○
参考人(
森沢基吉君) ただいま
黒沢先生は、三法の御
審議に
関連をして、
沿岸漁業の問題を
対象にいろいろ
意見をお述べになりましたので、私は、むしろ
遠洋、
沖合い漁業あるいは
国際漁業が置かれている環境なり、それに対する
対応策なりというふうな点の
お話を申し上げて、三法の御
審議の御
参考になれば幸いであると、そういうように思うわけでございます。
それで、もう私がとやかく申し上げるまでもございません。いま私、
業界の
立場からはっきり申し上げますと、
水産を取り巻く
内外情勢まことに多端でございまして、第一点は
国土開発とか、
産業開発による
公害等によって
沿岸漁業が追い詰められてきつつあるという国内的な問題が第一点。
それから第二点は、きょうの私の主題でございますけれども、
国際規制並びに
海洋法によるいろんなきびしい締めつけが
日本の
国際漁業の上に大きくのしかかりつつあるということ。
それから第三点は、先般来の
漁業用燃油の
値上げあるいは
漁業用資材の
値上げ、二倍にも三倍にもなっておりますが、この中で、ほかの製品のように、直接、魚の価格を
生産費に反映できない
仕組みになっている
水産の
立場というものは経営上から見て非常に苦しくなるであろう。まあ、この三点に要約できると思います。
それで、
日本の総
漁獲高は約一千万トンでございますが、その中で
遠洋あるいは
沖合い、
沿岸、いろいろ
農林省の
統計の中で出ておりますけれども、この十年間の
傾向は
沿岸漁業が
浅海増養殖の伸び以外では非常に停滞的である。ほとんど
沿岸の
漁船漁業というのは数量的には伸びておりません。これに比べまして、
遠洋漁業でございますとか、
国際漁業でございますとかいうのは
特定魚種の増加もございまして、非常に
日本の総
水揚げ高の
比重は大きくなっておるということがいえると思います。こまかい数字は繁雑でございますので失礼をいたしますけれども、大体
昭和四十七年の
政府の
統計だと
遠洋漁業が
海面総
漁獲高の三九%でございます。これが十年前は三一%でございました。それから
沖合い漁業が三六%、これは十年前とあまり変わりません。
そういうわけで、
遠洋、
沖合い漁業合わせまして実に七五%の
比重を持っておるということをまず第一に申し上げておきたいと思うのでございます。というのは、いろいろな
国際規制なり
海洋法の影響を受けます階層は、この
日本の
漁業の中の大きな柱になっております
遠洋、
沖合い漁業がまともに
国際情勢をかぶるという
意味でたいへん大きな問題になるわけでございます。
で、私
たちは
国際漁業という
ことばを使いますが、これは特に定義があるわけではございませんが、要するに
遠洋漁業それから
沖合い漁業を含めまして、いろいろ
国際条約の
規制水域で操業する
漁業並びに
外国の
基地を
基地として操業する
漁業などを総称して
国際漁業と称しております。
で、
国際漁業の総
漁獲高は約四百七十万トンでございますから、
日本の総
漁獲高の半分近いものが
国際漁業のウエートであると、こういうことできびしい
国際情勢をまともに受けるこの
漁業というものが
日本の
水産業にとってはもちろんのこと、
日本の
動物たん白食料政策に対しても非常に大きいインパクトを与えるおそれが出てきた、こういうことを率直に申し上げたいと思います。
もう
先生方御
案内のことでございますが、
昭和四十七年の、一昨年の暮れに出しました
農林省の
動物たん白摂取量の
統計を見ますと一日三三・七グラムだと。そのうち、鯨を含めまして一七・四グラムが
水産物ですから、五一・三%
程度が実に
水産物によってまかなわれておると。今後もおそらく
畜産物と
水産物フィフティー・フィフティーぐらいで
供給をしなきゃならぬと思いますが、
畜産につきましては、えさの問題その他で必ずしも楽観できず、大きくゆれ動いております。したがって、
水産がだめになっても、
畜産で
動物たん白食料を
供給できるという安易な
考え方はやはりとることができませんので、何としても、
日本の
沖合い、
遠洋漁業、
ことばをかえますと、
国際漁業というものは、
食料政策という
立場から維持振興する御
政策をおとりいただく必要があるだろうし、また、
業界自体もそれに対応する
体質改善をする必要があるということを申し上げたいわけでございます。
もちろん
輸入もふえていくと思いますが、現在約六十万トン
程度が
水産物の
輸入で、
日本は
アメリカ合衆国に次いでいまは
世界第二の
水産物の
輸入国でございますけれども、一千万トンの総
漁獲高の中の六十万トン、これもしかも、エビとか、フィッシュミールとか、
特定のものでございますので、いたずらに
輸入だけに今後、依存するというわけにはもちろんまいらない。というのは、
日本人のように、多種類に、
水産物を摂取する
国民のために、魚をとってくれる国は、
世界のどこにもないわけでございますから、これはどうしても、われわれの手でとって、
国民に
供給しなきゃならぬ。
輸入がふえましても限度がある。
ことばをかえますれば、
自給率の問題が、農業でいま議論されておりますが、わが
水産業は、
自給率は非常に高いのでございます。何とかして、この線をダウンさせないようにもつていく必要が
食料政策の面からあるであろう、こういうことでございます。それで、
国際情勢のきびしさというのはいろいろございますが、私は三つあると思います。
その第一点は、この六月から十週間、カラカスで開かれます
国連第三次
海洋法会議の
動向、もう
新聞紙上、あるいは
政府からの御
説明でいろいろ
先生方御
案内のことでございますが、これが第一点。
第二点は、
わが国が加盟いたしております、いろいろな
漁業条約によってできております
国際漁業委員会におけるきびしい
規制の強化。
第三点は、
日本列島の
周辺におきます
外国漁船の操業の問題。
日本列島の
周辺もいまや
国際漁場になりつつございます。先般来、
新聞紙上をにぎわしました
ソ連船のサバの
漁獲などこの一例でございます。
この三つが、私は、
日本の
漁業を取り巻く
国際情勢の最近の動きだと思いますが、一番問題になりますのは、この
海洋法の
動向でございます。
国際委員会の問題は、実は
海洋法の問題と
うらはらでございまして、非常に
関連が深うございますが、いずれにいたしましても、
世界の大勢は、
開発途上国はもちろんのこと、
アメリカ、カナダ、ニュージーランド、
オーストラリア等を含めまして、大体
領海十二海里、さらに
経済水域あるいは
漁業水域として二百海里と、こういものが、どうやら
世界の
動向になりつつあるようでございます。
新聞情報でございますからわかりませんが、どうやら
アメリカ、
ソ連も三百海里に傾きそうだというふうな、ぶっそうな
情報もわれわれ聞いております。
わが国の
立場といたしましては、
政府は、
世界的な合意が得られるならば、三海里を十二海里に踏み切ると、さらにいたずらに広範な
経済水域的なものを設けることは
水産物の
合理的利用という
意味から言って適当でない。ただ、
開発途上国、あるいは重く
水産業に依存している
特定の国については、ある
程度沿岸国に優先を与える考慮はすべきだという
意見、一昨年の夏のジュネーブの
拡大海底平和利用委員会で
小木曽大使から提案をしておられますけどれも、いずれにしましても、二百海里という広い
水域が何らかの
意味合いによって
沿岸国の強い主導のもとに入る
可能性というのは濃くなってきたわけでございます。われわれはいままで狭い
領海、広い公海ということで
世界をまたにかけて
水産物を採捕してきたわけでございますが、もうこういう
時代は過ぎ去りましたが、この二百海里の中で行なわれている
国際漁業の
比重というものが非常に大きいだけに、
国連の
海洋法会議においてはひとつ
日本の案を、最後までがんばり切れるとは、私は、率直に申し上げて思っておりませんけどれも、できるだけ強く押し出して、たとえある
程度の広い
海域が設定されても、その
内容につきましては、
十分水産物の
利用という面から見て、また、
世界人類の
食糧の
供給という面から見て妥当な
方向になるように
政府の御
努力をいただかなければならぬ、こういうふうに思うわけでございます。
二百海里の中で、現在わが
国際漁業がとっております
漁獲の
比重は八四・五%でございます。百海里の中では七八・二%、五十海里では四三・八%、まあ二百でも百でもたいして変わりございませんが、理論的にかりに二百海里から全部締め出されるとしますと、わが
国際漁業の八五%がアウトになる、こういうことでございます。もちろん
開発途上国は全面的に締め出すとは決して申しておりません。いろいろ
入漁料を払えとか、
経済協力、
技術協力をしろというようなことで
条件を出して、リーダーシップをとろうとしておりますから、
海洋法がさっき申し上げた
方向に落ち着いて、
日本の
遠洋漁業が一五%しか残らぬということでは決してございませんけどれも、それほど大きな
比重を、
国際漁業というものが、
海洋法の
関連で持っておるということは非常に重大でございます。で、特に
先生方に御了解を賜わりたいことは、いまモスクワで日ソ
漁業交渉中でございますけれども、この四百七十万トンの二百海里
——主として二百海里の中でございますが、
国際漁業の
漁獲高のうち、南のほうでとられているもの、おもにマグロとかトロールでございますが、これは七十万トンでございます。したがいまして、わが
国際漁業の四百七十万トンのうち四百万トンは、主として北洋
漁業であり、一部いま
政府交渉が始まろうとしております中国
沿岸大陸における以西
漁業である。したがいまして、われわれは、
海洋法の問題というのは南北問題であるというふうに考えがちでございますが、
水産業については南北問題もちろんでございますけどれも、むしろ私は、北洋
漁業の問題であると。私は直ちに対
ソ連−対カナダ、対
アメリカの問題であると、それだけに非常に処理がしにくいということを心配をしておるわけでございます。で、
日本は
海洋法会議において
世界の孤児になってはなりませんけれども、この実態を食料問題という高い
立場から十分踏まえて対処していただきませんと、えらいことになるのではないかという心配をしております。
それで、私なりに率直に要望なり
意見を申し上げますと、第一点は、この
国際漁業委員会の
規制の強化にも
関連いたしますが、ひとつ腰を据えてしっかりした
漁業の外交を
政府はやってもらいたい。これは単に
水産庁に要望することではございません。
日本の外交の中で、
漁業外交という
ことばはあまりなじまぬ
ことばでございますけどれも、腰を据えて、ひとつ
日本人はこれだけ魚を必要とする
国民なんだということを十分腹に据えて、しっかりした
漁業外交をやっていただきたい。ただ、話がつけばいいという簡単なものではございません。いまのモスクワの交渉においても毎年毎年じり貧でございますけれども、ここらにも私
たち業界の
責任もございますけどれも、また日ソ
漁業交渉のあり方等についても大いに申し上げたいこともたくさんわれわれもあるわけでございます。
いずれにしても、南北問題あるいは東西問題を問わず、
漁業の強力な外交を展開をして、いろいろな国と
漁業協定、
漁業協力協定を結び、
日本の漁船の操業が実質的に広い
経済水域の中で確保されるという手を打っていただくことがまず第一でございます。それには
水産庁の機能も非常に私はまだプアーだと思います。最近機構改革もありましたけれども、まだまだ多くの国を相手にして交渉を行なうのには非常にプアーである。現在
日本は民間協定を含めて二十の
漁業協定に入っておりますが、とてもこれだけをこなすスタッフが
水産庁には十分でございません。これは一挙に整備できるものではございませんけれども、そこらもお考えいただきたい。
日本よりも水揚げの少ない国で、
漁業省を持っている国が
世界に八カ国もございます。
ソ連とかペルー、ノルウェー、中国、南ア連邦ですら
漁業の省を持っている。こういう実態でございますので、何もいま
漁業省をつくれというと
意味で申し上げるんじゃなくて、
国際漁業に対応する
政府の、特に
水産庁の強い機構、こういうものを今後も引き続いてお考えをいただく必要があるということでございます。
第二点は、
技術経済協力と十分提携をする
漁場の確保を進めていただきたい。これは先年、
先生方の非常なお骨折によりまして、海外
漁業協力財団というものができ上がりまして活動を開始いたしましたおかげで、予算も逐次ふえつつございますが、現在でもファンドは二十五億でございます。われわれは少なくとも百億ぐらいを最低限にしたファンドを持つ財団で、しかも、
政府ができないもっと流動的な交渉がこの財団の融資を背景に
開発途上国などとできることを期待をいたしておりますし、さらにこの財団の機能は、出発当時はおもに南北問題でございますが、私は、北洋
漁業等の先進国に対しても機能する財団であるべきであると、こういうふうに思います。たとえば
技術協力の問題は、
アメリカ、カナダ、
ソ連ともございますし、なかなか進みませんけれども、日ソ共同サケ・マスふ化増殖
事業というふうなものが将来話ができます場合には、
業界が負担しなければならぬ部分につきましては、この財団がソフトローンをやるというような
考え方だってあり得るではないか。したがって、現在の財団は南北問題だけの財団ではなくて、北洋対策、つまり東西問題の財団にも将来成長さしていくべきであるという
考え方を持っております。
それから第三は、新しい
漁場の開発をさらに積極的に進めるべきであると。これは
沿岸開発も当然入りますけれども、特に
遠洋の開発はまだまだ
努力をすれば私は開発の余地はあると、こういうふうに見ております。先年、
海洋水産資源開発推進法で特殊法人のセンターができ上がりまして、非常にいま活動を続け、南氷洋のオキアミでございますとか、ニュージーランドのイカでございますとか、新しい
資源の開発が進みつつあります。
水産物の需給のアンバランスを解消するためにも、また
世界の爆発的にふえる
人口に対応していくためにも、私は、
技術を持った
日本が新しい
漁場の開発というものに十分
努力をして、これを国際機関なりほかの国にも提供をするということによって、
日本漁業の、特に
遠洋漁業の安定化の道を見つけるということも非常に重要であろうと思います。
日本の
漁業だけの
海洋水産資源開発であってはなりませんで、
世界の
漁業のための
海洋水産資源開発、
漁場開発の使命というものをやはり
世界第一の
漁業国である
日本は持っているんじゃなかろうか、そういうふうに思うわけでございます。
それからさらに第四番目は、もう現在大手がやっておりますが、もう
水域の中でやる方法としては、合弁
事業として向こうのフラッグのもとで操業するという方法をできる限り積極かつ多彩に進める方法も一案であろうと思います。ただ、中小
漁業は、大手のように簡単には合弁
事業というわけにまいりませんので、問題が残りますが、これも
海洋法に対応する
一つの方法でございます。
以上、いろいろ
遠洋漁業の
比重と
海洋法等を中心とした問題を申し上げましたが、いま御
審議中の
沿岸漁場整備開発法案は、私は実は
海洋法対策の重大な
一つの柱であるというふうにいつも申し上げております。というのは、
日本の
周辺の
漁場というのは、
世界でもこれは有数の
漁場でございます。この
漁場をよごしっぱなしにして、また、十分開発投資の
努力をしないで、われわれがほかの国の
沖合いあるいは地先で操業をさしてほしいということを申しましても、これは、
世界的には通用しない理論でございます。したがいまして、われわれは、今後、国際
会議に臨みましても、
日本の
政府は、
日本の
周辺においてこういう
法律を出して、大きな
事業として再開発をやっておるんだ、これでもなおかつ、
日本人の食べる魚は十分確保できないんだということで初めて、
海洋法会議において
日本の
立場を強く主張することができるという
意味合いから、御
審議中のこの
法案というのは、
遠洋漁業にも
海洋法にも非常に重大な影響を持つと、こういうふうに思います。それだけに
昭和五十年からの
事業実施につきましては、ひとつ思い切った
事業の肉づけを御検討を国会においていただき、
政府のほうを御督励をいただきたいと、こう思うわけでございます。農業の土地改良等に比べますと、
水産の
漁場開発という金額はあまりにも僅少でございます。これはわれわれ
業界の
責任もございますが、ひとつこの
法案の御
審議にあたりまして、そういう点も十分御考慮をいただきたいということを申し上げまして、たいへんざっぱくでございましたが私の
意見の陳述を終わります。