○川口公述人 中央大学の川口でございます。
たいへんな
インフレになりまして、いま主婦を代表する公述人から家計の苦しさをるる訴えられたわけでありますけれども、そういう庶民の非常な苦しい
状態、これは与野党を問わず、皆さんも真剣にお考えくださっておられると思います。
そこで、私は
財政学の専門家というよりは、むしろ
インフレ問題を専門に現在研究しておりますので、主として
インフレとの
関連で、できるだけ
予算案との
関連にしぼって、私の
意見を申し上げてみたいと思います。
現在必要なことは、言うまでもなく、昨年末以来非常に準激化しております異常な
インフレをできるだけ短期間に押え込む、こういう
インフレ抑制の問題と、それからこの
インフレによって非常なしわ寄せを受けて苦しんでおる庶民の
生活を守っていく、
生活防衛、この
二つの
観点が必要なんだと思います。さらに、その
インフレ抑制という問題について考えますと、もちろん、ここで卸売
物価が前年同月に比べて三四%も上がる、こういう異常
事態をできるだけ早く押え込まなければならない。これは言うまでもないことでありますけれども、さらに振り返ってみれば、われわれ日本の庶民は
昭和三十六年以来、年々
消費者物価が年率六%近く上がり続ける、こういうようないわば持続的な
インフレ、忍び寄る
インフレの中で暮らしてまいったわけであります。そうして、私見によりますと、そのような忍び寄る
インフレを避けがたくした一番根本には、いわゆる寡占といわれるような大
企業の価格決定のしかた、これがあったと思うのです。
ところが、最近の
ドルショック以来、四十七年末には大手商社の投機行動が非常に問題になって、国会でもこれが取り上げられたわけでありますが、さらに今
年度になりますと、石油危機に便乗したやはり大
企業を先頭にいろいろと便乗値上げの実態が次々に明るみに出されているわけであります。
私は、何も
企業性悪説を唱えようとは思っておりませんし、
企業が適正な競争の中で適正な利潤をあげていくということは当然のことだと思っておるのですけれども、それにもかかわらず、四十六年以降、われわれの目の前に展開されてきた大
企業の行動については、どうしても納得できないものがあるわけです。つまり、過去の十数年の間には、大
企業が下がるべき価格を下げないできた、こういう形で問題をはらんでおったわけでありますが、最近の二年間には、上げられる機会があれば価格を
引き上げよう、こういう行動が露骨にあらわれておるわけであります。そのあらわれ方は違いますけれども、いずれも大
企業の価格決定
政策のあり方に
関連している、こういう点では共通であると思うわけであります。
そういう意味から申しますと、ここで
インフレ抑制を考えます場合に、単に総
需要を
抑制すればよいということではなくて、その中で、このような大
企業の価格決定のしかたを規制する
政策、規制する
措置をとっていくということがどうしても必要である。これは単に、いまの短期的な非常に激化した
インフレを押え込むという上に必要なだけではなくて、その
あとにおそらく残るであろう持続的な
インフレの、いわば従来に比べたレベルアップ、これをできるだけ押し下げるという点でもどうしても必要なことであると私は思っております。
なお、現在はもちろん、
短期決戦ということで短期の
インフレ抑制に重点を置かれているということは、これは私は当然のことであると思いますけれども、その中で、将来の
国民生活の安定と非常に
関連のあるような、しかも、長期的な
インフレを
抑制する上でどうしても必要な産業
政策、産業構造を転換していく
政策、いままで
生産性の上がり方の低かった農業や、あるいは消費財を
生産している中小
企業、こういうところの
生産力を拡大していって、そして賃金の
上昇、あるいは原材料の価格の
上昇からくるコストアップを
生産性の向上で吸収できるような、そういう体質に改善していくという、このような産業
政策も、ここで短期の問題に目を奪われる余り、全く無視してしまうことは許されないだろう、このように考えておるわけでございます。
こういうような短期、長期の
観点から
インフレを
抑制する、そしてその中で、
インフレによる庶民の
生活の犠牲をできるだけ排除していく、こういう
観点から、今回の
予算案について私の
意見を申し上げてみたいと思います。時間もございませんから、各項目についてきわめて簡単なコメントになると思いますけれども、まず問題は、
予算の総額と、そして
予算の中身というふうに
二つに分けて考えたいと思うわけです。
予算の総額につきましては、言うまでもなく総
需要抑制、この
観点から今回の
予算総額が適切であるかどうか、こういう評価になってくるわけであります。言うまでもなく、
一般予算の
伸びを二〇%を下回るようにきめ、さらに財投の
伸びも大きく押える、あるいは
一般予算の中の
公共事業費の
伸びをゼロにする、こういうような
措置がとられたわけでありまして、それはそれなりに私は評価したいと思いますけれども、しかし、それで十分であるかどうかということになりますと、まだかなり不十分ではないか、このように私は
感じるわけであります。
大体、
財政面からの総
需要の引き締めが非常にタイミングがおくれている。
金融政策の発動もタイミングがおくれたわけでありますけれども、しかし、昨年の四月以来
金融政策はきびしい引き締めに変わってまいりました。ところが、
金融政策だけにしわを寄せる引き締めを続けてまいりましたから、今日では、中央銀行の金融引き締めの
やり方が、いわば差別的な引き締めと申しますか、業種別に非常にきめのこまかい引き締め
措置をとったり、あるいはまた、公定歩合の
引き上げでは十分な効果があげられないというので、窓口規制をきわめて強めている。従来に例がないほど強めている。こういうように、
金融政策はすでにできる限りきびしく引き締めが行なわれ、その面から中小
企業などにかなりな問題が起きそうな形勢になっておるわけであります。そういう
状況でございますから、したがって、この際は、
財政面での引き締めをもっときびしくしなければならないだろう、このように思うわけであります。
一般会計の
伸びを見ますと、確かにその
伸びは押えられておるわけでありますけれども、しかし、だからといってこれが小さな
伸びである、一九・七%という対前
年度当初
予算比が小さな
伸びであるというふうには、どうも考えられません。
昭和四十
年度から四十九
年度までの間を調べてまいりましても、四十七
年度、四十八
年度に次ぐ
伸びの高さであります。さらに、
GNPに対する
比率を見ましても一三%でありまして、これは四十八
年度の場合とほとんど変わりがない。すでに四十八
年度の
予算が、いわゆる十四兆の超
大型予算、これが
調整インフレを起こすのじゃないかということで、われわれが批判をしてまいったわけでありますけれども、まさにその憂慮のとおり、その後の
インフレの激化が起こってしまった。そういう
大型予算であったわけでありますから、その
大型予算に比べて一九・七%という
伸び、これは当然増が相当入っておるということを考慮に入れましてもなお過大ではないだろうか、このように
感じるわけであります。
財政投融資の
伸びということになりますと、これは前
年度の
伸びの約半分ぐらいまでにきびしく押えられた、こういうことであるわけですけれども、しかしこれでも、やはり四十八
年度の財投が非常に
大型予算であったということを考慮に入れ、さらに四十八
年度には諸般の事情から、
計画工事量がかなり
繰り延べになっておるはずであります。私はこまかい数字を知りませんけれども、たしか昨年の九月
段階では、予定の四分の一ぐらいしか実施ができなかったというような新聞の報道を見た覚えがございますけれども、そういう昨
年度の
繰り延べ分、この工事量を含めて財投の
伸びを考えるということになりますと、おそらくかなり大きなものになるのではないだろうか。こういったような点から総額の
伸び、これがやはり現状では過大ではないだろうかという疑いを持っておるわけであります。もう少しきびしく
抑制すべきであろう、こう考えておるわけであります。
次に、中身の問題に入りたいと思います。中身の問題は、大体大きく分ければ問題が三つあるのではないでしょうか。
つまり一つは、現在の総
需要抑制、これとからみまして、できるだけ
インフレ刺激的な費目を押える、こういうような
観点が必要であるというふうに思います。それから二番目には、
生活防衛の
観点を貫くということが大切である。三番目には、産業
政策の問題を考慮に入れるということが大切であります。私は三つと言いましたけれども、さらにもう一つつけ加えますと、単に総
需要を
抑制するというだけでは足りないことは、
先ほど申したとおりでありますから、大
企業の価格を規制する、そのための諸
措置に
関連して、やはり
予算措置が必要ではないだろうか。この点をつけ加えて申し上げたいと思います。
さて、そういう
観点から内容を見てまいりますと、第一に歳入の面で、
公債金が昨年よりは減らされたと申しましても、なお二兆数千億予定されておるわけであります。私は、
公債発行ということが、
インフレを
抑制するという議論があるのですけれども、これは間違った議論であると思うのです。たとえば、西ドイツの安定国債のように、収入金を凍結してしまう、こういうことであれば、明らかに
インフレ抑制の効果がある。しかし、収入金をそのまま全く
財政支出に回すということでは、その面からは何らの
インフレ抑制効果はないわけであります。ただ、これを大部分金融機関に消化させるわけでありますから、銀行の貸し出し余力を押える、そういう効果があるかのように見えるわけであります。しかし、銀行の貸し出しを通じて出ていくお金を
財政を通じて出していく、そういう違いだけでありまして、しかもわが国の銀行は、すでに資金ポジションが非常に悪化した中で無理に
公債を買わされるということになりますと、これは一年後にはどうしても中央銀行に買い取ってもらうか、あるいはこれを担保として中央銀行から借り入れ金をする、こういう行動に出ざるを得ない。そして、実はそのことを
前提にいたしますと、銀行としては、何も一年たってから貸し出しを拡張するのではなくて、それよりも相当前に貸し出しを拡張することになります。なぜかといえば、貸し出し拡張からだんだんに現金の引き出しが生じてくるのは、かなりタイムラグがあるわけでありますから、したがって、一年間銀行の貸し出しを押えるという意味の効果も期待できない。やはりこういう
インフレ時には、歳入の源泉をできるだけ租税収入によってまかなう、こういう
観点が必要であると思うわけであります。
ところが、この租税の面に目を転じますと、ここでは、従来から見まして、かなり
大型な
所得税減税が行なわれている。私は、
一般の近代
経済学者の方とは少し違いまして、確かに
インフレを、総
需要を
抑制するという
観点からいえば、
減税はすべておかしいという話になりますけれども、
先ほど来申しましたように、
一般勤労者、庶民が
インフレによって非常にきびしい影響を受けているという
段階では、
所得税減税はどうしても必要であったし、むしろ今回の
減税規模は、なお過小ではないだろうかというふうに考えております。その意味では、この
減税を実行されたことを評価いたしますけれども、その中身についてはかなり問題がある。
つまり、
所得税減税を、庶民の
生活を守るという
観点から行なう場合には、基礎控除や配偶者控除、扶養者控除のような人的控除の額を大幅に
引き上げるという形で
減税をはかっていくのが当然であると思います。それを、給与所得控除の大幅な
引き上げ、こういう形をとったことは、サラリーマンには有利なように見えますけれども、決して
所得税減税の正当な方法であるとはいえないわけであります。サラリーマンが源泉徴収の結果として、徴税上で実質的に不平等な扱いを受けている、こういう問題点があることは私も知っておりますけれども、それは本来徴税技術の
改正ということで解決すべき問題でありまして、やはりこういうような
減税のしかたをすることによって、今度は勤労者と他の庶民との間の不平等を促進するというようなことがあっては好ましくないわけであります。とりわけ、この給与所得控除の関係では、従来ありました限度額を撤廃する。もちろん、
インフレが進行しておりますから、限度額を
引き上げる必要はあったと思いますが、その結果として、さらに税率緩和も加えまして、
先ほどの公述人も言われたような、年収一千万円以上の高所得者に非常に大きな
減税をするというような、金持ち
減税という結果になっておるわけであります。現状では、そのような必要は私は全くないと思う。やはり中低所得者に重点を置いて思い切った
減税をする、こういう
考え方が必要であったと思います。人的控除の
引き上げ不足に関しましては、たとえば、障害者控除その他非常に気の毒な
人たちへの控除も、きわめてわずかしか
引き上げられていない、こういう点がたいへん不満であります。
それでは、そのような
大型の
所得税減税をやって、総
需要抑制のほうはどうするのだとお考えになるかもしれませんが、私は、
法人税の
増税が全く不十分であるというふうに考えております。その不十分であるという意味は、
法人税率の
引き上げ方が小さい、あるいは配当軽課の
引き上げ方が小さい、こういうような問題ももちろんあるわけであります。先進国に比べれば、税率が
引き上げ後でも明らかに低い、こう申してよろしいと思いますけれども、それ以上に、かねてから
税制調査会その他でも問題にされておりますように、わが国の大
規模な租税特別
措置、大
企業や高所得者に非常に有利な形の租税特別諸
措置による
減税、免税分、これが問題であると思うわけであります。私は、これらの
措置を大
規模に改廃いたしまして、それだけによって数千億の
法人税増徴が可能になる、こういうふうに考えておりますので、こういう形で
法人税はもっと思い切って取るべきであった、こう考えております。その
法人税の増徴によって浮く分だけは、
公債金の
発行を押えることができたのではないか、こう思います。
それから、
税金のことでありますから、それと
関連して申し上げますと、現在問題になっております、いわゆる便乗値上げその他による超過利得についての特別な課税、これはぜひともやっていただきたいと思う。このことば、どういう立場に立つ者であろうとも、庶民ならば全体がこのことの実現を望んでいる、こう思います。
確かに、
税制の技術的な点ではいろいろむずかしい問題があることは、私も承知しております。いろいろな案が出ておるようでありますが、たとえば、通常の
法人税を累進税率にする、こういうような
考え方も、超過利得という概念をきめることがたいへんむずかしいという問題がありますから、私はそれなりの筋があると思う。私自身は、むしろシャウプのような
法人擬制説に立った現在の
法人税制には疑問を持っておりまして、将来は、
法人税についても、もっと累進税率を導入すべきである、こういうふうに考えております。しかし、それには現在の
法人税制を根本から考え直すというむずかしい問題が入ってまいります。したがって、ここでどうしても早急にこのような不当利得を吸い上げなければならない、こういうことになりますと、やはり臨時に超過利得税を時限立法で設置する、こういう
考え方のほうがベターであるというふうに思います。
ところで、そのような
考え方の一つとして、本日の朝刊に自民党の
税制調査会の案というものが紹介されておりました。私は新聞を拝見しただけでございますから、あるいは内容に誤解があるかもしれませんけれども、それを拝見した限りでは、日本
経済新聞の批評がもっともであるというふうに
感じたわけであります。つまり、過去三カ年間の
平均所得を一九五%も上回った分だけ、それを超過した分だけが課税の対象というようなことになりますと、実際上、こうした課税の対象になります
企業はごく限られてしまう、これでは、ほんとうの意味での超過利得税にはならないのではないかという
感じがするわけであります。こまかい問題でありますけれども、その一九五%という算定のしかたは、過去三カ年間における
GNPの
上昇率が五五%ぐらいになっている。このことを上積みして一九五%、つまり九五%のうち五五%は、
GNPが
上昇した分は
法人所得の増大も当然である、こういう
観点で計算されたというふうに、これは朝日新聞の解説でありますが、読みました。しかし、これはおかしいです。その論理を一応認めたといたしましても、
法人の所得のほうは三カ年の
平均所得をとっておる。それならば、
GNPの
上昇率も当然三カ年の
平均GNPをとって、それと四十八
年度のそれを
比較しなければならない。そうすると、私の計算では四〇%になります。つまり、一五%はサバ読みが入っているのではないだろうかというのが私の疑問であります。
いずれにしましても、こういう
やり方、しかも一千万円は控除する、こういうような
やり方では、ほんとうの意味の超過利得税にはなりかねると思うので、もっときびしい形で超過利得のかなり大きな部分を吸い上げる、こういうことが必要である。その際、超過利得の厳密な定義にあまりこだわる必要はないと思うわけです。だれが見ても、最近の大
企業のぼろもうけということは明らかなんですから、
国民感情からいいましても、かなり大胆に超過利得の
観点をきめて、そして思い切って
税金を吸い上げる、これが時限立法でありますから。私は、いろいろ
税制上、税法上の問題があるということは承知しておりますけれども、あえてそういう方針を望むわけであります。
さらに、それにあわせまして、これはたぶん共産党であったと思いますけれども、資産税の新設を提案しておられる。これも私は賛成であります。これは四十七
年度以来、大手商社、大
企業の土地投機、株式投機がたいへん問題になっております。和光証券の調査によれば、四十六
年度末で、土地と株式の両方の含み資産益が六十四兆円に達する、こういうことが、一部上場会社でありますが、いわれているわけです。こういうような、
国民の
生活に直接響くような形の投機でもって、たいへんな含み資産益を得ているというのが実情でありますから、したがって、この資産の
増加に対して、過度の
増加に対して
税金をかける、こういうこともぜひやっていただきたいと思います。
次に、歳出の問題に移ります。
歳出の問題では、中身の問題でありますが、第一に、本
予算の眼目である
社会保障関係費の
伸び率が三六・七%で、
一般会計予算の
伸び率を大きく上回るようにきめられた。この点は、それなりに評価はいたしますけれども、しかし、中身を見てみますと、どうも不十分である。この大幅な
社会保障関係費の
伸びのかなりな部分、
社会保障関係費の五三%を占める社会保険費の四八・二%という
伸びによってもたらされているわけであります。しかし、社会保険費の
伸びの大半は、医療費の一七・五%の
伸びによってもたらされているわけです。医療費の一七・五%の
引き上げというのは、実質的には、
国民に対する医療給付の増大を意味しないわけです。従来の医療給付が、その報酬が不足である、こういうことによって医療費の値上げが行なわれるわけでありますから、そういうふうに見てまいりますと、これは名目的なふくらみであって、実質的なふくらみであるというふうには考えられない。
同時に、厚生年金や
国民年金がかなり改善されたというふうに考えられておるわけでありますけれども、その
物価スライドによる大幅な
引き上げというのは、厚生年金は四十九年十一月から、
国民年金は五十年一月から、こういうことであります。しかし、
インフレがいま激化して
生活に苦しんでいる、それは現在の問題である。このようなずっと先になって一四%
程度の改善を約束される。これでは、これらの年金によって
生活している庶民は、
インフレの中で健康を破壊され、
生活を破壊され、中には命を失う者も出てくるのではないでしょうか。私は、この
物価スライド制は、ヨーロッパ諸国でやっておりますように、たとえば三カ月に一ぺんというような形で、そのときどきの
物価の
上昇に対する
措置をとっていく、こういう改善をどうしてもしていただきたいと思うわけであります。
また、
生活保護費の
生活扶助基準額も前
年度当初より二〇%
引き上げることになっておりますが、すでにそのうちの五%は四十八年の十月に
引き上げられております。これは四十八
年度予算における当初見込み、
物価の
上昇率の見込みが不十分だったということで昨年の十月に
改正されたわけでありますから、したがって、本
年度の
引き上げ分は正味一五%である。こういうことになりますと、これは非常に不十分だといわざるを得ません。しかも、現在のこのような
引き上げを経た
あとでも、
生活扶助費の中の食費分が一食九十七円というのでは、これは厚生省で試算している必要カロリー量の半分しかとれない、そういう低額であります。その他保育所の幼児や乳児に対する一食分の
増加額も、現在の
物価上昇ということから見ますと、全く問題にならないくらいのわずかな額にすぎない、こういうようなことであります。私はこまかいことは申し上げませんが、
社会保障制度の抜本的な
改正、特に老齢年金
制度を直ちに賦課年金
制度に転換する、こういうような
措置を望みたいと思います。
関連して、社会
福祉費についても、
伸びは大きいですけれども、しかし、現在の
物価上昇を
前提にいたしますと、各種の社会
福祉施設の
運営がきわめて困難になることを免れないと思いますので、こういう点も御
配慮をいただいて、大幅に
引き上げていただきたいと思います。
続いて、文教費、科学振興費に移りますと、これも
伸び率はかなり大きいわけでありますけれども、その中で、たとえば学校施設費の四〇・三%の
伸びというようなものも、建築費の
上昇ということを考慮しますと、きわめて不十分といわなければならないわけであります。
さらに、私の関係しております私立大学の立場から申しますならば、私立大学の経常費助成、これは自民党の文教
制度調査会でもその必要を認められて、五カ年
計画のようなものをお立てになったわけでありますし、文部省におきましても、
政府の全体の
政策とはなっておりませんが、
昭和四十五年以来、五カ年
計画で人件費についての二分の一補助を実現するというふうにいわれてまいったわけであります。今回は、文部省の概算要求の、まあ八〇%弱が
予算案として認められたわけでありますが、その中で、専任教員については一応人件費の二分の一補助が実現することになっております。けれども、これは形式的な面からだけでありまして、相変わらず対象率を
平均八四%にしぼっておられますし、さらに、基礎になる教員給与を、四十八年五月の給与をベースにしておられる。これでは一年のズレがあるわけであります。こういう点から申しますと、専任教員に対する人件費の補助も、とうてい実質二分の一というわけにはいかないわけであります。
さらに、私学は専任教員の
比率が高い。これは専任教員を使うことのほうがコストの面で非常に安くつくからでございますけれども、当然そのことは、教育内容の低下に結びつくわけであります。やはり専任教員の人件費補助率をもう少し大きく
引き上げていただいて、実質二分の一、ないしはそれを上回る
程度に
引き上げてもらいませんと、専兼
比率の改善をすることも困難である。まして、専任職員の人件費については、わずかに五分の一の補助が実現しただけであります。このような
状態では、大学生の八〇%近いものを担当して教育しております私立大学が、とうてい今後十分な研究、教育を行なっていくことがむずかしい。
そして、本年も多数の大学が学費をどうしても値上げしなければならなくなっておりますが、日本
経済新聞の分析によりましても、今日、家庭における教育費の
負担はたえがたい
程度に達しておるわけであります。一人の子供を大学までやりますと、この試算は非常に不十分な試算でありますけれども、それでも二百四十万円はかかるのだ、こういうことでありますから、やはりこの際は思い切って私学助成費を大幅アップしていただきたいと思うわけであります。
続いて、中小
企業対策費は二七・一%の
伸びでありますけれども、
一般会計中の構成比は〇・六%で、四十八
年度とほとんど変わっておりません。道路整備事業費の金額に比べてみますとその九・九%、海外
経済協力費の金額に比べてみますと六一・五%というふうに、大体大
企業に有利な
予算規模に比べますと、全く少ないといわなければならないと思います。中小
企業は、
インフレによって非常にしわ寄せを受けるところでありますから、私は、もう少し思い切った対策費の
増加をはかっていただきたいと思うのです。
公共事業関係費については、
伸び率ゼロということを評価いたしますけれども、依然として産業基盤整備関係が半分ぐらいになっております。この際は、
生活環境施設整備費のようなものを、これは一〇%を割っておりますけれども、こういうものを大きく伸ばして、そして
国民の
生活改善をはかっていただきたいと思う。
これに
関連しまして、
地方交付税交付金が実質的に削減されておりますけれども、この交付金は、
地方財政の自主的原資としてきわめて重要なものであります。大体、こういうような
生活防衛が必要な場合には、
生活に密着度の高い
地方財政の
伸びは、総
需要抑制といってもある
程度は認めなければならぬ、私はそう思うのですけれども、それが総
需要抑制の名できびしく押えられて、交付税交付金まで削られる、これは適当ではないと思います。
地方財政との
関連で、特に、自治体の超過
負担を直ちに解消していただくような
措置をとっていただきたい。
次に、防衛関係費の
伸び率でありますが、
伸び率は一六・八%で、全体の
予算の
伸び率より下回っておりますけれども、これは前
年度の
伸び率とほとんど変わっておりません。ところで、御承知のように、防衛関係費というのは、再
生産過程から財を引き抜いてしまう、そういう意味では、最も
インフレ刺激的な
支出であると考えなければなりません。勤労者の消費は、これは勤労者の労働力の回復に役立つわけでありますけれども、防衛費というのは、そういう意味では全く
インフレ刺激的、こういうふうに考えなければならないわけです。なるほど
GNP比率は〇・八%とまだ低いのですけれども、しかし、自由社会で世界第二位といわれる大きな
GNPの〇・八%でありますし、また、年々の軍事費の
上昇率という点から見ますと群を抜いて高い。私どもは、平和国家であって、しかもこの
インフレ抑制が非常に重要だというこの現時点において、なぜこのような一兆円をこえるような防衛費を計上しなければならないか、この点がどうも理解に苦しむわけであります。
次に、
公共料金の問題に移りますが、
公共料金凍結が半年ということは非常に不十分である。
先ほど二年凍結という
お話がありましたが、私は、少なくとも一年は凍結して、その間に公益事業のあり方を根本的に考えていただきたいと思います。つまり、シビルミニマム的な意味を持った公益サービス、これは独立採算制、受益者
負担原則を大きく再検討して、そして低料金でその供給を保障しなければならないと思います。エネルギー対策との
関連で申しましても、電力、石炭を合わせました総合エネルギー公社というようなものをつくりまして、私
企業にまかせないで、エネルギーに関する
国民生活に
基本的に必要なサービスの給付を、低料金で行なうような体制を考えてもらいたいと思うわけであります。
次に、こまかい問題になりますけれども、
物価対策費がたいへん少ないのではないか。私は、
財政の専門家でありませんのでこまかい検討はできておりませんけれども、たとえばこの
予算委員会でも、
先ほども問題になりました価格調査官の専任者を置くという体制、これは直ちに
政府が応じられたわけでありますけれども、それにしてもまだ不十分であるし、さらに、それについての
予算がどういうふうに
措置されているかということも明らかでない。また、
地方に価格監視権限を委譲しても、それに伴って当然必要になるはずの
財政についての
措置が、何もとられていないように思います。
また、公取
予算も抜本的拡充が必要であると思う。公正取引
委員会の最近の積極的な活動は、庶民としても大いに拍手を送りたいと思っておりますけれども、聞くところによると、人的スタッフの点でも、あるいは調査を行なう部屋数が足りないというような問題まである、こういうことでございますが、公正取引
委員会の抜本的な拡充をはかっていただきたいと思う。当然、それは現在の独禁法の
改正ともつながって、実現していただきたいというふうに思うわけであります。
さらに、財投の問題にまいりますと、ここで庶民のために必要な住宅建設戸数が大幅に削減されているという問題、これは何としても見のがしができない問題であると思います。こまかい数字は皆さんのほうが御承知でありますけれども、一体、今日、改善された財産形成
貯蓄の住宅
貯蓄をやりましても、われわれが十年も住宅
貯蓄をやって、そして住宅金融公庫から借金をして、それを合わせて十年先に家を買おうと思ったって、とても買えないというのが実情であります。したがって、私はここで公的な、低家賃の、しかも質が悪くない、そういう住宅を大量に供給していくということが、どうしても必要な事柄であり、それは
インフレ下であるからといって、ないがしろにはできない問題でないのではないか、このように考えておるわけであります。
財投の内容については、こまかく立ち入ることはいたしませんが、その財源の配分という点でも非常に問題がある。大体、コストゼロの産投特別会計の資金というのは、その九〇%が貿易、
経済協力に振り向けられ、さらに、低利のそして庶民の
貯蓄に立脚した
運用部資金、この
運用部資金も、その一〇%は貿易、
経済協力に振り向けられ、二二%は産業基盤投資に関係の深い
支出に振り向けられるというふうに、どうも原資の配分の点でも、かなり問題があるように私は
感じておるわけであります。
農業
予算については、これも一点だけ申し上げておきたいけれども、将来の
インフレ、持続的な
インフレとの
関連で申しますと、どうしても農業の
生産力を高めていかなければならぬ。しかも、従来の食糧
政策の
考え方が根本的に見直しが必要だということは、これは
政府もお認めになっているところだと思います。
国民生活の基盤になるようなそういう重要な物資を、ただ一時点で、コストが安いからといって大きく海外依存に切りかえるということは、非常に問題のある
政策であって、私どもは、かねてからそれに反対の意向を表明してきたわけでありますが、昨年の大豆騒ぎでもって、その問題点がきわめて明らかになったわけであります。これは単に海外の不作とか、あるいは海外のコスト高とかいう問題のほかに、こういう
生活必需品のようなものが、大手商社の手を通じて大量に一括輸入されるという体制になりますと、そこに投機が入ってくる。こういうことははなはだ好ましくないわけであります。続いて、これは食糧とは若干意味が違いますが、エネルギー源として
基本的な石油についても同じ問題が起こってきた。こういう点から申しますと、食糧
政策についてもエネルギー
政策についても、国内資源を重視して、国内自給率を高めるという方向がとられなければならぬ。
ところが、農業につきまして、その
生産力の拡充
政策が次々に破綻を来たしてきた大きな理由は、米だけに食管制によって曲がりなりに必要な労働報酬を補償する、そういう体制がありましたけれども、その他については、全く十分な価格の安定
措置がとられないで、あってもきわめてつけたりのような
措置にすぎませんで、そのために、農民が絶えず豊作貧乏に苦しんでいる、こういう
事態が、農業
生産力の拡大を妨げる大きな理由であったと思うわけであります。したがって、抜本的に価格安定
措置を、
基本的な農産物全体に体系的に導入するというようなことが考えられるべきであると私は思っておるわけであります。
最後に、預金金利の問題について一言申し上げたい。
御承知のように、今日、日本の
国民貯蓄の大半は個人の
貯蓄でありまして、そしてその大半は、また預貯金という
インフレ目減りの形態に集中しておるわけであります。その
貯蓄を庶民がどういう気持ちからやっているかといえば、日銀の世論調査結果を見ましても、ここ十年来、病気、災害の備え、年をとってからの
生活の保障、子供の教育費、結婚の資金、そしてマイホームを手に入れるための資金、こういう四項目が、ずっとトップの圧倒的な
比率を占めてきておるわけであります。これらは憲法で保障する
国民の
基本的な
生活権、これに属する動機だと私は思っております。本来、それは先進工業国においては、かなりの
程度社会保障政策と文教
政策でカバーされております。
社会保障のことは、皆さんよく御承知だと思いますが、私は一昨年一年間スウェーデンに参りまして、しみじみうらやましいと思ったことがある。授業料は、小学校から大学に至るまで全くただ、大学生はすべて一定の単位履修の条件を満たせば、月額五万円ほどの金が
政府から出る、そのうち一万円は給費で、四万円は貸費でありますけれども、これは卒業後五十歳までに返済すればいいわけであります。これはもう所得のいかんにかかわらずだれでも大学まで行けるという、教育の機会均等を完全に保障した
制度であると思って、しみじみとうらやましく思ってきたわけであります。
ちなみに、スウェーデンにおける同年齢人口中の大学進学率は二五%でありますから、わが国と大差がない。スウェーデンでできることが日本でできないはずがないだろう、こういうふうに思っております。こういうようなことが十分に行なわれないから、個人の
努力で額に汗して
貯蓄をする。その
貯蓄が
インフレでどんどん目減りをするというのでは、これは一刻も放置できない問題ではないでしょうか。しかし、預金の利子を全面的に
消費者物価騰貴率に合わせて
引き上げるということは、これは金融市場の構造を考えましても、技術的にたいへん困難であります。私は、貸し出し金利、預金金利とも、かなり大幅にレベルアップすることが、今日必要だと思っておりますけれども、しかし、
消費者物価上昇率までそれを上げるということはとてもできない。そうだとすれば、少額の、たとえば一世帯百五十万円というような
程度でよろしいと思いますけれども、少額の預貯金についてだけ、完全な
物価スライド制を導入するというような
措置をとっていただきたい。そして、たとえば一〇%をこえる部分については国家がそれを保障する。こういう問題になりますと、それは当然
予算の問題になってくるわけであります。この
程度のことはやろうと思えばできるはずだ、こう思います。
まだいろいろ申し上げたいことがありますが、時間がだいぶ超過いたしましたので、たいへん荒っぽい話でございましたけれども、私の考えを申し上げまして、どうぞそういう線に沿った
改正を実現していただきたいとお願いして、私の
お話を終えたいと思います。(拍手)