○正森委員 私は、そういう
考えであれば、ますます賛成することはできません。なぜなら、合意できめるといっても、
自分一人できめるわけじゃないんで、相手方との合意で、この人に
調停委員になってもらいたいということできめ、しかもそれを
調停主任が、この
事件については妥当であるということで賛成するという二重の、いわば恣意的なものでないようにする歯どめがかけられておるのですね。ですから、それをわざわざ排除するということは、
調停委員を一般的に
公務員にするということとあわせ
考えると、
最高裁判所は統制することができるように、現在の国民の中から
調停委員を選ぶという性質を非常に希薄にして、官僚化するというように言われてもしかたがない一面を持っているんじゃないかというようにわれわれは思います。
そこで、そういう
一つの例証として、少しかたい話になりましたので、多少やわらかいことを言いますと、「家事
調停条項例集」というのが
昭和四十五年九月に、司法研修所の民事弁護教官室によって作成されております。これを見ると、非常に血もあり涙もあるという家事
調停が行なわれておる。御参考のために読みますと、たとえば夫婦の和合の家事
調停では、「相手方は下記各項を厳守すること。(イ) 職場に真面目に出勤し、辛抱強く働くこと。(ロ) 意思の弱い点や、気分の変りやすい点を
自分の
努力でなおしてどんな境遇におかれても決して間違いをおこさないよう精神を鍛練すること。(ハ) 忍耐心を養つて、すぐに腹を立てたりしないようにすること。(ニ)小遣銭の使い途を明らかにし、無駄使いをしないこと。(ホ) ときどき
自分はこれでよいのかと反省する。」これは全部私なんかにも当てはまることでありますが、こういう
調停条項をつくっておるのです。あるいは夫婦協力扶助の
調停条項を見ますと、「1、相手方は申立人に対し、下記事項を誓約する。(イ) 飲酒は週2回とする。(ロ) 何事も嘘をいわない。(ハ) 家庭内のことは全部
相談する。(ニ) 外で酒を飲んで帰らない。(ホ) 月の初めに1カ月の計画を立てて楽しい家庭を築く。2、申立人は相手方に対し、下記事項を誓約する。(イ) 家庭の主婦として細心かつ愛情ある心遣いをする。(ロ) 愛情を以て子供を養育する。」こういうような内容になっているんですね。これは、
法律要件がどうのこうのというような
ことばかり
考えている人ではできない
調停条項で、おそらく、家事
調停ですから女性も入られ、そしてまた
法律家以外の男性も入れてなされたものだと思うんです。これは実に、人間としての情のこもった
調停条項ですね。
さらにお聞き願いたいと思って幾つかおもしろいのを申しますと、こういうのがあるのです。「申立人と相手方は、円満なる夫婦生活を継続できるよう双方共
努力し、相手方は申立人に対し、暴力を振うことを慎しみ申立人はできるだけ相手方にさからわず、従順でやさしくつくすこと。)こういうようになっておる。あるいはその次を見ると、「当事者らは過去の
事件に関し、一切口外しないように心掛け、今後は互いに協力して紛争を起こさないように
努力し、万一なんらかの問題が起つた場合にも従来のように申立人は家を飛び出すことなく、本件当事者ら及び必要によっては第三者を交えて良く
相談のうえ行動を決する。」実に愉快な
調停条項でありますが、そのほかにもこういうのがある。「当事者双方は相互にその親族や家族の事に関し、その職場等に投書する等の中傷するような行為は一切しないこと。」おそらくどちらかマニアみたいのがおって、職場に投書をしたんだろうと思うのですが、そういうことをいうておる。その次の
調停条項を見ますと、「申立人及び相手方は長女〇美子外5人の子女に愛情をもつて接すること。相手方は子供に対し小遣銭も気持よく出してやること。」こういうのがある。小づかい銭も、大臣、気持ちよく出さぬと、離婚の原因になるようでありますが、こういうようなことは
法律家ではあまり気がつかないのですね。
さらにこういうことまで約束しておるのがある。「相手方は婦人との交渉において妻である申立人の疑惑を受ける事のないよう注意する。将来相手方の行動につき、申立人が疑惑を持つた場合申立人がその交際人物につき調査することに対し、相手方は異存がない。」つまり、愛人ができた場合には調べられてもやむを得ませんということを、あらかじめ無条件降伏するようなかっこうになっておるんですね。
こういうことを長々と言いますのは、こういう
調停ができるというのは、非
法律家の人、国民の中から出た
調停委員が参加されてやったからこそ、こういうことになるんだ。こういういいのは、少なくとも家事
調停などについては、十分に残す必要があるのではないかというのが私の
意見であります。その意味では、第七条の二項の二号とかあるいは三項というようなものは、十分に活用される必要がある。
あと、おもしろいのがもう二つほどありますから読みますと、たとえば「相手方は今後飲酒を慎み、一度に二合以上は飲まないこと。又単独で家庭外では飲酒しないこと。」こういうことを約束しておるのがあるわけですね。それからあるいは、「相手方は毎日清酒一合に限り、家庭において飲むことが出来ること。それ以上は如何なる酒類も絶対に飲まぬこと。」こういうぐあいになっているわけで、
委員長などはさぞお苦しいんではないかと思うわけですが、別の
調停ではこんなのがあります。「相手方は今後パチンコなどの娯楽に耽けることのないよう自粛して修養に努め、自己の生業に専念すること。」「相手方は爾今、賭博を絶対にせず、釣遊び、野球遊びを程々にして、かつ、申立人の子女を可愛がり、円満な家庭生活をする様
努力すること。」まあ読めば切りがないんですけれ
ども、それから愉快なのはこれがありますね。これは、だいぶ人格を侵害されている点もあるんですが、「相手方は今後における俸給日、ボーナス支給日には相手方勤務先である徳島〇〇株式会社購売部において申立人と落ち合い、〇〇同道の上帰宅すること。」つまり、女房立ち会いでないと給料やボーナスはもらわないということを約束をしておるわけですね。そのうち、国会にもこういうのが来るかもわからぬわけですが、私は何もこれがいいと言うておるんじゃないですけれ
ども、ここまで
調停条項をつくって、とにもかくにも双方が合意しておるということは、結局、会社へ女房がのこのこ出て来て給料を受け取ることを認めにゃしようがない、それで円満にいこうということになったんだろう、こう思われるんです。
私は、こういう愉快な、そして人情の機微に合致したような
調停案というものが、今度
最高裁が任命でばっといく、そしてしかもいまの
法律案にある「当事者が合意で定める者」とか、あるいは必要な者というようなものを削ってしまうというようなことの
考え方をどんどん進めた場合には、こういう非常に愉快で人情の機微に触れたような
調停ができなくなるんじゃないか。
しかも、家庭局長に伺いたいんですが、家庭
事件については履行の確保ということも非常に大事なんですね。この場合に、賭博をしないこととかパチンコをしないこととか清酒は二合以内で妻と同伴でなきゃ飲んだらいかぬとか、また別のところにはみだりに会社をサボらないこととか、いろいろあるんですが、そういうのを
ほんとうに確保しようと思えば、これは一番いいのは、職場の上司や同僚がお互いに
調停委員になるというようなことで
調停ができたような場合には、これは現実に見ておるわけですから、非常に履行の確保もできるわけです。私は、わざわざこういうようなものを除いてしまうというようなことは必要がないのではないかと思いますし、こういう点は、それは使い方によれば危険な点もありますが、
調停主任がきちんとやれば、これは非常に和気あいあいとした、そうして当事者の微に入り細にわたった、そういうところにまで触れた人間味のある
調停ができるんじゃないかというように思うんですが、家庭局長はどう思われますか。