまえの子供はどろぼうだとか、どろぼうの親だとか、そういうことによって激怒をする、人権をじゅうりんしたようなことばがある。それでも、おこってたたけば暴力であるか、それでも、おこって刃向かえば刃向かった人間がけしからぬかということなんであります。いまの法体系は、けしからぬということになっています。私は、暴力があったと言っているわけではありませんよ。それでもやはり、暴力をしては悪いということには一応なっている。なっているけれども、それだけで片づく問題であるかどうかということなんであります。法務省人権擁護局が存在する最も基本的な問題は、どんなに言われてもたたいたらいかぬということの原理に人権擁護局はほんとうに立っているんだろうか。法律論だけで人権擁護局は法務省の中に存在しておるんであろうか。人権というのは一体何だろう。ほかの問題に優先して人権というものが尊重されなければならず、その優先したという意味は、ある意味においては、ほかの法律できまっておるけれども、それを止揚して、なおかつ人権のほうが優位に立つという立場が人権の問題の基本的な問題ではなかろうかと私は思うのであります。  八鹿高校の実態についていろいろ議論がある。議論があるけれども、まさに事の本質というのはそういうところにあると思うのであります。私の投げかけた問題は、八鹿高校に限定した問題ではございませんよ。しかし、八鹿高校の本質的な問題はまさにその暴力以前の問題として、人権をじゅうりんするような言動、挑発、そういうものがあって、それに対して立ち上がったことについてだけ非難をして、それで事が済むだろうか。法務省並びに人権擁護局を持っておる法務大臣として、この種の問題をどうお考えであるか伺いたい。
  102. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 きわめて、人の心の問題に触れられた根本的な問題でありまして、どうも私のような教養の不足な者にお答えできるかどうかわかりませんけれども、基本的人権を擁護する最高の責任者としての法務大臣に在職しておりますから、私の現在の所見を申し上げたいと思うのです。  私は、同和問題については、差別事象の解消は国民的な課題である、そういう観点から、人権擁護の機関といたしましても、根本的解決は人権思想を啓発する以外にない。人間は、みずからありてあるものではない、あらしめられてある。自分の出生について責任を持たない者が責任を負わせられるということは不当である。そういう意味での人権思想を啓発して、差別事象を解消することに人権擁護機関としては努力してまいりましたが、その効果がいまだにあらわれず、御指摘のような事象が起こっており、問題になっておりますことはまことに遺憾にたえません。  本来、差別はあるべきものではない。ただ、事実として差別は存在いたします。その差別は、差別的精神を持っている者、先ほど御指摘の、口にすべからざることを口にする連中、そういう差別的精神を持つ者、差別されているという精神状態にある人の心の中に差別が存在する、そういうふうに思うのでございます。これも、現実としては遺憾ながら、われわれの努力の不足のせいもあって、存在を断ちません。  御指摘のように、言論も自由だとはいいながら、言論は、その内容いかんによっては暴力以上の損害を人の精神に与えるものでありまするから、問題になっているようないろいろの事案をそういう点で誤りなく——現行刑罰法規は、言論の自由ということを擁護しており、形式的、物理的暴力のほうを処罰の対象とするという点で、横山さんもそうであろうと推察をいたしますが、私もどうもそういう点では、やはり人間のつくった刑罰法規というものは不完全なものだなという感じを抱かずにはおられませんが、しかしそれは、公正なるべき独立の裁判所があり、それに準ずる捜査当局としての半ば独立的な機関である検察庁があり、具体的事案に対する刑罰法規の適用等について深い考慮をなされてしかるべきものだ、こういうふうに存じます。  だから、私のあくまでも申し上げたいのは、そういう、人の心の中にある差別の解消というには人権思想の啓発ということが最も重要なことでございまして、今後法務省といたしましては、人権擁護機関の強化、充実をはかって、人権思想啓発に一そうの努力を傾け、差別事象の解消につとめる所存であります。
  103. 横山利秋

    ○横山委員 あまりこの問題についてここで私が言う時間もございませんし、何でございますけれども、何も法務大臣に聞いてもらいたいばかりではなくて、同僚諸君にもぜひこの視点を、いま私が申しました視点をないがしろにして八鹿高校事件なりあるいは部落の問題を議論するわけにはまいらぬ、それほど歴史的、社会的な問題なんだから、特に人権擁護局を持っておる法務省としては、そういう意味合いでは別な、いま言ったような視点というものを離れてこの問題を論じてもらっては困る、こういうことが言いたいのでございます。  そういうことに若干つけ加えますと、すでに御存じかもしれませんが、八鹿高校は月一回同和教育の授業が行なわれておったけれども、これは本当の解放教育ではなかった。兵庫県下のほとんどの中学、高校が解放研を設置して、解放のための同和教育が実施されているにかかわらず、この八鹿高校には解放研が設置されていなかった。そこで、生徒の中からこれをつくってもらいたいと言ったところが、同和担当教師が単独で顧問を引き受けないことを職員会議に提案し、職員会議はこれを決議した。顧問のなり手を封じてしまった。生徒はやむなく教頭を顧問に迎えて、校長の承認という変則的な形式で解放研を発足させた。だけれども、先生たちは校長の独断であるといって解放研を認めなかった。学校当局及び県教育委員会、町教育委員会のカリキュラムに従って同和教育を高校教育の中に正しく位置づけ、推進する努力が行なわれていたのであるから、この解放研設置を承認したのはその一環として校長がやったのであるから、校長の立場として行なわれたのであることが大事なのである。  それから、この職員会議は表面上民主的に行なわれていたようであるけれども、その内実は、学校当局や県教育委員会の同和教育方針反対し、解放研の設置に反対し、そうして生徒の自主的な行動反対をしておった。そういう中で生徒は、それに対して承知しないのでハンストを行った。そういう中から問題が発展をしていった。  ここに私が手元に持っておりますのは、兵庫高教組の八高分会長、八鹿高校職員会議議長の印刷物なのでありますが、要するにこれはどういうことかといいますと、「八鹿警察署殿 要請 我々八鹿高校教職員は、不測の事態の為、職員室、学校より出られない事態にありますので、早く排除していただくよう要請します」。十一月二十日何時何分、十一月二十二日何時何分、十一月二十三日何時何分、十一月十八日何時何分。これはどういうことかといいますと、これはちゃんと学校の先生がポケットに入れているわけですね。ポケットに入れておいて、何かのときにはすぐ時間を書いてぱっと警察に渡せと、こういうことらしいのであります。十八日やあるいは二十日ごろにそんな必要があったか。ごうもない平穏の状況なんですね。その平穏な状況の中に、なぜこういうことを印刷して、先生のところへ全部配られなければならないのかということなのであります。  これはちょっと議論の生じそうな文章でありますから、あまり共産党の皆さんに挑発的なことになるので、ここで披露するのは避けたいと思うのでありますけれども、少なくともいま言いました一連のこの事実というものは、私が最初に言いました、耐えることのできない条件下に一つ一つが組み込まれていった。最後に爆発をした八鹿高校事件である。やにわに一挙に出たものではない。そういう職員会議なり、あるいは生徒の要求なり、それから生徒の要求は校長も了解し、兵庫県の教育委員会も了解しているにもかかわらず、その先生方がいかぬと言い、そしてハンストをやっている生徒をそっちらかして集団下校するということに対する問題なんです。しかも、その根本は部落の諸君に対する理解というものが違うということ、そしてその過程に投げつけられた侮べつのことばが爆発の素因になったというふうに思うのであります。  そこで私は警察に、どうもそういうことがほんとうにあったかどうか、重大な問題でありますから、簡潔に伺いますが、衆議院会議において金子満広氏が、八鹿高校において女教師が裸にされて水をかけられたという驚くべき発言をされました。警察はそういうことを確認をしているのですかいないのですか。
  104. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お尋ねの八鹿高校事件につきましては、現在兵庫県警におきまして特別捜査本部を設置して鋭意捜査中でございますが、現在までの兵庫県警からの報告では、お尋ねのような事実については報告を受けておりません。
  105. 横山利秋

    ○横山委員 私どもの調査も、そういう事実はなかったというふうに承知をいたしておるのであります。しかし、衆議院会議でいやしくも一党の代表質問の中に、この学校の女の先生が裸にされて水をかけられたというような事態というものが質問をされ、そうしてそれが「赤旗」で全国にばらまかれる。そうしてしかもそれが解放同盟の諸君がやったのだというふうな印象を与えたとすれば、これは全く残念しごくでございまして、警察はそういう確認をしてないというのでありますから安心をいたしますけれども、こういうことについては問題をさらに紛糾させる原因でもあろうかと思いまして、私はその善処を求めておきたいと思います。  さて、時間がなくなりましたので、最後にたいへん恐縮でございますけれども、先般の商法問題について少し確認をしたいことがございます。  先般、商法の改正の際に附帯決議がされまして、マイクロ写真については商業帳簿とみなすよう政府に善処を求めておきましたところ、先般、民事局長川島一郎さんの名前で、経団連並びにマイクロ写真協会の理事長あてに「商業帳簿、その他営業に関する重要書類をマイクロ写真により保存する件について(回答)」があり、「標記の件については、貴見のとおり解しても商法第三十六条に反しないものと考えます。」という回答がありまして、一歩前進いたしました。  しかし、私の承知いたしましたところによりますと、その回答の席上、法務省側から次の三点が口頭で指示された模様であります。「一 本回答は商法第三十六条の解釈に関するものであり、法人税法に影響を与えるものではない。二 照会文中三年とあるのは、決算後三年を意味するものと解した。三 閲覧権利者が原本による閲覧を希望した時は、原本がある限り、原本による閲覧に供すべきこと。」等の三つの指摘があったそうであります。この指摘がなければいいのでありますけれども、指摘があったとすれば、納税者の立場、国民の立場からやはりどうしても確認をしていかなければならないことになってしまいます。  そこで、まず大臣にお伺いいたしますが、この民事局長の回答というものは、単に民事局長個人ではございますまいから、将来この通達書簡が裁判上でも問題になると思いますので伺いますけれども、民事局長のこの書面は法務省の見解と考えて差しつかえございますまいな。
  106. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 法務省の見解と御理解願ってけっこうでございます。
  107. 横山利秋

    ○横山委員 それでは次に伺いますけれども、この書簡によって、商法三十六条に違反をしないとするならば、マイクロフィルムを商業帳簿原本とみなすのでありますから、旧原本はこれを廃棄して差しつかえないのだ、理論上は。  私の結論を先に言ってしまいますと、この回答では、三年だとか、税法に関係ないとかいっているのだけれども、そんなことはだめなんで、納税者にしてみれば、法務省は廃棄してよろしいという、税務署は廃棄していかぬという、そんなことではどうもならぬのであります。どっちかはっきりしてくれということなんです。これは法務省の見解だとすれば、当然大蔵省、国税庁もこの見解でやってもらわなければ困るのであります。それを、法人税法に影響を与えるものではないということは、法務省としては全く無責任だと私は思う。それは、法務省としてこれを出されるときには大蔵省に無断でおやりになったわけでもあるまい。したがって、この見解については、法務省国税庁、大蔵省と一致した見解であるというふうな回答がなければなりません。これが質問したい第一点です。  第二番目の点は、三年後はどうのこうのというふうなんでありますが、「原本で三年以内閲覧できるものとすること。」ということは、三年過ぎたら廃棄してもよろしいということだと思うのです。けれども三年までは持っていなければならぬ、三年過ぎたら廃棄してよろしい、これも私は理屈に合わぬ。マイクロフィルムが三年間は原本でない、三年過ぎたら原本になる、そんな理屈があるはずはない。だから、こういう書簡を出した以上は、マイクロ写真というものは商業帳簿とみなすということである。そこに割り切ってもらわなければいかぬ。  ただ、私が自分で質問しながら救いの手を差し伸べてはおかしいのでありますけれども、いま税務署がまだマイクロ写真なりコンピューターに習熟していないから、納税行政上一ぺんに切りかわれないから、あるいはまた、まだこういうことを利用している人が少ないから、まだこれから書類作成規定、いろいろな問題があるから、つまり、まだこれに順序、手はずがあるから、やりやすいものから始める。そして習熟期間を置く。そういう意味ならわかるのですけれども、そういう意味理解してよろしいか。これが第二番。  つまり第二番目の質問は、マイクロ写真というものは原本とみなされる。もうマイクロ写真にした瞬間から商業帳簿とみなして理論上は差しつかえないのだ。けれども、税法上あるいは社会習慣上まだなじまないから、しばらくの間は過渡的措置としてこういう考えのほうが現実妥当性がある、やりやすいものから、そういうふうな観点をとる。こういうふうに解釈すべきではないかということなんですが、どうですか。
  108. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 最初に、誤解があるといけませんので、この回答の趣旨を申し上げておきたいと思います。  商法の三十六条では、「商人ハ十年間其ノ商業帳簿及其ノ営業ニ関スル重要書類ヲ保存スルコトヲ要ス」こういう規定がございます。そこで今回のこの回答は、マイクロ写真で保存することについての、一定の条件のもとにおけるマイクロ写真での保存についての適否を照会してきたのに対して回答したものでございます。商法の三十六条の規定でございますが、ここで十年間保存を要するとしておりますのは「商業帳簿」と「営業に関する重要書類」でありますが、これはあくまでその原本をさすものであるというふうに私どもは考えております。  しからば、なぜマイクロ写真で保存することが許されるのかといいますと、これはこの規定の趣旨と、それから現在の社会通念というものを加味したことによるものでありまして、マイクロ写真がすなわち原本とみなされるという趣旨ではないわけでございます。したがって、たとえば税法との関係あるいは三年という条件について御質問があったわけでございますが、この点につきましては先生と見解を異にしておるわけであります。  つまり、これは言わずもがなの説明であったと私は思いますけれども、税法というのは、たとえば法人税法の百二十六条の規定によりますと、青色申告の承認を受けた法人は、取引に関する帳簿書類を五年間保存せよと、これは大蔵省令が具体的に五年間という年数をきめておるわけでございますが、五年間保存せよ、こういうことになっておるわけであります。これは商法三十六条とは別個の制度でありまして、しかも、対象も青色申告の承認を受けた法人と限られるわけであります。したがって、制度の目的が違いますから、これは法人税法自体の解釈にまたなければマイクロでいいか原本でいいかという結論は出てこない、そのように考えます。法務省としては、所管の法律であります商法の規定についてこういう見解を示したということでございまして、税法の解釈には関係がないということは当初からそのつもりであったわけでございまして、そういう趣旨でございます。  それから、この三年というのは、照会文書に「三年」ということが書いてありましたので、そのままそれでよかろうという御返事をしたわけであります。この照会文書によりますと、三年は原本も保存しておくということは「監査等に必要な限りにおいて」ということになっております。先ほど申し上げましたように、商法の三十六条の規定は原本保存が原則でありますし、したがいまして、原本を置いておくということはこれはむしろ望ましいことでありまして、実際に現物に当たる必要が出てくるという場合もあろうかと思います。したがって、三年程度その原本を廃棄しないでおくということも適当な措置であるということで考えたわけでございます。  そういう趣旨でございまして、マイクロによって保存するというのは、原本すなわちマイクロである、マイクロが原本とみなされる、そういう趣旨ではございませんので、その点誤解のないようにお願いいたしたいと思います。
  109. 横山利秋

    ○横山委員 これはもう絶対に承服できません。これはもう、てにをはの問題ではない。  法務大臣、よく聞いていただきたいと思います。国会の決議は、「商業帳簿等としてマイクロフイルムを一定の条件の下に認めること。」とある。商業帳簿等としてマイクロフィルムを一定の条件下に認めることとは何だ。マイクロフィルムでとったものを商業帳簿として認めるということなんですよ。それ以外の何の解釈がある。どういう解釈がある。国会の決議を、政府がかってに解釈を変えることは許されませんよ。商業帳簿等としてマイクロフィルムを一定の条件下に認めること、このすなおな解釈は、原本を原本として認めることなんであります。マイクロフィルムでとったものは商業帳簿なりとして認める、それが国会の意思なんです。  ただ、私が先ほど言ったのは、そうではあるけれども、過渡的措置は認めよう。手順、それから税務署のいままでの仕事のあり方があるから、一足飛びにいきなりあしたからというわけにはいくまいから、それは認めよう。そこは私がきわめて常識的に言っている。だけれども、いまの民事局長の話のような、マイクロフィルムでとった写真は商業帳簿ではない、こんなばかなことはどこから引き出されてきます。そんなことは言語道断ですよ。  だから私は、この附帯決議をつくるときに、前法務大臣、ここにおられる法務省の皆さんにも、法律改正でやろうと言ったのですよ。そうしたら、大臣以下法務省の人はみんな、法律改正でなくても国会の意思はできますからと言うから附帯決議に譲ったじゃありませんか。ところがこの通達を出して、通達の中で、これは法務省の解釈でありますから税務署とは関係ありませんとは何ということですか。国会の意思は国会の意思ですよ。決議は法務省だけ縛った意思じゃありませんよ。インチキもはなはだしいじゃありませんか。国民の目から見れば、法務省はマイクロフィルムを商業帳簿と認める、税務署はそれを認めない、どういうことなんですか。商業帳簿は商業帳簿、税務署の帳簿は税務署の帳簿、そんな簡単な理屈  は認めません。そんなばかな理屈は認めませんよ。国民は、法務省が商業帳簿としてマイクロフィルムを認めるならば、税務署が認めることは当然なことだと考えるのは常識ですよ。こんなばかな解釈は責任転嫁もはなはだしいじゃありませんか。これはもう民事局長からの答弁をもらうつもりはありません。法務大臣から、この問題については法務大臣も初めてかもしれませんから、きょうがだめならあらためてもう一ぺんやります。政治責任というもの、国会の意思をじゅうりんした解釈に対して、責任をもって一ぺん検討してもら  いたい。
  110. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 法律改正をせずにやろうとすればこういうことになるのではなかろうかと思いますが、税務署、法務省、国家意思としての統一的な意思のもとに事案を取り扱うという必要はもちろん御指摘のようにありますから、そういうことになりますれば、私の所見でございますが、どうも法律改正を必要とするのじゃなかろうかというふうなこともただいまは考えておりますが、初めて私聞きます問題でございますので、時間的御猶予をいただきまして、なおよく検討させていただきますようお願い申し上げます。
  111. 横山利秋

    ○横山委員 ぜひそうしてもらいたいと思うのです。大臣、御検討の中で、民事局長や所管の人たちから説明があると思いますから、判断のものさしを二つ差し上げておきます。  「商業帳簿等としてマイクロフイルムを一定の条件の下に認めること。」これをすなおに理解してもらわなければ困る。この解釈はきわめて簡単な解釈であります。マイクロフィルムでとりた写真を商業帳簿として認めるという以外に解釈があろうはずがないのであります。それが一つ。  それから二つ目は、いまの産業社会において、官庁でもそうですが、書類の山ですね。倉庫は書類ばかりですよ。いかにして事務を近代化するか、いかにして合理化するか。それは横浜市をはじめ多くの地方自治体はもうとっくにマイクロフィルム化しているのです。それによってどんなに事務が合理化され、近代化されたかわからない。各省が全部コンピューターやマイクロフィルムをいま使いつつあるわけですね。そういう時代にあるということで、ものの判断考えなければいかぬということですよ。いまよりもあした、一年先、二年先には、コンピューターの驚くべき発展とマイクロ写真によって、驚くべき事務の流れの合理化がいま行なわれている最中である。その時代にさおさした解釈をしなければいかぬということですよ。  それは税務署にしてみれば、税務職員が商店へ行って調べるのに、帳面をぱっと見たほうがわかりやすいような気がする。マイクロフィルムなりコンピューターだと、どこのボタンを押したらいいかわからぬような気がする。そういう心理的抵抗がいま現にあることは私どもは認めます。けれども、書類作成規定なりコンピューターの手順というものを税務署長も前からちゃんと知っておって、税務署も了解して話をしておって行くならば、むしろ、どこにあるかさがすよりも、コンピューターのあり方、マイクロ写真の書類作成規定、そういうものがあるのですから、それを一見すれば、見読可能性、追跡可能性というものはこういうものよりもはるかに進歩している。これを忘れてはいけませんよ。私どもお互いに技術が弱いのだから、マイクロやコンピュータになったら税務署が行って困るだろうということではだめなんです、近代科学の精神がないのですから。むしろ、コンピューターによって整理され、マイクロ写真によって整理されたもののほうが、習熟したならば追跡可能性がはるかに増す、見読可能性がはるかに増すものだという科学的精神を持ってあなたが御判断なさらぬと、部下の言うことを聞いて、それはそうだな、おれもわからないなどと言っておったのではだめです。そういうことで判断してもらって、次回にひとつ御答弁を願います。  それでは私の質問をこれで終わります。
  112. 小平久雄

    小平委員長 青柳盛雄君。
  113. 青柳盛雄

    ○青柳委員 私は本日の質問で、最近顕著になりました労使関係においての非民主的なできごと、というよりもむしろ犯罪がそこに介入してくるというか、犯罪的な行為が行なわれるという、そういう忌まわし問題について治安関係法務省にお尋ねをしたいと思います。  その前に一言、同僚の横山議員から八鹿高校に起こった事件の問題につきまして御発言がありました。あのような事態が起こった原因についていろいろお話がありましたが、差別が現在存在しているということはわれわれ共産党としても当然認めるところでありまして、その差別をどうやったら根源的になくしていくことができるかという点について、解放同盟の朝田あるいは丸尾派という人たちとは見解を異にしているというだけのことでございます。われわれが差別がないと考えておるとか、あるいは差別意識を持っておるとかいうようなことを言われるとすれば、それは非常な事実に反することでありますから、それは明らかにしておきたいと思います。  それから、八鹿高校で具体的にはどういうことが動機でああいう問題が起こったのかということについての横山議員の御見解、つまり八鹿高校の教師の側に差別行為があった、そして解放研を認めなかったことに原因があるようなお話でございましたが、これはやはり私どもと事実の認識において違いがありますが、政府が別にこれについて答弁をされたわけじゃありませんから、それについて詳しく述べることは避けます。  ただしかし、一つだけ警察庁の事実に関する認識の質問があり、お答えがありました。つまり、過日の本会議でわが党を代表して金子満広議員が八鹿高校問題に関連して発言した中に、女子教諭が裸にされたりあるいは水をぶっかけられたりしたというような趣旨の発言がありまして、これは事実に反するのではないかというのが社会党側からの問題提起でありました。そしてこれは議運のほうで現在討議中のようでございますが、ただいまの警察庁佐々警備課長の御答弁によりますと、現在までのところ兵庫県警からは、この事件の捜査の過程で、裸にされ水をぶっかけられた女性がいるという報告は受けていないというふうに単純にお答えがありました。これはもっと正確にしていただく必要があろうかと思いますが、まずその前に、警察庁のほうから兵庫県警にいまのような事実関係があったかなかったかを照会し、その結果としてただいま御答弁のような報告があったというのであるかどうか、それをお尋ねしたいと思います。
  114. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お答えいたします。  横山先生の御質問が、八鹿高校事件において女の教師が裸にされ水をかけられたという事実を警察は確認しておるかという御質問でございましたので、現在本件につきましては兵庫県警本部特捜本部におきまして鋭意捜査中であるがという前提で、そういう事実を確認したという報告はないという御答弁を申し上げました。本件につきましては兵庫県警で現在捜査中の事件ではございますが、事実に関し調査をいたしましたそれに対する回答は、正確に申しますと、水をかけられ、ずぶぬれになった女の先生がいる、こういう被害申告はございます。また、服をぬがされそうになったという婦人の先生がいる、こういう事実関係については報告を受けておりますが、御設問のような、裸にされて水をかけられた、こういう事実については現在の捜査の段階では確認をしておらない、こういうことでございます。  なお、具体的に何のだれがしという先生がだれからいつどういうことをされたか、こういうような具体的な問題につきましては、現在捜査中の事件でございますので、厳正公平なる捜査を確保する意味答弁は差し控えさせていただきたいと思います。
  115. 青柳盛雄

    ○青柳委員 捜査中で、これからまだ問題がさらに判明してくる時期がある、またしかも、被害者がどういう方であり、加害者がどういう人間であるかということも捜査の結果によっては明らかになる、こういう御趣旨の御答弁でございますから、それだけ確認いたしまして私の関連した質問は終わりにいたし、本来の質問であるところの労働関係における犯罪行為についてお尋ねをいたしたいと思います。  私がきょうおもに質問をしたい事柄は、東京にございます、住友独占資本系統の会社でございますが、株式会社北辰電機製作所、これは大田区の下丸子にございます。この会社の労使関係についての犯罪行為でございますけれども、その前に、われわれが非常にショックを受けた事件がこの一、二カ月の間に二つございます。  その一つは、音響メーカーの大手といわれている山水電気という会社がございますが、そこの労働組合の幹部がたまたまある謀略にかかりまして、麻薬を所持していたということで逮捕されるというようなことが起こったのでありますが、それは、真相を究明していきますうちに、労務担当の山田という専務が実はでっち上げた犯罪行為であるということがわかり、この労務担当が逮捕されるというところまで真相は進んでいったのでありますけれども、これについて、これは単に一山田担当のやったことではなくて、このぬれぎぬを着せられた松田という副委員長は、あやまって逮捕されたわけですが、逮捕されたときに、社内で、松田が会社をつぶそうとして仕組んだ事件だとか、組合には百万円の使途不明金があるなどと触れ回った部長クラスの職制が何人かいた。こういうようなところから見ると、社内に複数の事件協力者がいることをうかがわせるに十分である。会社首脳部は山田の単独犯として責任回避をはかろうとしているが、事件が会社の前近代的な労務政策の一環であり、その頂点をなすものであるというところから見るならば、これは単に一山田の犯罪行為として問題をおしまいにすべきではないという趣旨の、この労働組合の中央委員会の声明も出ているわけであります。これについてその後の捜査はどう進んでいるのか、まず最初にお尋ねしたいと思います。
  116. 安原美穂

    安原政府委員 その件につきましては、山田専務外四名につきましてすで兵逮捕監禁、それか一ら誕告罪で公判請求をし、社長につきましては嫌疑なしで不起訴にしております。
  117. 青柳盛雄

    ○青柳委員 外四名の中身は、おそらく興信所の、新国際総合の代表取締役あるいは社員というようなものだろうと思いますけれども、社長について嫌疑なしと言われたというのも、社長については嫌疑がないにいたしましても、部長クラスの職制が、もう待っていましたとばかりに誤認逮捕されました松田副委員長のことを言っており、この会社におけるこの組合、これは第一組合といわれているのでありますけれども、第一組合をつぶすという陰謀があったということが私どもは重要であろうと思うのであります。これはもっと厳重に捜査をすることを要求したいと思います。  次にまた、たいへんなショックな事件でありますけれども、これは大阪に片岡運輸会社というのがございまして、その会社の運転手で、全自運大阪合同支部片岡運輸分会の副分会長の植月一則さんという方が失踪いたしまして、その後捜査いたしましたところ、まさにこれが、その社で雇われた運転手の田辺孝寛という者がこの植月さんを誘拐して殺害し遺棄した、こういう事実が判明した。しかもこれには暴力団員が二名か数名協力をしている。その目的は、まさに会社のほうから、この組合をつぶすためにはこの植月さんを、裏切らせるような工作をする、あるいは会社をやめさせるような工作をする、それに応じない場合には始末してしまってもいいというような含みでやったらしいというのであります。共犯の暴力団員二名が逮捕されまして、調べてみますと相当の金が出ている。その金の出所はどこだということで調べてまいりますと、たまたま、これが驚くべきことに、大阪一般労働組合同盟といいますか、要するに先ほど言いました全自運と対抗的に存在するところの第二組合といわれるものでございますが、その一般同盟のほうから百五十万円の金が出ておるというような事実が明らかになったわけでございます。この金は、退職金の意味で植月さんに渡してくれと言ってこの田辺に渡したのだけれども、田辺が退職させることに成功しないで殺してしまったので、この金は決して殺すための費用として渡されたものではないというような弁明もあるようでありますけれども、いずれにしても一般同盟の幹部、つまり第二組合系統の人たちが会社と何らかの関連を持ちながら、こういう犯罪行為に協力、加担をしているという、こういうような問題が起こっておりますが、これの捜査状況はどんなぐあいになっておりますか。
  118. 安原美穂

    安原政府委員 その件につきましては、一名を殺人、死体遺棄、逮捕監禁、強要罪で起訴し、三名につきましては逮捕監禁罪で公判請求済みでございますが、いま青柳先生の御指摘の背後関係につきましては、相当の疑いを持って捜査いたしておりまするが、いまだ確証をあげるという段階には至っておりません。
  119. 青柳盛雄

    ○青柳委員 これはきょうお尋ねします北辰電機の問題についての前段階でございますが、私は委員長にお願いでございますけれども、これから私が質疑するのに関連いたしまして、写真を掲示してこれを行ないたいと考えておりますが、お許しを得たいと思います。
  120. 小平久雄

    小平委員長 ただいまの青柳委員の写真の掲示に関する御要望については、そうしていただいてけっこうでございます。
  121. 青柳盛雄

    ○青柳委員 それでは時間の関係もございますから簡単に要点を申し上げます。   〔委員長退席、小島委員長代理着席〕  先ほど申しましたように、東京都の下丸子にあります株式会社北辰電機という会社は、資本金三十億円という大きな会社であり、また従業員は約二千三百名、本社は先ほどのところにありますし、それから工場もそこにありますが、奈良にも工場、大阪その他主要都市に支店、営業所等を持っており、工業計測器、自動制御装置等の製造、販売をおもな業務とする会社であります。  この会社には、従来、総評全国金属労働組合であり、同時に東京地方本部北辰電機支部という労働組合がございまして、現在もそれが存続しているわけでありますが、それが四十六、七年ごろに、会社からの分裂工作によりまして、北辰電機労働組合という千七百名ぐらいの組合員を有する労働組合が別にできまして、これは俗にいう第二組合というようなものであります。  それで、こういうふうに二つの組合が存在する状況の中で、会社は何とかしてこの従来からあります全金支部の労働組合をぶっつぶしてしまおうということをたくらんでまいりまして、いろいろな工作をし、差別待遇をし、まあいやがらせもする。そうして結局、その組合から従業員はみんな出てしまって第二組合のほうに入るような策謀を続けたわけでありますけれども、それがついに成功しなかったばかりでなく、その組合のほうから申し立てました不当労働行為の地労委に対する申し立てに対しては、昭和四十七年六月二十日付で、この労働組合と団体交渉しなければいけないんだという趣旨の命令が出されているわけであります。そこのところは重要でありますから主文を読んでみますけれども、「一、被申立人株式会社北辰電機製作所は、申立人総評全国金属労働組合および同総評全国金属労働組合東京地方本部を非難・中傷するような文書を配布・掲示するなどの方法によって申立人組合の運営に支配介入してはならない。二、被申立人会社は、申立人組合の北辰支部から団体交渉の申し入れがあった場合、申立人組合の役員が交渉委員になっていることを理由として交渉を拒否してはならない。三、被申立人会社は、申立人組合の組合員で会社に雇用されている者が、休憩時間中会社構内において集会をひらく場合、これに申立人組合の役員(常任書記を含む)が参加することを合理的な理由なしに阻止してはならない。」という趣旨のものでございます。  ところが、これになかなか抵抗をいたしまして、別に中労委に提訴をするというようなことで抗争をしたわけではありませんが、事実上これには従わないような形で、団体交渉もなかなかスムーズに進まないというような状況が続き、また、構内集会などになりますというと、ことしの十月ごろから許可をしないというような形で、事実上構内集会も持てない、また一切の写真撮影を禁止するというようなことで、都労委へあっせんの申し立てをしたのでありますけれども、都労委では、双方協定を結んで円満にやったらどうかというふうな勧告がありましたが、会社はこれには応じない。  こういうような状況が続き、そうして十一月十一日の朝には、この全金の支部員の人がビラを構内で配布したところが、これをとがめて、つまりそのビラを一枚受け取って、見ている前で引き裂いて地面に投げつけ、拾えと要求したというような侮辱的なことが行なわれ、抗議したところ暴行を加える。この暴行を加えるのは、労働組合の人たちではなくて、つまり職制といわれる人々でありますけれども、そういう人たちがその日以後毎回のようにやってきて、支部組合員が配布するビラを奪い取り、そうしてこれを捨てる、そうして拾えと要求するというようになり、これに抗議すると、こずいたりけっ飛ばしたり体当たりをしたりしてけがをさせる、暴行の限りを尽くすというような事態が起こってまいりました。  ここにお示しいたしますこの写真でございますけれども、この腕章をつけているのが会社のいわゆる職制で労務関係をやっている人たちでありますし、このうしろにゼッケンをつけている人が支部の組合員であります。この組合員が持っているビラのところへやってきまして体当たりをする、あるいはこれを奪い取る、またゼッケンをはぎ取るというようなことがひんぱんに行なわれたのであります。こうなりますと、この支部といたしましては、もう十数年来、週に二回ないし三回は、時々の要求項目、その他情報などを記載いたしましたビラを数百枚、毎朝門の前で出勤する労働組合員あるいは従業員に配布するという実績を持つのでございますが、これがもうできなくなる、全く自由であるべき行為が。先ほど言いましたように、地労委のほうでもそういうことを妨害してはいかぬといっている行為を続けるわけでありますから、これを何とか証拠を明らかにして、そしてしかるべき方法でその是正をはかるというのは当然であります。  そこで、十一月二十六日にその地域の有志の労働組合の人たちの協力も得、また従来から顧問弁護士としていろいろの問題について協力、援助を受けておりました自由法曹団所属の南部法律事務所の船尾徹という弁護士さんをはじめ、いま言ったような人たちがこの北辰電機の正門前に至りまして、支部の組合員が構内でビラまきをするのをどんなぐあいに妨害するかを調査しようとして参ったわけであります。ところが、写真機を持っている人たちはいち早く、その門前に到達する以前に、街頭において強制的に門から百メートルも離れたところへ連れていかれて、もう近寄れないようにさせられるというような状況もある。そして、先ほど申しました船尾弁護士はふろしきに八ミリカメラを包みまして門前近くまで接近し、そしてそこでカメラをふろしきから出して、様子がわかるように、そちらへ撮影のために向けたわけであります。これはもちろん構内ではありませんで、前の道路でやったわけであります。ところが、この写真でわかりますけれども、船尾弁護士は向こう向きになっておりますが、このカメラを奪うために腕をとらえて構内へ引っぱり込むということを、管理職の水谷あるいは鈴木というような人物がやったわけであります。非常に大ぜいの人々がやったのですが、たまたま写真に写っているのはこの二人であります。もう手取り足取りというようなかっこうで、外にいる人間であるところの船尾弁護士を中に引っぱり込みまして、そこで暴行の限りを尽くし、カメラを奪い、かばんを奪うというような事態が起こったわけであります。その際の暴行の状況はなかなか写真にとれませんでしたが、とにかくバンドを引きちぎられる、せびろの上着のボタンがもぎ取られる。それから、自由法曹団の腕章をつけておりましたが、これもせびろから引きちぎられて、そでが破れるというようなひどい暴行を受けたわけであります。当然一週間くらいのけがをしたわけでありますが、その際に写真機を返せといって要求しましたところ、二度とこういう写真をとるようなことをしないという誓約をしない限りは返せないというようなことを言って、返すことを承知しなかったわけです。その間に警察官が数名かけつけましたのでこのような暴行は一応終わったわけでありますけれども、いずれにしても職制といわれる人たちが束になってかかって、弁護士の正当な業務まで妨害するというようなことが起こり、当然またこれをかばう、一緒に調査をしておった人たちや組合員の人たち数名もけがをさせられるという状況でありましたので、直ちにこれは東京地検のほうへ告訴状を提出いたしております。強盗傷害、威力業務妨害、傷害、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反というようないろいろの罪名でございますけれども、とにかく白昼公然と、公道にいる人たちに対して襲いかかったおそるべき暴虐事件でございます。  これは単に偶然なできごとではなくて、会社の反労働者的な労務対策の一環でございます。つまり、先ほども申しましたように、何とかしてこの第一労働組合をぶっつぶそうという会社の野望が原因でありまして、しかもそれが第二組合、つまり、わかりやすいことばでいえば、労使協調路線といいますか、御用組合といいますか、とにかく会社あっての労働組合であるといったような考え方の人たちを糾合するために幹部諸君が会社と癒着しているわけでありますが、その組合をうまく利用いたしまして、たとえば第一組合の人たちを分裂していった日共分派であるというようなことで、指名手配のような写真をばらまく、あるいは掲示板に張る。交番で凶悪犯人の指名手配写真を町々に張ると同じようなものを各職場の掲示板に張り出して、こういう人間とつき合ってはいかぬというような形で、もう人権じゅうりんもはなはだしいものである。差別などというようなものではなくて、まさに村八分をやってのける。レクリエーションからスポーツから、あらゆるものからこの人たちを排除するような策謀が行なわれている。その他不当労働行為に類するようなことは無数に会社とこの組合によって行なわれるわけでありますが、それでもなお屈せずにがんばっておられるから、しまいにはもう暴力で会社から追い出す以外にないということに方針がきまったようでありまして、この会社が発行いたしております——会社が発行するというと正確ではありませんが、会社の職制がつくっております北隆会という会があります。それの機関紙などを見ますと、その機関紙の中に、このような組合の連中は企業破壊グループである、こういう企業破壊グループに対しては徹底的に攻撃を加えて、そして排除するという精神で対処しなければいけないんだということが堂々と書かれているわけですね。  いま言いましたのは「北隆会報」という題名のものでありますけれども、これは北辰電機北隆会調査広報部会という署名入りの七四年十月八日づけのものの一部分でありますが、読み上げてみますと、「反企業グループとの対決は、生活基盤を守る立場から、会社・組合・職階の別なく、強力に取り組むべきことである。そして、彼らの生産性向上運動反対、HAI運動反対、といった行動に対し、毅然と対決し、その行動にふさわしい「差別」(評価)を与え、一日も早く、我々の周囲から追い払う必要がある。その意味から我々は、「目には目」「歯には歯」といった強い態度が、いつでもとれるよう、物事の本質をよく理解し、理論づけておくことが大切である。手を汚さないで、「仕事さえしていればよい」というセンスでは、上に立つ資格は、全然ないし、会社の足をひっぱる者でしかない。この際「キレイゴト」はやめよう。」という、つまり、職制あるいは労組の幹部などがこういう上品なことをやっておってはいかぬのだ、だから断固として、暴力をふるってもかまわないという趣旨のことがあるわけですね。これが刺激になりまして、一連の職制の連中あるいは第二組合の幹部連中が、先ほど申しましたような妨害行為に出てきたわけであります。  このことについて、検察庁は一応取り調べを続行しているようでありますが、これは法務省のほうでは報告を受けておりますか。
  122. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘の船尾弁護士に対する威力業務妨害等の告訴事件につきましては、十二月六日に告訴を受理いたしまして、事柄の性質上、東京地検におきましては裁判所の捜索押収令状を得まして、十二月二十日に本件北辰電機製作所の事務所を捜索いたしまして、関係書類、証拠物件を押収いたしております。別途、会社からも関係物件の任意提出を受けまして、別途、告訴人の方方からその告訴に至った事情を聴取いたしておりますが、いまだ捜査の途中でございまして、これから被告訴人等の取り調べの進行という段取りになっておると聞いております。
  123. 青柳盛雄

    ○青柳委員 私はその捜査が厳重に進むことを期待いたしておりますけれども、しかし会社側のほうでは、相当この問題についてはもみ消しといいますか、いろいろの策謀を行なっているようであります。  たとえば、その暴行を受けた際にかけつけた警察官なども、この凶暴な連中からガードマンと間違えられたというのがなぐったほうの側、け飛ばしたほうの側の言い分のようでありますけれども、いずれにしても負傷するような、つまり公務執行の妨害を受け、傷害を受けるような事態すら起こっておる。これがはたしてどのように捜査され、処理されているか知りませんけれども、そういうことすらあるばかりでなく、写真機を奪い取りながらそれをごまかしていたという事態、つまり、この株式会社北辰電機製作所総務部門発行の「北辰ジャーナル」四十九年十一月二十八日の三百五十六号というものを見ますと、「自由法曹団南部法律事務所の弁護士、船尾徹と称するものは、社内に侵入した際カバンとカメラを奪われたので返せと申し出たが、カバンは支援団体が保管しており言掛りであることが判明した。この弁護士は、都労委や、裁判所で全金(岡安ら)の代理人である。」こういうふうに、「侵入した」などということが書いてある。そうして言いがかりだなどといっておったのであります。しかも、その後出しました七四年十二月十三日、三百五十八号「北辰ジャーナル」によりますと、「社内へ侵入して写真撮影を行った際、当社従業員から殴る蹴るの暴行をされカメラを奪われたという事をもって強盗および暴行といっているようである。」これは告訴のことについて触れていっているわけです。ここで社内へ侵入したなんというのも前と同様うそなんで、先ほど申しましたように無理やりに中へ連れ込まれて監禁状態になったわけであります。しかし、「強奪されたとされているカメラについても、その後再三、弁護士事務所に電話して、取りに来るように催促していたが、船尾当人は北辰対策の為、不在と称して取りに来ないため、やむをえず会社はわざわざ郵便料を払って当人あてに送り返しているものである。」こういうふうに、明らかに自分のほうで強奪をし、つまり強盗をしておいたにもかかわらず返さないばかりか、その場では二度と写真をとりませんという誓約書を書けなどという言いがかりをつけて返さなかった。あとでその始末に困って、強奪したカメラをこの従業員が手に持って、そうして交番へ、これは遺失物だからといって届けに行ったのですね。この交番はガス橋交番というので、ここのトラブルのことをよく知っておりますから受け付けなかった。たまたま全金支部の人が、この会社の男がカメラを持って届けに行くところを写真にとってありましたので、これが証拠になるわけでありますが、要するに遺失物などといってごまかそうとした。こういうふうに、彼らは何とかもみ消しをしようとしているのではないか。  その証拠に、先ほど申しました「北辰ジャーナル」三百五十八号のある部分を読んでみますと、「さてこの告訴は今後どう処理されるかは解らないが、彼等一流の公的機関を使った威圧乃至はいやがらせというべきであろう。」会社をぶっつぶすためにこんないやがらせをやっているのだというような趣旨のことがあります。つまり、合法的に、法的手続をとってやることに対して「公的機関を使った威圧乃至はいやがらせ」などという、まことに法をおそれない、国の秩序を無視するもはなはだしい態度をとっておるわけでありますから、その後の事態を見ましてもわかりますように、十一月二十六日以後次々とまた暴行が行なわれております。   〔小島委員長代理退席、委員長着席〕  告訴されたものだけを見ましても、十二月の十一日に関口光彦という方が、なぜ告訴したのだというようなことを言ってこの職制の人たちから暴行を受けております。会社へなど来ないで出ていけと言って会社から追い出すようなことをやる。なぐる、ける。それから同じく十二月十二日には清水貞雄という人が同様に、なぜ会社に来たんだというようなことで暴行を受ける。しかも、ここでこの清水という男に暴行を加えました上薗という人物はこういうことを言っているのです。「これが証明できるか。」これはなぐることを彼らはしぐさで示したわけです。つまり、なぐったり壁に押しつけたりすること、あるいは体当たりすることは武器を持たずにやるわけです。凶器を持たずにやることですから証拠が残らない。だからこれは証明できないのだ。つまり非常に計画的なんであります。要するに、武器をもって暴行を加えますと、たちまちそこに出血だとかあるいは目に見えた傷害があらわれるわけでありますけれども、体当たり、け飛ばしだと内出血あるいは内臓破壊というようなことで、徐々にしか傷害の状態がわからないというような、まことに知能犯的な暴力行為を彼らはやる。そして外部から見たときに、写真でもとっておかないとなぐったという証拠は何にも残らないというような実に悪質なやり方が、はしなくもこの上薗という人物の発言の中に出てくるのをわれわれは知るわけであります。それからまた、やはり十二日から十三日にかけて、西村という方あるいは福井という方に対して彼らが同様に暴力行為を加え、会社から追い出すような行為をとる。いずれも告訴したことに対する報復行為の措置であります。それから十二月十七日には三名の人々が、それぞれ十名くらいの職制によって工場内のロッカー室とかエレベーター付近において長い間監禁されるというような犯罪行為も行なわれておる。  いま御答弁には、厳重に捜査をされておるということでありましたけれども、結局、やはり法とかあるいは警察とか検察庁というものを非常に軽く見ているのではないか。どうせ国家権力というものは会社側の味方である、だから労組や何かがいろいろとそういうところへ訴えを持ち込んでいっても厳重な捜査や取り締まりは行なわれないであろうという、思い上がった考え方があると思うのです。  私は、先ほどもちょっと話に出ました八鹿の解同朝田・丸尾派の暴力行為に関連して現地へ行った人の話を聞きますと、立て看板などがたくさん出ておりまして、「日共の告訴魔」というような、名前を言って、共産党が告訴しているわけではありませんけれども、要するに被害者たちが告訴、告発をすることに対して告訴魔であるというようなことを言って、合法的な手続——つまり、自力救済、正当防衛というような挙に出ることもできるわけでありますけれども、そういうことをやりますとお互い暴力の加え合い、けんか両成敗ということになる可能性もなきにしもあらず、どちらもどちらということになりますから、言ってみれば民主的な人たちはなぐられっぱなしといいますか、抵抗してけんか両成敗みたいにもみ消されないというか、問題が不問にされてしまうようなことを避けて、そして成規な手続で国の権力による取り締まりを要請するというのを告訴魔だとか、彼ら一流の公的機関を利用して云々というような、法治国ではとうてい考えられないような考え方が会社側にあるという。だからこそ、最初に申しましたような、謀略的に麻薬を持たせて誤認逮捕させるとか、あるいは命を奪うとかいうようなことをやって平然としているんではないか。これは一労使関係だけの民主化というにとどまらず、国民生活全般に重大な影響のある風潮の一つだと思います。いわゆるゲバ棒をふるって内ゲバを続けている暴力学生や暴力的な一部労働者のことについては、世間では非常に批判を厳重にしておるようでありますけれども、しかし、ひるがえってみれば、解同の一部分子の人たち及びこのような会社の組織ぐるみ暴力行為とかいったものに対しても、厳重な警戒をしなければならないというふうに考えるわけであります。  目下、北辰電機の問題は捜査継続中でありますから、これ以上私はいろいろの発言はいたしませんが、一つの傾向として、法務大臣に伺いたいのでありますが、いかなる暴力も絶対許さないという態度は一般的にお持ちになっていることは事実だと思いますけれども、労働関係の中で暴行が行なわれるというようなことは、これは組合側から行なわれてももちろんなかなか厳重に取り締まられるわけでありますが、会社側から行なわれることに対しても、それにも増して厳重に取り締まられることを考えておられるかどうか。これは労働省あたりも行政指導の面でもちろん関係のあることであります。しかし、治安維持という観点でいうならば、法務省の姿勢、もっと大きくいえば三木内閣の政治姿勢の重要な一環ではないかと思いますのでお尋ねをして、私の質問を終わりたいと思います。
  124. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 一般論として申し上げますならば、労働組合運動に関連するものであるといなとにかかわらず、暴力事件等の発生を見ることはまことに民主主義社会において遺憾千万であります。およそ民主主義の社会においては、その目的のいかん、動機のいかん、主義主張のいかんを問わず、暴力行為が許されるべきものでないことは申すまでもありません。検察といたしましては不偏不党の立場に立って、厳正かつ公平な捜査を行ない、事案に適した処分を行なうべきものと考え、問題は具体的事案でありますから、具体的事案について法務大臣が指図をすべき立場にはありませんけれども、一般論としては、捜査当局を指揮監督する立場にある法務大臣として善処を申し上げることをお約束申し上げる次第です。
  125. 青柳盛雄

    ○青柳委員 終わります。
  126. 小平久雄

    小平委員長 正森成二君。
  127. 正森成二

    ○正森委員 まず最初に法務大臣に伺いたいと思いますが、前法務大臣の濱野さんのときに私はお伺いしたのですが、いわゆる田中総理の金脈問題について、言論、出版についての抑圧行為が行なわれたのではないだろうか、特に、名刺に「S女史のことをよろしくお願いします」というように記載することによって、小坂徳三郎氏、総理府総務長官が関与したのではないかという疑いについて伺いまして、濱野氏のほうから、そういうことは決して好ましいことではない、言論あるいは表現の自由というのは尊重されるべきであるというような御答弁をいただいたと記憶しております。今度大臣がおかわりになったのですが、稻葉法務大臣はこういう問題について基本的にどうお考えになりますか、伺っておきたいと思います。
  128. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 その事案がどういうかっこうで行なわれたかは、私つまびらかにいたしませんが、文芸春秋という雑誌社がああいう発表をし、またこれからも第二弾をやるなどといううわさのときに、お手やわらかに頼みますわという程度のことは言論抑圧の何かになるのかどうか、その辺の具体的事案の呼吸とかやりとりとかいうものは、どうも私、むずかしいように思うのでございますけれども、一般論として、言論に対して圧力を加えて発表を差しとめるような行動は、言論自由の社会において好ましいことでないことは申すまでもありません。
  129. 正森成二

    ○正森委員 いまの答弁を聞いておりますと、濱野法務大臣よりもいささか後退したような印象を与えます。もちろん私は濱野氏に伺ったことを前提としておりますから、事実関係については言いませんけれども、お互いが、何か大臣に就任するあるいは委員長に就任したときに、廊下で会って、やあやあ、お手やわらかにと頼むということは、政治家としてこれは当然のことであります。しかし私が言うているのはそういうことではなしに、小坂徳三郎氏の場合は、わざわざ相手の会社へ出かけて、そして自分の名刺に特定の名前を出して、「S女史のことをよろしくお願いします」というようなことを書いておる。こういうことについて好ましいことかどうかということを聞いて、それに対して濱野法務大臣は、決して好ましいことではない、こう言っているのでありますから、そういうお考えにお立ちになるかどうかということは、これはやはり聞いておく必要があると思うのですね。
  130. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 そういう事実があったことを前提として御返答を申し上げることは、あまり穏当ではないように思います。
  131. 正森成二

    ○正森委員 その事実は小坂徳三郎氏自身が認めているのですよ、法務委員会で。
  132. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 私はまだそういうことを聞いておりませんので、あなたの御発言を信じないとかそういうことではありませんけれども、軽々に、正森委員発言をそのままうのみにして、それを事実として、前提として、それは不穏当でございます、それは適当でない、好ましいことではございませんという答弁を私申し上げるだけの、濱野さんのような勇気がないのだ、そういう意味です。
  133. 正森成二

    ○正森委員 いまの御答弁を聞いているといよいよ問題になってくる。あなたは私の言うたことをそのまま信ずるわけにはいかないという意味のことを言われたけれども、そうじゃないので、法務委員会で私が小坂徳三郎氏をわざわざお呼びして、そうして小坂徳三郎氏に聞いたら、その名刺を書いて渡した趣旨についての弁明はありましたけれども、文芸春秋社に伺ったこと、そして自分の名刺にそういうことを記載したということは、小坂徳三郎氏はりっぱに認めているのですね。その認めたということも当法務委員会の議事録に載っているのです。そういうことを前提に聞いているので、私はそういうことをどこかの週刊誌で見たとか、そんなことではないのですよ。ですから、もし大臣のような答弁が許されるとすれば、これから法務委員会で事実を幾ら確かめ、論議してもむだだということになる。これは国会論議を軽んずるもはなはだしい。しかも、私は言論抑圧の問題について聞くということを通告してあるのです。法務大臣としてそういうようなことを御了知なさって答弁なさるのは当然じゃないですか。
  134. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 本委員会で前総理府総務長官、国務大臣小坂徳三郎君がそういう証言をしたという事実をいま初めて聞きましたので、それが事実ならば、そういう小坂君のやり方は不穏当であるという点については濱野清吾君と同じです。
  135. 正森成二

    ○正森委員 それではそういうことを前提として伺いますが、文芸春秋の十一月特別号の、児玉隆也氏のお書きになった文章があります。それの一四五ページを見ますとこういうことが書いてある。  「いったい、何が佐藤昭という〃奥の院〃を生んだのだろう。それを考えるとき、実は私自身の記憶の中で、田中角栄の忘れられないことばがある。  その日は『三島事件』の日であったので、四十五年十一月二十五日の夜ということになる。私は、ある〃ドキュメンタリーノベルス風〃のいきさつを経て、田中角栄に約二時間会った。彼は、上京して住みこんだガラス問屋の商品を、配達の途中で壊して途方にくれた十代の日の想い出や、古い歌謡曲を二曲披露したりしたが、総裁の座を目の前にした心境を問うと、はっきり答えた。  「大臣なんて、なろうと思えば誰にでもなれる。だが、総理総裁は、なろうと思ってなれるものではない。天の運というものがある。すべての準備をととのえて、公選の前日に車に撥ねられる、ということもある」  彼は、その総理の座を〃天の運〃と〃すべての準備〃の上で掌中にした。私の印象に残るひとことは、それから二、三のやりとりのあとで、彼が語ったことばである。  「財布は、身内の人間に握らせるに限る」  二十億の政治献金の財布を握る佐藤昭は、彼にとってまさしく〃身内〃そのものなのだろう。身内は、血縁であったり、地縁であったり、もっと異る次元を意味する場合もあるだろう。」  こう書いてあります。私はこのくだりのことについて、以下少し質問したいと思うのです。  こういうようなことを含めて、文芸春秋に書かれるということを何とかお手やわらかにという意味もあったのでしょう、小坂徳三郎氏も出かけたということは認めているのですね。そこで私は、ここに出てくる、四十五年十一月二十五日の夜ということをわざわざ児玉隆也氏は言っておられる、その四十五年十一月二十五日には一体どんなことがあったのかということを、当委員会で少し問題にしてみたいと思います。  この日は、実は田中角榮氏が小坂徳三郎氏などに、私は何らかのルートを通じて依頼があったと思いますが、ことしの九月、十月ごろにそういうことがあったということ以外に、田中氏自身が今度は出向いているのですね。私の入手した資料によりますと、四十五年十一月二十五日に赤坂の料亭千代新に田中角榮氏自身が出向いておる。そして田中角榮氏側の出席者は、田中角榮氏、秘書の早坂茂三氏、評論家の戸川猪佐武氏、それから作家の川内康範氏、この四人であります。それから、これは週刊誌の「女性自身」にからんだことでありますが、週刊誌の「女性自身」側からは富田編集長ほか四名が出席されております。この日が昭和四十五年十一月二十五日であったというのは、文芸春秋にも書いてありますように、三島由紀夫氏が市谷の自衛隊に出かけまして割腹自殺をした日なんです。そこでその会合でこれが一斉に話題にのぼったから、十一月二十五日の夜であったということはもう鮮明な記憶があるのですね。  そこで、なぜ田中角榮氏が出かけていったかというと、「女性自身」で二、三の政治家の身辺にまつわる女性問題を特集する、「女性自身」ですから。その一環として田中角榮氏の問題を取り上げるんだということを察知いたしまして、それを発表するのを控えてもらうようにということでこういう会合が持たれたということになっておるのですね。私が調べてみますと、この日はそういう人が千代新で集まったわけでありますが、田中角榮氏はそこでこう言っているのですね。「辻和子の件では、あれは自分の若げのあやまちである。しかし子供には罪はない。上の子は慶応にいたが日大へ移るなど苦労した。下の子供も小さい。私のことはどう書かれてもかまわないが、子供のことを書いたら私も黙ってはいられない」こういうことを言い、あるいは佐藤昭のことでは、「佐藤の責任者のポストをはずすので、それまで待ってくれ」つまり書くのを待ってくれということを言い、そして最後に別れる前に、手打ちのつもりかわからないけれども、握手をしようと手を出して、ここで握手をするわけにはいかない、こういうことで「女性自身」の側から断わられているのですね。しかもここで田中角榮氏は、菊池寛の作詞だという古い歌を歌ったとか、当時の情景が事こまかにわかっておるのです。  そこで私は伺いますが、こういうように要職にある人が料亭に呼んで、そして書かないようにということを言うということが、言論、出版の自由の点から見ていいのかどうか。さらにもう一つつけ加えますと、この席におった川内康範という人はわざわざ「女性自身」のところに行って、富田編集長に「やめろ」ということを言って、いたけだかに申し入れをしているのですね。これは民主主義社会から見て非常に好ましくないことだと思いますが、どう思いますか。
  136. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 これはさっきのとは違って、法務委員会に出て明らかになった事実ではないのですから、事実をつかまえないで、私が、それはいけませんとか、まあその程度は言論の圧迫とは言えないでしょうとか、判断をここで直ちに申し上げることは差し控えさしていただきたいと思いますね。
  137. 正森成二

    ○正森委員 そういうことをおっしゃるだろうと私は思いましたので、前の小坂徳三郎氏の法務委員会における御発言についても私は関係者に伝えましたら、小坂徳三郎氏が、たとえば文芸春秋について、「田中角栄研究」が出るだろうということを向こう側から、つまり文芸春秋から言ったというような事実は全くない、小坂徳三郎氏のほうから言い出したのだというようなことを含めて、文芸春秋の関係者から確かめております。  したがって、これらの問題は国政上非常に重要な関係がありますので、私は委員長に次のことをお願いしたいと思います。  こういうことをお書きなっておる児玉隆也氏、それからいま大臣はいみじくも、そういうことがあったかなかったかわからないとおっしゃいますから、私のほうで同席したことを確かめておる評論家の戸川猪佐武氏、作家の川内康範氏及び「女性自身」の富田編集長、それから文芸春秋で小坂徳三郎氏からそういう働きかけを受けた沢村社長及び田中編集長、これらの人々を証人として、それがもしも理事会でおきまりにならない場合には参考人として呼んでいただくことを申請したいと思います。そしてそれらの人々から当日の光景をリアルに聞いていただけば、これがゆゆしい問題であり、私、正森が言っているからどうだということで答弁を避けるわけにはいかないだろうというふうに思います。  大臣、事実を明らかにすることには御賛成ですか。
  138. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 国会のおやりになることにつきまして、私からやめてくれとか、やってくれとか言う立場ではありません。
  139. 正森成二

    ○正森委員 それでは、私が申請いたしました、名前をあげました方について証人ないし参考人として御採用の上、事情をお聞きになることを私からあらためて当委員会に申請します。
  140. 小平久雄

    小平委員長 正森君の御提案につきましては、後日理事会で相談の上、何らかの措置をとりたいと思います。
  141. 正森成二

    ○正森委員 そういう委員長の御発言がありましたから、次の問題に移らしていただきたいと思います。  きのう、政府は、国政調査権守秘義務について統一見解なるものを発表いたしました。そこでそれについて伺いたいと思いますが、この統一見解を見ますと、「いわゆる」の問題については稲葉委員からお聞きになりましたから触れませんが、「国政調査権は、憲法第六十二条に由来するものであり、国政の全般にわたってその適正な行使が保障されなければならないことはいうまでもない。」こう述べた上、「一方、憲法第六十五条によって内閣に属することとされている行政権に属する公務の民主的かつ能率的運営を確保するため、国家公務員には守秘義務が課されている。」こう述べてあります。  そこで、私は内閣法制局にまず伺いたいと思うのですが、憲法第六十五条には確かに「行政權は、内閣に屬する。」と書いてありますが、それ以外のくだりの部分憲法上どこに根拠がありますか。
  142. 真田秀夫

    真田政府委員 おっしゃいますように、憲法第六十五条に「行政權は、内閣に屬する。」とございますし、それからあと、公務員は国民全体の奉仕者として公正かつ民主的に行政に当たらなければならないことも、当然これは憲法上の要請であろうと思います。
  143. 正森成二

    ○正森委員 私はそんなことを聞いているのじゃないので、守秘義務というようなことが憲法上どこに書かれているかということを聞いているのです。あなた方のこの統一見解では、憲法六十二条に明確に定められている議院の国政調査権と、それから公務員の守秘義務とをパラレルに憲法上の権利であるかのように置いて、そしてそれが衝突する場合には公益上どっちが重大かというように議論を立てておる。しかし、憲法六十五条では「行政權は、内閣に屬する。」と書いてあるし、またいまあなたがおっしゃったようなことも書いてあるけれども、憲法上公務員の守秘義務云々というようなことはどこにも書いてないはずです。それをなぜここへこういうぐあいにひっつけて持ってきたのか、その憲法上の根拠を聞きたい。
  144. 真田秀夫

    真田政府委員 憲法自体に守秘義務ということば自体で公務員の義務を書いている個所はございません。
  145. 正森成二

    ○正森委員 お聞きになったとおりであります。つまり、憲法は六十二条に議院の国政調査権を置き、また、「行政權は、内閣に屬する。」こういうぐあいには書いておりますが、だから直ちに公務員の守秘義務憲法上出てくるという規定ばないのです。ところが政府の統一見解なるものは、憲法上明確な条文上の根拠を持っておる議院の国政調査権と、それから、出だしはなるほど六十五条で「行政權は、内閣に屬する。」というところから出発しておりますが、いつの間にか守秘義務まであたかも憲法上の根拠があるかのように描き出して、その上で、これが衝突する場合には、どちらが公益に害を与えるか、益であるか、こういうことできめるんだ、こう書いておる。これは、明白に憲法上の根拠を有するものを憲法根拠を有しないものとパラレルに置き、そうすることによって議院の国政調査権というものを非常に軽くする、こういうトリックを事実上行なっておるものではありませんか。そう解釈されてもしかたがないでしょう。
  146. 真田秀夫

    真田政府委員 守秘義務ということばを使っての憲法の規定はないことは明らかでございますけれども、しかし、行政権は内閣に属する。それで、内閣はやはり国民全体のために、全体の奉仕者として行政をやらなければいけないということは、これは憲法上の要請だろうと思います。
  147. 正森成二

    ○正森委員 幾ら言っても結局法制局はそこまでしか言えないのですね。それは、守秘義務というものがあたかも憲法上の根拠があるかのように描き出しているのを守ろうとすれば、そう言うよりしかたがないのです。そこに明白なごまかしがある。しかし、あえて言いますと、憲法六十五条には「行政權は、内閣に屬する。」と書いてありますが、憲法六十六条には何と書いてありますか。「内閣は、行政権の行使について、國會に對し連帶して責任を負ふ。」と書かれてあります。つまり、司法権の独立に対する議院調査権の及ぶ範囲と、内閣の行政について国会国政調査権が及ぶ範囲とは、明らかに違うということは学説においても明白になっておる。もしあなた方が「行政權は、内閣に屬する。」ということから導き出そうとするならば、同時に、「内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帯して責任を負ふ。」——これはもちろん、内閣総理大臣は国会から選ばれ、不信任があれば辞職しなければならないということを直接にはさしておりますが、同時に、そういう内閣総理大臣を選任しあるいは不信任案を提出するには、国会は立法だけでなしに行政についても知らなければならない。だからこそ憲法上こういう規定が置いてあるのです。国政調査権というのは、司法権に対する国政調査と行政についての国政調査というのは明らかに範囲が違うのです。それは明らかでしょう。そして憲法五条に「公務員は、全體の奉仕者」であるとは書いてあるけれども、しかしそこから直ちに憲法上の根拠として守秘義務を導き出すということは、あなたは私が二へん聞いても直ちにそれは引き出せないということを御答弁になった。そこからでも明らかなように、きわめて間接的なものであります。その間接的なものを、なぜこの内閣の統一見解では一見パラレルに考えられるような、そういう表現にして結論を導き出したのですか。
  148. 真田秀夫

    真田政府委員 内閣が行政権を行使するにあたりまして、国民全体のためを考え、また国の安全とか効率的な行政運営ということを念頭に置かなければならないことは、これは憲法に直接書いてある、ないという問題以前の問題じゃなかろうかと思うのです。ここでこういうふうな作文にしましたのは、そういうことを念頭に置いて書いたわけでございまして、決してごまかしをしたとか、あるいは一見パラレルに見えるような工作をしたというようなつもりは毛頭ございませんので、御了承願います。
  149. 正森成二

    ○正森委員 内閣法制次長真田さんだと思いますが、私はあなたの公安調査関係についてお書きになった著書も読ませていただいておりますが、しかしあなた、三回私に対して答弁なさったけれども、三回とも、守秘義務がなぜ国政調査権憲法上パラレルなのかという問題については一回もお答えにならない。私は何も、行政権が内閣にあり、しかも公務員としては、それは全体の奉仕者として行使しなければならないということについては少しも異議を言っていない。だけれども、そこからなぜ守秘義務憲法上の問題として起こってくるのか、こう聞いているのです。ところが三回ともあなたはその御答弁がない。ということは、あなたのような学識経験者の方をもってしても三回にわたって答えることができない、そういうあやふやな根拠しかないんだということを私としては感じ議論を次に進めたいと思います。そう解釈されてもしかたがないです。  そこで、あなた方はそういうように比較すべきでないものを比較した上で、「国政調査権と国家公務員の守秘義務との間において、調整を必要とする場合が生ずる。」こういうようにいって、そして二つ出しているのです。その公益がどっちが大事かということと、それからどうしても衝突する場合には最大限政府としては尊重するということをいうておられるのですね。そこで私は、公益を比較衡量してどっちが大事かという問題は少し置いておいて、結論的なことになりますが、衝突をした場合に最大限尊重するといわれますが、具体的にはどういうぐあいに最大限尊重するのですか。ことばだけでなしに。
  150. 真田秀夫

    真田政府委員 何と申しますか、非常に説明がむずかしいのですけれども、とにかく国政調査権憲法六十二条に由来するものでありまして、民主国家として国会の御権能を果たされる上に欠くことのできない権能であるというふうに理解しておりますので、一方、行政といたしましては秘密にわたる事項を漏らしては困るという問題がありましても、それはなおがまんできるところまではがまんをして、なるべく尊重するということに尽きるわけでございます。
  151. 正森成二

    ○正森委員 私はそういうことばのあやを聞いているのではなしに、この統一見解によると、これは「守秘義務によってまもられるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益とを、個個の事案ごとに比較衡量することにより決定されるべきものと考える。」こうなっておりますね。衡量して、国政調査権のほうが上だということになれば、これは問題はないわけでしょう。ところがそうでない場合、「国会と政府との見解が異なる場合」が生まれるときは、避け得ないところだけれども、その場合でもなおかつ「政府の立場から許される最大限の協力」をする、こうなっておるのでしょう。だからそういうぎりぎりの場合に、ことばのあやでなしに、最大限尊重するというのはどういうぐあいにするのか、こう聞いているのです。一体、求められている資料を出すのか、あるいは証言を許すのか。証言も許さず資料も出さないとすれば、それにもかかわらず最大限の尊重をするというのは、ことばのあやとして以外に具体的に何をさしておるのか。それを聞いている。
  152. 真田秀夫

    真田政府委員 この統一見解の第三項目のところでありますけれども、これは個々の事案について判断をする場合においては、国会と政府との間で見解が異なる場合が起きることは避け得ない。これは現実の問題としてあり得るだろう。しかしその場合もなるべく最大限に協力すべき立場で判断いたしますので、見解が異ならないことになることに努力するわけなんですが、それでもなお、国の安全とか外交問題とか、いろいろぎりぎり困るということもあろうかと思います。そういう場合にはいたし方ない。しかし、そういうぎりぎりまでいってない場合には、なるべく尊重して御協力申し上げるべきものであろうというふうにいっているわけなんです。
  153. 正森成二

    ○正森委員 いまの発言は非常に重大ですね。それは統一見解を事実上修正する発言ですね。いいですか。「個々の事案について右の判断をする場合において、国会と政府との見解が異なる場合が時に生ずることは避け得ないところであろうが、政府としては、国会国政調査活動が十分その目的を達成できるよう、政府の立場から許される最大限の協力をすべきものと考える。」こうなっておるのですね。ですから、守秘義務によって守られるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益とを比較する、そこで見解が違う場合がある。いろいろ話をしているうちに両者の見解が一致したという場合、これは問題ないのです。国政調査権によって守られるべき公益のほうが上だということになるのだから、何も政府が心を痛めることはないので、問題は、そういうことで努力したけれども、「国会と政府との見解が異なる場合が時に生ずることは避け得ないところであろうが、」つまり避け得られないことを前提にして、つまり一生懸命にやったけれども、しかしその場合でも、「政府としては、国会国政調査活動が十分その目的を達成できるよう、政府の立場から許される最大限の協力をすべきものと考える。」こう読まなければいけないのです。そうでなしに、見解が一致した場合に最大限の協力をするのは、そんなことはあたりまえの話じゃないですか。そうじゃなしに、見解が一致しないときに、その場合でもなおかつ政府としては最大限の協力をする、こういうように読むべきじゃないですか。法務大臣、いかがです。
  154. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 それは正森さん、これはあなたと内閣法制局のやりとりを聞いていまして、本来なら、私は法律はしろうとですからこういう人にまかせるべきなんだけれども、先ほども議論になって、衆議院川口法制局長の立論を聞いておって、私は川口さんの意見が非常にいいように法律常識として判断したわけです。  正確に川口さんの先ほどの発言表現できるかどうか疑問ですけれども、国政調査権、それから議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律証言法では、とにかく公務員であろうと何であろうと、何でも呼んで、秘密に属することもあかさせなければ調査は完全に全うできないわけですな。そういう法律と、一方、公務員が秘密を守る義務には、秘密をばらしたら刑罰にさえ処せられるというきびしいことになっている。ですから、刑罰に処せられるようなことまでも何でも秘密をあかさせるというやり方と、刑罰に処せられるのは困るから言わない、また政府としても、政府職員の一人ですから、刑罰に処せられるようなことをしゃべらすわけにいかぬじゃないかというて、こういうときに政府と国会の見解が衝突するんだろうと思うのですね。そういう場合には、最大限に尊重するというのは、おそらく、刑罰に処せられるのではない、それは証言法から来るのだからしようがないんだから、刑法三十五条をかぶるんだから証言したまえというようなのも、「国会国政調査活動が十分その目的を達成できるよう、政府の立場から許される最大限の協力」の一つの例にはなろうかと思いますが、そういうぎりぎりのところに来ないと、さあ証言せいと言うか、いや証言はあくまでも拒否して行政の利益を守れと言うか、これは抽象的にここで論じても解決できないように、私個人としては、法律常識はちょっとプアーですから、そういうふうにお互いのやりとりを聞いてみて感ずるのです。それが精一ぱいのところです。
  155. 正森成二

    ○正森委員 大先輩である稻葉法務大臣がみずから法律知識がプアーであるというようにおっしゃいましたので、私は先輩に対してとやかく言うつもりはございませんけれども、しかし、国会議院証言法等に基づいて、あるいは国務大臣が証言してもよろしいということになれば、これはもう学説でも、あるいは法律の解釈でも、そのときは、所得税法二百四十三条の規定がありましょうとも、国家公務員法百条の規定がありましょうとも、その罰則は適用されないということになっておるわけですね。ですから、これは何も内閣が最大限に協力しなくても、法律のたてまえ上、それは当然そういうことになっているわけですね。私はそう理解しますが、川口さん、そうでしょう。
  156. 川口頼好

    川口法制局長 法律上の御質問をちょっと翻訳しては申しわけありませんが、いま法務大臣から私が午前中申し上げたことを御引用願って、そこに若干の釈明やそれの必要もありますのであえて申しますが、まず第一に、この条文を直に見た場合には、一方では、法律秘密を守れといって、守らないと、しゃべったら刑務所に入れるぞといっている。他方では、国政調査権というのは、本来、どこにも書いてなくても、おれの前では何でもしゃべれと書いてある。これは論理的矛盾が初めから生じておる。ですから、何でもないことだというふうには私は考えておりません。必ず、一体どうしたらいいんだという、つまり右すべきか左すべきかという煩悶が伴う。そうしてその根本に、その公務員の守るべき秘密というものも、それ自体に一つの、独自の法解釈というものがあるであろう。それを一がい一律に、形式論理的にすべての場合に通じてどちらが優位でどちらが劣位かというような概念論はできません。個々具体的な場合に、具体的事案に即して慎重な御検討判断さるべきことでございましょう。大体私の感じていることはそういうことでございます。
  157. 正森成二

    ○正森委員 法務大臣がおっしゃったから、あなたとしては非常に配慮してものを言われるというのはわかりますけれども、しかし、私は何も、国会で聞かれたら何でも答えなさいと言っているんじゃなしに、私の意図する設問は、監督官庁のあるいは大臣の承認を得て証言した場合に、そんな所得税法二百四十三条とか国家公務員法の罰則が適用されない、解除されるのはあたりまえの話でしょうと、こう端的に聞いているのです。そうでしょう。
  158. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 いまの場合、その証言者に、やってもいいよ、証言しなさいと、こういう承諾を与えるそのことが「政府の立場から許される最大限の協力をすべきものと考える。」と、こういうことに書いてあるんじゃないでしょうか。しかし、具体的なそういうぎりぎりの場合に、政府が、いや、これはもう君に証言されると公益上非常に害があるからやるな、こういうときにはおそらく国会の問題になって、国会が、それは政府のやり方が悪い、国会はどうしても証言させるべきだ、こういう議決があれば、やはり国会の議決に縛られるんじゃないでしょうかね。これは個人的な見解です。  まことにこれはあとで問題を起こすかもしらぬけれども、そこは、せっかくあなたがそこまで突っ込んでくるから、ただ逃げて歩いていては法務大臣としての職責がつとまらぬように良心的に思うものですから、あとで問題になるかもしれませんけれども、私はいまそこで問われた事案に関してはそうお答えせざるを得ない。
  159. 正森成二

    ○正森委員 法務大臣からちゃんと答弁がございましたが、私は、当然の御見解で、あとで問題になるような性質のものは含まれていない、こう思います。  そこで、国税庁なりあるいは刑事局長に伺いたいのですが、所得税法の二百四十三条とか法人税法の百六十三条に、いわゆる守秘義務なるものが規定されております。この守秘義務というものは、条文の規定自体から明らかなように、たとえば所得税法二百四十三条の場合は、「所得税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者が、その事務に関して知ることのできた秘密を漏らし又は盗用したときは、」云々と、こう書いてあるのですね。この「秘密」というのは、これは相手方の個人的な営業上の秘密あるいは私的秘密というものを主として念頭に置いておるというように理解してよろしいか。
  160. 横井正美

    ○横井説明員 二百四十三条にございます「秘密」には、私ども、いわゆる納税者の個人のプライバシーとでも申すような秘密、それから第三者の秘密、それから職務上の秘密、この三つがあろうかと、かように考えております。
  161. 正森成二

    ○正森委員 いまそういうように答弁があったので、それじゃもう少し突っ込んで聞きますと、国家公務員法の百条には第一項で、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」こうなっている。第二項では「職務上の秘密に属する事項」こう書いてある。この二つはどういうように違いますか。
  162. 真田秀夫

    真田政府委員 公務員法百条の第一項は「職務上知ることのできた秘密」、それから第二項は「職務上の秘密」と、こう書いてありますので、結局第一項の「職務上知ることのできた秘密」の中には、職務上公務員が知った個人の秘密と、それから職務上公務員が知った職務上の秘密と、二通りあるのだというのが通説のようでございます。
  163. 正森成二

    ○正森委員 ですから、いま真田さんがおっしゃったように、国家公務員法第百条の一項の「職務上知ることのできた秘密」というのは二項の「職務上の秘密」よりも広い。二項を含み、かつそれより広いというように言えるわけですね。したがって、あなたの御答弁ではっきりしたように、二項の「職務上の秘密」というのは職務上知ることのできた公務上の秘密といいますか、行政上の秘密といいますか、そういうように一般的に解釈されておりますね。  そうしますと、所得税法の二百四十三条の「秘密」というのは、これはいってみれば、国家公務員法でいえば百条の一項のほうの秘密、特に行政上の秘密だけでなしに、納税者の個々の秘密というようなものを所得税法の二百四十三条などは保護しているのでしょう。
  164. 真田秀夫

    真田政府委員 公務員法百条の一項の「秘密」には二種類のものがある、これは通説になっておるようですが、これは理論上の問題でございまして、具体的に公務員が職務上知った個人の秘密が、それが個人の秘密にとどまって役所の秘密にはならないのだというものはまずないのじゃないかというように考えるわけなんです。といいますのは、税あたりでも、それから犯罪の捜査でもそうなんですが、同じ秘密が、これはなるほど個人の秘密であるわけですが、それを漏らすことによって行政に対する信頼が失われ、今後の行政の円滑な運営がそこなわれるというような関係にあれば、それは同時に官の秘密といいますか、職務上の秘密という面も持っているというふうに考えられます。
  165. 正森成二

    ○正森委員 いまそういうようなお話ですけれども、私は刑事局長にちょっと伺いたいのですけれども、刑訴の百四十九条では弁護士だとか看護婦だとか医師だとかの証言拒絶権がありますが、ここでは本人が承諾した場合というのは証言を拒めないことになっているのですね。それは御承知のとおりだろうと思います。ところが公務員の証言拒否権というのは、これは本人が承諾しようとしまいとそれは関係がないことになっている。一方の医師だとか弁護士の場合には、本人が承諾すれば本人の秘密にわたることでもよろしいということになっておるのに、公務員の場合にはそうなっておらないというのは、公務員のいわゆる「職務上の秘密」という中には個人の秘密というものは含まないと解釈しなければ非常に解釈上おかしいことになるのじゃないですか。
  166. 安原美穂

    安原政府委員 刑訴の業務上の秘密、個人の秘密は、本人が承諾すれば開示することができるというのが通説であることは承知いたしておりまするが、公務員法上の秘密について、個人が承諾した場合でもそれが開示できないということはおかしいわけであるから、公務員法上、職務上の秘密の中には個人の秘密は入らないのではないかというふうに解釈するのが、刑訴とのバランスからいっても、秘密の主体である個人の利益の擁護という観点からいっても均衡がとれるから、公務員法上の秘密の中には個人の秘密は入らないというふうに解釈すべきではないかというお説というふうに理解を申し上げて……(正森委員「ちょっと違うのです。職務上の秘密です」と呼ぶ)職務上の秘密には、職務上知り得た個人の秘密は入らないというふうに解釈するのがバランスがとれるのじゃないかというお説というふうに理解するわけですけれども、その点につきましては、いろいろな考え方がありましょうけれども、ただいま真田次長が申されましたように、公務上の個人の秘密が漏らされるということでは、たとえ本人が承諾したという前提がありましても、承諾すれば漏らされるということでは、承諾を求められる官とそれから個人との力関係というようなことからいって、任意な承諾ということの求められないおそれがあるというようなことから見まして、単に個人が承諾したら何でも漏らしてもいいじゃないかということにはならないので、承諾があろうとなかろうと、やはり職務上知り得た個人の秘密はそれを漏らさないというたてまえを、個人の秘密についても職務上の秘密として維持することが、公務員法上あるいは税法上はそれが行政の利益になるのだという考えであるというふうに通説としては理解されておりますので、遺憾ながら正森先生のお説には従いかねます。
  167. 正森成二

    ○正森委員 そんなことは通説なんかになっていませんよ。たとえば昭和二十九年の十月十一日に、有名な造船疑獄の問題について、滝川幸辰君、団藤重光君、佐藤功君という当時一流の学者が呼ばれて、参考人として尋問を受けました。そのときに団藤教授は明白に私が申し上げた見解をとっておる。団藤重光さんは現在最高裁の判事であります。それに対して他の参考人も全然異議をはさんでおられない。あるいは、ここに出てきたのは当然ですが、佐藤功氏が「ジュリスト」にお書きになった「公務員の秘密保守義務」という論文がある。そこでも私が言った見解がとられている。ですから、通説だなんということになると、少数説はない、あるいは非常に力が弱いように思われるかもしれませんが、国会に呼んだ最も重要な人々でも私の言ったような見解をとっておる。ですから、それはある意味では法務省の見解じゃないですか。
  168. 安原美穂

    安原政府委員 公務員法の解釈ということにつきましては、罰則の適用という関係から法務省が関知しますし、また公務員法の適用は法務省の職員についてもとられることでありますので、当然われわれとしての意見は持っておりますが、この点につきましては、こういう問題が起こる以前から、行政府の解釈としてはいま申し上げたような説をもって臨むということで解釈が統一されておるわけでございまして、法務省独自の解釈とは思いません。
  169. 正森成二

    ○正森委員 それではさらにもう一歩踏み込んで聞きますが、職務上の秘密ですよ、職務上知り得た秘密ではなしに、職務上の秘密ということで、議院証言法国会で決議をして呼ばれた証人が証言をする場合に、第五条で「職務上の秘密」ということばが出てきます。これについてもそういう見解をとられるのですか。
  170. 安原美穂

    安原政府委員 当然のことと思います。
  171. 正森成二

    ○正森委員 その点については、いよいよいま申し上げました学者などはそういう見解をとっておらないですね。そういう見解をとれば、これは医師だとか弁護士だとか、そういう者に対する刑事訴訟法の規定との対比からいいましても非常におかしな問題が起こってくる。あなたは官の威圧でどうこうというようなことを言われましたけれども、しかしそうではなしに承諾するという場合が幾らでもありますし、それはむしろ官が威圧をしないように配慮すればいいわけですから。  そういう見解が行政府の統一した見解にいつなったのか知りませんが、いまそういうことをおっしゃったから、法務省だけでなしに、行政上いつそれが統一見解になりましたか。
  172. 安原美穂

    安原政府委員 私の記憶にして誤りがなければ、かつてもそういう見解をとり、今回、国政調査権守秘義務との関係を論ずる関係上意思統一の間におきまして、そういう解釈でいくということがきまっております。
  173. 正森成二

    ○正森委員 ですから、結局今度の田中さんの金脈問題が起こってから急遽行政府がそういう統一解釈を行なったということでしょう。それ以前には公刊されたものの中にそんな見解は出ていないし、学者にとっても通説でも何でもないということになると、法務大臣、いよいよ今度の問題については明朗でないものがあるんじゃないか。いままで、昭和二十九年の造船疑獄のときでも、それ以後の学説の中でも出ていないようなことが、突如行政官庁が集まってそれを統一見解にするというようなことは、法律の規定から見ても非常におかしいものがあるんじゃないか、こういうように思います。  そこでもう一つだけ、時間があまりありませんから聞きますが、国家公務員法の百条の四項に人事院の規定があります。人事院の場合には、質問をされますと、これは国家の重大な秘密とかなんとかいうことをもってしても拒否できないように法律の規定はなっておりますね。憲法上の根拠がない人事院についてこうなっているのに、憲法根拠がある国会の議院調査権について非常に狭く解釈するというのは非常におかしな解釈だと思いますが、どうですか。
  174. 真田秀夫

    真田政府委員 百条の四項はただいまお示しのとおりの趣旨になっておりますが、これは私もよくわからないのです。おそらく人事院の求めに応じてものを言った場合に、人事院の人事官自体がまた服務の規定の適用がありまして、やはり守秘義務を負っておるものですから、その辺が少し違うんじゃないかというふうに思いますが……。
  175. 正森成二

    ○正森委員 いま真田さんが非常に困ったのも無理はないので、実は団藤教授その他も、この点は非常におもしろい規定だ、これをしいてつじつまの合うように解釈すれば、人事院というのは不服審査だから、おそらく国家の重大な影響を与えるというような問題は出ないであろうというように解釈するよりしかたがないんじゃないかと、国会での証言でもこう言うておられるのですね。しかし、そうだとしても、人事院については、これは国家の重大な影響があるというのは全然入っていないですね。だからそういう点から見ると、これは国会での証言の場合にももう少し広く解釈すべきじゃないかというように思うのですけれども、いかがですか。
  176. 真田秀夫

    真田政府委員 公務員法の百条の四項につきましては、私、先ほど申し上げましたように、合理的な説明をするとすれば、やはり人事官自体がまた服務を、守秘義務を負っているものですから、守秘義務を負っている仲間が少し広まるだけであって、決して外へ漏れた関係にはならないというふうなことが言えるんじゃなかろうかと思います。この規定がこうなっているからといって、明文の規定がある議院証言法五条をやたらに広めたりということはいかがかというふうに思います。
  177. 正森成二

    ○正森委員 時間がありませんので簡略にいたしますが、国会委員会で議決をして証人に呼ぶ。証人に呼んで、これを言ってください、あるいはこの書類を出しなさいと言ってもなおかつ出さない場合には、これはまず「当該公務所から職務上の秘密に関するものである」ということで監督庁の承認がなければならない。承認しない場合には疎明しなければならない。疎明してもなおかつ国会がそれに同意しない場合には内閣の声明を出さなければならない。「国家の重大な利益悪影響を及ぼす」という声明をしなければならない、こう二段がまえになっておりますね。これが裁判所の場合よりも著しく慎重にしているという意味は、国会証言については最大限に尊重しなければならないということをあらわしていると思うのですが、「国家の重大な利益悪影響を及ぼす」というのはどういう場合ですか。
  178. 川口頼好

    川口法制局長 午前中の御質問にも、刑訴の文言とそれから証言法の文言との若干のニュアンスの違いがあることは、私、申し上げました。どういうことかということなんですが、具体的な場に、下におろしてみないと、この文句自体を私がいろいろ解説を加えてみてもしようがないのでありまして、たとえば外交上の機密というふうなものを例にとりますと、これはもうすぐわかることでありまして、それが非常にきびしい場合には国家の存立に関するほどの機密というふうにも読めますし、それから非常にやわらかく見ますと、存立までじゃないけれども、国家の諸般の権力行使に相当な悪い影響があるというふうなところまで読めるかもしれません。そこで、この議論は、他方で今度は公務員に課されている秘密とのパラレルで、相互関係で函数的に解釈されるのではないかというふうに考えております。
  179. 正森成二

    ○正森委員 いまそういう抽象的な答弁があったのですが、真田さんに伺いたいと思います。  昭和二十九年の国会での団藤さんやあるいは滝川さん、佐藤さんなどは、いずれも、国家の存立及び継続、存続に影響ある事項というようになっておりますね。内閣ではどういうぐあいに考えておるのですか。
  180. 真田秀夫

    真田政府委員 あのときも、どなたか、団藤さんでしたか、定義的にはなかなか言えないというお答えもあったように思います。もともとが非常に抽象的なことばなものですから、これを列挙してこれだけだというふうに並べ立てるにはふさわしくない関係だろうと思います。国家の存立とか継続とかというような非常にきびしい御解釈の方がおられますけれども、どうも私たちも、存立といって何も内乱とかというようなことだけが存立にかかわるのじゃなくて、やはり犯罪捜査がうまくいかなくなる、治安が乱れて困るとか、あるいは租税の場合のこれも財政的の存立の基礎なものですから、その辺も決して入らないのだというふうには言い切るべきじゃないだろうというふうに思います。
  181. 正森成二

    ○正森委員 もうそろそろ終わりたいと思うのですけれども、昭和二十九年の団藤氏その他の記録を見ますと、当時は、純司法的ともいえる検察官の調べたことについていろいろ聞いたわけですから、今度の場合とは少しケースが違いますけれども、その場合でも、検察権の行使全般についてこういうことを言うと将来問題が起こるというような抽象的なことであってはだめなんであって、具体的な問題についてこういうことがあるから、裁判との関係においてこれはぐあいが悪いのだというように言わなければならないのだという意味のことを言っておられますね。証言内容を詳しく引用いたしませんけれども。  今回の場合、安原刑事局長もいまいろいろそういう統一見解なるものを言われたわけですけれども、今回の場合は、前総理が、実は行政、特に納税の公正さを担保するというために、ある意味では守秘義務が設けられているのですが、それをむしろ破ったのではないか、しかも一国の総理大臣が、という疑惑があるのですね。だから国会でいろいろ調べなければならない、こう言っている。そういうときに、これを断わるのに、納税の公正を守るために秘密を言ったのではこれはぐあいが悪いのだというように言うのは、同じ議論をやはりいまから二十年前に国会でやっているのですね。それに対して団藤教授が、まだお若かったのでしょうけれども、どろぼうたけだけしいという感じがいたします、こういう表現をしているのです。それに対して鍛冶委員が、どろぼうたけだけしいとは一体何だ、人をどろぼうにたとえるのかと、こういうきびしい追及があったのに対しても、あの団藤さんが、御判断におまかせしますと言って、絶対に取り消していないのですね。私は今度の場合でも、一国の総理ともあろうものが脱税をしたのではないかと、納税の公正さが税務当局について疑われておる、そういう場合について問題にしておるのに、それを断わる理由として、納税の公正さを担保するために秘密を守らなければならないんだというようなことを言うのは、これは団藤さんがかつて二十年前にどろぼう云々という表現をされた、その気持ちはわからぬでもないというように思わざるを得ないんですね。  そこで最後に一つ二つだけ伺いますが、所得税法の二百四十三条の罰則というのは、これは人に漏らしたらいかぬということですけれども、何人にも漏らしたらいかぬのですか。そうではないでしょう。上司に報告するということはかまわないのでしょう。国税庁
  182. 横井正美

    ○横井説明員 お説のとおりでございまして、上司に報告することは当然でございます。したがいまして、上司におきましても同様に秘密を守っていかなければいけない、かような義務が存在するということになろうかと考えるわけでございます。
  183. 小平久雄

    小平委員長 正森君、お約束の時間が来ておりますから……。
  184. 正森成二

    ○正森委員 わかりました。  それは所得税法の二百四十三条の解釈としてですか。ここではそうなっていないでしょう。所得税法二百四十三条というのは、「所得税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者が、」こういうぐあいに限定してあるのに、その報告を受けた国務大臣である大蔵大臣が直接所得税法の二百四十三条の適用を受ける、そういうようなことがあるんですか。大蔵省はそんな見解をとっているんですか。
  185. 横井正美

    ○横井説明員 各委員会で御答弁申し上げましたように、大蔵大臣につきましては官吏服務紀律の適用がございまして、その面におきます秘密を守る義務があるわけでございます。国税庁の職員につきましては二百四十三条の適用がある、かように考えております。
  186. 正森成二

    ○正森委員 だからそう答えればいいんで、大蔵大臣が官吏服務紀律の適用があるというのはわかるけれども、所得税法二百四十三条の規定が大蔵大臣に直接適用があるというようなことはないでしょう。——いまうなずいたからそうである。私はそれを聞いたんです。  また、国家公務員法には罰則の規定があるけれども、これは特別職には適用がありませんね。
  187. 安原美穂

    安原政府委員 ございません。
  188. 正森成二

    ○正森委員 したがって、大蔵大臣というのは官吏服務紀律があるだけで、罰則の適用がないんですね。だから、所得税法などによって規律されている個々の公務員が、自分の判断だけでその秘密をぽっぽらぽっぽら漏らすというのは厳重に慎まなければならないから罰則を適用するけれども、その報告を受けた大臣が諸般の事情を勘案して、それを国政調査権との関係で、これは国家の重大な利益悪影響がない、こういうぐあいに判断をして言うということは、これは罰則の適用も何もないんですから、当然行なわれるべき政治的行為だというように解釈できると思うのですね。川口さんいかがです。
  189. 川口頼好

    川口法制局長 全く同感でございます。
  190. 正森成二

    ○正森委員 それでは質問を終わりますが、そういうことですから、私は、大臣というのはそういう事情を勘案して、国家の重大な利益悪影響があるというのをどう解釈するかは別として、そういうことでなければ、わざわざ証人として呼ばれた場合には、証言拒否できない、資料提出拒否できないとなっているんだから、院がそういうことを求めた場合にはできるだけそれを開陳するということが必要だ。しかも今回の場合には、具体的に一国の総理大臣の納税が十分行なわれていないという疑惑のもとに聞かれているわけですから、それを税務の公正さを担保するためにというようなことで拒否するということはいよいよもって不都合千万で、国民の信をつなぐゆえんではないと思うのです。  そこで、清潔さを表明する三木総理大臣のもとでの法務大臣に、この声明でも最大限の協力をするというておられますけれども、最大限の協力をなさいますかどうかを伺って質問を終わります。
  191. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 内閣の統一見解に従って最大限の協力をいたします。
  192. 小平久雄

    小平委員長 沖本君、お待たせしました。
  193. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私に与えられた質問は二時からだったわけです。いま三時二十五分です。あまりにひどいと思います。一番あとからやる者の立場も考えていただいて、尊重していただきたいと思います。
  194. 小平久雄

    小平委員長 失礼いたしました。以後気をつけます。
  195. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私は、犯罪被害者補償について質問したいと思います。  これは先ほど横山先生も御質問になり、大臣がお答えになったわけでございますが、私の公明党のほうも、今度の臨時国会の本会議の代表質問で浅井議員がこの問題に関して御質問もしておりますし、そういう観点から重要視してこの問題を取り上げたわけでございます。  この問題はたびたび言及されておりますように、各新聞社のほうも三菱の爆破事件からこの問題を重要視し、社説あるいはいろいろな点でこの問題を取り上げられて、急にこの問題が高くなったわけでございますけれども、ここに一つの例があります。  横浜の市瀬朝一さんという方をこの「更生保護」という雑誌の中でルポしていらっしゃるわけなんですが、この方のむすこさんは一粒種で、二十六歳に成長して、それに将来の人生を託しておった。ところがある日、帰り道にいきなり物陰から飛び出してきた少年にわき腹をさされて、苦しみながら、かたきをとってくれ、こう言って死んでしまったということで、それ以来この人の疑問としておるところは、人を殺した犯人には国選弁護人がついておるのに、大切な家族を失った被害者の立場は一体どれだけ考慮されているかという点に疑問を持ちながら、また交通事故の問題に対してはいろいろな保護措置なりいろいろな対策が講ぜられておるのに、こういう方々には一切こういう問題がなおざりにされてきておるという点から、この人が「殺人犯罪の撲滅を推進する遺族会」こういうふうなものをつくりながら、お焼香に行ったり慰めに行ったり、そういう横のつながりをずっと続けてきておられたということになって、そしてこのジュリストの十一月十五日号でも、同志社大学の大谷先生が調査のアンケートをとる場合、この方の持っているいろいろな資料が非常に大きな役割りを果たしてきたという点が述べられておるわけです。  そしてこの「犯罪による被害者の補償」という点の中で、実態調査を大谷先生がおやりになったわけで、法務省のほうでもこれはお読みになっていらっしゃると思いますけれども、主として本年九月下旬から十月上旬にかけて百四十四名に発送したアンケートの調査の結果をおとりになったわけです。「調査対象としてあらたに選んだケイスは、一〇〇件あまりが、「殺人犯罪の撲滅を推進する遺族会」と称する組織が主として新聞紙上から発見したものであり、あとの四〇件ほどが、先の「被害者補償を促進する会」に直接遺族が申し出てこられたものであり、そのほとんどが暴力団の抗争や家族員相互の犯罪、けんか決闘などにからむ事件ではなく、したがって被害者側にはっきりとした落ち度や被害の原因がないケイスを選びだしたものである。いずれにしても、殺人・傷害致死事件すべてを網羅しているわけでなく、また調査方法も率直にいって幼稚なものである」という点を述べておられるわけですけれども、このアンケートをおとりになった中で、「約九〇%の遺族がなんらの賠償・補償も受けていないだけでなく、現実に、民事訴訟、示談、見舞金、労災補償などで金銭を受けとることができた者も、ごく少額であきらめなければならない場合がほとんどである。質問6で被害感情は変わらないと答えているのは、そのためである。次に、なぜ賠償や補償が得られなかったかについてであるが、質問2の回答からも分かるように、全体の五七パーセントが、加害者から取り立てられる見込みが初めからなかったことを理由としている点が注目される。同時に、犯罪による被害が損害賠償の対象となることを知らなかった者が六名もいた」こういうことになるわけです。「経済的に苦しくなったという遺族が圧倒的で、七五%を示している。生活保護を受けている遺族は案外少なく、一家族であった。しかし、夫を失った妻は、たいてい生活保護すれすれの生活」であり、また「妻を失った夫も非常に困っておる」こういうふうな点があげられておるわけです。  こういうふうなことは、すでに市瀬さんが述べられておるとおり、犯罪者には国選弁護人が与えられるというふうな形で、むしろ人権という点から考えてみてもいわゆる加害者のほうの人権に重きが置かれておる、被害者のほうの人権は何ら見られていないという点があるということで、法律的にこれを十分に国家が補償するという点で考えてみても議論するところがたくさんあるわけですけれども、それはそれとして、どうしてもこういうものをやってあげなければならない。欧米でもこの問題は十分取り上げられてどんどんできてきておるという点もあるわけです。  それで、先ほど大臣は、これはぜひともやらなければならないので検討しておるということですけれども、法務省のほうではこの問題をいまどういうふうにとらえられてお考えになっているか、その点をちょっとお願いしたいと思います。
  196. 安原美穂

    安原政府委員 沖本先生御指摘のとおり、最近三菱重工の爆破事件等を契機に大きく世論が盛り上がっている問題でございまして、民法上は当然不法行為の損害賠償を犯人に求めるというのが筋でございますが、犯人に資力がない、あるいは犯人がわからぬという場合の被害者はきわめて悲惨な状態に置かれておることは事実であるというふうに思われますので、このような被害者を救済する必要があることは申すまでもないところであります。  なお、特にこの犯罪の被害者につきましては最近国際学会でも問題になっておりますが、一種の刑事政策としてもひとつ考えてみる必要があるんじゃないか。今日、犯罪人に対する刑事政策という面については、刑の個別化とかあるいは処遇の人道化というようなことで国は多くの金を犯人には与えておる。しかるに、被害者が被害の弁償も受けずに放置されているというのは刑事政策としても不均衡ではないか、このような面からも被害者補償というものを取り上げる必要があるということは最近の刑事学会における一つの有力な潮流として流れておるわけでございまして、そういう国際的な潮流は別といたしましても、私どもかねてから、そういうことについてはぜひ前向きで検討してみる必要があるということで、この夏以来、被害者補償制度のあり方につきまして、刑事局におきまして外国の立法制度を調査し、そして、いろいろの制度は結局はわが国の歴史なり風土にマッチしたものでなければなりませんので、他の補償制度とのバランスとか、どういう場合に補償することとするか、どういう範囲でするか、あるいはどういう手続でやるのがいいか。外国を見ていますと、裁判所でやるところもありますし、社会省のようなところでやるのもありますし、委員会制度のところもありますが、それをきめる機関あるいは手続をどういうふうにするかというようなことにつきまして、わが国に導入するとしてどういう問題があるかということを現在検討中でございます。
  197. 沖本泰幸

    ○沖本委員 検討中とおっしゃるのですが、市瀬さんが、この事故が起きた直後、昭和四十二年に二万八千九百六十二名の署名をとって国会請願を出したわけですね。その請願は「一、青少年に対する人命尊重の倫理教育と道義の昂揚に関する教育の徹底具現をはかられたい、二、凶悪な殺人犯の被告に対し重刑を課せられたい。三、凶悪犯罪による被害者家族に対し補償されたい。」この三つであったわけですけれども、内閣からの処理意見では、一については「すでに努力している」、二については「遺族の心情を科刑に反映するよう今後も努力する」、三については「殺人犯罪による被害者の遺族に対しては、同情を禁じえないが、その損害について国に補償責任があるとすることには、検討を要する点が少なくないと考えられるので、政府としては、その立法化の当否につき、慎重に検討いたしたい。」この回答は昭和四十二年なんです。ここでこういう請願がなされておるわけですね。それで、三菱重工の爆破事件で初めて日本じゅうががく然として、この問題に目ざめてきたということになるわけです。  これはことばじりをとらえて恐縮なんですけれども、刑事局長はいま検討中だと言われる。もっとも検討しなければできないことなんですけれども、では一体具体的にどういう点を検討なさっていらっしゃるのか。大臣は、この問題は早急に実現したいとおっしゃっておられるわけですけれども、具体的な検討のしかたはどういう形でいまやっていらっしゃるのか、その目標はどの辺に置いていらっしゃるのかという点についてお伺いしたいのです。
  198. 安原美穂

    安原政府委員 各般にわたるわけでございまして、いま、御案内のとおり、刑事補償制度、つまり無罪になった者が身体の拘束を受けたことの補償制度は、憲法に基本の規定があることでございまして、わが国としては、国家権力の行使による無過失責任ということで損害賠償制度、刑事補償制度はもうすでに進めておるわけですけれども、この被害者補償というものの根拠は何であるか、それをする根拠は何であるかということにつきましてもいろいろの考え方があるわけです。  先ほど御指摘のように、国自体にそういう被害者に損害賠償をする責任があるかというような考え方もあるわけですけれども、それは必ずしもとるわけにはいかぬとすれば、次に、国が有する福祉上の責任であるという考え方をとるか、あるいは保険と同じように、犯罪被害という危険を分散させて国民がそれぞれ分担するという意味で、税金という形で分担するという考え方をとるかというふうに、被害者補償をする根拠をどうとらえるかということ自体がこれまたなかなか問題でありまして、いまのところ、検討の結果、一律にどれということはなかなか言いにくいんじゃないか、これが現在における検討の成果でございます。  制度の態様といたしましては、損害賠償型、いわゆる不法行為によって生じた損害を全部賠償する型でいくか。これは、イギリスあたりは大体実際はそのようでございます。考え方としては不法行為の損害賠償はないのですけれども、実際の補償を見ていると損害賠償型だというのがイギリスの制度であります。それからまた労働災害補償保険法型、労災型という形でいくか。これはニュージーランドとかフィンランドがとっておる。あるいは生活保護の形、生活困窮を要件として保護する。おそらく財政的には最も負担の少ない方法だろうと思いますが、そういう制度をとっている国もある。わが国はどのような方法をとるべきであろうか。いまのところ、大体労災型という形を指向すべきではなかろうかというような検討の段階に来ております。  それから、補償の要件としてどういう犯罪について補償するのかということにつきましては、諸外国の立法例を見ましても、暴力事犯による故意の犯罪行為によって死亡または生活機能を失うような重傷害の場合に限るべきではないか。これは大体においてすでに制度をとっている国の考え方ですから、そういう方向でいくべきであろうか。過失犯はどうしたらいいだろうか。これはおそらく諸外国でも一国、スウェーデンだけ過失犯の場合も補償するようになっているが、それはとれるであろうか。それから窃盗と申しますか、財産犯はどうしようかというようなことを検討しておりまして、さしあたりは故意の暴力事犯による死亡または重傷害というようなところにしぼっていくべきではなかろうかというようなこと、それから責任無能力者の犯罪もやはり含めたらいいのではないかというようなこと、そういうような補償の要件をいま考えて、ある程度の方向というものが出つつある状態でございます。  それから、補償を受ける者の範囲といたしましては、被害者、これは死んだ場合にはその配偶者、その子、父母というように、どの範囲に補償するかというようなこと。  それから補償の額が問題でございます。これはもう財政負担を伴うものでありますから、どのような補償額にするか。犯罪による損害額を基準とする一定の額の補償と、労災型ということになれば、現実の損害ということでなくて一定額の、一種の定額補償とすべきであろうというふうに考えられるわけです。その場合に、死亡の場合にはいわゆる自賠法の考え方あるいは労災法の考え方との横のバランスをとりながら金額をきめていかなければなるまいというようなこと。あるいはまた、同じような法律で警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律等の遺族給付金というようなものの考え方ともバランスをとらなければならぬというようなことで、金額自体がなかなか検討を要する問題ではないかということがございます。  それから補償の機関としては、裁判所というのもあるが、犯罪被害補償委員会というようなもので、おおむね法務省所管ということでやっていくほかはないのではないかというふうな考え方をとっておりまするが、犯人がわからぬというような場合には、やはり警察というようなものにも関与してもらわなければならぬなというようなことを考えておりますし、一種の社会保障制度でございますので、厚生省とも調整をしなければならぬ問題があるなというような検討の段階に至っております。  それから補償の手続につきましては、被害者の申請方式ということによるのが普通であろうが、虚偽の申請を防止するためにどういう調査をすべきかというようなこと。  そういうような点を、いわば抽象的な検討でなくて、各国の制度を見ながらわが国に植えつける制度として具体的な検討をして、いま道半ばにあるというのが状況でございます。
  199. 沖本泰幸

    ○沖本委員 このジュリストによっても、この中の座談会に法務大臣官房審議官の鈴木さんが列席されているわけです。そして同じ意見を交換していらっしゃる。この中にも、法務省では調査か何かやったことがあるか、こういう御質問に、法務省ではないというお答えなんですね。それで、実際に調査された大谷先生自体が、先ほど述べたとおり、調査が非常にむずかしいのだということを述べていらっしゃるわけですけれども、やっぱり基礎になる基礎材料がなかったらいろいろなことができないわけですね。  そういうことを考えてみますと、過去からいろんな犯罪記録なり何なり、それから追跡調査していけば、むしろ法務省のほうがこういう問題に対する記録なり調査なりは十分できるはずなんですね。そういう点ができてないということは、やっぱり請願に対してこたえるだけの姿勢をとっていなかった、請願を受けたなりでほっておいたということにもなりますし、いまになってクローズアップされてきたことになりますけれども、日本の場合、まあ外国でもあるわけですけれども、個人に対して自分を守るだけの防衛手段をとめているわけですね。自己防衛するための武器は全然持たせないというのが日本の内容なんですから、そしてそのために治安なり、個人の人権なり生命財産というものは国によって守っていっているということになるわけですから。それが、暴力団の抗争の中に自分の家族も入っておって、そこで被害を受けた、こういうケースは別にしましても、通りがかりにいきなりやられて、そして生活の柱を失っていくというのはずっとあるわけなんですからね。その点から考えると、国のほうが全面的にこれだけのものに対する補償をしていかなければならないということになると思うわけなんです。  そういう観点からも、国家が賠償に対して責任を負わなきゃならないということになってくると思いますから、やはり的をしぼっていただいて、どこから始めていくかということに的をしぼっていけばおのずから結論はだんだんとそこへ向かってくると思うのですが、ただ、刑法改正のようにいろんな角度からずうっと検討をおやりになって、解釈上はどうだ、あれはどうだと、こういうことで審議をされていくととうてい間拍子に合うものではないということなんですね。  そういうことですから、法律上の解釈なりいろいろなものはあると思いますけれども、やはり実際上どうしてあげるか。このジュリストの中にも出てきておりますけれども、いわゆる社会福祉ということに対して、反対語で司法福祉というものを考えていかなきゃならないんだという意見も述べられておるわけです。そういう点から考えましても、国のほうが全面的に責任を持ってやるという観点に立って、それで実際に実施を早くしてあげなければ何にもならないんだという点に立っていき、また、三菱重工の爆破事件でも犯人があがったわけでもないし、これから起きないという保証も何にもないわけなんです。いつ、どこで、だれがどういう目にあうかわからないということになってくるわけですから。またこういう問題をさらに調査していただいて、さかのぼって、どういうふうな形で遺族の方、被害を受けた方が窮地に追い込まれているかということも、私必要だと考えるわけです。  それから、慶応大学の宮沢先生あたりはいま申し上げたような見解を述べていらっしゃいますけれども、先ほど刑事局長が述べられたように、福祉を考えていく国であれば当然持つべき法制度であるわけであり、市民が平和で安全な生活を送るように配慮することは新しい憲法の理念に合致することであるわけですから、犯罪者に対する刑罰の執行を合理化し、人道化していくという点からも行刑改革をしていかなければならない、こういうことになるし、その補償を決定する機関としては裁判所、行政委員会あるいは行政官庁が考えられるけれども、犯罪の被害を受け、生活能力を失い、一家の働き手を失うことで生活に苦しんでいる被害者に迅速確実な救済の手を差し伸べるためには、日本の法制度のシステムから考えても、法務省に申請してその裁量に待つということが一番合理的じゃないかという点も述べられておるわけです。  また、イギリスの例を引かれて、イギリスでは約二十億ぐらいの予算を考えておるので、日本ではその倍のことを考えて五十億ぐらいの金を用意したらいいんじゃないか。そのお金の面については、いわゆる犯罪の罰金制度の中からさけば十分そういう財源に充てられるんじゃないか。いろいろな御意見が出ておるわけですし、私たちも今後いろいろな先生方の御意見なり何なりを聞いて真剣にこの問題は考えていきたいと思うのです。  先ほど法務大臣は、次の通常国会にすぐやれというのはこれはちょっと酷だ、なかなかそうはいかぬという御意見なんですが、私たちは次の通常国会に提案したいと考えて、公明党のほうではいま検討しておるわけですけれども、要は、そうはいかないとこう言っても、大臣がゴーとこうかければできるんですね。いつを目標にやれ、こういう、向こうを見たことをおっしゃって、到着点をおっしゃっていただければそこへ向かって作業は始まっていくと思うのです。それであらゆる知恵をしぼっていただき、あらゆる御意見を聞いていただいて真剣にやれば、これはそう時間をかけないでできるんじゃないかと思うのです。それで一度つくってやってみて、そしていろいろな支障が起きてくれば、それはそのつど改正していけば間に合うことになっていくんじゃないかと思うのですね。とりあえずのものを出していただいて急速に救ってあげなければならないということにもなりますし、また、いわゆる訴訟中のものの中からも、結論がまだ出ない間に被害者の救済をすぐ始めていかなければならないという問題も含まれてくるわけなんですから、そういう点について法務省のほうとしてもめどをつくっていただかなければならないと思うのですが、目標はどの辺に置いていらっしゃるのでしょうか。
  200. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 馬を川べまで連れてくることはできるけれども水を飲ませることはできないという話がありますが、法務省はそうではないんですね。やる気はあるのです。ですけれども、ただいま刑事局長が申しましたとおりいろいろな問題がありまして、すぐ目前に迫っておる次の通常国会に出せるかどうかは自信がありません、こう申したわけでありまして、そうのんきなことを考えているわけではございません。爆弾事件以来、これはこのままほうってはおかれないんだという社会的な機運もあり、各党も御熱心でありますので、総理大臣にもそういう機運が非常に醸成されておることを報告し、私も政党出身ですから、自分の出身の政党にもよく話をしまして、極力衆知をしぼってなるべく早く案をまとめたい、こういう考えでございます。私どもの作業がおくれて、先生の所属される政党のほうがそれが早くて、議員立法でもお出しになるということがあれば、またそれに従ってもよろしいのですが、私どものほうとしても真剣にやりたい。ただ、次の通常国会に出せるかどうか返答しろと言われると、まだそこまでの自信はございません。こういう御返答でごかんべんを願いたいと思っております。
  201. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いずれにしても、大臣もそうおっしゃっておるわけですけれども、やはり努力目標というものは要るわけですからね。努力目標として、次には間に合わないけれどもできるだけ早い時期と、こういうのですけれども、できるだけ早い時期と考えておったけれどもなかなかこれが進まないんだというようなことになると困るんですね。やはりある程度の努力目標をつくっていただいて、われわれのほうも努力しますし、法務省のほうも努力していただいて、早くでき上がらしていきたい、国民のためにしていきたい、こう考えるわけですから、その辺ひとつお考えいただきたいと思うのですが……。
  202. 稻葉修

    ○稻葉国務大臣 これは役所の刑事局だけでなかなかまとまらぬと思います。やはりいろいろな人の意見を聞くために法制審議会に諮問しなければならない事項ではないかなと、法務大臣としては思うわけです。法制審議会へ諮問して答申のできるまで、これがなかなかだと思うのですよ。ですから、法務大臣としてはそういう手続を経ますね。そうするとこれなかなかだと思いますね。その間に政党間の案がまとまって、これでいいじゃないかという場面になるかもしれませんし、その辺のところ、この制度は政治家の責任でつくらなければいかぬと考えているので、それぞれの立場で進めていきたい、こういうのが私のただいまのところの見解でございます。
  203. 沖本泰幸

    ○沖本委員 大体よくわかったわけですが、政府のほうとしても努力していただきたいし、いま大臣のおっしゃったように、法制審議会なんかに持ち込まれると、また刑法の全面改正みたいな目にあうと日の目を見ませんから、私たちのほうとしても、各党の先生方に御意見を伺いながらわれわれもたたき台をつくって、そして一日も早く法制化されることに真剣に努力いたしますので、そのほうは政府のほうとしても十分応じていただきたいことをお願いしたいわけです。  本日はこれでとりあえず終わらせていただきます。ありがとうございました。
  204. 小平久雄

    小平委員長 本日は、これにて散会いたします。    午後三時五十五分散会