○井上泉君 私は、
日本社会党を代表しまして、ただいま農林大臣から
報告のありました
昭和四十八年度の農業白書に関連し、日本農業の持つ国民食糧
確保という基本的使命に関し、田中総理並びに関係大臣に質問いたします。
〔
議長退席、副
議長着席〕
まず、この農業白書が回を重ねること十三回、一貫していわれることは、これが今日多数の農民を離農せしめ、いわゆる出かせぎ労働者として高度
経済成長政策の犠牲に供せられ、日本の農業を破壊し、農業における諸悪の根源となっている
農業基本法により、
政府官僚が自画自賛、自慰の中に毎年書かれたものであります。与党は白書を礼賛し、野党はこれを批判するというパターンを繰り返しているのが実情であります。
事実、この白書が毎年指摘する問題点が解明されていれば、今日の危機的な農業には至らなかったでしょう。
わが国の農政を誤らしてきた農基法は、成立の過程から誤っています。この法が提案されたときのわが党の芳賀先輩や足鹿先輩が指摘したことが、十三年目の今度の白書にいみじくも明確に指摘されているのであります。(
拍手)
すなわち、要約すれば、第一は、国民食糧の安定的、効率的な供給の
確保をはかるため、国内農業の生産維持強化を基本とする総合的な食糧供給体制を確立すること。
第二は、わが国農業生産力の維持強化をはかるために、農業生産の中核的にない手の
確保、育成が基本的課題となっていること。
第三は、このため農村
地域の総合的
整備がますます必要となること。
以上のような点は、従前強く指摘したとおりであります。それにもかかわらず、
議長職権により、わが党欠席のまま単独
審議的に強行
採決したことをいま思い出すべきであります。
この問題点を解決していくためには、農基法そのものが否定さるべきです。それに取ってかわって、白書が指摘する自給体制を確立し、国民生活安定の基幹産業としての農業を位置づけるべきであります。採算性、企業性を骨格とする現在の農基法の全面的
改正を行なうべきであると思いますが、この点についての田中総理の所見を承りたいと思います。(
拍手)
次に、昨年の石油危機以来、急速に、世界的な食糧不足を背景といたしまして、わが国におきましても、食糧の自給率を高めようとの世論が高まっていました。そのときに、アメリカのバッツ農務長官が来日して、
政府間協定は否定し、そうして自由な農産物の無制限売り込み、しかもまた、押し売り的な態度とも思われるような一方的態度で日本
政府を引きずり回しておった。農林省内においても、自給論議がこれによって影をひそめつつあるというのは、一体どういうことでありましよう。
アメリカの顔色をうかがう農政ではなく、まず第一前提としても、いついかなる場合も、
日本国民の胃袋は、可能な限り日本の国土で、しかも日本農民の手でというのが当然の姿ではないでしょうか。(
拍手)欧米自由主義国でも
社会主義国でも、共通して、国内自給率の向上ということをいつも強く取り上げているではありませんか。国内の自給率の
引き上げ、これに対するアメリカ
政府の動向について、総理及び農林大臣の見解を承りたいと思います。
いま、米価
要求大会のシーズンが参りました。この時期が来ますと、農協幹部がはち巻き姿で前面に出て、国民の注目を集めます。この農協の果たしておる
役割りは、日本の農政を展開するためには避けることのできないほど農業と農民に密着した団体であります。それは、生産者としての農民に対する
役割りと、消費者としての農民に対する
役割り、すなわち、生活資材、生産資材を含めて、その供給者としての
役割り、この供給する金額は、まさに、あの悪名高き大企業、大商社に劣らぬ取引高を持ち、いわば、農協は、ある一面では農業における独占資本的な存在といわれておるのであります。これに対して白書が
現状分析を怠っているのはなぜでありましょう。この点について農林大臣の見解を承ります。
次に、いま全国各地で、
昭和四十九年産米の米価
要求闘争が行なわれています。あすも東京で全国農協
要求米価実現の大会が開かれることは、御承知のとおりです。
わが国の貧弱な食糧自給率の中で、一〇〇%の自給率を持ち、しかもわれわれの民族的な食糧である米、さらにはまた、農家
経済の柱でもあるこの米、これが田植え前に生産者米価をという農民の
要求を無視して、しかも田中総理は、先日、米価の決定は、参議院選後という、あまりにも選挙を意識した発言をしているが、この
要求米価の一俵一万六千七百四円は、まさに最低の
要求であろうと思います。これに応じるのは当然だと思われますが、これについての所見。
さらに、
昭和四十八年産米の価格決定後のあの爆発的な物価の上昇、さらには国際価格の値上がり等を考えた場合、
政府買い入れ米並びに国の管理にある自主流通米に対して、今日、農民がわずか六十キロ当たり二百九十四円の追加払いまたは追加助成を
要求しているのは当然だと思うが、これらについての見解を求めます。
次に、大蔵大臣に、食管法のある限り、また、国民生活安定のために食糧の自給率の向上をはかり、農民の生産意欲を高めるためにも、この
要求米価、そしてまた四十八年産米に対する追加払い等は、これは理の当然と考えるところであります。追加払いを農協
要求額といたしましても、わずか四百億であるし、また、四十九年産米の決定にあたっても、食管会計が赤字であるからと称して、直接家計に響く消費者米価を値上げすることは、物価安定のためにも絶対行なってはならないことと思うので、大蔵大臣としての見解を承りたいと思います。
さらに、総需要抑制策に関連いたしまして、公共事業の繰り延べとかあるいは一時中止等が行なわれております。そしてまた、本年度の
予算におきましては、農業関係
予算等は極端に押えられているけれども、少なくとも国民生活資源の生産の源泉である第一次産業、なかんずく農林漁業の振興に必要な
予算は、むしろ総需要抑制の
対象からはずし、積極的な投資をなすべきと思うので、あわせてその所見を承りたいと思います。(
拍手)
次に、食糧の国民への安定供給
確保こそ、あらゆる国策に優先するものであります。本年度の農業白書において、あえて、EC九カ国の穀物の自給度九〇%、カナダ一一九%に比し格段に低く、いわゆる先進国中最低であり、英国でさえ、六〇年の五二%を七二年には六七%と向上させておるではありませんか。これらの諸国に対して、わが日本が、
経済大国を誇り、GNP世界第二位を自慢することができるでありましょうか。
日本は、石油、鉱物等、重要な
工業資源はほとんどゼロであります。大半が外国資源によって日本の
工業というものは成り立っております。まことに
工業の基盤も貧弱そのものといわざるを得ません。さらにまた、この食糧が五〇%内外の自給率であるということは、まさに日本民族の生存の危機であるといわれてもいたし方ないと思います。
そこで、いま国民に対して
政府がなすことは、いついかなるときでも、食糧に関する限り、絶対安心の政策がとられていることが大切です。国内の食糧の全般的な生産状況、すなわち、農林水産物を含めた状況を把握しておき、その上に立って、食糧全般についてのいわゆる総合的な食糧白書とでも呼ぶべきものを毎年国民の前に明らかにし、いささかなりとも国民に不安のない食糧政策がとられていることを示すべきだと思いますが、これについては、農林大臣並びに
経済企画庁長官の答弁を求めます。(
拍手)
総理は、昨日の武道館でのあなたを励ます県人会に出席をして、国土改造ビジョンを確立し、これに基づいて、新しいふるさと、高度福祉
社会を
建設する国土改造十カ年計画を早急にスタートさせると、きわめて威勢のよいことを言っておりますが、今日これほど国土が荒らされており、自然が破壊されておって、この国土改造とは一体どういうものであるのか。豊かな自然に恵まれた国土をこれ以上一体どう改造する心づもりでありましょう。大切な農地、田畑が荒廃化しているのがすでに五十万ヘクタールにも達しているというが、こうしたものを、実り豊かな農地に一日も早く復旧するよう、国が全額投資をしてしかるべきではないでしょうか。国民を苦しめて、福祉といっても、その福祉は施しの政治であって、真の福祉というものは、国民を豊かにする政治を行なうことによって真の福祉といえるでありましょう。福祉の考え方がたいへん間違っておるのではないか、こう私は考えざるを得ません。(
拍手)
「五つの大切」をあなたは言っています。すなわち、人間、自然、時間、物、国と
社会、これらのことばはりっぱでありますけれども、これを一番大切にしていないのはだれでありましょう。これはほかならぬ、総理大臣、あなた自身ではないでしょうか。(
拍手)これがあなたの反省の上に立ったことばとすれば、うなずくこともできますけれども、国民にこれを徳育の指針とするようなお気持ちならば、全くおこがましい限りではないでしょうか。「十の反省」の前に、あなた自身が政治家として反省することを一番にあげるべきではないでしょうか。(
拍手)私は、国土改造十カ年計画を、第一次産業充実十カ年計画とすることこそ、最善の、政治家としての、総理としての道ではなかろうかと思うのでありますので、この点についての御所見を承りたいと思います。(
拍手)
最後に、この農業白書で、日本農業の実態、問題点が不十分ながら指摘されており、これに対する一応の対策も示されておるとはいえ、今日の農業の荒廃は、いわゆる農基法のもたらしたものでありますので、前段申し上げましたように、農基法の抜本的
改正を行なって、この白書の指摘した問題点を一日も早く解消すべきでしょう。
それがためには、国政の基本と、従来の
工業優先、原料のない日本の
工業優先から、第一次産業に位置づける、つまり農林漁業という第一次産業に位置づけて、これに対する財政支出の比重を大幅に高めることによって、第一次産業地帯の過疎は解消し、白書の指摘する農業のにない手も
確保され、そうして日本の国土も守られます。そして食糧生産への意欲も高まってくる。自給率を高める人的、物的条件が充実するでありましょう。そうして、その上に第二次、第三次産業の体系を正しく位置づけていきますならば、油がなくなれば急にあたふたとアラブ寄りの外交になるような場当たり的外交でなく、善隣友好、平和中立の外交路線によって、資源の少ない日本は、いずこの国とも平等互恵の貿易を行なわなくてはならないことは、言うまでもありません。かくすることによって、国民の利益は平和的に守られるでしょう。それは、私ども
日本国民は決して孤立した民族主義者ではありません。国際
社会における各国民族の独立と平和に寄与することのできる民族としての誇りを持っておるわれわれ日本民族であります。
以上申し上げた諸点について、総理並びに関係大臣の見解を承りまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣田中角榮君
登壇〕