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安達政府委員 開発途上国に対しまして、文化的な援助と申しますか協力というものをどういう形にするべきかということにつきましてはいろいろ
考えのあるところでございまして、先進国の
著作権を制限することにより、後進国の文化的利益を促進するという
考え方につきましては、
著作者の犠牲において後進国といいますか、開発途上国を援助をするというのは問題ではないか、こういう
見解もあるところでございます。しかしながら、
ストックホルム改正
会議あるいは
パリ改正
会議におきましての大勢といたしましては、できる範囲内において、
著作者の犠牲を強いるにつきましてこれが極端にならない限度において後進国援助といいますか、開発途上国に対する文化的援助をすべきである、こういう
見解に立ちまして、
ストックホルム改正
会議、
パリ改正
会議があったわけでございます。
ただいま御指摘ございましたように、
ストックホルム改正
会議におきましては、
保護期間を五十年を二十五年あるいは二十五年を十年に短縮するというような案、あるいは翻訳権につきまして十年留保
制度及び三年の強制許諾
制度を採用するようにするというようなものがあり、また複製権につきましても、
一般的に教育、文化の目的のために三年の強制許諾
制度を採用するということあるいは放送の公の伝達について、非営利的なものについて
著作権を及ぼさないというような
考え方も示されたのでございます。
そのような
ストックホルム改正
会議の条項につきましては、実は先進国側から非常に大きな
反対があったわけでございます。私も
ストックホルム改正
会議に列席いたしましたけれども、最終段階になりまして、たとえば
イギリスはこれを棄権すると申しますか、
会議から棄権をするというような声明を出すなどのこともございました。しかしまた、その後
ストックホルム改正
条約ができました後に、
各国におきましてはこの
著作権の制限は強きに過ぎるということで、これを批准しないというような動きが非常に高まってまいったわけでございます。そこで、やはり
著作権を制限する形において開発途上国に対する文化的援助ないしは協力をするためには、やはり先進国の
著作者等も納得し得る限度までゆるめるべきである、そうしなければ、結局実体的にだれも批准をしないということになれば意味がないということで、そこで
パリ改正
会議は、そこの後進国に関する条項を、いかに後進国と先進国とがいずれも満足できるようにするかということに腐心をするということであったわけでございます。そこで、苦心の結果が
パリ改正条約になりまして、いろいろと従来のものよりゆるめまして、特に目的の限定が強くなりまして、
一般的に、たとえば
ストックホルムにおきましては教育のあらゆる分野における教授、研究、
調査のために、
著作権はどういうようにも制限ができるというようなものとか、放送権についての特例
規定とか、そういうものは一切廃止をいたしまして、
保護期間についての特例を認めない。翻訳権と複製権につきまして、教育、研究あるいは文化というような点に限局いたしまして制限をするということになったわけでございます。
ところで、
ストックホルム改正
条約につきましては、ただいま申し上げましたような開発途上国に対するところの
規定があまりにも先進国の
著作者の
権利を制限し過ぎるということで
反対が多くて、とうとうこの
ストックホルム改正
条約は成立、発効しないということになりました。と申しますのは、
パリ改正条約が発効されますると、古い
条約は閉鎖されるということになるわけでございます。したがいまして、
ストックホルム条約は閉鎖されておりますので、いまさら入りようはないというような状況になっておるわけでございます。
わが国は、終始開発途上国に対する文化的援助に協力すべきであるという立場から、
条約の改正
会議におきましては、この
ストックホルム改正
条約の
方向には賛成をいたしたところでございます。しかし、
世界の大勢が、やや
ストックホルム改正
条約は行き過ぎであるということで、
パリの線に
世界各国がまとまりましたので、この線で
わが国も協力していくのが適切ではないか、かように
考えているところでございます。