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1974-03-29 第72回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年三月二十九日(金曜日)    午前十時五分開会     —————————————    委員の異動  三月二十九日     辞任         補欠選任      峯山 昭範君     柏原 ヤス君      加藤  進君     岩間 正男君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         鹿島 俊雄君     理 事                 片山 正英君                 嶋崎  均君                 西村 尚治君                 細川 護熙君                 吉武 恵市君                 小野  明君                 加瀬  完君                 矢追 秀彦君     委 員                 今泉 正二君                 小笠 公韶君                 川野辺 静君                 熊谷太三郎君                 小山邦太郎君                 古賀雷四郎君                 高橋 邦雄君                 寺下 岩蔵君                 内藤誉三郎君                 中村 禎二君                 原 文兵衛君                 米田 正文君                 神沢  浄君                 辻  一彦君                 戸叶  武君                 羽生 三七君                 前川  旦君                 宮之原貞光君                 小平 芳平君                 沢田  実君                 木島 則夫君                 加藤  進君                 須藤 五郎君    政府委員        大蔵政務次官   柳田桃太郎君        大蔵省主計局次        長        長岡  實君        大蔵省主計局次        長        辻  敬一君    事務局側        常任委員会専門        員        首藤 俊彦君    公述人        日本開発銀行設        備投資研究所長  下村  治君        東洋大学教授   新田 俊三君        一橋大学教授   藤野正三郎君        東京大学教授   館 龍一郎君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和四十九年度一般会計予算内閣提出衆議  院送付) ○昭和四十九年度特別会計予算内閣提出衆議  院送付) ○昭和四十九年度政府関係機関予算内閣提出、  衆議院送付)     —————————————
  2. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  公聴会の問題は、昭和四十九年度総予算についてであります。  この際、公述人の方に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中にもかかわりませず本委員会に御出席をいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。  それでは、議事の進め方につきまして申し上げますが、お手元にお配りいたしました名簿の順に従いまして、お一人三十分以内の御意見をお述べ願いたいと存じます。三人の先生方から御意見をお述べいただきました後、委員皆さま方から御質疑がありました場合はお答えをお願いいたしたいと存じます。  委員の皆さんにお願いいたしますが、下村先生の御都合で、質疑は同先生に先にお願いをいたします。  それでは、下村先生から御意見をお述べいただきたいと思います。下村公述人。(拍手)
  3. 下村治

    公述人下村治君) 当面の物価問題を考えますときに、石油危機によって発生しました事態評価の問題と、四十九年度に予想をされます事態についての考え方と、はっきり区別した上で問題を整理する必要があるんじゃないかと思います。  石油危機によって発生しました混乱本質的な点は何であるかといいますと、石油危機によって物不足が激化をするという、これは錯覚でありますけれども、この錯覚に基づいて仮需要が発生し、これによって物価暴騰その他の混乱を引き起こしたということじゃないかと思います。したがって、この事態本質は一時的であり、底の浅い事態でありまして、状態が鎮静化するとともに、逆転をして、物価暴落を引き起こすのは必至の事態であったと言ってよろしいと思います。なぜこの事態錯覚に基づく事態であるか申しますといこの物不足という予想が、第一に石油供給の制限が起こり、その結果、生産激減が起こるというような想定を前提にしていることであります。幸いにして、この事態は実現しないで済んだわけであります。第二は、需要持続をする、もしくは増加をするということを暗黙の前提にしていることであります。しかし、今日の事態石油危機前提にしてもそうでありますが、今日の状態において設備投資減少、これは激減すると思いますけれども、この結果、需要は増加するどころか、減少する可能性のほうが大きいと見なければならないと思います。  そこで、四十九年、ことしの六月から九月ごろに起こるべき事態を昨年の時点に立って正しく考えますとどういうことになるかといいますと、供給減少ではなくて、供給持続、そうして需要持続ではなくて需要減少ということではなかったかと思います。したがって、物不足ではなくて物の余剰という事態予想されるべき正しい事態ではなかったかというように思います。したがって、今日の事態は、すでに石油危機によって発生しました事態が、混乱事態が終息の段階に入りつつあるというように考えてよろしいのではないかと思います。市況商品暴落していることはそれを示しております。あるいは機械受注激減をするとか、あるいは建設受注激減をするとか、いわゆる時間外給与激減をするとか、そういうような事態の中にこのことがすでにあらわれていると申してよろしいと思います。で、問題が残っていることは間違いありません。しかし、たとえば便乗値上げの値下げの問題でありますとか、あるいは便乗値上げによって起こりました超過利得といいますか、便乗利得といいますか、このような利得の吸収の問題、このような問題がその事柄本質でありまして、これはあと始末の問題であります。インフレ問題という形で考えますと、事態はすでに終わったと言ってよろしいと思います。  そこで、どういうような状況に落ちつくであろうかということを考えてみますと、卸売り物価暴落をすべき状況にあると思います。ただ、昨年の九月の石油危機発生前の状態まで戻るということは期待できません。これは石油価格暴騰したからでありまして、石油価格によって暴騰して底上げされた位置まで落ちるということであります。現在の位置は、昨年の九月に比べまして卸売り物価で申しまして約二〇%ぐらいの上昇でありますが、おそらくはその半分ぐらいのところまでは石油値上がりによって底上げになる。したがって、その位置まで卸売り物価は下がるべき情勢になると言ってよろしいと思います。消費者物価について申しますと、便乗値上げによって若干の値上がりが含まれておりますので、これが落ちまして数%の低下した位置において横ばいをすると、こういうような情勢ではなかろうかと思います。石油値上がりによって卸売り物価底上げになりますが、この事態を、インフレ問題と関連しまして、極力この値上げを押えるというようなことに不必要な努力が傾けられがちでありますけれども、これは実は不必要なことでありまして、日本経済にとって望ましいことは、高い石油にいかに適応するかということであります。高い石油前提にしまして物価水準底上げされるのはやむを得ない自然な姿であります。それを前提にしていままでと違った価格体系があらわれなければならないのも、これは自然な姿でありまして、そのような情勢にいかに早く順調に適応するかということにくふうをすべき情勢ではないかというように考えます。これが正常な姿だと思いますけれども、このような正常な落ちつき方に対して非常に大きな阻害要因が発生しております。現実には、いま申しましたようなことになりそうにありません。これを阻害しておりますのは、春闘による大幅ベースアップが必至であるという情勢であるからであります。春闘による大幅ベースアップ予想前提にしまして、便乗値上げによって高くなり過ぎました物価水準春闘先取りの形になって、その低下が阻害された状態、これが今日の物価位置ではなかろうかというように思います。  そこで、四十九年度に予想される事態について考えてまいりたいと思います。どこからインフレが来るかというように考えてみます。そういたしますと、財政、政府の支出からはインフレは発生しないと見てよろしいと思います。四十九年度予算案はいろいろの問題点を含んでいるかもしれませんけれども、インフレ要因を含んでいるかどうかという観点から言いますと、ほとんど全くインフレ要因を含んでいないということは間違いのないところじゃないかと思います。金融にもインフレ要因はないと思います。これはむしろ行き過ぎのオーバーキルの危険があるかもしれないというように考えられるほどの引き締め状態であることは間違いないと思います。  次に、民間の産業投資活動でありますが、これからもインフレ要因は出てまいりません。むしろデフレ要因が発生する危険のほうが大きい、可能性のほうが大きいというように考えます。と申しますのは、設備投資は何よりも経済成長と不可分に結びついた要因でありまして、成長が強ければ強いほど設備投資が強い、弱ければ弱いほど設備投資が弱いというような性質のものであります。昭和四十八年度の前半、上半期の状態で申しますと、年率で二十一兆円ぐらいの設備投資が行なわれております。十月−十二月の年率は二十五兆円に達しておりますが、この大きな設備投資背景にありますものは、四十七年から四十八年にかけての日本経済の急成長、急膨張であります。そして、この膨張高度成長軌道に乗りまして、依然として四十九年度、五十年度とかけて持続するに違いない、着実に持続するに違いないという予想が成立しておったからじゃないかと思います。この予想は今日全く変わろうとしております。変わらざるを得ない状態にあると思います。  私は、昭和四十九年度の経済はおおむねゼロ成長、現在の状態横ばいにとどまるほかないのじゃなかろうかと思いますが、そのような状態であるといたしますと、設備投資をささえております背景が全く変わるわけであります。したがって、設備投資は、継続工事公害防除投資社会開発関連投資中心に変わるほかないと思います。そういたしますと、これは激減ということになります。設備投資関連産業中心としまして、したがって予想される事態は、インフレのさかさまの状態、デフレ的な不況状態以外にないのじゃなかろうかというように考えます。したがって、四十九年度経済インフレ要因をさがすといたしますと、賃金上昇以外にありません。春闘による大幅ベースアップが必至の情勢にありますが、これが四十九年度経済を大幅なコストプッシュインフレに引き込む可能性が非常に大きいというように考えるほかないかと思います。  そこで、賃金インフレとの関係について考えなければならないわけでありますが、賃金物価との関係を安定的に維持するためにはどういうような条件が必要であるかといいますと、これは申し上げるまでもないと思いますが、生産性賃金バランスをとる以外にありません。したがって、生産性上昇率と同じ賃金上昇率が維持されなければならないということが、根本的な、基本的な条件じゃないかと思います。今日までの高度成長過程におきまして、この条件は完全に維持されてまいったわけです。昭和三十年度から四十七年度までの十七年間について申しますと、生産性向上率は、倍率で申しまして五・四倍であります。これに対して賃金上昇率は五・八倍であります。ほとんど同じでありますが、やや賃金のほうが高目に出ております。工業製品についての卸売り物価上昇率は一二%であります。十七年間に一二%であります。これが、これまでの高度成長がいかに安定的であったか、その安定的な推移の背景をなしていると申してよろしいと思います。したがって、ゼロ成長経済においてベースアップはゼロでなければならないということは当然のことでありまして、四十九年度の経済がゼロ成長であるといたしますと、大幅なベースアップが大幅なコストプッシュインフレになるのは必至であるというように見ざるを得ないと思います。  春闘によるベースアップは二五%ないし三〇%が常識であるというように考えられておりますけれども、もしもそのような常識が実現されるといたしますと、当然にこれは非常にハイペースのコストプッシュインフレになるということにならざるを得ないと思います。この常識、二五%ないし三〇%のベースアップは当然だという考え方は、二つ迷信背景にしていると思います。  第一の迷信は、消費者物価上昇賃金上昇によって補償すべきであるという考え方であります。これは全くの間違いであると言ってよろしいと思います。生産性上昇がないところにベースアップがありますと、その理由がいかなる理由であるといたしましても、それはコストアップになるほかありません。したがって、それは卸売り物価上昇を引き起こしますし、消費者物価上昇を同じように引き起こす以外にありません。したがって、補償はもともと不可能なことであります。このような迷信が、それにもかかわらず発生しました理由は、これまでの高度成長過程において急速な経済成長が起こり、その中で急速な賃金上昇と急速な実質賃金上昇が起こったからではないかと思います。消費者物価上昇が、その中で相当大幅に先進工業国の中で最高のペースで進行しておりますけれども、この消費者物価上昇が翌年の大幅な賃金上昇によって補償されたかのような錯覚が何とはなしに定着して二十年近い問経済が推移してまいったということではなかろうかと思います。  高度成長の中で何が起こったかといいますと、高率生産性上昇が起こり、それとほとんど同じ高率賃金上昇が起こっただけであります。したがって、コスト一定であり、卸売り物価一定であり得たわけであります。一人当たりGNP上昇率が非常に高い。一人当たり賃金上昇率が非常に高い。したがって、その結果として消費者物価上昇したわけでありますが、賃金上昇率の約四割相当消費者物価上昇率になっております。十七年、二十年の間何が起こったかといいますと、したがって生産性上昇率、したがって賃金上昇率の六割相当実質賃金上昇持続しておったということになるわけであります。これが実は正常な関係でありまして、消費者物価が年に四%前後上がっている、だからこの四%前後の消費者物価上昇賃金上昇で補償すべきであるという考え方を実行しようといたしますと、無理にそのような事態を実現しようといたしますと、それは直ちにコストプッシュスパイラルインフレーションを引き起こすほかはなかったと言ってよろしいと思います。生産性向上の限度において、まず賃金上昇をしております。それに伴いまして、したがって消費者物価が四%ぐらい上がっているわけですけれども、この四%を賃金上昇で補償しようといたしますと、その追加的な賃金上昇に見合う生産性上昇はありませんから、したがってそれは直ちにコスト上昇になり、したがってまた、それは財貨の値上がりと同時にサービス価格値上がりを引き起こしまして、消費者物価の同じ割合での上昇を引き起こすということになるほかないわけでありまして、したがって、実は、消費者物価上昇しただけ賃金で補償すべきであるという考え方は合理的な根拠を持っておりません。  現在の状態において、現在の賃金が公正であるかどうかを決定いたしますのは、消費者物価上昇率をいかに補償するかということではなくて、現在の経済状態において現在の経営がどのようになっているか、そこに公正ならざる賃金支払い状態にとどまっているのかどうかという点を確認する以外にないと思います。この点で考えてまいりますと、石油危機発生直前状態において賃金状態が不公正であったというべき事情を見出すことはできないと思います。昭和四十五年を基準にいたしまして四十八年九月の賃金を見ますと、名目賃金で六二%の上昇であります。この期間に生産性向上率は四六%でありまして、賃金上昇率のほうが高くなっております。したがって、コスト上昇率を見ますと、一一%ぐらいの上昇ということに相なりますが、この間、工業製品卸売り物価上昇率は一八%くらいになっております。値上がりが起こっているということによって実はバランスがとれております。この一八%の卸売り物価上昇の中で、三分の一ぐらいは輸入品国際商品暴騰によって起こった事態でありますから、これを調整しますと、まず完全に正常な関係が維持されておったというように見るほかないのじゃないかと思います。  そこで、石油危機によって混乱が起こったわけでありますけれども、その混乱本質は、便乗値上げが大幅に行なわれたということじゃないかと思います。したがって、この問題に対して対処する道は、この便乗値上げをいかにして引き下げるかという問題であります。この状態は、最初に申しましたように、経済全般状況が、実は自律的に、自動的に逆転してこの引き下げを引き起こさざるを得ないような状態にあるわけでありまして、少ししんぼうしてこの調整を待てばよろしい、待つべきであるという状況でなかったかと思います。この調整のためには一月や二月じゃ足りません。少なくとも六カ月から九カ月ぐらいはしんぼうして、経済のメカニズムがこれをいかに調整するか、その調整を進めるような努力を進める、その中で、できれば産業界が自主的に積極的に便乗値上げを下げるというような努力がつけ加えられる必要があったというようなことではなかったかと思います。もう一つ、この石油危機によって起こりました混乱によって、国民全体の生活水準に対する不当な圧迫があったという点が誇大に評価されておる面もなきにしもあらずという感じがいたします。と申しますのは、四十八年の十二月と四十九年の一月の賃金水準は、二カ月を合計で考えますと、前年の同期に比べまして三〇%の上昇になっております。昨年の暮れのボーナスはそれほど大幅なボーナスが払われているわけでありますが、この間において消費者物価上昇率は約一九%足らずであります。ややそこで芳しからざる便乗値上げ影響があらわれていることは確かでありますけれども、何かここで国民山全体として、勤労者全体として、非常に不当な生活低下の結果にならざるを得ないような事態があったかのように言われがちでありますけれども、それはやや過大な評価になっておりはしないかというように思います。  で、ベースアップ——大幅なベースアップ考え方をささえるもう一つの、第二番目の迷信は、労働コストというものは非常に小さな割合しか占めていない、製造工業の場合におきまして一一%ぐらいという数字が出されますけれども、このような低い割合労働コストが二割、三割上がったところで、コスト全体に与える影響は非常にわずかであって、二、三%にしかすぎない、したがってそれがコストプッシュインフレになるはずがない、というような論であります。これは、言ってみますと、コストプッシュインフレというようなことは起こり得ないのだという議論になるわけでありますけれども、この考え方は、高度成長時代の経験を、何かこう、ばく然と延長したような考え方じゃないかという感じがいたします。高度成長時代に大幅な賃金上昇がありましたけれども、この大幅な賃金上昇は、経営側が絶えずこれはたいへんだたいへんだと言ったにもかかわらず、実はコストプッシュインフレを引き起こしておりません。経済はきわめて安定的な状態で推移してまいったわけでありますけれども、その理由は何かといいますと、賃金コストに占めるウエートが小さいからではないのでありまして、生産性向上率賃金上昇率と並行して進行したからであります。生産性が年に一〇%前後上昇すると同時に賃金が一〇%前後上昇するというような事態が、過去十七年間続いておったというようなことが事柄本質であります。  で、このような考え方が誤りであるということは、この考え方をささえる、この考え方が成立し得る場合を考えますと、それは、自分会社だけが賃上げをして、日本じゅうのすべての会社賃上げはないという前提で初めて成り立つということであります。その会社だけが賃上げをして、ほかの会社がすべて賃上げをしなければ、まさに、コスト影響するものは、コストの中に一一%を占める賃金の引き上げだけであります。しかし、日本じゅう会社が同時に賃上げをするというのが今日のベースアップ春闘によるベースアップ問題の実態であるといたしますと、実はコスト全体が賃上げによって上がると見なければならないと思います。労働コスト以外の費用部分、それは大部分原材料費と経費でありますけれども、これはつまり自分会社以外の会社労働コストの結晶であります。日本経済に限りません。今日の近代的な工業全体として、非常にこまかな分業によって成り立っております。たいへんなたくさんな数の企業分業によって成り立っております。この分業の網の目がこまかであればあるほど、労働コストの占めるウエートは小さくなります。分業が少なくなればなるほど労働コストウエートは大きくなります。たとえば、経済全体が二つ企業によって、二つ会社によってでき上がっているといたしますと、労働コストは五〇%にならざるを得ません。すべての経済一つ会社によって営まれておるといたしますと、労働コストが一〇〇%になります。これは当然のことでありまして、したがって、賃金コストに占めるウエートが一一%だから、したがってベースアップ影響はわずかであるという論は、全くの間違いであると言ってよろしいと思います。  そこで、現実情勢がどういうようなことになりそうであるかということでありますが、二五%ないし三〇%という大幅なベースアップ不可避情勢にあると思います。そういたしますと、これは石油危機によって発生しました便乗値上げを、このベースアップ先取り値上げという形に変えてしまいまして、これが下がるべき情勢にあるにもかかわらず、この値下がりを阻止するという形になってまいります。これを阻止するだけではありません。二五%、三〇%のベースアップは、二五%ないし三〇%のコストアップ不可避とする情勢にありますので、したがって、昨年の九月の水準から石油値上がりによって底上げした位置出発点として考えますと、その位置は、先ほど申しましたように、現在の位置と昨年の九月の位置との間の中間くらいになりますけれども、その位置前提にして考えますと、その上にさらに二五%ないし三〇%の値上がりにならざるを得ない。現在のふくれ上がった位置前提にして見ますと、その上に一五%ないし二〇%のさらに追加的な値上がりにならざるを得ない。そのような形でのコストプッシュインフレにならざるを得ないというような情勢ではないかと思います。  政府はこれを放任することはできないはずであります。インフレをとめることが政府に期待される最大の課題の一つになっているといたしますと、これを是が非でもとめなければならないという情勢に追い込まれると思います。したがって、何が起こるかといいますと、一そうの金融引き締めの強化が起こると思います。その次に財政——四十九年度予算が成立しまして、その実行について、これをさらに緊縮するというような措置をとらざるを得ないというようなことになりはしないかと思います。そうしますと、その結果、スタグフレーションになることは間違いありません。強度の不況と軽度のインフレーショという形になりますか、あるいは軽度の不況と強度のインフレーションということになるか、これは、今日の政府に期待されているところが、一方ではインフレーションの阻止であり、一方では失業と倒産の防止である、こういうようなことであるといたしますと、政府の立場は非常に困難な状態でありまして、その二つの要請を同時に解決することはできない困難な情勢日本経済はいま置かれていると思います。したがって、その中間のどこかにとどまらざるを得ないということになります。おそらくは、軽度の不況と強度のインフレーションということになりかねないというのが今日の状況ではなかろうか。そのような形のスタグフレーションが必至の状態ということじゃなかろうかと思います。  したがって、一言にして申しますと、今日の日本経済は、とうとうとしてハイペースのコストプッシュインフレーションに突入するような体制をつくりつつあるということであります。そしてまた、そのような動きを、春闘による大幅なベースアップがそれを推進し、その引き金になろうとしているというようなことではなかろうかと思います。(拍手)
  4. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) ありがとうございました。     —————————————
  5. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) 続いて、新田公述人にお願いをいたします。(拍手)
  6. 新田俊三

    公述人(新田俊三君) 新田でございます。  昨年のいわゆる狂乱物価という、石油危機に端を発しまして、たいへんなインフレの時代をわれわれは迎えているわけでございますが、これに対する政府のいわば政策の失敗ということにつきまして最初に指摘しておきたいと思うのであります。  物価抑制という問題に関しましてとられた短期決戦という形での政策が総需要抑制という形であらわれたのは周知のとおりでございますが、今日の時点で判断する限り、この総需要抑制政策は当初の目的を達していない。その意味では、完全に失敗したという断定を下してもよろしかろうと思います。部分的には、市況産業型の商品が下落する、特に繊維産業等々に見られる定期相場の下落というような問題は出てまいっておりますが、第一に、この総需要抑制政策が目標とした段階は、昨年の十月、あるいは多少時期をずらしましても十一月水準であったはずであるにもかかわらず、現在、総需要抑制政策が多少効果をあげたという基準は、物価上昇率の特に対前月比伸び率がやや鈍化したという点に、基準のすりかえが行なわれているわけであります。したがって、現在の時点において、総需要抑制政策が特に市況産業型のものについてある程度効果を与えたということで、そもそも狂乱物価が始まった当初に物価水準を引き戻す、そういう意味での短期決戦政策であったはずだという意味からしますと、目的を達していないのは明らかでありまして、総需要抑制政策は今日の段階では効果をあげていない、失敗していると言って差しつかえないと思います。  それから、第二に問題にしなくてはならないのは、この総需要抑制政策が短期政策として失敗したということは、引き続いて、この需要抑制政策を、将来の望みのないままに引き続きとるほかはないということを意味するわけでありますが、総需要抑制政策を、短期政策としての総需要抑制政策が長期化するということから、逆に大きな弊害が生じつつあるということを、新しい物価問題の段階として指摘しなければならないのであります。それは、三月以降——いわゆる先取り的な便乗値上げの段階といわれる、言うならば狂乱物価の第一ラウンドが終わったあとに、三月以降に、国際商品、とりわけ石油価格値上がり影響し始めるわけでありますが、この総需要抑制政策が当初の目的を達しないうちに第二ラウンドに日本物価問題は入ることになった。むしろ、この問題を論述の中心に据えたいわけであります。  もともと、日本物価問題というのは、成長が高過ぎたために起こったという側面はもちろんあるわけでありますが、それ以前に、高過ぎた成長がなぜ物価上昇にはね返るのかという構造上の問題がございます。それは、過去の高度成長をささえた重化学工業の質そのものによって規定されていると言って差しつかえないと思う。したがって、こういう日本における産業構造の特殊な質がまず根本的前提となり、それに国際的要因が加わり、さらに政策的に物価上昇が促進されてきたという組み合わせでございますから、こういう構造的諸問題は、もともと単なる成長抑制政策で片がつくわけがなかったのであります。したがって、政策としましては、当然、長期的かつ構造的な、前向きの、しかも総合的な対策が立てられなくてはならなかったのでありますが、率直にに言って、日本のこれまでの政策展開は常に場当たり的であったし、事後追随的でありましたから、そういう政策効果が今日に至るまでほとんどあげられていない。総需要抑制政策も、その意味では、構造的かつ長期的な政策を前提としない、その場しのぎの政策にすぎなかったというふうに言えるわけであり、その欠点が実は物価上昇の第二ラウンド以降明確にあらわれてきたということであります。  三月以降の新しい情勢といたしましては、結論的に申しますと、国際的な価格上昇が国内物価にはね返ってくるということでございますが、まずそれに対する対策が、石油価格値上げ石油関連製品の凍結という政策であらわれたことは御承知のとおりであります。ところが、この石油値上げ石油関連製品の凍結という問題は、実はそれ自体、総需要抑制政策の当初の目的を放棄したことを明確に政府が認めたことであろうというふうに私は考えます。といいますのは、凍結というのは現状追認でありまして、結果的には便乗値上げの事後承認的な性格が強いというふうに断定しても差しつかえないと思うのであります。したがって、石油価格が上げられ、それがコストを通じて製品価格に影響を与えるというようなことは前々からわかり切っていたことでありますが、このことが現実化してきた場合に、とりあえずとる政策としては、前向きの政策がない以上、さしあたり凍結という統制政策をとるほかない。これは必然的結果であります。したがって、この第二ラウンドで示された政策は、実は次に述べます物価問題の第三ラウンドにつながる重要な性格を持っているのではないかという気がするわけであります。  今回の石油価格は、全油種平均キロリッター当たり八千九百四十六円の値上げでございますが、特に注目されたナフサ価格が予想どおり八千円値上げされまして二万円台に上昇したわけであります。これに対して、石油関連製品が長くは凍結できないということは目に見えているわけでありますが、ともかく二通りの方法をもって、現在のところ、凍結政策をおとりになっているわけであります。その一つは、値上げに事前に了承をとる方法である。それからもう一つは、小売り段階における値上げ自粛勧告措置であるということであります。実は、このこと自身が第三ラウンドに向かう物価問題の内実を示しているわけでありまして、これにつきましては、やや具体的な事例をあげながら説明すべきであろうかと思いますが、石油製品の値上げ石油関連製品の凍結が実は長くは続き得ないということの一つの重要な根拠が、一つは電力問題であり、電力料金引き上げの問題となってあらわれ、もう一つは鋼材価格の引き上げになってあらわれるというふうに考えるわけであります。  で、いろいろなデータ上の試算もあるわけでございますが、まず、石油値上げが電力料金の引き上げにつながるということは、ほぼ必然的なコースであると見てよろしいと思います。これに対する対策というのは、なるべくあとに延ばす、たとえば一ヵ月でもあとに延ばすというような形で示されているわけでございますが、こういう表現は、いずれにしても上げざるを得ないということの裏返しでありまして、事後追随的な、常に受け身の立場で政策が展開される一つの典型的なパターンであろうかと思います。で、電力料金の引き上げがどういう形をとるのか、まあ大勢としては、政策料金体系の変化ということが避けられないというふうに私ども見ているわけでありますが、いずれにしましても、現在の石油価格値上げが電力料金の引き上げにつながってまいりますと、現在凍結している品目の中で、まず、たとえば無機基礎化学薬品、セメント、有機基礎化学薬品、合成繊維原料、紙、非鉄金属関係ですね、非鉄地金、それから合成樹脂、こういったものが、まずコストの問題から見まして、現在の凍結価格を維持できるわけはない。したがって、私は、物価上昇のいわゆる第三ラウンドと申しますのは、石油価格値上がりがいつ電力料金の引き上げにはね返るか、それが凍結を長く維持することが不可能なことは客観的に見てまことに明確でございますので、こういうコストが上がれば価格の凍結が解除され、かつ、結局値上がりにつながっていかざるを得ないというパターン、物価上昇のあしきパターンが今後確立するんではなかろうかという気がするわけであります。  こういう問題につきまして、二つの点から、つまり国際的な観点と国内的な観点から、以上のようなコスト値上がりが製品価格の値上がりにつながらざるを得ないということの根拠をなすことを指摘したいと思うのであります。  第一の国際的な要因でございますが、国際商品市況がたいへん高騰しておりまして、たとえば国際商品市況のバロメーターであるロイター指数の動きは、特にニクソンの一九七一年ドルの対金交換制打ち切り以後、異常な上昇を示しております。このロイター指数の動きが非常に異常であるということは、一つの国際的な資源市場における日本経済にとっては与えられた条件でありまして、この問題で苦しむのは日本だけではございません。しかし、いずれにしましても、国際商品の市況の高騰というのは簡単におさまる循環的性格のものではない。明らかに構造的要因であると考えられます。それは変動相場制とたいへん関連した問題にもなってくるわけでありますが、変動相場制に入って以降の各国の経済政策は、例外なく経済成長を刺激するという体質をとりました。したがって、こういうような変動相場制下の景気過熱政策、こういうような問題が根底にあり、そして資源問題が世界市場で非常に逼迫するというような形で、国際的諸関係にまたはね返ってくるということであります。  そういう意味から申しますと、今日の問題は石油だけが問題ではないのであって、石油のOPECに示されたような資源問題については、たとえばボーキサイト、鉄鉱石等々につきましても生産国連合の結成の動きがあり、現に影響を与え始めているわけであります。こういう形の中で総需要抑制政策をとるということのマイナス面がどこであらわれてくるかと申しますと、海外原料と国内製品の格差が拡大するという形であらわれてまいります。たとえば一つの例をあげますと、国内の銅価格は、ロンドン金属取引所、LME相場にスライドして動いてきたわけでありますが、現在LME価格が、二月末の統計によりますとトン当たり千百五十ポンドと、史上最高を記録しているわけでありますが、これに対して国内価格は、国内需要の不振で十万円近い安値を示しているという、海外原料高・国内製品安という傾向が生じつつあるわけであります。こういった問題が続きますと、結局、こういう事態に対して各企業、特に大企業は、それぞれのミクロ的な、個別的行動で問題を解決しようとする。たとえばその一つの結果が、やや一時的な輸出ドライブという問題もございますが、長期的な海外投資に走るという形で一つは示されているわけであります。特に、ことしに入りましての資源問題をきっかけとした海外投資のラッシュというのは異常でありまして、一種の無政府状態を呈しております。したがって、総需要抑制政策という、構造的、質的な政策が全くない、単なる量的政策をとっている、この政策不在ということが、各個別企業の投資行動で問題を解決するという解決の形態に向かっているわけでありまして、たいへんこれは憂うべき傾向ではないかと思うのであります。いわゆる資源小国論というような形での発想が強くなってきているわけでありすすが、資源問題で波をかぶるのは日本だけじゃないのであって、こういう問題に対しては、もっと政策当局が主体性を持って、マクロ的な、前向きの、かつ構造的政策をとることが絶対必要でありますが、その政策不在を個々の企業が無政府的にカバーする——しかも、この無政府性というのは単なる無政府性ではないのであって、特に海外投資のときに、商社がシステムオルガナイザーとしてこういう海外投資を指導している痕跡が非常に強くなってきておりますから、こういった問題につきましても、もっと総需要抑制政策という形に示された政策の限界を一刻も早く認識して、早急な対策、本格的な政策をとる必要があるというふうに考えるわけであります。それからもう一つ要因、国内的要因でございます。国内的要因に関しましては、昭和四十五年以降特に顕著になってきた傾向でありますが、日本において新しい寡占体制が出現しつつあるということであります。この新しい寡占体制というのは、当然なことでありますが、総需要抑制政策という形で市場が競合化されるほど、その体質を強めてまいります。この新しい寡占体制というのは、必ずしも企業合併で、たとえばビールであるとか、そういった産業で示されているような、個別産業における数社の市場支配という単純なものではありません。それはむしろ、よりシステム化された、各産業にわたって一つ企業集団として存在するという強力な寡占体制ができ上がりつつあるわけであります。その結合の中心にやはり商社があるという点も見のがしてはならぬのでありますが、そういう体質が、新しいこの国際的な問題に対して、逆にまた寡占的体質を強めて個別的に対応する。言うなれば、海外商品の値上がりは国内製品の価格引き上げに転嫁するという体質と結合しつつあるわけであって、この問題が日本物価問題に対しては重要な意味を持ってくると思うのであります。  ついででありますが、こういうような新しい寡占体制に対しまして、現在の公正取引委員会の機能は、主として古典的な寡占メカニズムを対象とする理論なり機能を持って対応しておりますから、現在の寡占問題に対する、いわば監視機関としては無力にならざるを得ない。いわば、産業構造の変化なり寡占構造の変化という、そういう構造的変化に公正取引委員会の機能がついていっていない、ズレが生じているという点も実は重要なんであります。  そういう問題の中で、電力問題と並びまして私が強く指摘しておきたいのは、鋼材の価格引き上げがいつ行なわれるかということであります。総需要抑制政策が市況産業型のものに対してはある程度有効だということは先ほども申し上げたわけでありますが、こういう一時的にものすごく上がって、引き締めれば急に下がるという、そういうものとは違った、一たん上がりだしたら決して下がることはない、そういう構造的要因物価上昇が、現在総需要抑制という形の中で頭をもたげつつあることに、われわれは注意を払わなくてはならぬのであります。そのきっかけが電力料金の引き上げであり、そうして鋼材価格の引き上げである。これにつきましてはどういう展開をするかよくわかりません。ただし、市況価格と、いわば大企業相互の取引価格である、ひもつき価格との間に大きな価格上の差があるということが、逆に、市況が軟化した段階でも、その差がある限りは利用されているわけであって、伝えられるところによると、五月トン当たり四千円ないし五千円とかいうひもつき価格の引き上げが予測されているわけでありますが、こういうことになりますと、このいまのシステム化された寡占体制のもとでは、鋼材の引き上げの波及効果というのは他の商品と一は比較にならないほど高いわけでありますから、社会的影響はたいへん強いというふうにわれわれは判断いたします。  その際に、おそらく新しい鉄鋼価格方式というのが取り入れられるだろう。伝えられるところによると、その新しい鉄鋼価格方式というのは、標準コスト制度を採用し、その標準コストに対して価格をスライドさせるという体質をとることはほぼ間違いないと思うんであります。そうなりますと、資源問題その他鉄鉱石、いろいろなコスト上昇に対して、企業が価格スライド制をもって防衛を行なうという形が確立するわけであります。実は、このインプレスライド制が企業の製品に関してだけ先行的に確立されつつあるということが、新鉄鋼価格方式によっておそらく確立すると思うんでありますが、もともと石油価格につきましても、それが公示価格のはね返りを基礎としている以上、実勢が大きく動くと当然その見直しもあり得るということを前提として今回の石油価格政策は告げられたようであります。したがって、鉄鋼のみならず、いまの価格政策の基本である石油価格につきましても、コストスライド制あるいはインプレスライド制が実質的には入ってきているという判断をわれわれはとっているわけであります。  で、こういうような問題に対しまして、いつそれが国際的、国内的要因から現在の凍結政策が解除されるかという問題でありますが、もしそれが——そうでなければよろしいんですが、もしそれが参議院選挙までもてば、あとはどうでもいいという発想でなされるとすれば、国民にとってこれ以上の不幸はないんであります。非常に短期的な政治的動因だけで問題自体を次々に引き延ばすということでは、決して今日の局面の打開はなりません。それどころか、インプレスライド制につきましては、公共工事標準請負契約約款第二十一条第六項、いわゆるインフレ条項というのがあるわけであります。たしかこれは官房長官通達の形で、昨年の石油危機の際出されていたと思うんでありますが、こういう問題が沖繩海洋博のようなケースにつきましては直ちに適用されている。このインフレ条項というのは、ヨーロッパではごく普通の条項でございます。つまり、プラント類のように受注期間が長いものについては、その期間のコストの変動は考慮しなくてはならないということを契約条件に最初から明記するわけでありますが、こういうインプレスライド制が、石油価格値上げをきっかけとして、電力、鉄鋼価格の引き上げ、これを媒介として全面的に転嫁するとしますと、このインフレ条項をささえるのが最終的には当然財政支出だということになりましょうから、事は重大だということになるんであります。  特に、この点については、経団連防衛生産委員会が、インプレスライド制の導入による受注単価の引き上げを要求するということを伝えられておりますが、特にこの問題は、兵器のいわば国産化路線を守る、そのための新しい価格体系の確立ということを示す動きになるわけでありますが、もし防衛産業においてインフレスライド制ということで確立しだしますと、結論的に言えば、政府の政策は、総需要抑制という形で事態を悪化させ、悪化させた事態については、企業インフレから守るという形でしか政策が展開されていないではないかと言わざるを得ないのであります。それに対して、われわれは、もう少し現在の事態に対しては前向きで、主体性を持って向かってくれということを要望したいのであります。短期的な場当たり的な政策をやっているうちに何とかなるという形ではなくて、もっと国民生活に基盤を持った政策目標というのをきちっと立てるということ、そうしてその政策目標のもとに、いろいろな各政策体系を体系化するということが非常に大事だと思います。  たとえば、電力料金を上げる、上げない、それ自体については善悪は論ぜられないのであります。それを国民経済の中でどのように位置づけるかという、そういう体系の中でのみ、その問題が処理される。たとえば超過利潤税の問題もこれからいろいろ問題になりましょうが、これも、投機行為に対する単なる抑制という問題じゃなくて、ビルトイン・スタビライザーとしての機能を持たせるということへの制度化の一つの足固めにするとか、あるいはそういう超過利潤をたとえばどこに使うかという、そういった関連ですね、政策の、そういったことをもう少し考える必要がある。特にミクロ的な政策、日本経済政策のいわば不在は、すべて個別企業の行動で解決されるというのがこれまでのしきたりでございまして、たとえば、変動相場制導入のときの自主レートの設定のしかたやなんかを見ましてもそうでありますが、今回の石油危機に関しましても、全体としての政策不在の中で、個別企業的なそういう解決がどんどん進んできている。それは企業の行動にとっては一つの合理的な基準を持つと思うのでありますが、国民経済的に見ますと、大きな不均衡を生ずるわけであります。これについては、やはり政策問題で歯どめをかけるほかはないというふうにわれわれは考えます。そのためには、長期かつ構造的な政策をとれ、しかも、そのために、それを可能ならしめる執行手段についてもう少し具体的に煮詰める必要がある。  たとえば、石油開発公団の問題一つあげましても、昭和四十二年に発足して以来、この機能がほんとうに……。石油の問題が日本経済影響を与えたときに、これが電力とかガスとか、しかもその経営体が各個別的な形で存在するために、影響のあらわれ方がばらばらで、非常にとりとめもない混乱状態が起こるということに対して、石油問題をもう少しナショナルなレベルで一元化する、そのいわば解決手段として、石油開発公団の機能、公社の機能を生かすということなんぞは、もっと前から考えられてよかったのじゃないかと思うのであります。一言にして言いますと、今日の資源問題等々につきましては、私はいま石油開発公社の例であげましたように、思い切った社会化が必要だろうと思います。それは個別的な、ミクロ的な行動では解決できない、そういった問題をもっとナショナルなレベルに問題を移しかえて処理すると、そういうふうな形でなければ、とうてい問題は片づかないところに来ているというふうに感ずるわけであります。  それと、それを実現するには、しかし時間がかかる。したがって、さしあたり何をなすべきかという短期対策が要求されるわけであります。これにつきまして強く要望したいのは、短期政策のイメージを変えろということであります。どういうことかと申しますと、これまで短期決戦とか短期政策というのは、短期に物価を引き下げてしまうのだというニュアンスで使われてきたと思うのでありますが、以上お話ししましたように、現在の日本物価問題は、短期政策をもってはとうてい片づかない、むしろそう思っていただいたほうがよろしいと思います。したがって、真の意味での短期政策は、その当面進行しているインフレに対して国民生活を保護するということから、ともかくスタートしなければいけない、これがほんとうの短期政策だと思います。そういう短期政策をとりながら、徐々に長期的な構造政策につないでいく、こういうことがたいへん必要だろうと思う。  最後に、そういう政策を展開する土台として、日本の過去の高度成長の構造に一定のショックを与えなきゃいけない。いま日本経済は転換期に来ております。長い高度成長過程で労働条件低下し、実質賃金は国際比較では上がっておりますが、生活水準低下は目をおおうものがある。こういう構造自身をこわさなきゃいけない。それは終局的には政策体系をもって補完さるべき問題ですが、さしあたり、短期政策との関連で申し上げたいことは、生産性を越える賃上げを実現するほかないということであります。したがって、これは鉄鋼の例であげますと、実際、鉄鋼産業なんかでは賃金上昇賃金コスト影響を与えておりません。賃金コストは下落しております。生産性本部の統計をもってもそうであります。したがって、一定賃上げと製品価格の安定にたえ得る構造を持っております。したがって、そういう形で、日本の分配構造に対して一定の衝撃を与える必要がある。それから来る混乱は当然あります。しかし、この問題はミクロ的に解釈してはならない。たとえば中小企業賃金が上がればもたない、これはミクロの論理であります。そうでなくて、安定成長としては減税と賃上げが最も最適だというのがわれわれの主張であります。設備投資、防衛産業、そういったもので成長が意味もなくふくれ上がる成長から、大幅賃上げと減税等々によるモデラートな安定成長に変えるいまは絶好な機会だと思います。そのためには、過去の高度成長のパターンであった生産性に合わせろという発想そのものを変えなきゃいけない。そのためには分配構造の変化というのは当然なことでありますが、生産性を越える賃上げというのは、日本経済が当然これは構造転換のためには味わわなきゃならぬ一つのショックだろうと思うのです。これを政策的にいかに補完するか。そういった形で問題を前向きに解決していただきたいというふうに考えるわけであります。  以上でございます。(拍手)
  7. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) ありがとうございました。     —————————————
  8. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) 続いて藤野公述人にお願いいたします。(拍手)
  9. 藤野正三郎

    公述人藤野正三郎君) 私の公述は、大きく分けまして三つの部分からなります。第一は、最初に、簡単に長い目で見ました経済の動向あるいは景気の状況について申し上げます。それから第二に最近の物価情勢に関連して申し上げます。そして第三に政策的な問題ということに触れたいと思います。  そこで、まず第一に、ここ二十年ぐらいの間の日本経済の動きはどうであったかということを考えてみますと、昭和二十九年、三十年ごろから四十年ごろにかけて一つの中期的な循環的変動がございます。それから四十年ごろから最近にかけてまた一つの中期的な十年ぐらいの周期での循環的な変動が起こっているようであります。この間、日本経済は非常に高い成長率を示したわけでございますけれども、その成長率が、この二十年の間で、先ほど申しました約十年間ぐらいの間隔をもって循環的に変動しているわけであります。その間、この循環的な変動に非常に大きな影響を与えておりましたものは設備投資でございまして、設備投資の対GNP比率というものは、やはりこの十年程度の長さで大きくなったり小さくなったりしているわけであります。  ところで、しかし、そういう十年程度の変動を越えて、さらに二十年ぐらいの周期を持った変動が過去百年間ぐらいの日本経済について検討するときに見られるわけでございますが、そういう変動が昭和三十年ごろから最近にかけて起こっているように私は考えます。ただし、戦後の状況は単にそういう循環的な変動だけで考えられるものではなくて、戦争による技術革新の中断といったことを非常に大きな要因といたしまして、ここ二十年間というものは非常に大きな技術革新期であったと思います。しかし、それがいまや一つの大きな壁にぶち当たって日本経済は非常に大きな方向転換をせざるを得ないような状況になってきているというぐあいに考えられます。その間、そういう方向転換を要求するような要因として国際通貨の問題、あるいは最近では石油危機に見られますような資源の制約、あるいはさらに、もう少し一般的に考えますと、ここ百年の間では、日本においては雇用の状況が、いわば不完全雇用と申しますか、あるいは潜在的な失業というような状態が見られたわけでありますけれども、その雇用条件が非常に大きく変わってきている。こういった点から、日本経済はこれから非常にこれまでとは違った経路を歩まなければならなくなってきていると思います。  その間にあって、実質GNPを雇用量で割った生産性と、それから実質賃金率の動きをながめてみますと、ここ百年の間においては、戦前におきましてはGNP生産性とそれから実質賃金率とは長い目で見ますとほぼパラレルに上昇してきたわけであります。つまり、生産性が一〇%上がれば実質賃金率も約一〇%上がるというような形で動いてまいりました。ところが、戦後におきましては、この実質GNP生産性上昇率に比べて実質賃金率の上昇率は低い、したがって、生産性の伸び率に比べれば実質賃金率の伸び率が低いというような状況が見られました。が、しかし、この労働市場というのは長い目で見ますと相対的に競争的な状況であって、したがって、この戦後の実質GNP生産性実質賃金率の動きの開きという戦前に比べての相違というものは、これから先には修正さるべき段階に来ているのではないか。修正さるべきと申しますか、修正されざるを得ないであろう。経済的な実勢として修正されざるを得ないような状況に入ってきているのではないか。したがって、これからは実質GNP生産性上昇に比べて実質賃金率の上昇率のほうが高くなって、それがほぼ両者の動きがパラレルな動きになるような状況まで実質賃金率の上昇率のほうが高くなるであろう。そしてその間において、そういう実質賃金率の上昇を媒介としながら物価上昇していくであろうというぐあいに私は判断しております。  これが長い目で見ましたときの現在の状況に関する私の考えでございますが、次に、最近の物価状況をどう考えるかということに入ってまいりたいと思います。説明に筋を通しますために話は少しかたくなってまいりますけれども、初めに、物価がどういうぐあいに動くかということについて簡単に御説明しておきたいと思います。  企業生産を行ないます場合には、これだけほしいと考えておる利潤がございます。これは要求利潤と呼んでもよいかと思います。生産に必要ないろいろのコストにこの要求利潤を加えて計算した価格、これは企業の要求価格というぐあいに呼んでもよいと思います。しかし、実際の価格あるいは物価は、この企業の要求価格に一致するわけではございません。場合によっては、実際の価格はこの要求価格より高くなることもあるし、あるいは低くなることもあるわけであります。要求価格以上に実際の価格が上がりますと、その場合には企業は超過利潤を得ておることになりますし、逆の場合には要求利潤も実現できないというような形になるわけであります。こういう超過利潤はしからばどういうような要因によって動くかということを考えてみますと、これは生産物の需要供給関係を反映して変動するであろうというぐあいに考えられるわけであります。つまり生産物に対する需要供給をオーバーするときには企業の要求価格以上に実際の価格は上昇する、逆の場合には実際の価格が要求価格以下に落ちていくというぐあいに変動すると考えられるわけであります。  こういうような事情を背景にいたしまして、実際の価格、つまり物価上昇率インフレ率というぐあいに呼びますけれども、このインフレ率は二つ要因から説明されると考えられます。第一は生産物の需給状況であります。それから第二は要求価格の上昇率であります。つまり需要供給をオーバーほど物価上昇率は高くなるし、それから要求価格の上昇率が高くなるほど物価上昇率も高くなる傾向があると思います。第一の要因物価に対する需要面からの影響でございますし、それから第二の要因物価に対するコスト面からの要因であります。  以上のようなことを背後に置きまして、最近の物価情勢をどう考えるかという点を検討いたしてみますと、まず第一に考えなければならないことは、その需要の側面でございます。昭和四十七年あるいは四十八年度の国民総支出の伸びを見ますと、これは非常に大きな値で伸びておるわけでございますが、四十七年度にはこれが一七・四%でございました。そして四十八年度はこれが二一・九%という値を示しておるわけであります。その中で四十七年度には在庫投資の伸び率は六二%であります。それから民間住宅建設の伸び率、これが三四・二%、政府固定資本形成の伸び率が二五・九%、それから個人の消費支出も一五・三%、政府の財貨サービス経常購入も一六・三%、民間設備投資も一四・五%、こういうぐあいに総需要の構成項目が軒並み高い比率を示しております。それから四十八年度におきましては、この総支出の中で一番成長率の高いのは在庫投資でございまして、それが六四・一%、それから企業設備投資も二八・六%、民間の住宅建設、これが三三・九%、こういうぐあいに非常に高い伸び率を示しているわけであります。こういうことから四十七年、四十八年にかけて、それから最近にかけての状況というのは、基本的にはデマンドプル的なインフレーションであったというぐあいに考えられるわけであります。  このインフレは、しからばどういうぐあいにして起こってきたかということを考えてみますと、これは昭和四十六年八月のニクソンショック前後のところから国際収支が非常に大幅に黒字になりまして、それに伴って現金通貨の量が拡大する、それとともに預金通貨の量も拡大する、つまり貨幣供給量が非常に拡大したということがございます。そういうことが総需要を刺激して、そして今日のこの物価上昇を呼び起こしているというぐあいに基本的には考えられるわけであります。その場合、金融的な側面でどういうことが起こっておったかということをまず考えてみますと、マーシャルのK——このマーシャルのKと申しますのは貨幣供給量のGNPに対する比率でございます。が、このマーシャルのKは、一九七二年六月、つまり四十七年の六月ではかりますと〇・二九二という値であります。そして昨年の六月にはこれが〇・三一〇という値をとっております。ところが、ここ百年ばかりのこのマーシャルのKの動きを見てみますと、この昨年の〇・三一というのは過去最高値であります。もっともこのマーシャルのKという値は経済成長していくにつれて上昇していく傾向がございます。そしてこの戦後のマーシャルのKの値というのは、戦前の傾向を引き延ばした場合に、それ以下に位しておりました。そして最近ではその戦前の傾向線上に値が返ってきたように思いますけれども、その場合問題になることは、最近においてきわめて急激にこのマーシャルのKというのが大きくなったということでございます。つまりGNP、日本経済生産の規模に対して貨幣供給量というものが急速な勢いでここ二、三年の間に非常に大きくなってきたということであります。それは先ほど申しましたように四十六年の八月前後のところから国際収支が大幅に黒字になった、それに伴って貨幣供給量が非常に増大したわけでございますが、そのことと密接に関係があるわけであります。  当時、私は、その四十六年八月よりも一、二年前から為替相場は変動相場制に移らなければならないということを主張しておったわけでございます。それからまた法人税は引き上げられなければならないということを主張しておったわけでございますけれども、そういう事態に対する政策当局のポリシーミックスはきわめて対応がおくれた。そのことのために今日のデマンド・プル・インフレーションということが基本的には発生していると考えられます。その場合に、このインフレーションがどういうプロセスを通って起こってきたかということを考えてみますと、まず最初に国際収支の黒字から国内通貨の増大が起こった。その国内通貨の増大は、最初の時点では国際通貨体制の動揺というようなことがございまして、先行き不安ということから国内での物的な投資というものを刺激はしなかったわけであります。そこで流入した国際通貨、それに伴う国内の貨幣量の膨張というものは、最初の段階では株式あるいは土地に対する投機というものを誘発したわけであります。このことはいろいろの側面から明らかにすることができますけれども、ここではそれには立ち入りませんが、しかし、そういう株式のブームあるいは土地ブームというものがやがては一般の商品に対する投機的な需要というものを誘発してきたように考えられます。それが最もシャープな形であらわれてまいりましたのがこの石油危機に伴う物価上昇であります。その少し以前の段階から、先ほど申しましたように四十七年度、四十八年度を通じて在庫投資は非常に膨張したわけでございますが、この在庫投資の膨張というのは期待インプレーインフレの期待に基づいて企業が在庫をかかえ込むということによって生じたと思います。そういうことから全体としての需要膨張し、その需要膨張の結果としてインフレーションが発生しておるというふうに考えられるわけであります。  そのとき問題になりますことは、物価上昇いたしますと、つまりインフレ率がある高い値をとりますと、そのことが将来に対してさらにインフレが進行するのではないかというような期待を起こさせる、つまり期待インフレ率が高くなってくる。期待インフレ率が高くなると、将来値段が上がるだろうと思えば、当然合理的な行動としてはそこでいろいろ商品をかかえ込むということになります。人々が、企業が、あるいは一般の家計がそういう商品をかかえ込むならば、それは需要を誘発するわけでありますから、再びインフレ率は高くなってくる。そうすると、実際のインフレ率と期待インフレ率の中で追っかけごっこが始まってくる、これはきわめて危険な状況であります。そういうことが最近では起こりつつあると思いますが、ただ、それが最近議会の追及などによってある程度その構造に変化が見えつつありますけれども、なお実際のインフレ率と期待インフレ率との間の追っかけごっこの危険というものはなくなったわけではないと思います。そういうことから最近のインフレーションというものが発生してきておると考えられるわけでございます。  それでは、総需要調整策が完全に成功した場合にインフレがおさまるかというぐあいに聞かれると、私は、そうは必ずしもならないというぐあいに考えるわけであります。ただし、一つその前に申し上げておかなければならないことは、最近の状況は、需要の増大ということを背景にして、いわば超完全雇用の状況が起こっておったということであります。それは、たとえば求人倍率、これは職安における求人数の求職者数に対する倍率でございますが、つまり、労働の需要供給に対する比率というふうに申し上げてもよいかと思いますけれども、これが四十八年の十月には二・三という、需要供給の二倍以上であるというような状況になっておったということをここで注目しなければならないと思います。で、これは季節修正値ではございませんけれども、季節変動を修正した値でも、四十八年の七月−十一月にはこれが約一・九というような値をとっております。非常に超完全雇用の状況にある。もちろん、最近ではややこれが下がっておりますけれども、なお一より非常に大きな値をとっております。こういう超完全雇用の状況ではインフレーションが起こってくる。しかし、それがここで引き締め政策がとられて、たとえば求人倍率が一近くの値をとるようになったとしても、インフレーションがおさまるかというと、私は必ずしもそうならないだろうというぐあいに考えるわけであります。と申しますのは、現在の日本経済においては、完全雇用を維持するということは、これは基本的な要請でございますが、経済が完全雇用の状況の近くにございますと、そこでは労働需給の関係から貨幣賃金率が上昇する傾向がございます。で、そのことが、先ほど申しました、最初に申しました企業の要求価格の上昇にはね返ってくる、その要求価格の上昇ということが、やがてはインフレ率を高い位置に押し上げるであろうと、そういうぐあいに考えられるからであります。したがって、たとえここで需要調整政策が相当程度とられたにしましても、インフレーションというものはここでストップするわけではない。これからも、したがって、将来に向けて考えた場合には、なお相当高いインフレ率が維持されるのではないかというふうに考えられるわけであります。  で、そうした場合に、それでは対インフレ策としてどういうことが考えられなければならないかということでございますが、これは先ほど申しました期待インフレ状況ということを十分にここで考えなければならないと思います。で、実際のインフレ率がやがて期待インフレ率を高めて、それがまたインフレ率を押し上げるというような、そういう追っかけごっこが起こっているような状況では、期待の構造を急激に変える必要がある。それが現在のインフレ対策の基本ではないかと私は考えます。で、そうするためにはどうしなければならないか、それはここでは詳しい理論的な検討には立ち入ることはできませんけれども、急激に引き締めをやる、そしてその期待の構造をくずす、期待の構造をひっくり返す、そうして、おいて、これは完全雇用を維持するということは片一方に要請されますので、徐々に引き締めを解除していく、引き締めの解除は急激にやってはいけない、引き締めの解除は徐々にやる、引き締めは急激に行なう、こういうことが基本的なやり方として考えられなければならないのではないかと思います。  そうした場合に、金融政策というものを考えてみますと、昭和四十七年、四十八年は貨幣供給量の成長率は二〇%から三〇%という高い値をとっておりました。これはまあ非常に高い成長率でございまして、私は、もしも実質成長率がたとえば八%であるとするならば、貨幣供給量の成長率は二八%程度が適当であると考えます。これはなぜそうであるかということは、ここでは詳しく立ち入って御説明をいたしませんけれども、一六%ぐらいが適当であろうかと思います。そういたしますと、四十七年から四十八年の貨幣成長率、貨幣供給成長率というのは、二倍にはならないけれども約二倍ぐらいであったというわけであります。そうして、最近では、この貨幣供給量の成長率というのはマイナスになっているようでございますけれども、長期的に見て一六%程度あるいは一六、七%程度というところに持っていく必要があるとするならば、ここですぐこの引き締めを解除するということは、さしあたって考えるべきではない。四十九年、五十年をならして言えば、貨幣供給量の成長率が五%ぐらいならば、四十七年、八年と平均してみて、長期的に見て、先ほども申しました一六%台ぐらいになると考えられます。したがって、そういうような観点から金融政策は行なわれなければならないであろうというふうに私は考えます。  それから税制の問題、財政の問題でございますけれども、今年度の税制の内容を見てみますと、法人税の増税ということがございますが、これはまあ私は基本的に賛成でございますが、非常に時期を失した、少なくとも三年か四年ぐらいおくれているんじゃないかというぐあいに考えます。それから所得税の減税でありますが、これはインフレに対する対策ということが一応うたってございます。なるほど一応もっともに聞こえるわけでございますが、これは基礎控除の引き上げということを別にすれば、基本的には来年度についての税制の改革というのは累進構造を緩和するということであります。しかしながら、もしもインフレ利得というようなことが問題になるとすれば、それは単に法人税の引き上げということだけでなくて、インフレによって所得が増大した人々に対する税金ということも考えられなければならないと思います。それから、片一方においてはインフレ抑制という要請があるわけでありますから、ここで所得税の減税を行なうということは、私は非常に疑問に思うわけであります。むしろ、所得減税ということを行なうよりも、所得税の税率はそのままにしておいて、もしインフレ対策、インフレによる所得の減少あるいは資産の実質的な減少ということをカバーしようとすれば、他の対策がとられるべきであろうというぐあいに考えるわけであります。  その点について最も問題になりますことは、われわれの金融資産、たとえば銀行預金とか郵便貯金とか、そういったものは非常に低い利子率で預けられておるわけでございますけれども、われわれが預金といったものを考える場合には、そういう表面金利ではなくて、実質金利で考えなければならないであろう。もしも実質金利を考えますと、この実質金利と申しますのは、表面金利からインフレ率、つまり物価上昇率を差し引いたものでございますが、いまやこの実質金利はマイナスである。つまり、銀行預金をすればするほどわれわれの実質的な資産というのは減少するという状況であります。これは非常に富の分配にゆがみを生じておるわけであります。そういう点から言えば、ここで大幅な金利の引き上げをやるか、臨時金利調整法というようなものをはずしてしまって金利の大幅引き上げをやるか、あるいは、たとえば銀行預金といったようなものについては表面金利ではなくて実質金利で考える、あるいはインフレーションにスライドして金利を動かすというようなことが考えられなければならないのではないかというぐあいに考えます。そして、この金利の引き上げということは、長期的な効果もいろいろございますけれども、また他面では、インフレ抑制、さしあたってのインフレ抑制ということのためにも効果があるわけでございまして、そういう点からこの金利の取り扱いということは考えられなければならないであろう。  そういうぐあいに税制の減税ということを考えないとした場合には、それでは財政のインフレに対する対応はどういうぐあいに考えられなければならないかというと、先ほど申しましたように、急激に引き締めをやって、その後徐々に引き締めを解除していく、その徐々に引き締めを解除していく過程では、財政は支出のほうで追加予算なりで調整を行なう、そういう対応が必要ではないかというぐあいに私は考えます。  以上で公述を終わります。(拍手)
  10. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) ありがとうございました。     —————————————
  11. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) それでは御質疑のある方は御発言を願います。  なお、さきに申し上げましたとおり、下村公述人は所用のため正午に退出されまするので、念のため重ねて申し上げておきます。御質疑のある方は……。
  12. 西村尚治

    ○西村尚治君 それでは下村先生にお尋ねいたしますが、御立論、お話を聞いておりますと、最近の民間設備投資激減、総需要抑制の効果、そういうようなものからして、もうインフレは収束期に入ったということでございますね、とお聞きしました。ただ、需要超過、デマンドプルのインフレは、これは収束期ということでわかるように思いますけれども、お話にありました新価格体系への移行の問題、それからベースアップの問題、これが今後むしろコストプッシュのほうのインフレにいくのではないかというふうに私ども思っておるわけなんですけれども、先生のお話ですと、石油価格の引き上げ、いわゆる新価格体系に移行するのは、これは経済が全体として高値に移行するのであって、インフレではない、健全な正常な状態なんだというふうにこれは考えていいんですか、これが正常に移行さえすれば、便乗値上げその他さえなければ。そうすると、残る問題は、賃金のアップを、これをいかに適正にやるかということだと思うんですけれど、その新価格体系への移行というものはインフレと解する必要はない、この点をまず一つ、それでよろしいんでございますか。
  13. 下村治

    公述人下村治君) 仰せのとおり、石油価格だけでありませんけれども、国際商品の騰貴が日本経済に入ってきますときに、われわれはそれを受け入れて、それに適応することをくふうする以外にない。そのような状態は異常でも不健全でもないし、ましてインフレという形で議論するには値しない、早く適応することが大事であるということだと思います。
  14. 西村尚治

    ○西村尚治君 その点はわかりました。  それから、この石油危機というものを背景といたしまして、日本経済は高度経済成長というものはもう見込めないんだと、当分の間ゼロ成長が続くということです。したがいまして、ゼロ成長であるんだから賃金アップ、ベースアップなどもよほど心してやらなきゃいかぬという御趣旨だったわけですが、その根底になります、前提になりますゼロ成長の問題ですね。石油の量の問題でなくて、これから値段が上がったからということが制約になるわけですけれども、ただ、この石油消費量のGNPに対する弾性値、これはかつてはたいへん高かった——高かったといいますか、最近はだんだん低くなってきておるはずですね。二・二もあったものが、最近は一くらいになっておる。だとすると、ここでゼロ成長とまで言わなくても、数%の石油消費量の増というものは、したがってことばを変えれば、数%の経済成長は見込んでいいのではないかと、こういうふうに言う方もあるわけなんですけれども、こういう点については先生どういう御見解をお持ちでしょうか。
  15. 下村治

    公述人下村治君) これはもっぱら産油国側の態度にかかわることでありまして、われわれとして断定することのできないことだと思います。私としては、日本の立場からいって、エネルギーの基礎の非常に脆弱な日本経済が安定した形で経済を運営するとすれば、不安な条件先取りして、その不安な条件にコミットした経済運営を考えるよりも、安全な条件の上で安全な経済運営を考えていって、その上で事態が好転するならば、それだけそれを改善をしていくというような考え方のほうが合理的じゃなかろうかというたてまえで考えているわけです。そういたしますと、今日の産油国の立場は、油はできるだけ温存して、必要な所得の上昇値上げでもって実現しようという態度であることは間違いないと思います。これをどうやってくずすかということがわれわれの問題だと思いますけれども、相手の立場は年に何%ふやしましょうとコミットしているわけでもありませんし、将来にわたって石油生産は幾らふやしてもいいんだという態度をとっているわけでもありませんので、基本的に見ますと、現在程度の生産量を頭に置いて、それで値上げで収入をあげるというたてまえをとっている。それを前提にしてわれわれ考えるとすればどうであるかと申しますと、ごく大ざっぱにいいますと、ゼロ成長をがまんせざるを得ない、覚悟をした上で日本経済を健実に運営する、健全に運営するということを覚悟せざるを得ない状況じゃなかろうかと、そういうふうに考えるわけであります。
  16. 西村尚治

    ○西村尚治君 わかりました。ゼロ成長しか見込めないというのでなくて、ゼロ成長を覚悟して対策を考えていかなければいかぬ、そういうことでございますね。  石油の問題、今後産業構造の変化だとか、技術革新、そういうことで、いまの弾性値はさらにあるいは少なく、小さくできるんじゃないかと思うわけですけれども、この間新聞で見たんですけれども、日本経済調査協議会、これは先生メンバーにお入りになっているのかどうか、ちょっと承知しませんけれども、これが緊急産業調整策というのを提言しておりますですね。これによりますと、概略しかわかりませんけれども、成長率を落とさないで原油の輸入量を、技術革新、イノベーションによって、その他いろいろ行政指導によって、原油輸入を六%程度は減ずることができるというようなことが出ております。こういうものに対しての先生のひとつ御見解を最後にお聞かせ願いたいと思います。
  17. 下村治

    公述人下村治君) 現在の日本経済石油の使用のしかたというものが、いろんな形で節約といいますか、省エネルギーといいますか、いろいろと合理化する余地を持っていることはたしかだと思います。そのような努力がいま要請される。どうやってそれをやるかというのがわれわれの当面している最大の課題と言ってもよろしいと思います。いま御指摘になりました資料はその一つの答えでありまして、ぜひそういうような努力をしてほしいと希望するほかありませんが、六%の石油減少で現在の生産維持ができるという点は、これは一回限りそうなるという形で考えないとあぶないと思います。毎年毎年六%減らしていっても現在の生産が維持できるということではなくて、一回限りは六%減少でも現状は維持できると。その次は、今度は新しくエネルギー節約のイノベーションを導入しませんと、同じ石油ならば同じ生産しか維持できないということじゃなかろうかと思います。
  18. 戸叶武

    戸叶武君 下村さんの高度成長政策は、池田内閣以来、自民党の理論的な根拠というか、指導を与えてきた人でありますが、急にゼロ成長を打ち出したので一般も奇異な感じに打たれましたが、いまの質問応答を見ると、予測としてのゼロ成長でなく、ゼロ成長をしなければいわゆるインフレはとまらないんじゃないかというようにも受け取れるんですが、この高度経済政策のチャンピオンは西ドイツにおいてはエアハルトであり、日本においては池田さん、その先生下村さんということになっておりましたが、西ドイツにおいても、エアハルトのあの奇跡ということが問題になったとき、アデナウアーは、エアハルトは哲学を持たない、総合的な施策に欠けている、あぶないというので、食糧農林大臣のリベッタに対しては、あのようにしてグリーンレポートとグリーンプランとをつくらせて、第一次産業と重化学工業その他の成長率並びに所得のアンバランスが起きる、これを何とかして是正していかなければたいへんだという形において、日本と異なったドイツにおいては不均衡の是正が行なわれたと思うのですが、その辺の西ドイツと日本との違いというものは、その後においても日本の産業上における体質にあらわれてきておりますが、そういう問題に対して下村さんはどういうふうにお考えですか。
  19. 下村治

    公述人下村治君) 日本経済が、昨年からことしにかけまして、基本的に内在的な意味において弱体化したわけでもなければ、潜在的な能力を喪失したわけでもない。しかし、不幸にして石油供給条件が突然に激変することによって、われわれはそれに適応せざるを得なくなったというのが今日の状態だと思います。この条件の変化をどのように見るかについては、先ほど御質疑がありましたように、人によって考え方が違いますけれども、外部的な事情によって、日本経済を運営するために必要な基本的な条件の中で重要なエネルギーの条件が激変をした。この条件をわれわれはいかに扱うか、まず何よりもそれにいかに適応するかというのが今日の状況で、したがって、これまでわれわれが順調に高度成長の軌道をばく進しておりましたことを、いまのまま、これまでのままの姿で現状においても続けることはできない、それを考え直して新たな状態に適応しなければならない、それを覚悟しなければならない、こういうように考えるわけです。
  20. 戸叶武

    戸叶武君 石油ショック以来のエネルギーの条件が異なったというところにだけ問題をしぼっておりますが、石油の問題が起きない前から、すでに田中さんの列島改造論の暴走というものがインフレーション現象を起こしてしまったのです。にもかかわらず、この現実を無視して、田中さんが顔がひん曲がるほど力んで、インフレーションはないんだ、インフレーションと言うならば所得政策でいくぞというようなだんびらをして、そして労働攻勢に対処しようというような気配を見せましたが、きょう、あんたのお話を聞いておっても、春闘ベースアップというものがこのインフレーションの問題はかぎになるんだというような論理の展開で、手品師的な一つの切りかえをやっておりますけれども、だれが見ても、論理は巧妙だけれども、現実から遊離したところの、ザインに対する客観的な観察とゾルレンに対する期待とを混同した、哲学のない論理の展開という印象しか持てないのですが、石油ショック以外に——石油ショックだけが今日の状態を導いたおもな原因とあなたはあくまでも考えておるのでしょうか。
  21. 下村治

    公述人下村治君) 先ほど申しましたことは、石油ショックによって引き起こされた混乱事態は、今日すでに収束の段階に入ってるということであります。したがって、日本経済があと三カ月から六カ月ぐらいしんぼうして、事態の収拾のために落ち着いて冷静に適応の努力を進めますと、卸売り物価暴落をする、消費者物価も数%下がる、そういうような変化が必ず起こるべき状態になっていると思います。ところが、この状態がそういうふうな推移をたどらないで、私は、おそらく相当ハイペースのコストプッシュインフレになるであろうということを申し上げました。それはつまり、これから起こるべき事態として、春闘による大幅のベースアップ日本経済の安定的な状況を根底的にくつがえそうとしておる。それがなぜそのような形でコスト・プッシユ・インフレになるかということは、日本経済がこれまでの高度成長の軌道をたどり得ない状況に入ったからであるということであります。高度成長の軌道に乗っておりますならば、生産性が年に一〇%ないし一五%ぐらい上がると思います。したがって、賃金が一五%から二〇%ぐらい上がるところまでは何らコストプッシュになりません。インフレは全く起こらないで済みます。したがって、かりにベースアップが二五%であるといたしましても、予想されるインフレは一〇%か一〇%未満かというような程度——これも相当インフレですけれども、しかし、その程度に高度成長が続きますならば事態はそれだけ緩和される状況である。しかし、不幸にして今日の状態ですと、ゼロ成長を四十九年度は覚悟せざるを得ない状態にあります。そういたしますと、この経済ベースアップのパーセンテージに相応するだけのコストプッシュインフレにならざるを得ないということを申し上げたわけです。
  22. 加瀬完

    ○加瀬完君 下村先生にお伺いをいたしますが、先生がいま御説明のように、石油ショックというものを要因とする今後のインフレの対策というものは、おっしゃるとおりな経過を踏み得ると予想をされるわけでございます。しかし、いま戸叶委員から指摘がありましたように、インフレはすでにその前に種々の要因で発生をしておりますし、その要因のために、一般の国民実質賃金を非常に切り下げられておるわけであります。したがいまして、名目賃金のいかんにかかわらず、生活を維持するためには実質賃金の要求というものは国民の側から出てしかるべきでありますし、それに対する対策というものは、政府の施策として事前に行なわれなきゃならないことも当然だと思うわけでございます。そこで、意見を差しはさんで恐縮でございますが、お伺いをいたしたいのは、石油ショック以前のいろいろの要因で起こってまいりましたインフレというものに対する対策というものが、いまのような政府の施策だけで解決ができるか。そして、その要因というのは、国民の側がつくり出した要因ということよりは、政府の施策のまずさが幾つかの原因になってるという点も多いわけでございますから、それに対して、繰り返すようになりますが、切り下げられた実質賃金をある程度の生活のできる実質賃金にと要求することは、これは当然なことではないか。これに対して、生活の安定という方策を立てるのもこれは政府の義務ではないか、そのように考えるわけでございますが、この点、政府の施策についての先生の御見解はございませんか。
  23. 下村治

    公述人下村治君) 石油危機発生直前状態において、日本経済国民生活を非常に混乱におとしいれるようなインフレ的な状況に入っておったという点については、私は、残念ながら同意できかねるわけでございます。  二つの事実を申し上げますが、一つは、賃金消費者物価上昇率の比較であります。昨年の七月の時点において申しますと、賃金上昇率は、前年同期に比較いたしまして、ちょっとはっきりした数字——−二六%ですか、二六%の上昇ということでありますが、その時点において消費者物価上昇率は一一%ぐらいであります。つまり、経済状況は、昨年の七月前後の段階において、賃金問題に関して申しますと、実は経済状況に比較的にふさわしい状態を実現しつつあったというのが事実ではないかと思います。これを別の側面から申しましたのが、先ほどのお話の中で申し上げました、昭和四十五年を基準といたしまして、四十八年の九月、石油危機発生直前の時点において賃金は六二%上がっている、しかし、生産性はその間四六%しか上がっていない、つまり、生産性上昇率よりもやや大き目の賃金上昇があって、そして、それがその当時あらわれておりました、いわゆる物価騰貴と言われますけれども、これは私は低過ぎた物価を修正する動きであったと見なければならないと思いますが、その中で吸収され、その中で実現されつつあったということが当時の状況じゃなかったかと思います。  もう一つの事実を申しますと、昭和四十八年の国際収支でありますが、四十八年の国際収支は、輸出超過が四十億ドル、貿易外の赤字が四十億ドル、経常収支均衡という、ほぼそういうような形になっております。しかし、輸入が実は経常的な輸入よりもふくらんでおりまして、経常的に必要以上の輸入として二十億ドルぐらいはおそらく入ったと思われますけれども、そうしますと、実質的な状態は輸出超過六十億ドル、経常収支二十億ドルの黒字というような状態であったと考えてよろしいと思います。そのような経済状態、きわめて安定的な姿、日本経済力にふさわしいような状態日本経済力よりも押え過ぎた状態が前年の四十六年の状態であったわけですが、四十七年は、それをいわゆるインフレと呼ばれるような急膨張の中で実は修正して、適度の状態に是正をした姿があらわれておった。その中でいま申しますように、生産性上昇率よりもやや高目賃金が実現されておったというのが昨年の石油危機発生直前事態ではなかったかというふうに私は考えております。
  24. 加瀬完

    ○加瀬完君 この四十八年の七月以前、本年度の予算の方向として、政府は、いままでの高度経済成長というものに一応足踏みをさせて、福祉優先の政策をとるという大きな一つの方向を示したわけですね。したがいまして、四十八年の予算を組む当初から国民生活をもっと優先さすべきじゃないか、こういう基本線に立ってみた場合、一体、賃金のあり方なり、あるいは国民生活の基準のあり方なりというものが、いままでの高度成長政策の犠牲になっていていいということは否定されておるはずだと私は思うんです。そして、確かに先生のおっしゃるように、賃金上昇率消費者物価というものを比べればそういうことになろうと思いますけれども、賃金の基準というものが、外国と比べましても、はなはだしく、分配率からいっても、あるいは生活の程度からいっても低い。したがいまして、福祉優先というなら、その生活の基準というものを、憲法にも示されておるわけですから、ここではっきりさせて、底を上げなきゃならないという要求が日本には当然あるんじゃないか。そうなってまいりますと、ただ、高度成長政策というものを土台に置いてそれを進める、便宜的に賃金とそれから物価上昇率というものを比べるだけでは済まされないんですね。新しい政治の課題というものをいまの政府は背負っておるわけではないかと思うんです。そういう考え方に立ちまして、私は、四十八年七月以前の、インフレと言って悪ければ、少なくも国民生活にとっては高度成長優先政策と財政の投資のあり方の不均衡というものを是正しなければならない、そういうことが指摘をされるんじゃないか。そうなりますと、賃金の問題というものはあらためて考えられなきゃならない、そういう課題になるのではないかと思いましてお伺いをしたわけでございますが、先生のいままでの御主張の、高度経済成長政策というだけでは解決のできない面が現実に生まれておるという点は、先生は、どう新しい方向としてお考えなさっていらっしゃるでしょうか。ゼロ成長ということも、これは現実に照らしまして、いままでの御主張のとおりにはやっていけないという御修正の御意見と承っては間違いでございますか。
  25. 下村治

    公述人下村治君) 昨年、四十八年度の予算によって非常に顕著に変えられたことは、社会福祉あるいは社会保障関係の支出が急膨張したということではなかったかと思います。これは政府予算では移転的な支払いという形をとっておりますから、通常の労働者の賃金上昇という形をとらないわけでありますけれども、したがって、実質賃金上昇相当大幅に去年は実現されておったんでありますけれども、それ以外に、財政を通じて社会福祉、社会保障が推進される形に四十八年度予算がその前の予算よりも大幅に変わったということじゃなかったかと私は解釈しております。  それから、高度成長にかわって、高度成長で解決できないことを解決すべき問題があるのではないかというような趣旨の御指摘があったと思いますけれども、この点について申し上げますことは、石油危機発生前の段階において私が主張しておりましたこと、考えておりましたことは、日本経済は、これまでの高度成長の延長の軌道ではなくて、減速の軌道に乗っているというように考えなければならないのじゃなかろうか。経済成長速度がだんだんとゆるやかになり、やがて十年から十五年たてば非常にゆるやかな成長状態、ほとんど目に見えないような微速度の成長状態に接近していく。ただ、その段階において、したがって昭和六十年とかあるいは六十五年というような段階において、日本経済は世界の第一位、世界の最高の水準経済一つ——日本だけが飛び抜けて高いということはおそらくないと考えておりましたが、アメリカや、あるいはスウェーデンと肩を並べて、世界の最高の水準経済にはなっているに違いない、その過程において減速が起こる、この減速の過程において、日本経済の内部においては設備投資割合がだんだん落ちていく、設備投資の増加がほとんど停滞状態横ばいに近い状態に変わっていく、そのかわりに、社会保障関係、社会福祉関係政府支出が急ピッチに増加をする、あるいは社会環境条件整備のための公共投資も急ピッチに充実できる、その中で、国民消費の経済全体の中で占める割合も、現在の五〇%そこそこのところから六〇%に近い方向に、つまり、先進工業国のすべてに共通な姿に変わっていくということになるに違いない。つまり、経済が順調に正常に成長する中において、これからは急ピッチで国民の福祉なり、国民の生活なり、国民の環境条件の整備なり——その中では特に公害防除投資などの問題もありますけれども、そのような条件の改善と充実が進行し得る状態になっていくのではなかろうか。石油危機によって私はゼロ成長に変えられてしまったということを非常に残念に思いますけれども、この状態に適応する以外にない。そうしますと、その状態に適応する中において最大限の努力をする以外にない。最大限の努力をする中で、総体的に改善の速度が前に予想した状態よりも悪くなりますけれども、しかし、その中で、経済自身はすでに相当高度の大きな規模の経済になっておりますから、この経済力を、着実にいままでよりは速いペース、高いペースで、福祉の充実、生活環境条件の整備、環境基準条件の改善のための努力を積み重ねるならば、ゼロ成長あるいはゼロに近い微速度の成長——低速度の成長かもしれませんが、そのような状態において、いままでよりははるかに急ピッチで事態を改善することができるということは十分に期待できると考えております。
  26. 矢追秀彦

    ○矢追秀彦君 下村公述人にお伺いいたします。
  27. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) ちょっと矢追君に。下村公述人は午前中の約束でありますから、はしょってお願いいたします。
  28. 矢追秀彦

    ○矢追秀彦君 簡単です。  ゼロ成長になる危険性の点を非常に強調されております。私も決してその点を否定するものじゃありませんが、二月の日銀の月例報告を見ますと、設備投資継続工事の堅調あるいは輸出の増加、出荷は非常に増しておると、そういうようなことで、依然として設備投資はふえておるわけです。もちろんこの三月、四月、これからの問題は確かにあると思います。それからまた、鉄鋼関係の四十九年度の計画を見ますと、高炉五社の設備投資を見ましても、もちろん新規着工の見送りの三社もございますが、やはり前年度比で四九%の増加と、また粗鋼生産計画を見ましても大体ふえておるわけですから、私は、こういった点から考えまして、またもう一つは、海外においてどんどんこれから製鉄所なんかも合弁でつくられると、こういうようなことも考えますと、先生の言われるように、はたしてゼロ成長になるのか、むしろそういう危険性を言われて、賃金をいま言われたようにとめるというふうな、所得政策の導入ということが強調されるための——非常に疑いを持って申しわけないんですけれども、そういう感もないではないわけでして、設備投資がこれから三月、四月だんだんとはたして落ちていくのかどらか。私は専門じゃありませんのでよくわかりませんが、少なくもこの二月の月例報告を見る限りは、少しは伸びておりますし、また、こういった一番中心である鉄関係がやはり設備投資をふやそうとしておる。いま少しは見合わせても、また落ちついた段階でふやす可能性が出ると。そうなると、やはり、いわゆる経済成長ということはかなりあるのではないかと。また、輸出が伸びに回ってきておりますので、先生が言われるような危険性というのはむしろないんじゃないか。私は、むしろいままでの基調ということは決して変わらない、そして高い値段になった上でそういったことはさらに続いて、ますます物価はあおられてくると、こういう可能性を、しろうと的考えで恐縮ですが、思うんですが、それに対する御回答をお願いします。
  29. 下村治

    公述人下村治君) いま設備投資について引用されましたものは、おそらくことしの初めごろの事情じゃないかと思いますが、この初めごろの状況は、つまり継続工事水準が非常に高いということだと思います。で、新しい機械の発注、新しい建設工事の着工は全面的に停とん状態に入ったというのが実情だと思います。これは現在まだ続いている気迷い状態と思いますけれども、これがどういう形で落ちつくかということについて、これはやや不明な点があります。気迷い状態を抜け出して計画を復活するかどうかということになりますけれども、そこで経済全体がどのような状態に変わっていくかということは非常に大きく影響すると思います。  今日の状態で考えますと、財政金融はさらに引き締めざるを得ない。この引き締めの浸透は現に相当進んでおりますけれども、結果もだんだんと表面化してくるということにならざるを得ない。そういうようなことを背景として考えますと、昨年のような設備投資持続をするという可能性は私は全くないと思います。昨年は、きわめて順調な、きわめて明るい見通しを持った背景の中で行なわれた設備投資であります。そのような、きわめて強い、明るい背景を持った設備投資と、今日のようなこんとんとした背景を持った設備投資とが同じ規模になるはずがないと考えるのが常識がと思います。今日の混迷した状態では、設備投資はしたがって相当減るというのが当然に予想すべき姿じゃなかろうかと思います。したがって、これは現実需要の流れ、現実経済の動きからいいますと、マイナスの方向に変わらざるを得ないような動きであるというように考えるほかないのじゃなかろうかと思います。  で、輸出について非常に好調であるという点の指摘がありましたけれども、この輸出の好調は、その裏返しを言いますと、国内の需要が停とんしている、あるいは国内の需要に見込みがない、したがって輸出に向かおうという形の動きでありまして、そのこと自身が、国内の経済はマイナスの方向に変わりつつある、相当それは変わらざるを得ないというような見込みが強いということを反映していると見なければならぬと思います。  その次に、それならば、それでも輸出がどんどん伸びれば、それだけ生産活動を回復する力になることは間違いありません。したがって、輸出増加がありますと、それだけマイナスになるべきところがマイナスにならないでゼロ成長になるというぐらいのことはせいぜい言えると思いますけれども、これが日本経済をどんどん成長させる、これまでのような高度成長のペースに戻すようなことがあり得るかどうかといいますと、それを引き出すに十分な輸出の増加といいますと、たいへんな輸出の増加だと思います。年に四割、五割というような輸出増加がこれからも持続をする、一年、二年、三年と持続をしそうだというような見込みがなければならないと思います。しかし、今日の世界経済状況背景として考えまして、日本だけがそんな規模で、そういうペースで輸出をふやすことができるかどうかというように考えますと、一時的にこういう姿が起こり得るといたしましても、それは持続することが非常にむずかしいことだと考えるほかないと思います。世界全体が不況状態に入っておりますし、世界全体が国際収支赤字であります。その中で、日本の輸出は各所で問題を起こしております。現在すでに問題を起こしている輸出が激増するときに、その激増が十一カ月、二十四カ月と続くということがあり得るかどうかというように考えますと、私どもは、もりちょっとそれを控え目に考えざるを得ない。控え目に考えるのが現実的であるということじゃなかろうかというふうに結論せざるを得ないわけです。
  30. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) よろしゅうございますか。それでは、公述人、御苦労でございました。お引き取りいただきます。(拍手)
  31. 嶋崎均

    ○嶋崎均君 新田公述人にお伺いをいたしたいと思います。私は、少し席を途中で立ったりなんかしましたので、あるいは聞き漏らしたところがあり、また当然お述べになって論理的に連なっているところを、大事なところを落としているのかもしれませんので、もしそういう点がありましたら御容赦を願いたいと思います。  一番最初にお聞きしたいのは、先生のお話がずっとありまして、最後のところの論理が私必ずしもよくわからなかったんですが、と申しますのは、この高度成長期を通じて、生活水準は下がり、労働条件低下をした。したがって、そういう状態を破壊するという意味で、分配の問題を根本的に考え直すという意味で、生産性を上回る賃金上昇をやることが一番大事なことだという論理だったと思います。  そこで、その前提になる生活水準なり、あるいは労働条件低下をしたというのは、相対的な問題であるのか、絶対的な問題であるのか。あるいはそれを、国際比較から見てどういうぐあいに受けとめるべきか。私は、少なくとも、日本のこの十七年間に及ぶところの高度成長の結果というものは、いまこの激しいインフレの中で、このうしろを、済んだことをながめてみますと、非常に輝かしさを増しておる時期であるというふうに判断をしておるにもかかわりませず、先生の認識とそこが根本的に違う。その根本的に違う理由をまずお話しを願って、そしてそれがこの生産性を上回る賃金という形で分配を変えるということに結びつく論理を、もう少しわかりやすく教えていただきたいと思います。
  32. 新田俊三

    公述人(新田俊三君) そうですね、最初に明確にしておきたい点は、国際的な賃金水準と国際的な生活水準の比較というのは全く別な問題だということを最初に指摘しておきたいと思うんです。普通、日本のたとえば実質賃金がイタリア並みになった、あるいは最近はフランスを抜いたわけですが、この比較のベースがフローの概念なんですね。そのフローの概念と申しますのは、主として家計簿調査を中心とした消費財中心のと申しますか、わかりやすく言いますと。それを対ドルレートで換算して、比較したら上がったとか下がったとか、こういう比較がいままでむしろ常識だったんじゃないでしょうか。  ところが、これはまあ考えてみますと、全く同じ生活をやっているのに、為替レートが変わりますと、あっちがよくなったりこっちがよくなったりというのは、理論的にもたいへんおかしなことだということは直観的にもわかるわけですが、もう少しわれわれが考えなきゃいけない問題は、生活水準という問題は、社会的なストックの水準を含めた総合的な指標として考える必要があるということなんです。これは現に、私ども学者というよりか、経済審議会の方々なんかがむしろ熱心に指標をおつくりになっていましてね、   〔委員長退席、理事片山正英君着席〕 御存じだろうと思うんですが、生活行動水準と生活環境水準という二つの指標、これをたとえば自由時間の充足だとか、下水道の普及率がどうだとか・教育施設がどうとか、それを総合指標化しまして比較したものがすでに出ておりまして、これはもうわりとポピュラーに使われ始めているわけであります。それをしますと、せっかく実質賃金でイタリアを抜いたといっておりながら、その指標が出たら、また三分の二に逆戻りしたわけですね。ですから、ぼくはその試みはたいへんけっこうな試みだと思うんです。つまり、生活ということをわれわれが考えた場合に、マーケットバスケット的な狭い概念でなくて、もっと社会的ストックを入れた問題としていま日本もまじめにこの問題と取り組まなきゃならぬ時期に来たことを、むしろ指標的に明確に示しまして、まだこれだけ劣っているんだということを、これ官庁統計ですが、示されたのはりっぱだったと思うんです。その意味で考えますと、インフレの問題にもつながるんですが、どうも高度成長のパターンというのは、国際的に見てたいへん、社会的な資本と申しますか、社会的ストックを犠牲にして行なわれたという側面が強いわけですね。ですから、いまこの論理を裏返してまいりますと、もし政府が、適切な政策でフランス並みの住宅政策をたとえばとるとかいう、物的給付政策がたとえば一方で進んでおりながら、そして実質賃金で抜いていくというんであればよろしいんですけれども、それが欠けるほど、実は労働者というのは自分賃金でカバーしなきゃならない。社会的施設の不足を非常に貧しい賃金でカバーしなきゃならないから、その現状が続いている限りは、それが大幅賃金のドライブになっていくというのは、これは私は客観的に見て、どっちの味方をするというよりか、当然な声だと思うんですね。  ですから、ストック・インフレーションということばが適切かどうかは、これ、よくわからないんですが、最近のインフレーションというのがフローの問題じゃなくて、ストック間の格差、たとえば資産を持っている人と持っていない人の格差を非常に広げていくという好ましくない性格がありますから、そのためには、政策的な前向きの適用が一番望まれるんだけれども、しかし、そういったものがなかなか出てこない。しかし、現実に生活しなきゃいけないから、それがちょうど、私先ほどの公述で、企業政府の政策不在をミクロ的な企業行動でカバーすると言いましたけれども、労働組合自身も、いまの段階では大幅賃上げでともかく家を買うとか、住むとかいう形をとらざるを得ないわけですね。ですから、この大幅賃上げをやったらすべて問題が解決するというふうに私は言っているわけじゃないんで、それは短期政策としてのむしろ政策の範疇で私が入れたのはそういうことなんです。ただ、これにつきましてはコストプッシュの問題だけじゃなくて、実はデマンドプルの問題、当然出てまいりますね。ですからこれに対しては、やはり政策的なワク組みであとで補完する必要があると私が申し上げたのは、それ自身はやっぱり独立しては論ぜられない一つの問題として考えているということですね。一言で言えば、やっぱりストックの問題、もう少し考慮してほしいという、そういうことでございます。
  33. 嶋崎均

    ○嶋崎均君 私の質問にどうも必ずしも正確にお答えにならないんでよくわかりませんのですが、私の見るところは、実質所得の伸び、それから消費水準というのは、諸外国と比べて飛躍的に上がっている。そのこと自体は、日本もわりあい統計の進んだ国だといわれておりまして、私は間違いのない事実であると、そこはそうだと思っております。それと、何というか、ストックの問題、これ、もちろん、あります。ストックというのは、日本は、ともかく戦争のときに裸になったわけでございますから、その後、復興期を経て成長段階に入ってくるという形の中で、やはり長期的にストックというものはふえていくはずだと、しかも日本で貯蓄率が非常に高いと通常いわれております。貯蓄率の裏は、どちらかというと固定資産形成であると、その中身は民間と公共部門とあるでしょう。しかし、その民間の中でも御承知のように、住宅の伸びというのも、それはどういう分け方をするかは別にして、相当高いストックの伸びを示しておることも事実でございます。また、政府の固定資産形成という数字をごらんになれば、御承知かどうかよくわかりませんが、諸外国から比べて貧しい財政の中で相当ウエートを占めておるということも現実でございます。  そういう意味で、確かに、長年の蓄積のある国と同じように論ずることはできないというふうに思いますが、為替レートの問題は、為替レートが変わったから、私は、日本の連続した生活が変わるというようなことは思っておりません。しかし、国際比較をする場合には、ゆがみが生じたものをレートで調整をするというのは、これは当然のことであって、その論理はどうもよくわかりません。しかし、そのところは前提条件ですから、私はあまり論争をしないにしましても、生産性を上回る賃金をやることによって分配を変える、労働者のそういうお気持ちは私はよくわかると思います。しかし、それは激しいインフレ過程を通じてしか問題は解決しないという結果になるということだけは、私はそうだと思います。その点はいかがですか。
  34. 新田俊三

    公述人(新田俊三君) 残念ながら、見解、逆でございます。賃金がたとえば上がることがインフレにつながるという、その論理のつなげ方がちょっとストレートに過ぎるんじゃないでしょうか。それは無条件に上がるのじゃなくて、たとえば自由市場のメカニズムを通じたら、コストが上がろうが何しようが、目一ぱい競争しているわけですから、上がるわけないですね。ですから、コスト上昇が価格引き上げに通じるには、必ず一定の市場支配力といった問題を通じないと、それは上げ得ない。あるいはもう一つは、これは需要条件の裏づけということが、もちろん、あるわけでありますけれども、少なくとも上げ得る条件は何だという問題をわれわれはやっぱり詰めて考えなきゃいけない。その場合に、生産性を上回る賃金といったことにつきましては、日本のたとえば分配構造が長期的にわたって低下してきていると、これはもうだれしも認めることですね。それが三〇%台という、国際的に見て非常に非常識水準であるということも、これは周知のことであると、これがいまの日本経済で長い間、高度成長で続けてきた一つの構造的側面なんですね。ですから、非常に片方で成長したということ、企業利潤が上がったということと、分配率が低下して、しかも社会的資本が不足していたという問題は、実は切り離せない問題なんで、密着した問題なんです。これに対してやっぱりわれわれメスを入れなきゃいけない。  ですから、国際的秩序への適用ということであれば、労働条件とか、そういう分配率とか、そういった問題について、まず国際的な一つの秩序、その水準にひとまず戻せと、これが大前提なんです。そのためには、低下した分配率が上がっていくというのは、日本経済に課せられた当然なぼくは修復過程であり、ある意味では矯正的な修復過程だろうと思いますね。ですから、その効果が、そういうことのプロセスが実は政策によって混乱なく行なわれるということでなくて、現在のところは、それが力関係を通した形でおそらく実現されていく過程だろうと思うんですが、高度成長の過去のパターンに対する衝撃ということばはちょっと表現上どうかと思うんですけれども、高度成長からの転換期に来ているという、その転換の意味を、まあ衝撃、転換点という意味で賃上げの与える影響とでも申しましょうか、こういったものが一定程度何らの混乱も与えないというのは、これはあり得ないと思います。  ただ、それがマクロ的な政策コントロールによって、国際的な、そういう少なくとも日本の労働者が、労働条件の問題一つ取り上げましても、なぜ問題にしなきゃならないか。たとえば有給休暇の問題一つあげましても、週休二日制の問題をあげましても、これは話にならないわけでしょう。ですから、そういった国際的に取り残されたスタイルをとりながら成長していたという、このやっぱりあり方自身を、経営者の方々もそれをいままでどおりやるんだという発想は全部お捨てになって、もう与えるものは国際的な水準まで与えて、その上で新しい秩序を考えるという意味で、私は矯正的な修復過程が現在のところ、ある意味じゃ好ましくない形かもしれませんが、起こる客観的必然性はあるということを申し上げているだけですね。
  35. 嶋崎均

    ○嶋崎均君 もう一問だけ。  おっしゃることもわからぬわけじゃないんです。しかし、私の言いたいところは、御承知のように、高度成長期を通じて民間の設備投資もこれは確かにふえた。分配率もそのために違っておる。分配率というのは、御承知のように名目的なものでやられるわけですから、そういう形になっている。そういう中で卸売り物価は安定をしておったと、そして、実質的な個人の所得が伸びるという点においては諸外国に比べて劣らない。こういうまあいい循環というか、楽観的な条件というのが確かに私はあったと思うんです。しかし、そういう楽観的な条件が失われてきたということについては、先ほど下村さんのお話を聞くまでもなく、私はそのほかにももっといろいろな制約条件があると、市場条件の問題もあれば、公害の問題もあれば、立地の問題もあれば、そういう意味で今後そういう設備投資を行なうということが非常にむずかしい条件というものがそろってきた。  そういう意味で、私は、経営者のほうも設備投資をしようとしてもなかなかできないという面と、むしろ、やってもほんとうに国際市場に売れるのであろうか、国内市場が開拓できるんであろうかと、さらにまた、公害費をペイできるんであろうかと、あるいは資源がほんとうに確保されて工場がフル稼働するんであろうかと、そういうことで非常に私は設備投資が落ちてくると思うんです。いやおうなしに、そういう形をとらなくても分配率というものは変わってくる。そういう過程で、より何というか、らせん状に上がる連年の何というか、賃金上昇というので、要するに設備投資が不可能になると。高度成長をささえてきたのは、民間設備投資とそれから消費、輸出、そういうものがちょうどなわをなうようにして伸びてきたと、一方のわらはもうなかなか継ぎ足しにくくなったと、そのときに、名目的に片方のわらだけでなわをないにかかってもなかなかなえるものじゃない。そういうやっぱり事態変化に対して考えていくときに、混乱をしてつくり直しするんだと、激しい物価上昇を経過する中で何とかなるだろうというような話なら別だけれども、急激なそういう変化というのは、やっぱりそういう事態の変化に対応した姿でないと物価問題は少なくとも解決しないように思いますので、その点いかがでございますか。
  36. 新田俊三

    公述人(新田俊三君) 急激なショックというのは、ほっておけばそうなるだろうということなんで、そのためには、たとえば私どもがよく例解するんだけれども、アメリカのウィリアムズ委員会報告書なんかが、たいへん参考になると思うんです。これはたとえば、日本からの輸出がアメリカ経済影響を与えると、その与えるということをあらかじめきちっと政策的にとらえて、そういう部門に対する労働者の、これ、雇用問題からまず入りますね。そして職業訓練をやり、産業間の移動をやっていく。ところが、日本には実はそういう前向きの政策がなかなか出てこない。言うなれば、つぶれた労働者はどこかで職場を見つけるだろうという形の、実は、私の言う事後調整的な政策が最も安上がりであるのは確かなんだけれども、大体そういう形で推移するのがいままで通例だったわけですね。  ですから、いまの状況に対する的確な政策的判断と申しますか、どういう産業をたとえばどのような形で調整していくのか。たとえばネガティブリストとポジティブリストというのを産計懇の方々が示されたのは、これは一つの行き方だと思うんです。それをどういう形で代替していくのか、こういった問題はマクロ的な政策適用でなきゃできないわけなんですね。だから、そこのところは、ほんとうは政策先行的なものが好ましいんだけれども、残念ながら、先ほどから繰り返し申しておるように、それがない。ですから、いまのところ、個別的な企業の行動での処理に対して、これは労働組合の側も個別的な対応をせざるを得ないわけだから、そこのところの論理というのが、もう労使のワクで考えられる問題でなくなっているということをむしろ強く指摘したいですね。  それから、そういった意味から申しますと、まあコストの問題さっきからひっかかるわけだけれども、まず第一に、賃金上昇賃金コストの増加は全く別なんですから、賃金が上がったからコストが上がるという、これはもうどこから見ても間違いですね。それどころじゃなくて、賃金コストが下がっている産業ほど寡占体制が強くなってきて、しかも、価格を引き上げる可能性があるということなんです。具体的に言えば、機械がそうだし鉄鋼がそうですね。ですから、この場合に生産性を越える云々と申しましたが、昭和三十五年からたとえば昨年あたりまで鉄鋼業の賃金コストが一三%ぐらい下落しておりますですね。ですから、この間の蓄積力というのはやはり高いものだと。ですから、混乱なくということについては、一方では国際的水準に応じるような賃上げに応じなさいと、そして、それをスライドさせていくということはチェックしなさい——これは両面作戦ですが、これは当分やらなきゃしようがないと思いますね。それに耐える力を持っていると思いますよ、私、日本企業は。ですから、これはもう一般論じゃなくて、具体的にそれぞれの産業につきましてそういう実態を調査して適切な指導をやるということは、もちろんその裏づけは必要ですが、主要産業における動向というのは、明らかに成長部門においては賃金コストは下落し、皮革であるとか、その他のいわゆる繊維であるとか、片方がめちゃくちゃに上がった平均値として与えられている。われわれは平均値で議論できないんです、価格というのは具体的にきまるわけですから。  ですから、その点から考えますと、一番問題のある、たとえば電力であるとか、あるいは鉄鋼の問題をわれわれが追及してきたのは、それは日本経済におけるキー産業であると同時に、その波及の影響の大きさ、しかも、その体質自身は、一定賃上げに応じながら価格を上げないで済む実はまだ力を持っているんだと。これはもう、政策指導の問題でして、そういうことをまた労組が代弁せざるを得ないというところに、また現在のいろいろな社会的混乱の原因もあると思いますけれども、衝撃という意味は、ともかく一回めちゃくちゃにしてしまえと、あとはどうにかなるという意味じゃ決してないわけです。そういう発想じゃこれからの複雑な経済機構というのは運営できないわけですから、あくまでも前向きで、したがって、総合的で構造的だという私の持論ですが、混乱なく転換が可能なんで、そういう力をぼくは日本経済は持っているかち、ぜひその意味での政策的な論争を生産的に進めていただきたい、そういう感じがしているわけです。
  37. 嶋崎均

    ○嶋崎均君 もう終わりですが、ちょっと私、舌足らぬところがありましたから、もうお答えは求めませんけれども、ただ、製造業なり、それから大企業の中でのいろんな問題と、それから中小企業なり農業なり、そういうものの所得衡平というような問題があって、要するに生産性格差インフレーションという問題が、そう認識されるかどうかは別にして、ずっとあったわけです。問題は、そこのところがなかなか容易に解決しなくて、たいへんな消費者物価の爆発になるだろうということを私は心配をしておるわけなんです。
  38. 羽生三七

    ○羽生三七君 二点お伺いをいたしますが、その第一点は、このゼロ成長論なんかもありますけれども、そうでないにしても、非常な低成長やむを得ないと見る見方は、おおむね資源の制約からみなそう言っているわけですね。石油資源等の制約から言っているわけです。ところが、価格の問題もありますけれども、石油資源問題が解決した場合、資源問題が解決した場合に、非常な道義的な観点から高度成長に反対なんという巨大資本は私はないと思うんですね。やはり利潤追求で、できるならば生産を伸ばしたい、こういう意欲の起こるのは当然だと思うんですね。そういう場合に、従来のような高度成長の性格をそのままにして、多少その年次をずらすとか、あるいは総額で幾らか比重を落とすとかいうことで、日本経済本質的な問題は絶対に解決しない。いわゆる、列島改造論に見られるような高度成長本質的な性格そのものを新しい形に軌道修正をしなければならないのが、当面しておるいまの日本問題点ではないか、これが一点であります。  それからもう一点は、いまの嶋崎委員との質疑応答の中でかなり明らかになっておりますが、いままでは需要超過によるインフレということが言われたんですが、いまは賃金コストインフレということが言われております。これがしかも春闘との関連で、当面の日本のいま非常な重要な問題になっておることは、これは疑いのない事実だと思います。したがって、この春闘等で、賃金の幅にもよりますけれども、いま言われておるような形の賃金アップがあった場合に、はたしてこれがいま政府が言っておるような大幅な賃金コストインフレ要因となるのかどうか、非常に私、その点は疑問に思っておりますので、以上の二点について御見解をお伺いしたいと思います。
  39. 新田俊三

    公述人(新田俊三君) 最初の問題ですね、実はこれ、産業構造の問題が密接にからんでいまして、戦略産業の交代といういま時期にちょうど日本経済が来ておりますので、その問題を根底に置いて判断いたしますと、どうも家電、自動車でリードされた戦略産業の構造というのは明らかに一巡してきている。したがって、いま企業の投資行動を一つ一つチェックしてみますと、ほとんどが社会資本の領域への投資なんですね。それがあるから、私が論述で申しましたような企業の産業間を越えるシステム型の提携も出てきているわけですが、そういう社会資本への投資、しかもそれが財政投資によって裏づけられるという形しか国内的要因としては成長要因が見当たらなくなってきているということは確かでしょうね。  したがって、ややこれは推理いたしますと、総需要引き締めというのは、私、それ自身は何ら前向きの性格を持っていないものだというふうに批判したわけですが、   〔理事片山正英君退席、委員長着席〕 ただ、いまの観点をつないでまいりますと、再び時期が来れば財政投資による成長を開始する、そのための一休みであるという感じがしないでもないわけですね。ですから、成長メカニズムに対する政策適用というのが、へたをしますと投資すること自身がたとえば日本経済の産業構造を変えていくとか、あるいは石油に対する依存率を変えるという質的効果を伴わないで、ともかく量的に政策を——社会資本に対する有効需要を喚起して成長を刺激すればいいんだという考えをまだ抜け切っていないとしましたら、それは何度やっても同じことだということですね。  四十七年度の補正予算の組み方、それから四十八年度、特に道路五カ年計画以下、初年度一斉にスタートさせたというのは理論的に見て非常にむちゃだったと思います。というのは、現在の公共投資の産業関連効果というのは非常に高いわけでして、大体一千億円の投資で二千三百億円ぐらいの生産誘発効果がございますから、あれだけのものを一ぺんにやりましたら資源不足にならないほうがふしぎなんですね。ですから、制約とおっしゃる方が多いけれど、実はそういう制約自身を生み出したというのは非常に行き過ぎた、また定見のない、間合いをあらかじめよく考えない政策自身がもたらした結末であるということを、やっぱりいま単なる外的条件として考えるんじゃなくて、これまでの政策運営のあり方に対する基本的反省が私は必要じゃないかと思いますね。それをやらないと総需要を引き締めてある程度落ちついたら、また単なる量的刺激政策、これは産業基盤の整備等々について将来つながっていきますと、長期的効果はありましょうけど、この政策運営は非常に細心の注意をもってやっていただかないと、必要もないところに道路をつくったりというようなことになりかねませんので、その点が第一の質問に対する私の一つの感想でございます。感想というのは、つまりこれからどう動くかというのは政策の運営いかんにかかわるので、単純な天気予報のような予測をやるわけにいかぬという意味が含まれておりますので。  それから第二点につきましては、これは学者間でもいろいろ議論がございますが、大幅賃上げが短期的な問題でコストプッシュにつながっていくかどうかというのは、これはもう労働サイドの問題じゃなくて、企業の対応関係が入ってくるという問題が一つございますね。ですから、これはインプレスライド制という形で無条件に上積みさせてはならないということですね、一つは。ですから、私が公述で言った新鉄鋼方式でちょっと心配なのは、標準コスト制の中に当然賃金が入ってまいりますが、これ公開しないと言っているわけですね。公開しない標準コスト方式というのは意味がないわけです。われわれにとっては何もわからない。それから第二に、これはアメリカでいうフルコスト原則にちょっと近くなっているわけだけど、マークアップ比率がわからないですね、コストがわからないということは。つまり上積みされる利潤の率がわからない。ですから、非常に利潤の幅が大きいときはコストが上がっても上げる必要はないという問題が出てくるわけですが、いずれにしましても、コストインフレの問題というのは、コストプッシュという形からしますと、率直に言って私は労働側が何ら責任を持つべき問題じゃないと思います。それは資材の高騰に加わってくるから苦しいというのは言いわけにならないと思いますね。その資材の問題については、これはまさに経営サイドの問題ですから、責任をその意味で転嫁してはならないと思います。  それから問題は、デマンドプルのほうですね。これにつきましても、大幅賃上げということ自身が、たとえば自動車だとか家電だとかという、先ほど嶋崎さんとの論争で出てきた問題ですが、これはフローに流れてきますと、ある程度の刺激要因になってくるということは考えられますが、現在、その点につきましては、むしろ見解としては、いきなり消費に回すんじゃなくて、ともかく目減りした貯金の補てんであるとか、あるいは将来の住宅購買に関して何らかの金の使い方を考えるという形の動きのほうが強くなってくるだろうという見方がいろいろ出てまいっております。−  率直に言って短期的には、私どもは、現在たとえば家が買えないから自動車を買うという具体的な行動が出てきているわけですけれども、これについては、やはりそのものをほったらかすんじゃなくて、大幅賃上げというものに対して一番必要なものに対する政策的な適用、たとえば住宅の問題なんかで具体的に同時に示してやらないとだめじゃないかと思います。この点、今年度の予算については私少々不満がございまして、住宅戸数がたとえば資材の値上がりで減るということは経済論理としてはいたし方ないかもしれないけれども、これはインフレ下の保護政策という形からしますと、インフレが来たから戸数をふやす必要があるわけですね。そういう形で一方の賃上げに対する政策的補完というのはほうっておけばデマンドプルになるわけです。  だけれどもデマンドプルの論理というのは、防衛産業とか、あるいは不必要な通貨の導入によって意味なく物価が上がるということに対しては性格が違うわけです、同じインフレといっても。ですから好ましいインフレーションという表現はあまり妥当じゃないけれども、ともかく賃上げが先行して、それに対して必ず物価問題については政策的な、特に資源の配分の問題もございます、やたらにあちこちにばらまくんじゃなくて、そこで重点的にこういう問題に資材は振り向けろという問題も当然体系的な問題として出てまいりますから、そういう組み合わせの上でぜひ賃上げインフレ論という問題については考えていただきたいと思いますね。  以上でございます。
  40. 矢追秀彦

    ○矢追秀彦君 藤野公述人にお伺いしますが、この間福田大蔵大臣が日本経済は投機経済であるということを言われたわけですが、これについて先生はどうお考えになっているか、お伺いしたいのです。  この投機経済ということは私もわかるわけですが、それが石油危機からこういう投機経済になってきたと石油危機だけが強調されておるわけでありますけれども、私はもちろんそれも一つだと思います。また、これから海外の資源も上がる傾向です。特にボーキサイトなんかに見られるようにOPECと同じような行動をとる可能性もいま出てきております。あるいは銅関係のCIPECとかいろいろな動きが出てきておりますから、そういうことも考えると、こういう投機的経済、投機経済ということもわかりますが、やはりこういうものができる下地というものが十分日本経済にあったんではないか。  特に昭和三十五年の所得倍増計画、高度経済成長日本が完全に転換をしてからずっと消費者物価が今日まで上がり続けておりますし、またそれが預金者の金利を上回るものになってきておりますから、どうしてもそういう投機的な経済というものの基盤が長い間続いた、そこへこういう石油危機というものが出てきて、こういうことになったと、狂乱物価だと。政府はしばしば石油危機のせいにし、あるいは海外の原材料の値上がりというものを原因にして、これは狂乱物価だ、あるいは投機経済だと、こう言われているわけですが、私はその基盤というものがやはり長く存在しておったと、こう考えるのですが、その点について、まず投機経済と言うことが妥当なのかどうか、また、その基盤に長い間政府のとってきた高度経済成長政策というものが私はあると言いたいんですが、その点に対する先生のお考えをお伺いしたい。
  41. 藤野正三郎

    公述人藤野正三郎君) 日本経済が投機経済かどうかということでございますが、その投機経済ということの定義と申しますか、内容をどう考えるかという問題が一つあるかと存じますが、ただ、それをもしも実際のインフレ率が上がっていく場合に、それに対応して期待されるインフレ率が上がっていく、しかも今度はさらに期待インフレ率が上がると実際のインフレ率がまた促進されて上がっていくというような状況だというぐあいに考えるとすると、ここ数年の間はそういう状況にあるんではないかというぐあいに考えます。  ただ非常に一般的に申しますと、これは通常の時期でも、実際のインフレ率とその期待されるインフレ率との間にはある関係があるわけでございまして、実際のインフレ率が高くなると一般的には期待インフレ率が高くなってくる、あるいは実際のインフレ率が小さくなると期待インフレ率が小さくなってくるという関係はあるかと思います。ただ、それが最近のところでは非常にインフレを促進する形であらわれているという意味では、投機経済にあるというぐあいに言ってもよろしいかと思うのです。  ただ、それがいつごろからそういう状況になってきたかというと、私の考えでは、それは石油危機以後ということではないのであって、少なくとも国際収支が大幅黒字に転じ始めたころから、したがって昭和四十五年あるいは四十六年の初めごろからすでにそういう状況が下地としてあったのではないか。それは実際的にはその時期にはインフレ率が高くなって、それがさらに期待の状況から企業の在庫を高めるとかあるいは人々の購入意欲を高めるという形でインフレを刺激はしませんでしたけれども、通貨面での膨張というようなことを通じてそういう下地をつくってきておる。それが四十六年の八月前後、あのニクソンショックの前後からそういう傾向が非常に強くなってきておる。あのニクソンショックによって一般的には非常に経済の先行きについて不確実な状況が起こってきたわけでありますが、その結果として設備投資というようなものはあまり大きくならないというような形になったわけでございますが、他方、それに対応して金融的なゆるみが出てきておったために、そのゆるんだ、あるいは手元に余っている資金というものが株式市場あるいは土地の購入というものに向かっていく、そういうことから投機に火がついて、それがやがては一般の財に及んできたというふうに私は考えます。  そういうことから申しますと、先ほど申しましたような意味での投機経済というのは、石油危機を契機にして起こったというよりも、それ以前、ここ二、三年の状況はそういう状況でないかというぐあいに考えます。
  42. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) それでは、この程度で午前の質疑は終わらせていただきます。  公述人の各位には、長時間にわたりまして貴重な御意見を承りまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。(拍手)  午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時四十三分休憩      —————・—————    午後一時四十五分開会
  43. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) ただいまから予算委員会公聴会を再開いたします。  この際、館公述人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中にもかかわりませず本委員会に御出席をいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。  それでは、議事の進め方につきまして申し上げますが、まず、館公述人から三十分程度の御意見をお述べいただき、そのあと委員の皆さんから御質疑がありました場合はお答えをお願いいたしたいと存じます。ただし、館公述人のいろいろ御予定もございますので、できるだけ簡明直截な御質疑をお願いをいたします。  それでは、館公述人にお願いをいたします。(拍手)
  44. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) ただいま御紹介をいただきました東京大学の館龍一郎でございます。財政金融を中心にいたしまして経済政策の運営について意見を申し述べたいと思います。  まず第一に強調しておきたいことは、財政金融政策が有効に働くためには、為替レートが適正であるかいなかということがきわめて重要な影響を与えるということでございます。為替レートが適正な水準から離れるという場合には、財政金融政策は国際収支の制約を受けて自由度を失ってしまうということをまず最初に強調しておきたいと思うわけであります。  御承知のように、戦後の日本では三百六十円に円レートがきめられておったわけでございますが、この三百六十円という円レートは多少過大ではありましたけれども、イギリスのような極端なストップ・アンド・ゴー政策を採用することなく高い成長率を実現することができたのは、この水準がほぼ妥当な範囲にあったからであると考えられるわけであります。しかし、昭和四十年代、特に四十五年以降になりますと、円レートが過小評価であることが次第に明らかになってきたわけであります。ところが、円レートが過小評価であるということについての認識が欠けまして、円レートを堅持するということを政策目標にしてきたために、輸入インフレというような好ましくない事態を甘受しなければならない、さらには調整インフレ政策をとらなければならないという事態に追い込まれまして、今日のような物価高騰の原因を招くことになったというように考えられるわけであります。  この経験は何をわれわれに教えるかと申しますと、第一に、財政金融政策を国際収支対策に使うということは、今日の日本のように国際収支のGNPに占める比重が非常に小さい国においては問題が大きい、弊害があるということであります心すなわち、国際収支の改善効果をあげるためにGNPを大幅に動かさなければならないということになる。その結果、好ましくないインフレであるとかあるいはデフレが生ずる危険があるということであります。  第二は、国際収支対策としてレートを変更した場合には、それが相当の効果を持つということであります。アメリカの国際収支が急速に改善してきたということ、さらに、日本の国際収支が悪化しつつあるということを考えてみますと、レートの変更が、相当大きな効果を持つということが明らかになったというように思われるわけであります。したがって、国際収支の悪化が国内的な要因によって起こってくるという場合を除いてみますと、財政金融政策を国際収支対策に使わないということがきわめて重要であるというように思うわけであります。国際収支の悪化が国内のインフレによって起こってくるとか、あるいは国際収支の黒字が国内のデフレによって起こってくるという場合には、国内のインフレ対策であるとかデフレ対策は、同時に国際収支対策になるわけでありますが、これらの場合を除いていいますと、財政金融政策を国際収支対策に原則として使わないということが非常に重要であるということであります。この意味で、たとえば最近の石油価格等の上昇による国際収支の悪化に対しても、原則として財政金融政策によって国際収支の改善をはかるという考え方はとるべきではないというように思うわけであります。で、こういう意味では、最近日本銀行が為替レートの介入点を三百円に引き上げたという措置はたいへん適切な措置であったというように考えるわけでありますし、今後も状況に応じて介入点を変更していくということを考えるべきであって、レート三百円を絶対に動かさないというような考え方はとるべきではないというように思うわけであります。国際収支の改善のために財政金融政策を使っていくという場合には、財政金融政策の弾力性が失われてしまって、財政金融政策の変更のタイミングを失するおそれが大きいように思うわけであります。現在の状況に照らしていえば、引き締め緩和のタイミングを失するおそれがあるということであります。もっとも、こういうように申しましたからといって、いま直ちに引き締め政策を緩和せよとか、引き締め政策を早急に緩和せよということを意味しているわけではありません。ただ、国際収支の状況と無関係に、国内の状況に応じて財政金融政策は弾力的に使っていくということがきわめて重要であるということをこの際強調しておきたいというように思う次第であります。  さて、石油の原油価格の高騰、それからそのほかの第一次産品の高騰に直面しまして、当面、経済政策が何を課題とすべきであるかということを考えてみますと、それは、この価格上昇に対して日本経済を円滑に適応させていくということが重要でありまして、その対策というのは、直接統制によって価格を押えるということではなくて、便乗値上げを回避しながら新しい価格体系をできるだけ早く見出していくということであるというように考える次第であります。この点で、最近の経済政策の運営を見ておりまして私どもが最も憂慮することの一つは、あらゆる価格上昇を罪悪視しまして、価格の上昇を押える、そのためには直接統制もやむを得ないという考え方が非常に広く見られるということであります。このように価格を直接統制する、規制するという政策は、弊害だけ多く、賢明な政策であるとはとうてい言いがたいというように考える次第であります。当然上がるべき価格を低く押えるという政策をとっていくならば、経済の転換そのものが阻害されてしまうということになりますし、直接統制に伴ういろいろの弊害が生じてくるということになるわけであります。したがいまして、必要なことは、先ほども申しましたように、便乗値上げを回避しながら、すみやかに新しい価格体系を見出し、それに適応していくということがこの際一番重要なことであるというように考える次第であります。  で、そういう目的を達成するためには、まず第一に、金融政策においては、投機に向かう過剰資金を吸収する、同時に在庫の持ち越し費用を高めるという見地からも、金利水準を十分に引き上げるということが必要であります。  第二に、財政政策は、これを抑制ぎみに運営していくということが必要であります。  第三に、市場支配力を利用した価格つり上げを取り除くためにカルテル行為を厳重に取り締まる。さらには、一般に特定分野における競争を実質的に制限するような行為を厳重に取り締まるという政策をとっていくということが必要であります。  そうして、こういう政策をとってまいりますと、当然、物価はある程度上昇することにならざるを得ないわけであります。したがって、この物価上昇から被害を最も受けやすい階層に対して政策上の配慮を行なっていくということが、財政金融政策に課されたいま一つの重要な課題であるというように考える次第であります。  こういう考え方に立って、最近の財政金融政策を見ていった場合にどういう問題があるかと申しますと、まず第一に、金融政策については、石油危機発生の初期において金融政策の発動がおくれたということは、これは否定し得ない事実であるというように思うわけであります。また、金利の水準については、物価上昇を勘案した場合に、当然、もっと高い水準であるべきであるというように思うわけであります。物価上昇予想される場合には、名目金利から予想物価上昇率を差し引いたものが、実質金利負担となるわけでありますから、したがって、現在の金利水準は、実質的に見た場合には、マイナスの水準になっておるというように考えられるわけでありまして、そういうことのないように、十分金利水準を引き上げるということが望まれるわけであります。さらに、預金金利については、分配の公正という観点からも預金金利の引き上げを行なうべきであるというように思うわけであります。福祉経済へ転換していかなければならないということを考えますと、今後金利が著しく低い水準になるということはあり得ないというように考えるわけでございます。  さて次に財政の問題、特に四十九年度の予算案についてでありますが、予算案が、総需要抑制を基本として、その範囲において福祉の充実を優先的に配慮する、同時に、今後の経済情勢の推移に対応し得るよう、機動的、弾力的運営を行なうという考え方をとっておるという点については異論がないわけであります。ただ、予算案の具体的内容がはたしてこの目的に沿うものであるかどうかということになりますと疑問がないとは言えないのでございます。特に、予算案物価の狂乱が生ずる前に組まれたということもありまして、インフレ被害を救済するという点についての配慮という点では不十分であるというそしりを免れないように思うわけであります。政府の重要施策とされているものの一つである社会保障の充実についてこの点を考えてみますと、たとえば、生活扶助基準が標準四人所帯で四十八年度当初の月額五万五百七十五円から六万六百九十円に引き上げられた。これは一つの前進であるように見えるわけであります。しかし、消費者物価が対前年比で二月で二四%も上がっておるということを考えてみますと、実質的には何らの改善になっていないわけであります。したがって、今後消費者物価がさらに引き続いて上昇していくということを考えてみますと、十月を待たずに生活扶助基準を再引き上げするということが絶対に必要であるというように思うわけであります。これらの点は、ほかの年金等についても同じように問題になり得る点であるというように考える次第であります。ところで、この生活扶助基準の引き上げによって、その引き上げは不十分であっても、ともかくも標準四人所帯では年間七十二万九千円弱の最低生活が一応保障されるということになるわけであります。他方、所得税の減税によって、給与所得者の場合に、標準所帯について課税最低限が百十二万一千円から百五十万七千円に引き上げられる。そこで、これらの措置によりまして、年所得が七十万円以下の所帯とそれから年所得が百十二万三円以上の人々は、これらの措置によって何ほど州の利益を受けるということになるわけであります。ところで、この年所得が七十二万円から百千二万一千円の中間の所得階層について見ますと、この中間の所得階層は今回の措置によって何らの利益も受けないわけであって、そうして、ただ物価上昇によって生活がそこなわれるだけにすぎないということになるわけであります。つまり、所得が標準所帯について七十二万円から百十二万一千円の間の階層は、いわば政策の谷間にある人々でありまして、これらの人々は、実は今度の措置によって何らの利益も受けないで、物価上昇によってただ被害だけを受けるということになってしまうわけであります。一方で、いわゆる中堅所得層に対してまでも大幅な減税が行なわれたということを考えますと、これらの政策の谷間にかる所得階層の人々に対して何らかの配慮が行なわれてしかるべきであったというように私は考える次第であります。この点でいわゆるネガティブ・インカムタックス、負の所得税という考え方がありますが、この負の所得税を導入することの可能性について検討するということがきわめて重要であるというように私は思う次第であります。伝えられるところでは、負の所得税は怠惰の奨励につながる、したがって、負の所得税を導入するようなことは考えていないということを、そういった趣旨の有力な発言があったということでありますが、負の所得税の考え方は、まさに社会保障制度に伴う怠惰を排除しながら人々を救済していこうという考え方なんでありまして、負の所得税の導入が怠惰の奨励につながるというような考え方はとうてい理解し得ないのであります。したがいまして、早急に負の所得税の導入の可能性を検討する、少なくとも負の所得税の考え方がとっているような、政策の谷間にある人々についても何らかの配慮を行なっていくという、そういう考え方をこの際早急に導入するように考えていただきたいものであるというように思うわけであります。  次に、いま一つの重要施策である税制改正についてでございますが、租税についてはいまさら申し上げるまでもなく、負担の水準ももちろん重要でありますが、同時に、公平ということがきわめて重要であります。ここで公平という意味は、同じ所得を得ている者は同じ税負担を負うということが第一であります。第二に、所得の多い者がより多くの税負担を負い、逆であってはならないしいうことがその内容であるわけであります。ところで、今回の税制改正をこのような観点から見たときに、そこに幾多の問題があるよう思うわけでございます。それは、公平という観点から問題の多い利子・配当の源泉分離選択制や土地譲渡所得の分離課税あるいは社会保険診療報酬の特例といった点については一切手をつけないままで、いわゆる中堅所得層に及ぶ減税が行なわれたということであります。これはたいへん納得しがたい点であります。公平に対する信頼がなくては税制は機能しなくなるわけであります。したがって、早急にこれらの点を改められることを切に希望するものであります。  次に、財政の弾力性という問題についてでありますが、今回の予算案の予備費の構成比率は一・五%であります。昭和四十三年の予備費の構成比率が二二%で、四十八年度でも予備費の構成比は一・六%であったわけであります。そうしますと、ことしの一・五%という予備費の構成比は非常に低いわけであります。二・一%はもちろん、四十八年度の一・六%よりも低いわけであります。もちろん一方で、使途を特定しない国庫債務負担行為の限度額の引き上げというようなことがあったことは事実でありますが、予備費の水準が非常に低いということは、現在のように財政の弾力的運営が望まれている時点においては非常に意外な点であります。財政民主主義の原則をそこなわない範囲で財政、特に予算の弾力性を増大していくということを今後検討するということがきわめて重要であるというように考える次第であります。  以上、非常に簡単でありますが、私の公述といたします。(拍手)
  45. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) どうもありがとうございました。  それでは、御質疑のある方は順次御発言を願います。
  46. 矢追秀彦

    ○矢追秀彦君 財政の総需要抑制の件でありますけれども、基本的には、総需要抑制もやむを得ない処置と思いますが、現在の状況の中においては、需要が減っても今度は供給の面がそれ以上に減らされた場合は、価格安定にはつながらないわけです。で、最近の売り惜しみ、買い占め、あるいは生産をわざと調整する、そういうような動きがあります。そういった点は公正取引委員会のほうからいろいろ指摘もされ告発もされておるわけですけれども、そういった面で総需要抑制というのは悪くはないんですけれども、その抑制がたとえ行なわれたとしても、やはり供給面は、たとえ減らされても、それ以上に供給が減らされるということのないように、やはりきちんとした供給が行なわれなければならないと思うんですね。その辺についてどのようにお考えになっているか。そういった点、やはり政府のほうでのチェック機能というものが必要だと思うんですけれども、その点についていかがお考えになりますか。
  47. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) 総需要を抑制しても、同時に供給のほうがそれに合わせて押えられていくならば物価上昇抑制の効果がなくなるんではないだろうかという御指摘でございます。確かにそういう面が全くないとは言えないわけでございますが、一つは、ただいまの御発言の中にもありましたように、そういうことが行なわれるのは、寡占的な体制になって、そして生産の相互調整が行なわれるというようなことから起こってくるわけでありますから、したがって、一方で競争促進政策を進めるということによってチェックすることができるというように思うわけであります。  それからもう一つは、総需要の減退に対して供給を抑制していく場合に、当然、供給を減らしていけば、それが相当の規模に達する場合には、レイオフであるとか、そういうような事態を生じてくることになりまして、したがって、それが再び需要減退となってはね返ってくるということになりますから、そういう政策を長期にわたって続けるということはできないという意味でのチェック機能が働くだろうというように考えている次第でございます。
  48. 矢追秀彦

    ○矢追秀彦君 午前中にもちょっと私、他の公述人に質問したと同じような質問で恐縮ですけれども、総需要抑制がいま言われておりますが、はたして実際にどうであろうかと、こういう面で、たとえば二月の日銀の報告では、まだ設備投資も少しは伸びてきておる、堅調を続けておるという報告も出ております。また鉄鋼の大手五社も、製鉄の炉をつくる計画、この四十九年度では約四九%の増加ということになっておりますし、また粗鋼生産も、少しではございますが、やっぱり生産量がふえるわけです。で、もちろん大手の高炉三社ですか、これは見送りはしておりますけれども、これも少しおさまった時点では、やはり炉を増設する可能性が出てきますから、いま政府が一生懸命総需要抑制をとり——総理は一時的というふうなお考えのようですが、福田大蔵大臣の場合はかなり長期的ということをおっしゃっておりますので、長期的にもせよ、一時的にもせよ、実際いまの総需要抑制がもちろんきいている面も私はよくわかりますけれども、そういう鉄鋼のような大きなものが、そういう設備投資がまだこれからも伸びるという状況下において、実際総需要抑制の効果がはたして出るのだろうか非常に疑問に思うわけです。また道路の拡張計画にいたしましても、昨年度からの第七次の道路五カ年計画がございますけれども、これは一時延ばしておりますけれども、やっぱりもう少しするとこれは建設に入ってくる。それは設備投資というのはやっぱりいろんな面からふえてくる可能性が十分出てくるんじゃないか。そうすると、総需要抑制がいま言われているけれども、これはやっぱり一時的であって、そのあとむしろ爆発してしまうような、また昔の高度経済成長の路線に、すべての物価が上がっていわゆる高い資源をもとにした、また同じ一つサイクルが一段上がったそういうような経済体制に入るんじゃないか。やはりこれは防がなくちゃいけないんじゃないかと私は思うんですけれども、その点についてどのようにお考えになっているかお願いしたいんです。
  49. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) 御指摘の点でございますが、一番最初に申し上げましたように、国際収支が悪くなってくる、そこで、国際収支の均衡をはからなければならない、そのためには輸出を伸ばさなければならないという考え方が非常に強くなってまいりますと、その場合には、おそらくいま御指摘のように、従来と同じような路線を日本経済が進むことになってしまうのではないだろうかというように考えているわけでございまして、その点についての考え方を変えて、国際収支の均衡はこれはある程度為替レートの変更によって達成していくという考え方をとるならば、そのときには、確かに非常に短期的に見れば、総需要調整がまだきき方が十分でないような面もあるにしても、しかし、従来と同じような路線を歩むことにはならないのではないかというように考えているわけでございまして、したがって、私といたしましては、国際収支が悪化した輸出を従来のような形で伸ばすようにいろいろな奨励措置をとらなければならないというような考え方をとらないということが非常に重要な点であるというように考えている次第であります。
  50. 嶋崎均

    ○嶋崎均君 実は、大蔵委員会でちょうど採決がありましたので、話も途中も途中、ずっと終わりのほうしか聞かないでお聞きするような形になるわけでございますが、一つは、最近の原油輸入の問題にからみまして、非常に国際的に六百億ドルとかあるいはそれ以上の金がアラブに寄るという話がありまして、そういう事態を前にして非常に私たちは心配しているのは、世界経済全体から見ますと、これはインフレ要因であるというよりは非常にデフレ要因になるんではないか。というのは、それだけの購買力がごく短期的には吸収をされてしまって、よその購買力が減ってくるという意味で、大まかに言って世界経済にデフレ影響を持つ。また、個別に見ましても、そのことが各国の国際収支、特に油を消費する国の国際収支に非常に大きな影響を及ぼしてきて、そのことが逆に非常に各国とも国際収支のバランスということを念頭に置くようになって、それが貿易収支、経済収支のところで少なくとも何かとんとんにしたいというようなことで引き締め政策をとる。いまどうも政府が考えておる引き締め政策も幾ぶん国際収支の均衡ということを念頭に置いておるようであります。そういうことになりますと、世界各国がそういう形をとるということを通じて、またデフレ効果が加速化されてくるというふうに考えられるわけでございます。そう考えてみますと、この石油問題を、いま日本の国は非常に国際収支の問題とか、あるいは国内のインフレ問題という視点からだけとらえておるけれども、世界各国がみんなそういう形をとるとすると、私はこれは外国の雑誌からしか見ておりませんからよくわかりませんが、一九七四年度のOECDの成長見込みというのも、石油ショック以前は三%ないし四%程度の実質成長はそれでも可能である、去年よりは落ちるだろうけれども、その程度のことを考えておった。ところが、このショック以後は、OECDではせいぜい一%程度しか先進国の経済成長がないというような見通しになってくる。そのこと自体がまた日本の輸出市場の問題にもからんできて非常にやっかいな事態になるというふうに推察をしておるわけでございますが、この油のショックというのが世界経済全体にデフレショックを与えるというふうに考えておられるかどうか。また、それを受けて、ほんとうに世界各国が世界が一つであるという協調の精神に立って経済運営をするとするならば、日本はいかなる方策をとるべきか。どうもいまの総需要抑制策というのは、日本の国自体のことから考えれば当然の段階であるように思いますけれども、相当波及する効果は、日本経済も大きくなっていて大きいように思いますので、その点について御意見を承りたいと思います。
  51. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) 石油原油価格の上昇デフレ要因であるかインフレ要因であるかということについては、御承知のように、学界の中でも意見が分かれている点でありまして、非常にむずかしい問題を含んでいるわけであります。私は、原油価格の引き上げがインフレ要因となるかデフレ要因となるかは、結局各国がどのような経済政策を採用するかによってきまってくるわけであって、一義的にこれがインフレ要因である、デフレ要因であるというようにはきめにくいわけであります。もし財政金融政策が全然変わらないという状態のもとで、価格の引き上げだけが行なわれるという状況をとって考えて見ますと、これは明らかにデフレ要因であるというように思います。  それから、そういう状況のもとで日本がどういう財政金融政策をとるべきかという点でございますが、この点は、一番最初に申し上げたことなのでございますが、国際収支対策として引き締め政策なり緩和政策はとるべきでないというのが私の基本的な考え方であります。したがいまして、国際収支の不均衡に対する対策としては、一つは、資本の導入という方法で対処するやり方があるわけであります。それから為替レートを変更するという政策があるわけであります。で、それらの政策の中でいえば、私は為替レートの変更をある程度活用して対応していくということが望ましいというように考えておるわけです。資本で対応するということになりますと、最近、現に日本が引き締め政策をとりながら国際収支の均衡をはかるために外貨の導入をはかっておる、それがヨーロッパ市場を撹乱する要因一つになっているということから非難が起こっておるわけでありまして、そういう非難を一そう強めることになってしまいはしないかというように考えている次第でございます。
  52. 嶋崎均

    ○嶋崎均君 次に、最近の金融市場の状態から見ますと、非常に引き締まりの度合いが急速に進んでおるように思うわけでございます。一方、国際的な要因からするところの輸入物価高という問題があり、あるいは石油の輸入量が減るということによって、従来のように操業率を上げ生産単位を大きくし、これによって生産性を上げて対応するというようなことがなかなかむずかしくなったというコスト要因があります。さらにまた、公害とか立地とかという問題は、当然これは企業の経費として内部化していかなきゃならない、その結果は物価が上がるというような状態になる。いろいろコスト側の要因に非常に私は大きな問題が次々と出てきておる。特に、一九七〇年代に入ってそういう条件がほんとうにいっときに吹き出てきておる。それが典型的に出てきたのがどうもオイルショックではないかというふうに認識をしておるわけでございます。  一方、私は、もうこの狂乱物価、まことに便乗値上げが多くて、企業のビヘービアというものについて非常に非難をすべきであるという強い気持を持っておるわけでございますけれども、ともかくこの十一月以後の非常な便乗値上げ的なものがある、それを何とか金融の面から鎮静化したい、かつまた長期的にも安定成長の路線に乗せたいということで、金融環境を引き締めの状態に置くこと自体には反対をもちろんしないわけですけれども、政策をやる場合に非常に心配なのは、現実の認識をする時期のラグがある、政策を決定するまでのラグがある、それから効果が出てくるまでのラグがあるというようなことを考えますと、いまわれわれが見ておる資料というのは、実は一カ月ないし二カ月前の資料を見ておるわけです。そしてわれわれが選挙区で体感として感ずるのは、現実の三月末の手形をどうするかという話を体感として感じている。そこで私は、非常に心配をしておるのは、コスト側の要因はいま申し上げたようなことに加えて、いま春闘問題というのもあります。そういう中で、ともかくいまのこの物価上昇というのが非常に強いコストプッシュインフレーションというのですか、そういう形になって出てきて、そしてそのことが金融の引き締めということのはさみ打ちで企業間に非常にアンバランスが出てくるだけではなしに、最後は失業の問題とか、そういう何というか、コスト側の要因があるのに総需要抑制策をやる。要するに、先進国でストップ・アンド・ゴーの非常に成長率の鈍い経済をやったというのはこの十年間の経験であるわけですが、どうもそういう形の経済になりそうだと。しかも日本の場合には、従来の成長率が非常に高かっただけにそういう転換期がいよいよ拡大したような形で出てくるような気がします。そういうときに、一体全体いまの金融の引き締めの強度ですね、先生はいずれ数字はよくごらんになっておられると思いますが、現実の認識と、ほんとうの何というか、認知ラグというんですか、それに政策ラグが加わって効果ラグがプラスになってくると私は非常に心配な状態日本経済に出てくるんじないかというふうに思っておるわけでございます。そういう点について先生は、必ずしもこれは、金融引き締めというものは永続をできないんだと、また、それをやったらかえっていろんな意味で問題が出てくるというようなことを御指摘のようでございましたけれども、非常に近い話で恐縮でございますが、その辺は、いまの金融引き締め状態をどうお考えになるのか、その点を御説明願いたいと思います。
  53. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) 金融引き締めの強度という場合に、量的な引き締めとそれから金利のような問題と二通りあるというように思うわけでございまして、私は、金利水準という点では現在の金利水準は非常に低いというように考えているわけであります。いまのような物価上昇前提とした場合には、金利水準は先ほど申しましたように当然もっと高くてしかるべきである。金利水準がもう少し高いというような状態であれば、これはいつまでもいまのような引き締め政策を続ける必要はないのであって、状況を見ていて緩和すると、量的な緩和は考えるという政策をとってしかるべきであるというように思うわけでございます。ただ、現在のような金利水準で量的緩和を行なうという時期はまだ相当先になるというように考えている次第でございます。
  54. 戸叶武

    戸叶武君 先生に簡単に三点ほど質問いたします。  一つは、先生の財政政策の中において、中産階級に対する施策というものはもっときめこまかく行なわないとやはり谷間に沈む層があるというこの見方は、当面している政治課題としては一つの問題提起だと思います。ドイツのインフレ、イギリスのインフレの中におきましても、やはりこの問題を社会主義政党が等閑視すると、ノンポリというか、いままで政治に積極的でなかった中間層の動きが変化を来たすというので、アメリカに行ったとき、西ドイツのブラントさんが、あなたの社会主義は一言にして言えばどういう受けとめ方をしたらいいかと言ったら、リベラルソシアリズムだという形において表現して、いわゆるデモクラチックソシアリズムというよりはもっと自由にして濶達な一つの社会主義だということをアメリカ人にのみ込ませるように表現しておりますが、イギリスにおいても今度リベラルな勢力が伸びたというのは、これ自身が政権を握らなくても、やはり日本でいえば自民党と社会党なり共産党において恩恵をあずからない中間層というものが一つのキャスチングボートを握る政治勢力として台頭してきた。ここに現段階における経済政治の面において新しい一つの現象があらわれたと思うんですが、先生は、やはりそういう面を配慮して一つの具体的な、じみな問題点を提示したのかどうか、これが第一点。  第二点は、やっぱり田中さんと愛知さんがヨーロッパに行った前後、私もヨーロッパにおりましたが、愛知さんのIMFにおける言動、田中さんのイギリス、フランス、ソ連における言動、そういうもののエコノミストなどの受けとめ方というものは、やっぱりニクソン、キッシンジャーの陽動作戦を田中さんも愛知さんもやっているんじゃないか、IMFにおける愛知さんの言動は通貨安定の問題だが、はたして七月段階までに国際通貨の基準の問題、安定が可能かどうか、これは日本の大蔵省においても、また、先生のような学者諸公においても検討すべき余地があると思いますが、そういうことは愛知君のような聡明な人がわからないはずはない。IMFの出発点から、国際通貨の基準の問題でケインズとホワイトのあれだけの論戦があった。しかも、この前のドルショックのときに、日本の大蔵省における一あの日本のドル買いというのは不可解きわまる問題であって、大蔵省なり日銀なり財政金融にタッチする人たちが、大蔵省の中においては海外活動をもっぱらにしていた柏木君、大蔵省においては主税局関係のエキスパートとしての鳩山君の中においても論戦があったが、それが密閉されたまま国民には知らされない。二千億円ぐらいは損したろうという説が伝わっているけれども、それは国民の中には伝えられていない。全く国民をよそにして財政金融政策が大蔵省なり、日銀なり、財界なりの密室において行なわれているという、こんな不可解な財政金融政策が行なわれている国は世界じゅうどこにもない。こういう点に対して先生はどういうふうに見られるか。私はキッシンジャーの——あのナポレオンを包囲したあとにおけるウィーンにおける外交政策を見ればわかるように——全くマキアベリズムの外交が、権謀術策の蘇秦・張儀の外交がいま激動変革の時代に世界的規模で行なわれているときに、日本の財政金融政策というのは赤子の手をひねるような形でほんろうされているんじゃないかと思いますが、先生の国際的な視野でその問題を客観的にやはりながめてもらいたい。  第三点は、この通貨の安定ですが、私は日銀の先輩の堀江さんを、イデオロギーの立場は別として、インターナショナルマインドを持った人として敬重しておりますが、あの人はやはり四月段階において日本は高物価安定するという見通しを二月ほど前にやっております。私の友人の木村君にも言ったんですが、ドルショックというものを過大に評価していろんな予測をすると、ドルショックというものはつくられたショックであって、いまになれば全部わかってきたと思いますが、このドルショックは、前に下村君が言っているようにそれはある意味においては一応片づく、問題は、今日のこの恐慌現象です。私はこれは、あなたは学者ですから見ていると思いますが、一九一九年の米騒動が起きたときの問題、恐慌現象、恐慌でも何でもない、要するに買いだめ売り惜しみにおける食糧暴動、一九二九年の世界経済恐慌が起きたときにおける、ケインズが登場した前後における、古いタイプの社会主義が崩壊して、エアハルトとかスノーデンとかあんな古ぼけた社会主義は通用しない、社会主義財政家としてのエアハルトもスノーデンも破産した、そういうときにリベテルなケインズや、あるいはイギリスではクリップスが登場してきたですが、いまは一九二九年から一九三二年にかけての世界経済恐慌、金融恐慌以上の私は恐慌現象が、危機が訪れていると思うんですが、先生はどのような見方を経済学者として見ておられるか、財政学者として見ているか、それを承りたいと思います。
  55. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) たいへんむずかしい問題を提起されまして、はたして適正なお答えができるかどうか疑うわけでございます。  まず第一の、私が政策の谷間にある階層ということを申し上げたわけでありますが、それは四人家族の標準世帯で先ほども申しましたように金額にして七十二万から百十二万の階層であります。これが中間階級であるかどうかということはいろいろの考え方があると思うわけでありますが、いずれにしても、私として申し上げたいのは、そういう人々が今度の政策によっては恩典を受けていないというところに一つの問題があって、そのことは今後もこの税制改正なり扶助基準が引き上げられるにつれていつも起こってくる一つの問題として強く認識し、それに対応する対策を考えていただきたいということでございます。  それから二番目の、密室の中で財政金融政策が行なわれているという問題でございますが、国際通貨という問題について申しますと、国際通貨問題が非常に技術的であるためになかなか多くの人々の理解が得られないという問題があるということは、一つ問題点としてぜひあげておかなければならない点ではないかと思います。ただ、全体としての財政金融政策について申しますと、たとえば租税関係の資料の公開というものが必ずしも十分でないとか、そのためにいろいろな判断が適正を欠く、外の判断が適正を欠くというような点があるという点については、これは早急に改める必要のある点であるというように考えております。すべてが密室の中で行なわれているとまでは私は考えませんけれども、しかし、もう少し資料を公表していただきたいというのが私どものような学者の側からの要望でもあるわけでございます。  それから最後に、最近の経済情勢が一九二九年から三二年の当時の危機、あるいはそれ以上の危機というように見るかどうかということでございますが、国際的な経済状況としては、私はやはり一九二九年の恐慌を境として各種の経済政策の手段が整備されてきたこともあり、現在石油危機をめぐって非常な問題が起こっていることは事実でありますが、しかし、だからといって二九年から三二年のような状態がこれによって招来されるというほどまでには考えておりません。ただ、国内の問題について申しますと、非常な危機意識がかえって冷静を欠いた政策選択を行なわせ、それが大きな危機につながっていくということを実は憂慮しているわけでありまして、政策はつとめて冷静であるということが必要であるというように私は考えております。
  56. 戸叶武

    戸叶武君 それじゃ、最後に一点だけお尋ねします。  やはり、私も、先生のように冷静に考えなければならないが、いまのこの所有権の問題をめぐっていやでも論争が展開されると思いますが、自民党のほうは、教員組合も社会主義を目ざしているということで非常に攻撃しておりますが、いまはイデオロギー論争の時代じゃないと思います。具体的政策を通じて国民が選択する時代に、対話の時代に入っておると思うのですが、ただ、日本経済学の中であまりにも深くマルキシズムが影響を持ち過ぎていますが、やはりイギリスで九十年ほど前に土地が暴騰したときに、イギリスでは正統派経済学の中からリカードやジョン・スチュアート・ミルが出て、共通の流れは、土地の暴騰というものはマルクスの言っているような剰余価値説では判定できない、社会的な関係の変化によってつくられたところの不労所得だという形において、いわゆる素朴な共産党宣言にあるような国家社会主義的な政策でなく、所有権の問題よりも、それをどうやって社会に還元させるかという点に問題が提示されて、それがあとにおけるケインズ学説まで導き出したのじゃないか、アメリカのニューディールにも影響したのじゃないかと私は思っておりますが、いまこの高度経済成長政策の中において、資本の蓄積、設備投資の過剰と思われるような形において、鉄鋼にしても、石油にしても、アメリカ以上に近代化されました。破壊されて新しい設備ができたこと。もう一つは、日本が島国であって、資源はないが鉄鉱石なり石油を航空母艦で運ぶように安易な運賃で運べる、いろいろな利便が、デトロイトやなんかの場合と違って日本には恵まれていると思います。しかし、そのわりあいに社会的関係の変化において得たところのものが独占資本に収奪されて社会に還元されなかったというこの不公平が、いま新しい日本の産業構造の矛盾においてやはり一つの課題になっているのじゃないかと思います。先生だから申すのでありますが、あまりに権威主義的な、権力主義的な、政府は権力におごり、あるいは革新的な勢力というものはイデオロギーにおごり、現実の生活から遊離した、実証主義的な財政金融政策というものがとられていないところに日本の不幸があるのじゃないかと思うのであります。そういう一切のべらぼうな権力の乱用と権威主義の行き過ぎというものを打ち砕かなければ、もっと人間尊重の社会はできないのじゃないかと思うのですが、先生経済学者としても非常にノーマルな形において、常識的な見解、実証主義的な冷静さをもってものを判断しようとしていますが、簡単でもよろしいですが、先生は、こういうとっぴでありますけれども、私らだけでは解決のできない、世界が取り組まなければならない課題に対してどういうふうに模索しているか、その模索の一端でも聞かせていただきたいと思います。
  57. 館龍一郎

    公述人(館龍一郎君) はたして的確なお答えができるかどうかわからないのでございますが、私が長期のことではなくて、非常に短期の問題として考えてみた場合に、最近非常に憂慮しておりますことは、先ほども申しましたように、一方で価格メカニズムを使った場合に、そこにいろいろの弊害が出てきたということから価格メカニズムに対する不信が非常に強くなって、その結果、直接統制にたよらなければならないという考え方が非常に広く見られるようになってきているということでございます。私も、すでにケインズがそれを否定しましたように、価格メカニズムが万能であるというようには考えておりません。価格メカニズムをそのままに放置しておいたときにはいろいろな弊害が出てくるということはこれを承認するわけでありますが、しかし、経済の転換をはかっていくというような場合にも、価格が与える情報伝達機能というものを尊重することなしに、どうやって経済の転換をはかることができるかということを考えてみますと、やはり価格の情報伝達機能を活用しながら、それに適当な修正を加えつつ経済の転換をはかっていくということが最も望ましい方法である。それをやらないで、官僚統制のような方向に向かっていったときには、あるいはそれを求めるような風潮を助長していくというようなことになったときには、それこそ日本は非常な困難におちいる危険がある。そのことを最も憂慮するわけでありまして、したがいまして、あまり短絡的にものごとを考えないというようにして政策を進めていただきたい。これが私の考えでございます。
  58. 鹿島俊雄

    委員長鹿島俊雄君) 本日はこの程度にいたしたいと存じます。  館公述人には、長時間にわたりまして貴重な御意見を賜わり、ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。(拍手)  明日は午前十一時開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後二時五十二分散会