○栗林卓司君 私は、民社党を代表して、
所得税法、
法人税法及び
租税特別措置法の一部
改正案に対し、
総理並びに関係
大臣にお尋ねをいたします。
今日、
最大の課題がいわゆる狂乱
物価の鎮静にあることは申すまでもありません。そこで、まず
総理に、総需要の
抑制と今回の大幅な
所得税減税との関係について、どのような見通しと
対策をお持ちなのか、お
伺いをしておきたいと思います。
〔
議長退席、副
議長着席〕
もっとも、かりに
物価対策に支障が出たとしても、この
減税案が生活物資の値上がりに苦しむ
国民に対して特に心を配った
内容であるなら、十分説得力を持つと言えると思います。しかし、問題はその
内容であります。初
年度一兆四千五百億円の
減税のうち、だれにでも当たる
人的控除等の
引き上げ分は四千六十億円であり、全体の二八%にすぎません。残りの七二%、一兆四百四十億円は主として税の構造の見直しに基づく修正であり、すなわち
税制調査会の答申が示すごとく、中高
所得階層について
税負担の
軽減度合いを大きくした結果にほかなりません。もちろん、
高額所得者だから
減税しなくてもよいという理屈はありません。しかし、問題は、そのような税の構造の手直しを特にいま急いでやる必要があったのだろうかという点であります。
物価の逆進性から
考えて、
高額所得者の方がより
物価上昇の圧力を受けることが少ないと想像することは許されるでありましょう。したがって、税構造の見直しなどという仕事は、
物価が落ちついてからゆっくりと取りかかればよろしいと思います。それにもかかわらず、この
物価戦争の最中にあって、総需要
抑制への悪影響をおかしてまで、なぜ
高額所得者により多くの
減税を振り向けたのか、理解に苦しむと言わざるを得ません。これを
減税額で見れば、
年収百五十万円の標準
世帯の
減税額が二万六千五百十円であるのに対し、
年収二百万円ではその二・一倍、
年収三百万円では四・三倍、五百万円では実に十一・一倍、二十九万五千四百六十五円の
減税であります。そしてこのような結果を生んだ税構造の見直し作業について、
税制調査会の答申では、全面的な見直しを行な機会は、現実問題としては低
所得層の
負担を大幅に
軽減する場合に限られることになろうと述べております。すなわち、これはいわゆる二兆円
減税構想が絶好の機会となったことを暗に指摘しているわけであります。しかし、これでは悪乗り以外の何ものでもないではございませんか。結局、周到な準備もなしに二兆円
減税構想を見切り発車させたとがめがここにも出ていると思いますが、
総理の御見解をお
伺いしたいと思います。
また、この重大な時期に、なぜ
物価への悪影響をおかしてまであえて
高額所得者に配慮した理由、また、税の構造の見直しをするとしながら、利子
配当の
分離課税、有価証券のキャピタルゲイン
非課税、
土地譲渡益の軽課等の
措置がなぜ温存され、何一つ改善、
改正を行なわなかったのか、
大蔵大臣にお尋ねをいたします。
また、
物価と
減税の関係について、一言つけ加えてお
伺いをいたします。
昭和四十七年の
調査でも、
給与所得者のうち、
所得税を納税している者は八七・一%であり、約二二%の人たちは納税するに足りる給与
水準に達していません。納税していないわけですから、
物価が
幾ら上がっても
減税による救済はありません。したがって、もともと
減税は
物価上昇の救済策としては限界があると言わざるを得ません。この意味で、本筋の
対策としては賃金
水準の
引き上げに帰着せざるを得ません。ここで必要なことは、正常な賃金上昇が可能であり、かつ大
企業と
中小企業の賃金格差の解消が可能であるような経済環境、雇用環境をどう整備するかであります。そしてこれは
政府がその一翼をになうべき課題だと言わなければなりません。では、この分野の問題について
総理はどのような産業経済政策で臨んでいかれようとするのか、お
伺いをいたします。
また、同様の理由で、貯金の
目減り対策も本筋の
対策だと思います。この点に関して、一、今回の
減税案ははたして適正な規模であったのか。二、いわゆる二兆円
減税に取り組むゆとりがあるぐらいなら、
財形貯蓄について
政府支出の増加を裏づけとした飛躍的な
充実が可能であったのではないのか。三、同様に、高金利付の安定国債を発行し、これを凍結して総需要
抑制をはかるとともに、
貯蓄の
目減りを救済する道を講ずべきではなかったのか。以上三点について
大蔵大臣の御見解をお
伺いいたします。
次に、
租税特別措置を含めた
法人税関係についてお尋ねをいたします。
従来から、
法人の
配当軽課
制度については、自己資本
充実の役割りをほとんど果たしてこなかったにもかかわらず、その変更による影響が個別
企業によって異なること、あるいはその
廃止が
税負担の激変をもたらすという理由で温存されてまいりました。しかし、いまや状況は大きく変わり、いわゆる便乗値上げのもとにあって、激変しているのは
税負担ではなく
企業の利潤そのものであります。したがって、この際、思い切って
配当軽課
制度の
廃止に踏み切る絶好の機会だと思いますが、いかがですか。
また、
法人税の
基本税率についても、
政府は国際比較を一つの根拠として四〇%の妥当性を主張されているようであります。しかし、
企業会計の基準も、諸
特別措置の実態も、決して一様ではありません。しかも、
わが国において従来から
企業に手厚い
租税特別措置が講じられてきたことを
考えると、
法人税の
基本税率はさらに
引き上げてしかるべきだと
考えますが、いかがでしょうか、
大蔵大臣にお
伺いをいたします。
また、
法人関係の
税制について、従来から、
政府提案に先立って、産業界の代表との緊密な打ち合わせが重ねられてまいりました。その間にあって、
政府が主張を取り下げ、産業界の意向をくむ例も少なくないと聞いております。もちろん私は、この打ち合わせ自体を悪いと言うつもりはありません。
政府は政策の決定にあたって多くの
意見を聞くべきであります。しかし、では
所得税に関しては、労働組合をはじめ、
給与所得者が構成する団体が数多くありながら、なぜ事前の打ち合わせの機会に恵まれないのでありましょうか。経営者との相談が済んだ
法人税の提案と、あてがいぶちの
所得税の提案とのきわ立った違いについて、
総理の御見解を
伺いたいと思います。そしてこの問題を解消する道は、
政府が国会の審議を通じて常に修正する
決意を持ち、その慣行をつくることだと思いますが、いかがでございましょうか。
最後に、自動車関係諸税の増税について、
総理並びに
大蔵、運輸両
大臣にお尋ねをいたします。
よく自動車から
税金を取るという表現がされます。しかし、自動車が
税金を払えるはずはありません。払うのはあくまでも自動車を利用している
国民であります。では、今回の増税はどのような
所得階層の
国民から取ることになるのか、また、その人たちはどんな自動車の使い方をしていると
承知しておいでになるのか、
総理に
伺いたいと思います。
昭和四十八年のある
調査によると、勤労
世帯の乗用車保有台数は六百六十一万台となっております。そのうち
年収百万円未満が一一%、
年収百万円以上百六十万円未満が三九%、すなわち今回
政府が提案した
課税最低限百七十万円未満の
世帯が約半分を占めております。では、何の目的で使っているかといえば、そのおもなものは通勤であり、買いものであり、
家族の移動であります。現在スプロール化しつつある都市郊外の姿を
考えれば、これがどのような切実な必要性を意味しているかは多くを申し上げる必要はないと思います。自動車を持たずに雨の中をからかさをさして歩していこうとするには、あまりにもみじめな交通環境、都市環境しか存在しておりません。
また、われわれは、物資の流通において配達という方法があることを当然のこととして受け取ってまいりました。しかし、これは個別輸送の問題であり、面の交通の問題であります。公的大量輸送機関で代替し得る分野ではありません。また、配達では料金が高いから直接買いにいこうとなれば、そこにまた面の交通が発生いたします。そしてこの交通手段の役割りを果たしてきたものが自動車であり、その結果、自動車が
国民生活に深く食い込んだ存在となるに至ったということでありましょう。すなわち言いかえれば、面の交通、あるいは個別輸送に対する社会的需要が存在する限り、また、この需要を効果的に解決する総合交通体系が開発され、定着されない限り、自動車関係諸税の増税は、
国民いじめ、弱い者いじめに終わるしかないでありましょう。ある国では、乗用車にかわる交通手段の開発育成の方法として、無料バスの運行を試みているといわれます。しかし、
わが国では常に増税のみが前面に出てまいります。しかし、自動車の利用
抑制を税のみにたよるやり方が正しい政策のあり方かどうか、
総理に
伺いたいと思います。
しかも、その
税負担は、かりに六十万円の車を購入したと仮定した場合、初
年度で十六万九千円、六年間分を通算すればほぼ自動車の購入価格に匹敵する五十九万四千円に達し、しかも、その税の種類は八種類に及んでおります。加えて今回の増税案によってさらに追加される
税負担は、初
年度で三万円をこえるでありましょう。この重税もさることながら、八種類にも及ぶ自動車関係諸税を一体いつになったら整理をされるのか。また、通勤、買いもの、配達といった個別的な面の交通手段として、
政府は今後具体的にどんな
対策を用意していかれるのか。また、その前提として、懸案の総合交通体系をいつまでにどのような手続で策定される予定なのか。自動車を所有する勤労
世帯のうち約半数が
年収百七十万未満であり、その周囲には劣悪な交通環境、都市環境が横たわっていることを重ねて強調しながら、
大蔵大臣並びに運輸
大臣にお尋ねして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣田中角榮君
登壇、
拍手〕