○
参考人(
武田昌輔君) 私、
成蹊大学の
武田でございます。
本
年度の
所得税法、
法人税法、
租税特別措置法、三法につきまして若干
意見を申し述べさしていただきます。
所得税法につきましては、ただいま
肥後先生から
お話がございましたが、私はやや技術的な問題について若干の指摘をさしていただきたいと思います。
第一番目は、
基礎控除の
引き上げでございます。二十一万円を二十四万円に
引き上げる、三万円
引き上げるということで、いままでかつてなかった
金額でございます。
昭和二十六年には三万円でありましたのを五万円に
引き上げまして、二万円アップした事実がございますけれども、三十七年に九万円を十万円に
引き上げまして、それ以来毎年一万円ずつ
引き上げて、現在の二十一万円に達しておるということでございます。そういう
意味合いにおいては、これは評価をしてよろしいのではないかと、かように考えております。ただ、当時のたとえば、
昭和二十六年の三万円、これと現在の、まあいわばこの物価の水準とか、そういったようなことから考えますと、まあ少なく見積もりまして十倍と考えて、たとえば三十万円程度というようなことも決して少なくないのではないかと、かように考えるわけでございます。もちろんこれは、一ぺんにというわけにはまいりませんけれども、そのような点があるということを申し述べさしていただきたいわけです。
それからもう
一つは、こまかい諸
控除の問題は、私の考えでは思い切ってやめまして、
基礎控除とか
扶養控除とか、あるいは
配偶者控除、そういうようなものを、基本的な
控除を
引き上げて、これを整理をするということも
一つの
方法ではないか、たとえば現在損害保険
控除というのがございますが、これは
最高頭打ち二千円ということでざいまして、いかにもこの程度のものでは問題にならないように考えるわけであります。もちろんこれは損害保険
控除を大幅に
引き上げるという
考え方もありましょうけれども、あまりにも
税制を複雑にするという
意味合いにおいて、先ほど申しましたように
基礎控除、そういう重要諸
控除を
引き上げるということのほうが適当ではないか、かように考えます。
それから第二点は、
給与所得控除の問題でございます。抜本的
改正でございます。これはしばしば青天井ということで
議論がなされておるわけでございますけれども、私は、との経費につきましては、固定費と変動費に分かれると思います。つまり、
所得が多いか少ないかということに
関係なく、固定的に発生する費用と、それから、
所得の多ければ多いほど、それに比例をいたしまして、そして出てくるエクスペンス、それを二つに分けて考えるべきであると思います。今回の一〇%が適当かどうかということについては、実証的なデータもございませんので、何とも言えませんけれども、いずれにしましても、変動費を認めるという
考え方、これは必要ではないかと思います。ただこの場合も、先ほど御指摘ございましたけれども、やはり上のものに厚く、下のものには結果的に薄くなっているという点は、いま一度
検討されるべき事項であると思います。
それから第三点は、
税率の緩和の問題でございますが、これもいわゆる刻み、ブラッケットを拡大をしたということでございます。これは一応五割アップということになっております。たとえば、
税率一〇%のところを見てみますと、四十万円を五十万円に
引き上げております。ところが、五五%のところを見ますと、二千万円を三千万円に
引き上げている。こういう
意味で、いずれも五割アップという点については同じでございますけれども、その効果ははるかに二千万円を三千万円に
引き上げたところに恩典と申しますか、メリットが生ずるわけでございます。こういう
意味合いからは、やはりもう少しこの下のほうの率、四十万円、五十万円のところ、このあたりをもう少し
引き上げるというような配慮が必要なのではないか。この
改正自体については、この
方向につきましては全く賛成でございますけれども、もう少し下のほうを割合を大きくするというようなことも必要ではないか、かように考えるわけであります。
それから
法人税の問題につきましては、現行の三六・七五%というのを、四〇%に
引き上げられております。この
法人税率の四〇%の
引き上げというのは、実効
税率で申しますと四九・四七%という計算が出ておりますので、ほぼ五〇%という、大ざっぱに申しまして五〇%といってよろしいかと思います。で、
法人の
税率の問題は、ラフな話になりますけれども、大体五〇%から四〇%程度のワク内の中が適当ではないか、かように考えるわけであります。これは個別企業の
負担感という点からも、あるいは社会心理学的な面からも、この五〇%が限度、五〇%そのものというわけではありませんが、五一%でも五二%程度でもよろしいですけれども、そういう五〇%が大体限界になるのではないか。もちろんこれはいま問題になっております超過利得税とか臨時利得税の問題につきましては、これはまあ不当利得の徴収という
観点からの問題でございますので、全く別問題でございます。
そういう
意味合いにおいて、私は今度の
改正案では、この実効
税率約五〇%というのは、ほぼ限界に達しているといいますか、適当なところではないかと、かように考えるわけでございます。あまりに
税率を高くいたしますと、いろいろ説がございますけれども、
法人税の転嫁論の問題などにも
関係がしてくるように思うわけでございます。
なお、この税額の問題は、申すまでもなくこの
課税所得と
税率の組み合わせということでございます。したがいまして、
税率はかりに四〇%となりましても、この
課税標準のほう、つまり
所得のほうがいろいろな
意味で少ないような状態でありますと、結局
負担率が少なくなる、こういうことになるわけでございますので、この
課税標準であるところの
所得金額、これを企業会計上の正しい利益の測定という
観点から、この問題を取り上げる必要があるように思うわけでございます。そういう点から申しますと、
租税特別措置法に設けられております各種の特別償却であるとか、あるいは価格変動準備金その他の諸準備金、そういったようなものにつきましては、これをもう一ぺん見直す必要があるのではないか。もちろんこれは
課税公平の立場という点からの問題でございまして、いろいろなこれには
政策的効果その他がございますので、単に
課税公平という面だけから考えることは適当でないとも思いますけれども、一応そういう面を十分に
検討されるべきではないかと、かように考えるわけであります。
そのほか
租税特別措置に関する問題につきまして三、四点申し上げたいと思います。
その
一つは、
個人の
受取配当金の不要申告制度、つまり現在一社から一年五万円の
配当をもらいますと、これは申告をしなくてもよろしい。もちろんこれについては源泉
課税が行なわれておりますけれども、それについては申告をする必要はない。これは今度の案ですと十万円という、五万円を十万円に
引き上げているわけであります。これは高額
所得者の優遇と申しますか、あるいは資産
所得者の優遇というような、そういう
観点から見ますと、
課税上の問題としては適当ではないのではないかというように考えております。もちろんこの問題につきましても、株式の
個人所有の奨励とか、その他種々のむずかしい問題がございますので、一がいには申せませんけれども、そういう面があるということを申し上げたいわけであります。
それから、しばしば問題になっております医師の診療報酬に対する特例
措置、これももちろん直ちに廃止をするというようなことはなかなかできにくいと思いますけれども、漸進的に、たとえば、七二%の
控除経費率を五〇%にするとか、そういったような形においてできるだけ早い機会において是正をするということが必要かと思います。
それから第三点は、有価証券の譲渡益の非
課税の問題でございます。現在、株を買いまして、そうしてそれを売却したことによって生ずる利益に対しましては
課税をしない、有価証券取引祝は
課税されますけれども、その利益に対しては
課税されない、こういうことになっております。もちろんこれは事業に類似するものは
課税されますけれども、それ以外のものは
課税されない。この点につきましても、これもたいへん制度としてはむずかしい問題でありますけれども、たとえば、欠損の場合だけ申告をするとか、そういう技術的な問題いろいろございますけれども、これも一定の制限を置きなから、譲渡益に対する
課税ということを取り入れるという
方向も
検討されるべきではないかと、かように思います。
それから、最後の問題としましては、
配当軽
課税率の問題でございます。今度の三〇%に
引き上げる、本年は二八%、これは
東畑先生が先ほどおっしゃったわけでございますけれども、これまた、たいへん
法人税と
所得税との本質に関する問題ということでございますけれども、一応現在のこの
配当軽
課税率、これはいわば
税率を単に引き下げているという効果しかないのではないか、そういう点か認められますので、私は、むしろこれを廃止をすべき
方向で
検討されることが適当ではないかと、かように考えている次第でございます。
時間になりましたので、これをもって終わらしていただきます。