○
高木(文)
政府委員 その前に
一つお答えをいたしておかなければならないのでございますが、
教育費の問題を何らかの形で
税制に受けとめるべきであるという
立場に立ちました場合に、今回の
改正案で御審議をお願いしていますような形で、つまり、
扶養控除を充実するという形がよろしいか、それとも
教育費控除というものを新たに設けることがよろしいかということは、両方あり得るわけでございます。どっちでなければならないという決定的なものはないわけでございます。
その場合に、
山中委員のおっしゃいますように、
教育費控除というようなものを設けるほうが
思想がはっきりするではないかという点は、おっしゃるとおりでございます。そういう
意味で、新しい
控除制度でありましても、そういうものを設けたほうがよろしいのではないかという
考え方が
一つございます。
しかし、一方におきましては、現在でも現在の
税制というものが非常に複雑である、もっと簡素にできないか、いまあります控除もでき得べくんばこれをやめる
方向にして、そして
基礎的な控除額をふやすという
方向にしたほうがより簡明になるのではないかという
議論があるわけでございます。
また、
教育費控除に限らず、他にいろいろな
意味での生計費控除の御要請が各方面からいろいろあるわけでございまして、そういうことを総合的に
考えまして、おっしゃるように
思想を
税制の上ではっきりしたほうがよろしいという
考え方もございますけれ
ども、そういう形をとりますと、果てしなく現行の
制度が複雑になるおそれがあるということから、実体的に
教育費用にいろいろ
負担の多い
家計の税
負担が軽減するように考慮しながら、しかし、そうかといって
あまり制度が複雑にならないようにということも一方において
考えましたのが、
配偶者控除、
基礎控除、
扶養控除を同額にし、
扶養控除の上げ幅を大きくしていくということでございまして、それは御批判はあろうかと思いますけれ
ども、そこに
教育控除というような看板を掲げることによって初めてこの
思想がはっきりするということではなくて、そのいろいろの控除額の算定の過程において、それを考慮に入れた計算が行なわれるということも
一つの方法であろうと私
どもは
考えたわけでございます。その点を追加的に説明をさせていただきたいと思います。
次に、ただいま御
質問の重役
減税、部課長
減税、金持ち
減税ということの批判を受けながら、なぜそれをしいてしたかというものの
考え方を聞きたいということでございますが、その点は、まず第一に、
所得税の非常に重要な任務といたしましては、
所得の再
分配機能ということがあるわけでございます。つまり、低
所得層からは税を
あまり多くいただかない、
所得の大きい方からは相当いただくということを通じて、
国民間の
分配の調整という機能が
所得税にございます。これは
税制全体としてそういう
役割りがございますけれ
ども、その中でも
所得税が最も再
分配機能を多く負っているものでございます。
そこで、再
分配機能をどの
程度に働かしたらよろしいかということが、
所得税の組み立ての場合に最も慎重に検討しなければならない点なのでございますが、再
分配機能が強くなれば強くなるほど、ある
意味におきますと、たとえば勤労意欲が失われてくるというような問題がございます。それからまた、もう少し具体的には、いろいろな形での
租税回避行為が行なわれてくるということがございます。いわゆる脱税ということではございませんが、いろいろと
回避行為が行なわれてくるということがございます。
そこで、現在を見ておりますと、たとえばベースアップのときに、給与が一割五分なり二割なり二割五分なり上がるということで労使間の交渉が行なわれますという場合に、それを
所得階層別にどういうふうに分けるかというような交渉が労使間に行なわれるわけでございますけれ
ども、だんだん税の累進カーブがきつくなってまいりますと、その賃金
分配を行ないます場合にも、ものごとがゆがんでくる。つまり、たとえば平均一割上げましても、平均二割上げましても、税引きで
考えますと、その上がりました給与の持つ
意味というものがすっかり変わってくるということがあるものでございますから、一方において正規の賞金での
分配だけではものが片づかないということで、言ってみれば、第二給与的なものが発生してくるという
時代にだんだんなってきておるのでございます。そういう現象から見まして、どうも最近は、まあ部長さん、課長さんあたりを
中心にして、少しくこの
分配機能が強くなり過ぎているのではないかというふうに私
どもは
理解をいたしておるわけでございます。
そこで、それを数字的にいろいろ当たってみましても、たとえば、これは適否は問題でございますけれ
ども、諸外国における
所得税の累進カーブと
日本の累進カーブを描いてみましても、どうもやや最近は急激にカーブが、累進度が高くなってきております。また、過去におきますわが国の
所得税の累進カーブと四十八年度の累進カーブを描いてみましても、著しく高くなってきております。過去において、非常に大きな
改正が行なわれました
昭和三十二年の
税制改正のときと今日とを比べてみますと、現在の収入
金額で四百万円から五百万円の間ぐらいの収入階層から以下の収入階層につきましては、
昭和三十二年から四十八年までの物価上昇率よりも
所得税の軽減率が大きくなっておりますけれ
ども、それをこえますと、物価上昇率よりも
所得税の軽減率が低くなっております。つまり、大体四百五十万ぐらいを境にいたしまして、物価との
関係で考慮しただけで、税
負担が
昭和三十二年よりも実質的に重くなっているというようなことがあります。
そういう
意味で、現在の、四十八年度
税制におきます
所得税の再
分配機能というものは、少しくきつ過ぎる。そのことがいろいろな形で弊害を生じてまいりました。たとえば、しょっちゅう御指摘を受けております利子の分離課税の問題とか、土地の分離課税の問題とか、いろいろな分離課税の問題を本則の総合課税に直すべきであるというような
議論がございますけれ
ども、現在のような累進カーブを前提にいたしますと、
あまり累進カーブがきつ過ぎるために、なかなか分離課税を総合課税に戻すことがむずかしいというような現状にもございます。
そういったことをいろいろ考慮いたしまして、何年かに一ぺんはやはりこの
分配構造、
累進構造を直す必要がある。毎年毎年物価調整
減税ということで課税最低限の調整だけをやっておりますと、それをやればやるほど
分配カーブはきつくなりますから、これを適宜是正する必要があるという
考え方でございます。その
意味において、現象的には部課長
減税というようなことになりましても、それは何年かに一ぺんはそういう思い切った
構造的改善をする必要があるということで、今回の
所得税の手直しの機会に、相対的に累進カーブを、税率だけでなくて、控除と税率と組み合わせました結果の累進カーブの上界率というものをなだらかにするということに、非常に
ウエートを置いて
考えたわけでございます。