○
高木(文)
政府委員 ただいま、かなり具体的な御提案をいただいたわけでございます。御提案を翻訳いたしますれば、
配当を受け取り
段階で調整している制度をやめなさい。受け取り
配当の益金不算入も
所得税の
配当控除の制度もやめてはどうか。むしろ支払い
配当の
段階での調整を
考えて、ある程度までの分は損金に算入することにしてはどうかという御提案が
一つありましたが、それは
一つの
考え方であろうかと思います。
法人税にはいろいろな問題が混在をいたしておりますが、一番基本の問題といたしましては、
配当を受け取り
段階で調整をいたしますか、支払い
配当で調整いたしますかということが一番の基本になる問題だと思います。しばしばこの
擬制説との関連で、
法人は
株主の集団であるからということがあるがゆえに、受け取り
配当の益金不算入なり
配当控除なりという制度が置かれておるという説がなされておりますけれども、必ずしもそういうことではなくて、
擬制説たると
実在説たるとを問わず、何らかの
意味において
配当の調整は必要なわけでございますが、その
意味でただいまの御提案は、そのことをお認めになることを前提にして、ただし受け取り
段階での調整をやめて、支払い
段階での調整に移してはどうかという御提案でございますから、それは
一つの
考え方であろうと思うのでございます。
最近、実は産業界の中におきましても同様な
考え方がございまして、現行の
税法はあまりにも複雑であるということもあり、それから支払い
配当負担の問題もいろいろありまして、そっちの
方向に向かって現行
法人税制を整備していってはどうかという
議論もかなり広範に行なわれているわけでございます。
私どもは、それに対して、理論的におかしいとか、基本的に反対であるとか、そういう気持ちを持っておるわけではないのでございますけれども、
税制の専門の
立場でものを
考えました場合に一番ひっかかりますのは、ヨーロッパにおきますところの
法人税制が、実はそのような
方向とは逆の
方向で最近動き始めておるのでございます。
OECDにおきましては、傘下各国の
税制をある程度統一をしてまいるということでありませんと、なかなか経済の統一ができないということでございますので、いずれにせよ相当時間をかけての話ではございますが、だんだんと
税制をヨーロッパの中におきまして統一をしていきたいという空気がございます。また、アメリカ資本がヨーロッパをあばれ回って困るということとの関連もいろいろございまして、各国でいろいろ研究が行なわれておりますが、イギリスにおきましては、いまの御提案とは逆に、受け取り
段階での調整をやるという
方向に持っていく、アメリカ方式のほうにだんだん持っていくということで、改正の案が今度敗れました保守党サイドからつい先般出たという状況にございます。ドイツにおきましても昨年の十月に、数年間さんざん
論議を重ねました結論といたしまして、
配当軽課を減らして、むしろ受け取り
段階での調整を強化しようという
方向に試案がいま提案されているところでございます。
配当段階で軽課をいたしますと、外国資本が入ってきた場合に抵抗力がないということで、国際的な資本移動
関係からやはり受け取り
段階での調整のほうがよろしいのであって、支払い
段階で調整をいたしますと、たとえばフランスなりドイツなり、ヨーロッパにある
企業で申しますと、アメリカから入ってきた資本が支払い
段階での課税を免れまして、その
利益を本国のほうへ持っていってしまうというような問題がありまして、ただいま広瀬
委員御指摘の
方向、そしてそれは従来から
日本の中でもよくいわれておりましたし、最近でもわが国産業界でいわれております
方向とは逆の
方向で、実は最近ヨーロッパが動き出しておるというような情勢にございます。
そういった事情をいろいろ踏まえまして、専門家の間であらためて
議論してもらおうかと思っております。わが国の
法人税制が
議論をしておるばかりで何ら結論を出していないじゃないかという歯がゆさをお感じと思いますが、これは
日本だけのことではございませんので、諸外国でもたいへんゆれ動いていることでもございますし、なぜゆれ動いているかというと、単純に
税制の問題だけでなくて、経済体制の問題とからんでいるからでございます。
それから、もう
一つの御提案の多
段階税率の問題でございますが、これは率直に申しまして、私どもといたしましては、あまり気乗りがいたさないというか、反対であるといわざるを得ないわけでございます。その事情は詳しくは申しませんが、何といいましても、一番簡単には、多
段階税率にいたしますと、期間損益のとり方によりまして、ある期に
所得が多く出ますと、そこではよけい税がかかってくる。他の期に
所得が減りますと、そこでは税が減ってくるということで、たとえば三年なら三年内に、二つの
企業で同じく一〇〇の
所得であっても、その期間の中で変動があった場合と平均的であった場合と、
税負担が違ってくるというところの
関係の調整が、多
段階税率にいたしました場合にはどうしてもつかないわけでございます。それで
法人税は、世界的に全部比例
税率になっているわけでございまして、
日本の中小
企業に対する軽減
税率と同じように、よその国でも、小規模のものについて特例的軽減
税率はございますけれども、
法人税全体の仕組みはあくまで比例
税率になっておるというのは、そういう事情によるものでございます。
これはたいへん複雑でございますので、また
機会がございましたならばいろいろ申し上げますけれども、あまり長くなりますからこの程度にとどめておきますが、多
段階税率につきましては、しばしばこの
委員会で回答を申し上げておりますように、私どもといたしましては、基本的には反対と申さざるを得ないと思うのでございます。