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中村(禎)説明員 原子力船「むつ」が出港いたしましてから現在までの経緯につきまして、概要を御説明申し上げます。
八月二十六日午前零時四十五分出港いたしましてから、同月二十八日尻屋崎東方八百キロの洋上で初臨界を達成いたしましたが、九月一日午後五時十七分、熱出力一・四%で試験中、毎時〇・二ミリレントゲンの放射線漏れが生じました。このため直ちに原因
調査を開始し、専門家
グループを同船に派遣、
調査に当たらせました。同専門家
グループは九月十三日帰京し、
調査結果の報告を受けました。その報告を検討した結果、一次遮蔽のすき間を伝わっての漏れがおもなものであり、洋上での補修は不可能であると判断されました。
そのため政府は、九月十四日、十五日の両日、原子力船
関係閣僚懇談会を開き、「むつ」の入港先を検討した結果、まず燃料交換設備のある定係港に入港せしめ燃料を取りはずす、その後神戸に回航せしめ、原子炉を製作した三菱重工業神戸造船所で修理をするとの方針を決定いたしました。
九月十九日定係港に帰港することについて地元の了解を求めましたところ、青森県知事をはじめ地元各方面より、現時点の入港は著しい混乱を生ずるので、見合わせられたいとの強い要請があり、十九日の入港は一たん延期し、十九日再度閣僚懇談会を開催し、とりあえず陸奥湾外のもよりの適地に仮泊し、当面の補給、人員の交代を行なうことといたしました。しかし、この陸奥湾外での仮泊に対しましても、県漁連は反対の決議を行なうに至ったのであります。
政府は、かかる情勢にかんがみ、局面の打開をはかるとともに、長期漂流の状態にある「むつ」の実情を
調査し、「むつ」船長との
意見の交換に当たらしめるため、九月二十六日、科学技術庁政務次官以下を本船に派遣いたしました。その結果、「むつ」の乗り組み員の状況は、何ら目的なくして洋上で漂泊を続けておる、しかも帰る港もないという状況の
もとでございますので、船員の精神的な問題、また健康の問題等、限界に達しておると思われたのでございます。また、船体の状況も限界に達しており、早急に入港を実現する必要があると判断いたされましたので、私は、帰りまして率直にその旨報告をいたしました。
九月三十日、政府・与党
連絡会議を開催し、鈴木総務会長を現地に派遣し、「むつ」の定係港入港についての地元の了解を得るための話し合いに当たらせることといたしました。鈴木総務会長は、県知事はじめ地元の各方面と精力的に話し合いを進めるとともに、現地において専門家
会議を開催し、入港に伴う安全性の確認を行なうなど、局面の打開をはかられました。
漁連側も、その委嘱する専門家とともに代表を「むつ」本船及びむつの事業所に派遣し、原子炉を停止した状態での入港、停泊については、安全上
心配がないことを確認するに至ったと見られたのでございます。
県漁連側は、各単位組合の
意見を取りまとめ、十四日の代表者
会議の後、鈴木総務会長との最終的な話し合いが行なわれ、その結果、「むつ」の定係港入港、定係港の撤去、地元
地域及び漁業振興等が合意されました。
なお、「むつ」の原子炉については、去る九日漁連代表者が本船におもむいた際、その立ち会いの上で電源キーを封印してまいったのでございます。
そこで、昨日現地において、定係港入港及び定係港の撤去に関する合意が協定されました。その協定の内容でございますが、
原子力船「むつ」の定係港入港及び定係港の撤去に関する合意協定書
昭和四十九年十月十四日
政府代表・自由
鈴木 善幸
民主党総務会長
青森県漁業協同 杉山 四郎
組合連合会長
青森県知事 竹内 俊吉
む つ 市 長 菊池 渙治
原子力船「むつ」の定係港への入港及び定係港の撤去に関して、下記のとおり合意協定を締結する。
記
I 原子力船「むつ」の定係港入港及び定係港の撤去に係る事項
1 政府は、この協定が締結された後、直ちに、原子力船「むつ」の船長に対し、定係港への入港を指令する措置をとる。
2 原子力船「むつ」の定係港入港後の取扱いに関しては、入港後六ケ月以内に新定係港を決定するとともに、入港後二年六ケ月以内に定係港の撤去を完了することを目途として、
昭和四十九年十一月一日からその撤去の作業を開始する。
3 2により定係港の撤去が完了し、原子力船「むつ」が新定係港に回航されるまでの間、原子力船「むつ」を原子炉が凍結された状態で定係港に係留しておくとともに、次の措置を講ずる。
(1)使用済燃料交換用のキャスクを、
昭和四十九年十一月中に青森県外に搬出すること。
(2)使用済燃料貯蔵池の埋立作業を、
昭和四十九年十一月から開始すること。
(3)クレーンの鍵を青森県知事に預け、補修、点検等の際にクレーンを用いる必要がある場合には、青森県知事と協議の上、これを行うこととすること。
II 定係港地元対策及び漁業金融対策に係る事項
政府は、定係港地元対策及び漁業金融対策として、次の措置を講ずることとする。
1 むつ市内
関連公共施設整備
(1) 道路整備田名部−大湊間の道路整備事業に、
昭和五十年度以降すみやかに着手する。
(2) 体育館建設むつ市における体育館建設事業に対し、一億円の助成を行う。
(3) 放送施設整備むつ市における放送施設整備事業に対し、七千万円の助成を行う。
2 漁業振興対策
(1) むつ湾漁業振興対策荷捌施設、冷蔵施設、海上作業施設、保管施設、蓄養施設、捲揚施設の建設等のむつ湾漁業振興事業に対し、八億八百万円の助成を行う。
(2) ホタテ稚貝減産等補償対策ホタテ稚貝減産等補償費として、一億円を交付する。
(3) 魚価安定対策及び漁業金融対策風評による魚価低落に対する魚価安定対策として、三億円を、青森県信用漁業協同組合連合会へ預託する。
又、定係港の撤去等により、風評による魚価の低落のおそれがなくなった場合は、これを青森県漁業信用基金協会に某金として拠出し、漁業金融の円滑化を図る。
(4) 漁港・港湾整備事業第五次漁港整備
計画及び第四次港湾整備
計画について、
別添(1)及び(2)のとおり、その工事の促進を図る。
また、建設省所管海岸保全事業中漁業と密接な
関係のある地区の整備の促進についても配慮する。
なお、漁港・港湾整備のための地元財源対策の一環として、起債について特別の配慮を行う。
※ なお、(1)、(2)及び(3)は、青森県を通じて行うこととする。
III 原子力船「むつ」安全監視
委員会に係る事項
1 青森県、むつ市及び青森県漁業協同組合連合会(以下「青森県等」という。)は、原子力船「むつ」に係る放射能の監視等を適切かつ円滑に実施するため、原子力船「むつ」安全監視
委員会を設置することとする。
2 政府は、同
委員会の運営及び青森県等が行う監視等に協力し、又、
日本原子力船開発事業団をして協力させることとする。
以上のとおりが今日までの概要でございます。