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足鹿覺君 ただいま議題となりました
昭和四十八年度
農業、
林業及び
漁業の
動向に関する
年次報告並びに
昭和四十九年度に講じようとする
施策、いわゆる農・林・
漁業白書について、
日本社会党を代表して、若干の質問をいたします。
第一に、この
三つの
白書の
共通する点についてでありますが、
穀物、魚類、
木材等、
重要資材がいずれも
海外への
依存度が
増大し、
国内の
自給率の
低下したことを率直に発表しており、このことはわれわれはすなおに評価できるものでありますが、最近の
内外の
情勢は新しい
農業政策への
転換を求めており、そのための
国民の合意を得るためのよい機会でありますだけに、いま一歩踏み込みが足らないことを指摘し、今後の努力を期待するものであります。
いま
一つの点は、
事態が重大なときだけに、この
白書の発表が四月以降になり、本
年度予算案の
衆議院通過後であり、したがって、
国会の
白書に基づいた
予算はもとより、
法案を審議するたてまえを無視した
態度であって、まことに遺憾であります。今後はかかることのないよう十分注意をされるよう強く要請する次第であり、今後の善処を求めておく次第であります。
そこで、
共通の
低下する
自給率についてでありますが、
農業白書が
わが国の
食料自給率がこの十数年来に急速に
低下した事実を示し、しかも、この
白書で初めて
家畜飼料も
計算に入れたいわゆる
オリジナルカロリーの
計算方法で
日本の実質的な
食料自給率は五三%になることを公表し、中でも
穀物については
わが国は四三%で
世界最低の
自給率というきびしい現実であることを公式に明示したことは、最も注目に値するところであります。
また、
林業白書では、
需要が
国内供給を上回って逼迫し、
木材の安定
確保問題が切実な
課題となって表面化したことを
説明し、
木材の
自給率は四十六年の四六%から四十七年には四一・七%と落ち込み、
外材依存が
増大したが、
開発途上国でも
森林を
重要資源とみなす機運が高まりつつあり、いままでのごとき
野方図な
伐採が許される
環境にないことを指摘しており、
資源保有国との
国際協力の
強化を
白書は訴えておるが、そのための具体的な
施策が明確でありません。
外務大臣並びに
農林大臣の御所信を承りたい。
このことは、北の
先進国が南の
発展途上国から
資源を安く豊富に手に入れ、繁栄を築くということができなくなったことを意味し、
先進国にとって
一つの時代の終わりを意味するものであり、したがって、
世界のこのような歴史の流れに
対応策を誤ると、
日本は
世界の孤児となることは必至でありましょう。
漁業政策の
転換についてでありますが、去る五月一日の
国連資源総会の
国際経済の新
秩序宣言にも見る
世界の
発展途上国の
主張の裏には、
エコノミックアニマル日本は、
公害のたれ流しによって
自分の
庭先沿岸漁場を汚し、他人の
庭先を荒らすという非難の声が上がることは明らかだと
考えられますが、第三次
国連海洋法会議が六月カラカスで開かれ、その
準備会の経過から見ましてもきわめてきびしいものがあり、
領海二百海里の
主張は急速に高まりつつあり、もし
日本漁業が二百海里の外に締め出される場合は、総
生産量の半分を失ってしまう重大な
事態となるのであります。
これに関連して、
農水委員会で
外務省黒河内室長は、
わが国の
沿岸十二海里へ踏み切る旨の言明をいたしましたが、これは重大であり、その
利害得失について、
外務大臣の御見解をこの際
態度とともに明らかにしてほしいと思います。
要するに、
わが国は、かかる
情勢を踏まえて、いままでの
漁業政策は
沿岸から
沖合いへ、
沖合いから
遠洋へという
国際漁業中心政策でありましたのを改め、
沿岸漁業中心に
転換するとともに、
沿岸漁業を
基幹的食料産業の
一つとして位置づけ、
沿岸漁民を保護育成し、その
生活を安定するためには、惜しみなく
国家予算を投入し、また、
公害企業の責任において
公害の除去、
事前防止等に強力な手を打ち、
沿岸漁業振興のための
総合的施策を進めらるべきであると
考えますが、この
三つの
白書の
共通点に対する
対応を
農相、外相、
蔵相に伺いたいのであります。
第二に、
農政転換の
基本姿勢についてでありますが、ここ数年来、
農業の曲がりかどが論ぜられ、
農政の
転換が幾たびか叫ばれてまいりましたが、今日ほど
切迫感をもって
農政の
方向転換が求められているときはないと思います。
農業白書が
国内農業による
食料供給を
基本として明確化したことは注目されることであります。これは
食料問題を国の安全保障問題としてとらえておるものであり、従来の
農産物の
国際分業論をはっきり否定した点で戦後
農政を大きく
転換することを公表したものと思うのであります。
田中首相は、
政治生命をかけてかかる歴史的な
政策転換を断行する
決意をもって、
経済政策との関連において
農業政策のあり方についてよくよくお
考えになるべきだと思いますが、いかがでありましょうか。
さらにまた、
食料輸入の
増大と
外貨保有高減少についてでありますが、最近
食料の
供給が著しく不安定になったことから、
わが国の
経済の体質的なもろさが一度に露出し始めてきたのでありますが、その一番大きな指標は、昨年二月に二百億ドルに達した
外貨保有高がわずか一年の間に百億ドルにまで
減少したことは重大であります。そのおもな
理由は、一昨年七十億ドル台であった
農林水産物の
輸入が、昨年は実に百十億ドル台となり、四十億ドル以上のドルが
食料を
輸入するために多く費消されたからでありましょう。原油をはじめとした
輸入原材料の
高騰で
加工貿易型の
産業構造である
わが国の
経済がきわめて困難な局面に立たされていることは言うまでもないが、その中で
食料輸入のために費消する
外貨が
増大し続けるということは、その困難にさらに輪をかけることになるでありましょう。
しかし、
経済が困難だからといって
食料の
輸入をやめることはいまの場合できません。特に最近ではアメリカを
中心とする
食料輸出国が
市場操作を通じて
穀物価格を急騰させており、
小麦のごときは二年間で四倍に近い暴騰であり、いまや安い
外国農産物という神話は全くくずれ去ったのであります。
食料の
国内自給はすべてに優先すべき
政策であると確信いたすものでありますが、
首相並びに
蔵相の御
決意を重ねてここで承っておきたいと思います。
第三に、
国内における
生産調整の
即時中止と麦の
輸入制限について申し上げますが、
国内において
食料自給度が強調される一方で米の
生産調整が続行されるということは、きわめて奇異なことではありませんか。四十九年度は百三十五万トンを転作及び
通年施行によって減産をはかるといいますが、減反がそれにとどまるとしても、米の
需給関係は綱渡り的な
危険性を持っております。しかもこの数量は、昨年までの休耕田のうち七割が復元しなければ目標をオーバーすることとなります。そこで
政府は、五カ年継続というメンツにとらわれず、
生産調整を
即時中止すべきではありませんか。
農林大臣に伺いたいと思います。
米の
備蓄と
小麦輸入制限についてさらに伺いますが、
生産調整を中止したことによって米の
需給に余剰が生じたならば、まず
備蓄量を増加さすべきでありましょう。
政府は、
備蓄に対する方針を持っておられるならば、この際明らかにしていただきたい。
また、米についてのみの
需給バランスが常に米の
過剰状態を生じるならば、
食用小麦の
輸入を削減し、
国民の
主食用穀物の
消費を米に誘導すべきことは当然ではありませんか。いかなる国でも、
自分の国で有利に
生産できる
穀物の
生産を制限し、
外国から高い代替の
穀物を
輸入するような
食料政策を採用しているところは類例を見ないと
考えますが、
農相に所見を承りたいし、
大蔵大臣からは、
外貨保有高が
減少する
現状の中でかかる
政策が容認されるならば、その
理由を伺いたいと思うのであります。
第四に、
総合的農産物価格制度の
確立についてでありますが、それはまず
農産物価格政策の位置づけを明確にすることであります。
農業基本法路線においては
価格政策はあたかも有害なものとして取り扱われてきました。
価格政策で
生産を刺激したり
農業所得を増加させることは、
農業の
合理化、
近代化を妨げるというのがその認識であり、その結果、
農産物価格は常に抑制され、
工業製品との間に極端な不
等価交換が生まれ、シェーレが
拡大してきました。
そして、米や
畑地農産物を
生産するための
基盤整備の
受益者負担金の返済や
農業機械購入等の借金の
元利償還は、
農業生産の収入だけでは負担できないため、
農民は出かせぎ
所得でこれに充てるという全く理解のできない
事態が生じておるではありませんか。
価格をこのように不当な地位に置いているということは、とりもなおさず
国内農業切り捨ての具体的なあらわれでありますから、その
考えを
転換し、
価格政策は
農産物の再
生産を可能とする最も重要な
政策の柱であることを明確にすべきであります。
いままで
政府はいつも
わが国の
農産物の七割は何らかの
価格支持の対象になってきたと言っております。しかし、
食糧管理法は別格としても、
農産物価格安定法、
繭糸価格安定法、
畜産関係等その他の
措置は、
昭和二十年代の末から三十年代の初めに制定されたものであります。
価格の
算定方式にしても、同じ
穀物であっても、米は
生産費所得補償方式であり、麦は
パリティ方式であります。
価格算定の基礎となる評価がえ労賃も、物によって
農村日雇い賃金あり
都市勤労者賃金をとるなど千差万別であって、それらに何らの脈絡も
合理的根拠もないありさまではありませんか。
また、各種の
審議会の運営も、
政府の息のかかった学者、元
高級官僚や
評論家など
委員の大部分で構成され、非公開で行なわれてきたことに対し、真の
農民はもとより、
消費者の代表をも加えて民主的運営を求める声が強いけれども、
政府は
委員の構成、運営の民主化、
会議の公開等についてこれを改めていくべきではありませんか。これをしないということは言語道断であると存じますが、所見を明らかにしていただきたいと思うのであります。
そこで、これらの諸制度を統合、分離または新設して、
農業生産の著しい多様化に即応して改組し、米麦、畜産物をはじめ重要
農産物について一貫した体系を持った
農産物価格保障制度を
法律として
確立すべきであり、そのためには
農民の
価格要求に対する団結権と団体交渉権を付与する方策をあわせて実施すべきであり、これこそ
国内の
食料自給度向上のための最も重要な
中心政策でありますが、
首相の決断と実行を求めてやまないものでございます。
第五に、
農民生活安定のための総合
施策についてでありますが、要するに、
農政転換のかなめは
農民が安心して
生産に励むようにすることであり、そのためには増産すれば
所得がふえるというきわめて単純明快な
施策を採用することであります。
農業生産とそれに関連する
施策と並行して、
農民生活安定のため思い切って実行をすべきでありましょう。中核
農家育成のためにも、これはぜひ必要な
施策であります。
例を申し上げますならば、現在の
農業者年金を無拠出
農民年金制度などへ切りかえるとか、
農民の社会保障水準を高め、家族
経営による
農業承継を保障するために相続税の特例を設けることも必要でありましょう。また、
経営を圧迫しておる旧債整理のための特別融資や土地取得等のための金融制度の根本的
改善ないし創設など数多くの問題がありますが、本日は時間の関係上省略いたしますが、これらを
農業のにない手として中核
農家を育成
確保する
政策視点から統一的に体系化して実施していくことを要請いたします。
白書は、自給度
向上、
農業のにない手の中核
農家の育成については十分触れておらないことを指摘し、
政府の善処を求めてやまない次第でございます。
さらに、土地
政策の根本的立て直しについてでありますが、この際緊急な問題が生じておりまするので、自民党総裁であり内閣総理大臣としての田中さんに伺いたいことがございます。
すなわち、五月十六日午後九時半NHKテレビで、東京女子大教授伊藤善市君が「総理にきく」という放映の中で、
国土政策のビジョンについてあなたはとうとうと一時間にわたって述べていらっしゃいます。総理、これはきわめて重大な問題であります。いまわれわれは
国土利用計画法案の趣旨に反するこの放言を聞き捨てにすることはできません。
国会軽視もはなはだしいではありませんか。
すなわち、この
法案は自社公民四党が国総法とは別個の立場から立案せんとしたものであり、順調にいけば本日の本
会議提案となるところまできておったものでありますが、総理、あなたは自民党総裁でありまた総理大臣として、その
法案の趣旨と全く反する無責任な放言をなさることは責任ある
態度とは言えないではありませんか。言い過ぎかもしれませんが、
国民を欺瞞する
態度ともいうべく、公党の信義を裏切る重大な政治家としての背信行為ではありませんか。(
拍手)われわれはこのような
主張に対してあなたの
考え方の
転換を求めるために今日まで努力をしてまいりました。厳重に昨夜のテレビ放送のあなたの言に抗議をするとともに、心からなる陳謝を求めてやまない次第であります。(
拍手)
私は、この際土地
政策の問題について、
最後の結びに一点だけ申し上げますが、民間資本による自由な
開発行為は禁止に近い制限を加え、現に資本の手にある四十万ヘクタール余の土地を未墾地
開発の対象とし、都市側の土地
需要は市街地の再
開発などを主体とし、農地への割り込みを強く抑制することを
主張してまいりました。特に農耕適地に巨大な土地をかかえ込んでいる一部のゴルフ場、同予定地等については、これを農地用として適当であるならば育成牧場等に解放すべきであります。また、私見でありますが、高速道路網とその建設予定は再検討される必要があり、新幹線鉄道につきましても、必要な
地域をトンネル方式として農地の壊廃を極力
防止するとともに、沿線住民を振動と騒音から遮断すべきことを勇気をもって
政策の
転換を行なうときではないかと思います。そして新幹線の新しい建設の
経費は一キロ二十億円といわれますが、何千キロの新幹線建設を一時これを押えるということではなしに、再検討をされ、やり方、工法を変え、もって
食料自給度向上の総合
施策の財源の一部としても、私は決して過言でないと存ずるのでありますが、総
需要抑制を持論とされる福田さんからこの点については承っておきたいと思います。
かくして限りある
国土を守り、
食料生産を第一にするための具体的な
措置をとる一方、農耕不適地に工業を誘導立地させる
政策をとるべきであります。農耕地に工場を誘致するということよりも、農耕不適地にドイツのように工場を誘致すべきであります。これを私は
主張いたします。そのためには、土地に関する諸制度を根本から見直す必要があります。
要するに、公共
事業にもピンからキリまであります。公共用という名において農地を壊廃して省みない現在の
考え方は根本から改めなければなりません。そしてすべての公共
事業に優先して守らなければならないのは農地や美しい自然であるという新しい価値観に
政府は徹すべきであり、特に
田中首相の新しい価値観の
転換を求める次第でございます。真剣にお
考えになって、率直なあなたの御所信を承りまして、私の質問を終わる次第でございます。(
拍手)
〔
国務大臣田中角榮君
登壇、
拍手〕