○稲葉誠一君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
報告のありました四十七
年度決算に関連をいたして、
総理に
質問をいたします。
総理は、わかった、わかったと、こうよく言うのですが……(「近ごろ言わなくなった」と呼ぶ者あり)近ごろ言わなくなったですか。
国民は近ごろあなたの言うことがよくわからないのであります。そこで、私は、役人のつくった作文等を読むのはやめて、遠慮なく腹を割ってほんとうのことを
国民に語ってもらいたいと思います。(
拍手)それでなくては、ここで私が
質問する意味がないし、そしてまた、あなたの持ち味も生きてこないと思うのでございます。
序論でございます。
その一、
経済運営の基本に対する
考え方をお伺いいたしたいのでございます。
日本は小さい国である、資源が乏しい、人口は多い、したがって、製品輸出にたよって外貨を獲得する以外に道はない、そのためにはどうしても大
企業、大資本家に税金をまけてやったり、金利を低くして便益をはかり、
経済を運営せざるを得ないのである、大
企業、大資本実が繁栄するということは、すなわち
日本の繁栄である、その繁栄は回り回って
国民のところに来るのであるから、
国民はそれまでがまんしてほしい、これがあなたの
考え方だと私はそんたくをいたします。しかし、私は
考える。回り回って
国民のところに一体その恩沢が来るだろうか。確かに来ます。しかし、来るのは異常な
物価高であり、公害であり、職業病等でございまして、回り回っているうちに、みんなよいところは大
企業や大商社に吸い取られてしまうのではないでしょうか。これが実際の姿、資本主義というものの姿ではないのか。あなたは
総理に就任以来二年近く、この間の政治の中で、
国民に対して、パンを求める者に対して石を与えたのではないでしょうか。あなたの顔は
国民のほうには向いていない。ちょっと向いても、すぐまた他の方向に向いてしまうのではないでしょうか。
国民の福祉や生活、それをあと回しにした
経済の運営ではないのでしょうか。私はどうもこの点について疑問を持っておるのでございますから、どうか遠慮なく反論をしていただきたいと思うのでございます。
その二は、国会の運営に対する
態度でございます。
議院における証人の宣誓及び証言等に関する
法律に対しまして、あなたは
予算委員会で、あたかもこの
法律が占領軍によって無理に成立させられたものであり、きわめて不本意であること、かつ、憲法の条章に競合し、刑事被告人との関連においても憲法違反であるかのごとくとれる
発言をしておるのでございます。
この
法律は議員立法であり、わが党の淺沼元
委員長が提案
説明したものでございまするが、
国民として、商社を証人として喚問し真相を究明すべしとの世論に対し、その抵抗をどうして試みたのでございましょうか。かかる
国民感情を軽視し、無視し、大
企業擁護の
態度をとるその真意、そしてまた、この
法律に対する
考え方を明らかにしていただきたいと思います。
本論に入りまするが、その一は、今日の異常な
物価の狂乱、悪性インフレは、
総理が就任した直後の卸売り
物価の
高騰に端を発しております。それらの異常な
物価の
高騰は、
社会の階層に異なった影響を与えるのであります。
そこで、私は、インフレはある階層に利益をもたらし、また他の階層に不利益を与えることを、数字をあげて
指摘をいたしたいと思います。
一つ、年収百五十万円の勤労者がことしの
春闘で三〇%、四十五万円の賃上げを獲得いたしたとしますと、年収は百九十五万円になります。ところで、二〇%
物価が上がれば、百九十五万円の年収は実質的に三十九万円切り下げられるわけでございます。賃金は三十九万円切り下げられても、賃上げがそれを上回って、三〇%、四十五万円獲得されたのであるから損はない、実質的に
所得はふえた、これがあるいはあなたの論理であろうかと思うのでございまするが、私はこれは間違いだと思うのです。なぜなら貯蓄は減価をいたします。勤労者一世帯当たり二百万円として、二〇%、四十万円が実質的に減少をいたします。この貯蓄の減価と賃金の減価の合計は七十九万円でございまして、四十五万円賃上げしても三十四万円損をすることになります。
だれにもわかるきわめて平凡な真理だと思うのでございまするが、あなたはこれをそうであるというふうにお認めでございましょうか。問題にまともに答えていただきたいと思います。(
拍手)
そしてまた、
わが国の
企業構成は、借り入れ金が八四%、自己資本が一六%でございまして、西ドイツその他とは逆でございます。つまり、借金によって設備投資を行ない、高度
経済成長をもたらし、
わが国の生産力を世界第三位に拡大いたしました。したがって、
わが国の
企業は、ひいては資本主義
経済は、この過剰な負債をインフレによって切り捨て、軽減したいという本能を持っておるのではないでしょうか。インフレによって貨幣価値が二〇%減価をすれば、百三十九兆円にのぼる借金、これは四十六
年度法人企業総計でございまするが、約二十八兆円も切り捨てられます。これまで池田、佐藤、
田中内閣によって進められてきたインフレ
政策は、失敗どころか、むしろ大成功であったというのも一つの議論でございましょう。ただし、それは大
企業、大資本家にとってでございまして、大
企業、大資本家にとってはプラスがあっても、勤労者にとってはマイナスという、このインフレの持つ素朴な階層性というものを、
総理はどう
判断されるのでございましょうか。いや、おまえの言うことを聞いていると、どうももっともらしいけれども、これを肯定するわけにはいかない、何とか問題をそらして切り抜けよう。なんて
考えを起こさずに、どうか正面から私は答えていただきたいと思うのでございます。(
拍手)
企業や商社の悪が追及されております。これはそのとおりですけれども、いわば各論でございます。さらに総論的な、
田中内閣の
政策のミスが今日の
混乱を招いたのでございまして、その政治
責任は大きく追及されなければならないのであります。
わが国の
経済は、物の隠退蔵、富と
所得の不均衡拡大の悪性インフレの段階に入っております。この原因は、言うまでもなく、
田中内閣の
日本列島改造
政策を背景とする円の再切り上げ回避のための
調整インフレにございます。円の再切り上げ回避を至上命令とする誤った財政金融
政策の落とし子でございます。
調整インフレ
政策として、一つ、不況カルテルの存続を認めたこと、二つ、四十七
年度の十一兆四千七百億の大型
予算及び六千五百億の大型
補正予算の編成、三つには、四十八
年度において大型
予算十四兆二千八百四十億、対前
年度比二四・六%増の編成、四つ目には、第六次の公定歩合の引き下げ、年利四・二五%による低金利
政策の誤り等が
指摘をされます。
昭和四十七年十二月二十六日、私どもが選挙で出たあとでございます。四十八
年度の
予算と関連してでございまするが、朝日新聞「新
内閣の課題をきく」というところで、当時の愛知
大蔵大臣、なくなった愛知さんのことをここで申し上げるのはあれでございまするが、次のように語っております。「インフレには強い懸念を持っている。だが、
物価の動きとムードとは、分けて
考えるべきだろう。卸売
物価の急騰は、木材などに限定された動きだし、消費者
物価は小康のきざしが見える。この面でわたしの危機感は一カ月前よりやわらいでいる。」「
予算規模を小さくもできるが、」云々「あまり小型にしてはいけない。」「インフレの危険をかわすために総需要を押え込むと、景気後退で輸出圧力がかかり、また黒字がふえる。」云々と述べておられます。ここに見られるものは、一貫したインフレに対する甘い認識であり、この点はわが党が一貫して警告を発してきたところでございます。
同日付の紙上で、その愛知さんの談話に対比をいたしまして、わが党堀政審会長は「甘いインフレ認識」として注文、批判をしております。その中で、「インフレについての認識も甘すぎる。「
物価とムードとは分けて
考える」というが、インフレはむしろインフレ。マインドによって高まる。土地や株価、木材価格の騰貴はインフレ・マインドの象徴的なものだ。」この次ですが、「まず、公定歩合を〇・五%引き上げ、金融を引締めよ」と、具体的な提言をいたしておるのでございます。
ところが、
政府は、四十六年十二月と四十七年の六月二十三日に、各〇・五%引き下げ決定し、そのままずるずると放漫な金融、融資を繰り返してまいりました。引き締めるべきときに引き締めず、緩漫にし、しかも六兆五千億にのぼるといわれる過剰流動性を放置したことが、大
会社の土地や商品の買い占め、
物価の
高騰を招いたのでございまして、これは大きな
政策のミスであり、
田中内閣の
責任と言わずして何でございましょう。(
拍手)
企業が空前の過剰流動性をかかえてそのはけ口をさがしあぐねていた状況を、
政府はいちずに不況とのみ認識したことに誤謬があるのでございます。(「早く
質問しろよ」と呼ぶ者あり)いま
質問しているところですが、あわてた
政府、日銀は、四十八年四月二日から公定歩合を〇・七五%引き上げましたが、この三月のおくれ。
政府は絶えず後手後手と現象を追いかけているのでございます。総需要抑制がおくれ、金融は放漫に終始したこの
政策ミスを、
総理はいまになってどう反省するのでございましょうか。
昨日のテレビを私も拝見しておったのですが、何か、四十四
年度から十兆円の、銀行の数字をあげまして
説明しておったのですが、詳細なことを、そしてそのあなたの反省なり
説明を求めたいと思うのでございます。
わが党は、その年の十二月の末に、すでにはっきりと警告を発しておるのです。なぜこれに従わなかったのでしょうか。これに従っておれば、少なくとも情勢は変化したはずでございます。こうした
政策の誤りのために、
田中内閣出現の翌月から卸売り
物価は上昇に転じて、同年十二月以降は卸売り
物価の上昇が消費者
物価を上回り、卸売り
物価主導型のインフレとなったのでございまして、これまさに
田中インフレ、政治インフレというべきでございましょう。(
拍手)
次に、銀行等金融機関の問題でございまするが、諸悪の根源は商社である。そのとおりだといたしましても、私は、その奥に銀行等の金融機関の問題があると思うのです。諸悪の根源、そのまた根源は銀行等であると言っても過言でないとすら思うのですが、都市銀行は猛烈にもうかっておるようです。私には、公共性のあるはずの銀行がもうかる理屈、もうかっていい理屈がわからないのであります。
国税庁の調査による都市銀行の申告
所得というものは、四十七年の三月分四半期で、前年九月よりも主要銀行は百億円以上多いのです。なぜこんなに
所得、したがって利益がふえたのでございましょうか。これでは、老後が心配である、病気になってはたいへんだ、子供の教育にお金がかかる、そして
住宅を持ちたいという、
国民大衆が切なる願いから銀行に金を預けたり何かしておる、その
国民大衆の犠牲によってかように利潤をあげているのではないのでしょうか。今後大衆預金者の利益をどう守っていくのか、預金金利の引き上げ、
物価とのスライド制等考慮すべきではないか。
私は、また、
政府が
物価政策に
熱意の足りないということは、独禁法の改正にもあらわれておると思うのです。重要な点は、独禁法の運用というものを、
政府はみずからの
経済政策の一環としての意味を重視するのか、あるいは
経済検察的作用を重視するのでしょうか、どちらなのでしょうか。独禁法は
企業にとって好ましからざる目の上のたんこぶ的なものであるとして、この運用に消極的だったのではないでしょうか。
物価の引き下げ権その他の改正、あるいは公取の陣容の強化についての
総理の
考えをお聞かせ願いたいと思います。
結論に入るのでございまするが、結論は二つございます。
その一つの結論は、
物価の今後の見通し、これを
国民は最も聞きたがっておるわけです。一−三だ、四−六だと言っておりました一−三はもう過ぎてしまうわけでございまするが、そういうふうなことじゃなくて、私は、まず一つには、
総理の
考える
物価の安定、望ましい程度とはどの程度をいうのかということがまず一つ。
二番目は、これは参議院選挙後における
物価の見通し、このことを特にお聞きいたしたいのでございます。
国鉄運賃、あるいは米価その他、そしてまた、
公共事業費や財投の繰り延べによる
支払いの集中、これらが参議院選挙後に要因となって非常な
物価の
高騰を招くのではないでしょうか。単に問題の解決をずらしているというだけでは本格的な防止はできないのでございまして、この見通しと、公共料金をさらにせめて半年間でも凍結することぐらいに対する
考え方を率直に聞かしてほしいのでございます。
その第二は、近来特に問題となってまいりましたところの日の丸、君が代の法制化についての
考え方と、あるいは教育勅語、憲法に対する
考え方でございます。
自由民主党の綱領は、占領
政策の再検討と自主憲法の制定をあげておるようでございまするが、一つは、憲法の問題は、この占領
政策の再検討の中に入るのか。二番目は、自主憲法の制定とはいかなる意味、
内容を持つものか。三つ目は、君が代は、主権在民の憲法と、あるいはその精神に抵触するおそれはないか。四番目は、きのうもテレビでも言っておりましたが、
総理自身が
考えるところの占領
政策の再検討とは一体何なのか、具体的にお示し願いたいのでございます。
右は、青嵐会の諸君も最大の関心を持つものだというふうにいわれておりまするけれども、
国民は、それとは別の意味で非常な将来への危険を感じ取っておると思うのでございますから、明らかにいたしていただきたいと思います。
また、
国民協会への献金がどのように使われたかということは、単に一政党内部の問題ではなくて、広く
国民の政治不信、政党政治の不信に連なる問題であると思います。この際、一部でも論議されておるように、
国民の前にその使途を公開すべきと思うのでございますが、これに対する
総理の
見解をお願いいたしたいと思います。
以上をもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣田中角榮君
登壇〕