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公述人(新田俊三君) 新田でございます。
昨年のいわゆる狂乱
物価という、
石油危機に端を発しまして、たいへんな
インフレの時代をわれわれは迎えているわけでございますが、これに対する
政府のいわば政策の失敗ということにつきまして最初に指摘しておきたいと思うのであります。
物価抑制という問題に関しましてとられた短期決戦という形での政策が総
需要抑制という形であらわれたのは周知のとおりでございますが、今日の時点で判断する限り、この総
需要抑制政策は当初の目的を達していない。その意味では、完全に失敗したという断定を下してもよろしかろうと思います。
部分的には、市況産業型の商品が下落する、特に繊維産業等々に見られる定期相場の下落というような問題は出てまいっておりますが、第一に、この総
需要抑制政策が目標とした段階は、昨年の十月、あるいは多少時期をずらしましても十一月
水準であったはずであるにもかかわらず、現在、総
需要抑制政策が多少効果をあげたという基準は、
物価上昇率の特に対前月比伸び率がやや鈍化したという点に、基準のすりかえが行なわれているわけであります。したがって、現在の時点において、総
需要抑制政策が特に市況産業型のものについてある程度効果を与えたということで、そもそも狂乱
物価が始まった当初に
物価水準を引き戻す、そういう意味での短期決戦政策であったはずだという意味からしますと、目的を達していないのは明らかでありまして、総
需要抑制政策は今日の段階では効果をあげていない、失敗していると言って差しつかえないと思います。
それから、第二に問題にしなくてはならないのは、この総
需要抑制政策が短期政策として失敗したということは、引き続いて、この
需要抑制政策を、将来の望みのないままに引き続きとるほかはないということを意味するわけでありますが、総
需要抑制政策を、短期政策としての総
需要抑制政策が長期化するということから、逆に大きな弊害が生じつつあるということを、新しい
物価問題の段階として指摘しなければならないのであります。それは、三月以降——いわゆる
先取り的な
便乗値上げの段階といわれる、言うならば狂乱
物価の第一ラウンドが終わったあとに、三月以降に、
国際商品、とりわけ
石油価格の
値上がりが
影響し始めるわけでありますが、この総
需要抑制政策が当初の目的を達しないうちに第二ラウンドに
日本の
物価問題は入ることになった。むしろ、この問題を論述の
中心に据えたいわけであります。
もともと、
日本の
物価問題というのは、
成長が高過ぎたために起こったという側面はもちろんあるわけでありますが、それ以前に、高過ぎた
成長がなぜ
物価上昇にはね返るのかという構造上の問題がございます。それは、過去の
高度成長をささえた重化学
工業の質そのものによって規定されていると言って差しつかえないと思う。したがって、こういう
日本における産業構造の特殊な質がまず根本的
前提となり、それに国際的
要因が加わり、さらに政策的に
物価上昇が促進されてきたという組み合わせでございますから、こういう構造的諸問題は、もともと単なる
成長抑制政策で片がつくわけがなかったのであります。したがって、政策としましては、当然、長期的かつ構造的な、前向きの、しかも総合的な対策が立てられなくてはならなかったのでありますが、率直にに言って、
日本のこれまでの政策展開は常に場当たり的であったし、事後追随的でありましたから、そういう政策効果が今日に至るまでほとんどあげられていない。総
需要抑制政策も、その意味では、構造的かつ長期的な政策を
前提としない、その場しのぎの政策にすぎなかったというふうに言えるわけであり、その欠点が実は
物価上昇の第二ラウンド以降明確にあらわれてきたということであります。
三月以降の新しい
情勢といたしましては、結論的に申しますと、国際的な価格
上昇が国内
物価にはね返ってくるということでございますが、まずそれに対する対策が、
石油価格値上げ、
石油関連製品の凍結という政策であらわれたことは御承知のとおりであります。ところが、この
石油値上げと
石油関連製品の凍結という問題は、実はそれ自体、総
需要抑制政策の当初の目的を放棄したことを明確に
政府が認めたことであろうというふうに私は考えます。といいますのは、凍結というのは現状追認でありまして、結果的には
便乗値上げの事後承認的な性格が強いというふうに断定しても差しつかえないと思うのであります。したがって、
石油価格が上げられ、それが
コストを通じて製品価格に
影響を与えるというようなことは前々からわかり切っていたことでありますが、このことが
現実化してきた場合に、とりあえずとる政策としては、前向きの政策がない以上、さしあたり凍結という統制政策をとるほかない。これは必然的結果であります。したがって、この第二ラウンドで示された政策は、実は次に述べます
物価問題の第三ラウンドにつながる重要な性格を持っているのではないかという気がするわけであります。
今回の
石油価格は、全油種平均キロリッター当たり八千九百四十六円の
値上げでございますが、特に注目されたナフサ価格が
予想どおり八千円
値上げされまして二万円台に
上昇したわけであります。これに対して、
石油関連製品が長くは凍結できないということは目に見えているわけでありますが、ともかく二通りの方法をもって、現在のところ、凍結政策をおとりになっているわけであります。その
一つは、
値上げに事前に了承をとる方法である。それからもう
一つは、小売り段階における
値上げ自粛勧告措置であるということであります。実は、このこと自身が第三ラウンドに向かう
物価問題の内実を示しているわけでありまして、これにつきましては、やや具体的な事例をあげながら説明すべきであろうかと思いますが、
石油製品の
値上げと
石油関連製品の凍結が実は長くは続き得ないということの
一つの重要な根拠が、
一つは電力問題であり、電力料金引き上げの問題となってあらわれ、もう
一つは鋼材価格の引き上げになってあらわれるというふうに考えるわけであります。
で、いろいろなデータ上の試算もあるわけでございますが、まず、
石油の
値上げが電力料金の引き上げにつながるということは、ほぼ必然的なコースであると見てよろしいと思います。これに対する対策というのは、なるべくあとに延ばす、たとえば一ヵ月でもあとに延ばすというような形で示されているわけでございますが、こういう表現は、いずれにしても上げざるを得ないということの裏返しでありまして、事後追随的な、常に受け身の立場で政策が展開される
一つの典型的なパターンであろうかと思います。で、電力料金の引き上げがどういう形をとるのか、まあ大勢としては、政策料金体系の変化ということが避けられないというふうに私ども見ているわけでありますが、いずれにしましても、現在の
石油価格値上げが電力料金の引き上げにつながってまいりますと、現在凍結している品目の中で、まず、たとえば無機基礎化学薬品、セメント、有機基礎化学薬品、合成繊維原料、紙、非鉄金属
関係ですね、非鉄地金、それから合成樹脂、こういったものが、まず
コストの問題から見まして、現在の凍結価格を維持できるわけはない。したがって、私は、
物価上昇のいわゆる第三ラウンドと申しますのは、
石油価格値上がりがいつ電力料金の引き上げにはね返るか、それが凍結を長く維持することが不可能なことは客観的に見てまことに明確でございますので、こういう
コストが上がれば価格の凍結が解除され、かつ、結局
値上がりにつながっていかざるを得ないというパターン、
物価上昇のあしきパターンが今後確立するんではなかろうかという気がするわけであります。
こういう問題につきまして、
二つの点から、つまり国際的な観点と国内的な観点から、以上のような
コストの
値上がりが製品価格の
値上がりにつながらざるを得ないということの根拠をなすことを指摘したいと思うのであります。
第一の国際的な
要因でございますが、
国際商品市況がたいへん高騰しておりまして、たとえば
国際商品市況のバロメーターであるロイター指数の動きは、特にニクソンの一九七一年ドルの対金交換制打ち切り以後、異常な
上昇を示しております。このロイター指数の動きが非常に異常であるということは、
一つの国際的な資源市場における
日本経済にとっては与えられた
条件でありまして、この問題で苦しむのは
日本だけではございません。しかし、いずれにしましても、
国際商品の市況の高騰というのは簡単におさまる循環的性格のものではない。明らかに構造的
要因であると考えられます。それは変動相場制とたいへん関連した問題にもなってくるわけでありますが、変動相場制に入って以降の各国の
経済政策は、例外なく
経済成長を刺激するという体質をとりました。したがって、こういうような変動相場制下の景気過熱政策、こういうような問題が根底にあり、そして資源問題が世界市場で非常に逼迫するというような形で、国際的諸
関係にまたはね返ってくるということであります。
そういう意味から申しますと、今日の問題は
石油だけが問題ではないのであって、
石油のOPECに示されたような資源問題については、たとえばボーキサイト、鉄鉱石等々につきましても
生産国連合の結成の動きがあり、現に
影響を与え始めているわけであります。こういう形の中で総
需要抑制政策をとるということのマイナス面がどこであらわれてくるかと申しますと、海外原料と国内製品の格差が拡大するという形であらわれてまいります。たとえば
一つの例をあげますと、国内の銅価格は、ロンドン金属取引所、LME相場にスライドして動いてきたわけでありますが、現在LME価格が、二月末の統計によりますとトン当たり千百五十ポンドと、史上最高を記録しているわけでありますが、これに対して国内価格は、国内
需要の不振で十万円近い安値を示しているという、海外原料高・国内製品安という傾向が生じつつあるわけであります。こういった問題が続きますと、結局、こういう
事態に対して各
企業、特に大
企業は、それぞれのミクロ的な、個別的行動で問題を解決しようとする。たとえばその
一つの結果が、やや一時的な輸出ドライブという問題もございますが、長期的な海外投資に走るという形で
一つは示されているわけであります。特に、ことしに入りましての資源問題をきっかけとした海外投資のラッシュというのは異常でありまして、一種の無
政府状態を呈しております。したがって、総
需要抑制政策という、構造的、質的な政策が全くない、単なる量的政策をとっている、この政策不在ということが、各個別
企業の投資行動で問題を解決するという解決の形態に向かっているわけでありまして、たいへんこれは憂うべき傾向ではないかと思うのであります。いわゆる資源小国論というような形での発想が強くなってきているわけでありすすが、資源問題で波をかぶるのは
日本だけじゃないのであって、こういう問題に対しては、もっと政策当局が主体性を持って、マクロ的な、前向きの、かつ構造的政策をとることが絶対必要でありますが、その政策不在を個々の
企業が無
政府的にカバーする——しかも、この無
政府性というのは単なる無
政府性ではないのであって、特に海外投資のときに、商社がシステムオルガナイザーとしてこういう海外投資を指導している痕跡が非常に強くなってきておりますから、こういった問題につきましても、もっと総
需要抑制政策という形に示された政策の限界を一刻も早く認識して、早急な対策、本格的な政策をとる必要があるというふうに考えるわけであります。それからもう
一つの
要因、国内的
要因でございます。国内的
要因に関しましては、
昭和四十五年以降特に顕著になってきた傾向でありますが、
日本において新しい寡占体制が出現しつつあるということであります。この新しい寡占体制というのは、当然なことでありますが、総
需要抑制政策という形で市場が競合化されるほど、その体質を強めてまいります。この新しい寡占体制というのは、必ずしも
企業合併で、たとえばビールであるとか、そういった産業で示されているような、個別産業における数社の市場支配という単純なものではありません。それはむしろ、よりシステム化された、各産業にわたって
一つの
企業集団として存在するという強力な寡占体制ができ上がりつつあるわけであります。その結合の
中心にやはり商社があるという点も見のがしてはならぬのでありますが、そういう体質が、新しいこの国際的な問題に対して、逆にまた寡占的体質を強めて個別的に対応する。言うなれば、海外商品の
値上がりは国内製品の価格引き上げに転嫁するという体質と結合しつつあるわけであって、この問題が
日本の
物価問題に対しては重要な意味を持ってくると思うのであります。
ついででありますが、こういうような新しい寡占体制に対しまして、現在の公正取引
委員会の機能は、主として古典的な寡占メカニズムを対象とする理論なり機能を持って対応しておりますから、現在の寡占問題に対する、いわば監視機関としては無力にならざるを得ない。いわば、産業構造の変化なり寡占構造の変化という、そういう構造的変化に公正取引
委員会の機能がついていっていない、ズレが生じているという点も実は重要なんであります。
そういう問題の中で、電力問題と並びまして私が強く指摘しておきたいのは、鋼材の価格引き上げがいつ行なわれるかということであります。総
需要抑制政策が市況産業型のものに対してはある程度有効だということは先ほども申し上げたわけでありますが、こういう一時的にものすごく上がって、引き締めれば急に下がるという、そういうものとは違った、一たん上がりだしたら決して下がることはない、そういう構造的
要因の
物価上昇が、現在総
需要抑制という形の中で頭をもたげつつあることに、われわれは注意を払わなくてはならぬのであります。そのきっかけが電力料金の引き上げであり、そうして鋼材価格の引き上げである。これにつきましてはどういう展開をするかよくわかりません。ただし、市況価格と、いわば大
企業相互の取引価格である、ひもつき価格との間に大きな価格上の差があるということが、逆に、市況が軟化した段階でも、その差がある限りは利用されているわけであって、伝えられるところによると、五月トン当たり四千円ないし五千円とかいうひもつき価格の引き上げが予測されているわけでありますが、こういうことになりますと、このいまのシステム化された寡占体制のもとでは、鋼材の引き上げの波及効果というのは他の商品と一は比較にならないほど高いわけでありますから、社会的
影響はたいへん強いというふうにわれわれは判断いたします。
その際に、おそらく新しい鉄鋼価格方式というのが取り入れられるだろう。伝えられるところによると、その新しい鉄鋼価格方式というのは、標準
コスト制度を採用し、その標準
コストに対して価格をスライドさせるという体質をとることはほぼ間違いないと思うんであります。そうなりますと、資源問題その他鉄鉱石、いろいろな
コストの
上昇に対して、
企業が価格スライド制をもって防衛を行なうという形が確立するわけであります。実は、このインプレスライド制が
企業の製品に関してだけ先行的に確立されつつあるということが、新鉄鋼価格方式によっておそらく確立すると思うんでありますが、もともと
石油価格につきましても、それが公示価格のはね返りを基礎としている以上、実勢が大きく動くと当然その見直しもあり得るということを
前提として今回の
石油価格政策は告げられたようであります。したがって、鉄鋼のみならず、いまの価格政策の基本である
石油価格につきましても、
コストスライド制あるいはインプレスライド制が実質的には入ってきているという判断をわれわれはとっているわけであります。
で、こういうような問題に対しまして、いつそれが国際的、国内的
要因から現在の凍結政策が解除されるかという問題でありますが、もしそれが——そうでなければよろしいんですが、もしそれが参議院選挙までもてば、あとはどうでもいいという発想でなされるとすれば、
国民にとってこれ以上の不幸はないんであります。非常に短期的な政治的動因だけで問題自体を次々に引き延ばすということでは、決して今日の局面の打開はなりません。それどころか、インプレスライド制につきましては、公共工事標準請負契約約款第二十一条第六項、いわゆる
インフレ条項というのがあるわけであります。たしかこれは官房長官通達の形で、昨年の
石油危機の際出されていたと思うんでありますが、こういう問題が沖繩海洋博のようなケースにつきましては直ちに適用されている。この
インフレ条項というのは、ヨーロッパではごく普通の条項でございます。つまり、プラント類のように受注期間が長いものについては、その期間の
コストの変動は考慮しなくてはならないということを契約
条件に最初から明記するわけでありますが、こういうインプレスライド制が、
石油価格の
値上げをきっかけとして、電力、鉄鋼価格の引き上げ、これを媒介として全面的に転嫁するとしますと、この
インフレ条項をささえるのが最終的には当然財政支出だということになりましょうから、事は重大だということになるんであります。
特に、この点については、経団連防衛
生産委員会が、インプレスライド制の導入による受注単価の引き上げを要求するということを伝えられておりますが、特にこの問題は、兵器のいわば国産化路線を守る、そのための新しい
価格体系の確立ということを示す動きになるわけでありますが、もし防衛産業において
インフレスライド制ということで確立しだしますと、結論的に言えば、
政府の政策は、総
需要抑制という形で
事態を悪化させ、悪化させた
事態については、
企業を
インフレから守るという形でしか政策が展開されていないではないかと言わざるを得ないのであります。それに対して、われわれは、もう少し現在の
事態に対しては前向きで、主体性を持って向かってくれということを要望したいのであります。短期的な場当たり的な政策をやっているうちに何とかなるという形ではなくて、もっと
国民生活に基盤を持った政策目標というのをきちっと立てるということ、そうしてその政策目標のもとに、いろいろな各政策体系を体系化するということが非常に大事だと思います。
たとえば、電力料金を上げる、上げない、それ自体については善悪は論ぜられないのであります。それを
国民経済の中でどのように
位置づけるかという、そういう体系の中でのみ、その問題が処理される。たとえば超過利潤税の問題もこれからいろいろ問題になりましょうが、これも、投機行為に対する単なる抑制という問題じゃなくて、ビルトイン・スタビライザーとしての機能を持たせるということへの制度化の
一つの足固めにするとか、あるいはそういう超過利潤をたとえばどこに使うかという、そういった関連ですね、政策の、そういったことをもう少し考える必要がある。特にミクロ的な政策、
日本の
経済政策のいわば不在は、すべて個別
企業の行動で解決されるというのがこれまでのしきたりでございまして、たとえば、変動相場制導入のときの自主レートの設定のしかたやなんかを見ましてもそうでありますが、今回の
石油危機に関しましても、全体としての政策不在の中で、個別
企業的なそういう解決がどんどん進んできている。それは
企業の行動にとっては
一つの合理的な基準を持つと思うのでありますが、
国民経済的に見ますと、大きな不均衡を生ずるわけであります。これについては、やはり政策問題で歯どめをかけるほかはないというふうにわれわれは考えます。そのためには、長期かつ構造的な政策をとれ、しかも、そのために、それを可能ならしめる執行手段についてもう少し具体的に煮詰める必要がある。
たとえば、
石油開発公団の問題
一つあげましても、
昭和四十二年に発足して以来、この機能がほんとうに……。
石油の問題が
日本経済に
影響を与えたときに、これが電力とかガスとか、しかもその
経営体が各個別的な形で存在するために、
影響のあらわれ方がばらばらで、非常にとりとめもない
混乱状態が起こるということに対して、
石油問題をもう少しナショナルなレベルで一元化する、そのいわば解決手段として、
石油開発公団の機能、公社の機能を生かすということなんぞは、もっと前から考えられてよかったのじゃないかと思うのであります。一言にして言いますと、今日の資源問題等々につきましては、私はいま
石油開発公社の例であげましたように、思い切った社会化が必要だろうと思います。それは個別的な、ミクロ的な行動では解決できない、そういった問題をもっとナショナルなレベルに問題を移しかえて処理すると、そういうふうな形でなければ、とうてい問題は片づかないところに来ているというふうに感ずるわけであります。
それと、それを実現するには、しかし時間がかかる。したがって、さしあたり何をなすべきかという短期対策が要求されるわけであります。これにつきまして強く要望したいのは、短期政策のイメージを変えろということであります。どういうことかと申しますと、これまで短期決戦とか短期政策というのは、短期に
物価を引き下げてしまうのだというニュアンスで使われてきたと思うのでありますが、以上お話ししましたように、現在の
日本の
物価問題は、短期政策をもってはとうてい片づかない、むしろそう思っていただいたほうがよろしいと思います。したがって、真の意味での短期政策は、その当面進行している
インフレに対して
国民生活を保護するということから、ともかくスタートしなければいけない、これがほんとうの短期政策だと思います。そういう短期政策をとりながら、徐々に長期的な構造政策につないでいく、こういうことがたいへん必要だろうと思う。
最後に、そういう政策を展開する土台として、
日本の過去の
高度成長の構造に
一定のショックを与えなきゃいけない。いま
日本経済は転換期に来ております。長い
高度成長の
過程で労働
条件は
低下し、
実質賃金は国際比較では上がっておりますが、
生活水準の
低下は目をおおうものがある。こういう構造自身をこわさなきゃいけない。それは終局的には政策体系をもって補完さるべき問題ですが、さしあたり、短期政策との関連で申し上げたいことは、
生産性を越える
賃上げを実現するほかないということであります。したがって、これは鉄鋼の例であげますと、実際、鉄鋼産業なんかでは
賃金の
上昇は
賃金コストに
影響を与えておりません。
賃金コストは下落しております。
生産性本部の統計をもってもそうであります。したがって、
一定の
賃上げと製品価格の安定にたえ得る構造を持っております。したがって、そういう形で、
日本の分配構造に対して
一定の衝撃を与える必要がある。それから来る
混乱は当然あります。しかし、この問題はミクロ的に解釈してはならない。たとえば中小
企業で
賃金が上がればもたない、これはミクロの論理であります。そうでなくて、安定
成長としては減税と
賃上げが最も最適だというのがわれわれの主張であります。
設備投資、防衛産業、そういったもので
成長が意味もなくふくれ上がる
成長から、大幅
賃上げと減税等々によるモデラートな安定
成長に変えるいまは絶好な機会だと思います。そのためには、過去の
高度成長のパターンであった
生産性に合わせろという発想そのものを変えなきゃいけない。そのためには分配構造の変化というのは当然なことでありますが、
生産性を越える
賃上げというのは、
日本経済が当然これは構造転換のためには味わわなきゃならぬ
一つのショックだろうと思うのです。これを政策的にいかに補完するか。そういった形で問題を前向きに解決していただきたいというふうに考えるわけであります。
以上でございます。(拍手)