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1974-05-15 第72回国会 衆議院 法務委員会 第28号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年五月十五日(水曜日)     午前十時十二分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 小島 徹三君 理事 青柳 盛雄君       粕谷  茂君    小山 省二君       塩谷 一夫君    島村 一郎君       羽田  孜君  早稻田柳右エ門君       綿貫 民輔君    村山 富市君       山本 幸一君    横路 孝弘君       正森 成二君    沖本 泰幸君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         法務省人権擁護         局長      萩原 直三君  委員外出席者         労働省労政局労         政課長     保谷 六郎君         労働省労働基準         局監督課長   岸  良明君         労働省職業安定         局審議官    岩崎 隆造君         最高裁判所事務         総局人事局長  矢口 洪一君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 委員の異動 五月十四日  辞任         補欠選任   楯 兼次郎君     横路 孝弘君   安井 吉典君     村山 富市君 同月十五日  辞任         補欠選任   江崎 真澄君     羽田  孜君   河本 敏夫君     綿貫 民輔君   中垣 國男君     粕谷  茂君   野呂 恭一君     島村 一郎君   保岡 興治君     小山 省二君 同日  辞任         補欠選任   粕谷  茂君     中垣 國男君   小山 省二君     保岡 興治君   島村 一郎君     野呂 恭一君   羽田  孜君     江崎 真澄君   綿貫 民輔君     河本 敏夫君   村山 富市君     安井 吉典君   横路 孝弘君     楯 兼次郎君     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判所司法行政に関する件  人権擁護に関する件      ————◇—————
  2. 小平久雄

    小平委員長 これより会議を開きます。  裁判所司法行政に関する件及び人権擁護に関する件について調査を進めます。  おはかりいたします。  本日、最高裁判所矢口人事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小平久雄

    小平委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————
  4. 小平久雄

    小平委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横路孝弘君。
  5. 横路孝弘

    横路委員 ことしの春闘にあたって、全国的に裁判所当局のいわば不当労働行為的な行為というのが目立っているように思うのですけれども、この春闘にあたって裁判所としてはどんな方針でこれに臨んだのか、その基本的な方針をお伺いいたしたいと思います。
  6. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 ことしの春闘は異常な物価高を反映いたしまして、職員としてはかなり高まりを見せたものがあったというふうに理解をいたしております。私どもといたしましてもそれはそれなりに職員の経済的な事情考えますと、十分にくむべき点は理解できるわけでございます。これに対処いたします私ども方針従前と何ら変わりはないわけでございますが、やはり職員がその許された範囲内において自己の主張を掲げて組合活動を行なうということについてはもちろん異論はないわけでございますが、しかし裁判所職員であるということを考えますと、あくまで法のもとに適法な組合活動を行なわれるべきである、それが逸脱されるというようなことは許すことはできないという従来の方針を堅持して、ことしも対処いたしたわけでございます。
  7. 横路孝弘

    横路委員 従来から問題になってきたのはリボン着用行動と、それからことしの場合は時間内集会という二つの問題だろうと思いますが、いま逸脱することは許すわけにはいかない、こういうお話だったのですけれども、私のほうでお伺いしたいのは、そういうたとえばリボン着用行為があった、あるいは時間内の職場集会があったという場合に、現実当局側としてどういう対処をするのかというその辺のところの方針はどういう方針だったのですか。
  8. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 現実の問題といたしましては、三月二十六日に約二時間、勤務時間内におけるリボン着用行動が行なわれました。また四月十一日には午前中、結局半日ということになりますが同様リボン着用行動が行なわれましたこれに対する対処方法でございますが、目下慎重にその点につきましてどのような方法をもって処理いたすかということを検討中でございます。
  9. 横路孝弘

    横路委員 いやいや、これから処理するかでなくて、そういう行為があったときに、事前皆さん方のほうでいろんな指導しているでしょう。リボン着用行動があった場合にはどういう行動当局としてとるのか、その事前皆さん方指導内容をお尋ねしておるわけです。
  10. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これは従前と何ら変わりはないわけでございまして、勤務時間内のリボン着用行動は、いわゆる組合活動としてのデモでございまして、勤務時間中に組合活動を行なうことは許されない、そういうことがあればこれに対しては当然国家公務員法その他の規定によりまして正すべきものは正すということが基本姿勢でございます。
  11. 横路孝弘

    横路委員 私はきょうはそのリボン当否についての議論をやるつもりは全然ないのです。ただ皆さん万のほうのそういう際にあたっての指導ですね、正すものは正すというのは、どういう方法で正すということなんですか。
  12. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これまでも勤務時間内にリボン着用行動をすることはいけないということを機会あるごとに職員に周知徹底いたしてまいりましたが、もちろんその非なるゆえん職員に十分に説明して、職員がそういう行動に出ないように指導していくというのが私どもの従来からの根本方針であり、今回もその方針に従って対処いたしたわけでございます。
  13. 横路孝弘

    横路委員 その着用しないようにという点では、たとえば警告とかいろいろ方法があるだろうと思うのですよ。その具体的な方法が今度の春闘でいろいろあがってきている話を聞きますと、従来も議論があったと思うのでありますけれども実力ではずすとか、リボン着用当否は別にして、姿勢として下部のほうに非常に混乱といいますか行き過ぎといいますか、ちょっと私たち常識的には考えられないようなことも出てきているわけです。そこでお尋ねしているのですけれども、その辺のところがどうなっているかということですね。
  14. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 組合リボン着用行動を指令いたしました時点におきましては、自後、組合本部との折衝におきましてもそのような違法の行動を中止するようにということを何度か話し合いをいたしました。また直前におきまして事務総長名義をもって全国に対して、と申しますよりも組合本部に対しまして、その行動が違法であるから直ちに中止するようにという警告をいたしました。また各庁におきましては、それぞれの段階におきまして対応する組合支部に、あるいは分会がございますが、そういうものに対して対応する裁判所の長から同趣旨警告をいたしました。また職員に対しましても違法な行動に出ないようにというような警告をいたしました。  以上のような段階を経て当日に至ったわけでございますが、その当日におきましても着用しておる職員に対しましては、できるだけ早くリボンをはずすようにということを警告し、なおこれを聞かない職員に対しては取りはずし命令というようなものも出した庁もございます。
  15. 横路孝弘

    横路委員 その取りはずし命令というのは、これは皆さん方指導に基づいて一斉に出されたわけですか。つまり警告をする。聞かない。次は取りはずし命令。これは業務命令として出るわけですか。
  16. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 各庁各庁の主体的な判断によるものでございますが、管理者側としてはそれが違法であるということについては、事務総長本部に対する警告にもございますように完全に一致いたしておりますので、各庁同一歩調をとって取りはずしの業務命令を出した、こういうことでございます。
  17. 横路孝弘

    横路委員 それをはずさない職員に対して実力ではずすという行為は、どういうことなんでしょうか。
  18. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 業務命令が出ましても取りはずしをしない場合でございますが、これに対しては、率直に申し上げて、それ以上に実力どうこうということはできないわけでございます。私ども全国でそういう実力で取りはずしを命じたという例があったということは、正式には何ら報告を受けておりません。
  19. 横路孝弘

    横路委員 全司法組合との団交の中では、幾つかの事例というのは皆さんとの間に交渉の中で出てきているでしょう。
  20. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 統一行動の後に、団体交渉席上等で一、二そういう例があったというふうな組合側発言がございましたが、そういうことは報告を受けていない、かりにそういうことがあったということであるならば、私どものほうとしてもそういうことを今後はしないようにということで指導するからという話し合いをいたした事実はございます。
  21. 横路孝弘

    横路委員 もちろん実力ではずすということはできないですよね。つまりそれは許されない行為だ、その見解は間違いございませんか。
  22. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 からだにつけておるものでございますので、御指摘のとおりに考えております。
  23. 横路孝弘

    横路委員 今度の春闘の中でそういうトラブルが出てきているわけですね。これはある意味では組合との間の、いわば労使関係以前の問題なわけです。お互いにやはりこれは守る範囲というのはあるだろうと思うので、そんな意味では、今回の春闘の中でそういうケースが二、三ございますのでお尋ねをしたいと思いますけれども一つ警告方法ですね、これについてはどういうように皆さんのほうでは下部のほうへ指導なさったわけですか。
  24. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたように、勤務時間内のリボン着用行動は違法であるということでございます。違法な行動を計画した場合には、対応する組合の役員に対しまして、職員をしてそのような行動をさせないようにということの厳重なる警告をいたします。それと同時に、一般職員に対しましても、違法な行動が計画されそれが実行されようとしておるということを訴えまして、そのような行動に具体的に出ないようにというような警告をいたします。その警告は、文書による場合もございますし、口頭によって職制を通じて一般に周知徹底させるという場合もございます。
  25. 横路孝弘

    横路委員 具体的に問題になった件が東京地裁、これは、末端管理者ということで、主任書記官の人の発言をめぐっていろいろ議論があって、これもまあ当局との間に交渉して一応解決済みというように聞いておりますが、この主任書記官発言ですね、最近はいわば非常に末端管理者がふえて、そういう末端管理者を使っての不当労働行為がふえているように思うのですけれども、この東京地裁支部の三月三十日の日ですかに行なった発言について、最高裁当局としてはどういうぐあいに事実をつかまえ、どのようにお考えになっていますか。
  26. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 東京地裁の民事の主任書記官が、その部におります職員に対しまして、勤務時間内のリボン行動あるいは勤務時間に食い込む早朝職場大会は違法であるからこれに参加しないようにという趣旨発言をいたしましたことが問題になったようでございますが、私どもは、組合が適法な組合活動を行なうということに対しましては、これは当然組合の自主的な行動を尊重いたしまして、何らかれこれ申し上げる筋合いはないわけでございますが、それが違法であるという場合には、機会をとらえて職員に違法であるゆえんを周知徹底するということも、また職制一つの職務であるというふうに考えておりますそういう見地から、一主任書記官発言というものは、理論的には問題はないというふうに考えております。  ただ、そういうふうに申すといたしましても、やはり時と場合、それから、言い方といったようなものは十分慎重に行なわれなければいけないというふうに考えますので、今後はそういう問題についても、理論上許されるといたしましても、それをどういうふうに行なうかというようなことについては、なお一そう慎重に行なうべきであるというふうに考えております。
  27. 横路孝弘

    横路委員 主任書記官というような、いわば皆さん方のほうでは末端管理者という位置づけをしているわけですけれども、問題は、一つ職場の中でいわば同じ仲間としているんで、本来ならば管理者にすること自体がおかしいと思うのですけれども、こういう末端管理者を通してのそういう趣旨徹底というようなことは、皆さん方のほうで進められている方針なんですか。
  28. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これはそのときそのときの状況によるわけでございますが、職制といたしましては、そのときの事情に応じまして一般的にもっと上部、たとえば具体的には所長といったようなところから一般的な一斉のこういう説得をするようにというふうに申すこともございますし、また、職制が具体的な場合において話をすることもある。特段にどのようにしろというようなことは指示はいたしておりません。
  29. 横路孝弘

    横路委員 実はやはり末端管理職からいくと、これは一般の企業の中でもそうなんですけれども往々にして上のほうの人というのは知らぬ顔しておって、下のほうの管理職を使って切りくずしをはかるというようなケースというのは、これはいとまもないくらいケースとしてあるわけですが、裁判所の中で、とりわけ管理者の問題も従来からずいぶん議論のあるところでありますし、組合皆さん方との間の交渉の中でも従来から問題になってきているわけです。そういう立場にある主任書記官クラス皆さん方のほうのいわば労使関係の問題で使うということは、これはやはりそこから大きな問題がいろいろ出てきて、特に現場であるだけに、現場の中に混乱を持ち込むことになるというように考えますので、ひとつこの問題、一応皆さん方のほうも幾つかの点確認をして組合との間に話がついているようでありますけれどもその辺のところをこれからも十分注意をしてもらいたいというように思うのですが、いかがですか
  30. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 やはりケースバイケースによって考えていかなければいけない問題ではなかろうかという感じがいたします。非常に新しい問題で、取り扱い方法でございますとかあるいはそれをめぐる解釈でございますとか、非常に分かれておる問題もございますし、たとえばリボン着用行動あるいは勤務時間に食い込む早朝職場大会といったもののように違法性の全く明白であるというふうに当局は年来主張し、はっきりと方針の立っておるものもございます。ものによって扱いが異なってしかるべきではなかろうかというふうに思いますが、ただ、ただいま横路委員も御指摘がございましたように、組合問題というのは、日ごろは一緒に心を合わせて仕事をいたしております者が、ある時点におきましていわゆる管理者側組合員側というふうに分かれる問題でもございますので、その辺の扱いは十分慎重にいたしていきたい、そういうふうに考えております。
  31. 横路孝弘

    横路委員 いや、ケースバイケースの問題ではなくて、一般論として、こういう労使関係の問題に末端管理者を総動員をしてこれに当たるというようなことを最高裁当局として方針として持たれてやられると、これからも混乱現場において現実に起きてくる、そういう危険性といいますか、可能性というのが相当あるわけです。したがって、皆さんのほうでも、その辺のところを十分注意をしてもらわないと、裁判所職場でもってこういう混乱が特に最近全国であちこちに目立ってあるように思うのです。これは最近の傾向じゃないかと思うのです。その原因は何かといえば、やはり末端職制発言とか行動とかいうようなことに原因があることがずいぶんあるように思うのです。したがって、その辺のところを管理者だから末端まで全部総動員してこれに当たるんだというようなことじゃなくて、職場の中にそういう混乱を持ち込まないように、問題は組合当局という問題であれば、そのペースで処理をするというのが、たとえば春闘のような問題でも基本的にはそうだろうと思うのです。その辺のところを最高裁当局としても考えてもらいたいというように思うのです。
  32. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 御趣旨十分理解できるわけでございますが、しかし組合に対します関係で個々の末端職員当局考え徹底するということになりますと、また場合によりましては末端職制を使わざるを得ないということもございます。ただ、横路委員指摘の御趣旨は十分に理解いたしたいと思っております。
  33. 横路孝弘

    横路委員 それともう一つ。いまこれはそんな意味では現場交渉が持たれているケースですけれども東京家庭裁判所官舎に入るということで、入るためには組合活動をやめなさいという発言があったということでもめているケースなんですけれども官舎に入るのに組合を脱退しなければだめだということがもし発言として事実ならばこれは皆さん方のほうとしても認められる範囲内の行動だということは、一般論として言えないですね。
  34. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 抽象論の問題といたしましては、そのとおりに理解すべきものと考えております。
  35. 横路孝弘

    横路委員 その辺のところは徹底はしておるわけですか。
  36. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これは申すまでもなく、機会あるごとに、組合員であるかどうかということによって差別をするということはしないということは徹底をいたしております。ただ、御指摘の先ほどの問題でございますが、少し双方に誤解があるように承知いたしております。私どもの得ております報告では、そういうような趣旨のことは申してないというふうな報告を受けております。
  37. 横路孝弘

    横路委員 皆さん方は、研修と称して公務員の任務とか義務とかいうことでのお話はずいぶんなさっているようなんですけれども管理者に対してこういう行為というのは不当労働行為になるんだというような、そんな指導とか指示とか、だからいけないというようなことはどうもあまり議論になったことがないようなんですけれども、そういうような指示下部に対する徹底ということはちゃんときちんと皆さんのほうでやっておられますか。
  38. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これは中間管理者研修等機会には、常に不当労働行為とはどういうものであるかという基本的な点から説明いたしまして、少なくとも組合員ということによって差別をするといったようなことのないようにということは徹底をいたしておるつもりでございます。
  39. 横路孝弘

    横路委員 それは何かちゃんと文章とかあるいはテキストでもってございますか。
  40. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 これはテキストどうこうという問題ではございませんで、少なくとも管理者の心得としては根本的なと申しますか、第一の問題でございますので、常にそのことを徹底するとともに、私ども下級管理的職員は、その点については十分理解をいたしておるというふうに考えております。
  41. 横路孝弘

    横路委員 具体的な問題なんですけれども、そういう発言はなかったというお話で、発言したのかしないのかということなんですけれども、全然そんな発言がなくて本人のほうからこういう申し出があるというのもちょっと常識的には考えられない。これは調査はもちろんされているわけでしょう。
  42. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 全司法新聞にその点についての記事が掲載されました時点におきまして、現地から報告を得ております。
  43. 横路孝弘

    横路委員 その報告内容はどういう内容ですか。概略でけっこうです。
  44. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 少年部勤務いたしますある組合員、七等級職員でございますが宿舎困窮があるという申し出がございました。それに対しまして、家庭裁判所宿舎のほうを担当いたしております会計課長が、最高裁判所経理当局に対して宿舎割り当て可能制の有無ということについて尋ねましたところ、事情によっては一戸割り当てられる可能制があるということであったようでございます。そこで、本人に対しまして、その困窮事情について詳細の事情説明書を出すようにということを申しました。家庭裁判所におきましては、七等級職員においてその他に数名の困窮者がございまして、いずれが優先すべきものかというようなことについての判定が非常に困難であったようでございます。なお、上級の者についても同等もしくはそれ以上の困窮者があったということでございますが、結局において、本人から明確な困窮度合いを示す事情調書といったものが出てまいらなかったという点もございまして、家庭裁判所には一応割り当てられる可能性のあった一戸が割り当てられなかった、その一戸は在京の他の下級職員に割り当てられた、こういう事情のことだと承知いたしております。
  45. 横路孝弘

    横路委員 その問題で本人会計課長との間に話し合いが行なわれたことは事実なんでしょう。
  46. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 本人から自分を入れてもらえるのではないかということについての話があったということは承知いたしております。
  47. 横路孝弘

    横路委員 その際の具体的なやりとりについては、報告はあがっていないわけですか。
  48. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 その点の詳細にまでは報告を聴取いたしておりません。
  49. 横路孝弘

    横路委員 こういう問題も、結局組合との間の話し合いで解決するのが筋ですからね。やはり事実関係をきちんとつかまえて、私たちのほうで聞いておる範囲では、組合青年部長等をやっていた人と、組合活動をあまり一生懸命やると当たらぬという話がそのやりとりの中にあったというふうに聞いているわけで、もしそれが事実だとすれば、これは明らかに不当労働行為になるわけです。その辺のところは、皆さんのほうも誠意をもって組合のほうと話をしてこの問題を解決されるように、これは要望しておきたいと思うのです。ひとつそのように話をしてもらいたいと思いますが、よろしいですか。
  50. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 会計課長がそのようなことを申すということは考えられないことでございますが、なお事情を調べまして、善処いたしたいと考えております。
  51. 横路孝弘

    横路委員 考えられないことがときどき起きるものですから、こういう問題になるわけです。  それともう一つ、これは私のほうの地元の札幌の問題なんですけれども、今度の春闘に際して警告書家庭に郵送したという問題がありまして、私のほうもいろいろと事情を調べてみたわけですが、きのうの段階組合当局との間の交渉がこの直後からずっと持たれてきて、その結果、一応方法として家庭郵送するのは非常にまずい方法だったということで、当局のほうが高裁、地裁含めて、地裁のほうではがんばっておったようなわけですが、一応陳謝をして話がついたから、こういう報告を私のほうで受けているのですけれどもこれは間違いございませんか。
  52. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 御指摘のような郵送という事実がございまして、その点につきまして現地当局北海道地連との間に交渉が持たれまして、その結果、御指摘のように今回の場合としては、具体的な事情として郵送するもやむを得なかったということは組合もこれを了承いたしましたが、しかし一般的な問題といたしまして、警告書家庭に郵送するという方法はいかがであろうかということで、この点将来は、役所の中で警告書等職員に配った場合に、組合が直ちに回収して、せっかく配ってもそれを読むひまを与えないというようなことをしないならば、郵送するということについても考えるということで話し合いがついたというのは事実でございます。
  53. 横路孝弘

    横路委員 ちょっとその前提だけは、私のほうで聞いている話と内容が違うのですけれども現地のほうもいろいろな配慮をして、あるいは皆さんのほうに上がっている報告現地のほうの中身が違うのかもしれません。ただ、やはり一般論として議論してみると、これはちょっと前代未聞のことなんですね。警告書そのものを家庭に郵送するということは、やはりこれはいわば家族の動揺をねらって、家族のほうから組合員に圧力をかけさせるといいますか、しかも文章の表現一つをとってみても、処分ばかりじゃなくて将来の処遇にも影響することがあるという、この辺の解釈もいろいろあるのでしょうけれども、しかしすなおに読んでみると、ともかく「処分の対象となるばかりでなく、将来の処遇にも影きょうすることがあります」というような表現になっておって、これは皆さんの立場で処分というのは法律に基づく処分なんでしょう。しかし、そればかりじゃなくて、将来の処遇にもということになると、これはその処分と離れて一般的な不利益ということになりますと、組合員の立場でいうと、組合活動に参加をして将来の処遇に、この辺のところが、やはり家族のほうから見ると、家庭に郵送して動揺をねらっているのじゃないかという受けとめ方をせざるを得ないわけで、そんな意味では、やはり一般的にこういう方法をとるということは私は妥当な方法だとは思わないので、将来とも、いま何かいろいろ限定つきでお話がありましたけれども一般論としても、これは方法としてもあまり妥当な方法じゃないというように私は思いますので、その辺のところは、これからもいろいろこの種問題というのは起きてくるでしょうから、その将来的な方針の問題として皆さんのほうでお考えを願いたいというように思うのです。特に事前に、家庭に郵送せよというような指導をしたわけではないのでしょう。
  54. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 当然でございまして、私どものほうからそういうことを申したわけではございません。ただ今回の場合は、せっかく組合員と申しましても、私どものほうから見ますとみんな裁判所職員でございまして、その職員に対して、違法な行動をしないようにということを文書にいたしまして事前に手渡しましても、職員が読まないうちにみな回収されてしまうということで、読んでもらいたいという一心で家庭郵送というような方法をとったようでございます。要は、家族をどうこうというようなことは毛頭考えていないことでございまして、職員に読んでもらえればそれでいいわけでございます。読んでもらって考えていただければそれでいいわけでございます。今後も、一般的な方法としては、私も御指摘のように必ずしも妥当ではないというふうに思っておりますので、いま申し上げたような趣旨で善処いたしたいと考えております。
  55. 横路孝弘

    横路委員 現地で話が、そういう意味で成立したということでありますから、これ以上多く申しませんけれども、ただこのリボン着用とか、それから先ほどの家裁の問題あるいは地裁の問題、それから札幌における高裁、地裁、家裁の問題、この種の問題が、これは全国的に特に最近多くなってきているわけです。その一つが、どうも管理職範囲拡大の傾向とかなり類似しているように受けとめられるわけで、管理職範囲の問題はまたあらためて議論したいと思うのでありますけれども、ひとつこういうつまらないことで職場混乱をするということが起きないように、これは春闘ということでそれぞれ立場があるわけですが、立場があってもやはり範囲というのはあるわけなんで、皆さん趣旨を徹低させるためには何でもかんでもやっていいのだ、ですから中にはリボンを力でもってはずしてしまうというようなケースまで出てくるわけですよ。  これはやはり末端管理者個人の問題ではなくて、最高裁当局にそういう姿勢があるから、下のほうもその意向を組んで走り出すわけですね。ですからその辺のところを重ねて、今回の春闘にあたって起きたような問題が二度と起きないように、ひとつ皆さんのほうでもその辺のところをもう一度、不当労働行為というようなことを起こさぬような指導をきちんとやっていただきたいということを最後に要望して、時間も来たようでありますから私のほうは終わりにしたいと思いますがその辺最後に……。
  56. 矢口洪一

    矢口最高裁判所長官代理者 最近不当労働行為が多くなったのではないかという御指摘でございますが、私どもむしろ不当労働行為的な事件は減少してきておるのではないかというふうに自負いたしておるわけでございます。組合の問題及び組合の活動というものは、正当に評価いたしております。不当労働行為的なものがあってならないことも当然でございます。その点今後もなお徹底をいたしていきたいと考えております。
  57. 横路孝弘

    横路委員 終わります。
  58. 小平久雄

    小平委員長 沖本泰幸君。
  59. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私は不当労働問題並びに人権問題につきまして、時間の許す限り御質問していきたいと思います。  この不当労働問題は差別問題とからんでおり、いわゆる部落差別にも通じる問題であり、人権の問題として重要な内容を持っております。憲法では、職業の選択の自由あるいは個人の人権の尊重というものがきちっと整えられておるわけでありまして、そういう観点から、いまだに偏見による労働差別が行なわれるという点について、問題点を掘り下げていきたいと考えるわけでございます。  それで問題は、在日朝鮮人または韓国人、両方の呼び方があるわけでありますが、同じ一つの民族であり、そういう方々が日本に長く在留し、日本人と同じ生活環境の中にあり、同じ労働条件の中にあるわけですから、そういう中にあって、就職に関して差別問題があったという点について御質問したいわけでございます。  問題は、いま法廷に提起されて訴訟が起こされておるわけでありまして、お答えになる場合に、その点についてお答えを留保されたりあるいは避けられたりという面も考えられるわけでありますけれども、私が質問するのは、法廷上の裁判の問題を有利にしていこう、こう考えて御質問するのではなくて、一般に起きておるこういうふうな不当労働条件について解明していきたいし、今後この種の事件を一掃していきたいし、ますます人権が尊重され、就職の自由なり職業選択の自由なり、労働条件の整った社会をつくり上げていきたい、こういう観点から御質問したいわけでございます。  問題は三年前にさかのぼるわけでありますけれども、三年前に日立の戸塚のソフトウエア工場の就職試験を受けた在日韓国人の朴鐘碩、この方が日立の試験を受けて採用通知を受けた後に戸籍謄本の提示を命ぜられて、そこで実は本籍がないので謄本が提出できないということを通知すると、その後採用を取り消されたということから不当解雇につながる問題として訴訟が起きているという経緯をたどっていま三年を迎えておるということになり、そして現在は、この問題は大きな在日韓国人に対する不当労働行為であるという点、それから日本の企業が韓国に経済進出してきていろいろな労働差別問題も起きていき、韓国の経済をゆさぶっているというところから、反日感情というものがより一そう刺激されて、韓国内ではいわゆる不買運動が大きな問題となって出されてきておる。これはいま簡単に申し上げているわけで、後ほど詳しいことは申し上げますけれども、ヨーロッパからアメリカのほうまで日立の不買をやっていこうというような運動まで展開していっておる。こういうふうに事件は大きな波紋を描いて、日本にとどまらず外国まで展開していっておるという事実でございます。  こういう点についてまず一つ一つお伺いしていきたいわけでございますが、採用通知を出した時点と採用通知を受けたあととの関係性、これは労働省のほうでは採用通知を受けたならば基本的には労働契約はできた、こう見るべきものでありましょうか。その後採用の取り消しが行なわれたというような一般的な考え方からくる条件というものはどういうものに当たるのか、この点について御説明願いたいと思います。
  60. 岸良明

    ○岸説明員 ただいまのお尋ねの件でございますけれども、これは御承知のとおり非常に認定上むずかしい問題でございます。すでに幾つかの裁判例もございまして、通常の場合でございますと、特に臨時的採用の場合には、会社側で募集をいたしましてその募集に応募をして試験がある。試験が終了いたしましてからさらに会社側ではその試験の結果を見て採用内定の通知あるいは採用通知の場合もございますけれども、そういうものを出すわけでありますが、現在の労働市場の状況から申しまして、たとえ試験に受かった場合でも、現実にはその合格者のうちの数名の者が来ないというような場合がございますので、会社の中にはそういう場合に、必要な身分に関しますところの書類あるいは学校の成績証明書その他の提出を求めて、そして最終的には指定日に本人が出てきたときに最終的な労働関係ができた、こういうふうにしておるところもあるわけであります。ただ、そういうことはいわゆる時日の推移の中で、どういうふうな時点で労働契約が成立をしたと見るかということは事実の認定の問題でございます。一つの裁判例にありますように、本人が合格通知を受けまして会社所定の手続を終了したときにはもうすでに労働契約が成立したんだという見解もございますし、また就業規則に定めてあるような手続を全部完了しなければ現実には労働契約は成立しないという見解もあるわけでございます。その点私どもとしては、少なくともそこに両当事者が、片方は人を採用しよう、片方はそれに対して応じて働こうという両者の意思が明確に確認できる時点から労働契約が成立したと見ざるを得ないであろう、非常に抽象的な答えでおそれ入りますけれども、そういうふうに考えております。
  61. 沖本泰幸

    ○沖本委員 結局具体例でお示しをしなければならないと思うのですが、これはたとえば裁判になっているわけですけれども、一例としてお考えいただきたいわけですが、新聞広告を見て、試験当日新聞広告に記載のあった履歴書、身上書を作成し、印鑑を持参し会場で受験申告をした。それからその会社の人事係から入社試験は合格しました、採用通知は着きましたか、こういうことで、退職証明書の交付と成積証明書と卒業証明書等の交付を受けて会社側へ連絡したということなんです。本件では戸籍謄本、本籍問題が問題になったわけですけれども、それをちょっとはずしてみるといまのような経過で、一応採用通知書が来たということになるわけなんです。こういう関係では通例としてはどういう扱いになるわけですか。
  62. 岸良明

    ○岸説明員 ただいま具体的な事件に即してのお尋ねでございまして、先ほど来申し上げておりますように、やはりどこの時点で労働契約が成立したかということは多分に事実に即して判断をしなければならない問題でございます。したがいましてこの事件については、おそらく裁判所のほうで事実に即して的確な判断が出るのではないかというふうに一応私ども考えますけれども、本件の場合には、私どもの承知している限りでは、四十五年の八月に募集広告を出しまして、二十三日に名古屋の営業所で採用試験を実施しておる。九月二日に採用通知書を出しまして、その中に、原告の戸籍謄本あるいは卒業証明書等会社の必要書類を提出しなさい。そのうちに先生御指摘のとおりに戸籍の問題でいろいろトラブルが起きたようでありますが、九月十六日に本人が必要な書類に対して虚偽の記載をなしたということを理由にいたしまして採用内定を取り消した、こういう形になっておるようであります。ここら辺のところは私どもも必ずしも事案に即しまして詳細な調査をしたわけではございませんので、あるいは事実認定上誤りがあるかもしれないと思いますけれどもただこの採用通知書の中には九月二十一日に赴任日を指定している。現実に取り消しておりますのは九月十六日でございますので、本人現実に労働を提供して働いたという事実はないわけでございます。そういう面からいいますと、そこら辺のところの判断は、事実に即しまして、相当詳細に吟味をしなければならぬ問題だ、かように思います。
  63. 沖本泰幸

    ○沖本委員 事件の内容についてお調べになってお答えになるわけですから、どちら側からお聞きになったのかわかりませんが、たぶん会社側のほうからおとりになったのだと思うのです。訴訟の争いというものは、両方を公平に見ていかなければならないのが裁判官であり、あなた方のほうも、裁判官の判決を見てから答えを出していくということになるわけで、その間については、むしろ私のほうから言いたいことは、軽々にものごとを言ってもらっちゃ困るということになるわけです。監督署のほうも、それじゃ会社側に立ってものをおっしゃっているのか、こういう疑義が——もしこれが委員会の会議録として出てきた場合には、そういうふうにとられる可能性がありますから、そういう説明は十分やって、お答えしていただきたいと思います。  そこで、お調べになってお答えになったわけですから、同じような観点から申し上げますと、結局採用取り消しを通告されたので、本人は打ちひしがれ、怒りと絶望、落胆の果て採用取り消しに納得できないところから、昭和四十五年九月二十一日、西尾労働基準監督署をたずね、そうしてたまたま応対した労働基準監督官山口開市氏に「採用通知書を示したうえで、「戸籍謄本がとれないという理由で採用取消を受けたが、何とかならないか」と相談した。」、山口氏は「採用通知書を見て「労働契約はすでに締結されたのが濃厚だ」と直観して原告に」本人に対して、とにかく「会社へ行けばよかった。今からでも行って交渉し、納得がいく説明をして貰いなさい。それでだめだったら管轄は横浜だから横浜労働基準監督署へ行きなさい」、こういうふうに教えた。さらに本人に「今日が出社日なんだから、遅れるけれども必ず行くと電話をしなさい」、こういう指示をしていらっしゃる事実があるわけです。これは法廷で証言していらっしゃるわけですから、これは裁判の推移とかなんとかということとは何ら関係がないわけで、こういう取り扱いをなさった監督署の担当官の取り扱いは妥当なのか、妥当でないのか。正確な判断に従って、こういう御回答をしていらっしゃるのかどうか。この点についてお答え願いたいと思います。
  64. 岸良明

    ○岸説明員 先ほど先生の御指摘がありましたとおり、私は当該事案についての法律的な評価を申し上げておるわけじゃございませんで、先ほどは事実の流れを申し上げたわけであります。こういう事実に即して、どういうふうに労働契約の成立の時点考えるかということは、先ほど来申し上げておるとおりに、非常に微妙な問題でございますので、にわかに判断がつきにくい問題であるということを申し上げたわけであります。その点をお断わりをしておきます。  それからただいま御本人が西尾の監督署のほうに参りまして、そして担当の監督官と相談をした際に云々という御指摘がございました。この点についても、私のほうは、そういうようなことがございましたので、一応担当の監督官のほうについて調べたわけでございますが、ただ先生のおっしゃいましたことと若干——これはどうも電話で応答したことで必ずしも正確であるかどうかわかりませんけれども、御本人からそういうような採用取り消しの連絡を受けたという旨の御相談がありまして、その際に、担当監督官のほうといたしましては、一応出社をして会社の人事担当と話し合ったらどうか、また労働基準法の解雇という問題にかかるというふうに考えるならば、これは会社の所轄をする監督署のほうに出て、その旨を申しなさいということを助言したようであります。私は、監督官といたしまして、そういうような御相談があれば、この助言は適切である、かように思います。
  65. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これは御本人がおっしゃっておるわけなんです、はっきりこの山口さんが。  もう一度お伺いしますけれども、こういう「今日が出社日なんだから、遅れるけれども必ず行くと電話しなさい」という点、労働契約はすでに締結されていることが濃厚だ、こう直感して原告にとにかく「会社へ行けばよかった。今からでも行って交渉し、納得がいく説明をして貰いなさいそれでだめだったら、」横浜の労働基準監督署に行きなさい、こういうふうな内容のこと、これはいつもこの程度のことは、労働基準監督署で相談に応じておやりになっていることなんでしょうか、どうなんでしょうか。
  66. 岸良明

    ○岸説明員 先ほど来申し上げておりますとおりに、事実の判断というのは非常にむずかしいわけでございますし、私ども監督署といたしましては労働者の方々が納得のできない理由で、一たん合格通知をもらったにかかわらず採用されないという状態になりますと、やはりそれらの方々の主張をなるべく保護をしてあげたい、こういう観点がございますので、私は、先ほど先生が明確に御指摘になったように、はたして監督官が、これは労働契約の締結がされている可能性が強いというように言ったかどうか、その点は確かめておりませんけれども、やはりそういうような問題があればその点については会社とよく話し合え、さらにどうしても話し合いがつかない場合は、所轄の監督署に処理してもらえ、こういうことは当然のことだ、かように考えます。
  67. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この採用通知というのは、「採用通知に赴任の日が指定されている場合には、一般にはその採用通知が発せられた日に労働契約は成立したと認められる要素が強いものと思われるが、なお従来の慣例その他を勘案して決定されるべきものである」、これはジュリストの労働基準実例の中に出ている行政解釈であるわけです。「第一線で指導監督の任に当る労働基準監督官の次のごとき判断とも合致する。」、「直観的には採用通知書に赴任日が出ておると記載されておるから、直観的には採用通知書を出して労働契約が締結されたのが濃厚だというふうに」、この辺はいまの山口さんのお話なんですけれども、学説上も「「採用内定」については、使用者の採用する旨の通知を発したときに労働契約が成立するとの説が通説である」、こういうふうな、いろんな先ほど判例もあるとおっしゃっておられますけれども、通例でありこういう解釈のほうが多いということになるわけですけれども、監督署としては、基本的な基準として、どういうふうにお考えなんですか。
  68. 岸良明

    ○岸説明員 ただいまお読みいただきました解釈例も一つの例でございますが、一番、事柄を明確にいたしますには、やはり就業規則その他に採用手続が明確に定められておる、そういう場合には判断がしやすいわけであります。ところが通例、そういうような採用手続についてきちんと定めがないという場合には、やはり両者の、いわゆる採用しよう、また採用されようという意思の一致ということが、何か客観的事実で明確にされなければならないわけでございまして、通常、試験を行ないまして、その合格通知を出すという際に、ほかに付随的な事情がなければそれは一つの決定的な要素になるだろうというふうに思います。  ただ、先ほど来申し上げておりますとおりに、最近の採用手続の実情が相当に変わってきておりまして、現実には非常な人手不足、いわゆる売手市場でございますので、労働者のほうで、特に大学新卒、あるいは高卒の場合におきましても、試験を受けて合格通知を受けても実際に出てこないそういうような形があるわけでございます。そこで、合格通知を出した後にいろいろと手続を踏んで、最終的に両者の意思の合致が明確になった時点で労働契約が締結されたと見られるような事例も多々あるわけでございます。そういう点につきましては、やはり先ほど来繰り返しておりますように、当該事案についてどういうふうに評価するかということはケースケースによって違ってくるのではないか、かように思います。
  69. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いまおっしゃった人手不足で、試験合格通知を出しても出てこない例のほうが多いということは、一般実例でこういう問題がたくさんあるわけなんでしょうか。どうなんでしょうか。
  70. 岸良明

    ○岸説明員 ただいま私どものほうで労働基準法研究会という場を設けまして、現状と問題点を整理いたしております。その中で特にこの労働契約の問題がやはり問題になりました。その際に私どもの調べました範囲では、そういう例がわりあいに多い。現実には、試験を受けられて合格通知を出しました方が一〇〇%全部採用されるというような形、すなわち就職をされるということはなかなかむずかしいということでございます。
  71. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そこで、きょうの質問の中心になっておるのは、戸籍謄本を出せということが原因になって、本籍がないということで韓国人であるということがわかった後に採用取り消しということになって、争点になっているわけですが、この戸籍謄本はとってはいけないということを労働省のほうから各企業のほうへ通達をお出しになっているんじゃないでしょうか。その辺の事情をお教えいただきたいと思います。
  72. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 お答えいたします。  職業安定法におきましては、職業安定所が職業紹介をする際に、人種、国籍等の差別をしてはいけないということで、この点は私ども行政上完全に実施しているつもりなんですが、民間企業が求職者を選考する際に戸籍謄本等をとるという問題は、事業主が人を採用する際には、その労働者の適性、能力を判断して、それによって採用するということを基本的には指導をしておるところでございます。したがいまして、これに直接関係のないような事柄について応募の際の必要書類とすることにつきましてはいかがかという観点から、昨年から、高校の新規採用の応募書類につきましては統一的な応募書類を民間に実行していただくように指導をしております。その中におきましては、こういった本人の本籍を明らかにするというようなことは必要がないという判断で、統一書類の記載事項からは落として指導をするようにしております。
  73. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私の手元にある資料から申し上げますと、四十八年三月三十一日百二十七号で「新規高等学校卒業者の採用・選考のための応募書類について」ということで、「積極的に本人の有する適性・能力を引き出し、これを有効に発揮させるという観点に立って行なうべきものである。しかしながら現在企業が独自に定めて用いている応募書類には、適性・能力と直接関係のない事項が含まれ、しかもこれらの事項を判断の資料として採否の決定が左右される場合があり、事実、片親または両親を欠く者、心身に障害のある者及び定時制・通信制在学者等に対する差別的な取扱いがみられとくに同和対策対象地域住民に対する就職に際しての不合理な差別の事例は後を絶たないところである。このような現状にかんがみ、採用のための選考に際し、これらの就職差別を排除するため、新規高等学校卒業者の選考に当っての応募書類については労働省、文部省及び全国高等学校長協会の協議のもとに定められた様式を全国的に統一した応募書類として使用するようその普及を図ってきたところであるが、今後さらにその使用の徹底を図ることとしたので、下記により教育機関、事業主団体等とも十分連携をとり求人者指導等について格段の配意をお願いする。」これは、このほかのものも同じ内容であるということであり労働省の示されている資料はこれなんですね。「履歴書・身上書」を、一つのきまったものをおつくりになって使わしていらっしゃるということになりますが、この点についてはいかがなんですか。四十九年にも同じようにもう一度お出しになっていらっしゃいますし、なぜこういう徹底したことをおやりになる事情に至ったかという点についての御説明をいただきたいと思います。
  74. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いま先生がお読みいただきましたように、この通達に明らかにしてあるわけですが職業安定法の施行規則の三条におきまして、先ほど申し上げました本人の適性、能力ということを基準にしてそれで企業の採否をきめなさいということを私ども事業主に対して指導しているところでありますが、従来それ以外の要因によって採否を決定するというようなことがありましたので、特に新規の学卒者、最近は高校生が圧倒的に多いわけでございますけれども、その高校生の募集にあたりまして、ここにありますような本人にとって不幸な事情、片親または両親を欠く、あるいは心身に障害がある、それから定時制、通信制教育を受けているために、一般の高校卒業と取り扱い差別されるというようなことがあり、またここにあります同和対策対象地域住民について、本籍のいかんによって採否を判断するというようなおそれがありましたので、そのような点から昨年、すなわち四十八年の高校生の採用以来、これを全国的に統一応募書類として事業主に守っていただくように徹底指導をしているわけでございます。
  75. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これは特に同和地域において、指定地域の住民の方々をいろいろな謄本をとったり身分上のことで差別していくという事例が多く出てきたので、そういう特別な措置をおとりになって、差別しないようにということが根本じゃないのですか。それと銀行とかそういうふうなところの採用にあたっては、家庭内容とか親族関係とか、非常に上流であるとか非常に内容の整っているところからの人を採用していくというふうな差別がいろいろあったわけですね。そういう事柄からこういうことになったんじゃないんですか。  それから、これは高等学校の新卒者、中学等の新卒者に対しておもにお取り扱いをやっていらっしゃるわけですけれども、その他の者についての考え方、あるいはこういうものをお出しになる以前からの考え方、そういうものについてお答え願いたいと思うのです。
  76. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 先生御指摘のとおりのような背景趣旨に基づきましてやっているというふうに申し上げてよろしいかと思います。  それから、高校新卒者以外の中間採用者等につきましても、この趣旨徹底するために、いわゆる市販されております書類、こういった採用の際に書きます書類を市販しているわけですが、通産省とも協議をいたしまして、これを統一的なものにいたすように、指導徹底をはかろうとしておるわけでございます。  それから、それ以前の問題につきましては、もちろん昨年こういうことで徹底をはかったわけでございますが、それ以前におきましても、先ほど申し上げたような職業安定法施行規則三条の規定の趣旨を、私ども、職業安定所を通じまして事業主に普及徹底するように努力はしておったつもりでございますが、昨年からそれの一そうの徹底をはかったということでございます。
  77. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そういうことでいろいろ配慮され、通達をいろいろ出されて指導はしていらっしゃるんですけれども、どうでしょうか、具体的にそういう差別問題がこういう事柄から少なくなった、あるいは企業の採用の内容がどの程度改善されていったか、そういうことの実態についてお調べになっていらっしゃるかどうか。
  78. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いまのお尋ねの実施状況につきまして、たとえば数字的にどのような結果をもたらしているかというような的確な調査というものの結果を持ち合わせているわけではございませんが特にそういった問題の多く発生しがちなところにおきましては、私どもも、県、職業安定所を通じまして、事業主の研修、講習その他におきましても徹底をはかっておりますし、また今後も、特に一線の担当者は承知しておっても、本社機構の労務担当とかそういうラインの上のほうで十分に承知していないというようなこともあり得ますので本年度以降そちらのほうも十分に講習、研修等によって事業主の蒙を開き、趣旨徹底してまいりたい、こういうふうに考えております。
  79. 沖本泰幸

    ○沖本委員 労働省に対して具体的なそういう問題に対する苦情の申し出があとを断たない。こういう目にあった、ああいう目にあったという具体例ですね、そういう問題が、同和地域なり何なりの方々からの苦情なり事件なりというものがあとを断っていない。そういう傾向から、企業のこういう雇用に関しては、労働省のほうのそういう指摘にもかかわらず、いろいろな差別的な採用問題が起きている、こうお考えになりますか、どうですか。
  80. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 私ども個別の事例は必ずしもあとを断っているというふうには申し上げかねるかと思いますが、そういった事態、そういう苦情が出ました場合には、もちろんその個別的なケースにつきまして十分に実情を調査し、必要があればその是正方の指導はもちろんいたしますし、その後そういうことがたびたび同じ事業主によって行なわれるというような事情がありますれば、職業安定所における求人に対しまする求職の一定期間の手控えとかいうようなことも通じまして、強く指導徹底をはかっていきたい、こういうことであります。
  81. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いままでくどくどお聞きしたのは、結局、採用にあたっては、いまおっしゃったように、適性、能力があるかないかという点についての内容を検討するだけであって、そのほかの、戸籍謄本なりあるいは家族の職業なりあるいは財産なりそういうものについて一々調べては、これは差別になるということを徹底してこられたわけですね。ところが、この事件が起きてすぐ問題が起こっているわけなんです。  ここにありますけれども、七一年一月の日立労務担当者研修会でマル秘でいろいろな問題をやっているわけです。一月二十六日、青山で、日立は、労務担当者の研修会を開いて、この席上に関係者二十数名が集まって、そしてその中で検討された内容があります。一月二十六日、十三時から十四時ですね、ここで採用についてのいろいろな話し合いが行なわれて、結局、「面接時のポイント」というところで、家族状況については細心の注意で当たり、明らかにする、最低限共産党、民青等思想偏向者、宗教者、精神、肉体異常者は不採用、それから、国籍の問題についても積極的に採用しない、これは上長に確認する、こういう内容の検討が行なわれているのですが、これは全く労働省のほうの側のおっしゃっていることと全然別のことが行なわれたという事実が出てきているわけです。これはただ、日立がここで明らかになったわけですけれども、これは中で秘密に会合が行なわれて隠されておったわけですけれども、たまたまコピーをされて外へ出てきたということになるのですが、これはほとんどの企業がこういうことを行なっているということがうかがい知れるわけなんですね。こういうことが一般考えられ、行なわれておるという事実について、労働省のほうはどういうふうにお考えですか。
  82. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いま先生具体的に御指摘の点につきましては、私ども必ずしも事実関係ないし内容等について、十分に承知はいたしておりません。ただそういったことが一般に行なわれがちなのではないかという点につきましては、私どもも確かに日本の雇用慣行あるいは労働者に対する事業主のものの見方というものが、先進国と申し上げていいかどうかわかりませんが、西欧諸国のような労働者の労働能力、適性というものを唯一の評価とするということによって、労使関係を形成しているということに必ずしもなっていないという一般的な事情はあろうかと思います。それがたとえば採用面においても、いま先生御指摘のようなことが間々行なわれるということにもなろうかと思いますが、私ども指導の態度といたしましてはあくまでもそういった労働者の適性、能力というものを中心として、労働者の採否を決定すべきであるということの指導徹底してまいりたい。そのためにそれ以外の要因、たとえば特に心身障害というような方についても、御指摘がありましたが、そういう方についてはむしろ企業に積極的に雇用をし、適性を発見して、そしてできるだけそういった方々の雇用を促進していただくように、私ども強力に指導しておるところでございましてそういったことが事業主の間において早く徹底をしてほしいものだというふうに考えます。
  83. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほどお話があったのは、人手不足で採用通知を出しても一〇〇%来ないのでというような話が出ているわけです。人手不足で人を集めなければならないのに、なぜこういうふうな関所をつくって、人を選ばなければならないかということになるわけです。それはいまおっしゃっているような、適性、能力とかなんとかいうことと全然関係ないわけなんですね。一方では大きな企業は会社の中を緑化していったり、植木を植えたり、プールをつくったり、それはりっぱな体育館をつくったり、働く人のためのいろいろな福利厚生施設を十分整えて、私の会社はこういうふうにすばらしいのだということを宣伝されながら、一面では雇用関係をやっておるのに、その反面こういう一流の企業が裏で事実——名前をあかせと言うならあかしますよ。だれだれが出て、どういうことをやったという、いま内容一つだけをとらえてみても、戸籍謄本をとれ、家族の中を詳細に調べろ、あるいは特定の人間はいかぬのだ、こういうふうなことの内容を労務担当者が検討をしているということが、表のこの問題とうらはらの問題じゃありませんか。確かにそういうことをするために会議を開いて、そういう検討をし徹底しているわけなんですから。一面では三年前にさかのぼりますけれども、日本人という日本名を書かなければ採用されないという非常な条件のもとで、採用試験を受けて通った者に戸籍謄本を出せ、出せられません、戸籍がないのだということから韓国人だという点が出たところで採用が不採用になってしまっている、こういうふうな問題は表の問題と裏の、いま申し上げた問題とは、全然百八十度内容が違うわけなんです。そういうふうな労働に関する重要な問題が、こんな差別をされていいかどうかということなんですね。ただ最高裁でいろいろな判決があったから、そういうことによって採用者側のほうにも権限があるのだ、こういう問題ではないと思うのです。その前の問題なんです。  一番問題は、結局何ら肉体的な条件あるいは言語の障害なりあるいは能力に差はなくて十分そういうものを備えておるのに、ただ出身地が同和地域であるとかあるいは国籍が違っておるということだけで条件をつけて差別をしていくということは、人間的な軽べつじゃありませんか。べっ視ですよ。軽べつなんですよ。同じ人間を全然違う人間に見ていくという、これは差別問題の根本的な問題ということになるわけなんですね。そういうものを一流の企業が堂々と陰でやっておるということは、これは人間性を疑われるということになるのです。  そういう内容考えていくと、欠陥品を売って困ってもいい、公害をたれ流して住民がどんなに困ってもいい、何であっても売ればいいんだ、便乗して値上げすればいいのだということと相通じていく考え方になっていくわけなんです。そういう点についてのいまのお考えは、私ちょっと納得いきかねるのですがね。もっと厳重な、こういうふうな差別に対する労働省側の対策というものをはっきりしてもらいたい。そのためにわざわざいまの問題を提起したわけです。その点についていかがですか。
  84. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 先ほども申し上げましたとおり、日本の企業といいますか風潮といいますか、そういうものに必ずしもいま先生が御指摘のようなことがないというふうに申し上げているわけではございませんで、むしろ十分にあり得ることである。したがって私どもはそういった統一応募書類というようなことで、そういう不必要なものが企業にとっての求人者の採否の基準にならないようにということを一方で指導しておりますとともに、その事業主のそういった蒙を開くために、私どもはもちろんそういった業者との接触においては県段階あるいは一線の安定所段階におきましても、そういった指導、啓蒙、普及ということをやっておるわけでございますが、さらに中央段階でも今後一そう研修、講習等をやっていきたい。一方、窓口においてそういったような事実の発生がありまして、事実調査に基づいてそういった事実が発見されました際には、もちろん個別の指導をするとともに、その後の求人につきましても十分な指導をしてまいりたい、こういうことでやっておりまして、先生の御指摘もありましたので、今後一そうそういったことについての対策について徹底をはかっていきたいというふうに考えます。
  85. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いまおっしゃっておられますことは徹底をはかっていきたいということであり、企業の担当者を呼ぶなり何なりして、いま申し上げたような内容でさらに徹底をはかるということなんですけれども、そのために、企業の姿勢が完全に改まっていくまでの間は、この種の事件が幾らでも起きてくるわけなんです。現実起きておるわけなんです。いま会合をやったというのは七一年なんです。現在までの間、この問題をここで取り上げるまで、取り上げた問題が労働省のほうで検討されて、どういう形になるかわかりませんけれども、それが徹底されていくまでの間同じことが行なわれているわけなんです。ただ表に出ているか出ていないかということだけです。そういうふうなこと自体は、そこにかかってくる人権という問題がどれくらい重いかということを、やはり人の問題を扱う労働省ですから、十分考えていただかなければならないことだと思うのですね。最近の風潮というのは、結局、おかあさんが生まれた子供をすぐ火のついたドラムかんの中にほうり込んでみたり、駅のロッカーの中に捨て子をやってみたり、とにかく考えられないようなことが起きているわけです。生まれてオギャアといったら、当然その子自身に一つの人権が生じているわけなんですね。そういう問題が全然考えられていないというところに、人権問題の大きな社会的問題がいま起きてきていると考えられるわけです。  そこで、なぜ日本名を使わなければならないかということはお互いに重々承知しているつもりなんですけれども、ここで一、二の例を取り上げて申し上げてみます。  これは法務大臣にもお考えいただきたいわけなんですけれども、変なことを申し上げるとまた今度出入国管理法にひっかかってきてほかの方向に取り上げられそうな傾向もあるわけなんですけれども、「外国人登録証明書においては氏名欄に「通名」が依然存在し、一たん記載した「通名」の抹消を当局が拒否する事実が完全になくなったわけではない、戦後は日本名を名乗らないと生きていけないという状況がより強まったといえる。このような同化と排斥を一貫してなし続けた日本社会の中で、同化された在日朝鮮人にあっては「日本名」という感覚ではなく「自然な名前」「自分の名前」として意識され、又民族的自覚にめざめた在日朝鮮人にとっても、又そうするより生きてられないという極限状況の中で生きる為に用いられる名前であって、いずれにしても「偽名」の使用などという意識とはおよそかけ離れたものである。「偽名」などという否定的価値判断を日本人がする資格はない。」こういうことを述べている。全くこれはこのとおりだということが言えるわけです。「自分に誇りをもてる人間になるべく、たえまない、血のにじむ努力が続けられたのであるが、いかにせん自分達の子供を教育する機関は、日本の学校しかなくなってしまったのであった。その日本の学校のなかでは、圧倒的多くの日本人教師は、朝鮮人を日本人と同じに教えること、が差別でない行為と「確信」し、朝鮮人の名前を「日本名」にしむけることになんの疑いももっていない、という状態が、今日まで続いている。原告の高校の担任の教師も、またその例外ではなかった。他の日本人とてまったく同じことである。一方には、民族差別による生活苦があり、他方には、同化を強要する日本社会の厚い壁がある。戦後、新しい「同化」の過程が顕在化してくる、きわめて深刻な事態にたちいたったのであった。」「このような歴史と現実の過程で、日本の学校で教育をうけた朝鮮人青少年が、いいかえるなら、相対的に日本人化した青少年が、自分が日本人ではなく、朝鮮人であることを、いや応なしに痛恨の思いをもって、知らされるのが、進学差別の体験であり、就職差別の体験なのである。」「「これは想像に余ることで当然絶望するわけです。……日本の社会が日本人らしく装って日本人らしくすることがいいことだと教えたのですから。子供達はそのように努力してきたんです。子供達は、今度社会に出ようとするとつっぱねられる。だから実際に死んだ子がたくさんいるんですよ。優秀な子が自信をなくしたり意志の薄弱な子は遊び歩く、それで、反逆的な気持が募るから、暴力を振うようになるんですよ」」「在日朝鮮人の場合には、大企業に就職している者が皆無であるといえることは、全ての証人が共通して証言するところである。例えば、住民二〇万人の約三分の一が在日朝鮮人である大阪市桃谷では、いわゆる企業のサラリーマンとなっている在日朝鮮人はおらず、零細な家内工業の下で働いているのに比して、同地の日本人の場合は全くその逆である。その他の地域の場合においても同様であり、中小企業にも至らない従業員四、五人程度の零細企業・個人経営者の下に働いている在日朝鮮人が殆んどである。」こういうことなんです。結局、長々言えませんけれども、戸籍謄本を出すということになると困るということで、会社を幾つ受けても、どの会社も謄本を要求されるということをおっしゃっているわけなんです。ということは、どの会社もいま言ったようなことの内容があるということになるわけです。それで、戸籍謄本の始まりというのは、いま御指摘があったとおりいわゆる部落民の差別の問題からいろいろ問題をかもし出してきたということで、身分的な差別をしてはならない、同和対策特別措置法もできた関係から、特に労働省のほうが力を入れ出したということになり、結局謄本をとるという根本的な問題あるいは家庭なり家族関係を調べていくというようなことは、そういうふうなものの内容を調べようとし、調べて事実があればそこから採用しないというところにつながっているというところに問題があるわけなんです。そういうものを企業はずっと変えていないということなんですね。これはもう重大な問題だといえるわけです。この点について労働省のほうはどういうふうにお考えになり、どう改めようとなさいますか。
  86. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 先ほど来申し上げておりますが、先生御指摘のようなたとえば戸籍謄本を必ずとるというようなことが、まあいわば戦前におきましては平民とか士族とかというようなことをまだ書かせて、何ら実益のないものについてそういうものを必ず書かせたものだというようなこともありまして、現在本籍がどうであるかということは、先ほどから私ども申し上げておりますように、現在の労働者を雇用する際の一つの基準としてはすでに本来空になって実益のないものであるというふうに考えられてしかるべきことであるわけですけれども、ですから必ずその戸籍謄本を提出を求めるという事業主の中には、そのような戸籍謄本を慣例的に、ただ何をどういうふうに利用しようということではなしにやっているものもあるかと思います。しかし一方それを意識的にそういった身分とかあるいは家族状況とかというようなものを認識するためのものとして利用し、それを採否の決定の判断の基準にするということが当然あるわけでありますので、それを払拭するために、私どもは戸籍謄本を提出するということにつきましてはこれを絶対にしないようにということで、採用の際の応募書類には本籍は都道府県まで書かせますけれども、それ以上は書かせないというようなことにいたしておりますし、それから現住所もまたそういうようなことがきっかけになるということもあり得ますので、現住所を書きたくないという場合には連絡先を書けばいいというようなことで統一を徹底をはかっておるところでございまして、しかしそれにもかかわらず事業主の中にはやはりそういったことを要求するというものがありますので、先ほど来申し上げておりますように国の段階あるいは県の段階あるいは安定所の段階におきまして、事業主に対して積極的にそういったことのないように趣旨の周知徹底をはかっていくということでやっておりまして、それがそう急速に一、二年の間に皆無になるというようなことがなかなか、こういった惰性でもって従来何十年か行なわれているようなことがすぐ改まるというふうにも楽観できませんが、しかし着々とその成果をあげてきているということは申し上げられるかと思いますので、今後引き続きこの趣旨徹底をはかってまいりたいというふうに考えておるわけでございます。
  87. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いわゆる日本名を名のるという点が偽名である、うそをついたから信用できないというようなことが争点になっていっておるわけなんですけれども、いま短いくだりで申し上げたとおり、日本名を使うということは偽っているのじゃないという点なんですね。そういうふうにしむけた日本の社会であり、戦後——戦前もそういう日本名を使い、国籍もそういう形であり、戦争が終わったら韓国にも籍がないというような事態に追い込まれているわけで、やむを得ず日本名を使わなければならないといういまの社会情勢の中で、これは偽名であるということは言い得ないわけです。使わなければ生きていけないからやむを得ず日本名を使っているということなんですね。日本名を使うという点について偽名であるという判断をさすようなことであってはならないと思うのですが、これは一番重要なくだりになってきますのでその辺のところを明らかにしていただきたいのです。
  88. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いま先生のおっしゃったことと多少例が違うのかもしれませんけれども、よく芸能人とかそういう者が本名ではなしにタレント名として使うような事例もあるわけでありますが、通称何々ということが必ずしも偽名であるということがいえないことは先生のおっしゃるとおりだと思います。そういった先生のおっしゃるような社会的なあるいは歴史的な背景、環境というものもそういう方々についてはあり得ることかと思います。したがいまして、もうすでに出生したときから日本名を名乗っているという事実が一般的にあり、近隣それから友人関係におきましてもすべてそれで通用しているものを応募の際に使ったということをもって偽名であるというふうにきめつけるのは、確かに一般常識からいいましてもいかがかというふうに存じます。
  89. 沖本泰幸

    ○沖本委員 だから、見解は述べていただいたんですが、その同じ見解で各企業がおってくれればいいわけなんですけれども、あなたの御見解と企業の見解と違うわけなんです。そこで問題が起きているわけなんですね。ですから、そういうふうなあなたと同じような見解を企業に持ってもらうために労働省はどういうふうにしていくべきかということになるんですが、その点いかがですか。
  90. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 具体的な事例が出てまいりますれば私どもとしてはその個別ケースについて的確な指導をしてまいることはもちろんでございますが、一般的な指導といたしまして、そういった事例が頻発しているかどうかという認識の問題もございますが、またそういった事例が先生おっしゃるような形であちこちに見られるかどうかというようなことの認識も私ども十分にいたした上で、必要な措置をとる必要があれば措置をとりたいというふうに考えますが、まあそれは結局事業主に対していろいろ指導をするわけでございますが、その中の一環としてそういったことも加えて指導してまいりたいというふうに存じます。
  91. 沖本泰幸

    ○沖本委員 指導も、ゆるやかな指導もあれば徹底した指導もあるし、厳重な指導もあるわけなんですが、その辺はどうなんですか。
  92. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 それは個別、具体的なケースにつきましてそれぞれ事情が異なるかと思いますので、厳重なというふうにおっしゃっていただきますと、そういった個別的、具体的な事情の中で目に余るものがあればという際の指導としてはもちろん厳重にやっていきたいと思いますが、使用者に対してそういったことのないようにというような啓蒙、趣旨徹底をはかっていくということを一般的な指導としては考えるわけでございます。
  93. 沖本泰幸

    ○沖本委員 まだわかっていらっしゃらないようなんですね、さっきから説明したことを。日本で暮らす以上は日本名を使わざるを得ないというのですよ。偽名でも何でもないというのです。そういう条件のもとでその人たちを受け入れてあげられる労働条件というものが整えられていかなければならないのですね。そこに至った事情というのは本人たちの責任ではないわけなんです。本人の責任であればそれは本人に責任をとってもらわなければなりませんけれども、日本の戦争が終わってからの、以前からのそういう歴史的な経過をたどってそういうところへ至らしめてしまったということなんですから、これは明らかに日本の国であり、日本の社会環境の中でつくり出したそういう条件ができているわけです。ですからそういうものをはずして、日本人と同じ名前を使わなければやむを得ない生活環境なんですから、同じ日本名を使っていることを偽名であるとか、あるいはそれが違ったことがわかったからそれはいかぬだとかいう考え方をはずしてしまわなければどうにもならないということになるわけです。その辺を徹底していただかないとわからないわけです。ただこういうことをしてはいけませんよというような子供をなでるようなやり方をやったのでは、こういう問題は解決できないと思うのです。  そこで、そのことはゆっくり相談していただいておいて法務省のほうへ、ずっと申し上げただけで人権局長はよくおわかりだと思うのですが、これは重要な人権にかかわる問題なんですね。そして依然としてそういうふうな差別問題が根強く残っておるということになるわけですから、それでいまの戸籍謄本問題なり何なりというものにからんで、法務省としてはどういう形でこの人権侵害問題を扱っていくか、その辺をお答えいただきたいと思います。
  94. 萩原直三

    ○萩原政府委員 お答えいたします。  先ほど来種々お話を伺っておりまして、差別事象があとを絶たないという現実に対して、われわれ人権擁護の仕事を受け持っておる者といたしまして心を痛めているのでございまするし、われわれといたしましても些少なりとも差別事象を解消するように努力していきたいと思っておりまするし、日夜その仕事に従事している次第でございます。したがいまして、先ほど取り上げられましたケースにつきましても、われわれとしましては情報収集をいたしましてその成り行きを見守ってきたのでございますけれども、御承知のように訴訟になりまして、判決も間近いという新聞報道もある状態でございますので、われわれとしてはそのようなケースについては調査を差し控えるべきであるということで情報収集の程度にとどめているわけでございます。したがいまして、そのケース自体についてあるいはそれに関連することについて、私どもの意見をこの席で申し上げることは差し控えるべきだと存じます。ただ一般論として申し上げますと、やはりわれわれとしては差別事象をあらゆる面で解消するようにつとめていかなければならないと存じておることは、何度申し上げても尽きるところはないと存じます。  ただ一般論といたしまして、私企業が雇い入れをする場合にあたってどのような人間を、どのような人物をどのような条件で雇い入れるかということ自体については、裁量の余地を企業自体が持っているのではなかろうかと考えております。しかしながら部落出身者であるがゆえに就職を差別する、ただそれだけの理由で差別するということは、先ほど来御指摘のようにきわめて不当なことでございまして、憲法の精神にももとりまするし、同和対策事業特別措置法の精神にも反するところでございまして、そのような事案がございました場合には、われわれとしてはその事実関係をできるだけわれわれの立場から明らかにいたしまして、関係者に対してそのようなことは人権擁護上看過できないのだ、そういうことがあってはならないのだということを啓蒙し、啓発していきたいと思っております。また在日朝鮮人の問題につきましても、不合理な差別の取り扱いがございます場合には同様な態度をもって臨んでいきたいと思っております。
  95. 沖本泰幸

    ○沖本委員 歯切れの悪いお答えなんですが、一つの例をとりますと、たとえば大阪の八尾の西郷のある中学の先生が、生徒の就職がきまった、初めて大企業に入ることができた、寮生活ができるということで喜んだわけですけれども、出身地がわかって、とたんに、採用は取り消さないけれども寮で住むことを禁ずる、自宅から通勤しなさいという連絡を受けて、中学の先生が非常にあわてたという現実を私知っております。初めてという表現なんです。初めて大企業に雇われた、非常な喜びだったということなんです。これが部落の実態なんです。まだそんなんですよ。あげろといったら幾らでもあげます。そういう問題は山ほど持っています。だから、ただ観念的な問題だけでこの問題をとらえてもらったら困るわけです。何のために同和対策特別措置法が誕生したかという時点に立っていただいて、その問題について全力をあげて取り組んでいただかなければ片づかない問題なんです。なぜかというと、人間の、心の中にある差別心なんです、差別なんです。一般論で聞けば、何にもない、こうおっしゃるのです。心の中に持ってないという。さてあらたまったら必ず答えが出てくるのです。ですから、就職に関しても同じ問題がいえるわけなんです。事韓国、朝鮮の問題に関しては、戦争が終わって独立したんだから片づいたということで、お互いは終わっているわけなんです。しかし、そのために取り残されている数多くの在日している方々の問題は解決していないわけです。そして、それまでの間にいろいろなことがあったことはまだ心から取り払われていないわけです。そして問題がいろいろと出てきているわけです。  この事件を契機にして、韓国では盛んな不買運動が起きております。韓国の東亜日報あるいは韓国日報、いろいろな中に日立の不買運動が起きているわけです。それで、その不買運動はついにアメリカ、ヨーロッパにまで問題が移っているわけです。「特にアメリカ連合長老会(信徒三百万名)代表は、人種差別と闘争する委員会の決議を支持する声明文を出し、日立製品不買運動をアメリカでも積極的にやっていくということを明らかにした。」こういう記事の内容があるわけです。「日立製作所の在日同胞、朴鐘碩氏に対する就職差別を糾弾する運動が、キリスト教団体によってアメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカ等世界的な規模で」取り上げられて始められておるというふうにまで発展しております。  そういうことで、問題は、またこれ以外に、日本の韓国に対する経済進出というものに対して、経済戦争、侵略だというとらえ方もし、そういう上から反日感情が非常に高まってきておる。あるいは韓国の地下鉄のいろいろな不正の問題に対して日立が介在しておるという内容から、日立に対する疑惑の目を向けてきておる。あまつさえこの朴さんの問題が問題化されてきて、そして非常な反日感情を高めていっておる。さらに、韓国に進出している日本の企業、たとえば馬山の中小企業団地あたりでは、婦女に対する暴行問題まで起きてきて、これは非常な問題として取り上げられてきておる。いろいろな問題が出てきて、そしてますます日本人に対する悪感情、日本に対する悪感情というようなものまでいまつくられつつあるということになるわけです。  それからILOでもいわゆる多国籍企業の差別的な労働管理問題に対して問題が提起されてきておりますし、さらに多国籍企業のあり方というものは、田中総理が東南アジアを回ったときにたいへんな反対運動が盛り上がったのは、言うなれば企業の差別であるということで、日本人だけ優遇し、そしてその企業の中身まで、全部その国の経済までを握ってしまうようなあり方に対してたいへんな批判が生まれてきているということなんですよ。いま申し上げていることは、この問題と、先ほど言った日立の秘密会議を開いてそしてきちっと協議をやったということと相通ずるわけです。そして先ほど申し上げたとおり、どの方に聞いてみても、試験を受けたら、試験のあとで必ず戸籍謄本の要求をされる。幾つ幾つも試験を受けて、しまいに失望感にとらわれてしまう。どこでも要求されるということは、どの企業でもこの問題を同じ角度で扱っているということが言えるわけなんです。そうすると、労働省のいまのお答えのとおりではなくて、全然裏のほうが敢然として行なわれているということになるわけです。この守る会の人たちが日立に向かって抗議行動をやったときに、いかに労働省がそういうことを言っても、ただ高卒者なりあるいは新しい卒業者に対しての採用は、労働省からの通知があるから履歴書をとらないけれども、そのほかは当然要るんですということでもあり、また朴君の関係の方がとった労務担当者のテープの中にも、われわれは外国人は雇わないのだということをはっきり言っている問題が指摘されているわけです。しかし、ソウルで発言した日立の担当者は、われわれは外国人は差別しておりませんということも言っておる。表面はそういうことを言っているわけです。裏では同じ事態があるわけです。そういうことがおっしゃるとおり労働省の指導でだんだんなくなっていっておるのであれば、こういう問題はないし、雇われる人がだんだんふえていっているということになるのですね。そういうことになるわけです。そのためにやむを得ず生活が追い詰められて、そして低い低い労働条件の悪いところで働かなければならない事態に追い込まれているわけです。その追い込まれた状態を見て、また今度はあの連中はというものの見方をしていっているそこに大きな差別が起因する問題が生まれてきているわけです。そのことをほんとうに深刻にとらえていただかなければ、問題は解決しません。そういうことなんですよ。それで、これは重大な問題であるということが言えるわけです。だんだんそういうことによる日本人優位説が出てくると、またたいへんな問題が各国で起きてくる、日本の企業の進出したところでいろいろな問題が起きるわけですから、そういうものを軸にして徹底した考えを持っていただき徹底していただかなければならないわけなんです。この面では法務省のほうも十分一役を買った徹底した内容のものを出していただかなければならない、こう考えるわけですけれども、労働省のほうはもう一度真剣になってこの問題を考えていただいた点ではどういう対策をお立てになっていきますか。
  96. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 お答えいたします。  従来ともに私どもは十分そういう問題については配慮して進めてまいったつもりでおりますが、先生の御指摘の点もございまして、今後の施策につきまして一そうの徹底をはかるための施策について検討してまいりたいと思っております。
  97. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ずっと成り行きを、大臣、こうお聞きになっていただいたわけですけれども、将来に対して重大な問題であるということがいえるわけです。ですから担当大臣として、並びにやはり閣僚の一人として、この問題についていかにあるべきかという御意見、御所見なり、それとどう対処していくべきかという点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  98. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 日立の問題は訴訟になっておりますそうで、近く判決がありそうな傾向のようでございますから、具体的な事例としては触れがたいのでありますが、一般的にわれわれ人権擁護を担当しておる者からいえば、いやしくも日本人である以上はすべて平等であるべきで、それに差別をつけたり、いろいろそういう人事の上で格差をつけることは絶対に許しがたいことで、あってはならないことだと思っております。ただ外国人の場合は、日本人と外国人の習慣あるいは能力等も違う点がありますから、これは別であるかもしれませんけれども、少なくとも韓国人関係、台湾人関係というのは、もとは日本人であったわけですから、これについては私はやはり特別の配慮をすべきであるということを常に考えております。ただ、いま戸籍謄本の問題ですが、日本人はもう全部平等で、戸籍には何も書きませんから一向差しつかえありませんが、韓国人や台湾人の場合にはどうしてもその段階にくれば明らかになるわけでございますから、本来からいえばやはり就職するほうが、通称何のだれがし、本名これこれ、初めからこう書いてやったほうが私は間違いの起こらないことになると思いますけれども、とにかく考え方としては、人権擁護の上からいえば、いやしくも人類である以上は、日本人であろうが外国人であろうがすべて平等に取り扱うというのがたてまえであって、ぜひそういう方向に、日本もここまで来た以上は、もっと大らかな気持ちですべて処置していくのが妥当であろう、かように考えております。
  99. 沖本泰幸

    ○沖本委員 お答えはわかるわけなんですけれども、もっと人権に対する、先ほど申し上げたとおり生まれたばかりのお子さんを生きたままドラムカンの中にはうり込んでみたり、そういうふうな人権無視的な風潮が高いわけですね。そういう点はやはり人権問題専門の法務省でございますから人権尊重の立場に立った啓蒙なりなんなり、もっと徹底した行政を行なっていただかなければならない、こういうふうに考えるわけですよ。したがいまして、相当申し上げたのですけれども、いわゆる戸籍をとったり、一応労働省がこれこれはもうやらないほうがいいということを出しておるのに、なおかつそういうことを裏でやるということは、これは全然違った方向にあるわけですから、この点はやはり労働省のほうとしては考えを変えていただいて、取り締まる罰則なりなんなりというものはないにしても、相当きびしいものを出していただいて、そしてやらなければ、この問題は解決しないと思います。ただこの場で議論をしただけに終わったのでは問題解決にならないわけですから、これを契機に、その事件の推移を見てということでなくて、ただ日立がこういう会合を三年前の事件直後に開いたという時点があったとしても、ただあなたのほうは事実関係をはっきり確認してないから認められないということをおっしゃりたいのでしょうけれども、あったと仮定して、そして先ほど言ったとおり、いわゆる謄本をすべてのところで請求されて、その段階でみなあきらめているというのです。そのつど、日本で生まれた韓国籍の人たちは打撃を食うわけなんですね。それはずっと続いていっているわけなんですから、そこのところを考えていただいて、裁判とは切り離して、これが完全になくなっていく方向で事を運んでいただきたいということなんです。  これは非常に失礼ないい方かもわかりません、私は失礼に思って申し上げているわけではないのですけれども委員長にもお願いしたいわけなんですが、こういうことを議論する場合に、御担当のお方ですとこまかい点については非常に詳細に説明していただいたり答えていただいたりしていただけるのですけれども、さて今後どうするのだという大きな問題になってくると答えがだんだんぼけてくるわけなんですね。その辺の大事なところになってくると、やはり大臣がいらっしゃるとか担当の局長がいらっしゃると、将来にわたるしっかりした答えも伺っていける、こういうことになるわけですから、少なくともその担当常任委員会でない省からも、問題点があるときには真剣に出てきていただいて、問題解決のためにいろいろ議論していただくという方向で御配慮いただきたいわけです。そういう点につきまして委員長のほうで十分な今後のお計らいをお願いして質問を終わりたいと思います。
  100. 小平久雄

    小平委員長 今後できるだけ御要望に沿うように努力いたします。  次に、村山富市君。
  101. 村山富市

    村山(富)委員 いま沖本委員から詳細にわたって質問がございましたので、あまり重複する点は避けまして若干お尋ねしたいと思うのです。  まず労働省のほうにお尋ねしたいのですが、先ほども御説明がございましたけれども、四十八年三月三十一日に出した通達、この通達を出した積極的な背景をいま一度御説明いただきたいと思うのです。
  102. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 お答えいたします。  昨年三月三十一日に新規学校卒業者の採用にあたっての統一応募書類を制定したわけでございます。これは高等学校卒業者を対象としておりますが、これは求人者の行なう選考は本人の有する適性、能力を十分に引き出しまして、これを有効に発揮させることが主眼であるという観点から、適性、能力とは直接関係のない事項を採用の際の採否の判断基準としないように指導しようという趣旨に出るものでございます。したがいまして、統一応募書類に示された内容は、そういう観点から申しますと、必要のない事項については記載を要求しないようにという観点で整備してあるわけでございます。
  103. 村山富市

    村山(富)委員 通達の中身じゃなくて、通達を出すに至った積極的な理由は何なのかということですね。何か具体的に背景があって、そうしてこの通達が出たのだというように思われますから、その背景について具体的に聞きたいのです。
  104. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 実は四十八年のこの通達にその趣旨がはっきりと書かれてあるわけでございますが、本人の適性、能力を引き出して積極的にこれを有効に発揮させるということが本来労働者の採否の判断基準の主眼であるべきわけでありますけれども、それ以外の事柄を書かせ、そうしてそれによって採否を決定するというようなことがあり得る。たとえば片親または両親を欠く、あるいは心身に障害がある、あるいは定時制、通信制の学校を出て全日制の学校ではないというようなことに対する差別取り扱い、また、特に同和対策対象地区に居住する住民に対しての不合理な差別取り扱いというようなものが従来間々あったことにかんがみまして、これらを是正するために、こういった統一応募書類を制定いたしまして、そのような弊を防止しようという趣旨に出るものでございます。
  105. 村山富市

    村山(富)委員 過去にそういう事例がたくさんあった。特に一つの例を申し上げますと、昭和三十三年の八月ごろ、京都の月桂冠という酒造会社で、中学卒業者の採用問題で具体的に、同和の人在日朝鮮人は雇わない、こういうことが明言されて相当問題になって、そして京都知事が中に入って、そういうことであれば今後一切あっせんをしない、こういうことにまで発展をしておる事件もあるわけですね。こうした過去の部落解放等々熾烈な戦いを通じて、言うならばこの通達が出されておるというふうに私は理解をするわけですね。  それで、この通達を見ますと、これは「新規高等学校卒業者の採用・選考のための応募書類について」こういうふうに書いてあるわけですけれども、新規高等学校卒業者だけに限定をしたその理由は何ですか。
  106. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 新規高等学校卒業者が、いわば新規求人といたしましては非常に大きな数になります。それから、新規にこれから職場に出ようという者でございますので、こういった問題が間々出てまいるわけでございますけれども、しかし、私ども、直接的にはこの統一応募書類はとりあえずは高校卒者に対するものとして出しておりますけれども、この趣旨はやはり中途採用というような求人、求職一般に適用されてしかるべきであるという観点から、通産省とも協議をいたしまして、現在市販の応募書類につきまして、これに統一するように指導をしてまいっているわけでございます。
  107. 村山富市

    村山(富)委員 そうしますと、これは新規高等学校の卒業者だけに限定するものではなくして、中途採用等も含めて、一般的に採用選考の場合に適用されるものであるという意味で、今後そうしたことに対して、各省とも連絡をとりながら通達を出す考えはありますか。
  108. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 ただいま申し上げましたとおり、直接的には新規高校卒者に対する統一応募書類ということで従来通達をしておりますが、内簡的なものではありますけれども、そのほかのものにつきましても同様の指導をするように通達はいたして、実行をしておるわけでございます。
  109. 村山富市

    村山(富)委員 この文書の中を見ますと、若干表現の違いがあるわけですね。たとえば、具体的な中身で、三番目に「統一応募書類の使用についての指導徹底」、そして(1)、(2)、(3)と書いてあるわけですね。この中を見ますと、たとえば「求人者に徹底すること。」とかあるいは「推薦は行なわないよう指導すること。」とありますね。そして特に四番目の「統一応募書類以外の応募書類の使用の禁止」という条項では、「これを強力に指導すること。」というふうに書いてあるわけですね。「強力に指導する」ということと、そうでなくてただ「指導する」ということと、具体的にどう違うんですか。
  110. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いまの(1)、(2)、(3)は、趣旨徹底とかそれから指導とかいうふうにございまして、いまの3、4の大きな4では「強力に指導する」ということになっておりますが、(1)、(2)というのはいわば旨の徹底というような趣旨でございますし、それから(3)も、各高等学校に対しての指導というような趣旨でございまして、4のほうは求人者に対する指導でございます。そこでそのニュアンスを書き分けたということでございます。
  111. 村山富市

    村山(富)委員 この種の通達が、これは都道府県知事あてに出しているわけですね。そうすると、具体的にその求人者並びに応募者等に対して末端ではどういうふうに実施されますか。
  112. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 この直接の通達のあて名は各都道府県知事あてになっておりますが、これは県の職業安定行政関係の主管課の、職業安定課が一般ですけれども、職業安定課を通じまして、各担当の職業安定所に全部通達をするというのが形式上のことでございますけれども、これに基づきまして、現実に県段階あるいは公共職業安定所段階で、求人者に対する連絡会あるいは指導機会その他あらゆる機会を通じまして、事業主に対しては趣旨の普及徹底をはかっている。それから、応募者といいますか、これは求職者の側ですが、これは学校を通じましてそれぞれ新規の学卒者に対しては徹底するというかっこうになろうかと思います。
  113. 村山富市

    村山(富)委員 これはさっきからるる言われておりますように、差別問題等がきっかけだし、同時に、これはもう人権に関する問題ですから、言うならば憲法に定める基本的人権に関する問題ですから、この通達がどう実際に実行されていくかということについては、たいへん大きな影響もあるし、問題もあるわけです。そういう意味で、単なる通達の出しっ放し、それで何か事件が起こったらその事件に対して具体的に指導するというだけではなくて、積極的に、たとえば会社からそういう書類の提出を求めるとかあるいは調査に行くとかというようなことをやった具体的な例がありますか。
  114. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いまもお答え申し上げましたとおり、事業主に対しては、たとえば中央の本省段階では本社機構に対して、それから県あるいは安定所の段階ではそれぞれの具体的な求人をいたします事業主、ないしその事業主のそういった求人業務をやります担当者を集めまして、それでその指導徹底をはかっているわけでございます。  それで、具体的にこれが違反の事実というようなことが発見されますれば、もちろん個別の指導をし是正方を求めるわけでございますが、一般的にその事業主が募集いたします際の書類をどういうものをやっているか届けさせるというような具体的な法令的な根拠はないわけでございます。  ただ、高校卒の募集に関しましては、この統一応募書類ということで、その他の書類は徹底して使わないようにその辺の指導は強力に進めておりますので、昨年一年、またことしやりました実績を考えましても、そういった違反は急速に減じているというふうに私どもは認識しております。
  115. 村山富市

    村山(富)委員 先ほど指摘をされまして問題になりました日立の戸塚工場の例は、これはほんの表に出た一例であって、おそらくその表に出ないこの種の案件はたくさんあるのではないかということは、一般的な情勢としてこれはもう想定できるわけですし、皆さん方もその点は否定はできないと思うのです。私どもは、指摘をせいといえば具体的な例も幾らか知っておりますけれども、あるわけです。したがって、通達は出したけれどもその通達が実際には実行されておらない、したがって、これはもう罰則も何もないからやむを得ないということでおるのか、さっきから何べんか御質問がありましたけれども、そうではなくて、やはりもっと強力に実行できるような措置を今後検討する必要があると思っているのか、そこらの点を聞かしてもらいたい。
  116. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 先生のおことばでございますけれども、私どもは通達の出しっぱなしということは毛頭考えておりませんで、この通達は特に強力に趣旨徹底をはかっていきたい。あらゆる機会を通じて、また、あらゆる機会をつくりまして、その趣旨徹底をはかっていく。さらに具体的にはこれは高校卒者の応募ということが中心でございますので、これはそれぞれの高等学校とも十分連絡をとって、その面からも求人者の指導というものを徹底しているつもりでございます。
  117. 村山富市

    村山(富)委員 この日立戸塚工場で起こった問題は、言うならば新規採用ではなくて中途採用ですね。そうしますと、中途採用だからこの通達には関係がないんだというふうに解釈をされる節もある。ですから私は先ほど、単に高等学校の新規卒業者だけでなくて、一般的に求職、採用、選考といった場合にこれは当然適用されるべき問題じゃないかというふうに言ったのですけれども、そういう点の指導徹底、あるいは実行されない場合にはどうするかというようなことについての考えはありますか。
  118. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いま具体的に御指摘のありました日立の問題は、実はその事柄自体は、時点として四十五年の事柄でございます。私どもの統一応募書類を基準として徹底をはかろうという通達を出しましたのが、先ほどお話しのように四十八年の三月のことでございます。したがって、それ以前について直接的にこの通達ということはもちろんなかったわけでございますけれども、今後同様の事案が出てまいった場合にどうするかということになりますと、これはもともと私どもがそういった通達の根拠としておりますのも、たとえば職業安定法の施行規則の第三条に、職業安定法の三条を受けまして、安定所は、自分自身がそういうことをしないことはもちろんでございますけれども事業主の指導につきましても、労働者の当該労働についての適性、能力というものをいわば中心の基準として労働者の採否をきめなければならないということが基本にあるわけでございまして、その趣旨を具体的に応募書類という中で統一的にしようというのがいまの通達でございますし、それからその通達は、先ほどもお話し申し上げましたように、通産省等とも御相談をいたしまして、市販の中途採用の求人、求職関係書類にも徹底、統一をはかっていきたいということでやっておりますので、先生御指摘の点はまさにそのとおりに考えます。
  119. 村山富市

    村山(富)委員 この通達は四十八年に出されましたね。そして、戸塚工場で起こった問題はその前ですね。通達が出る前です。しかしこの通達の中を見ますと、「定められた様式を全国的に統一した応募書類として使用するようその普及を図ってきたところであるが」というわけですから、したがって、この通達以前に労働省はそういう指導をしておるわけでしょう。どうなんですか。
  120. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いまちょっと具体的な内容については、十分書類がありますかどうかわかりませんが、それ以前におきましても、高等学校の学校の連絡協議会というようなところで一つの統一応募書類的なものをつくってやっておった。それに対して、私ども適当な指導をいたしておったということで、やはりここの通達で引いておりますのは、高校卒者に対する募集に関しての書類のことだというふうに考えます。
  121. 村山富市

    村山(富)委員 人権擁護局のほうにお尋ねいたしますが、一年間に、就職差別に関する訴えや苦情等がどれぐらい出ていますか。
  122. 萩原直三

    ○萩原政府委員 「同和関係人権侵犯事件、人権相談等受理件数表」というものを私のほうでは毎年まとめておるのでございますけれども、そのうちの昭和四十八年四月から四十九年三月までの数字、これが一番新しいものでございますが、それによりますと、いまの期間に侵犯事件として受理いたしましたものが四十一件、その他、予備調査情報収集、相談事件等を全部合わせますと、三百六件になっております。そして、その事件内容でございますけれども、ただいま問題になっております就職差別の問題は十六件ということになっております。
  123. 村山富市

    村山(富)委員 三百六件の中で十六件が就職差別ですか。
  124. 萩原直三

    ○萩原政府委員 そのとおりでございます。
  125. 村山富市

    村山(富)委員 これは人権擁護局のほうに訴えが出た案件ですね。ですから、その訴えの出ない案件は、具体的にはまだ幾らあるかわからないわけですね。これは単に同和関係差別だけでなくて、それ以外に、思想、信条とか、いろいろな意味における差別の行なわれている事例はたくさんあるわけです。ですから、労働省がずっと以前から指導し、四十八年にさらに通達を出し、やってきているけれども、なおかつあとを絶たずにやっぱりある。ですから、通達の効力というものがどこまであるのかということについて、やっぱり私どもは疑念を持つわけです。そこで、単なる通達だけではなくて、もっと強力に、守られるような措置を講ずる必要があるのではないか、こう思うのですけれども、どうですか。
  126. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 この問題につきましては、私どもやはり従来の長い間の沿革的なといいますか、社会的な意識といったものが、事業主においても必ずしも十分に是正されていないという点が根本にあると思います。したがいまして、私どもは統一応募書類を徹底させるということは、要は同和対策対象地域住民であるということのゆえをもって採否において差別を受けないようにということの趣旨が基本でございますので、その点の趣旨徹底をはかるためには、何よりもまずその雇う側の事業主ないし労務担当者というものに対しての十分な啓蒙、いうことの徹底をはかっていかなければ、ただいたずらに——と申しますと語弊があるかもしれませんが、罰則の強制ということだけでは、氷山の一角をためることはできても、その底にある氷山の大部分のものというものをほんとうに是正するということができないかと考えます。ただ、従来一線で実際に人事の採用の担当をいたしております方々には、そういうことで研修会その他非常に集中的に蒙を開くいろいろな指導をしてまいっておりますけれども、その方々は、えてして本社のほうの指令を発する側のトップの連中あるいはトップの側で労務を担当している人たちというもののほうがわりに認識が十分でない、そういうもののほんとうの問題意識を持っていないというような話がございまして、私ども今年度の事業といたしまして、中央段階の本社機構と申しますか、そういうほうの蒙もあわせて開いて、そして一線の方々だけでなしに、企業全体を通じまして、上も下もそのような認識に基づいて、このような方々の差別取り扱いの意識をなくしていこうということが先決だと考えて、そのような措置を進めてまいる所存でございます。
  127. 村山富市

    村山(富)委員 そこで、先ほど指摘がありましたが、日立製作所の会社の四十六年一月二十六日に行なわれた労務担当者研修報告書というのがありますね。これはおたくのほうにありますか。ないですか。(岩崎説明員「ちょっと手元にあれしてございません。」と呼ぶ)それじゃこれは両方にお見せしましょうか。これは明らかにいままでるる答弁があった答弁内容にきわめて明確に違反をする文書ですね。内容ですね。その報告書の信憑性についておたくのほうは疑念を持つかもしれませんけれども、しかしこれは裁判所に証拠書類として提出された書類ですね。その事実関係はともかくとして、こういう書類が出ているというこの書類についてどういう見解を持ちますか。これはひとつ労働省と擁護局に聞きたいのですがね。
  128. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 いま先生のほうから、すでにその具体的な事実かどうかの認識というのは外にして、そういうものが一般的に研修というような形でもって指示されているとすればどうかというお話でございますので、そういう想定のもとにお答えをいたしたいと思いますが、私ども、やや形式的かもしれませんが四十八年の通達を出しましたその以後において、その統一書類を出しました趣旨に確かに反する点が何点かあろうかと思います。それ以前の問題はどうかということになりますと、同じような趣旨は私ども従来といえども指導はしてまいっておるわけでございますので、具体的に法令に何がどういうふうに反するか、あるいは法令との関係において問題があるかいなかということはさておきまして、私どもが行政的に指導をしてまいっておる現時点での考え方からいいますと、具体的には個別のことで申し上げなければなりませんが、何点か適当でないというふうに考えられるものがあろうかと思います。
  129. 萩原直三

    ○萩原政府委員 この通達の問題につきましては、実は先ほど来の労働省側の御答弁によって初めて承知いたしましたような状態でございまして、その事情については十分まだよくわかっておりませんので、その間の事情をよく調べました上でないとはっきりした見解を述べがたいような状態でございます。ですから、ここで人権擁護局がどう考えるかということは申し上げにくいのでございますけれども、われわれといたしましては労働省でとっておられます措置はそれなりに相当の理由がおありになってのことだろうと存じます。ただ一般論といたしまして、企業者側が人を採用する場合にその人物が従業員としての適格あるいは職務に対する適性、能力があるかどうかということを妥当な方法調査するということは許されるのではなかろうかと思います。したがいまして、その限度においての戸籍の記載を求めるということをとらえて直ちに違法だということはできにくいのではなかろうかと思います。ただ、先ほど拝見いたしました書類の意味がよくわかりませんので、それのことについてはなおよく調査した上でわれわれの見解を述べたいと存じます。
  130. 村山富市

    村山(富)委員 これは単に労働省が出しておる通達にかかわるかかかわらぬかという問題ではなくて、これはもう明確に憲法の十九条の思想信条の自由あるいは十四条の法のもとにおける平等、それから世界人権宣言の中における第二条、第七条、第十九条、もう中身は申し上げませんけれども、これに抵触する問題ですよ。そうでしょう。それを通達の中身がどうかとかということだけの関連でなくて、現に面接時のポイントというところで本人の前歴、家族状況についての細心の注意最低限として思想偏向者あるいは国籍等があるわけでしょう。これはもう通達がどうのこうのという問題ではなくて、もっとさかのぼって基本的人権に関する問題ですよ。これに対して擁護局は、この書類が事実かどうか、現実にあったかどうかという問題についての信憑性はともかくとして、かりにあったとした場合に、この種の中身に対する見解がはっきり申し上げられぬというのはどうもおかしいじゃないですか。どうなんですか。
  131. 萩原直三

    ○萩原政府委員 事案は、繰り返し述べますようにわかりませんので、一般論として私どもの見解を申し述べたいと存じます。  ただいま御指摘のように、憲法十四条一項その他憲法十九条等が基本的人権として法のもとにおける平等、それから思想、信仰の自由をあげていることはまさにそのとおりでございますけれども、これはすでに御承知の三菱樹脂事件における最高裁判決にうたわれておりますように、憲法二十二条及び憲法二十九条の規定に基づいて財産権の行使の自由、営業の自由というものもまた同様に基本的人権として認められているのでございます。その観点から企業者側が自分の企業の中にこれから取り入れようとする者の人物につきまして、それが従業員として適性を持つかどうか、適格者であるかどうか、あるいは職務の遂行に対して適性を持つかどうかということを調査することはできるのではなかろうかと思います。もちろんその方法は必要最少限度にとどめるべきでありますし、その方法がきわめて不当であるというふうな場合はこれは十分慎むべきであろうと思います。  そこで、先ほど労働省側のお答えによりますと戸籍謄本もたとえば本籍については県までの記載にとどめるとかあるいは適性、能力を調査する範囲だけの記載にとどめるというふうなことは、ただいま私が申し上げた考え方からいって十分是認できるところではなかろうか、かように考えております。
  132. 村山富市

    村山(富)委員 きわめて不満です。人権擁護局でしょう、積極的に人権を擁護していこうという立場ですね。憲法第二十二条の営業の自由あるいは第二十九条の財産権の行使と基本的人権である思想、信条の自由とか、法のもとにおける平等、こういうものとかね合わせてあいまいな見解を述べるというようなことについてはどうなんですかもっと積極的に基本的人権を守っていくという立場に立てば、私はそんな解釈はできないと思うのだけれども、どうですか、その点は。
  133. 萩原直三

    ○萩原政府委員 お答えいたします。  われわれはもちろん、憲法十四条に定めております法のもとの平等という精神、その他思想、信条の自由を守るということはきわめて大切なことであろうと思います。その意味でそれが侵されないように個々の具体的な事案についてつとめていきたいということは申し上げるまでもないところだと存じます。ただ、いま申し上げたようなことは、就職という一つの場面におきまして、他方で先ほど申し上げましたような基本的人権の主張ということもございますので、そのことを全く無視して考えるということは事案の妥当な解決とはなり得ない場合があり得るのではなかろうか、かように考えております。
  134. 村山富市

    村山(富)委員 先ほどから労働省も人権擁護局も、採用する場合に採用する側が、その人物が従業員として適格性を持っておるかどうか、あるいは適性、能力があるかどうか、こういった点を調査することについてはもう当然だと言われている。しかし思想、信条の自由とか、国籍が違うとか、あるいは部落であるとかいうようなことは、適格性があるのかどうか、あるいは適性、能力があるのかどうかといった問題とかかわりがあると思いますか。
  135. 萩原直三

    ○萩原政府委員 いま一番問題になっておりますのは、いわゆる同和地区出身者の就職差別の問題だろうと存じます。その点についてお答えいたしたいと思います。  これは先ほど沖本先生にお答えいたしましたように、部落出身者であるがゆえに就職で差別することはとうてい認められないことだと思います。それは私から申し上げるまでもありませんように部落出身者であるということは、いかなる意味においても企業内における従業員としての適格あるいは職務の適性に影響を及ぼさないだろうと思います。おっしゃるとおりです。したがいまして、部落出身者であるがゆえに差別するということは憲法の精神から認められないところだと思います。  なお、つけ加えさせていただきますけれども、この問題の一番の根本は、企業主が心の底からこのような事象に対して差別意識を持たないように啓発していくことではなかろうかと思うのでございます。ですから差別事象が起こった場合には、その事象をとらえまして、あるいはまた一般的な啓発活動を通じまして、企業主が部落出身者であるがゆえに差別するという意識を全く取り除くようにつとめるのが一番大事なことではなかろうかと思います。そのためには即効的な方法はないのではなかろうかと思います。あらゆる機会をとらえてその意識の改善につとめるように啓発活動を行なうのが、結局は一番妥当な方法ではなかろうかと私どもとしては考えております。
  136. 村山富市

    村山(富)委員 私は、もっと基本的に大事なことは、その衝に当たっておる人権擁護局なりあるいは雇用関係指導をする労働省なり、そういう人にほんとうに心の中からそういうものがあるかないかということだと思うのですよ。そういう意味でお尋ねしたんですがね。かりにこれが事実だとすれば、ここに最低限、思想的偏向者とか、あるいは国籍等について書いてあるわけです。これに対して人権擁護局はどういう見解を持ちますかと聞いたら、憲法第二十二条、二十九条を引っぱり出して、両方の立場を主張してあいまいな返答になった。こういう見解では、私はほんとうの意味における差別の撤廃というのはできぬと思うのですよ。ですから、その点はもっと明確にあなた方の見解というものをここで述べてもらいたいと思うのです。これは誤解を受けますよ。どうですか。
  137. 萩原直三

    ○萩原政府委員 いまの書いたものをちょっと拝見させてください。いま大急ぎで見ましたので、この文意を十分に理解しかねるのですけれども、ちょっと拝見いたしましたところ、格別、思想、信条に関する関係等についてどうしようとまでは書いていないのではなかろうかと思うのですが、いかがでしょうか。  それから一般論として申し上げたいのですけれども、私企業のほうの立場から見まして雇用や就職の問題は、雇い入れの段階におきましては企業側と雇われる側との間の自由な意思の合致によるべきものであることは、私から申し上げるまでもないことだと思います。この場合には一般的に行なわれております雇用慣行が十分に尊重されてしかるべきものではなかろうか、かように考えております。
  138. 村山富市

    村山(富)委員 書類を十分理解されておらないとすれば、なかなか見解も述べにくいと思いますけれども、これは「採用に関する労務管理上の留意点」という見出しで、その中身に書いてあるわけですね。そして、これはもう積極的に採用しないということばまであるわけです。そうしますとこれは明らかに差別であるし、人権に関する重大な問題だというふうに私は思うわけです。ですから、先ほども申し上げましたように、採用する側にべっ視したり差別したりするような観念がある。その観念を取り除くように啓蒙をすることが大事だ、こういうように言われましたけれども、啓蒙する側に差別があったのでは何にもならぬわけですから、その点はもっとはっきりしてもらいたいと思うのです。大臣、この点はどうですか。
  139. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 全くそのとおりでございます。
  140. 村山富市

    村山(富)委員 大臣が眠たそうにしているものですから、ちょっと目ざましにいまお聞きしたのですが。  そこでもう一つお尋ねします。  今度の日立問題は、直接的にはやはり戸籍謄本を求めたということから端を発しているわけですね。それで、これは韓国人ですから日本の役所に戸籍がないというので、戸籍謄本を出せないということから端を発して、そして本人が日本人の名前を、偽名を使ったとかなんとかいう事件に発展をして問題になっているわけでしょう。ですからきっかけはやはり戸籍謄本の提出を求められたというところにあるわけです。  戸籍法を見ますと、第十条に、これは何人でも手数料を納めれば戸籍謄本の閲覧や交付を受けることができる、こうあるわけですね。ただし、プライバシーに関係するような場合には市町村長が断わることができる、こういうただし書きがあります。こういう事案が次から次に起こってくるものですから、おそらく法務省も第三者の場合の取り扱いについての通達を出されたと思うのです。こういう戸籍謄本等の扱い現実に市町村あたりではどういうふうに扱われていると思っていますか。これはどこが答えるのですか。
  141. 小平久雄

    小平委員長 民事局は御要求がないので呼んでないのです。
  142. 村山富市

    村山(富)委員 それなら、なんですが。  私は、やはりこれはプライバシーに関する問題でありますし、あるいは場合によっては人権に関する問題にまで発展する可能性があると思うのですね。ですから、こういう戸籍謄本等の扱いについてはもう少し規制をして、みだりに第三者には閲覧ができないとかあるいは交付ができないとかいうふうなものにする必要があるのではないか、こういうように思うのですが、これはひとつ大臣どうですか。
  143. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 現在、第三者にはできるだけ見せないようにしておりますが、制度上はこれは謄本請求があれば出さなくちゃならぬということになっておりますので、民事局としてはこの点をどういうふうに改正するか、目下考慮中のようでございます。先般も私ども類似の問題が出まして民事局長とも相談いたしましたが、何か、できれば改正をしたいという意向を持っております。
  144. 村山富市

    村山(富)委員 私は、やはりこれは戸籍謄本というものに対する一般的な観念が軽く扱われているという節があるのではないか。むしろ戸籍謄本なんというものは、言うならばその人の経歴やらすべてが登載されているという問題です。ですからプライバシーや人権というものを考えた場合にもっと積極的に扱いについての規制というものを厳格にする必要があるのではないかと思うのです。いま大臣からも検討して改正する意思があるというようなことが表明されましたから、ぜひひとつそういうふうに取り計らってもらいたいと思うのです。  それからもう一つは、先ほどの話に返るわけですが、労働省も通達を出して積極的に強力にその指導はしておる。しかし先ほど来出ておりまするようにこの種の事案というものは絶えない。そして、単に表面にあらわれただけの問題ではなくて、裏のほうでは現実にはもうどこの企業でもそういう調査をしながら差別をやっている事例というものがある。そこで、単なる通達だけではなくて、憲法で保障されている基本的人権に関する問題についてはいま法律があるのは、労使関係でいえば、職安法あるいは労働基準法。それだけではやはり実際には実行ができぬのではないかと思いますから、そういう基本的人権に関するような問題については何らかの特別立法でも考えて検討して、そしてやる必要があるのではないかというふうにも私は考えるわけですけれども、その点はどうですか。
  145. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 立法問題となりますと、先ほどもお答え申し上げましたように、やはり基本にその事業主の側の一これは社会一般の認識がそもそもそうなのかもしれませんが、採用する側での認識の不十分さというものが何といいましても基本にあると思いますので、私どもはこれは法律をもって一朝一夕にすべてが改まるというようなものではない。したがって、やや長期の考え方になるのかもしれませんが、やはり事業主の啓発、啓蒙というものが基本であるということで、その方面の努力というものは十分にし、また行政指導もしてまいりたいというふうに考えているわけであります。  それで、立法問題となりますと、やはりいろいろな法律論が出てまいると思いますし、これは私ども行政指導としてここまでということは申し上げられましても、法律上どうなのかというような問題になりますとまたおのずからそこにボーダーライン・ケースというようなものが出てまいりましてなかなか結論を出しにくいというような問題もあると思います。したがいまして、立法問題につきましてはやはり慎重に考えなければならないというふうに存じております。
  146. 村山富市

    村山(富)委員 もう時間もありませんから最終的に結論を申し上げますが、立法措置をするということについてはいまお話もございましたように雇用側のほうの立場もありますし、技術的にもむずかしい点があると思うのです。しかし、単なる通達だけでは、何回も申し上げますけれども、なかなか実行されない。しかも差別が撤廃されないということがあるわけですから、したがって単なる通達の出しっぱなしでなくて、もっと積極的に書類の提出を求めるとか、あるいは調査にいくとか何とかして、こういう案件がなくなるように取り組むというぐらいの姿勢は私は持ってもらいたいと思うのです。その点はどうですか。
  147. 岩崎隆造

    ○岩崎説明員 先ほども申し上げましたように通達の出しっぱなしというふうにおっしゃられて、もちろんあれでございますけれども、私どもも通達に基づきまして行政担当機関のそれぞれのランクにおきまして事業主に対する指導をしてまいっているということでございます。それから実際にそういった事例が出ますれば、もちろん先ほども申し上げましたように事実調査を十分にし、適当でないものがあればこれは厳重に是正方を求めていく。再三そういうものが繰り返されるというようなことでありますれば、これはやはり職業安定所といたしましても、たとえばでございますが、それらの事業主からの求人は今後一切お断わりというような、行政手段と申しますか、事実的な行政手段でございますが、そういうようなことも講ずるという所存であることはもちろんでございます。
  148. 村山富市

    村山(富)委員 労働省も人権擁護局も積極的に人権が守られて、差別現実的になくなるように今後の努力を期待して、私の質問を終わります。
  149. 小平久雄

    小平委員長 次回は、来たる二十二日水曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開催することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時九分散会