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参考人(
古浜庄一君) 武蔵工業大学の
古浜でございます。私は約三十年間四サイクル・
ガソリンエンジン、ツーサイクル・
ガソリンエンジン、ディーゼル
エンジンの
研究をやってまいりました。最近では
ロータリーエンジンの
研究も十数年間やっております。また約五年前から水素
エンジンの
研究もやっております。皆さん自己紹介されましたので、私もさしていただきます。
さて、そういう私のいままでの
研究歴から今回の五十一年度
規制に対するサマライズをさしていただきたい、こう思います。この規則ができましたのはアメリカに出発いたしますので、やはりアメリカの
現状をまず振り返らなければならないと思います。アメリカにおきましては、七五年
規制値合格の
研究開発というものは、皆さん御承知のように、非常に強力になされたわけでございまして、その
成果は膨大な学術論文として私
どもの目の前に積み重ねられているわけです。しかしながら、そういう
研究をなされましたけれ
ども、
米国の環境保護庁のEPAの考えでは、いままでの
エンジンの
改良だけでは七六年度
規制というものは無理であるというような観点に立ちまして、いわゆるアドバンスト
エンジン、新型
エンジンの
開発に乗り出したわけでございます。新型
エンジンと申しますのは蒸気
エンジン、ガスタービン、ハイブリッドというようなものを当初主力にいたしました。その後ディーゼル乗用車であるとか、
ロータリーエンジンであるとか、
燃料電池であるとか、水素
エンジンであるとか、そういうものも加えられまして膨大な国費が投入されたわけでございまして、現在もそれは続いております。
この初めの計画を読んでみますと、一九七三年、七四年には多数の
実験車がアメリカの都市を走行していなければいけないわけであります。その結果に基づいていまごろは
生産計画がなされているはずであったわけです。しかしながら、このようなEPAの必死の
努力にもかかわらず、新
エンジンは現在のところ一九八〇年以降でないと見込みがないというような結論になったそうでございます。そういう非常にむずかしいということがわかったと同時に、御承知のように石油危機というものが突然深刻になりましたので、これら両方から七〇年度
規制というものが大幅にゆるめられたということだと思います。そのことは私の
資料に書いてございますけれ
ども、こまかいことは皆さん御承知でございますので、このようなアメリカ政府の態度で私
どもがやはり勉強、参考にしなければいけないのは、
石原先生もいまおっしゃいましたように、政府みずからが非常に熱心に取り組んだということだと思います。要するに低
公害車達成を法
規制で督励するということは非常に
限界があると思いますね。ですから政府みずからがそういうむずかしい問題に取り組んでやってみて、ほんとうの
問題点というものを正確に把握したということはたいへん貴重なもんだと思います。
いままで申し上げましたのはイントロダクションでございますけれ
ども、それでは
排出ガスに関するいわゆる基礎
研究はどのように進んでいるかということを私の知っている範囲で申し上げますと、排気ガス
対策の科学
技術の特徴は、要するにいままでの私
どもエンジンあるいは
自動車の
技術屋さんだけではとても対応できない非常に範囲が広い分野にわたっております。たとえば、化学であるとか、反応であるとか、材料、
電子制御、医学とか、非常に広い範囲の分野の専門家のお知恵をかりなければいけないわけでございます。最近約十年間アメリカにおきましては、宇宙工学
研究者を含めまして
自動車エンジンの中の
排出ガスの問題の究明に取り組んできまして、
エンジンの中で空気と
ガソリンがまざって燃焼いたしましてそれによって発生するガスの
成分というものは、非常にこまかいことは別といたしまして、大綱はほとんど解明されました。特に現在問題になっております
窒素酸化物につきましては、これは非常に独特の燃焼過程をしているわけでございまして、学術的に難問といわれておりましたけれ
ども、最近はかなり明確にされました。したがいまして
排出ガスの
低減方策はどのような手段が有効であって、またどのような手段はだめであるとか、あるいはどういう副作用が起こるであろうかということはもう専門家の間ではかなりはっきりしたことでございまして、その点、そういう観点からいろいろの判断がかなり的確にできるわけでございます。が、そういうことがだんだんわかるに従って、これは容易でないことである、その
対策がなかなか容易でないということも同時にわかっているわけでございます。
現在の
低減対策の基礎的なことはどうかと申しますと、いま申し上げましたような発生のメカニズムがはっきりいたしまして、それによってまあだれでもが考えられる方策が
幾つもあります。で、そうしただれもが考えられるような方策は、ほとんど現在
開発に供せられていると思います。しかし、従来考えられなかったような新しい方策というものはなかなか出てこない。たとえば排気
循環装置といいまして、先ほどからお話がありますEGR法は
一つの新しい
方法だと思いますけれ
ども、また複合
触媒法も新しい
方法だと思いますけれ
ども、要するに、そういうものがちゃんと完成したものはまだでき上っていないということでございます。要するに、いままである
技術を組み合わすことはもう全部やってみたけれ
ども、それだけではだめなんであって、それに加えられるべき新しい
技術といいましょうか、科学といいましょうか、そういうメソードをいま求められている時代だと、こう思います。
で、現在、いま申しましたのは世界を
見通してということでございますけれ
ども、
日本の場合には何か非常に独特な
方法で、
日本の
メーカーさんなりあるいは町の発明家がやっているように思われますけれ
ども、これはやはり
基本的に見ますと、組み合わせの
技術にすぎないわけであります。まあ
日本人は非常に器用ですから、そういう組み合わせによって一番いい値を人よりも早くぱっと見つけまして、世界的に話題になったものも二、三ありますけれ
ども、しかし、現在行なわれているものの組み合わせだけでは五十一年値をミートすることはその延長上に私はないと思います。でありますから、まあ世界の現在のこの
排気対策に対する動向は、古い
方式の組み合わせということはもうすでにやり尽くしておりまして、やはりその基礎
対策の新しいものを探求していくというところに私はきているように思います。で、そういう新しい探索をあらゆる方面から、必ずしも機械とか
自動車とかでなしに、ほかの分野からもどんどん出てきて、そういうものができれば必ず成功するのではないか。まあしかし、それはここ一、二年とか二、三年にそういうものが全部実用化されるということは少し無理じゃないか、こう思います。
それではもう少し具体的なお話をさせていただきますと、まあいままで
メーカーさんのほうから話がございましたので、できるだけ簡単に申し上げますけれ
ども、この
窒素酸化物とそれから
一酸化炭素と
炭化水素——ハイドロカーボン、この
三つを同時に取ってしまうということは、これはもうできないということはもうだれでもわかっていることです。これはする
方法は、先ほど
石原さんもあるいはありましたけれ
ども、なくはありませんけれ
ども、非常に馬力が下がるとか運転ができないとかいうことになるわけであります。でありますから、その三
成分を五十一年度までにできなければどういうふうにするかということは、いまから申し上げるようなことで考えられると思います。
それはまず
基本方針としましては、
一酸化炭素とハイドロカーボンをまず
あとで再処理してやる。その中には
触媒とか
サーマルリアクターがあるわけであります。で、
窒素酸化物のほうは
あとで処理が非常にやりにくいのでシリンダーの中でやってある。で、シリンダーの中でやる場合に
燃料を非常に濃くして——先ほどのリッチミックスチャーでありますけれ
ども、濃くしてやる
方法と薄くしてやる
方法があります。その中間の一番
エンジンに都合がいいところはうんと
窒素酸化物が多いわけですから、濃くしてやるということはたいへん
ガソリンがむだになるわけです。
燃料がうんと必要になってくるわけです。で、薄いほうはそういう欠点は少ないのですけれ
ども、馬力が下がったり運転が非常に不安定になります。まあ昔はそこでは運転できないものといわれていたわけですね。それがだんだん薄いほうに移ってきておりますけれ
ども、そういうことなんであります。
したがって、現在行なわれております
方法をここでもう一回まとめてみますと、
酸化触媒法というものがございます。これは
触媒によって
一酸化炭素とハイドロカーボンを排除する、取ってしまう
方法でありますけれ
ども、もしも五十年
規制の、たとえば一・二グラムというNOxが許されるのであればこの
方法が一番いいと思いますね。なぜかといいますと、
燃料の消費量も少ないし性能も犠牲になりませんので、この
方法がいいと思います。ですけれ
ども、NOxを〇・二五グラムまで下げるといたしますと、点火をおくらす
方法であるとか、EGR、そういう付属的な
方法を非常に大幅に取り入れなければだめだと思います。そうしますと、それらを取り入れることによって
エンジンの性能なり
燃料消費量なりいろいろな点が非常に劣化してくる、こういうふうに思われます。
その次がけさの新聞にも出ておりましたような
還元触媒併用でございます。
酸化触媒では
窒素酸化物は取れませんので、
窒素酸化物も
触媒で取ろうと、こういうやり方でございます。これが複合
触媒といわれている、デューアルベッド法といわれているものでございますけれ
ども、これに関しましては、実は私が存じ上げている範囲でありますと、かつてアメリカのモービルが中心になりまして世界的ないわゆる国際協力の
研究委員会、
研究プロジェクトができておりました。これは
日本の相当の
メーカーも参加されておりますけれ
ども、それが昨年か一昨年解散になりましたけれ
ども、そのときにこのデューアルベッド
方式は非常に
研究されたようです。そのことを私
どもが学会で、シンポジュームでお聞きしたときには、まあせいぜい二、三千キロしかもたないとか、アンモニアの発生によって効率がうんと落ちるというようなことをお聞きしたわけです。ところが、先日、この六月と思いますけれ
ども、アメリカのEPAの役人が参りまして、そのときも、私
どもは
自動車技術会でその方をお招きしていろいろ話を聞いたわけですけれ
ども、デケーニーという方ですけれ
ども、その方のお話でありますと、将来このデューアルベッド
方式がかなり有望であるというようなお話がございました。かなり有望であるということは、デケーニー氏はアメリカの七六年度完全実施は一九九〇年ぐらいだろうと、こういうかなりのんびりした
見通しでございまして、ですから有望であるということは来年いいとか再来年いいとかというよりも、もうちょっと先の
見通しで有望であるということをおっしゃったように思います。まあその
方法は、先ほ
ども話がありましたように、精密に空気と
ガソリンを調合しなければいけません。非常に調合の範囲が精密でなければいけませんので、これは現在の気化器では非常に無理じゃないかと、それに対応するものとして新しい分野の
研究が非常に現在盛んにされているわけでございます。
それから
サーマルリアクター方式というものが御承知のようにあります。これは排気温度が非常に高い
ロータリーエンジンを濃い
混合気で運転する際に非常に都合がいいやり方でございます。しかし、濃い
混合気で運転するということは、先ほ
ども申し上げましたように、
燃料がそれだけむだになるわけでありますから、NOxを下げれば下げるほど
燃料をたくさん食うと、こういうことになるわけでありますから、したがって、
石原先生もおっしゃったように、ある
限界があるわけです。それをどこでとるかということはやはり
日本のエネルギー
対策とか、そういうものとにらみ合わせてきめなければならないんじゃないかと思います。いままでの
自動車の二倍も三倍も
燃料食っていいかどうかというようなことはまあ常識的に考えてとても無理じゃないかと、こう思うわけです。
さらに、二サイクルのアフターバーナーというものが世の中でいままでいろいろいわれておりました。二サイクル
エンジンの場合には、ちょうど四サイクルエンソンのNOx——
窒素酸化物が非常にむずかしいと同じようなむずかしさでハイドロカーボンがあるわけでありまして、ですから、
窒素酸化物のほうはもう問題ないんで、ハイドロカーボンをとういうふうにして——これは部屋の中で処理することはできません。とても現在の二サイクルの
燃焼方式から見まして、それは何
エンジンができてもそういうことはできないと思います。先ほど大西
エンジンでできるようなお話もありましたけれ
ども、私はできないと思います。が、
あとでいろいろ
対策をする
方法は、現在いろいろ各
メーカーから、アメリカのSAEの論文にも、
日本の
メーカーの論文にもたくさん出ておりますが、たくさんありますけれ
ども、まだ実用には至っていないと、こういうことが
現状ではないかと思います。
それからさらに層状給気法というものがあるわけでございます。これは濃いほうでなくて薄いほうで完全に燃焼して、完全燃焼といいますか、普通は薄いほうでありますと、
エンジンの運転ができないわけですけれ
ども、それを安定して運転できる
方法ということで、これはアメリカでは約三十年前にテキサコ石油会社が手をつけまして、現在まで
努力をしているわけでありますが、アメリカの場合は実用化がまだされておりませんけれ
ども、その層状給気法と、
あと処理といいますか、
サーマルリアクター的な効果を併用したものがCVCCだと私は思います。で、この場合も、ですから〇・二五グラムをミートするためには、非常に馬力が
減少したりあるいは運転の安定化というものが非常にむずかしくなるんじゃないかと、こういうふうに思います。
で、もしも、このような、いま申し上げましたような
幾つかの
方法は、〇・二五グラムの五十一年の
規制を普通の常識的にミートすることは無理だと思いますけれ
ども、それでもどうしてもやらなければいけないという
社会的なニーズがもしあったといたしますとどういう
問題点が発生するかといいますと、いままでお話ししたとおりでございまして、
ガソリン消費量が非常に大きくなる、したがってエネルギー
対策に逆行するであろう、それから馬力が下がる、加速性が落ちる、そのために運転も非常にむずかしくなり危険も伴うであろう、あるいは再燃焼のために
エンジンの下のほうでいままでにはなかったような高い温度のガスが燃えているわけでありますから、そのために火災が起こるとか故障が起こるというような心配もあるようです。それから
触媒のために白金を使っております、
サーマルリアクターなどでは非常に高級な金属を使っております。まあ、そういうことから、
資源の問題とか
コストの問題も起こってくるでしょうし、それから非常に複雑な制御装置をたくさん使わなければなりませんので、そのための
信頼性なり
耐久性なり
コストの問題も起こると思います。
以上申し上げましたようなことをもう一回まとめさしていただきますと、結論といたしましては、ですから、五十一年
規制をそのまますぐやるということはとても無理であろう、これは世界の
技術水準から見まして
現状ではとても無理だと、こう思います。しかし、それでも絶対にやらなければいけないということになれば、先ほど申し上げましたような
燃費、馬力、いろいろなものの犠牲を覚悟しなければいけません。極端なことを申しますと、私
どもが現在やっておるような水素
エンジンであるとか電気
自動車であるとか、そういうものでもできるわけであります。ただ、それをだれも見向きもしないということは、いま申し上げましたような経済性とか、そういうものに不合格だからもう少し先の話だと、こういうふうに思います。したがいまして、まあ、ことわざに急がば回れということがございますけれ
ども、現在各社で強行しておられるような、目先のいわば組み合わせ
技術だと私思いますけれ
ども、そういう組み合わせ
技術を推し進めるよりも、やはり基礎
研究あるいは新しい着想、そういうものを育てて、ほんとうの無
公害エンジンあるいは無
公害自動車というものを完成するようにみんなが力を結集したほうがかえって早道じゃないかと思います。
でありますから、今後の
研究に対する私の提言をさしていただきますと、
日本人独特の組み合わせ
技術ですね、たいへん器用でよく組み合わせてうまいものをつくるという
技術を持っておりますけれ
ども、しかし、これをこのままいきますと、おそらく世界の
技術水準に取り残されるのじゃないかと、こう思います。組み合わせ
技術そのものでもいいわけですけれ
ども、その組み合わせ
技術になる基礎
研究とか、あるいは先ほど申し上げましたような新しい分野の開拓的な
研究を思い切って進めるべきだと、こう思います。その
推進力は——
日本にはそういう
推進力になるものは何にもないわけでございますけれ
ども、これは
メーカーと大学がやるとかいろいろな案がありますけれ
ども、やはり私
ども大学人といたしましては、国の強力な援助でそういう基礎
研究が大学なり
研究所なりそういう中立のところで強力に行なわれる——先ほど
石原先生かおっしゃったように、それによって国も現在の
問題点を的確につかむこともできるし、あるいはそういう新しい
技術の進展にも寄与することができるわけでございます。で、従来私
ども学会でいろいろ活動します際にたいへん困りましたのは、
メーカーさんが非常に秘密主義ですね。で、いろいろ聞いてみますと、どこでもみんな同じことをやっておられる。そういう秘密主義とか、または抜けがけ的に発表される、そういう目的で、私
ども専門家の間では何もおっしゃらないのだけれ
ども、新聞記者であるとかあるいは外国へ行ってはいろいろこういうふうにいいこういうふうにいいということを発表される。私
どもが聞きましても、いまはまだ発表の
段階ではない、いま発表の
段階ではないというようなことで、たいへん私
どもの学会とか専門家の集まってるグループでは、自分たちの
研究で協力したいのだけれ
どもできにくいというようなことが
現状でございます。そういうものはやはりお互いに改めていただきたいと、こう思います。
非常に広い分野の、先ほど申し上げましたように、応用の
技術でございますので、もしも新しい発見ができますとかなり短い時間に
達成するかもしれませんし、そうでなくて相当難産をしまして期間を要するかもしれません。先ほど申し上げましたように、デケーニー氏は約十五年ぐらいかかるのじゃないかと、こういうことを申しておりましたけれ
ども、私もやはり五年から十年はかかるのじゃないか、みんなが一生懸命やれば、時間をかければ必ず
達成できるのじゃないかと、こういうように思っております。
以上でございます。