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国務大臣(福田赳夫君) 私は、まあ春闘の問題もあるがですね、今回のこの事態を克服した後の問題を
考えますと、賃金問題というのは非常な重大な問題になってくると思うのです。つまり、いままでの賃金というものはこれは非常な高率で上昇してきておる。しかも、卸売り物価はこれを安定せしめ得た。この二年間は違った要因が出てきておりますが、過去、その前の十五年ばかりの間というものはそういう状態で推移してきておるんです。つまり、それはどういうことかというと、給料生活者の賃金が上がる。上がりましても、
企業は、規模の利益といいますか、
設備の拡大をする、業容が拡大される。そういうことで生産能率を向上させる。そこでですね、この生産性が賃金の上昇を吸収すると、こういう状態にある。そこで、卸売り物価は十数年微動だもせずという形になってきた。ところが、そういういわゆる高度成長、そういう
経済状態の中で取り残されるものがあるのですよ。それは何だといいますると農村、中小
企業。これは大
企業のように生産性
——業容を拡大するわけにいかぬし、またしたがって生産性を向上するわけにはいかぬ。しかし、さらばといって、大
企業の労務者が賃金を上げる。それに対して平準化作用をしないというわけにはいかぬ。そこで賃金は上がる。そうすると、結局そのしわ寄せはどこへいくかというと中小
企業物価、農村物価、そういうものが引き上げられるという形になり、それが消費者物価
——消費者物価というのは中小
企業物価であり農村物価なんです。それは、だから消費者物価は上がる。卸売り物価と小売り物価の乖離という問題はそういうところから出てきておったと思うのです。今度はこの混乱を経過いたしますと、そういうタイプの
経済はもう許されない。つまり、もう高度成長だ、
設備の拡大だ、そして賃金は上昇させます、それでも物価はだいじょうぶですと、こういう状態は許されない。また物価ばかりじゃないです、
経営自体が許されない。そこで、どうしても低成長下におきましては、もう
ほんとうに
経営者もまた労働者も、
考え方を一変する必要があるんじゃあるまいか。そういうふうに思うのです。まあ混乱を乗り切りましても、その後の
経済の状態を
考えますと、これはもう賃金の上昇があれば、これは生産性に吸収されるというわけにはいかぬですから、やっぱり大かたは物価にはね返るということになる。そういうことになりますれば、これは
国民経済として非常に重大な問題になってくるんじゃないか、そういうふうに思いますので、いままで一〇%上がりました、一五%上がりました、二〇%上がりました、ことしは二五%ですなんという、そんな安易な
考え方は、これはもうとても成り立ち得ない、そういうふうに思うんです。ちょうどこのことしの春闘というものがその境目なものですから、ちょっとデリケートな問題でありまするけれども、基本的に
考えますと、その先の賃金問題というものは
国民経済に非常に重大な
関係を持ってくる、そういう性格になってくるであろう、このことは私は、これはもう財界も、あるいは勤労者も、あるいは
国民も、すべてが理解してかからぬと、日本
経済の行き方というものをもう
ほんとうに根本的にあやまってしまう、こういうことになるであろう。私は、政府としては声を大
にしてそういう理解を
国民に求むべきだと、こういうふうに
考えております。