○佐々木
参考人 それでは
最初に、最近
日本銀行がとりました
金融政策並びにその日本の
経済状態との関連、それから現状、こういうことについて御説明を申し上げたいと思います。
御承知のように、
日本銀行は昨年の初め以来相次いで
金融引き締めを強化し、総需要の
抑制につとめてまいったのでありますが、その結果昨年の秋ごろには、夏にありました物不足も緩和に向かいまして、鉄鋼、繊維等一部商品の市況も反落を示すなど、
金融引き締めの効果が、
金融面だけでなくて
物価面にも、徐々にではありましたが、あらわれてくるように思われたのであります。
しかしながら、その後
石油問題の発生を
機会に、
経済情勢は大きな
変化が生じました。先行きの物不足や
コスト上昇を見越した価格
引き上げの
動きが広まりましたため、卸売り
物価は、十一月以降、全く異常ともいうべき高騰を示すに至っております。
日本銀行は、昨年の十二月に二%という大幅な
公定歩合の
引き上げを行ないますとともに、
預金準備率の
引き上げを実施いたしましたが、これはこのような
石油の問題が起こりました以後の状態に対処するために、特に
金利機能をできるだけ
活用するとともに、その他の手段も動員することによって、総需要を一段と
抑制していくことが必要と
考えたからであります。
政府におきましても、ほぼ同時に、四十九
年度予算の編成につききびしい緊縮方針を打ち出すなど、
財政面で明確な
抑制の姿勢を示されておりまして、このようにして、
金融、財政相一致した
引き締め態勢が一段と強化されたのであります。
最近の
金融面の
動向を見ますと、昨年の初め以来の
引き締めや十二月の強い追加
措置等に伴いまして、たとえば
都市銀行の
貸し出しは、前年同月比の
伸び率で見ましても、一昨年末の二五%から、現在では一二、三%のところまで落ちてきております。これを背景に、
企業の流動性も急速な低下を示しておりまして、マネーサプライの増勢鈍化も非常に目立っております。また
日本銀行券の発行高も、一ころの前年同月比二六、七%増というところから、この一月には、月末の発行高で二一・七%、月中平均発行高で二三%というふうに
伸び率が落ちてきております。こういうマネーサプライの増勢といい、
銀行券の
伸びといい、
金融市場には
金融面の
引き締めの効果が相当はっきり出てきておるのであります。
また、
石油問題発生後しばらくは、各種商品に対しまして仮需要が目立ちましたけれ
ども、最近では鉄鋼、繊維等の商品市況の反落のほか、機械受注高の減退など、設備投資関連指標の不振や自動車売り上げの不調といったような
動きが見られまして、
引き締め政策を背景に、このところ需要面に次第に
変化が生じつつあるように感ぜられるのであります。
現在はまだ二度にわたります
石油価格の大幅
引き上げの各種商品コストに対する
影響が出つつありまして、それが今後の
物価への
影響が懸念されますけれ
ども、
他方では、今回の
引き締め効果の浸透に伴いまして、すでに部分的ではありますが見られております需給の緩和が、いずれは全般に広がりまして、ひいては
物価面にも好
影響を及ぼすものと確信しておりまして、当面は何よりもまず、腰を据えて現在の強い
引き締めを続けていくことが肝要であるというふうに
考えております。
もちろん、そうした中でありましても、こういう物不足というようなことの
影響を受けやすい
中小企業などに十分
配慮してまいる必要があることは申し上げるまでもありませんが、現在のような異常な状態を乗り切るためには、やはりいまの強い
引き締めをずっと続けていくということが必要であると
考えております。
最近、
石油の量的な面での制約が幾ぶんやわらいだことから、これが先行き
企業マインドの引きゆるみをもたらすことも
考えられますけれ
ども、万一そういうようなことから、現在鎮静しております投資意欲が再び上向くような気配が出てきた場合には、引き続き機動的に
金融政策を運営すべきはもちろんでございます。
なお、最近
金融面で注目される一つの問題は、総体としての
企業金融の引き締まりにもかかわらず、昨年十一月以降に見られた各種商品の大幅な価格
引き上げの過程で、一部の
企業に流動性が片寄るという現象が生じているようであります。私
どもといたしましても、こうした
状況の是正にはできるだけの
努力を払っておりまして、
金融機関に対しましては、余裕のある
企業への
資金の供給を
抑制することはもちろんでありますが、さらに進んで極力
貸し出しの回収に
努力するように
指導しております。しかし、このように個別
企業の
資金繰りまで立ち入るのにはやはり限界がございまして、この点いろいろなほかの施策と相応じて進む必要があるように思います。
当面の
情勢に対処いたしますためには、以上申し上げましたような総需要の
抑制策とともに、貯蓄の増強をはかっていくことがきわめて重要であります。先般、
預金金利を
引き上げましたのもこうした貯蓄の増強に資するものと
考えられるのでありますが、さらに新しい貯蓄手段の導入などがいま具体的に検討されておりまして、私
どもといたしましても、これらを踏まえまして、引き続き貯蓄の増強に前向きに取り組んでまいりたいと
考えております。
最後に、国際収支の問題でありますが、わが国の国際収支は、貿易収支の黒字縮小と資本収支の大幅な赤字を
中心といたしまして、昨年の春以降
かなりの赤字を持続しております。今後国内需給が全体として緩和していけば、ある程度輸出がふえる可能性があります。最近の輸出信用状などの先行指標にはそのきざしもうかがわれておりますけれ
ども、
他方、輸入面での
石油価格高騰の
影響も非常に大きいのでありまして、当面貿易収支がどのような姿になるかはなかなか見通しがむずかしい
状況であります。したがって、さしあたり資本収支の大幅赤字をなるべく縮小していく必要があります。こうした
観点から、先般来、資本流入の促進、流出の
抑制のために、いままでと逆の
措置をだんだん続けてきておるわけであります。
石油問題の国際収支に及ぼす
影響は、ひとりわが国だけでなくて、諸外国にとっても大きな問題でありまして、特に非産油国から産油国への大量の
資金の流れをどうファイナンスするかということは、当面解決を急ぐ必要のある国際的な課題と
考えられますが、このような問題の解決のためには、何よりも各国間の協調が必要なことは申し上げるまでもありません。現在懸案となっております国際通貨
制度の改革も、各国の現実の国際収支の姿と遊離したものではあり得ないだけに、当面の
石油問題は国際通貨
制度の改革にも大きな問題を投げかけておりますが、私
どもといたしましては、引き続き各国と協調を保ちながら、安定した通貨体制の確立のために
努力を払っていくことが大切と存じております。
以上、内外の諸
情勢を当面の政策運営とともに申し上げましたが、私
どもといたしましては、
金融引き締めが総需要の
抑制を通じまして
物価安定の実効をおさめ、一日も早く現在の異常な状態の是正に役立ちますよう一そうの
努力を傾けてまいる
所存でございます。
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