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1974-11-12 第73回国会 衆議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年十一月十二日(火曜日)     午前十時二十九分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊三次君 理事 谷川 和穗君    理事 羽田野忠文君 理事 稲葉 誠一君    理事 横山 利秋君 理事 青柳 盛雄君       井出一太郎君    塩谷 一夫君     早稻田柳右エ門君    日野 吉夫君       正森 成二君    沖本 泰幸君       山田 太郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 濱野 清吾君         国 務 大 臣         (総理府総務長         官)      小坂徳三郎君  委員外出席者         衆議院法制局長 川口 頼好君         内閣法制次長  真田 秀夫君         警察庁交通局交         通企画課長   池田 速雄君         法務政務次官  高橋 邦雄君         法務大臣官房長 香川 保一君         法務省刑事局長 安原 美穂君         大蔵大臣官房審         議官      旦  弘昌君         国税庁次長   磯辺 律男君         自治省行政局選         挙部管理課長  山本  武君         最高裁判所事務         総局刑事局長  千葉 和郎君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政検察行政及び裁判所司法行政に関  する件      ————◇—————
  2. 羽田野忠文

    羽田野委員長代理 これより会議を開きます。  本日、委員長は所用のため出席がおくれますので、委員長の指名により、私が委員長の職務を行ないます。  法務行政及び検察行政に関する件並びに裁判所司法行政に関する件について調査を進めます。  おはかりいたします。  本日、最高裁判所千葉刑事局長から出席説明要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 羽田野忠文

    羽田野委員長代理 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————
  4. 羽田野忠文

    羽田野委員長代理 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横山利秋君。
  5. 横山利秋

    横山委員 今朝の新聞によれば、田中内閣改造内閣が出発をして第一日目であります。その田中内閣に対して、いま国民疑惑は果てしのないところでございまして、また組閣第一日目にこうして田中内閣のいわゆる金脈問題を当法務委員会が取り上げなければならないことは、まことに民主政治上遺憾きわまることと考えざるを得ないのであります。特に法務委員会というところは、歴代の法務大臣が就任にあたりまして、いわゆる順法精神といいますか、法律が正しく運営されているかどうかという点につきまして、立法上からもあるいは司法上からも行政上からも念査するという意味があるところでございますから、特に私どもとしてはこの際政府に対して意向をたださなければならぬところがたくさんございます。  つい二、三日前でございますが、ある新聞にこういう随筆が載りました。ある女性でありますが、「某雑誌の克明な調査記を読むと、わが国の総理大臣権力をかくれみのとして数十億とも数百億ともつかぬ膨大な私産を作り、しかもその所得についての税金すら払っていないことがわかる。わたしたちは、わたしたちの血税で雇っている総理大臣に対して、事の真実を徹底的に追究する権利幸を持っているはずだ。そして彼が不当な方法でいわゆる私腹を肥やしていることが明確になったら、彼を罷免するのは無論のこと、その不当所得のすべてを、社会の下積みとなって生きてきた人たちと、その人たちの幸せのために働いてきた人たちに返すべきだと思う。」この随筆の前文と後文は省略をいたしますが、この女性が言っておりますことはまさにいま天の声であり、すべての国民の声だと思うのであります。  これにつきまして、きのう三時から行なわれました記者会見におきまして田中総理が言いましたことを、私も念入りにテレビを見ておりました。そこで注目いたしましたことは、田中総理が、自分にかけられた疑いについてはただいま調査中であり、不日この問題については国民の皆さんに何らかの方法をもって明らかにすると言っておることであります。そこで私は、テレビでありますからわかりませんが、田中総理の言っていることは、一体調査中と称することは、自分身内自分秘書なり自分家族なり、自分身内を通じて調査をしていることなのか、役所を通じて調査させておることなのか、そこのところがはっきりしないのであります。  私はまずその点につきまして国税庁にお伺いをするのですが、国税庁は、納税者である田中角榮総理大臣である田中角榮と、おそらく区別をきちんとなさっておると思うのでありますが、いかがでございましょう。
  6. 磯辺律男

    磯辺説明員 お答えいたします。  実は長官が出席して御答弁申し上げるはずでございましたけれども、本日ちょうど参議院大蔵委員会のほうに出席を求められておりますので、私、次長でございますが、かわりまして答弁させていただきます。  ただいま御質問の件でありますけれども、もちろん国税庁といたしましては、税法の前におきましては田中角榮個人ということで私たち調査をし、また処理をいたしておるわけでございます。
  7. 横山利秋

    横山委員 それでは、きのう田中角榮総理大臣テレビを通じて、調査をさせておると言ったことは、総理大臣としてあなたに指示をし、国税庁指示し、自分のところを調査しろと言ったと解すべきであるか、それともそうでなくて、役所でなくて、自分自身で、家族身内秘書を通じて調査をさしておると考えておるのか、どちらであるかということ。  と同時に、あなたのほうは、国税庁としては、納税者である田中角榮調査を行なっているのであるかどうか、その点を明白にしてもらいたい。
  8. 磯辺律男

    磯辺説明員 第一の点でありますが、昨日のテレビで、総理調査をさせておるというふうな御発言がありました。これは、私どもはもちろんそういった指示を受けたことはございません。一般的に申しまして、納税者国税当局に対して自分のところを調査しろなどということの命令をするということ自体おかしいことでございます。したがいまして、田中総理がきのう言われましたことは、おそらく御自分秘書なりあるいは身内の人に対して、いままでの財産の状況なりあるいは財産取得の経過なり、そういったことを調査させておるものと私たちは了解いたしております。  それから第二の点でございますが、国税庁といたしましては、御承知のように、田中角榮氏の所得並びに財産の形成をめぐりましていろいろといま世上言われております。そういったことは、当然国税当局といたしましては新たにいままでの課税の事績を見直す一つきっかけを与えるものでございます。そういった意味におきまして、私たちは、ただいままで処理いたしました田中角榮氏並びに田中角榮氏の関連会社と称せられております各企業につきまして見直し作業をやっておるところでございます。
  9. 横山利秋

    横山委員 あなたもごらんになったと思うのですが、ここに例の問題の文芸春秋がございます。私もかつて長らく大蔵委員をやっておりましたから、この文芸春秋税法立場から、税金を担当しておる者の立場から見ますと、実に克明に書かれておる。これはある意味では脱税告発文書である、その目から見るならば。ほかの問題もありますけれども佐藤昭といい、田中角榮といい、一納税者に対してこれだけ具体的な例証をあげて言うておる。その言うておるものが出た瞬間に、もしも田中角榮でなかったならば、市井の中小企業であったならば、どこかの何かの業者であったならば、これだけ明白な資料が出れば、これは直ちに、大蔵大臣が言う洗い直しとかあなたが言う見直しとか、ていさいのいいことば税務署では使いません、査察特別調査です。査察かないし特別調査をするべきでありましょう。どこの税務署がその洗い直しだとか見直しなんてていさいのいいことを言っていますか。これだけの調査があれば、資料があれば、直ちに特別調査ないしは査察をかけるべきである。そういうふうに考えるのが庶民の感覚なんであります。  あなたにもう一度伺いますが、一般納税者田中角榮納税者区別をなさっているのではありませんか。どうです。
  10. 磯辺律男

    磯辺説明員 先ほど申しましたとおり、私たち税法の適用という場におきましては、田中角榮氏であろうと一般納税者であろうと、それを差別するという考えはごうもございません。  それで、ただいま先生指摘のように、これだけの資料一般に事実書かれたならば直ちに特別調査あるいは査察をやるべきだというお考えでございますが、これは先生専門でございますからあえて私から申し上げるまでもないと思いますけれども、やはり査察で立件をするということになりますと、強制的な捜査をするにあたりましての裁判官の令状を得るための疎明資料が要るわけでございまして、それは単なる風聞であるとかあるいはそういった雑誌記事であるとか、そういったことで疎明資料を得るということはなかなかむずかしいわけでございます。そういった記事に書かれたことということは、私たちが、脱税があるか、あるいはそれを調査をする必要があるかどうかという一つきっかけを与えるだけでありまして、そのきっかけに基づいて国税当局としては独自の調査をし、あるいは内偵をし、そして実地調査にかかるというのが通常でございます。ただその場合に、その相手方が、決して社会的な地位の上下とかそういったことではなくして、やはり規模が小さい場合は簡単に結論が出ますし、規模が大きい場合あるいは複雑な場合にはその調査に時間がかかるというのはやむを得ないことではなかろうかと考えております。
  11. 横山利秋

    横山委員 磯辺さん、あなたは単に国会で私どもに答えているというふうな気持ちをとらずに、このマイクを通じ、この答弁を通じて国民に、その辺のげた屋さんや八百屋さんあるいはとうふ屋さんに、その税の調査を受けた人と同じような気持ち答弁をしておるというふうになさらなければいけませんよ。そういう人たちがいまのあなたの答弁を聞いて、何かかんかといっても、総理大臣なり政治家なりあるいはそういうような権力のあるところには、税の質問検査権なり査察なり特別調査発動は適当にやるのだろうというふうに考えておる、考えやすいということを念頭に入れて答えてもらわなければいけませんよ。  そこでお伺いをいたしますが、田中総理はきのうの記者会見答弁におきまして、いつどういう方法でということを絶対に言いませんでした。これはもう国民がひとしくきのうからきょうにかけて疑惑を持ったところなんであります。  どういう方法でということは、一つは、いまあなたが指示を受けていない、自分たちは自主的にやるのだという意味において田中角榮として言っただけであって、総理大臣として自分査察しろということは言えないという話もありますが、本来ならば、田中角榮納税者であると同時に総理大臣なんでありますから、自分だけは別にしてくれと言うわけにはまいらぬと私は思うのであります。それは別として、わかったことは、身内調査をするということですね。あなたは自主的に調査を始めたとおっしゃっているわけですね。  そこで第二番目の質問は、田中角榮たる納税者一体いつごろそれを出すのだろうか、それをあなたのほうはいつまで待っているのだろうか。もし普通の中小企業の場合ですと、私が疑いをかけられておりますけれども、いま私が調査をしておりますから、自主的に調査をいたして修正申告もいたしますから、あなたのほうの役所権力発動を待ってくださいという場合が非常に多いのであります。しかし、だからといってあなたのほうはそれを待ったためしはほとんどないのであります。それはそれ、これはこれなんでありますというわけであります。ですから、田中角榮たる納税者が待ってくれと言おうが言うまいが、いつ出すか、これは果てしない、わからないことであるが、あなたのほうとしては一体どういう日程で作業をなさるおつもりであるか。まさにいまここまでまいりますと、田中角榮たる納税者は、身内家族秘書を通じてあらゆる証拠隠滅をはかるのが人情ではないか。しておるとは言いません。普通の常識からいうならば、虚偽の文書あるいは不実の文書、あるいはなかりし、なくなった文書の再製、そういうことをするというのがまず普通税務署考えそうなことなんです。また検察庁の考えそうなことなんです。それに時間を与えれば与えるほど問題の処理は困難である、私はそう思うのであります。したがって、国税庁がもし田中角榮納税者、また佐藤昭なりそのほか多くの幽霊会社の役員、そういう人たちの税の摘出を的確にしようとするならば迅速果敢でなければならぬという点についてどうお考えですか。
  12. 磯辺律男

    磯辺説明員 先ほど申しましたように、国税庁が現在調査を開始しておりますのはあくまでも独自の判断に基づいてやっておることでございまして、決して田中総理あるいは納税者田中角榮氏からの指示とかあるいは希望とか、そういったものによったものではございません。したがいまして、私たち税務調査テンポといいますのも、田中角榮氏御自身が疎明されるとかあるいは調査をしておられる、それとは全く無関係でございます。したがいまして、私たちは私たち作業を独自のテンポで進めておる。それについては、先方から資料が出てくるのを待ってやる、そういうことば決してございません。
  13. 横山利秋

    横山委員 念のためにもう一ぺん強く言いますが、私も大蔵委員をやった人間ですからあえて言うのですけれども、あなたがここで独自に調査をしておるという意味は、実態は何かということをもう一ぺん問い詰めたいのであります。  あなたが田中角榮納税者の所管の税務署に、おい、田中角榮調査をしておけよと署長に言う。署長担当者に言う。担当者は、何したらいいのですか、どこへ行ったらいいのですかと言う。そういうことでは絶対にこの問題は進展しないということはだれだってわかっておることなのであります。そうでしょう。田中角榮納税者は全力をあげていま疎明資料の準備に着手している。着手のかたわら行なわれそうなことは私が先ほど予想したとおりである。あなたのほうは国税庁から国税局、そうして税務署税務署がどうやってこの問題に対して、権力に対抗して、ある意味ではほんとう政治力にも対決して国民疑惑を晴らす方法があり得るか。単に、おい、やれよ、おい、署長、遠慮なくやれよと言ったぐらいでこの問題が解決するとはあなたはまさか思っているんじゃないでしょうね。だから私はむしろ、査察特別調査か、特別のプロジェクトチームか何かではっきりしなければこんなものはできませんよと言いたいのであります。できるはずがない、いまの業務の実態で。田中角榮納税者調査を普通のとおりにおろしておったら絶対にそんなものはできるものじゃない。  もう一つここで私は疑問がある。ある時期になって田中角榮納税者修正申告を出してくる。修正申告を出してきたらそこで政治的解決をするということがあり得そうな気がするわけであります。一般中小企業でもそうでありますが、納税者税務調査を受ける。そこで自発的に修正申告をする。修正申告をするからこれでかんべんしてちょうだい。善意は認める、自発的趣旨は認める、けれどもあなたの言うとおりにはいきませんよというのが税務署の言い分なのです。これも一つの理屈はあります。したがって、納税者である田中角榮氏なりほかの人がこの問題について修正申告を出してきたときに、その修正申告が妥当である、ないしは間違っておる、まだまだ隠れたものがたくさんあるというものをあなたのほうは立証しなければならぬ。普通の場合と違って、今回は、国税庁権威にかけて、税法権威にかけて、その修正申告が間違っておるかあるいは間違っていないかを客観的に立証をしなければならぬ、はかり知れがたい責任がある、そう思いますよ。その点について、あなたはいま簡単に別途の角度でやっておりますと言ったのですけれども、どういう方法で、どういう決意で、どういう手順で、修正申告が出たらやるおつもりなのですか。
  14. 磯辺律男

    磯辺説明員 ただいま横山先生の、普通のやり方ではだめだという御指摘、それは私たちも重々存じております。したがいまして、ただいま私ども作業をしておりますと申し上げましたことは、具体的にここで申し上げるわけにはまいりませんけれども、単に国税局もしくは税務署に、もう一度見直しをやれよといったような簡単なことでやらしておるわけではないということだけははっきり申し上げておきたいと思います。  それから、かりに修正申告が出てきた場合、それをどうするか、漫然と修正申告を認めるかという御意見でございますけれども修正申告納税者がお出しになるということと国税当局のほうが独自に調査をするということは全く別問題でございます。最近の税務行政におきましては、税務調査をする、当初の申告が過小であった、そうしますと、これは更正決定更正処分ということではなくて、修正申告にしてもらいたいというのが納税者大かたの御意見でございます。そういった場合には、私どもは最終的に、更正という方法をとらずに、本人修正申告というかっこうで、自分で納得して出されるというものであれば、しかもその数字国税当局調査した数字と一致するというのであれば、修正申告の受理ということをやっております。ただ、これは余談になりますけれども修正申告だけをとるということは、同時にそれは御本人権利救済の道をふさぐということになりますので、全部修正申告処理することが、はたして権利救済の面から見て納税者のためにプラスになるかどうかということは、これは大いに議論のあるところであろうかと思います。しかしながら、修正申告をとるという例は多いわけであります。  では、もしかりに田中角榮氏が自分調査をされて、そしてこういうふうに当初の申告が少なかったと修正申告を出してきた、その場合どうするかということについては、それはその場合になってみなければ、もしそれが当初申告どおりであればもちろんそういうことはございませんし、あるいは若干のつけ落としがあったというような場合、あるいは大きな誤りがあったという場合、それはケース・バイ・ケースによって具体的事実に即して判断しなければならないと思います。しかし、これはまた繰り返して申し上げますけれども、ただ単に修正申告が出たからといって、これはもう全く仮説の話でございますけれども、われわれが調査せずに漫然とそれを認めるというふうなことをするという考えは毛頭ございません。ですから現在私たちは独自の調査というものを開始しておるということでございます。
  15. 横山利秋

    横山委員 あなたがいまおっしゃったことで私は一応満足します。けれどもほんとうに満足できるかどうかというのは、この問題のまさに決着がついてからでなければなりません。その決着つけ方いかんは、国民納税意欲といいますか、国民の税に対する信頼感といいますか、国税庁の今後の仕事のあり方といいますか、すべてに至大な関係を持ってくることを銘記しておいてもらいたいと思うのであります。  私は、いろいろな角度から出されておりますこの資料をいろいろと判断してみました。たくさんの問題がございますが、きのう、たとえば田中内閣総理大臣が、総理大臣になってから不動産の取得はありませんかとさっと聞かれたときに、これは……というような顔をして、いやあります、ありますと言うて、軽井沢土地を買いました。買いましたが、自分友人で、安く買ったのですと言うて、最初虚をつかれたようなことでありましたが、言い直してアリバイをつくったといいますか、そういうことなんであります。そのことがやはりだれも考え一つの焦点だと思います。そのことをかりに例を引いてみましょうか。  あの問題は、四十七年、田中納税者申告は八千五百七十九万、そしてその年に、四十七年に軽井沢に五千九百十一坪、九百九十一坪、二千三坪の土地を買った。その中で五千九百十一坪は東京ニューハウスでありますからこれは別問題として除外するにいたしましても、九百九十一坪と二千三坪、約三千坪ほどの土地が購入をされた。八千五百七十九万の所得、それから控除をされ、税金を引き、純所得は識者の見るところ大体千五百万かそこらしかないであろうと推定されておる。それにどうして三千坪になんなんとする軽井沢土地が買えたのであろうかということなんであります。その点が指摘されると予想してか、田中総理はきのうの記者会見で、友人だから安く分けてもらったんだよとアリバイを張っておるわけであります。  この点について磯辺さん、かりにそうだとしたならばその解説を願いたいと思います。一体、その土地時価よりも非常に安く分けてもらった、ただ同様に分けてもらったら税というものはどういうふうに働くか。譲ったほう、買ったほうにどういうふうに働くか。安く買ったからおれは所得があったんだよということにはまいらぬほどの金額でありますよ、これは。まあ一円でもらったというなら別ですけれども。きのうの総理大臣の、おそらく君の聞きたいところは四十七年の所得ではあの土地は買えないと言いたいんだろう、おれは友だちだから安く買ったんだから、その問題は解決済みだよと言わぬばかりのふぜいなんであります。これは、私のいうところの、どんなに安く分けてもらったところで所得が追いつきません。それから、非常に安く分けてもらったら、田中さんは税法譲渡所得を忘れちゃいませんかと言いたいのでありますが、その問題について、かりにそうだとしたら税法はどうなっておるか、磯辺さんの解説をひとつ聞きたい。
  16. 磯辺律男

    磯辺説明員 まず第一点の問題でございますけれども、これは今後の私たち調査のいろいろなポイントにも影響してくることでございますが、先生承知のように、個人財産というのはストックフローと両方ございます。ですから、いわゆる文芸春秋記事で書いておりますことは、ストックの面を全然ネグったと言ってもいい記事ではないかというふうに一応見られることもございます。やはりフローフローの比較と、それからフローストックの組み合わせといいますか、その計算というものがそこに必要ではないかということが一つ。これは今後私どものほうの解明すべき点の問題でございますけれども一般論として申し上げますとそういうことになろうかと思います。  それから第二の点につきましては、一定時価より著しく低くそれを譲り受けた場合には当然その間に贈与税の問題が出てまいります。ただこれも先生、税の専門でお詳しいかと思いますけれども贈与税としてそれを見るかどうかという問題になりましては、やはりこれは一定の基準がございまして、著しく低い価格によって取得した場合ということになっておりまして、そこにはただ若干安いからというだけで直ちに贈与税の問題が出てくるという問題ではございません。ですから、それはそのときの時価、それから実際の価格、そういったものを比較勘案いたしまして、そこで贈与税課税の必要ありかどうかということの判定の問題になろうかと思います。
  17. 横山利秋

    横山委員 こういう問題をきょう取り上げていきますと、私が整理いたしましただけでも十五ぐらいあるわけでありますが、私に与えられております時間が少ないので、一例、二例をあげていくわけであります。  そこで国税庁にお伺いいたしたいと思うのでありますが、参議院決算委員会においても、またきょうこれから始まる質問の中においても、単にこの短い時間でやりとりをしておったのではとてもかなわぬ。したがって、この際田中角榮納税者に関する税務書類を提出してもらいたいという要求に対して、新聞で見ただけでありますからどういう理屈かわかりませんが、何か必ずしもあなたのほうは十分了解をなさらないようであります。公務員の守秘義務かあるいはまた税法における守秘義務か、ともあれ納税者の秘密と称してお出しなさらない模様であり、あるいは、どうも読みようによっては理屈でなくてかんべん願いたい、どうしてもいけなければ何かは出すというふうにもとれるのでありますが、私どもとしては、これから短い時間に各党すべての人たち質問をするのであるから、総理の過去五年間の所得申告の状況を知らせてもらいたい、あるいは、二千万以上だから資産の内訳が所得税法二百三十二条によって出されておるはずであるからそれを提出してもらいたい、総理が過去、直接、間接に関与しておる株式会社の税の申告状況を国会に報告をしてもらいたい等々、たくさんの資料要求をこれからいたそうと思うわけであります。そういう点について協力をほんとうになさる決心がついたのでありますかどうですか。その点を、理屈、理論的な問題と現実的な問題と両面にわたって、一ぺん国税庁立場を明らかにしてもらいたい。
  18. 磯辺律男

    磯辺説明員 この問題につきましては、最初私が御答弁申し上げましたように、田中角榮氏に関する資料だからお断わりする、あるいはかんべん願いたいという意味ではございませんで、これはやはり納税者に関する資料でございますから国会に提出するのはごかんべんをお願いいたしたいということを繰り返しお願いしておるわけであります。  といいますのは、これはもうすでに申し上げるまでもないと思いますけれども、公務員の守秘義務というものと、それからいわゆる国政調査権との競合の問題になろうかと思います。その場合に、究極的には、これはぎりぎりした法律論におきましては、私どもは法律的にはしろうとでございまして、正確にここで申し上げるというのは私にとっては非常に荷が重いわけでございますけれども、やはり議院証言法第五条の精神と考え方というものに帰着するのではないかと思っております。つまり、国政調査権によってこれを公にするその公益と、それからこれを秘匿しておくことによる公益と、この二つの比較勘案の問題であろうかと思います。私たちは決して、いま、現段階において出すことができないということでがんばっているわけではございませんで、私ども国税に従事する職員といたしましては、納税者というものの秘密と、それから同時に私たちの職務上知り得た秘密、そういったことをここで明らかにしないほうが今後の税務行政の円滑化により有益なのではないかという判断に立って、ここでお出しするのはお許し願いたいということをお願いしているわけでございます。御承知のように、一般の法人、個人でありましても、調査するにあたっては相手方、納税者の協力というものが必要でございます。その協力を得るためには、税務職員にどういったことを話してもこれは税務職員の口から外部には絶対出ない、公表されないという前提に基づいて、納税者というものは自分のプライベートな問題あるいは財産の問題取引の問題、そういったことを税務職員に対して真実を述べるということになるのだろうと思います。したがいまして、そういった過程によって得ました資料というものは、私どもとしては今後の納税者の信頼と協力を得るためにも、税務部内から外部に出すということはごかんべんをお願いいたしたいというのが私たち立場でございます。
  19. 横山利秋

    横山委員 いままで国会なりあるいは地方議会なりその他で、納税者に関する一いま田中角榮氏が直面しておるわけですが、納税者に関するこの種の問題について説明をなさった例はありませんか。
  20. 磯辺律男

    磯辺説明員 国会におきましては、私どもが知る限りにおきましては、具体的に納税者何の何がしの財産内容あるいは所得内容はこうでございますというふうなかっこうでお答えしたことはないと記憶しております。
  21. 横山利秋

    横山委員 これはあとでまた別途言いますけれども、前のことをいまやっておると時間がございませんから言いませんが、こういうことではありませんか。納税者の秘密ということを守らなければならない場合と、事の次第によっては守らなくてもいい場合があると思いますよ。たとえば納税者が犯罪者であった場合、いろいろな場合があり得るわけです。ですから、納税者の個人の問題だから一切言えないということは私は少しおかしいと思う。それから今度は逆に、田中角榮だから言えないということはまさかおっしゃるまいと思うのです。一般論として、納税者に関する秘密というものについてあまり言いたくないというのが税務署が言っていることです。しかし、国会においては国政調査権というものが別にあるわけです。あなた方がどこかよそへ行って、納税者の秘密だから言えませんという場合と、国会の国政調査権がある前提の上において言えませんということと、一緒にされては困りますよ。国政調査権を認めて、一般とは違うところは、じゃ、どういうところなんですか。
  22. 磯辺律男

    磯辺説明員 法律論としてなかなかむずかしい問題かと思いますが、私どもは、国政調査権、国権の最高機関であります国会の国政調査権というものを尊重しなければならないことは重々存じております。それから同時に、国会法百四条によりますところの国政調査権というものが明文によって規定されておるということも存じておるわけでございます。しかしまた一方におきまして、私ども、先ほど申し上げましたように、国家公務員法の百条、あるいは所得税法、法人税法、相続税法等によって調査の事務に関係した職員というものに対する守秘義務というものが置かれてあるということも事実でございます。したがいまして、その国政調査権とそれから守秘義務といずれが優先するかという問題につきましては、先ほど申しましたように、最終的にはやはり議院証言法の第五条の精神にのっとって解釈しなければならない問題であろうかと思いますけれども、少なくとも私たち税務の実務に従事している人間といたしましては、やはり今後の税務の運営というものを円滑に持っていくためには、ここで納税者に関するあるいは私たちの知り得た事実というものを申し上げないほうが、より税務の運営のためにプラスになるのではないかというふうな観点から資料を提出することをごかんべんをお願いしたいということを考えておるわけであります。しかしながら同時に、議院証言法の第五条の精神では、国の利益に重大な影響を及ぼすというふうな表現も使われております。それでは税務上の問題が国の利益に重大な影響を及ぼすというふうなことであるのか、あるいは田中角榮氏個人の税務関係の資料というものをここに出すということがそういった問題なのかというふうなことにつきましては、私たちはそれはむしろ高度な政治的な判断によるものというふうに理解しております。しかしながら事務当局としては、重ねてお願いしたいわけでありますけれども、やはり税務の円滑な遂行をはかっていくということは私たちにとって非常に重要なことであり、同時に、それはやはり国の財政収入の根幹につながってくる問題ではないかというふうな感じを持っておるだけに、ここで繰り返し、以上のような趣旨で資料の提出については事務当局としてはごかんべんをお願いいたしたい、かように考えておるわけでございます。
  23. 横山利秋

    横山委員 あなたの言うことを整理しますと、当面は、守秘義務と国政調査権と並べると守秘義務のほうが優先する。また優先するというのは理論上よりも実際仕事をしておるものの立場から希望したい。それからとことんまでいって、証言法五条の国家の重大な利益という項目に田中納税者の書類を出すことが該当するのかどうなのかという点についてはわしゃ知らぬ、それは高度の政治判断で、私どもでは判断しない。高度の政治判断というのはどういう意味だかよくわからないのですけれども、そこへとたんにばっと逃げてしまうわけですね。しかし、あなたのおっしゃっておるようなそのことばのあやから見ると、田中角榮の書類を出すことが国家の重大な利益に著しい影響を与えるとは思わないけれども、そう言ってしまっては身もふたもないから、これは高度の政治判断だというふうに聞こえるわけです。間違っていますか、あなたの答弁に対する私の解釈、それでよろしいですか。
  24. 磯辺律男

    磯辺説明員 私はそこまで申し上げておるつもりはないのでありまして、私たちの現在の考えとしては、この問題はあくまでも一納税者田中角榮氏に関することでありますから、同様な納税者としてこの問題を処理していきたい。そういった意味で、一般納税者に関する資料、個々の人の納税資料税務関係の資料というものは従来とも国会に提出することはお許し願ってきておりますだけに、それと同じようにこの問題を考えていきたいということでございます。   〔羽田野委員長代理退席、委員長着席〕
  25. 横山利秋

    横山委員 あなたは、これは総理大臣である田中角榮ではありません、個人田中角榮の問題でありまして、一般納税者と全く同じベースでものを考えておりますとおっしゃるけれども、高度の政治判断ということは、総理大臣たる田中角榮というものに対して大きな影響があるからというふうに思わざるを得ないのであります。  あなたとのやりとりはこの辺にして、それでは法制局長に少し理詰めでお伺いをしたいと思います。  この問題につきましてはすでに造船疑獄のときにも出ておりますし、参議院でも議論された問題でありますから、イロハニホヘトを私も時間の関係上あまり申し上げるつもりはございません。いま磯辺さんの言うところの、証言法五条の国家の重大な利益に著しい影響があるという文字の解釈の問題を、まず理論的に意見を聞きたいと思います。  第一に、国家とはどういう意味であるか。私がこんなことを言ってはおかしいのでありますが、政府の、と解釈したり、国民の、と解釈したり、両方あると思う。国家とは一体どういう分野で考えるべきか。  それから、国家の重大な利益に著しく悪影響があると解釈をするのは一体だれであるかということなんであります。だれがまず解釈をするか。これは政府声明を出すわけでありますから、第一義的には政府が解釈をすることになるだろう。よかれあしかれそうだと思います。これはやむを得ない。そうだとするならば、その国家の重大な利益に著しい悪影響があるということハ、政府の自由裁量なのか。かってに、ネコでもしゃくしでも国家に重大な影響があると言ってしまえばそれまでなのでありますが、自由裁量権を持つ問題であるか、それとも法規裁量的な問題であるか、これがきわめて重大なのであります。一たん政府声明を出してしまえば、もう政治はそれで動いてしまうものであります。だから日ごろから、国家の重大な利益に著しい悪影響があるということは少なくともこういう問題でなければならぬということが確立してなければいかぬと思うのであります。それはまあ私どもの口からでなくて、ある学者が言っておるのでありますが、防衛とか外交とかいうジャンルの問題ではないかということが指摘されておるのであります。いずれにしても、国家の重大な利益に著しい影響というものは第一義的に政府が解釈するとすれば、それに自由裁量が認められておるようなことでは、この文章はしり抜けではないか。法規裁量的な要素があるとするならば、一体それはどういうものであろうかという問題がある。  それからその次には、もちろん守秘義務との関係なのであります。この守秘義務というものと国政調査権との関係、そしてそれが最後に国家の重大な利益に結びつくとするならば、この守秘義務と調査権とのどちらが優先するかということは、私のいまお答えを願おうとする国家の重大な利益の判断の要素になることによってどちらが優先するかということにきめられるべきことではなかろうかと思うが、その点はどうでありましょうか、等々を含めてひとつ御意見伺いたい。
  26. 川口頼好

    ○川口法制局長 国会の法制局長でございますから、特に国政調査権とほかの法益との関係というきわめて重大な部分の御質問でありますので、かねがね考えておりますことをこの際披瀝申し上げまして御参考に供したいと思います。  第一の、いわゆる証言法の「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」云々という文句の解釈につきましては、もう御質問の中にすでに御指摘がありまして答えが出ているような気がいたしますけれども、国家というのは、まさに国家でありまして、一内閣の都合とか一国家機関の都合とかいう狭いものではない。常識的に申し上げますれば、正常な法意識を持った国民が納得し得るような国家利益、もっと具体化しますと、証言法の五条は、外交上の秘密とか国防上の秘密とか、なお、たとえば刑事捜査上の秘密とかというふうな、非常に高い、何といいますか、非常に公的な秘密というものを眼目に置いてできた条文でございます。その意味からいたしますと、突き詰めて議論しますと、徴税当局がになわされている国家としての立場というふうなものが、どのような形で国政調査権と対比して考えられればいいだろうか、こういうこととも関連いたすかと思います。  第二番目に、証言法五条の裁量権の法的性質でありますが、これはもう国政調査権の比重からしまして、当然に法的裁量、行政法学者がいうところの法規裁量、単なる自由裁量ではないと言い切ってだいじょうぶだと考えております。  それから第三番目の、国政調査権と公務員法上あるいは特別法としての税法その他に規定されておりますところの守秘義務とを対比して、その比重がどちらが高いかという事柄であります。算術みたいなことを申し上げて恐縮でございますけれども、質の違うものを対比してどちらが重いかというふうな一般論は、してもあまり役に立ちませんので、あとは政治家の良識で御判断願いたいと思うのであります。私ども気持ちといたしましては、そもそも国政調査権というのは、個々のすでにできた法律や、それからそれに基づいて行なわれる行政、その根本が正しいかどうか、ことばをかえて申しますと、政治のあり方そのものを最高機関である国会が正すために存在するきわめて高度な権能でございまして、観念上の話として一応申し上げますれば、比較にならないほど高いものだ、こう考えております。  しかしながら他方で、行政府といたしましては権力で入手した一私人の情報、これは同じく憲法から流れ出る基本的人権の擁護のために存在する制度であります。したがいまして、そこの調節はきわめてデリケートでございますが、一方で、ただいま政府側からお答えになりましたように、国政調査権の発動だから個人の秘密はまる裸にされてもいいという理屈は、これはできない。現在の憲法のもとで、国家機関同士の対抗関係としては国会は最高機関でございますけれども国民が国家権力の中に完全に没入するファッショ体制ではございませんで、民主主義憲法でございますから、あくまで個人の秘密というのは擁護されねばならない。その度合いがどのような程度にいくのかということは、個々具体的な事案に応じまして、そこで調べようとする国政調査の具体的な目標、それからその国政調査をやりますためにはどうしてもそういう情報を国会が入手しないとぐあいが悪いという緊迫性、こういったものとの関連において詰めて議論されるべきでありまして、一般論をここであまり申し上げても御参考にならないかと考えております。  横山先生の御質問に対する私の考え方は大体以上でございます。
  27. 横山利秋

    横山委員 第二番目の、国家の重大な利益に著しい悪影響をもたらすということは、政府にとっては自由裁量でなくて法規裁量であるという判断ですけれども、法規裁量であるとしたならば、その法規裁量権の内容、限界といいますか、条件というものはどういうものであるかという点についてお答え願えますか。
  28. 川口頼好

    ○川口法制局長 非常にむずかしい御質問でございますが、具体的な事案について議論しないと、一般論はここでも通用いたしませんが、やや突っ込んで申しますと、証言法五条で予想されている国家利益、国の利益という観点は、いま税について申しますと、国税の徴収というきわめて権力的な行政を将来遂行していくために、非常に平たく申しますと、権力的に入手した秘密を国権の最高機関の判断に供するために、ある程度までは国会に対しては普通の場合と違って申し上げてしかるべきだ、こういうのが私さっき申し上げた点でありますから。  そこでしかし、他方において、行政当局ハ徴税上の立場と将来の問題もありますし、非常にことばが雑でございますが、あんなことでは、税務署は何でもかんでもしゃべってしまうのじゃこれからしゃべるまいというふうに国民が思うような程度まで、あまりにもものごとを暴露主義でいってはぐあいが悪い、これはよくわかります。そこらの勘案というのは、具体的な資料要求なり、国会のほうから政府の公務員に対して要求なさる情報の態様なり、先ほど申しましたようにそれの緊迫性、どうしてもそれを入手しないと真実がつかめないというふうな緊迫の度合いというものとの関連において、終局的には法規裁量という形になるでありましょう。それ以上突っ込んで具体的な判断基準を示せとおっしゃられても、ちょっと知恵がございませんが、大体以上のように考えております。
  29. 横山利秋

    横山委員 これは川口さんにも磯辺さんにも私の意見を聞いてもらいたいと思います。  造船疑獄で問題になりましたときに、一つは、裁判で進行中のものについての国政調査権の及ぶ限界、それから検察当局が調査中のものに対する国政調査権の限界というものがあの当時はずいぶん議論になったわけであります。今回は税務行政に対する国政調査権の限界というものなんであります。いみじくも司法、準司法、純行政と相並んで、もし国政調査権がオールマイティーではないとかりに仮定をしたならば、その順序は司法、準司法、純行政というふうに考えられてしかるべきではなかろうかということが第一の私の考えなんでございます。  それから第二番目の考えというのは、いま田中角榮という納税者税務の書類を公表することが今日の税務行政上プラスになるかマイナスになるか、国民の共感が得られるか得られないか、将来のためによいか悪いかという問題が判断の基礎になってしかるべきではないか。われわれはそういう判断に立つならば、むしろ納税者たる田中角榮氏の、自分調査をして出そうと言っておるのであるから、自分調査をして出そうとするものを——全く一〇〇%出すというのは、出ればけっこう、出なければ、出ないと見るのが普通なんでありますが、本人がどうしてもそれは必要ないと言っているのじゃなくて、自分も出そうと言っているときに、国税庁としてはこういうものが本人から出されたものでございますといって出すことがなぜ悪いのであろうか。法律論という問題からいうならば、私は納税者の個々の申告書類を何でも出せと必ずしも言っているわけじゃないのだ。理詰めでいったならば、一人の納税者申告書類を出すことが国家の重大な利益に著しい影響があるとは私は断じて思わないのであります。理詰めでいくならば断じて私はそんなことは思わない。今度は、条理を尽くして、現状において現実的判断をどうするかという点について、いま言いましたように出すほうと出さぬほうと田中個人のためにどちらがよろしいか、国民がどちらを全般的に望むか、将来の税務行政の上においてどちらが望ましいことであるか、税務行政に対する信頼をどちらが高められるであろうかという点から考えますと、現実的な取り扱いの面からいってもお出しになるべきではないか、そう考えるのでありますが、御両所の御意見伺いたいと思うのであります。
  30. 川口頼好

    ○川口法制局長 御質問の中の最後の微妙な判断部分につきましては、私からはそのワク組みだけを申し上げまして、あとは政府当局から御答弁願ったほうが適当かと考えますので、考え方の筋だけを申し上げます。  いま御指摘がありましたように、以前は国家権力内部の対抗関係、たとえば裁判の司法権独立、それから検察当局の犯罪捜査権というものとの対置、そして今回は税務行政というふうに並べて考えますと、これはもう常識でございますが、そのうちで、国権の最高機関といえども踏み込んでならない度合いが一番強いものは司法権の独立、その次に検察の犯罪捜査権、その次に普通の行政、普通の行政のうちでは徴税というのは非常に権力的な作用でありますので、これがきわめて公正に行なわれるという必要性が普通の行政一般の中では高いものだ、このように考えます。  いま御質問の中、及び政府からお答えになったことと関連いたしまして、国政調査権の問題について、一般に学者も、それから従来の国会の論議においてもあまり指摘されておりませんことをこの際御参考までに申し上げておきます。実を申しますと、外国の立法例等を参酌しますと、いわゆる官の秘密というのとそれから個人の秘密、こういうものをかね合って、民事訴訟法とか刑事訴訟法とか証言法とかというのは考慮しなくちゃいけないのでありますが、その場合に、医者とか弁護士とか、こういうものが患者や依頼入を調べておる間に入手し得た秘密、これは絶対的な証言拒否事由になっております。ところが、公務員が権力で入手した個人の秘密につきましては、証言法の五条に移っていきます。これは御質問の中にはないことでございますけれども、ここに一つのむずがゆい点がございまして、一方で税務署は国会のお役に立とうと思えば、なるべく資料を提供するような方角で考えたい、ところが同時に、それが国民のほうの一私人の基本的人権あるいはプライバシーを暴露する危険性を持つ、ここに、特に国会の場合にはそれがもともとが公開を原則としている、裁判もそうでありますけれども、そういう一種の矛盾をはらんでおりまして、この問題は別途に、個人の秘密を防衛しながら、しかも国政調査権の機能を発揮する、こういう調節というきわめてむずかしいデリケートな問題が伏在しております。これはこの機会に、国会の証言法というふうなものについて問題が残っていることを一つの御参考までに申し上げておきます。  しかし、いま御質問についてお答えしますならば、国家の重大な利益というものを、一番端的には国防とか外交とか、こういうものは非常にわかりやすいのでございますが、徴税上の国家利益、つまり、あまり税務当局がしゃべり過ぎると国民の信用を害して、これからあとはもう情報が取りにくい、非常に雑に申しますが、そういうふうな徴税上の国家利益を一体どのように国政調査権と対比してこの比重を考えるか。結論は、はなはだ申しわけありませんが、私からあまり概念的なことを申し上げるとそれだけの自信がございませんので、おのずから常識でおわかり願うと思いますので、結論は留保させていただきます。
  31. 磯辺律男

    磯辺説明員 ただいま先生のおっしゃいました、これを公開するほうが税務行政にプラスになるか、あるいは秘匿しておくほうがよりプラスであるか、事務当局としてはどう考えるのだという御質問でございますが、これについてはいろいろと意見の分かれるところであろうと思います。しかし、私たち国税当局として言わしていただきましたならば、やはり田中角榮氏といえども納税者であります。そういった観点で考えますと、やはり納税者の秘密というものは、国会に対してすべてその資料を提出するということはごかんべんをお願いしたい、こういうことでございます。
  32. 横山利秋

    横山委員 国税庁側に言っておきたいのは、あなたのほうの小乗的な意味で仕事がやりやすい、そういうことだけで、また先ほどからるるおっしゃったのは、ごかんべん願いたい、そういうふうに期待したい、希望したいということでは、これはあかぬのです。あなたのほうが理論的に、おれの言うのが正しい、国政調査権よりも守秘義務のほうが優先するなら優先するという理論を堂々とおっしゃらないといかぬのです。どっちかといえば、かんべん願いたい、私のほうとしては仕事がやりやすいからそういうふうにしてもらいたいということでは、これは話になりませんよ。理屈の上で自分たちが、守秘義務のほうが優先する、そうならそうで、はっきり言ってもらわぬと問題の整理ができません。私はあなたと違いまして、理論的にも国政調査権のほうが優先すると考える。何でもかんでも、いつでも言えと言っているわけじゃないのですよ。それは、最後のどん詰まりになって、田中角榮という一国民にすぎない納税者がその納税所得申告を国会に報告することが、どれほど国家の重大な利益に著しい影響を与えるのかという点について、あなたのほうは自信を持って説明ができないのじゃありませんか。ですから、自分は言うだけ言った、あとは国会がきめてもらえば私のほうもまたやりようがある、考えようがあるとおっしゃるなら、それはいたし方がないけれども、私ども国会側としては、ああそうですか、守秘義務のほうが優先する、出してもらえぬならしかたがありませんと言うつもりは毛頭ありませんよ。  ですから、私はあらためてここで国税庁要求をいたします。それは、先ほど言いましたように、田中角榮納税者に関するこの五カ年間の所得申告、その申告の内容、そして、二千万円以上になっているんだから、所得税法二百三十二条に基づいて資産の概要を毎年出しておるに違いないから、その内容の提出を要求いたします。出していただけるかどうか、御返事をいただきたい。
  33. 磯辺律男

    磯辺説明員 国政調査権と守秘義務はどちらが優先するかという問題につきましては、実は、ただいま法制局長が御答弁申しましたように、私がここで、国政調査権のほうより守秘義務が優先するというふうにお答えするということはできないわけでありまして、やはりそのケース・バイ・ケースによって判断しなければならない問題だろうと思います。そして究極的にはやはり議院証言法の第五条の精神によるべきだと考えております。  それから、ただいまの資料の御要求の件でございますけれども、これは私たちのほうとしては、現段階におきましてはやはり守秘義務ということを守っていきたい、かように考えております。したがいまして、公示されました資料についての提出はできますけれども、公示外のものにつきましてはこれはお許し願いたい、かように考えております。
  34. 横山利秋

    横山委員 何かよくわからないが、ただいまのところ提出できないという、ただいまのところがついたのはどういう意味ですか。
  35. 磯辺律男

    磯辺説明員 訂正いたします。提出することはお許し願いたいということでございます。
  36. 横山利秋

    横山委員 委員長、私がきょう質問をいたします基本的な論理は、順法精神という本委員会に関する基本的な理念から出ておるものでございますが、特にいまのは、私どもが一番よって立つ基盤でありますところの国政調査権に対して重大な反撃だと思います。したがいまして、その国政調査権に対する国税庁から拒否があったという点につきまして、委員長としてしかるべく善処をお願いしたい。後刻ひとつ理事会で十分私の要求を取り上げて審議されんことを望みます。よろしゅうございましょうか。
  37. 小平久雄

    ○小平委員長 いまの横山委員の御発言のとおり後刻、重大な問題ですから、理事会において取り扱いを協議したいと思います。
  38. 横山利秋

    横山委員 もう一つ磯辺さんに聞くことを忘れました。あまり言いたくないことなのでありますが、先ほど田中角榮ということだけを言っておきましたが、あなたの御返事もそういう立場に立っておりましたけれども、「淋しき越山会の女王」ですか、この佐藤昭さんについてこれほどたくさん出ておるということも、まあ、読者としてはこっちのほうをよけい読んでいるんじゃないかと思うが、私どもの従来の経験上から考えますことは、田中角榮氏を調査するならば、当然佐藤昭さんについても同じことだというふうに考えておりますが、あなたのほうのお仕事もそうでございましょうね。
  39. 磯辺律男

    磯辺説明員 そのとおりでございます。
  40. 横山利秋

    横山委員 それでは自治省にちょっとお伺いいたします。  いまの話題が出ました越山会の届け出、これによりますと、全くもうめちゃくちゃだと指摘をされています。たとえば、栃尾市の整染興業では、栃尾ではうちだけではありません、絶対にうちだけではありませんと言っている。官報に出ていても、絶対に私どもは出しておりませんと主張している人、港区では、うちは外国商社だから、港商事だから、絶対に私どもは出しておりませんと言っているもの、同じく古川産業では、絶対に出しておりませんと言っているもの、それからそのほか丸井だとか日本地震再保険、そのほかのところでも越山会が自治省に届け出たものについて、具体的に一つの会社なり個人がそれは間違いですと、これほど列挙がされていることなのであります。このことは、もしもそれがそうだとするならば、政治資金規正法による虚偽の届け出ということがこれほど明白に指摘をされておるわけでありますが、自治省ではどうなさっているわけでありますか。
  41. 山本武

    ○山本説明員 ただいまの御質問は、文芸春秋記事に出ているところを引用されまして、それについての政治資金の収支報告の状況、あるいはそれに関する調査がどうなっているかというふうなお尋ねでございます。  この点につきましてお答えする以前に、ちょっと御理解を賜わりますために政治資金規正法の仕組みを御説明申し上げておきたいと思いますが、御案内のように、この法律は、議会制民主主義の健全な発達をはかるために、政党なり政治団体というものが自律的に記載が真実である旨を宣誓書も出しまして、報告をいたしております。したがって、現在千六百程度の政治団体から報告がございますが、私どものほうといたしますれば、一応審査をした上で正しいものと判断をいたしております。  ただいま御質問になりました記事の引用にかかる問題につきましては、私どものほうの処置といたしましては、具体の事例について、官報にこのように寄付の記載があったけれども、私は政治資金規正法にいうところの寄付をしていない、これは何らかの間違いではないかというふうな申し出がございますれば、政治団体の会計責任者にその事情をただし、必要な訂正措置あるいはそれに準ずるような措置をとることになっております。ただ現在の段階においては、私どものほうにそういうふうな申し出もございませんし、必ずしも虚偽の記載というところまではいっていないというふうに実は考えております。以上のとおりです。
  42. 横山利秋

    横山委員 そうすると、このものに載っているぐらいでは私のほうは動きません。私のほうは、本人が届け出ているそうですけれども私は出しておりませんということをはっきり自分で名のってこなければ相手にしません、こうおっしゃるわけですね。
  43. 山本武

    ○山本説明員 ただいまの重ねての御質疑でございますが、端的に申し上げますればそのようになろうかと思います。したがって、こういうふうな問題につきましては、過去におきましても、たとえばある政治団体からこのような記載、届けをしたけれども、これは私のほうの事務上のミスでしたので訂正していただきたいというふうな申し出のございました経緯もございます。したがって、ただいま御質疑になっております文春の記事にあらわれました会社その他の団体というものが、私は政治資金規正法でいうところの寄付をしていない、ところが官報のこれを見ると寄付したようになっている、これは何かの間違いでないでしょうかというふうな申し出がございますれば、私どものほうで当該政治団体の会計責任者等に照会をいたす段取りになろうかと思います。
  44. 横山利秋

    横山委員 自分でしゃべっておっても、国民がこういう説明では納得しないことはあなたはおわかりになっているんでしょうね。越山会の報告がめちゃくちゃだ。めちゃくちゃの証拠をこの文芸春秋で十指に余る人たちが、名前をあげて、会社の名前もあがっているのですよ、あれは違いますと言っている。私のほうの名前を適当に利用したのでしょうと言っている。そこへ何だったらあなたのほうが行って、文芸春秋で言っていることはあなたのところは否定なさいますか肯定なさいますかといって調べるつもりはございませんとあなたは言っていられる。そうすると、結局その個々の会社が、あなたのところにあれば違いますよと言ってくるか、あるいは越山会が、届け出たことは間違っておりましたと言ってくるか、どちらかでなければいかぬわけですね。そうすると政治資金規正法のいうところの虚偽報告の罪は適用する場所がないですね。この五年以下の禁錮または十万円以下の罰金というものは、実際、法律としてはあっても何もそれが発動するときがありませんな。これはどう思いますか。  もう一ぺん聞きますが、いま国民がこれを読んで感ずることは、こんなあほうなめちゃくちゃな報告をされて、よくまあ自治省はそれで、ああそうですかといって、受け取っているね。しかしそれは調べなければわからぬからいたし方がないとしても、今回は、これとこれとは間違っています、公式に、しかも政治の焦点になっているほど、問題になるほど堂々と間違っていますよと言われておるのに、あなたが国会を通じ、本人が言ってこなければ私は受け付けませんということは国民にどういう印象を与えるでしょうね。それをあなたは問い、みずから答える気持ちにならなければ、だめですよ。あなたのいまの答弁で、本人ないしは越山会から報告がなければどうしようもございませんということで国民ほんとうに納得すると思いますか。この法律に基づく虚偽報告の罪というものはそれじゃ適用する場合がないじゃありませんか。どうなんです。
  45. 山本武

    ○山本説明員 重ねてのお尋ねでございますが、まずこの問題につきまして、現行の政治資金規正法の考え方に従いますと、これはそもそもの当初からでございますけれども、政党その他の政治団体というものはみずから律してみずからの会計帳簿が正しいものだというふうな宣誓書を添付し、それに基づく領収書等もあわせまして、記載が正しいものとして報告をいただいております。したがって、その考え方というものは、政府の権力と申しますか国家権力というものが、軽々に政党その他の政治団体の台所にいろいろと調査権を発動するというふうな仕組みにはなっておりません。これはやはり議会制民主主義が健全に発達するために、政党その他の政治団体の関係者がみずからそういうふうに律していくのだという精神になっているかと思います。  したがって、ただいまの御質問でございますが、文芸春秋という雑誌にそのように書かれておりますならば、それに基づいて直ちにそれが虚偽の疑いがあるとかあるいは虚偽だというふうな判断をいたすわけにはまいりません。したがって、先ほどもお答えいたしましたように、具体の事例についてそういうふうな御指摘がございますれば、政党その他の政治団体の会計責任者等に十分その内容等を問い合わせる段取りになろうかと思います。  なお、政治資金規正法二十四条の虚偽の記載かどうかということの判断は、私ども自治省当局の問題ではなく、これは司法当局の最終的な判断によることかとも思います。
  46. 横山利秋

    横山委員 それではもう時間がございませんから端的にお伺いしますが、そうしますと、まことに不満足きわまる御答弁ですけれども、あなたのほうとしては越山会なりここに記載されている政治団体に対して、こういうところにあなたのほうの統計はそうだと言うておりますが、どうなんですかといって照会も何にもしないというのですか、またしておらないというのですか。どうなんですか。
  47. 山本武

    ○山本説明員 先ほども答弁いたしましたように、私ども文芸春秋記事を見る限りにおいてば具体性に欠けておりますので、そういうふうな照会等は一切いたしておりません。
  48. 横山利秋

    横山委員 まことにおそれ入ったる御答弁でございます。あきれ果ててしまいました。  最後に法務省にお伺いをいたします。  今回の金脈問題で焦点の一つになっておりますのがいわゆる幽霊会社であります。きょうは民事局長いらっしゃいませんけれども、わが法務委員会はここ数年、商法の改正問題について多大の努力をしてまいりました。ようやく改正されました商法が施行をされる段階になったやさきに、この田中さんにまつわる幽霊会社が十指に余るという状況になってきておるわけであります。しかも、この幽霊会社がどうして、何のために設立をされるかということを考えてみますと、一つには租税回避行為、甲から乙、乙から丙、丙から丁というふうに、まん中の乙、丙が幽霊会社といたしますならば、架空経費をそこで計上する、あるいはころがすことによって売却価額を高める、そして利益をさらに取る、あるいはまたそれによって税務当局なりいろいろなところの調査ができないようにする。実体がないのだから調査に行ったってわかりはせぬという、調査拒否あるいは利益の隠匿というような傾向がこの幽霊会社の中に見えるわけなんであります。同時に、単にこれらの租税回避行為ばかりでなくして、おそらくこれらの幽霊会社は労働基準局に対する届け出もしていないでありましょう。厚生年金の掛け金もしていないでありましょう。失業保険も掛け金がしていないでありましょう。宅地建物取引業をやっておったようでありますが、これも届け出をしていないでありましょう。建設業法による届け出もしていないでありましょう。きょうは時間がございませんし、関係の役所の人も呼んでおりませんから言いませんけれども田中さんの関係いたしましたこの十指に余る会社のうちの過半数は、おそらく私がいま指摘しましたような状況だろうと思うのであります。  そういたしますと、商法によりますれば、不正の目的をもって会社を設立をしたということを考える以外に設立の目的がないのであります。なぜかかる幽霊会社が存在するか、なぜ幽霊会社をつくったほうがよろしいか。一にかかってそれは不正の目的をもって会社を設立をした。税金を、あるいはいろいろな各省への届け出を、あるいは役所調査を拒否するために、ころがすために会社を設立した、私はそういうふうに判断をせざるを得ないと思います。  それで、不正の目的をもって会社を設立するならば、これはもう商法にいうところの法務大臣の解散命令があり得るわけであります。今回この商法の改正によって休眠会社の整理が議論をされてきたわけでありますけれども、それよりももっと一番基本的な、不正の目的をもって会社を設立して、それによって今回の田中金脈問題の数々の問題が発生いたしました、一番の柱になっておるものがこの幽霊会社である。しかもその幽霊会社は、事もあろうに、目白の田中さんの私邸の、百万円のコイがうようよ泳いでおる、そこに幽霊会社が、建物もなく、電話もなく、従業員もなく、何もない、まさに幽霊の会社が目白の私邸の中に存在しておるということが事実公然と国民の中に議論がされておる。そしてそればもはや田中さんといえども否定することもできない。こういうことであるといたしますならば、一体法務省はいま何をすべきでありましょうか。この種の租税回避行為やあるいは宅建業法や不動産登記法や、いろいろ各省に関係いたします法律を幽霊会社はほとんど実行されていないということが事実といたしますならば、その届け出ていないことあるいは不正な行為をしたことによって、法律によってきまっております処分もまたおのずから明白なんであります。そういう点について一体法務省は、いわゆる田中金脈問題についてどういうお考えをお持ちでございますか、基本的なものの考え方を承りたいと思います。
  49. 安原美穂

    ○安原説明員 会社の設立が不法な目的に出ておるということに対する問題といたしましては、横山先生指摘のとおり、現在の商法におきましては会社の解散命令を法務大臣または利害関係人が請求するという制度があり、また最近の商法の改正におきまして、いわゆる幽霊であって実体の営業をやっていない体眠会社についてはこれを解散させるというような方途が講ぜられておるわけでございまして、それ以上の制度が必要であるかどうかは、所管の外でございますので私から答えるのは適当ではないと思いますが、さしあたり私の所管しております刑事関係の法律の解釈、運用という面から幽霊会社の問題にアプローチしてまいりますと、これは具体的な事例を引用してのお尋ねでございますが、一般論といたしまして、会社の設立の目的が不法であるということだけでは犯罪にはならないことは御案内のとおりでございまして、その設立の手続が法を順守して行なわれておる限りにおきましては、目的が不法であるということだけで犯罪にはならないのが現在の法律のたてまえでございます。しかしながら、さような不法な目的をもって会社を設立するという場合には、これまた御承知のことと思いますが、払い込みを仮装するというようなことが往々にして行なわれておりますし、かような場合には商法の預け合いの罪ということに相なるわけでございまして、さような事態におきましては登記申請事項につきまして虚偽の申請がなされておるということが散見される場合が多いでありましょうから、さような場合におきましては公正証書原本不実記載の罪あるいは同行使の罪というような犯罪が成立するということが、一般論としてはうかがえるのではないかと思います。
  50. 横山利秋

    横山委員 新任法務大臣がまだお見えになりませんから……
  51. 小平久雄

    ○小平委員長 いま見えました。
  52. 横山利秋

    横山委員 ちょうどいいところで、私の最後の質問だからちょっとすわってください。——何か大臣、ごあいさつがあったら先にやってもらって……
  53. 小平久雄

    ○小平委員長 質問の途中でありますが、この際、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。法務大臣濱野清吾君。
  54. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 私は、このたび法務大臣に就任し、法務行政を担当することになりました。内外の諸情勢が変動を続け困難な問題が山積しているこの時期にあたり、その職責の特に重大なることを痛感いたしている次第でございます。委員各位の御理解と御協力を賜わりまして、法務行政の運用に遺憾なきを期したいと存ずるのであり、どうぞよろしくお願いたします。  つきましては、この機会に法務行政に対する私の基本的な心がまえを申し上げたいと存じます。  法務行政に課せられた使命は、何にも増して、法秩序の維持と国民の権利の保全にあると考えております。国家、社会の平和と繁栄を確保し、国民の幸福を守るためには、その基盤ともいうべき法秩序がゆるぎなく維持され、国民の権利がよく保全されることがとりわけ肝要であると存じます。この観点から、より厳正公平な検察権の運用に努力を傾注することはもちろんでございますし、人権擁護の面においても遺憾なきを期し、登記事務その他の民事行政事務についても、その充実に努力したいと存じておる次第でございます。また裁判が適正迅速に行なわれ、国民司法に対する一そうの信頼を確立するよう十二分に配慮する所存でございます。そして、絶えず社会情勢の動向に注目し、法務行政の各分野において時代の要請に応じた適切なる制度の運用をはかる等、法秩序の維持と国民の権利保全のために万全を期したいと考えております。  以上、はなはだ簡単でございますが、私の心持ちの一端を申し上げ、委員の皆さまの御支援を切にお願い申し上げる次第でございます。
  55. 小平久雄

    ○小平委員長 それでは質疑を続けます。横山君。
  56. 横山利秋

    横山委員 同僚議員が待っておりますから、いまの大臣のごあいさつにつきまして、簡潔に、私の先ほどからやってまいりました質疑の締めくくりの質問をいたしたいと思います。  大臣、先ほどから私が各省に尋ねてまいりました第一は、田中角榮総理大臣とは違いますねということでございました。いま指弾をされております田中角榮は一納税者にすぎません。総理大臣だからその田中角榮納税者を適当にすることは許されません。断固として国税庁がその納税者たる田中角榮について自主的な調査をしてもらいたい。これについて応諾をされました。  それから第二番目は、国政調査権と守秘義務の例の問題であります。それにつきまして簡潔に言いますと、私が資料の提出を要求いたしましたところ、国税庁は拒否をいたしました。それで委員長にお願いして、次の理事会において相談をすることにいたしました。  そしていま大臣がお見えになります前に、法務省に次の点をただしておりました。それば、数年かかって、われわれがいまその実行段階に入った商法の一つの問題として、今回は田中さんの幽霊会社が問題となっておる。なぜ幽霊会社をつくるか。それは架空経費を計上するためであろう、あるいは役所調査を拒否するためであろう、あるいはころがしていくうちに価額をつり上げるためでもあろう等々、幽霊会社を設立するということは不正の目的をもって設立をしたものではないか。そしてまたその不正が行なわれたのではないか。あるいはまた、それらの幽霊会社はすべての法律、たとえば厚生年金法の法律の掛け金をしていないであろう、失業保険について加入していないであろう、労災に入っていないであろう、あるいは宅地建物取引業の届け出をしていないであろう、建設業法の届け出をしていないであろう等々、各法にすべてこれは違反しておるということを私は断言してもよろしい。そうだとするならば、この幽霊会社は商法による不正な目的をもって設立され、そして不正な行為を行なってきた会社であり、商法に基づいて法務大臣の解散命令が発動できる要因を備えている、こういうことになると言うたわけであります。それにつきましていま法務省側から具体的な答弁はありませんでしたけれども、法律的な解釈としての、こうなればこうなる、こうなればこうなるという答弁がありました。  そこで、私が法務大臣にお伺いしたい最後の焦点は、あなたのいまの大臣あいさつの中で「法秩序の維持」ということが二カ所に出ておる。同時に「厳正公平な」ということばが出ているわけであります。いま国民が持っておる、一国民である田中角榮氏に関するさまざまな疑惑が、総理大臣なるがゆえにあいまいにされ、総理大臣なるがゆえに適当に納税が行なわれるということがあっては断じて許されがたいことであります。今度の田中改造内閣は短命内閣といわれておる。そしてすぐにかわる内閣だといわれておる。そして法務大臣もその意味においてはすぐおかわりになるかもしれません。そういうことを言うてはたいへん失礼でありますが。この短命内閣の中における歴史的な役割りは、いろいろありますけれども一つは、田中角榮氏にまつわる疑惑法務大臣なり大蔵大臣なり所管大臣がどういうふうに処置をするかというところが、国民が最も関心を持つところだろうと思います。したがいまして、田中改造内閣の閣僚たる法務大臣がこの田中金脈問題についてどういう感想をお持ちになり、御自身の所管の問題についてどういうふうに措置なさるお覚悟があるか、それを承りたいと思います。
  57. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 横山さんの私に対する質疑のうち、公人としての総理大臣と個人としての田中角榮さんを区別さるべきことは当然だと思います。  さらに行政上の守秘義務と国会の調査権との問題、この問題はなかなか私どもしろうとではむずかしゅうございますから、これは専門家のそれぞれの機関からすでに御答弁があったかと思いますので、これで御了承を願いたいと思います。  一番大事な、幽霊会社などをつくった目的あるいはその行為、これがけしからぬじゃないかというようなことでございます。私は、はたしてそうだとするならば、これはまことに困ったことだ、こう考えております。結論といたしましては、簡潔に申し上げますが、ただいま皆さま方にごあいさつのうちでお願い申し上げましたとおり、法秩序を守るという筋は私は通したいと思います。これを通さなければ日本の法治国家は滅びます。このことは自分も思い切った努力をして、しかもそれが公正であるように、こういうふうに考えておりますから、どうぞ委員会の皆さま方も、専門家ではありませんがこの筋だけは通していきたい、こういう考えでございますから、御了承を願いたいと思います。
  58. 横山利秋

    横山委員 質問を終わります。
  59. 小平久雄

    ○小平委員長 稲葉誠一君。
  60. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 大臣、いまおいでになられて、きのうの晩大臣になられたばかりですからたいへんどうも質問しづらいので、たいへん失礼ですけれども、具体的なこととか専門的なこととか、そういうことについてはお聞きをいたしません。まあきわめて常識的なことですね。  いま横山さんが最後に聞かれたことで、大臣お答えにならなかったことがあるわけです。これは意識的にお答えにならなかったのかどうか、ちょっとわかりませんが、いま世間で、国民の中で非常に大きな問題となっておるいわゆる田中金脈問題、こういうことについて、大臣としては、国民が騒いでいるのはばかげたことだ、何であんなこと騒ぐのだろうというふうに思われるのか、いろいろ疑惑に思い、騒がれるのは、やはり国民立場からすれば無理はない、こういうふうに考えておられるのか、そこら辺のところをまずお答えを願っておきたい、こう思うのです。
  61. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 昨日の田中総理記者会見におきましても、その文章を見ますと、こういう疑いがあることはもちろん遺憾である、こういうことを述べられております。私も、はたして世間の疑惑のようなものがあるとすれば、これはまことに困ったことだと考えております。でありますから、これはわれわれも国民も全部同じ気持ちではないかと考えているわけであります。
  62. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 非常に簡潔なのはけっこうなんですけれども、あまり簡潔過ぎてよくわからなくなってしまうのですが、それじゃ、国民が非常に疑惑に思うというか、あなた方も困っておられる、その中で、かりに法務省の所管の、たとえば刑事事件になるようなことがあるとすれば、それについては法務省当局としては何ものにもとらわれないで、厳正公平、早急に問題の処理に当たるということは、これはもうあたりまえのことですけれども、そういうふうに承ってよろしいでしょうか。
  63. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 稲葉先生のお尋ねでございますけれども、もしそういうことの事実が鮮明になれば、当然これに対しまして検察庁の法の命ずるままの発動が行なわれるであろう、そういうふうに私ども考えております。しかし、それはいまの時点で明確を欠いておりますから、およそこれは想像でありますが、検察庁が発動するかどうかはまだわかっておりません。責任機関がこれを十分判断して、そして措置すべきものと考えております。
  64. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 通告をした質問に入りたい、こう思うのですが、私が元代議士の田中彰治さんのことについて質問をしたいという通告をしましたら、ある人が、ずいぶん古いことを取り上げるなということを言われたわけですね。だけれども、これはことしの十二月十八日ですか、東京地裁の刑事三部で判決の言い渡しがあることですから——大臣、いいですよ、専門的なことですから局長のほうに聞きますから——決して古いことではない。そのことの中にいろいろな問題が出てくるわけですが、問題は係属中の事件ですから、それについて国会が、委員会がどこまで一体関与というか、あれできるかということについていろいろな議論がありますので、私もそれは十分踏まえて、事実というか、明らかになったことを中心にお聞きをしていきたいというふうに思うわけです。  そこで、この人に対する恐喝事件というのは、昭和四十一年八月二十六日の起訴事実だけですか、あるいはほかにもあるのでしょうか。その概要を御説明を願いたいというふうに思うわけです。
  65. 安原美穂

    ○安原説明員 お尋ねの件でございますが、この田中彰治の恐喝事件といたしましては、いわゆる国際興業の小佐野社長に対する恐喝事件、ほかに……詳細は後刻調べましてお答えいたします。
  66. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 詳細なことはいいですよ。いいですというか、あとでけっこうですけれども……。  そこで、この恐喝事件で田中角榮という人が、というか、方がというか、裁判所からは証人として喚問を受けた事実がありますか。これは播本裁判長のときだというふうに聞いておるのですが、ございましょうか。
  67. 安原美穂

    ○安原説明員 証人として喚問を受けた事実があると聞いております。
  68. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 出席をしましたか、しませんでしたか。
  69. 安原美穂

    ○安原説明員 その喚問に応じて出席されてはいないというふうに聞いております。
  70. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 どういう事実に関連をして証人喚問を受けたのでしょうか。
  71. 安原美穂

    ○安原説明員 恐喝の被害者である小佐野賢治氏のいわゆる不動産の払い下げ等につきまして、田中角榮氏がいわゆる介在をしておるということについての田中彰治被告からの恐喝があったということで、田中角榮氏に関係があるということで証人の要求があったものと聞いております。
  72. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そうすると、それは単なる情状として証人喚問を受けたのでしょうか、あるいは罪体というか、犯罪の成否に関連をする証人として裁判所に採用になり、喚問を受けたのでございましょうか。
  73. 安原美穂

    ○安原説明員 罪体か情状かという区別よりも、公訴事実に指摘してございますように、小佐野賢治氏に対する田中彰治被告のいわゆる恐喝をする文言の中に田中角榮氏の名前が出ておるということでもって証人の請求があったわけでございますから、単なる情状ではございませんが、罪体そのもの、犯罪の成否にすぐからむかどうかということになりますと、成否に直接からむかどうかはまた別論ではないかというふうに思っております。
  74. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 それでは、四十一年八月二十六日の恐喝の起訴ですね、この公訴事実の概要をわかりやすく説明をしていただきたいと思います。
  75. 安原美穂

    ○安原説明員 では、御指摘の八月二十六日付の田中彰治に対する恐喝事件公訴事実の要旨を申し上げますと次のとおりでございます。  「被告人田中彰治は第四十六乃至第四十八国会において衆議院決算委員会の委員として国の収入支出、国有財産の受払等に関する議案、請願等を審査する職務を有していたものであるが、田中彰、菅谷恒進と共謀のうえ国際興業株式会社会長兼日本電建株式会社代表取締役小佐野賢治より手形割引を受けた約束手形計四通金額合計一億円の支払期日が切迫したのにいずれも決済不能の見透しとなり、小佐野に決済延期方を依頼するも承諾を得られなかったことから、小佐野がいわゆる旧虎ノ門公園跡国有地の払下を受けたことなどが参議院決算委員会において論議されていたのに乗じ、小佐野を右の問題及び同人が関与した一連の国有地払下等について不正があるとして脅迫し右手形の決済の延期を承諾さそうと企て、昭和四十年七月二十日過頃東京都中央区八重州六丁目三番地国際興業株式会社において小佐野に対し、「手形の書換を承知しろ、俺は決算委員だからやる気ならどんなことでも出来るのだ、俺の考え一つで虎ノ門払下問題を抑えることも出来るし、払下を取消さすことも出来る、俺の言うとおりにすれば損はないのだ」等申向け、更に同年七月二十七日頃同所において小佐野に対し、「旧虎ノ門公園跡はじめ新潟、池袋等の国有地の払下、日本電建株式会社が大阪府光明池の土地を日本住宅公団に売却したこと、八王子の土地の売買等にいずれも国際興業株式会社が関係して不正を働いており、これはすべてに田中角栄が関係していることが判明している、もし手形の書換に応じなければこれらの不正を公にする」旨申向けて脅迫して前記手形の書換を要求し、小佐野をして要求に応じなければ前記国有地払下問題等が衆議院決算委員会で採り上げられ払下契約の解除等不利な事態を招き、一方これが一般に公表され国際興業株式会社及び日本電建株式会社等の信用を傷つけ営業に支障を来たし、且つ自己及び自己の私淑する田中角栄の名誉信用を傷つけるに至る惧れあるものと困惑畏怖させ、よって同月二十九日頃から同年九月二十七日頃までの間、前後四回にわたり前記約束手形ほか五通の約束手形(金額合計二億四千万円)の返済期日を延期させ、もって財産上不法の利益を得た。」というのが公訴事実の要旨でございます。
  76. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 「田中角栄が関係していることが判明している」というふうにことばが出てきたから、起訴状にあるから田中角榮氏が証人として喚問をされたというのは、これは法律的な議論ではないですわね。そんな荒っぽい議論はありませんが、私の聞いているのは違うのですが、まず、では起訴前に田中角榮氏を検察庁は調べましたか。
  77. 安原美穂

    ○安原説明員 直接検察庁に出頭を求める前に上申書の提出を要求して、上申書が提出されていると聞いております。
  78. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 当時、検察庁の捜査の過程なりその後の中では、田中さんは大臣でなかったのじゃないのですか。それはまああれですがね。証人に喚問されたのは三度でしょう。三度喚問されて三度とも出てこないですね、播本裁判長のときに。事実はそうでしょう。違いますかね。出てこない理由はどういう理由ですか。
  79. 安原美穂

    ○安原説明員 御指摘のような証人申請があり、喚問があったわけでありまするが、当時田中角榮氏は公務多忙という理由で出席されなかったと聞いておりますし、その後裁判所におかれましてはこの証人の決定を取り消されたというふうに聞いております。
  80. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 証人決定が取り消しになったのは裁判長がかわってからでしょう、近藤さんが裁判長になってからなんでしょう。田中さんが総理大臣になられた、総理大臣になられた方を法廷へ証人として喚問することがいろんな意味で、まあいろんな判断がございますわね。それは見方、いろいろあると私も思うのですが、その前のときの一回目に喚問を受けた、これは自民党の幹事長のときでしょう。二回目に喚問を受けた、そのときもそうでしょう。三回目もそうでしょう。三回とも公務多忙といって——大蔵大臣をやっていたとか、それから何とかということならば公務多忙かもわからぬけれども、失礼な話かもしれませんが、自民党の幹事長をやっていて公務多忙だからといって、裁判所から証人の喚問を受けたのに出てこないなんてとんでもない話ですよ。そんなことは一体いいのかな。ぼくは法律にしろうとだからよくわかりませんが、日本の刑事訴訟法では、刑事事件で証人に喚問になっても忙しければ出ていかなくていいという規定が、これは何条でしたかな、どこかありますか。
  81. 安原美穂

    ○安原説明員 稲葉先生御案内のとおり、この証人の申請は弁護人の申請でございまして、検察官が罪体ないしは情状の立証のために要請したものでもございませんし、喚問に応じなかったことに正当の理由がなければ勾引というような強制手段もあるわけですが、すべてこれ裁判所なり弁護人の御判断でございますので、私にお聞きいただいてもちょっと無理ではないかと思っております。
  82. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 だから私の聞いているのは、出頭しなかったときは自民党の幹事長の時代でしょうということをまず聞いているのです。それはそうですよ。そんなのは調べたらわかりますからね。証人としての立証の事項というのは、いまあなたの言われたように、田中彰治の書いていることばの中に「田中角栄が関係している」ということじゃないでしょう。そんなことで証人申請するわけはありませんよ。そうじゃないですよ、これは。違う、違う、それは。初め手形の割引を田中角榮さんの口ききで小佐野のところへ行ってしたわけでしょう。これはもうはっきりしているでしょう。まずこの点どうですか。
  83. 安原美穂

    ○安原説明員 詳細にさようにこまかい点まで私報告を受けておりませんので、その点についてのお答えということになれば次回にお願いをいたしたい、かように考えております。
  84. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 証人に申請のあったのは手形の切りかえ、延期でしょう。延期がいわゆる二項の「利益」でしょう。恐喝の二項の「利益」になったということでこれはやっているわけでしょう。そこで問題は、田中さんが小佐野に電話をして、この手形の延期をしてやってくれということを頼んだんだ、その結果として小佐野のほうで承知をして手形の延期が行なわれたんだ、これが被告人側の主張でしょう。そうじゃないのですか。だから、この二人たちがいろいろなことを言ったかもわからぬけれども、そのことによって手形の延期が行なわれたのではなくて、田中さんが小佐野に電話して、待ってやってくれ、三月ほど延ばしてやってくれ、こういうことを言った結果、この返済期日の延期があったのだ、こういうのが被告人側の主張ではないのでしょうか。そのことのために非常に重要な証人として田中さんの証人申請がなされて、そして喚問が決定をされた、こういうことではないのでしょうか。
  85. 安原美穂

    ○安原説明員 たびたび恐縮でございますが、先ほど申し上げましたように、むしろ稲葉先生のほうが御承知で、私、こまかいことの報告を受けておりません。
  86. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 法務省としても、いま進行中の事件ですから、そして時期が時期だから、あなたのほうからあまり言うのは言いづらいかもわかりません。私は冒陳ももらいたかったのですが、いろいろな都合があるし、ことに刑事訴訟法の規定もあるから、進行中の事件の場合、被告人と訴訟関係人以外、記録の閲覧もできないという規定もありますからもらえなかったのですが、それはそれとして、被告人側では犯罪の性質に関係することだというふうな考え方ですね。そうなれば当然罪体が恐喝になるかならないのかの境目でしょう。それに出てこないということはぼくは実にけしからぬと思うのですよ。だから、いろいろなことに関係があるとかないとかいうことは、これは調べなければわからぬことで、そのことを軽々に言うべき筋合いのものではないから私は申し上げませんけれども、証人喚問を受けたって出ていかない。出ていけば、勘ぐれば、一番大事なところを聞かれてくるということもあって出なかったのかもわかりませんが、私ばこれは裁判に対して協力をしないという点でまことに遺憾だ、こういうふうに考えるわけです。  そこで検察庁としては、この起訴状にあることで、たとえば小佐野という人が関与した一連の国有地払い下げということについて、これについての不正があるというようなことでおどかしたとなっておりますけれども、この人がどういうふうな一連というか、国有地の払い下げをやったかということについては一応の調べはしたのですか。
  87. 安原美穂

    ○安原説明員 その点は冒頭陳述でも申し上げておるという報告を受けておりまして、いまのような払い下げがあったという事実は調べております。
  88. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 それからこの文言の中にいろいろ「旧虎ノ門公園跡はじめ新潟、池袋等の国有地の払下、日本電建株式会社が大阪府光明池の土地を日本住宅公団に売却したこと、八王子の土地の売買等にいずれも国際興業株式会社が関係して不正を働いており、」ということばがあったというふうに出ていますね。この「関係」ということばはいろいろ理解のしかたがあって、広く解釈したり狭く解釈したりで違うと思うのですが、一体こういう事実はあったというふうに見ているわけですか。
  89. 安原美穂

    ○安原説明員 いま御指摘のように、そのすべてに関係をしておる。たとえば大阪府の光明池土地売買問題につきましては、日本電建が東洋綿花、興亜建設株式会社に転売した上で住宅公団に光明池の土地を売るというような背後には小佐野氏が介在しておるというようなことを指摘して田中彰治被告が恐喝をしたというふうに、すべて関係がある問題が多いのでありますが、すべてのいわゆる恐喝の手段方法として用いた事柄の中に国際興業がすべて関係しているということではないようでございます。なおかつ、検察当局としては、その間に不正があったという認定のもとに起訴したということではございません。
  90. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 私が聞いておるのは、ここに書いてある恐喝の文言、これが、まず、不正を働いたかどうかは別として、関係したかしないかということで、関係もしていないのに関係したように言って、しかもその上に不正があったということを言えば、二段的に情状としてもきわめて悪くなってくるわけでしょう。だから検察当局としては起訴する前に、この国際興業というのがここにあげてある、いま私が言ったことに関係したかどうかということを調べたのか調べないのかと聞いているのですよ。不正のことじゃない。関係しているかしてないかを調べたのか、その結果としては関係していることになったのかならないのかと聞いているのです。
  91. 安原美穂

    ○安原説明員 担当官の報告によりますと、国際興業としてはすべてには関係していないが、小佐野個人としてはすべてに関係があるというふうな事実関係であったというふうに聞いております。
  92. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 その次に、「これらすべてに田中角栄が関係していることが判明している」というふうに恐喝の文句の中に出てくるわけですね。この「関係」ということばは、いま言ったようにまた応い意味にも狭い意味にも、いろいろな意味に解釈されるのですけれども、こういうことは、すべてかどうかは別として、田中角榮という人が関係しているというふうに検察庁は見たのか、あるいはそうではない、全部がこれはでたらめだ——でたらめというのは言ったことがでたらめという意味ですよ——というふうに見て起訴したのかどうかですよね。だって、その点がはっきりしなければ量刑も何も、科刑権も出てこないですよね。だから聞いているわけです。
  93. 安原美穂

    ○安原説明員 表現のむずかしい問題でございますが、たとえば大阪府の光明池の土地売買の問題という点につきましては、冒頭陳述におきまして検察当局としては、日本電建が昭和三十八年四月ごろ、大阪府光明池所在の土地約三十六万坪を日本住宅公団に売ることとしたが、日本電建は当時大蔵大臣の職にあった田中角榮氏が全株式を所有していた関係上、同社から直接公団に売却することは世間の誤解を招くおふれがあるので、まず日本電建から東洋棉花株式会社に転売し、また同社から興亜建設株式会社に転売した上、同公団に売却する形をとることとし、最終的には同年五月下旬興亜建設が同公団に約十四億円で売却したというような事実は事実として調べておるわけでありまして、そういう意味におきまして、田中角榮氏が承知しておられたかどうかは別といたしまして、田中角榮氏の関係しておられる日本電建が関係があったということは明確のようでございますが、たとえば新潟県の鳥屋野潟問題ということにつきましては、これも日本電建が昭和三十六年九月ごろ房総観光株式会社から新潟県鳥屋野潟地区の土地二十五万七千七百六十四坪を一億十二万八千円で買い受け、これを同三十八年十二月田中角榮氏が関係している新星企業株式会社に一億三千万円で売却したが、その土地は埋め立て予定地であって、埋め立てに関する補助金を国から約二百六十億円ぐらい支出させるよう田中角榮氏らが暗躍し、約十億円ぐらいの補助金を国から支出させたというような点については、それは単なるうわさであったという冒頭陳述になっておりますので、事実関係がある、しかしそれは田中角榮氏として、大蔵大臣として関係があるという部分もございますが、大蔵大臣として関係があるというのは単なるうわさであるというのもございまして、その点は一がいには申し上げられないということでございます。
  94. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 その冒頭陳述は一〇ページぐらいにわたるものだというふうに聞いているわけですが、検察庁が証拠に基づいて調べて書き上げたものだと思うのですね。これは単なる憶測とかなんとかで書いたものじゃありませんから、自信があるというか、しっかりしたものだ、こういうふうに私は思うのです。  そこで、これはあとでおはかり願いたいと思うのですけれども、その冒頭陳述を委員会に提出をしていただけないものかどうか、まずこのことを法務省当局に意見をお聞かせ願いたい、こういうふうに思うわけです。あるいは冒頭陳述をぴしっと出すとあれかもしらぬけれども、要旨という形でもあるいはいいかとも思いますが……。
  95. 安原美穂

    ○安原説明員 御案内のとおり、冒頭陳述は公判廷手続におきまして検事の陳述としてなされるものでございますので、その内容は訴訟記録となっておる関係もございますので、検察官の一存では、あるいは法務当局の一存では提出するというわけにはいかない、こういう意味において、裁判所の御了解があり、かつ当委員会において御決定があるということになれば提出すべきものと思います。
  96. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 これは公開の法廷でやられているわけですし、検察官があそこで朗読したわけですから、訴訟記録は訴訟関係人以外見られないわけですからあれですけれども、公開の法廷でやられていることですし、別にそうこだわることもないのじゃないか。ただ、これは法務省当局から進んで出すわけにはいかないですわね。あとで法務省当局が誤解を招いては困るかもわかりませんが、そのことをあとで理事会でまたお取り上げ願いたい、こう思うのです。  そこで、この起訴状にもありまするように、「困惑」をしたということが、三つのことが含まれているわけですね。「払下契約の解除等不利な事態を招き」というのが一つでしょう。それから「一般に公表され国際興業株式会社及び日本電建株式会社等の信用を傷つけ営業に支障を来たし」というのが二つ目ですね。三つ目が「自己及び自己の私淑する田中角栄の名誉信用を傷つけるに至る慣れある」、この三つでしょう、困惑は。このまん中のほうは私はわかりますよ。経済団体の国際興業なり日本電建が営業に支障を来たすというのはわかるのですが、前のほうの「払下契約の解除等不利な事態を招く」こんなことはちょっと考えられない、こう思うのです。が、それはそれとして、最後のほうの「自己及び自己の私淑する田中角栄の名誉信用を傷つけるに至る惧れある」、ちょっとこれはわからないのですが、言っていることは全然信憑性がないというか、信用のないことをかりに言っているんだとすれば、それは田中角榮さんの名誉信用を傷つけるに至ることなんか何にもないので、だから田中角榮さんの名誉信用を傷つけるに至るおそれがあるということが、これはどういうことから名誉信用が傷つけられるということなんでしょうかね。真実に近いことを発表されたからというのかな。どうなんですかな。ちょっとよくわからぬですがね。
  97. 安原美穂

    ○安原説明員 御案内のとおり、冷静に客観的に筋道を立ててものを考えた場合におきましては、稲葉先生のおっしゃるとおり、事実でなければ何もおそれることはないじゃないかということではございますけれども、少なくとも当該被害者となった小佐野氏としてはそのように畏怖したということでございますから、これは客観的な、平均的人間を基準にして畏怖を考えるかどうかという問題ではなく、当該人間が、恐喝をした者がそういう心情であり、受けた者がそういう心情であれば、それは事実として畏怖したんだということを告訴事実に摘示したというにすぎないものと思います。
  98. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 小佐野という人がそう簡単に畏怖する人かどうかということは、これは人によって違うんですが、それはそれとして、私はきょうの段階で言えることは、田中さんが自民党の幹事長としてのときであって、総理大臣になったときに証人喚問を受けたわけじゃありませんから、そしてそれが被告人側、弁護人側からすれば、罪体に関し犯罪の成否にもほんとうに関係があるということで証人喚問を受けていて、そうして忙しいからということで出ていかないという考え方、これは司法権というものに対して全くべつ視した考え方で、私は納得ができないということを思っているわけですよ。きょうの段階ではまあそれだけにしておくわけですが……。  そこで私はちょっとお聞きをいたしたいことは、別なことになるのですけれども、いま、私のところは宇都宮ですが、たとえば市会議員が副議長になりたいというようなことで金をやったりして、十二人ですか裁判になっているわけですね、刑法上の涜罪ですが。それから福島県でもそういうことがあるとか、あちこちでいろいろな話があるわけです。そこでどうもよくわかりませんのは、議員の地位というか、それから職務内容、職務権限ですね、それとの関連で、こういう場合は市会議員や県会議員だと思うのですが、一体どこにどういうふうに関連してひっかかって、ひっかかるということばは悪いですが、なってくるのかということを最初にお聞きをしておきたい、こう思うわけです。
  99. 安原美穂

    ○安原説明員 御指摘のように、地方議会の議長選挙をめぐる汚職事件というのがございまして、それによりますと、地方議会の議長選出に際しまして、事前に各党派の議長候補者が決定されるような場合におきまして、たとえば保守党の議員の候補者をきめるにあたって金銭の授受が行なわれたということが、結果的には議長の選出という議員の職務についてのいわゆる投票の依頼をも含めた金銭の授受であるということで、職務に関連する金銭の授受ということで涜職罪で起訴されておる事件があることは事実でございます。
  100. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 またあとに関連をして出てくると思うのですが、福井の地方裁判所で、県議会の副議長選挙で金品の授受が行なわれて、一審では無罪でしたよね。それから検事控訴があって、名古屋高裁金沢支部の第二部でこれは有罪ですね。それから上告をして棄却になったわけですが、棄却の最後は四十八年三月十六日に最高裁の第二小法廷、これが最後ですが、なぜ検察官としては検事控訴をして、そして有罪になったか。法律的な理由づけをお聞かせ願いたいというふうにいま思うわけです。
  101. 安原美穂

    ○安原説明員 御指摘のように第一審では無罪になりましたが、検事控訴をいたしました理由といたしましては、先ほどちょっと私が申し上げましたように、地方議会の議長選出に対する候補者選びのための金銭の授受であるというだけではなくて、それは議員の議長選出という職務に密接に関連する金銭の授受、つまり議長選出の投票の依頼の趣旨をも含めた金銭の授受であるから、涜職罪にいうところの職務に関連する不法な金銭の授受ということで犯罪になるという見解のもとに検事控訴が行なわれ、それが裁判所において認められた、かようなことになるわけであります。
  102. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そうすると通常の場合、内部で、だれを議長であれ副議長の候補者にするかということで金銭の授受が行なわれる、それは本会議場においての投票のときもその人に入れてほしいという意思を含んでおる、こういうふうに解釈するのが普通ではないでしょうかね。これはあなた、内部のあれだけだ、本会議場では別の人に入れてくれてもけっこうだよと言って金を渡す人はいないですよね。そんな人は考えられないので、それが検察官の控訴の大きな一つの理由でしょう。調書に任意性があるとかないとか、調書がはっきりしないところもあったのでその問題がある、こう思うのですけれども一般的にいうと、内部の予備行為というか、そういうふうなものの場合は本会議場における投票についても依頼をしている、こういうふうに解釈するのはあたりまえのことだ、きわめて自然なことだ、私はこういうふうに思うのですが、その点についてはどういうふうに理解をしたらよろしいのでしょうか。
  103. 安原美穂

    ○安原説明員 要するに、御専門の稲葉先生御案内のとおり、そういう金銭の授受が議員の職務に関するものかどうかということに抽象的にはなるわけでございまして、先ほど申し上げましたような福井県の場合あるいは東京都の都議会汚職事件というものにおきましては、都議会の汚職事件につきましては、裁判所は、そういう党派の候補者の選出依頼の中には、さらに職務行為としての議場における議長投票における依頼をも含んでおるのだというふうに解釈をし、福井の裁判所におきましては、当然には含むものではないけれども、本件の場合には含むものと認定すべきだということで犯罪になったわけでございまして、問題は、やはり事実問題として直接に職務に関係するかどうかということの事実判断の問題であると思います。
  104. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そうすると、県会や市会は別として、こんなことを聞くのはどうもみっともないことを聞くのでぼくもいやなんですが、総理大臣というか、内閣首班を本会議場で選ぶわけですね。そこで金のやりとりが行なわれたときには——金をやって、おれを総理大臣に選んでくれ、これは例が悪くて申しわけないのですけれども、こういうふうなことで本会議場で投票するということになると、それは一体どうなのですか。こんなことを聞くのはおかしいけどね。
  105. 安原美穂

    ○安原説明員 当該総裁候補が、内閣首班の指名の際において自分に投票してくれという趣旨で金銭が渡されれば明らかに贈収賄罪が成立するということでございます。
  106. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そんなことは聞かなくたってわかっているのだけれども、あたりまえですね。  そこで、それではいま福井県の県議会であったと同じように、前の段階で、前の段階というのは一週間前か十日前か一月前か二月前か半年前かわかりませんよ、わからないけれども、前の段階で、一つの党派なり何なりの中で、委員長というのか総裁というのか知らぬけれども、そういうのを選ぶ、通常の場合にはそれがそのままあれになるという場合に金銭の授受が行なわれた、こういう場合には一体どうなるのですか。なる場合とならない場合とあるのかな。どういうふうになっていますか。
  107. 安原美穂

    ○安原説明員 いま、総裁選挙にからんで金銭の授受が国会の議員になされた場合というふうに問題をしぼって考えた場合におきましては、それが国会議員の職務に関連して金銭の授受がなされたという認定をすることは、地方議会における議員の議長選挙の場合よりもさらにむずかしい問題があると思います。と申しますのは、まず地方議会の場合におきましては、議員が議長を選ぶという前提行為として議員が候補者を党内で選んで、そしてその議員が議員の職務として投票するわけですけれども、いわゆる総理、総裁の場合におきましては、まず総裁は即総理ではないということが一つと、もう一つは、総裁選挙というものに次ぐ投票というものは、それは議員としての活動であるか。地方議会の場合には議員としての活動であるという面を持っており、またその候補者は議長の候補者を選ぶのですが、片一方のほうは総裁を選ぶわけでありまして、総裁は憲法上も即総理ではないということになって違っておりますのと、もう一つは、党員が総裁を選ぶ行動というものは、それは議員としての行動、議員である人もございますけれども、御案内のとおり、たとえば自民党におかれましては代議員という制度がございまして、したがってそれを含めて考えますならば、それは議員である自民党員何がしの投票であって、議員そのものとしての職務の遂行ということあるいはそれに密接に関連するということではないと通常は考えるのが普通であろうと思いますので、地方議会の議長の選挙の場合と同じように贈収賄罪が成立するという判断ははなはだむずかしいのじゃないか、かように思います。
  108. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 はなはだむずかしいですね。それはいま言ったように議員でない人が投票権を持ちますね。確かにそうです。それから党員としての行動なのか議員としての行動なのかというと、非常にむずかしい点、確かにあるわけです。あるわけですけれども、議員ということで代議員となり、議員ということで投票権を持っておるわけです。あまり他党の内部のことを申し上げますのは恐縮ですから言いませんけれども。はなはだむずかしいけれども、県会の議長選挙なんかとは違うけれども、そういう場合にも刑法の涜職罪が適用される場合がないわけではないというふうにとれるんですよ、いまの答弁は。そういうわけでしょう。そうすると、現在の法制のたてまえの中でもそれが刑法上の涜職罪を構成する場合があると考えるんですか。よく、ゆっくり考えてください。あるんですか。一〇〇%いまの法制のもとではそういうことはないんだ、こういうんですかと聞いているわけです。
  109. 安原美穂

    ○安原説明員 原則論に戻りまして、要するに議員の職務というのは、本件の場合首班の指名に参加するということでございますから、首班の指名に参加することについてその投票の依頼をする趣旨でかりに金銭が渡されれば、これは涜職罪が成立するということでございます。そして、それがいわゆる与党の総裁の選挙ということになりますと、先ほど御理解いただきましたように、代議員というものが入りますとむしろ党員としての活動という色彩が強うございますので、一がいに職務に関連する金銭の授受ということに直ちには結びつかない。事実上認定上のむずかしい問題があって、原則としては成立しない場合が多いのではないかと思われるということを申し上げておるわけでございます。   〔委員長退席、羽田野委員長代理着席〕
  110. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 しかし、普通の場合は時期的にちょうど、半年前とか一年前だとかいうことだとまた違うかもわかりませんが、非常に時期的にも近接している、たとえば三日、四日前か一週間前かわかりませんけれども、非常に近接している、こういうふうな場合などは当然、総裁を選ぶときの金であると同時に、その意味は首班指名のときにも自分をやってくれということが含まれている、こういうふうに解釈するのが私はあたりまえだと思うのですが、そういうふうな理解のしかたもできるのではないでしょうか。非常に答えにくいところだと思うのですが、変な答えをしてあとでおこられたらかなわないからね、あなたのほうも。
  111. 安原美穂

    ○安原説明員 深い御理解を示していただいておりますように、私は、言ったことがおこられるからということではなくて、きわめてデリケ−トな具体的な問題でございますので、検察当局の判断を押しのけて、私が前もってそういうことについて成立する、しないということを明確に申し上げることは差し控えたいと思います。したがいまして、先ほどの一般論でございますが、職務に関連する金銭の授受であれば成立するということばを申し上げることによってごかんべんをいただきたい、かように思います。
  112. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そこら辺のことにしておきたいと思います。  そこで、さっき話がありました、横山さんが詳細に追及をされた守秘義務というようなことなんですが、所得税法二百四十三条に、「所得税に関する調査に関する事務に従事している者」こう書いておるわけですね。何だかややこしいことが書いてあるわけですが——法制局の人、いないですか。この中に一体大蔵大臣が入るのか。大蔵大臣所得税に関する調査に関する事務に従事しているのか。これはどういうふうになるのですか。磯辺さんのほうがいいかな。
  113. 磯辺律男

    磯辺説明員 これは先生、法律の専門家でございますので、むしろ先生のほうがお詳しいかと思いますが、非常にデリケ−トな問題がございまして、御承知のように、大蔵大臣というのは大蔵省設置法、それから組織令、組織規程、それによって大蔵省の事務を所掌管理することになっております。しからばその大蔵省の事務は何かといいますと、大蔵省設置法を見ますと、内国税の賦課徴収というのがございまして、その内国税の賦課徴収というのは、同法の規定によりまして国税庁がこれをつかさどるということになっておるわけでございます。そういったことから見ますと、きわめて広範な権限を大蔵大臣が持っておるわけでありまして、直接的に大蔵大臣みずから法人税の調査に関しまして質問調査権を行使するということは、これは事実上あり得ないかと思いますけれども、その質問権を行使し法人税の調査をするいわゆる税務職員というものは、国税庁の内部それから長官を通じまして大蔵大臣に結びついておるというふうに考えますと、きわめて広い意味におきまして——これは法律上どう読むかということは別といたしまして、きわめて広い意味においてはやはり法人税に従事する職員の中の一人であろうかと思います。しかしながら、法人税法及び所得税法の条文をストレートで当てはめてみますと、そこまで大蔵大臣を取り込むというのは無理ではないかというふうに考えております。
  114. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 国税庁に聞くのかあるいは内閣法制局に聞くのか、どっちでもいいのですけれども、立法の趣旨ですね、立法の趣旨というか、裏返しにすると、これによって守られる法益といいますか、それは一体どういうものが法益となっておるのかということですね。そこら辺のところがこの条文はどうもはっきりしないのですが、そこはどういうふうに考えたらいいでしょうか。
  115. 旦弘昌

    ○旦説明員 御質問のございました所得税法、法人税法の守秘義務の立法の趣旨でございますけれども、おっしゃいますように、税務職員といたしましては納税者等の財産上あるいは一身上の秘密を知り得る立場にあるわけでございまして、そのような税務職員がその職務の執行に際しまして知り得た秘密を他に漏らすというようなことがございますと、税務職員と納税者等との間の信頼関係をそこなう、そして納税者等の協力を得られないというような事態が発生するかと思います。そのようなことによりまして、適正、公正な課税ということができなくなるということで、そういう意味で公の利益をそこなうというおそれが生ずるわけでございます。そういう意味でこの守秘義務の規定を設けてあると理解しております。
  116. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 いまの話を聞いておりますと、徴税の一つの技術、と言うのはあれかもわかりませんが、便宜というが、行政といいますか、そういう方面からのみこの条文ができているように聞けるわけです。そうじゃないんじゃないですか。それもあるかもわからぬけれども、個人の人権ということも明らかにされちゃかなわぬというので、個人の人権を守るという趣旨も当然含まれておる、こういうふうに理解をするのが正しいのじゃないでしょうか。どうなんでしょうか。あるいは、それは特別法だから、普通法でそこはまかなえるのだというのかもわかりませんけれどもね。二つの面があるんじゃないですか。
  117. 旦弘昌

    ○旦説明員 おっしゃいますように、ただいま私が申し上げましたように、納税者などの一身上の秘密あるいは財産上の秘密というような個人の秘密を漏らす、それを守るという趣旨もございます。ただ、税法に掲げてありますこの規定の意味は、そのほかにあわせて、先ほど申し上げましたような意味があるということを申し上げた次第であります。
  118. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 これは国税庁のほうにお聞きしたほうがいいのでしょうか、この場合、御本人が、いや私のほうは明らかにしてくださってもけっこうですよ、こういうふうに言った場合には、この条文との関係でどういうふうになると理解すればよろしいでしょうか。
  119. 磯辺律男

    磯辺説明員 ただいま主税局のほうから御答弁いたしましたように、税務職員の守秘義務というのは、やはり一つには国家権力の行使によって知り得た個人の秘密、それから同時にその職にあることによって知り得た職務上の秘密、そういったいろいろな秘密というものを保護し、あわせて今後の自主申告納税制度の円滑な運営に資するために、あえて税務職員に対して守秘義務というものが課せられるというふうに私たちは了解をしておるわけでございますが、しからば、納税者個人が自分のことはもうしゃべっていいよ、公開していいよというふうに言われた場合、私どもとしてはそれをもって直ちに税務職員の守秘義務が解除になるものではないというふうに考えております。  その理由といたしましては、まず一つには、その個人が自分の秘密を話してもいいと言ったことであっても、やはりその個人のいろいろの経済生活であるとかあるいは生活環境であるとか、そういったことは単独の個人ではなくて、いろいろな、社会生活をしております以上、関連を持っておる。その個人的には解除してもいいけれども、それが第三者に対してどのような影響を及ぼすようになるかもわからない。したがって、私どもとしましては、その関連のある第三者も同様な意見であるかどうかということも、やはり私たちの守秘義務の中に取り込んで考えてしかるべきじゃないかということがございます。それからまた一つには、秘密を発表するその範囲、場所、方法等によって、後日当該個人との間に紛争を起こしかねないというふうな心配もございます。したがいまして、その個人が自分の秘密はもう解除していいというふうに言われましても、私たちはできるだけこれを慎重に考えていきたいというふうなのが基本的な原則であります。  しかし、さらにまた一歩進みまして、どうしてもそれば全然関係ないんだ、これは第三者にも取引先にも何も関係ない、自分個人の問題だといったような場合には、その秘密を漏らすことがわれわれの今後の税務行政の円滑な運営というものに支障がない限りにおいて、できるだけ慎重に発表していくということもあるべしというふうなのが私たちの基本的な考え方でございます。
  120. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 それから、あらゆるものはそうだと思うのですが、原則なりあるいは例外なり、一つの権利でも、たとえば公共の利益、こういうふうなことによって制限を受けるということはあたりまえのことですからね。ですからこの守秘義務、これは裏返しにしてみれば、徴税の秘密を漏らされない権利というか、あるいは個人の秘密を守る一つの権利というか、侵されない権利というか、見方はいろいろあると思うのですが、国政調査権の問題は前に出ましたからこれは別として、より大きな公共の福祉というかあるいは公共の利益というか、そういうふうなものとの関連においてこれを明らかにしてもいいとかどうとか、こういうふうな問題が起きてくると考えられるのではないでしょうか。お聞きしたいのはこういうことです。絶対のものじゃない。それと並列、それ以上のより大きな公共の福祉、公共の利益というものがあるとすれば、そのためにこれは制限を受けるということはやむを得ない、あたりまえのことだ、こういうふうに理解されると思うのですがね。どうでしょうか。
  121. 磯辺律男

    磯辺説明員 一般論として申し上げますと、ある事実を秘匿しておく、つまり秘密ということでございますけれども、ある事実を秘匿しておくことによって得る公益といいますか、それと、それを発表することによって得る公益といいますか、そういったものの比較勘案というのが絶えずいろいろな判断にはつきまとうものだと思います。したがいまして、絶対的な秘密というものの概念はなかなかきめにくい問題であって、絶えずそういった二つの公益というものを比較勘案して、やはり個々の事態に即応して判断すべきものだ、かように考えております。
  122. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 これはあらゆる権利、当然なことですね。だから比較考量してみて、そして甲というのと乙というのと両方の権利がある、あるいは義務というかがあって、乙のほうのそれが国民的な視野から見てより大きいということになれば、その甲のほうのものが制限を受ける、これはあたりまえの話だ。こんなことを聞くのはおかしいくらいなあたりまえの話なんで、その場合の乙に一つの国政調査権というものが当たる場合が考えられる、こういうことになるわけでしょう、筋から言うと。そこはどうでしょうか。
  123. 磯辺律男

    磯辺説明員 そのとおりだと思います。
  124. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そこで、書物などを見てみますと、いまの二百四十三条と、二百三十三条の「申告書の公示」ですか、これとが矛盾をするのだというようなことをよく言う人があるわけですね。一方において守秘して、一方において明らかにしておるじゃないか、これは矛盾するんじゃないかと言う人があるのですが、私はこれはちょっと立法の趣旨が違うからそうストレートに理解しないのですが、この点は一体どういうふうに理解したらよろしいのですか。
  125. 旦弘昌

    ○旦説明員 いまおっしゃいましたのは所得税、法人税の公示制度の問題かと存じますが、所得税で申し上げますと、所得金額が一千万円超の場合には住所、氏名、所得の合計額を公示するということになっておるのは御承知のとおりでございます。一見いたしますと、先ほど申し上げました守秘義務と反するではないかというようなことも言われることもあり得るわけでございますが、この公示制度の趣旨と申しますものは、かなり高額の所得を得ている人につきましてはその所得を公示することによりまして、その納税者申告に対する、誠実な申告をしようという機運を醸成する、あるいはその所得を知りまして、おかしいではないかという人がありましたときにその批判を受けるというような制度を設けることが申告制度を発展させるために有益ではないかという趣旨で設けたものでございます。したがいまして、先ほどの守秘義務におきまして御説明いたしましたように、守秘義務を設けることによりまして申告制度の健全な発達をもたらすというねらいとこの公示制度を設けた趣旨とは、その点で矛盾をすることがないと考えております。
  126. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 この点についてはいろいろ議論がある、私はこういうふうに思うのですが、大体の話というのは、守秘義務についてはいままでの答弁で私はわかった、こういうふうに思うので、それをいまここであなた方に要求というか、何かしたところであまり効果はない。効果がないというと語弊がありますが、私はそう考えるわけです。いずれにいたしましても、この問題きょう私が質問したような問題全体を通じて、きょうは閉会中の審査ですし、今後いろいろな資料なり何なりを集める、そして事実を事実として究明するというか、こういうふうな形の中で、今後国民の要望に沿って問題の解決というか、そういうふうなものに資していきたいと、こういうふうに考えまして、きょうの質問はこの程度で終わりとさせていただきます。
  127. 羽田野忠文

    羽田野委員長代理 ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  128. 羽田野忠文

    羽田野委員長代理 速記を始めて。  正森成二君。
  129. 正森成二

    ○正森委員 わが国の憲法では二十一条に「集會、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と、こう書いてあります。これは議会制民主主義のたてまえからいいましても、また基本的人権の観点からいいましてもきわめて重要な規定であって、いやしくも国政の責めを負う者としては最大限に尊重しなければならない、こう思いますが、その点について国務大臣としての小坂さんに御所見を承りたいと思います。
  130. 小坂徳三郎

    ○小坂国務大臣 お答え申し上げます。  ただいまの憲法の条項、まことに私らはそのとおり守っていかなければならないというふうに考えております。また、行政面におきましてもその点につきましては常に十分留意して、間違うことのないように努力していきたいと考えておるつもりでございます。
  131. 正森成二

    ○正森委員 そこで伺いたいんですが、安原刑事局長に伺いますが、現在の刑法は二百三十条以下で「名誉ニ対スル罪」というのを定めております。今回、法制審議会で改正刑法草案というのができました。それを見ますと、幾つかの点で現行刑法と異なる点が見受けられます。よくいわれておりますように、公訴提起前の犯罪行為についての「みなし規定」が削除されておるという規定とか、あるいは現行法では「公務員又ハ公選ニ依ル公務員ノ候補者ニ関スル事実」は、これはいろいろ言われましても、「事実ノ真否ヲ判断シ真実ナルコトノ証明アリタルトキハ之ヲ罰セス」こうなっていたことは御承知のとおりであります。ところが、今回のいわゆる改正案によりますと、公務員の場合については、「但し、その事実がもっぱら私事に関するものであるときは、この限りでない。」というようになっておりまして、これが新聞関係者あるいは日本弁護士連合会から、表現の自由、出版の自由、そういうものを侵害するものではないかという御批判があることは御承知のとおりであります。それについて、法務省の刑事局としてはそのようなことはないというように御弁解なさっておるようでありますが、そのとおりですか。
  132. 安原美穂

    ○安原説明員 先ほど小坂長官お答えのとおり、われわれといたしましては、言論、出版の自由というのは最大限尊重しなければならないというたてまえでおりまして、まだ政府案ではございませんけれども、法制審議会における審議の過程におきましてもそれを尊重しながらあのような規定の答申かなされたわけてございまして——その理由を申し上げましょうか。(正森委員「簡単でけっこうです」と呼ぶ)  まず、公訴提起前の犯罪事実に関する報道は「公共ノ利害ニ関スル事実ト看做ス」という規定が削除されましたのは、決して犯罪に関する報道に対して一つの制圧を加えようというような意図では毛頭ないというよしでございまして、要するにちゃんとした新聞あるいは雑誌というものであれば、ああいう「みなし規定」を置かなくとも、その報道というものは裁判所によって公共の利害に関する事実と見られることは当然のことであるから、特にああいう規定は置かなくてもいいという、いわば理論的な帰結からきたああいう削除であったというふうに聞いております。  もう一つの、「もっぱら私事に関するものであるときは、この限りでない。」という規定も、それは、私事にもっぱらわたるという判断は非常に限定して解釈すべきであって、およそその私事にわたるとも、それが公務員の適性とか品格とか能力とかいうものにからまるような私事であれば、それはもっぱら私事にかかることではないわけで、あるいはもっぱら興味本位に、公務員の適格性とか能力と関係のないようなことを書いた場合、いわゆる判例でいいますところの、ある議員の片手落ちということを、あの議論は片手落ちであると片手のない議員について書いたということについて、これはいわゆる公務員の適性とか能力と関係のない私事であるからそればいけません。それは批判の自由の、言論の自由の庇護を受ける範囲には属さないということで、ああいう判例もあるので、判例を受けて法制審議会があの規定を削除したというふうに聞いておりまして、言論、出版の自由というものを尊重すべきたてまえはごうも変わりはないというふうに聞いております。   〔羽田野委員長代理退席、委員長着席〕
  133. 正森成二

    ○正森委員 いまの御答弁では、「もっぱら私事に関する」というのは非常に限定的に解釈するのだというように言われております。  そこでお伺いしますが、「刑法改正をどう考えるか——法制審議会の改正刑法草案とこれに対する批判をめくって——」こういうタイトルで法務省刑事局、まさに安原さんが所管しておられる役所でこういう解説書を出しておられます。この解説書に書かれておられることは、もちろん法務省の刑事局の相談された上での一応の考えであるというように理解いたしますが、間違いございませんか。
  134. 安原美穂

    ○安原説明員 私が申し上げましたように、それは政府案ができておらない段階でございますので、法務省刑事局が政府案をPRするというためにつくったものでないことは十分御理解いただけると思いますが、少なくとも法制審議会の事務当局をやっておりました法務省刑事局といたしまして、法制審議会においてかような答申がなされた理由はどういうところにあったかということを、事務当局として理解した範囲におきまして正確を旨として書いたものでございまして、目的は、そのはしがきにもございますように、俗に言えば、あらぬ誤解、曲解があることを正して、正しい御理解の上において正しい御批判をいただいて、それを受け入れて政府案をつくりたいという真意に基づくものでございまして、もちろん私はそれに目を通しております。
  135. 正森成二

    ○正森委員 あらぬ誤解を避けるために見解を述べられたということでございますので、刑事局長に対して非常に失礼ですが、名誉棄損に関連する部分についてお述べになったこと、ここに書かれていること、それはいまなお維持されておると思いますけれども、念のために、ほんの数行でございますので、お渡しいたしますので目を通していただいて、一応お読み上げ願いたいと思います。このカッコの部分をお読みください
  136. 安原美穂

    ○安原説明員 お申しつけでございますので読まさせていただきます。  「これに対しては、政治家や役人がめかけをもつなど、その私生活に著しい不品行があっても、一切これを非難することはできなくなるという批判が出ています。しかし、草案は、今の刑法について最高裁判所がとっている考え方と同様に、「もっぱら」私事に関する事実についてのみ真実であることの証明を許さないこととしているにすぎません。たとえ公務員の私生活上の事実であっても、それが公務員の仕事のやり方とか適格性に関係する事柄、たとえば、公務員としての能力、識見、品性などに影響する事実である場合には、「もっぱら」私事に関する事実とはいえません。そして、政治家や役人がめかけをもつなど、その私生活に著しい不品行があるという事実は、公務員としての品性をけがし、その適格性を疑わせる事柄ですから、それが真実である限り、そのことを指摘して政治家や役人を非難しても、処罰の対象となることにはなりません。」
  137. 正森成二

    ○正森委員 非常に失礼でしたけれども、読んでいただきましたが、そう上ますと、法務省の刑事局のお考えとしては、これは公務員の私生活の事実であっても、仕事のやり方や適格性に関する事柄であるとか、あるいはまた政治家や役人がめかけを持つなど、その私生活に著しい不品行があるという事実は、公務員としての品性を汚し、その適格性を疑わせる事柄であるから、それが真実である限り、そのことを指摘して政治家や役人を非難しても処罰の対象となることばありません、こういう御見解を発表されたのですが、解説のためとはいえ、いまでもその見解を維持しておられますね。
  138. 安原美穂

    ○安原説明員 先ほど申し上げましたように、法制審議会の多数意見がそのような解釈のもとにそういう規定を設けたということでございまして、そのように法務省事務当局としては理解しております。
  139. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は伺いたいと思うのですが、御承知のように、文芸春秋が十一月の特別号で「田中角栄研究−その金脈と人脈」というのを発表したことは御承知のとおりであります。これは二つの論文からなっておりまして、最初のは「田中角栄研究−その金脈と人脈」であります。二つ目のは「淋しき越山会の女王〈もう一つ田中角栄論〉」ということになっております。両方とも非常に興味深い論文でありますが、あとのほうの「淋しき越山会の女王」というのを熟読玩味してみますと、非常に微妙な表現になっております。  ここで私は一々それを全部言うというわけにはまいりませんけれども、その問題を見ておりますと、大体その「淋しき越山会の女王」と、こうなっております佐藤昭さんというのは、結婚三年目に、これは二へん目の結婚のようでありますが、突然田中角榮氏の秘書に迎えられて、佐藤ママとこのごろいわれておるようですが、そのスタートになる。そうすると彼女の金回りがにわかによくなって、田中さんが郵政大臣になった三十二年には大井町の別の場所に自分名義の土地と家を買う。結婚八年目に離婚したが、田中さんの秘書役に専念している間に、田中角榮氏が大蔵大臣に就任したりすると、きまってうちを買いかえたり、別荘を手に入れたりする。いまは東京赤坂に豪壮な邸宅をかまえ、さらに道を隔てたすぐ向かい側に約百坪の土地を持っておる。そして正式の届け出によっても二十億円からの政治献金を集める越山会等の金庫番として絶大な権力を握っているという意味のことが書かれているわけですね。  これをずっと見ておりますと、非常に興味深い女性であります。そしてこの女性が金庫を握っておられるようですが、これは本名を書いておられないのですが、わが国の国政に非常に影響されるような行為に関与し、あるいはタッチしておられるようであります。たとえばこういう描写がある。両方とも匿名でありますが、「しばらくして、花岡は砂防会館に呼ばれ、例の廊下の二枚めの扉の内側に入った。佐藤ママの机の脇の応接セットで待っていると、奥に通じる褐色のドアが開き、これもアンチ田中派のはずの金野足根候補」これは匿名でありますが、「金野足根候補が頬を紅潮させて出て来、彼は紫色の風呂敷包みをしっかりと抱いていた。やがて花岡は、佐藤から「花岡さん、どうぞ」と呼ばれて内側に入る。部屋には総理とママの二人だけがいた。そして激励のことばと共に“紫の風呂敷包み”を渡された——。」この中には金が入っているわけでありますが、「いざ、自由社会を守りなん、」こういう描写になっておるわけであります。そして田中角榮氏が別のところで「財布は、身内の人間に握らせるに限る」というように言われた。「身内は、血縁であったり、地縁であったり、もっと異る次元を意味する場合もあるだろう。」もっと異なる次元というのが何のことか、私にはよくわからぬわけですが、別のところでは、田中角榮氏の郷里の「柏崎の旦那衆は、代々「かみさんに財布を預ければ安心だ」」というように思っているということが描写されているわけであります。  そうしますと、この女性はいろいろ微妙な立場におられるようでありますけれども、少なくともこういう記事は、安原さんに伺いたいのですが、あなたのほうの解説書では、めかけであるとかないとかいう事実を言うだけでも、それは公務員の品性、適格性に関することだから、当然、事実であれば名誉棄損にならないと、こうなっておるんですね。そうすると、この記事などはそういう指摘はないわけです。なくて、国政に非常に関与することにタッチしているということが書かれているとすれば、当然これは何ら刑事上の犯罪を構成するものでもないし、出版、表現の自由ということで、国民の権利としてあるいは出版社の権利として守られなければならない範疇に属する言論であるというように私は思いますが、いかがですか。
  140. 安原美穂

    ○安原説明員 具体的な問題でございますからできるだけ答弁を差し控えたいと思いますが、いまお読みつけのようなことで名誉の棄損があったのかということ自体も問題があろうと思いますし、この場における私の即断でございますけれども、名誉棄損というようなことにはならないものと思います。
  141. 正森成二

    ○正森委員 安原刑事局長の側から、当然のことながらそういう答弁がありました。ところが非常に遺憾なことに、この記事を何とか出させないようにするために、田中内閣の現職閣僚やあるいは有力者が動いたということが一つ一つ指摘をされております。  まず第一に、文芸春秋の中で児玉記者自身が一番最後のところで書いておるのですね。「取材の後半から原橋執筆の間に、「おやめになった方が身のためです」という、重苦しい一方的な“助言”が再三ならず、あった。」助言の主には、現職閣僚が、おったり政治評論家がおったり代議士がおったということが書かれておるのですね。私は、この現職閣僚というのはどなたであろうというように興味深く思っておりましたら、週刊新潮の十月十七日号に「ついに記事差止め出来なかった『田中角栄研究』に書かれた「衝撃」の章」こういう見出しで、そのいわゆる文芸春秋に対する圧力なるものの内容が書かれているわけであります。私はこれを見ますと、その中で、非常に申しわけないことながら、こういうことを法務委員会で申すのは遺憾でありますが、小坂徳三郎長官のお名前が出てくるわけであります。  私はその点について小坂長官に御意見を承りたいと思うのですが、ここで書かれておりますことは、児玉氏が九月の初めに、佐藤昭さんについて取材するために戸川猪佐武という政治評論家に会った。そうすると、返事は「知らない」の一点張りで、「そんなことはあまり書かないほうがいい」とたしなめられたんだが、その日、児玉記者が文芸春秋の編集部に帰るとすぐ、戸川氏から田中編集長に「会いたい」という申し入れがあった。そこで数日後にしぶしぶ戸川さんの事務所、赤坂のホテル・ニュージャパンに行くと、「実は二階堂官房長官を待たせてある」こう告げられたので、「そんな約束はしていない」と言ったけれども、二階堂長官と会うことは会った。  私が調査したところによりますと、田中編集長は何となくいやな予感がしたので、約束の時間よりも一時間半近くおくれて行ったそうであります。そうすると、二階堂官房長官は閣議があるということで、実際に会った時間は十数分ぐらいに短くなってしまったそうでありますが、その中で、さすがは二階堂官房長官で、直接この文芸春秋のことについては触れずに、いや赤軍のハーグ事件がどうこうとか、原子力船「むつ」の話をされて、それでまあ腹芸で帰られた、こういうことであります。  しかし、二階堂官房長官ともあろう方が、お忙しい中、閣議がもう十五分ぐらいに迫っておるのに文芸春秋の編集長を待っておって、意味もない話をされてお帰りになるということだけでも非常に奇異な感がするわけですが、そのあとでさらに川島官房副長官と小坂総務長官が記者の幹部のところへお出かけになった。特に小坂総務長官はその文春の社長さんのところへ行かれて、そして田中編集長がおられなかったので、社長に小坂徳三郎名義の名刺を残されて、「S女史のことよろしくお願いします」——S女史というのは佐藤昭さんのイニシアルでありますが、そういう名刺を置いて帰られたのだということが書いてあるのですね。そういたしますと、現職の閣僚が「S女史のことよろしくお願いします」ということで、執筆者の自由な表明あるいは出版社の自主的な、掲載するかどうかいうのの判断に対して一定のプレッシャーをかけようとしておられるというように理解されてもやむを得ないと思うのですね、非常に遺憾なことながら。  そこで、少し長くなりましたけれども、小坂長官がおられますので、誤りなら誤り、事実それに近いことはあったけれどもその趣旨は全然違うというような御意見を承りたいと思います。
  142. 小坂徳三郎

    ○小坂国務大臣 お答え申し上げます。  実は私も週刊新潮にあのような記事が出されたことを非常に遺憾に思っておりまして、ただいま御質問いただきましたことで、私自身が文春に参ったこと等につきまして率直に真実を申し上げたいと思うわけでございます。  私は総務長官といたしましては、いろいろと各報道機関の首脳部とおりに触れて、世間のことやあるいは政治の問題だとか民心の動向等についてよくだべりに行っております。たまたま文芸春秋はなくなられた池島信平さん以来非常にお近しく願っておるので、十月の何日ですか、日は忘れましたが沢村社長に会いに参りました。それで話題はもちろん特に物価の問題であるとかあるいはまた最近の世の中の動向、それから政治不信の問題、いろいろとお話し合いをしておったんですが、そのときたまたま、近く発表をうわさされておる田中首相のことが話題に先方から出たわけでございます。沢村さんは、「これはうわさですがね」と、こういうようなお話で、「まだはっきりとした態度をきめてはいないけれども、きょう」、その日だったと思いますが、「役員会で話題が出ました」というようなことであったわけです。私はその問題は別に目的ではなかったんですが、たまたま「政治家のいろいろなこうした一般的な報道は、最近は特に週刊誌等では個人的な私生活が中心になっておって、あまり直接的な関係のない家族の名前とか、それがどうしているというようなことが非常に多いんですね」と、こういうことを私は言ったわけです。それ以外のことは私は言った記憶はございませんが、ともかくプライバシーというものについてずいぶんいろいろと深くやりますねと言ったわけであります。沢村社長は、「自分もそのプライバシーをとことん洗いあげるということはジャーナリズムとしては邪道だと思っておるんですよ」ということでございまして、沢村社長は、「もちろん文春というものの権威もあることなんで、自分でよく原稿を見ますよ。そしてそれを読んだ結果で態度をきめます」これだけのお話であったんで、私はそれ以外のことを沢村さんとお話した記憶はないし、また沢村さんとのお話はそれで、「ああそうですか」ということでお別れしたわけです。  それで帰りぎわに、「実は編集長がやはり責任者だからね」と、こういうお話なんですが、私はそれとは別にその数日前に田中編集長と会って、ほかの会合でお目にかかっているんです。これはたいへん無理して来てくだすったので、「ちょっと表敬したいが、沢村さんどうでしょうか」と、ちょっと伺いましたら、「いやどうぞ」こう言うので、在、不在を尋ねましたら御不在だというので、私は名刺を置いて帰ったわけです。そのことがいま委員のおっしゃいましたような、名刺を置いてきたというのはそんないきさつでございまして、特に私は、事件と申しますか、事柄の直接関係のない家族のその状態について非常に突っ込む最近のやり方については、個人として、言論の自由とか、そういった問題を離れまして、あまり感心したことではないというような気持ちであったわけであります。  大体以上が沢村社長とお目にかかったときの話の全部でございます。御了解いただきたいと思います。
  143. 正森成二

    ○正森委員 いま小坂長官のほうからごらんになったいきさつをお述べいただいたわけです。  ただ、そこで私もう少し伺いたいのですけれども、私も、たとえ公職にある公務員あるいは政治家にしましても、何ら関係がないのに家族のことをどうこう、妻が美人であるとか美人でないとか、鼻が高いとか低いとかいうようなことだけを興味本位に書かれるということは感心はいたしません。しかし佐藤昭氏のことは、これはもちろん田中角榮氏の家族ではございませんし、それから書かれておりますことを拝見した限りでは、やはり越山会等の会計責任者ということでの、それなりのふしぎな権力ということが書かれてあるわけですね。ところが長官のお話では、御不在だったので、それじゃ名刺を置いてきただけだと言われますが、その名刺には「S女史のことよろしくお願いします」と書いてあった、ここが問題であります。もし、たまたま別の会合でも会っておられたので、小坂が来たということだけ名刺を渡しておくというのと、その名刺に「S女史のことよろしくお願いします」と書いてあるのでは、これは相当な違いがあると思うんですね。そこで、そういうことをお書きになったのかどうか、書かれたとすればどういう趣旨であったのか、伺いたいと思います。
  144. 小坂徳三郎

    ○小坂国務大臣 先ほども申し上げましたように、家族のこと、お察しをいただきたいと思うのです。そのことでございます。
  145. 正森成二

    ○正森委員 名刺のほうはどうですか。
  146. 小坂徳三郎

    ○小坂国務大臣 名刺は、S女史の家族のことです。どうかその辺は……。
  147. 正森成二

    ○正森委員 名刺に、非常に微妙ないまお答えでございますが、「S女史のことよろしくお願いします」ということをお書きになったようにも聞こえる発言でございました。また、S女史の家族のことでございますという意味もわからぬではございません。私はそのことはそれ以上申しません。  しかし、それだけでなしに、小坂長官には非常に失礼なことかもしれませんが、私が調査した範囲内ではそれだけにとどまらないことを小坂長官が言われたということになっているんですね。それは週刊新潮に載っておりませんが、小坂長官が沢村社長に、「田中は何をやるかわからぬ男だ、気をつけたほうがいいよ」こういうぐあいにおっしゃって、それでお帰りぎわに名刺をお渡しになったということが、間違っておるかもしれませんが、私の調査でございます。また文芸春秋のほうへも関係者から電話で問い合わせたり、いろいろ独自にやっておりますが、まず間違いのない調査だと思うんですね。そうしますと、この文春の記事が「淋しき越山会の女王」の佐藤昭さんの家族だけに関することであれば別でありますけれども、それ以外のことは一ぱいありますし、特に田中角榮氏の金脈と人脈というのは、ほとんど大部分公人としての田中総理の資質に関係することでありますから、それをひっくるめて「田中は何をやるかわからぬ男だ、気をつけたほうがいいよ」と言われたとすれば、これは受けるほうにとっては非常に圧力になると思うんですね。関係者から私が調査したのではそういうことになっておりますが、そういう事実はございますか。
  148. 小坂徳三郎

    ○小坂国務大臣 私はその沢村社長と会いましたときに、どういう内容のことをしようとしているか一向に聞かなかったから存じないのです。それで、もちろん金脈と称するほうのことば文春が出てから初めて知ったわけです。またその当時のうわさは、いろいろなジャーナリズムの人たちがそういうことがありそうだということを言っておったのを聞いた程度でありますから、それで私はもっと純粋な形で、特に家族のことについて注意してほしいということを言ったことは事実であります。先ほど申し上げたとおりでございます。  それからもう一つは、そのようなおどかしを私が言ったという事実は全くございません。私は、なぜ私の意見を確かめもせずにそんなことが言われておるのか非常に疑問でございますが、問題は、そのようなことを言った記憶は全くございませんし、天下の文芸春秋に対しましてそんなことを言うような非常識なものではないと私は思います。
  149. 正森成二

    ○正森委員 田中は何をやるかわからぬ男だというようなことは、与党、野党を問わず大いに言っておることでありまして、特にきのうきょうのことについては、私、自民党の議員さん、何人かお会いしましたが、多くの方が言っておられることであります。ですから、実際に何をするかわからぬという政局になってきたわけですから、それを政局に関連しておっしゃる分には私は一向差しつかえがない。しかし、出版に関連して、当の出版社へ行って、私が調査して確かめたように、沢村社長に対してこういうことが言われているとすれば、これは私人であってもゆゆしいことであるのに、公人としての現職閣僚としてそういうことがあったとすれば非常に遺憾なことだと、こう思うのですね。  総理府総務長官に再度お伺いしますが、そういうことはなかった、もし自分が何かお願いしたいということであれば、佐藤昭さんの家族に関係することだけの趣旨だったんだと、こういうようにおっしゃることができますかどうか、再度お伺いします。
  150. 小坂徳三郎

    ○小坂国務大臣 私がそのときに、個人的な、個別的な問題として言ったのではございませんが、特に、先ほど申し上げたように、一般的な風潮として関係のない家族まで巻き込んでやるということについて特に配慮してくれということは申しました。また、いま文春社からお聞きになったというような、おどかし的な文句を私は全く言ったことばございません。この点、はっきりと否定させていただきます。
  151. 正森成二

    ○正森委員 私ども調査したところではそういうようになっておりますし、それは非常に確度の高い調査でございますから、なお釈然としない点はございますが、長官としてはそういうように御釈明になっておりますので、そう伺っておきたいと思います。  私は念のためにここで付言しておきますが、家族のことについて聞くということは、あるいは発表するということは、その家族について非常に迷惑になり、その人の人権上の問題を生ずる場合もあります。しかし、それが政治家一定の関係があり、私がわざわざ安原刑事局長に読んでいただきましたように、政治家のいろいろな行為との関連の中で出てきた問題であるとすれば、その政治家についてはある場合には世間からいろいろ指弾されるということがあってもやむを得ない場合はあり得ると思うのですね。しかし、きょう私はここで小坂長官についての、週刊新潮に書かれている問題についてのみ釈明していただきたいと思っておりましたので、長官、御専門の委員会でもございませんのにお出かけいただいてありがとうございました。  いまの小坂長官に関する点についてはそれで終わりたいと思うのですが、この週刊新潮によると、「九月二十三日、再度、戸川猪佐武氏と会った。この時、戸川氏は「佐藤昭さんの意を受けて」とハッキリいった。彼はまず、記事をやめてもらえないかと聞き、もしやめられなければ、せめて次の国会が終ってからにしてほしいと頼んで、こうつけ加えた。「あなたも取材費をお使いになったことだから、原稿がボツになったら、応分の補償はさせていただく」児玉氏は、いずれの要求も断わった。」こうなっているのですね。こうなるとますます奇々怪々であります。  これは、天下の文芸春秋でありますから、何らかの事情で原稿が載せられないとしても、取材費は当然フリーライターの児玉氏に対して出すはずであります。ところがさらに「応分の補償はさせていただく」ということは、それ以上にお金を提供することによって、言論を事実上買収するという申し入れをされたと受け取らざるを得ません。戸川さんも政治評論家として一応名のある方であかも佐藤昭さんというのはこれは別に公職の人でもないのに、「せめて次の国会が終ってからにしてほしい」というようなことは、佐藤昭さん一人の意思であるかどうかということを非常に疑わざるを得ないというように思うのですけれども、こういうようにいろんなルートを通じていわゆるプレッシャーをかけて正当な記事掲載をやめさせるというようなこと、安原刑事局長、これは度を過ぎれば人をして義務なきことを行なわしめるという強制罪にもなる場合が絶無ではない、こう思うのですけれども、いかがですか。
  152. 安原美穂

    ○安原説明員 具体的なことは別といたしまして、一般論として、御指摘のような事実関係になれば強要罪の成立ということもあり得ようかと思います。
  153. 正森成二

    ○正森委員 法務大臣、いま小坂さんがお見えになりまして関係のことを伺っておって、前のいきさつがおわかりにならないかもしれません。しかし繰り返すのは時間がかかりますので、まあ御存じのことということで続けさせていただきますが、いま言論、出版の自由の問題について伺っております。それで、きょう大臣におなりになったばかりでございますが、きょうここで濱野法務大臣の就任あいさつという書いたものをいただき、かつ、お読み上げになりましたが、その中で大臣はこう言っておられます。「国家・社会の平和と繁栄を確保し、国民の幸福を守るためには、その基盤ともいうべき法秩序がゆるぎなく維持され、国民の権利がよく保全されることがとりわけ肝要と存ずるのであります。」こう言っておられますね。つまり法秩序の維持と、それとパラレルのものとして国民の権利がよく保全されるということが必要だと言っておられるのですね。その国民の権利の中には当然言論、出版の自由というものが議会制民主主義の根本として入っておると思いますが、いかがです。
  154. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 そのとおりだと思います。
  155. 正森成二

    ○正森委員 そうだといたしますと、法務大臣として、いやしくもそういうものに対する制限が行なわれないようにということ、これは当然の御決意であろう、こういうように思うのですね。法務大臣には非常に申し上げにくいのですが、現在の憲法では総理大臣が各大臣を任命される、こういうことになっております。ところがいま世間で問題になっておりますのは、まさにその総理大臣のいろいろの疑惑であります。ですから、法務大臣がいわば自分の上長のことについていろいろお考えになるということで非常にお苦しい立場であろうかと思いますけれども、しかし憲法を守り、それを守っておるいろいろの法務関係の職員を統轄するという立場の場合には、やはり厳正な態度をとっていただかなくちゃならないと思うのですね。そういう御決意はございますか。
  156. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 たぶん小坂さんの名刺の問題に関連してだと思いますが、小坂さんの意思が、弾圧するようなそういう形で行なわれておりますのか、あるいは俗にいう、何か陳情をして書かないでくれというような、そういう程度のものか、これは事務当局かやはり事実をもっと判明した後に措置しなければならない、こう考えておりますが、いずれにしてもこの時代にああした行き方は好ましいやり方ではなかろう、こう考えております。
  157. 正森成二

    ○正森委員 法務大臣からそういう御見解の表明がございました。  私は、文藝春秋に記載されていることもきわめて重要でありますし、関係委員会あるいは予算委員会で最終的にはいろいろ論議されると思いますけれども、しかしそれと同時に、文芸春秋やあるいは週刊新潮に載っておるような、それを出版するのを控えてもらいたい、あるいはその内容について控えてもらいたいという圧力があったとすれば、それはそれでそのことが独立してきわめて重大な問題であるというように思っているのですね。特に田中総理については、私が独自に調査したところによりますと、週刊新潮がこういうことを記載する前後に非常に密着して、ある有名な広告会社の編集長から文藝春秋のある人のところへ電話がかかってきた。そして、週刊新潮に書かれておるようなことは田中の本意ではない、つまり、あればおれがやらしたのではないのだという釈明があったというのですね。これまた非常に念の入ったことであります。それは逆に、あのことは自分も関与しておると思われてしかたがないということを逆の意味で言っていることになると思うのですね。そういうように理解されるには、田中角榮氏はやむを得ない前歴をお持ちの方だというようにいわざるを得ないのですね。  今度のことではありませんが、私は幾つか資料を持っているのですが、そのうちの一つ二つを申しますと、これは非常によく知られていることでございますけれども、昭和四十四年の十月に、いわゆる公明党、創価学会の言論、出版妨害というのがございましたときに、「千代新」というところだとか、そういうところに田中角榮氏が幹事長として自身が出向かれ、そして「何とかならないか、千部だけは一般に出して残りは全部買い取る、だから初版の発行部数と値段を言ってくれ」というようなことを言われたということがあるのですね。これはわが党の不破書記局長が質問をしまして、佐藤総理が、「幹事長個人としておせっかいをやいたのだ」ということになっておるのですね。こういうおせっかいという前歴が一ぺんある。  それだけではなしに、私どもの渡辺議員が昭和四十七年十一月十一日の参議院の予算委員会で問題にしたことがあります。それも大臣はよく御存じだろうと思うのですね。そのときに、最初文藝春秋の——これも文藝春秋ですが、四十七年十一月の特別号にその問題がごく簡単に載ったわけですね。そしてその後、これは週刊現代の四十七年九月十四日号に「ついにやった 田中首相の新聞批判発言」ということで非常に詳しく載っている。そういうものを受けてわが党の渡辺武議員が質問をされたわけであります。それだけでなしに、民放労連の「労連情報」とかあるいはマスコミ関連産業労組共闘会議の抗議声明書にも詳しく載っておるのですね。  ところがこのときの田中角榮氏の答弁を見ますと、「私の国会議員としての二十六年の足跡を見ていただければ、一片の記事が私を言いあらわしておるものかどうかは、よく御理解ができると思うんです。」「そういう、いまあなたが述べられた活字のようなことを、どんなにめいていしておっても、言うでしょうか。」「某新聞がちょっと囲いの中に書いたようでございます。それが別の週刊誌に引用され、また別の週刊誌に引用され、そのたんびに大きくなっていった」というように、どんどん新聞社やら週刊誌がかってに大きくしたのだという意味のことを言うておられる。特に非常に興味が深いのは、この中で、「オレにできないことはない。オレは法律だ。どんな法律でもつくってみせる」ということも言ったのじゃないかというようなことを言われましたら、そこは最後の落ちみたいでおもしろいのですが、「「余は法律である」などということを考えたこともございません。考えたこともない。あなたとも商工委員会で、ずっと一年間もおつき合いしてきたじゃありませんか。私が、「余は法律である」、そんな格調の高い人間かどうかですな、おわかりでしょうよ。(笑声)」と、こういう速記録になっているのですね。つまり、ここで言うことは、おれはそんなことは言ったことばないのだ、ある囲みに出たのがちょっと大きくなり、それがずいぶん引き伸ばされ、そしておれは法律だという、そんなことを言う格調の高い人間か、ということで絶対に否認をされておるわけですね。しかしもしそんなことを言ったらたいへんなことだということは自分で言っておられる。  ところが、私はきょうここで、田中総理のこの国会での答弁と非常に違うという事実を確証をもって申し上げなければなりません。つまり、この軽井沢懇談というのは、昭和四十七年八月二十日、キッシンジャー氏と会談されたその翌日ですね。おそらくほっとしておられたのでしょう。ブランデーを飲みながらごきげんで言われたということになっておりますけれども、そのときに、田中番の記者約九名ということになっておるのですね、その方とお話しになった大体速記全文が手に入ったのです。それを見ますとちゃんと言うておられるのですね。そうしますとこれはゆゆしいことだ。その中では、報道機関に対してはおれは自由になるのだ、これもできるのだと言って首を切るまねをされた、こうなっておるのですね。もしそんなことが事実だとしたら、これは国政を担当する人として議会制民主主義の根本に反するような考えの持ち主だと思うのですけれども法務大臣いかが思われますか。
  158. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 私の口からはっきりしたことを申し上げる立場にございませんけれども先生がおっしゃるように、文春などは日本の出版界で相当信用のある雑誌でございます。月刊誌というようなものもたくさん出版されておりますが、それとは少々趣が違うのじゃないか、こういうふうに私どもは常に認識しているわけであります。  しかし、総務長官の場合、その他の場合でも、はたして出版物を阻止するような意図で訪問し、名刺を置いてきたのかどうかというようなことは、実は私自体にはまだ判断できないのです。また先生がこまかくあげましたその事実さえも、なかなか微妙で複雑で、法務大臣に聞かれても、事実その問題が明確につかめないうちは私の意見も述べられないという立場、これは検察庁もそうだと思うのです。やはり事実を究明して、はっきりした事実を述べませんと、それが言論の弾圧につながるか、あるいは出版を買収してもみ消し運動になるか、これは検察当局でもたぶん、確認できないうちは何とも判断ができないことと思います。そういう事情ですから、その他の問題を含めておまえはどう思うかといっても、この場合は御了承願いたいと思います。
  159. 正森成二

    ○正森委員 この問題は、本来は田中総理が、御自分が聞き、それは違う、それはこうだということでお答えになるのが本筋だと思いますから、いかに法務大臣とはいえ一定の距離があるというのはわかります。  しかし御参考に、田中総理が四十七年十一月十一日に、囲みで書かれたのがあるところでちょいと大きくなって、それから順番に大きくなって、つまり全く事実無根だというのが違うという証拠の一つとして、八月二十日に「ゆうぎり」というところですか、そこで懇談をされたという内容を、全部読みますと相当長くなって小一時間もかかりますので、各項目ごとに、こういう趣旨のことを言われたのだということをなまのことばで引用して、だからかってにつくったものではないのだということを御参考までに申し上げておきたいと思います。  キッシンジャー氏との会談のあとでございますから、「キッシンジャーとの会談について」というのが第一の主題でございます。ここで言われているのは、意味はよくわかりませんが、二十億円台になるかどうか、当時わがほうが大幅に黒字だというようなところがございましたから、それを減らすという主題だったのだろうと思いますが、そういうことについてずっと言われているのですね。その関係でこういう意味のことを言っているのですね。そこで「オレは、日米関係はきょうだいみたいなものだ、家族なんだ。きょうだいならおとうとが二十億円台にするよう全力をあげて努力するというのだから、それを見守ってくれるのが日米間の友情だ。でなきゃどうするということでは絶対いかぬといってやった。向こうは繊維でも三年間といわれずるずるになった、日本人考えがわからないといった。」ということになっておって、それで「オレは、日本は大いに努力してるんだ、政府は憲法違反で二つも訴えられるほどやったんだといったら、向こうは、日本人は憲法をいつの間にかこなして自分のものにし、それが自分たち」というのは米国のことですね、「米国のほうへ逆のたてになってきているというので、それはきみたちが日本につくりあげてきたんだ。日本人はそれを自分のものにしただけだと言ってやった。」云々というようになっているんですね。もっと長いんですよ。しかし、全部言うと時間がなくなりますから。そういうようなことをずっと言っておるのです。  その次の主題が「中国問題」であります。たしかこれからいよいよ中国へ出かけるという直前ですね。「いつも十日間ぐらいゴルフをやれば必ず八十五になったんだがことしはどうも成績がよくならぬ。また軽井沢へ来るさ。九月は忙しいな。十月に来よう。台湾はむずかしいよ。」こう言っておられるわけですね。つまり、九月に行くということを間接ににおわしておられるわけですね。  次に「北ベトナム問題について」出ております。「北ベトナムは二、三カ月のうちに手をあげるよ。北爆と港の封鎖がきめ手になった。中国やソ連は家庭の事情でそれどころじゃない。北ベトナムは弱っている。北爆は日本が無差別爆撃で降伏したようなものだ。非核や必要悪じゃなく人類のエゴイズムだな。」こう言っておられる。このお見込みはみごとに狂ったわけですね。ベトナムはがんばり抜いて、そしてあの和平協定をかちとったわけですから、先見の明があまりないということですが、こういう内容のことを言っておられる。  その次に「戦車、四次防問題」が出てきます。これについては、「日米関係はきょうだいだが、戦車を騒いでいる連中は、それだけやってもアメリカはおこらない、手を引かないという前提でやっているだけだ。もしアメリカがおこって手を引いたらたいへんだ。」云々、こういうことです。  その次に「進退について」という問題が出てまいります。「いまオレは、いつまで(総理を)やろうかと考えてるんだ。六十までだな。」こうなりまして、そのあと非常に微妙なことを言われているんですが、私生活に関連することも出てまいりますので武士の情けでこれは省略いたします。しかし、進退についてということで、あの人でなければ言えないことをおっしゃっている。  その次に出てくるのが「教員派遣について」であります。「十万人派遣を、おチャラカシだといってるが、オレは本気だよ、なにいっている。来年に五万人、再来年に五万人を送る。外国をざあっと見てくりゃ国際感覚は高まるし、気の狂ったこともなくなる」というようなことをずっと言っているんですね。これも時間がないから省略します。  その次に出てくるのが「難病対策」です。ここで例の「オレは法律だ」ということとばが出てくるのです。この難病対策についてちょっといいことを言われて、「オレにできないことはない。オレは法律だ。法律をつくってやる。半年でやる。」こう言っておられるのです。ですから田中氏もいいところがあるので、見ますと、悪いことをどんどんやってやるという音一味ではなしに、ここで言われたのは難病対策なんかについてたまたま出たことばなんですね。しかし、考え方の一端が出ている。「オレにできないことはない。オレは法律だ。法律をつくってやる。半年でやる。」こう言っておられるのです。  その次に「日本列島改造について」というのが出てきます。「オレはまず北海道をやるよ。」こういうことを言われて、そのあとで、「オレは軽井沢にもいっぱい土地がある。箱根だって、どこにだって土地は何万坪もあるんだ。けど土地が値上がりするようなことはオレとは関係ない。自分の利益なんて考えたことはない。人間というのはやっぱり大地が必要だ。オレは池田さんのとき、軽井沢は性に合わんといったことがある。しかしオレが長生きするには軽井沢の気候が必要だとわかった。オレの土地なんかみんなに分けてやる。オレはちゃんとやってるんだ。別荘だって君たちに見せたいが、まだ整っていないから見せないだけだ。池のコイだって女にもらったものばかりだよ。」こうおっしゃっているんですね。  「マスコミについて」ここと、その次に「田中番について」といわれているところが、渡辺さんが質問されたところなんです。これについては大体渡辺さんの言われたとおりですからあまり詳しく申し上げませんが、しかしこう言うているのです。「いま自民党が悪口をいわれるが、政権を持っている理由がわかるか。それはマスコミなんだ。日本のマスコミほど発達しつくしているのは世界に例がない。オレはいま日本をどんな方向でも持っていける。オレはマスコミの内情を知りつくし、全部わかっている。郵政相のときから、オレは各社全部の内部を知っている。その気になれば、これ(首をはねる手ぶり)だってできるし、弾圧だってできる。オレはしたことはないがね。西山のときは、オレは爆弾を落とした方がいいといったんだ。キミたち記事を書いて、原稿を送ったあとでも、やめさせようと思えば、やれる。」途中省略。「だからオレは佐藤や福田や池田と違ってマスコミはちゃんとなっているんだ。」こう言っているんですね。  その次は、最後に「田中番について」。「ハコで最後にヒネるのがいかん。あれは絶対いかん。もっと率直に見てくれよ。」「ゴルフだっておれは自分の健康のためにやってるんだ。オレがなにをしようとしているかはオレの静養先を見てくれればわかる。オレがいま一番恐ろしいのは一線のキミたちだ。あとは部長も社長もどうにでもなる。オレが最近やってることはキッシンジャーと会った以外は全部キミたちを意識してやったことばかりだ。な、つまらんことは書くなよ。ひねったり、オチャラカシはいかん。田中番は四交代というのはいかん。それでは顔も名前もわからん。二交代で名簿を出してもらう。東京へ帰ったら社長にいおう。ぜひこれはやらなきゃいかん。名簿を出してキチンとしてからオレはなんでもしゃべる。一対一で会いたいといえばオレはいつでも会う。ただしオレは商売人とは絶対相手にせんぞ。オレはお前とは話さないとはっきりいう。社の方とはオレから会わない。だからキミたちも協定を守ればオレはキミたち軽井沢へくるし、どちらも得じゃないか。」  こう言って各社全部について、内部と関係がありタッチしたケースを列挙して、○○新聞の品川の移転、○○新聞についてテレビの免許の例というようにずっとあげて、「オレは権力の中枢にずっといたんだ。全部わかっている。田中番のことばとにかくちゃんとしよう。ひねったり、つまらんことはやめだ。わかったな。」「つまらんことは追いかけず、ちゃんとすればオレも助かるしきみらも助かる。」こうなっているのですね。  こういうものを全部見ますと、ハコに初め書かれたからちょっと長くなって、それがどんどん長くなったというものじゃなしに、まさに八月二十日に軽井沢で何人かの田中番の記者を相手にブランデーを飲みながら、キッシンジャーが帰られた翌日だということで非常に気を許されたのかもしれないけれども、こういう意味のことを言われたということはもう間違いがないという心証を受けるのです。これはきわめて重大なことであります。  しかもそのあとも、これは砂防会館の事務所でのことのようでありますが、全部のことは省略いたしますが、「この男はあぶないと見れば、各社ともみんなツーカーだから、排除するぐらいはわけはない。総理になって二カ月、おれも無我夢中でやってきたが、やっと落ちついてきた。田中番のことは近く各社に申し入れてはっきりさせるつもりだ。」こう言っているのです。つまり一度ならず二度言っている、こういうことなんですね。  私は、こういうような事こまかな内容が実はほんとうでないことを願うのです。しかしこういう資料を見ますと、それは事実であるというように思わざるを得ないし、それと同じようなことは当時文芸春秋が書き、そして週刊現代がお書きになった。それのさらに詳しいものを入手したということになるのです。  ちょうど時間が参りましたのでやめますが、私がこういうことを申し上げるのは、現在、月刊文芸春秋で二つの論文が出ており、国民全体が、われわれが困っているときに、どうして内閣総理大臣はこういうことをかりにやっておったとしても、政権の座におれるんだろうか、われわれは乏しい収入で税金をちゃんと払っているのに、これだけたいへんなものを買って税金をそんなに払わなくていいんだろうかというような疑問を持っているのです。  ところが、それをただされなければならない方が、こういうようにマスコミについて圧力をかけることを平然と、いかにブランデーを飲んだところとはいえ、記者諸君に言われるという心境であるならば、われわれは閉会中審査や臨時国会等で国民のために理非曲直を明らかにしたいと思います。国会議員には圧力はかけられないと思いますけれども、しかし報道機関その他に圧力をかけて、議会制民主主義の根本である新聞や報道機関をまずものもいえないような状況にしていくという性癖、志向性を持っておられる方じゃないかと思わざるを得ない。そうなるとたいへんなんですね。昔の憲法なら、大臣が一人やめるといえば総辞職です。いまは、それじゃどうぞやめてくださいといって任免権を行使されたら終わりですけれども、しかし日本の将来を考え、議会制民主主義を守ろうとされる限り、やはり限度を越えたことについては、政党政派を越えて行き過ぎは敢然として是正しなければならないと思います。  私はそういう問題点を指摘して、本来田中総理がお答えになることで、法務大臣としてなかなかお答えにくいかとは思いますけれども、私の質問を終わらしていただきますので、もし何か御発言がございましたら御発言をお聞きして私は質問を終わりたいと思います。
  160. 濱野清吾

    ○濱野国務大臣 ただいま先生がるるお述べになりましたお話は私ども十分意にとめて、私ども自体も考えていきたいと思います。「ゆうぎり」の対話の事情、その他新聞記者の皆さま方に対する田中総理の言論と申しましょうか、おれが法律だというようなことがはたしてあったかどうか、私にはちょっと言いにくい問題であります。問題は日本の総理大臣としての姿勢、その姿勢の問題であろう。またこまかくいえば、事実だとすればどうなるかというようなことに先生がお考えだろうと思うのです。しかし私の口から、現実に確認できないものをこうだああだと言うことはしばらく控えさせてもらいたい。私も筋は通していきたいという考えで就任したのでありますし、また、私に田中総理大臣の体質がいかがかと聞かれましても、非常に申し上げにくいことでございますから、この点はぜひひとつお許しを願いたい こう考えております。
  161. 正森成二

    ○正森委員 終わります。
  162. 小平久雄

    ○小平委員長 沖本君。
  163. 沖本泰幸

    ○沖本委員 まず最初に、けさほどからの御質問に引き続きまして田中総理に関する問題に触れていきたいと思います。  参議院のほうの委員会でも、また参議院決算委員会なりいろいろな場面で、守秘義務について、きょうも論議があったわけですが、この点につきまして、国民的な立場からいきますと、国民疑惑を持っておる。その国民疑惑を晴らすことが、国税庁なりあるいは政府の、国民の信託にこたえていくという最大の公約数の中からものごとを考えていただいて、やっていただかなければならないことじゃないか、こういうふうに考えるわけです。  大蔵大臣ケース・バイ・ケースでしていくとか、微妙な問題だからと、こういう御発言があるわけですけれども、たとえばわが党のプロジェクトチームで調べました中で出てくるのは、土地について申し上げますと、土地の利用形態は、田中氏の私邸となっていながら、所有は法人企業ということになっている。ここで、本来ならば田中角榮氏と東京ニューハウス、室町産業、長岡ビルディングの間で土地使用をめぐって賃貸契約が結ばれていなければならない。当然、賃貸料も支払われていなければならない。しかし、この間には、賃貸契約が結ばれたとは考えられない。しかも敷地は当初から田中氏が私邸として使用している。  賃貸契約を結ばず、賃貸料も支払っていないということになれば、田中氏が室町産業などから無償で土地を使用させてもらっていることになる。これは田中氏が経済的利益を受けていることになり、田中氏は税法上、受贈益として申告する義務が生じてくるわけだ。はたして、内閣総理大臣という最高権力者の地位にある田中角榮氏が、この義務を守っているかどうか、大きな問題だ。  さらに、目白御殿といわれている中の新増築。どんな場合でも 建物を建築する時には、建築基準法に基づき建築確認の申請を出し、完成後に竣工届を提出すると同時に、不動産取得税の申告をしなければならないことは周知のとおりです。不動産取得税の申告をすると、自動的に固定資産税が賦課されることになっていることも承知されるところです。  ところが田中首相は四十一年八月に目白邸内に事務所、床面積二百十四平方メートル、を新築したが、建築確認の申請も竣工届も出さなかった。建築基準法の義務づけを無視したわけだ。その後、四十四年になって都税事務所の係官が現況確認の際に同事務所の新築を発見、十一月二十九日に固定資産税の納税義務が決定され、新築した四十一年八月までさかのぼって固定資産税を追徴されている。事務所の新築を届けず、発見されるまで固定資産税を納付しなかった事実は、固定資産税に申告義務がないにせよ、こういう点については疑惑が持たれておるということになるわけです。  ですから、固定資産税を納付しなかったことに関連して、不動産取得税を申告すると自動的に固定資産税が賦課される仕組みになっている以上、田中首相は不動産取得税を申告していなかったとの疑いが出てくるわけです。不動産取得税の場合は、地方税法申告が義務づけられており、田中首相が申告を怠ったとすれば、明らかに地方税法違反となり、不動産取得税に係る不申告等に関する過料、第七十三条の二十か、不動産取得税の脱税に関する罪、第七十三条の二十九の適用を受けることになる。故意に申告しなかったとすれば、脱税の罪が適用される。  こうした疑問のきめ手となる税務資料の公表について、守秘義務をたてに一切提出をなさらない。不動産取得税を申告せず、納めなかったかどうか、納めていなかった場合、不申告に関する過料か脱税に関する罪が適用されたか、また適用されたとすればどちらなのか、こういう問題点も出てくるわけです。  これからほかにいろいろと出てくるわけですけれども、そこでわれわれは、国民疑惑を晴らして国民の政治に対する不信を除いていくために、国政調査立場から調査権を行使しよう、こういうことになってくるわけです。そういう立場から考えていくと、国政調査権のほうが守秘義務より先に立つのではないか。いわゆる税務の守秘義務というものは、職員が職務上知り得た事実を漏らすことによって税の公正、中立が犯されて、あるべき姿の税務行政がそこなわれることを防止するために、また副次的にはいわゆる個人のプライバシーを守る、こういう点にあるわけなんです。  こういうことを考えていきますと、またさらに所得税法の二百三十三条は、高額所得者を発表することにより、世間の見る目でももうかっている人間が正しく課税されているかどうか、国民による税務行政の監視機能を果たしているのがこの所得税法二百三十三条ではないかということになるわけです。所得税法の「申告書の公示」二百三十三条は、「税務署長は、その年分の確定申告書又は当該申告書に係る修正申告書に記載された総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額(修正申告書については、その申告後のこれらの金額。以下この条において同じ。)の合計額が千万円をこえる者について、大蔵省令で定めるところにより、その者の氏名及び住所(国内に住所がない場合には、居所)、これらの申告書に記載された総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額を公示しなければならない。」こういうふうにきちっと法律できめられておる。このことは、先ほど申し上げましたとおり、いわゆる国民による税務行政の監視機能を果たしておる、こういう立場にあるわけですから、こういう観点から立っても、いわゆる高額所得の中で、国民が特に疑惑を持っているという内容については公示されるということが当然であり、国会において資料を求められた場合にはその資料を出さなければならない、こういうことは税法の守秘義務を越えて考えられるわけでありますけれども、この点についてはどういうふうにお考えですか。
  164. 磯辺律男

    磯辺説明員 ただいまの点でございますが、やはりぎりぎりの法律論になってまいりますと、国政調査権とそれから守秘義務、いずれが優先するかということは議院証言法にいくということになろうかと思っております。御承知のように、議院証言法までまいりますと、最終的には内閣声明をもってその秘密とされておることの開示をお断わりするか、あるいは内閣声明を出さずして国会の国政調査権というのが優先するようになるか、最終的に結末はそこでつくということに私は了解しておりますけれども、そういったぎりぎりの法律論にまだいかない段階におきましては、国政調査権とそれから私たち公務員の守秘義務というものが、どちらが優先するということなしに、やはりケース・バイ・ケースで御判断をお願いするということになるのではないかと思っております。  ただ、私たちとしては、ただ単に税務職員に対して守秘義務があるから申し上げられないということだけを申し上げておるわけではございませんで、やはりこの場合、これはたまたまいま田中角榮氏という納税者に関連することでございますので国会でお取り上げになっておるわけでございますけれども国税当局立場から見ますと、田中角榮氏と申しましてもやはり一納税者でございます。したがいまして、私たちはそういった政治的な問題を離れまして、国税当局対一納税者という関連でこの問題を考えておるわけでございますが、そう考えますと、私たちが職務執行するにあたりまして知り得た秘密あるいは所得税並びに法人税の調査事務に関連いたしまして知り得た問題につきましては、これを開示するということになりますと、私たちの現在の仕事というものは納税者との信頼関係によって自主的な誠実な申告がなされ、同時にまた任意の税務調査が遂行されているというたてまえから、これを開示するのはむしろ今後の私たち税務行政に必ずしもプラスにはならないのではないかというふうな観点で、資料を提出するのはごかんべんお願いいたしたい、このことを繰り返してお願いしておるわけでございます。
  165. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いまのお話なんですけれども国民的な合意の中でというお話もありますけれども、いまこまかく調べた内容から申し上げているわけです。これも参議院のほうで問題になりましたけれども、地方税法違反という内容から見ても、地方自治体のほうは税金の滞納をしておる者は公表しておるという点があるわけなんですね、そういう点にからんで見ても、それでは政府のほうはこういう分だけこだわって公表なさらないのかという疑問が当然わいてくるはずなんです。そういう疑問に対して政府は率直にこたえていくことのほうが、より国民的な利益を守っていくことになり、いわゆる政治に対しあるいは行政に対する国民疑惑を解く、こういうことになるのじゃありませんか。それをこだわっておられるということ自体が、より国民疑惑を増していって、公正を欠いていくということに当たると私は考えるわけです。その点いかがなんですか。
  166. 磯辺律男

    磯辺説明員 第一の点で、地方公共団体においては地方税の滞納者の名簿を公表しておるという問題でございます。これにつきましては大蔵省ではなくて、よその省のことでありますので私がここでお答えするのはいかがかと思われますけれども、たしか、私の記憶するところによりますと、地方公共団体が滞納者の名前を発表するにあたって、自治省のほうの当時の見解といいますか指導というのが若干舌足らずの点があったというふうに聞いておりますけれども、それがいわゆる地方税法違反になるのかあるいは地方公務員法違反になるのかということについて若干疑義があったようでございます。その点で一つの誤解があったという点が一つ。それからもう一つ、そういった問題にからみまして、実は大蔵省と自治省との間に意見の相違がございまして、過日両者の意見がまとまりまして、そして自治省のほうからは各都道府県のほうに対して、滞納者の名前を公表することについての改正通達をお出しになるやに聞いております。この内容について私から申し上げるのは、よその官庁のことでございますからいかがと思われますけれども、そういったことで、第一に御指摘になりました国と地方公共団体、あるいは自治省と大蔵省との間、その間の取り扱いが違うではないかという問題については御了解いただけるのではないかと思っております。  それから、むしろこの際発表したほうがよりいいのではないかという御意見でございますが、これについてはやはりいろいろな考え方があろうかと思います。最終的には、先ほど申しましたように議院証言法第五条の線までいくということ、これはぎりぎりの線でございますけれども、私ども税務官吏の立場といたしましては、一納税者の資産内容あるいは事業内容あるいはプライベートな面、こういったことについてはやはり公表しないというほうが私たちの今後の税務行政の円滑な運営にむしろプラスであるという観点で、資料の提出をごかんべんをお願いいたしたいというのが、繰り返してお願いする内容でございます。
  167. 沖本泰幸

    ○沖本委員 初め、調べた内容から申し上げていったのは、その国の最高権者である人に対する、大きな脱税があるんじゃないだろうかという点に対する疑惑国民立場から晴らしてもらいたい、こういうことなんです。その疑惑を晴らすためにはいろいろなことがあるけれども、最も適当なことは、国会の場所において国政調査権で調べて公表していくところが一番公正ではないかというふうにわれわれは考えるわけです。税の一番の基本になることは税の公正、中立ではないのですか。その公正、中立という立場から考えていきましても、はたしていまおっしゃっていることが税の公正、中立に当たるのかどうかという、税の根本的な問題に関係があってくるということになるわけです。それをあえて国税庁のほうがいまおっしゃっているような点に対してこれ以上拒んでいかれるということは、むしろ反対の方角に向かって、率直にいえば田中角榮氏の脱税をむしろ国税庁のほうが助けている、こういうふうに国民からとられてもどうしようもないという問題にまで来ているわけなんです。ですから、それをあかしていくということのほうが、むしろ国税庁としては国民に対して税の公正、中立を守っていくという立場をはっきりして、そして国民の信頼、あるいは税務行政の公正というものに対する信頼をかちとっていくということに当たるのではないのですか。  そういう点を考えていきますと、この際、国政調査権という内容のいろいろな言われ方、あり方ということに対して論議が及んでいって、そしてこちらには個人の利益を守っていくという問題があるんだ、そういう立場からの公平から考えていくと出さないほうがいいのだ、こういうふうな立場にお立ちになっているけれども、それよりもむしろ、国民の大半の、いま日本の国がたいへんな問題に直面している、こういうときにあたって、国民の信頼を明らかにしていくということのほうがより重大な価値があり、問題がある、こういう立場に立って言っているということを御承知願わなければならないということになるわけです。そしてそのためには、事実上こういう問題があるじゃありませんかということなんです。そういう点が文春の中にも明らかにずっと出てきているわけです。そういうものをお互いに解明していくことのほうがより重大であるということを私は考えるわけです。  ですから、先ほどから申し上げているとおり、いま申し上げた立場から申し上げますと、田中角榮氏の過去二十年の年次の所得、これは収入のもので、支出の場合は、邸宅であるとか家計維持費、あるいは邸宅、別荘等の購入費、こういうものを順を追って正確に明らかにしてやっていけばわかってくることになるわけです。たとえば、以前にいわゆるとらの巻事件が問題になったのです。虎ノ門事件ではないのです。徴税とらの巻が問題になって、査定した場合にどういうふうにしていくか、過小申告した場合にどうやるかということが問題になっているわけです。ですから、そういう立場から考えていきましても、はたして田中角榮氏の納税申告所得では過小申告ではないか、あるいはそういう面を国税庁のほうでは目をつぶっていらっしゃるのじゃないか。その一つのあり方としては、たとえば先ほど都のいわゆる調査員が入ってみて初めてわかったというような事実も出ているじゃありませんかということになるし、全部が田中角榮氏個人の土地でもない、邸宅の土地ではないわけです。いろいろなことになっている。そういう内容のものがずっと文春に出ているわけです。そういうものから基本を発してきているわけですから、そういうものを過去二十年間にわたって出してみて、これはいろいろと家計費なり支出の面を引いていけば申告は確かであり、国税庁のほうで課税したことは間違いないのだということを明らかにすることのほうがより大切であり、そのための資料国税庁がお出しになることのほうがより税務行政の公正、中立というものを明らかにするのじゃありませんか。そういう立場から考えていきますと、国税庁や大蔵省が拒んでいらっしゃることのほうにむしろ疑問が向いていくということになるのじゃありませんか。その点いかがなんですか。
  168. 磯辺律男

    磯辺説明員 税務というものが中立でなければならない、それから税務というものが公正妥当に運営されなければならない、そういう先生の御意見には全く同感で、ございます。しからば、どういうふうにしたら税務の公正、中立が保たれ、また妥当な税務行政がなされるか、そういう問題の方法論について、非常に恐縮でございますけれども、いま先生と私の答弁とが食い違っている、その方法論の問題だろうと思います。  それで、私どももといたしましては、午前中の答弁でも申し上げたわけでありますが、ただいま田中角榮氏並びにその関連会社と称せられている各企業についての課税の内容について洗い直しをしている最中でございます。もちろん、課税処理いたしましたその段階におきましては、これはあらゆる納税者について共通でございますけれども、すべての資料を総合いたしまして適正妥当な処理をしたということになっておりますし、同時に私は、総理田中角榮氏に関する税務処理というのも適正になされたということを聞いておりますし、私もそう思っております。  しかしながら、税務というのは、一応処理いたしましてもその後に新しい事情が発見され、もしくは新しい資料が入手された、それから新しい情報が入ってきたというふうなことになりますと、またそれに基づきまして絶えず見直しをやっておるわけでございます。もちろん五年間の更正の除斥期間がございますけれども、絶えずわれわれの権限の及ぶ範囲内におきましてそういった調査見直しということはやっておるわけでございます。現在の場合、非常に世上で問題になっております件につきましても、やはり文芸春秋記事、それから新聞紙上にあらわれましたいろいろな記事、それからまた、先生ただいま御指摘ございましたけれども、それぞれの立場で検討しておられる新しいデータ、そういったことをさらに総合いたしまして見直しをやっておる最中でございます。ですから私たちは決して、田中角榮氏並びにその関連会社課税がそのまま、過去に処理されたのが正しかった、絶対間違いないというわけでもありません。それからまた同時に、これが間違っていたというわけでもありません。要するに、現在それについてすべてのデータと新しい事情に基づいて見直しをやっておる。究極の目的とするところは、先生のおっしゃいますように、やはり税務の中立性と適正な課税の達成ということにあろうかと思います。  そういった意味におきまして、ただその資料をこの国会の席上に提出することがどうかというだけのことでございますけれども、その点については先ほどから私がごかんべんをお願いしたいというふうにお願いしております。しかし究極の目的は、決して先生の御指摘の御意見とは全く変わらないものと確信いたしております。
  169. 沖本泰幸

    ○沖本委員 現在見直しをしていると、こうおしゃるのですけれども見直しをしていることを信頼しておもかせできるということであれば、何も調査発動とか、各党がいろいろなことで調べなければならないとかいうものはないはずなんです。そこで疑惑が持たれるから一生懸命になってわいわい言っていることになるわけです。  それはなぜかというと、国家の最高権力を持った人に疑惑がかかっておるということで、先ほどから何度も繰り返して申し上げているとおりに、その点を晴らさなければ、あるいは政治に対しあるいは行政に対して国民の信頼が得られないということになるわけで、われわれのほうとしてやっていることに何ら間違いがないんだということをおっしゃるけれども、それじゃそのことにおまかせしてやって、それで結局は何もありませんでしたということだったら、何も疑問を晴らしたことになりませんですね。中立を守って、そして個人のプライバシーを守りながら、もう一度見直しをし、洗い直しをし、出てきた新しい事実に基づいてもう一ぺん調査をやっているんだ。それじゃそれにおまかせして、ある時期たって、国税庁のほうはどうでした、何もありませんでしたか、国税庁のほうから何もありませんでしたと、こう答えられて、それで国民疑惑が晴らせるかということになるわけです。  問題は、いわゆる政治、行政に対する国民の不信をどうやって取り戻すかということになっていき、そしていまでは国税庁自体が脱税を助けているのじゃないかというふうに変わってきているわけです。ですから税務行政のほうに疑いを持たれているわけです。その疑いを晴らすのは、やはり憲法で定められた税務行政の維持を正しく保っていくために、国民の信託に対してこたえていくというのがいわゆる行政機関のあるべき姿ではないかということになってくると、当然公表なさるかどうかということです。  それじゃ一歩しりぞいて、いま新しい事実についてお調べになっていらしゃいますけれども、それが明らかになったときには公表なさるのですか。あらためて公表なさいますか。その点どうなんですか。
  170. 磯辺律男

    磯辺説明員 それはやはり、現在資料の提出をごかんべんをお願いしていると同じように、調査の事績につきましてもここで資料を提出することはごかんべんをお願いいたしたいということになろうかと思います。
  171. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それじゃあなた、ここでいろいろ議論する必要も何もないということになるのですよ。いろいろな議論を展開して、守秘義務であるとかなんとかいうことを言って、国政調査権との関連性がどうだとかこうだとか、国会で時間を使って議論することは何も必要ないということになります。初めからおっぽらかしておったらいいということになるのです。それじゃあまりにも、現在置かれている重大な問題のいわゆる認識なり、それにこたえていこうという国税庁の姿ではないということになります。それでは国民が国税行政、ひいてはすべての国家行政に不公正な疑いを持つ、ということになったならば、これは重大な国家問題であり、国家の利益の問題であるという観点に立ってものごとをやっていくのが一番大事なことじゃありませんですか。そういうたてまえに立って国政調査権のほうが優先するということであり、資料も公表していただかなければ国民疑惑は晴らせないということになるわけです。  卑近なことを申し上げますけれども、言い方としては非常にまずいかもわかりませんが、先ほどから正森先生のいろいろな議論の中にも出てくるわけです。総理としての御発言がいろいろな場所で出たわけですね。そういう点にからめて考えていってでも、国税庁長官の首はおれが一手に握っているのだ、私の権限の中にあるのだということになり、それを国税庁長官が考えた場合、という疑い国民は持つでしょう。自分の出処進退というものの内容も内閣総理大臣の権限の中にあるのだ、と。いや、それを乗り越えて、行政というものはそういうものでもありません。たとえ内閣総理大臣たりとも、国家の最高権力者であればあるほどその身辺というものはただしていかなければならないし、その権限というものの及ぶところの内容というものは常に公平であり公正でなければならない、こういう立場に立っていけば、国税庁長官はあくまで内容を明らかにして国民の前にただしていくということのほうが大事だということになるので、それは何ものをおいてでもやらなければならない義務であり、国民の信託にこたえる内容だということになるのじゃありませんですか。そういう点から考えていくと重大な問題であって、このことが解決されなければますます国民行政に対し不安を持っていき、すべての国家行政に対する不信がぬぐえないことになるのです。権力を持っていれば何でもできるのだ、こういう考え方を国民すべてが持つということになります。それに対してこたえていくということが大事なことになるわけです。  ですから、いまのお答えのほうから見ていきますと、どうしても国民立場から考えては納得できないということになるわけですから、先ほど申し上げましたとおりに、あくまでもまだまだこれから問題はいろいろ出てくると思います。いままだ少しはしりであるということも考えられるわけでありますけれども、先ほど申し上げました過去二十年間にわたっての田中角榮氏の所得に関する収入面と支出面の内容を明らかにし、どういうふうな内容で査定されていって年間所得というものが出てきたか、それに対する課税がされていったかということを資料としてちょうだいしたいわけです。これは要求申し上げます。その点いかがですか。
  172. 磯辺律男

    磯辺説明員 先生の、税務は適正にあれ、それからもって国民の負託にこたえろというその御主張というものは、私たちも全く同感でございます。そういった意味において私たちはいませっかく努力をしておる最中でございます。ただ、その資料の提出の件につきましては、これは公示されました金額というものについては資料の提出は当然いたすべきでございますけれども、それ以外の資料につきましては、先ほどから申し上げましたような理由からここに提出するのはごかんべんをお願いいたしたい、かように考えます。
  173. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これはどこまでやっても平行論になっていくわけですけれども、たとえて言いますと、国家公務員法第百条第四項の規定によりますと、国家公務員は人事院の調査に対しては「秘密の又は公表を制限された情報を陳述し又は証言」しなければならない、「何人からも許可」を必要としない、こういう点。証言等をしなければ第百十条第一項第十八号の規定によって「三年以下の懲役又は十万円以下の罰金」で処罰されることになっている。人事院の調査には秘密の守秘義務は排除されて、罰則が設けられて、証言等を強要されているわけです。国政調査権の場合には秘密は拒み得るのに人事院の調査の場合には拒めない。これは非常に片寄っているということがいえるわけです。それから、これはけさほどもお触れになったと思うのですけれども、議院の証言法第五条三項に規定する「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」という点、あるいは、これは第十九回国会の衆議院の決算委員会で参考人として出席された滝川幸辰氏、団藤重光氏、佐藤功氏等は、国家の存立及び継続に影響がある事項、あるいは存立とかなんとかいうことであると言うが、そのとおり解釈すべきであるとわれわれは考えておるわけです。  ですから、こういういろいろな例をお調べにはなっており、それぞれのお答えは準備はされておるとは思いますけれども、われわれはあくまで先ほど申し上げたような観点に立って今後も追及を続けていきたい、そして国民疑惑を晴らしたい、こういうことになるわけであり、それをお拒みになれば、国税庁自体が田中角榮氏の脱税を助けておるその主謀者であり、主犯であるということを国民から断定されても言いわけができない、こういうことになります。ですから、これは国家、国民、国益にとって重大な問題ですから、今後あくまで追及を続けていきたいと考えます。さらに新しい事実をプロジェクトチーム調査しながら今後も追及していきますので、ある段階になって、実はこれはこういうわけです、こういうことにならないように、あるいはもっと国民立場に立ったものの考え方をおやりになっていただくように私たちは希望したいわけです。  それではこの問題はこの程度にいたしまして、ほかのことば今後の調査なり各委員会での御質問にまかせていきたい、こう考えております。それではこの守秘義務の点に関しあるいは脱税問題に関しては質問をこれで終わりたいと思います。  それでは次の問題に移らしていただきます。長時間、最後まで御出席していただいたわけですけれども、これからはいわゆる交通裁判のあり方について御質問をしていきたいと思います。  最近交通事案がたくさんふえてきて、いろいろな場所で交通公害なりあるいは交通遺児の問題など、いろいろな立場からの交通問題が最大の問題として、交通戦争として扱われていくようになっておるわけでございます。それにつきまして、交通事故からあるいは交通違反の中から起きてくる交通裁判にかけられる方々、あるいは捜査を受けられる方の数は膨大なものであり、それの事件を担当なさる方々の御苦労はたいへんだ、こう考えるわけですけれども、そういう点についてお伺いしたいのです。だんだんと行政簡素化あるいはいわゆるいろいろな面から簡単になり過ぎてしまって、そして、違反をし、事故を自分の責任で起こして罪を問われなければならない人たちの人権がだんだんと侵されていくんじゃないか、そういう反面も出てくると考えられますので、そういう点についてお伺いしたいと考えます。  裁判官も人でありますから、いわゆる荒れる法廷をかかえたり、手持ち事件がふえていくと、事件処理が急ぐあまり、刑事裁判——すべての刑事裁判ということにもなりますけれども、その意義を忘れ、強引な訴訟指揮のもとで、事件をできるだけ簡単に、画一的に処理しようとするケースも出てくるだろう。これはやむを得ないということもいえますけれども、そのため、本来迅速な裁判の要請は被告人のためを考えたものであったけれども、ときには裁判所の都合と訴訟経済を考えるだけの迅速にすりかえられないだろうかということも考えられるわけです。しかし、憲法のもとで制定された、基本的人権の擁護をうたっておる刑事訴訟法の理念が、例外的なものであるにもせよ、現実の刑事裁判の運用においてゆがめられてはいけない、こういうふうに考えるわけでございます。  そこで、交通事犯にだけ限定してお伺いしたいわけですけれども、ここで日弁連から出ておる「自由と正義」のルポからとらえていきますと、刑事交通事件の公判の傍聴記というのが出ておりますけれども、これは昭和四十七年一月に傍聴なさったもので、いろいろなやりとりがあります。要約していきますと、「弁護人約二〇分おくれて出廷。早速、人定質問のあと起訴状朗読。被告人はダンプの運転手。仕事帰りに、すし屋で酒銚子一本とビール一本を飲んで運転中、交差点で接触事故(物損のみ)を起し、酒気帯び運転の現行犯で逮捕されたという事案だ。公訴事実については、被告人、弁護人ともに全面的に認め、争いがなく、検察官請求の書証もすべて同意。「時間がないので簡単にやりましょう。」と、裁判官は、検察官から受取った書証の綴りをめくりながら、ところどころ低い声で音読、約一五分で書証の取調べを終る。弁護人から示談書、領収書、歎願書の取調べを請求、検察官が同意して、簡単に取調べ。ここで弁護人は、情状証人(被告人の会社の役員)と被告人質問を請求したが、裁判官は「おくれてこられたのでもう時間がないんですがね……」と、しぶい顔。予定では、この事件の審理は一一時までだ。あと一五分ほどしか残っていない。結局、それぞれ五分以内ということで、簡単な証人調べと被告人質問をやって、結審。論告、弁論と続いて、どうやら予定時間内にすべてを終る。」こういうふうなのがいろいろ出てきておるわけです。  それで、これは四十七年の段階なんですけれども、警察庁のほうでは、現在の交通事犯の増加なり何なりというものあるいは送検されたものの内容について、どの程度おまとめになっていらっしゃるか、その辺をお教えいただきたいと思います。
  174. 池田速雄

    ○池田説明員 交通事故に関係いたしまして、業務上の過失致死傷罪あるいは重過失の致死傷罪ということで処理しております件数は、四十八年で申し上げますと、五十三万八千百九十二件、人員にいたしまして五十七万三千五百九十一件でございます。なお、交通違反関係につきましては、全部で、四十八年中は八百六万九千四百八十一件処理しておりますけれども、そのうち刑事事件として送致いたしておりますものは百六十万七千六百七十九件、こういうことになっております。
  175. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ただいま言われましたような膨大な数になっていっておるわけで、それからいきますと、いまルポによって裁判の経過というものを申し上げたわけですけれども、うなずけないことはないわけですね。これよりもっと急かなければならないということも考えられるわけです。  たとえば簡易裁判所での状態が出ておりますが、これはルポした人の八年前の内容であるわけですからだいぶ違ってはおると思いますけれども、「「交通裁判所」と呼ばれる東京のある簡易裁判所を見学したことがあった。」「交通違反の被疑者が二階の廊下に列をなしていて、つぎつぎに検察官の簡単な取調べを受け、ほとんどの者が略式手続に同意する。略式請求の記録がコンベアーで三階の裁判所に運ばれていく。裁判官は書記官がつぎつぎに机の上に積んでいく記録にすばやく目を通しながら、右から左へと略式命令を下していく。一階で待っている被告人のところにやがて略式命令が届く。被告人は罰金を払い、引きかえに運転免許証を返してもらって散っていく。他方、略式手続に同意しなかった者や略式命令に異議を申立てた者は法廷に集められている。狭い被告席には十数名の被告人がひしめくように立っている。被告人たちは、立ったまま、順次調べを受け、即決でつぎつぎに判決を言い渡されていく。これは、まことに異様な光景だった。不満げな被告人たちの顔をみながら、これが裁判といえるのかなと疑問に思ったのを憶えている。もちろん、現在、東京地裁で行われている交通事件の裁判が、右の光景に似ているというのではない。東京地裁の法廷には、まだまだ法廷らしい雰囲気が存分に存在している。だが、「時間がないから」という言葉があまりにも多く裁判官の口から発せられるのを聞いたり、時に強い態度を示したりしながら事件の迅速な処理に精進している裁判所の姿を見ていると、どうしても、前の光景を思い浮かべてしまうのである。」こういうふうに書いてあるわけですけれども、現在の簡易裁判所のこういうお取り扱いはどういうふうな事情になっておるのでしょうか。
  176. 千葉和郎

    千葉最高裁判所長官代理者 簡易裁判所の手続は通常の手続と略式の手続とがございますが、いま先生が前のほうでおっしゃいましたのは交通略式裁判のほうだと思います。これは大部分が道交法でございまして、交通切符と称する四十三年以降にできました切符制度によって処理されておりまして、形は、警察、検察庁、それから裁判所のそれぞれの手続が一緒にでき上がるような書式になっております。しかし中身は略式でございますので、もちろん被疑者がそれに同意しなければその手続はのらないことになっております。それは東京のように、あるいは多くの庁のように、週何日というふうに限って、警察、検察庁、それから裁判所が一緒になって処理する、いま先生のおっしゃったようなやり方をやっているところもありますし、四十三年以降はその件数が非常に減りましたものですから、曜日を限ってやっているというようなところもございまして、流れ作業という雰囲気ではなくなっております。  それから先生があとのほうでおっしゃいました、略式命令に同意しない者は即決裁判に回して次々に法廷で言い渡すという手続、それはおそらく交通即決裁判の誤解であろうと思います。交通事件で、争いのないものについて略式でやる場合と、それから、略式でやってもいいのであるけれども、つまり簡易な手続でやってもいいのであるけれども、訓戒をしたほうがいいというような種類の事件については交通即決手続ということでやります。これは手続は全く略式と同じように、即決手続でやってよろしいと被告人が同意したものでなければやれないわけでありまして、争いのある事件にそれを適用してはおりません。ただ全体の数からいいますと、四十八年で全国でいいますと、略式命令は交通関係では百五十二万件くらいございますのに対して、即決手続は三千件台になっておるかと思いますが、それは結局は、もとになる手続の切符制度が共通なものでありますから、そしてそれには弁解も書き込むようになっておりますので、どちらかというと被告人のほうが即決でわざわざ待たされるのをいやがるというようなことがありまして、どうしても略式の手続のほうに流れていくように、数が多くなっている状況でございます。しかし、昭和四十二年ごろには四百万件くらいあったものが現在は百五十二万件になっておりますので、余裕は相当あるようになっております。
  177. 沖本泰幸

    ○沖本委員 交通切符制にかわってだいぶ時間がたちまして、定着したようなことにも見られるわけですけれども、さりとて車の増加という点に重きがあるのか、あるいは運転者に対するモラルの低下ということにあるのか、これはもうしばしば議論されておるところなんですけれども、はたして現在に至ってみて、現行のあり方そのものが、いわゆる事件を少なくしていく、あるいはそのことによって運転者に反省を求めて、より運転の安全がはかられていく、こういう観点に立ってみて妥当なのだろうかどうなのだろうか。このままでいいんだろうか、もっと改革したほうがいいんじゃないだろうか、こういう考えが出てくるんですけれども、その点について警察庁と裁判所の御両所の御意見伺いたいと思います。
  178. 池田速雄

    ○池田説明員 事故捜査の点につきましては、やはり最初に捜査に当たります私どものほうで非常に適正、迅速な措置をしていくことがあとの措置に結果的にはいい効果をもたらすであろう、こういうふうに考えております。御案内のとおり、交通事故そのものは非常に瞬間的に起こりますし、また事故の当事者の事実認識も非常に欠く場合が多いというような特殊な点もございますけれども、これを科学的に正確に帰納いたしましてそれぞれの責任分配を考える、こういうことでなければいけないというふうに考えておりますので、装備のほうから見ましても、たとえばステレオカメラと称しております立体カメラを使いまして、それで現場の模様というものを非常に正確に把握するというような方途も講じておりますし、そういったようなことで、事故の起こりました原因の正確さということを重んじて今後ともまた捜査を続けていきたいというふうに考えております。それが同時にまた運転者に対します教育にもなるであろうというふうに考えております。  なお、違反につきましては、先ほど来お話がございましたように、反則金制度ができましてからその大部分が反則金制度によるということで、これの効果も相当にあると思います。したがいまして、それ以外の悪質なものについてだけいま刑事手続にのっけているということでございますが、私どものほうもできる限り適正な措置を講じまして、究極の目的は事故をなくする、あるいは運転者の方がいい再教育を受けられる、こういうことを望んでおりますので、その方向で処置してまいるようにいたしたい、こういうふうに考えております。
  179. 千葉和郎

    千葉最高裁判所長官代理者 いま警察のほうからお話ございましたけれども、やはり違反があった場合に的確にそれを押えて指導するということが一番基本的なことだろうと思います。統計によりますと、ここ二、三年、人身事故というのは非常に減っておりまして、四十八年度も四十七年度よりも減っているというふうな状況、これは現に裁判所に起訴されます業務上過失致死の事件が、たとえば四十五年では一万五千五百六十八件でございましたが、四十八年では一万三千百八十一件というふうに減っている状態は、これはやはり道路関係とかその他のいろいろな配慮が行き届いてきて事故が少なくなってきたということのあらわれであろうと思いますが、同時に、交通反則金とかあるいは適切な裁判あるいは適切な量刑というものも相当に効果があってこういう減少の傾向を来たしているのじゃないか、かように思っております。
  180. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いま述べていただいたのですが、このルポによりますと、いわゆる公判の内容から見ていきますと、「裁判官は、調書の一部の証明力を争う」——もっと前からになるわけですが、途中から申し上げます。「もう予定の時間が過ぎていますが……。」と裁判官が述べられ、「今日中に結審していただきたいと思いますので、なるべく簡単にやりますから……。」これは弁護人。そういうやりとりがあり、「約四〇分間におよんだ被告人質問を終る。終了予定時間の二時をすでにかなりまわっている。弁護人の請求した示談書、領収証、歎願書等には検察官が同意、簡単に取調べを終る。ここで弁護人は情状証人として妻を申請したが、「時間がありませんね。……もうつぎの事件の時間にくいこんでいます。どういうことを立証するんですか。」(裁判官)、「結局、被告人が刑務所にいくことになると家族の生活が困るということです。」(弁護人)、「それだったら、身上調書によって、昭和〇〇年長女誕生……というようなこともわかっていますから。」(裁判官)、「裁判所にわかっていただければ結構ですが。」(弁護人)、というようなやりとりで、結局、情状証人は撤回して、結審。弁論が終ったときは、予定時間を三〇分オーバーしていた。」  結局、結論としては、これは四十七年の例なんですけれども、東京地裁に関する限り、「一日に三件ないし五件の新件と三、四件の継続事件を審理し、新件のうちの大部分は一回の審理で結審する、というのが、東京地裁における刑事交通事件の審理の平均的なテンポのようだ。」そこで大事なことは、「一般刑事事件にくらべて相当に早い審理のテンポであることはまちがいない」し、あるいはこの審理は「迅速第一主義で、そのため弁護権や被告人の防禦権がおさえられている、あるいは、交通事件の裁判は行政化しつつある」ということを弁護士さんの中でいろいろ話し合いが出るという点があるのですが、その点はいかがなんでしょう。
  181. 千葉和郎

    千葉最高裁判所長官代理者 「自由と正義」等の弁護士会の雑誌に最近そういう趣旨の、東京の特に交通専門部についての審理のあり方についての批判が見えるようでございます。これはおそらく交通専門部が、専門部という交通事件特有の審理に非常に重点を置きまして、それにのっとったいろいろな審理のやり方をやることがたぶんに誤解を与えているような感じがいたします。  大体、交通事件は、たとえば道路交通法違反被告事件でありますと九二%が自白事件、過失傷害の事件でも八六%が自白事件であります。これは普通一般の事件が八一%くらいの自白率に比べますと、それよりも自白率が高いということでございまして、現にわれわれ法廷をやっておりましても、事件に争いのない、事実に争いのない事件が非常に多うございます。そこで東京の交通部では、これはほかの普通の刑事事件一般についても同じでございますけれども、現在の訴訟手続をもちましては、検察官、弁護人、特に弁護人のほうに準備をよくしてほしいということがございまして、それで先ほど申しましたように、交通事件特有の争いのある事項につきまして、こういう点については極力準備をしてくるようにという趣旨で弁護人にそれぞれ書面で御連絡してあると思います。現在もそれはやっていると思いますが、そういうことを前提にしまして審理に臨みますものですから、弁護人が特に十時から十一時までという裁判所が予定した時間におくれるというようなことが起きますと、十一時に別の事件が入っているという場合には、裁判官によりましてはそのルポに出ているようないやな顔をするということが起こったのかもしれないというふうには思います。しかし、審理それ自体の中身について考えますと、そのルポからもわかりますように、やるべきことはきちっとやっておる。  そこで問題になりますのは情状証人のようでございますが、これも、交通事件につきましては大体、普通の刑事事件のように経歴がどうであって、素質がどうであって、こういう悪い前歴があってということはないわけでございます。大体は善良なる市民が大部分でありまして、したがって、そこに情状の証拠として、そういう普通の事件と同じような意味での情状を考えて証拠に出そうといたしますと、それはあまり必要ではない。むしろ示談であるとか、これからの監督の方法とか、これからの生活態度とか、そういうところに重点を置いた証拠がほしいわけでございます。それで、そういうところに重点を置くようにというふうに裁判所のほうから言うわけでございまして、その事件でもおそらくそういう趣旨で申し上げて、それで弁護人が納得された、そういうことであろうかと思います。
  182. 沖本泰幸

    ○沖本委員 検証の場合ですが、「交通事件で現場検証が採用になったという話を聞いてない」ということをここで述べていらっしゃるわけです。「検証は、請求されてもしませんよ」と裁判官が弁護人にはっきりくぎをさしていることもある。こういうことで、「それに代わるものとして、写真や図面などの提出を求めていることが多い」これもやはり、その検証の申請は最近の交通事情を考慮して必要最小限度にとどめるための立証方法考えられた上でのことじゃないかと思います。先ほど警察庁のほうからお述べになった立証のしかた、現場検証というものが、非常に科学化されてきてわかりやすくなっているという点も考えられるわけですけれども、今度は被告人の立場に立った場合、何か自分のほうの主張なり自分の有利性あるいは正当性をある程度認めてほしいというものが、そういうもので画一的にすうっと進んでしまうということになると、心情の上からもいわゆる片寄った裁判じゃないか、あるいはスピードアップされたために自分の審理というものは十分尽くされない、こういう感じを受けている趣がないとは考えられないわけなんです。そういう点についてはいかがですか。
  183. 千葉和郎

    千葉最高裁判所長官代理者 争いのある事件で、まさに被告人、弁護人のほうがぜひ検証が必要だというようなものについて裁判所が制限するということは絶対にございません。ただ、先ほど警察のほうから申されたように、大体、警察は事故当時、実況見分調書を作成しております。それが非常に科学的になっておりまして、しかも、あとから検証しましても、事故当時のそのままの状態というのはなくなっておるわけでございます。むしろわれわれとしては、警察で事故直後につくった、しかも正確な実況見分調書があれば、それが一番最良の証拠になるということでございます。  ただ、実況見分調書の中にときどき立ち会い人の指示説明というものが入っておりまして、それがどうも間違っている、あるいは被告人の記憶と反するというようなことがございまして、そこが同意できないということのために実況見分調書全部を不同意にする、それでそれにかわって検証してほしい、こういうことがしばしばございます。しかしそれば先ほど来申しましたように、事故直後の実況見分調書のほうが最良の証拠である場合が多々あるということを前提にして考えますと、単に立ち会い人の指示説明が正確でないということだけで全部を不同意にする必要はありませんので、そういうところを除きまして同意してもらって実況見分調書はそのまま使う、足らないところを証人でやる、こういうふうな運用がむしろ裁判の正確性を期するためには必要である、こういうことになります。  そういうことがございますので、弁護人のほうには、一体この実況見分調書のどこのところが気に食わないのかということを確かめることが間々ございます。それが誤解されますと、何か制限するというふうに思われるようでございますが、そういうことはありませんで、その事情をちゃんと言っていただければ、そしてまた検証がぜひ必要であるということであれば実施しております。これは通常事件よりもむしろ交通事件のほうの検証が数多くあるということが統計上も出ております。
  184. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほどおっしゃいました、事前準備を十分にやるように弁護人のほうにいろいろと指示して言ってもあるのだということなんですが、この中にも出ておりますのは、むしろ弁護人の側のほうから「事前準備を十分にやること。そして、いやしくも被告人に有利な事実はたとえ些細なことでも徹底的に主張し、立証すること。そのために必要ならば、裁判官の迅速処理への欲求と安易な妥協をせずにたたかうこと。」こういうふうに全く同じ方向でおっしゃっている場面もあるわけです。  それで、結局こういういろいろ出てきていることは、「交通事件に関するかぎり、訴訟指揮から量刑に至るまで、画一化の傾向が顕著だ」こういうふうに結論づけてここではお述べになっているわけですね。だから、「恐れるのは、裁判所が全体として統一した政策的な方針を持ち、それが司法行政上のルートを通じて各裁判官に徹底され、その結果、裁判の手続きと内容が画一化され統制されていく」ということに危惧を持ち、心配しておるということになるわけです。量刑についても内部的に基準がつくられているんじゃないか、こういう疑いを持っている弁護士さんもいらっしゃるということが出ております。  また、これは警察庁のほうにもお願いしておきたいことですけれども、たとえば現場検証の場合に、いわゆる被害者のほうは病院に入って意識不明とか、全然調べの対象にならないような状態にある。加害者のほうだけが警察側のほうで検証されていって、現場検証なり何なり、本人の尋問が終わっている。それがすんなり裁判所のほうに書類として出てしまって、先ほど申し上げたこととは逆に被害者のほうの言い分が何一つ盛られていない。そのために、加害者のほう、刑事裁判の場合は被告人になるわけですね、その辺に有利な条件をつくり出しているのじゃないか。事後において述べる点は、警察のほうでも処理を早くするために重複するところはもう避けてお聞きになるのだと思うのですけれども、そういうために十分調べてもらっていないで、公正さ、公平さが欠けているのだ、こういうふうにとられやすい面がずい分あるわけなんです。いま申し上げたことは裁判の中にも同じふうな傾向で見られていくという面がありますので、十分よくことばを足していただくとか、あるいは裁判官のお方に、手間ですけれども、やっぱり被告人なり弁護人の方々がある程度納得できるような説明をされながら省略化していき、公正さをはかっていただくということが大切ではないか、こう考えるわけなんです。  こういう事案は減ることのほうが一番の望ましいことであり、人命を尊重していく立場から、あるいはいろんな問題を解決していく立場からも大事なことなんですけれども、その点に合わせていくようにお考えになって今後の処理に当たっていただきたいということの希望を述べまして、終わらせていただきます。ありがとうございました。
  185. 小平久雄

    ○小平委員長 本日は、これにて散会いたします。    午後三時四十分散会