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参考人(
原司郎君) それでは私も、いま考えておりますことを、あまりまとまっていないかもしれませんけれども、お話しさせていただきます。
ただいまの
川口参考人からもございましたように、
昭和四十年代に入りまして、
わが国の
金融行政が、
金融効率化という理念で進められてきたということは御
承知のとおりでございます。その主たる内容は、できるだけ
金融機関の
経営の
効率化をはかる、そのためには、
金融機関間の
競争条件で規制されているものを撤廃ないしは
緩和していって、
金融機関間の
競争を一そう激しくするということと、
規模利益を
追求するということ、そのことを通じて
金融機関の
経営の
効率化をはかって、そして
預金者にはできるだけ高い
預金金利を、そして
借り入れ者に対してはできるだけ低い
貸し出し金利というものを実現していくということが、
金融機関の
公共性を達成するという道でもあるというようなものではなかったかと思います。
その後の
金融効率化行政の足取りをたどってみますと、第一には、ずっと戦後硬直的に推移してきました低
金利政策に基づく
金利規制というものがかなり
弾力化の
方向に向かってきたわけでございます。
特に、一番特筆されますのは、
昭和四十六年以降、四十七年の一時的な引き下げはありましたけれども、
預金金利が今日まで一貫して引き上げの
方向に進められてきたということ、それから第二番目に、
店舗規制の
弾力化が行なわれて、
店舗配置がかなり各
金融機関の自主的な意思できめられるようになったということ、それから
配当規制が
緩和されて、
統一経理基準の実施のもとで、各
金融機関の収益をめぐる
競争が実現していったということ等ではなかったかと思います。
これに対して
金融機関側の
対応の
状況を見ておりますと、まず第一に、
規模利益追求の動きが非常に加速化されてきたということでございます。これは、御
承知のように、
中小金融機関、例の二法によりまして
合併、
転換等が促進されたと、それが促進の材料になったということもございますし、その後出されました「
一般民間金融機関の
あり方等について」という例の
金融制度調査会の
答申等が刺激になりまして、
都市銀行の
合併すら生まれてきたということは御
承知のとおりでございまして、そうした
対応の
関係が一つ出てきたということ。
それから第二番目に、
店舗配置の
効率化というのは、やはり特に
都市銀行を
中心に進められてきまして、
過疎地域から
都市化の一そうの進展のきびしいところに
店舗の
配置転換が行なわれて、
店舗配置の
効率的な運営というものがなされたということ。
それから第三番目に、
金利機能の
活用による
資金配分というものが、これは
金融効率化の中で主張され、特に例の「
一般民間金融機関の
あり方等について」の
答申の中で主張されてきたことでありますけれども、こういった
金利機能の
活用による
資金配分あるいは
金融機関の
自主性に基づく
資金配分というものが行なわれてきたということ。もちろん、先ほど
川口参考人の御
意見の中にもありましたように、
系列企業への
融資というものの比重も高かったわけでありますけれども、そういった
対応関係を示してきたというふうに考えることができるわけでございます。
こうした
金融効率化論の中で、私が考えまして確かに
メリットと考えられる面もなかったわけではないけれども、反面デ
メリットと考えられる面がやはりこの際十分に
評価されなければならないのではないかということでございます。で、
メリットとしては、先ほど来述べました中にありました、各
金融機関の
経営の
効率化というものに対する真剣な
対応というものがなされてきて、それができるだけ高い
預金金利を可能にするというふうな
条件をつくっていったということは争えないわけでありますけれども、やはり
規模利益の
追求というものがあまりに急激に進みますと、
零細あるいは
中小顧客に対する
サービスというものがおろそかになる。つまり
金融機関の
経営というものが先に進んでしまって、その
金融機関がいかなる
サービスをすべきかという点が非常にあいまいに残されるということがいえるのではないかということでありますし、さらに、御
承知のように、一昨年の
金融緩和がきわめて大幅に進みましたときにおける
金融機関の
行動を見てみますと、やはりそこにおける
資金配分の
あり方に非常な疑問を感じさせられる点が多々あったことは御
承知のとおりでございます。
先進国型の
金融構造のもとでの
銀行の
あり方でございますと、たとえば
金融緩和の
時点、まあ
先進国は比較的
金融緩和の
状態が
構造的に定着しておるといわれておりますけれども、そのもとでは、やはり
銀行の
資金の運用ということにつきましては、たとえば
有価証券の
投資と
貸し出しを合計した分について、
アメリカの
商業銀行の例などを見ますと、三〇%は
消費者金融ないしは
住宅金融である、それから三〇%は公債の買い入れであるというふうなことになっておりますけれども、
わが国の一昨年の
金融の超緩慢時における
銀行の
貸し出し行動は、確かに一面において
住宅金融あるいは
中小企業金融あるいはそういった
零細な
企業への進出というのがありましたけれども、やはり基本的には、経済全体が沈滞しておって
設備投資がそれほど盛り上がらなかった
時点で、しかも、
金融超
緩和で
貸し出し金利が傾向的に下がっていく中で、大
企業への
貸し出しが毎月記録を更新するような形で伸びていって、これが土地投機であるとか、あるいは商品買い占め等につながっていったということは周知のことでございまして、そういった形に出たということは、その
金融超
緩和の
状態はいずれ解消して、
金融が逼迫した
時点には、やはり
わが国の
金融の主たる機能というのは、家計の貯蓄を吸収して、そして大
企業に
資金を流していく、こういうような使命にもう一度戻るのではないかというふうな見通しがあったからではないかと思われます。そういった形の中で、
金融の転換、特に
銀行行動の転換というのが必ずしも見られなかったということではないかと考えられるわけでございます。
ところで、最近におきましては、福祉
金融というものが非常に強く叫ばれて、福祉
金融論が花盛りでございますけれども、この福祉
金融ということは、どうも私は
金融効率化という従来進められてきた行政理念というものとかなり根本的に違うものではないか。そういった意味では、発想の根本的な転換が必要とされるのではないかというふうに考えております。
で、福祉
金融、まあ福祉社会実現のための
金融ということになろうかと思いますが、これをなかなか具体的に示すということはむずかしいのですけれども、いまかりに福祉
金融というものを消極的な側面と積極的な側面に分けまして、消極的な側面といたしましては、たとえば公害とか地域住民に不利益を与える、あるいは反社会的な
企業へ
貸し出しを行なわないというようなこと、あるいは公害防止の事業に対して積極的に
金融をしていくというふうにとらえ、また積極的な側面を
個人の住宅建築への
金融であるとか、あるいは地域における生活環境の整備であるとかいうふうなものに対する積極的な
貸し出し行動というふうにとらえてみますと、こういった形での
資金の配分というものは、必ずしも従来とられてきた
金融効率化行政の流れの中では実現していかないのではないかというふうに考えられるのではないかと思います。
で、確かに、先ほどから述べておりますように、
金融効率化ということは、
金融機関の
経営の
効率化というものを推し進めるという点で、
メリットがあったわけですけれども、しかし、
わが国の今日における
金融の仕組みの、あるいは
金融が果たさなければならない機能ということから考えると、
金融効率化行政というものの転換がやはり必要ではないかというふうに考えられるわけでございます。たとえばいま出しました問題の中で、
個人の
住宅金融への
対応という問題一つとりましても、現在の
状況ではどの
金融機関も、産業
金融も行なってもよいし、
住宅金融を行なってもよい、つまり
預金なら
預金あるいはそのほかの
資金調達手段で集めたお金を、このお金は産業
金融に
貸し出してもよろしいし、
住宅金融に
貸し出してもよろし、こういう形になっております。したがいまして、確かにたとえば
都市銀行の総
貸し出しに占める
住宅金融あるいは
消費者金融の比重を、比率をとってみますと、
昭和四十五年以降趨勢的に上がってきておりますけれども、たとえば四十八年十二月末でとりましても、まだ四%程度でございまして、きわめて
アメリカ商業銀行などに比べて低いわけでございまして、それがまあ四十九年に入りまして、一月以降
金融引き締めの中ではますます圧迫、圧縮されておるという話も聞いておりますし、聞くところによりますと、
住宅金融あるいは
個人ローンというようなものは、すでに毎月の返済された分だけにしかワクが与えられないというような
状況になっているというふうにも聞いておりまして、つまり
住宅金融というものは、常に産業
金融に対するいわばバッファー的な役割りを果たしておるということで、限界的な
貸し出しといいますか、産業
金融が伸びたときには押えられて、産業
金融が落ちたときには伸びるというふうな傾向が依然として残っているというようなことが言える。といたしますれば、やはり
住宅金融というものにもっと
資金が流れていくような、何らかの制度的な検討というものが必要である。それはやはり
専門的な
金融機関の育成ということが一つ考えられるのではないだろうか。少なくとも当面、まだ日本の
金融の機能というものが、先ほど述べましたような形である間は、やはりそうした制度的な配慮というものが、
資金配分の上に必要ではないだろうか。同じようなことは、
中小企業あるいは
零細企業に対する
貸し出しについても言えるわけでございまして、
金融が超
緩和というふうにいわれました四十七年などにつきましても、残高で見ますと、
中小企業金融の比重というのはあまりふえていないわけでございます。確かに大
規模銀行による
中小企業ないしは
零細企業への進出というのは、確かにまあ傾向として見られたわけであります。現在も見られるわけでありますけれども、それはかなり選別
融資という形をとって、特に優良なものを拾い上げていこうというような形であって、はたしてこれが
中小企業の育成についてすべての手段を包括しておるものであるかどうかということについては、全く疑問が生ずるところでございまして、そういった意味で、やはり
中小企業金融に関する
専門的な
資金配分の
機関というものがなお必要ではないだろうかということは、いまの事例からも明らかになるわけでございます。
そのほか、先ほどの消極的な側面としてあげました公害等、地域住民に関する問題等につきましても、やはり
金融効率化というような形での
対応では十分な規制ができないわけでございまして、やはりある程度
融資規制、まあ
融資に関する何らかの行政的な措置というものが必要ではないか。片方でそういうふうな形での
資金配分ということが行なわれるとすれば、他面においてやはり
大口融資規制というものが必要になるわけでございまして、そういった形での規制というものが、やはり
金融効率化というふうなことで、
金融機関の
経営の
効率化というふうなことの流れの中で、そういった意味での規制というものが必要になるのではないだろうか、こういうようなことを考えております。
店舗配置につきましても、先ほど来の
店舗の
効率的な配置が、
過疎地域における住民の非常な不便を伴うという可能性を持っているということも言えるわけでございまして、また
配当規制につきましても、時間がありませんから、ここでは省きますけれども、やはり
銀行というところの
公共性に基づく適正収益ということから考えますと、やはり
効率化ということだけでは、必ずしも納得できるような形にならないのではないか。その場合の規制というものが、どういう形で行なわれるのかということ、上からの規制ということと、地域住民あるいは国民のある程度の合意といいますか、コンセンサスというふうなものに基づく規制というものと、いろいろ考えられますけれども、できるだけ国民のコンセンサスを得たような、そういう規制というものが望ましいのではないかというふうに考えておるわけでございます。
なお最後に、こういうふうな形で
資金配分という点で、
専門的な
金融機関ないしは制度的な形での
対応が必要であるということになりますれば、当然
資金の調達面におきましても、そうした
金融機関の、あるいはそうした制度の存在というものを保障するような措置が必要であるということでございます。現在
預金金利の引き上げが、先ほど述べましたように随時に行なわれてまいりまして、昨今は
個人、法人
預金の分離問題であるとかということで、
預金金利がさらに引き上げられるべきだというふうな
意見も出ておるわけでございますけれども、この
預金金利を
弾力化して、
預金者が、自分の好む
預金を選択することができるということは望ましいし、
預金金利が引き上げられるということは、
預金者にとっては非常に利益の大きいことでありますけれども、この点において、先ほど
川口参考人の御
意見もありましたように、大
規模銀行とその
預金者との利害が一致する、そうしてこれと
中小金融機関の利害が反する、こういうふうなことになりかねないわけでございます。つまり、それだけ
小口の
預金を扱っている
中小金融機関の
経営効率というものが低いのは当然でございまして、その
中小金融機関の
経営を、
預金金利の引き上げが圧迫するということになるわけでございまして、こういった問題をやはり何らかの形で解決していかないと、つまり、
資金の調達面では、大
規模銀行も中小
規模金融機関も同じ場で
競争しなさい、しかし、その
資金の運用面では特色を発揮しなさい、これではやはり徳川時代の農民のように、生かさぬように殺さぬようにというふうなことにもなりかねないわけでございまして、そこに何らかのやはり保障というものを与えていかないといけないわけでございます。先ほどの
川口参考人の最後のところにもございましたように、こうした傾向は、西ドイツとかイギリスとか
アメリカなどで見られる最近の
金利自由化の流れというものに、何か反するような
意見かもしれませんけれども、
わが国の
金融機関あるいは
金融機構というものの実情から考えますと、そうした
専門性というものの保障というものは、やはり制度的に確立していくべきではないかというふうに考えるわけでございます。
なお、せっかくこの席でございますので、最後にもう一つ。これは直接
金融機関の問題とは
関係ないんですけれども、私が日ごろ地元で感じております一つのことを
意見として申し述べさせていただきたいと思うんです。それは、各都道府県が行なっております間接
融資制度というのがございます。各都道府県が
金融機関に預託をしまして、その預託金の何倍かの
中小企業への
融資を行なうという制度でございます。これが現在日本
銀行の窓口規制の対象の中に入れられておるということでございますけれども、もし
中小企業金融というものを進めるという、あるいはこういった時期に
中小企業金融に一つの救済的な意味を与えるということであれば、これは日本
銀行の窓口規制のワク外にすべきではないかというふうに私は考えております。
以上でございます。