○金井
参考人 自治労の金井であります。私は現在労働組合の役員をしておりますけれども、本日はそのような立場よりも、サラリーマンの一人として、源泉
所得税制度による納税者という立場で、税制の不平等性、名目所得
上昇に伴う
税負担の拡大、来年度
税制改正上の
問題点、
政府税制調査会のあり方など、四点にわたって
意見を申し上げたいと思います。
まず第一に、現行税
制度の、とりわけ
所得税法の持つ不平等性について申し上げたいと思います。
私は地方自治体の一職員といたしまして、かつて
昭和三十八年から四十一年まで、地方税の課税事務に携わっていた経験を持っているわけであります。もちろんその間に、私は数多くの住民の
皆さんから、地方税の申告相談を受け付けたことがあるわけでありますが、その中で私は、
一つのことに気がついたわけであります。そのことは、納税申告相談の中で、ある事業主の方とその事業主に雇われている従業員の方の申告相談を連続して受け付けたわけでありますけれども、そのときに、事業主の方の
収入額は従業員の方の
収入額の約数倍あったわけでありますが、事業主は青色申告をしているために、
所得税額はゼロでありました。ところが、そこの従業員の方の
所得税は、源泉
所得税によって約二万円ほど納付されたわけです。
本来、社会通念的に申し上げますと、事業主が自分が雇っている従業員よりも所得が少ない、
収入が少ないということはほとんど
考えられないわけでありますけれども、しかし現実に、この税制上ではこういう問題が発生してくるわけでありまして、私はその辺に大きな疑問を感じたのであります。もちろん、いなか町でのことでありますから、私はこの両者の生活実態の一定の状況について承知をした上での話でございます。
もちろん、このような抽象的な
一つの事例をして、直ちに税制の不平等性について論ずることははなはだ軽率かと
考えますけれども、しかし、このような傾向は、
国民、とりわけサラリーマンの多数に税制に対する疑惑の目を向けさせる事実となっているのではないかというふうに
考えるわけであります。
特に、近年の
所得税納税人口の推移などを見ますと、給与所得者の納税者割合は、
昭和四十四年以来急激に増加をいたしております、たとえば、
昭和四十三年給与所得者数三千百四十八万人、そのうちの納税者数は千八百九十一万人であります。そして納税者割合は六〇・一%であり、それが五年後の
昭和四十八年度には、納税者数が約一千万人増大いたしまして、納税者割合は七九・六%、この数字は推定でありますから、最近のインフレ傾向などを勘案すれば、さらにこれを上回るものと
考えられるわけでありますが、実にこの五年間で一九・五%という比率が増大しているわけでありまして、その結果、サラリーマン十人中八人までが
所得税の納税者となってしまっているわけであります。これに対して、農業所得者、またはそれ以外の事業所得者のそれらの率はきわめて低いものでありまして、これらにつきましても、やはりサラリーマンが疑惑の目を向けるところではないか、このように
考えるところであります。
また、これらのことは、今回の
税制調査会の
答申書の中の
所得税減税の基本的な
考え方の中で、給与所得者の納税者割合がアメリカと並んで、世界先進諸国中の最高のものであることも明記されているわけであります。
次に、
制度上の
問題点について具体的に申し上げてみたいと思います。
まず、私
たちサラリーマンの場合は、申告する権利というものが認められておりません。また、もちろん必要経費も認められておりませんし、さらに滞納する権利も認められていないわけであります。このような
制度は、わが国の税
制度を給与所得者に対して一そう理解しがたくしているばかりか、租
税負担感を喪失させ、そして納付した税がどのように使われているか、そのような関心を希薄にするものではないかというふうに
考えるわけでありまして、さらにこれは、政治に対する無関心に連結していくものではないかというふうに私は
考えるところであります。
次に、サラリーマンの場合は、家計上の必要または業務上の必要から、ときたま時間外勤務を行なうことがあるわけであります。御存じのとおり、時間外勤務あるいは深夜勤務等を行ないました場合は、労働基準法によって割り増し賃金が保障をされているわけであります。しかし、
税法上は、これらに対して何らの保護も加えられていないわけでありまして、かなりきつい疲労あるいは余分な経費等を投入いたしましても、これらに対しての保護は一切加えられない。こういうことでありますから、まさに働けば働くほどばかを見るというような結果につながるのではないか、こういうふうに
考えます。
それから、いま
一つの問題としまして、極端な例を
一つ申し上げたいと思うわけであります。それは通勤手当の問題であります。最近、住宅事情あるいは交通事情などで、サラリーマンの通勤圏域というものがきわめて拡大されていることは御存じのとおりであります。また諸
物価高騰などと相まって、運賃の値上げが非常に目立っているわけであります。そういう
意味では、サラリーマンの通勤費というものは最近きわめて高額なものとなっております。しかし、雇用関係その他から、人手不足などでこれら通勤費に要する費用は、ほとんど全額が雇用主負担というふうになっているのが実態ではなかろうかと
考えるわけであります。ところが、このような通勤費を支給されましても、これは本来非課税所得の範囲に当然算入されるべきであるわけでありますが、
制度的には七千円で打ち切りということになりまして、七千円をこえる
部分については、すべて課税所得となってしまうわけであります。これは税
制度上のきわめて不均衡な問題だと私は
考えるところであります。
それから次に、不平等性を最も端的にあらわした
一つの計算例がございます。昨年五月の週刊現代という週刊誌で、
一つのモデルとして計算されたものであります。一家四人の標準世帯で年収二百五十万円といたしまして、サラリーマン、弁護士、
医師の三者を比較いたしております。それによりますと、サラリーマンの場合は
所得税が十二万四千四百円となります。住民税が九万五千百五十円となりまして、合計その二つの
税負担額は二十一万九千五百五十円となるわけであります。ところが、これに対して弁護士の場合は、
所得税が七万八千二百円、住民税が五万二千八十円、合計十三万二百八十円ということになり、そしてさらに
医師の場合には、
所得税はゼロであります。わずかに住民税が八千二十円ということでありまして、合計
税負担額は八千二十円ということになるわけであります。一体、このような現実を私
たちはどう理解したらよろしいでしょうか。そしてこれらはもちろん税だけではなしに、税以外の税外負担として関連してくることは、いま申し上げるまでもないと私は
考えるのであります。西ドイツあるいはフランスなどにおきましては、必要経費の概算
控除と実額
控除との選択制をとっているようであります。わが国でもこの選択
制度の道などを早期に開くべきだと私は
考えるところであります。
次に、第二の問題でありますが、狂乱状態とまでいわれております悪性インフレは、必然的にサラリーマンの名目所得を押し上げ、そのことによる
税負担が一そう拡大しておりますことについて申し上げます。
インフレ問題については、いまさら私が申し上げるまでもないわけでありますけれども、このような状態の中で、ことしの春闘でも勤労者が大幅な賃上げをせざるを得ない状態に至っております。しかし、そのような状態の中で、
政府は来年度の
税制改正の中で、労働者の賃上げの
見通しを一八%というふうに見ておられます。このようなことを基礎として計算されることが妥当かいなか、これには私も一定の疑問を持つところでありますけれども、たとえば昨年の公務員の場合を申し上げますと、人事院勧告によって一五・三%の賃金改善が行なわれております。そしてさらにこれに定期昇給を加えますと、この一八%を上回ることは事実であります。これは昨年の賃上げでありまして、ことしはそれをはるかに上回ることは当然だというふうに私は
考えているところであります。このようにして、インフレと相まって給与所得者の名目所得は必然的に急
上昇をいたしております。
最近
政府は、毎年
税制改正を行なってまいりました。しかし、その
改正額はきわめて少額でありまして、たとえば
基礎控除や
配偶者控除、
扶養控除など
人的控除は、わずかに一万円ないし二万円の上積みにすぎませんでした。先ほども申し上げましたように、給与所得者の納税人口が著しく拡大した背景に、このようなことがあったのではないかと私は
考えるのであります。
所得の階級別人員について、特に
昭和四十七年度のものについて見たいと思います。
昭和四十七年度の給与所得者の中での納税者人口は、二千三百四万人であります。このうち所得額が百万円から二百万円までの者が一千三十二万人でありまして、率で申し上げますと四四・八%を占めるということになりまして、ここに
一般的なサラリーマンの納税者が集中しているというふうに
考えるわけであります。そしてさらに七十万円から百万円という階層が五百三十四万人でございまして、二三・二%になるわけであります。これら合計で千五百六十万人、六八%が七十万円から二百万円という階層に集中しているわけであります。このような結果は、サラリーマンにとって過去の
減税措置はきわめて不適正なものであったといわざるを得ません。より一そう重税感を増すことになったことはいなめない事実ではないか、このように私は
考えるところであります。
第三に、
昭和四十九年度
税制改正案の
問題点について申し上げたいと思います。
今回の
税制改正案におきまして、
政府は、給与所得者に焦点を合わせサラリーマン
減税を推進すると主張されています。しかし、その内容の幾つかに私は疑問を持つものであります。
その第一は、
減税規模一兆四千八百十億円中八千四百二十億円を振り向けた
給与所得控除の
改正で、上限をなくしいわゆる青天井にしたことは、たいへん問題があると
考えます。
給与所得控除の拡大は、高額所得者がきわめて有利になることは申し上げるまでもありません。先ほども申し上げましたが、サラリーマンの大半は百万円から二百万円の階層に集中しているのであります。もしこのような
政府の案によって計算をいたしますと、二百万円の場合には、
昭和四十八年中の
給与所得控除額は四十九万四千円でありましたが、四十九年には六十五万円となりまして、増加額は十五万六千円ということになるわけであります。これに対して一千万円の
部分について計算をいたしますと、
昭和四十八年には七十六万円でありましたが、四十九年には百六十六万円になりまして、実に九十万円の増加ということになるわけであります。
次に、
税率緩和の問題について申し上げたいと思います。
税率緩和は、最近でも
昭和四十四年から四十五年、四十六年と連続して緩和をされております。たとえば、これらの時点でそれぞれにポイントをつくってみますと、課税標準額四百万円のところで見ますと、
昭和四十一年には課税標準額四百万に対して四五%という数値になっております。ところが、四十四年の
税率緩和で四二%、四十五年には三八%、四十六年には二三%、そして今回は二一%という率になるわけでありまして、実にこの五年間で半分の率になるという結果だろうと私は
考えるわけであります。この
税率緩和に振り向けられました
減税額二千二十億円は、実に年収五百万円以上の高額所得者に集中するであろうと私は
考えるところであります。
次にいわゆる
人的控除の問題について申し上げたいと思います。