○木崎
参考人 本日、私に
意見を述べる機会を与えていただきましたことを、お礼申し上げます。
私の本日の
陳述の主眼というものは、いわゆる第六次
石炭政策の検討に早急に入るべきであると主張するところにあります。
石油ショック以来、中曽根通産大臣はしばしば公式的にも非公式的にも
石炭について積極的な発言をされており、現在諮問しております
エネルギー調査会の六月に予定されている報告が出ましたならば、場合によっては
石炭の根本的な見直しも必要になるであろうというようなことを申されておりますけれ
ども、この激変した
エネルギー事情の中にありましてわれわれの山はどうなるのだろうか、
日本の
石炭はどうなるのだろうかということで、息をひそめ目をみはって見詰めている組合員の心情を考えますならば、私としては第六次
石炭政策の検討には早急に入るべきであると主張せざるを得ないのであります。
なお、
政策の細部につきましては、その
見解の表明あるいは要請の機会は後日またあるものと考えますので、本日は、私なりに根本的な問題というふうに思われるものについて、若干の
意見を申し述べたいと思います。
今回の
石油危機によって、事実としてわれわれが知らされたことは、持定の
エネルギーを特定の
供給先に依存していてはきわめて危険であるということと、
エネルギーはもはや高
価格時代に入ったということであります。しかもこの傾向というものは、一次
エネルギーの大宗を占めますところの
石油の埋蔵量と今後の世界的な
エネルギー需要の伸びとの関係から考えてみますと、今後ますますこうした傾向は強まりこそすれ、弱まることはないであろうということであります。この事実というものは、従来の
エネルギーにおける経済性重視の時代は終えんを告げまして、量の安定
確保に重点を移行すべき時代に入ったということを
意味していると考えます。そのためには、
エネルギーの
多様化と
供給先の分散が今後の
エネルギー政策の基本とならなければならないし、そのように転換せざるを得ないというところに追い込まれているというふうに私は考えます。
それでは、
多様化するであろう
エネルギーの一環としての
石炭をどう見なければならないかという問題でありますけれ
ども、一次
エネルギーの大宗を占める
石油は、確認埋蔵量において、
需要が横ばいと考えましても三十年強、
需要の伸びを従来の実績より少な目に見積もりましても十五年ないし二十年の寿命であります。一方、原子力発電は安全性の問題で発電所建設のテンポが非常におくれており、今後もおくれる可能性があります。のみならず原子力による発電の燃料の
確保という点においてもいろいろ問題があるやに聞いておりまして、これに全面的に依存するというような方向は
石油同様危険ではないかというふうに考えます。また高速増殖炉による
開発や、あるいは究極の
エネルギーといわれている重水素の利用は、二十一世紀の問題であるというふうに私は聞いております。
こうしたことを考えますと、可採確定埋蔵量で
石油の二倍、可採埋蔵量で実に
石油の九倍の
石炭が、液化またはガス化の
技術開発も伴いまして一次
エネルギーの
相当部分をになわねばならないことはもはやまぎれもない事実であると私は考えます。
これは大きなお話でありまして、世界的な
規模の話でありますが、では
国内炭についてでありますけれ
ども、一次
エネルギーの
相当部分を
石炭がになわねばならないとするならば、水力を除いてただ
一つの国産
エネルギーであるところの
国内炭を放棄するということは、世界的に
エネルギーの枯渇が懸念される現在におきましては、時代に逆行することもはなはだしいといわねばなりません。
石油ショック以来、原子力がどうの、地熱がどうの、太陽熱がどうのといろいろと新聞に盛んに書かれておりますけれ
ども、遺憾ながら、
石炭も若干見直されたようなかっこうで書かれておりますけれ
ども、いわゆる原子力とか地熱、太陽熱ほどは見直されたというかっこうで新聞に出ていない。また世の中で騒がれていない。再認識をまだされていないということははなはだ遺憾なことでありまして、次に述べるような理由からして、
国内炭を大胆に見直して、そして
輸入炭等も加えまして総合的に、大胆に
石炭を活用すべきである、そのように私は考えます。
理由の第一点といたしましては、これは四十六年十一月の
調査がそうでありますけれ
ども、
生産コストを約九千円がらみといたしまして、五億八千九百万トンの実収可
採炭量を
国内炭は有しております。このことは
供給先分散の一端として最も安定した
供給源でありまして、かつ外貨流出の防止に何ほどかの効果をもたらすであろうというふうに考えられます。
二番目の問題といたしましては、
国内原料炭は非常に高い
流動性を有しておりまして、今後とも
外国原料炭の
輸入先が分散されるのではないかというふうに考えられますが、その際のつなぎ、いわゆるのりとしての大きな役割りを果たす貴重な
資源であります。
それから
国内炭を堅持することによって、一般に
エネルギーは高
価格時代に入ったわけでありますけれ
ども、
輸入エネルギーの
価格抑止力というような面でも何ほどの貢献があろうか、そのように考えます。
四番目といたしまして、
外国炭の
開発輸入のためには
石炭技術を温存しなければならないし、そのためにまた
石炭化学のいろいろな研究とか発達というようなことにつきましても、
国内炭を有していないということは最大の弱点になるであろうというふうに考えられます。
五番目といたしまして、
石油の高騰と
外国炭の
値上げ攻勢によりまして、経済的にも
国内炭は引き合うものになりつつあるのではないかということが考えられます。
次に、
国内炭の
位置づけでありますけれ
ども、従来の
エネルギー政策というものは、経済性の追求に貫かれておりまして、このために
日本経済は高度成長を達成できたわけでありますけれ
ども、そのおかげで、
石炭にとってははなはだ迷惑な話でありまして、現在
石炭産業は崩壊の寸前にあります。これまでの五次にわたる
石炭政策を私は何もかも否定しようとは考えておりませんけれ
ども、やはりその基調とするところは経済性の追求にあったというふうに私は考えます。そのために
エネルギー政策ではなくて、社会
政策だ、すなわち産炭地域
対策だ、離職者
対策だというふうに一部の者が言うゆえんであります。したがいまして、経済性を完全に無視するという
意味合いではございませんけれ
ども、激変した
エネルギー事情を踏まえまして、新たな観点から
国内炭の積極的な活用を前提とした、
総合エネルギー政策の中における
国内炭の
位置づけ、また
外国炭を加えたところの
位置づけというものを明確にする必要があるのではないかと思います。問題になるのは、その際の経済性の問題でありますが、この点につきまして、
日本経済全体の問題として
多様化する各種
エネルギーの
価格のプール値から考察してしかるべきものであるというふうに考えます。ただ単に高いからといって使うのをやめるということはもはや間違いであるというふうに考えます。
では、現在
石炭にはどういう問題があるのかということをことばをかえて言いますと、
石炭政策を見直すときのポイントは何なのかという問題でありますが、一番目といたしましては
技術者及び
労働者の不足であります。若年
技術者、
労働者の
確保はほとんど現在絶望的であります。四十八年の常用労務者の実績を見ますと、いわゆる新卒者、学校卒業者はわずかに〇・五%、他産業から入ってきたものは〇・五%であります。ほとんど絶望的でありまして、また従来閉山
炭鉱からの採用が主体でありましたけれ
ども、これも今後は望めない。なお、昨年の実績では
炭鉱の経験者が八八%採用されております。このほとんどすべてが閉山やまからというふうに考えてよかろうか思います。
しかもそれに加えまして現在
技術者と
労働者が北海道なんかは、春になると特に激しいのでありますけれ
ども、どんどん流出しておりますが、その流出の防止すら困難なのが
現状であります。このことは
石炭産業の将来の展望が欠けている、すなわち閉山の続出、一生を
石炭に託するに値しないというビジョンの欠除、それから低賃金、
先ほど里谷さんは金属鉱山と比較して五〇%と言われましたけれ
ども、労働省の資料によりますと、四〇%安い。いずれにしても抗内労働にふさわしくないはなはだ低い低賃金であり、かつ長時間労働であるということ、それから何といいましても地下労働という特殊性や災害が多いということが労務者不足の主たる
原因であろうというふうに私は考えますけれ
ども、では
現状のまま放置しておいていいのかということになりますと、
現状のまま推移するならば、労務倒産は必至であります。したがって
技術者、労務者の
確保対策は
石炭政策の最重点の
一つでありまして、その
対策としては以下のものが考えられるのではないかというふうに思います。
一番目といたしまして、何といいましても
国内炭の
位置づけを明確にいたしまして、
石炭産業に将来展望を与えること、すなわちビジョンの確立であります。
二番目といたしまして、早急に地下労働にふさわしい賃金に
引き上げることをはじめ、週休二日制、三番方の縮小等世間並みの
労働条件とすることであります。
三番目に、作業環境の
改善、すなわち
保安の
確保と機械化の推進であります。
四番目に、生活環境の
改善、すなわち住宅や病院その他の福利施設を逐次都市型に変えていくということであります。
五番目の問題といたしましては、たとえば抗内に働く者の税金の免除だとか、年金を大幅に改定するとかいうことによりまして、
国内炭は必要なんだ、しかもその必要な
石炭に働いている
労働者は貴重なんだということを国が事実として示し、そのことによって
炭鉱労働者に誇りを持たせることが肝要かと思います。
次に、
企業収支の
赤字と資金不足についてでありますけれ
ども、慢性的な
炭鉱ないしは
石炭企業の
赤字は相次ぐ閉山の最大の
原因でありました。またこのことは
生産設備に対する
投資を消極的なものといたしまして、
保安に対しましても何ほどかの影響があったと推定されます。すなわち、健全な
企業でなければ
安定供給の
確保は不可能であるとともに、さらに究極的には
技術者、
労働者確保問題の大半も
企業収支に帰着するといえると思います。したがいまして、今後の
政策助成と
炭価の決定というものは、前に私が申し述べました
エネルギー価格プールの思想に立ちまして、
輸入エネルギーの
価格と関係なく収支を満足させることを前提とすべきであると考えます。この収支を満足させるという
意味は、必ずしももうけようという
意味ではございません。その際、
石炭企業には表面にあらわれない不健全な財務内容がいろいろとあるようでございますので、これらを思い切ってえぐり出し、これを根本的に直すというような
対策を講じなければまた近い将来再び行き詰まるであろうというふうに思われます。また、言わずもがなのことでありますけれ
ども、資金繰りについても十分
配慮がなされなければ、
安定供給の体制を維持し得ないということは言うまでもありません。
なお、収支、資金に関連しまして次の諸点を特に指摘しておきたいと思います。
まず、格差
助成でありますけれ
ども、
政策助成が平均的であるということは、平均以下の
炭鉱が没落するということを
意味します。したがいまして、
炭鉱ごとの格差
助成は必要であります。しかし、その格差
助成の基準の設定が非常に困難であるということもまた事実でありますけれ
ども、困難ということに名をかりて平均的な
助成に走るということは、
先ほど申しましたように、平均以下の
炭鉱が没落し、また
位置づけもめちゃくちゃになるということを
意味しているわけでありますから、大担に格差
助成は実施されるべきであるというふうに考えます。しかしながら、
政策助成の範囲内において十分な格差を設けるということは実際問題として不可能に近いと私は考えます。したがいまして、たとえば
トン当たりX円を各
炭鉱から徴収しまして、それを格差
助成の財源に充てるというようなことも
一つの方法ではなかろうかというふうに考えます。
次に元本補給、いわゆる
肩がわりでありますけれ
ども、いわゆる
肩がわりは過去の負債の返済に充てられているために、現在の
企業収支にはいわゆる決算書の形では寄与しておりますけれ
ども、資金面には完全に寄与しておりません、元本分につきまして。このため
石炭企業は収支面の
赤字以上に資金繰りが苦しいのだということが案外忘れられているのではないかと考えます。
三番目に財源でありますけれ
ども、
石油の値上がりを契機といたしまして
石炭石油特別会計を云々する人もあるやに聞いておりますが、これはもう論外でありまして、今後とも
政策助成に依存しなければならないのでありますけれ
ども、国の
助成にもおのずから限度があると考えなければなりません。したがいまして、今後は
需要家の
協力がきわめて大きな側面になるのではないか、すなわち、
炭価のアップが重要な
石炭対策の財源になるのではないかというふうに予測されます。
六番目に、体制問題でありますけれ
ども、私
企業のバイタリティーを理由に体制問題を回避する論もあります。私はこの論を一〇〇%否定するつもりはございませんけれ
ども、しかし、
石炭問題に関する限りはこのような論議にはくみする意思はございません。炭職協といたしましては
石炭管
理事業団構想を持っておりますけれ
ども、何せ
経営やそれから法律、行政、そういうことに暗い私たちが考えたものでありますから、これが最善の策だというふうにはもちろんうぬぼれておりません。要するに
石炭を積極的に活用するための方策を現実のものとするために必要な体制であるならば、いかなる体制にも私は賛成するつもりであります。
次に、
一般炭の
輸入でありますが、電力につきまして
石炭に依存しておるのが、英国、西独が七〇%、米国五〇%、フランスでさえも四五%、ところが
日本の現在では六%であります。
多様化する
多様化するといいましても、こういうことでは
石炭を
多様化の一環として使うということにはならないのでありまして、一挙に四五%だというようなことにならないにしても、
相当部分やはり電力の
エネルギー源としては
石炭を使う必要があるのではないかというふうに考えられます。その際その全量を
国内炭でまかなえればこれは一番いいのでありますけれ
ども、実際問題といたしましてまかない得ないように私は思います。したがいまして、その面からも
輸入が必要であると同時に、高硫黄炭の
国内炭、これの
対策といたしましても
一般炭の
輸入は必要であると私は考えます。ただし、
輸入に際しましては、
輸入機構を含めて
国内炭を圧迫しないような
措置、たとえば
輸入一般炭は必ず
石炭業界を通すとか、
価格については内外炭のプールを行なうというような方法でもって
国内炭を圧迫しないということが前提でございます。
最後に、第六次
石炭政策の検討についてでありますが、現在
わが国の
炭鉱または
石炭企業は慢性的な
赤字と
技術者、
労働者の不足に悩んでおりまして、激変した
エネルギー事情に的確に対応し
日本経済に寄与し得るような状態にはありません。こうした状態は第五次
石炭政策ではもはや解決されないのではないかというふうに断言してよいかと思います。加えまして、
石炭政策の検討には長時間を要しますし、また対応策の実施がおくれますと問題の解決は幾何級数的に困難なものに変形いたします。したがいまして、五十年度実施を
目標といたしまして早急に第六次
政策の検討に入るべきであると私は考えますし、私の本日の
陳述の柱は実にここにあるのであります。
終わりに、われわれは、それぞれの
炭鉱におきまして
保安を
確保し、
生産性の
向上につとめ、
供給の安定をはかることがその責務と考えておりまして、この面につきましては今後とも最大限の
努力を傾注いたしますから、
田代委員長をはじめといたします諸
先生方の今後の御指導と御援助をお願いするとともに、国及び
需要家の
国内炭に対する正当な理解とあたたかい御
配慮並びに最大限の御
協力を期待するものであります。
私の
陳述を終わります。御清聴ありがとうございました。