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磯部参考人 磯部でございます。
それでは私から皮切りに、
石炭の将来それから現在、そういったようなことにつきまして、私なりの
考えを申し上げたいと思います。何しろこういった
場所でお話し申し上げるというのはふなれでございますので、いろいろお聞き苦しいところもあるかと存じますが、ひとつよろしくお願いしたいと思います。
私の申し上げることは大体
六つの点に分かれております。第一は、いわゆる
国産の
エネルギーをどうして位置づけたらいいだろうかという問題、これは日ごろの
考えでございます。第二は、
日本の埋
炭量をどう
考えるべきか。三番目は、
石炭の
価格、
炭価の問題を若干申し上げたいと思います。四番目は、いま
炭鉱界で非常に問題になっております
労働力確保にどういう
考え方をすべきであろうかということ。それから五番目は、これから新しい
炭鉱あるいは古い
炭鉱がだんだん
条件の悪いところへ入ってくる、そういうようなことで、新
技術の
開発はいかなる形であるべきか。それから
最後に、当面の
石炭の
対策、それがどんな形で
考えられるべきであろうか、そういった
六つの点についてお話し申し上げたいと思います。
最初の、
国産エネルギーというような問題でございますけれ
ども、私
どもが
国産の
エネルギーというものをどういうふうに位置づけをするか、こういう問題については、私なりにはこう
考えております。
つまりいろいろな
海外の
事情、そういうようなことがありまして、
日本に一滴の
石油も一かけらの
石炭も入ってこなくなった。それから
原子力というようなものも、今後の問題で、現在急に大きくなる見込みはそう強くない。そんなようなことを総合いたしますと、結局私
どもは、
国産の
エネルギーで、
一体一億の
国民が、どれだけあれば
最低の、まあしかしかつかつの生活が営めるかどうか、そういう問題についてまず
考えてみたわけでございます。
これは多少資料が古いと思いますけれ
ども、大体戦前でございます。一九三七年の
国民一人
当たり一年間の
消費量が
石炭一トンでございます。それから一九五〇年、これは多少ぐあいの悪い年なんですが、〇・七七トンになっております。それから一九五六年、これが一・一五トン、大体
国民一人
当たり石炭換算で一年間に約一トンの
石炭があれば、非常に不自由であるけれ
ども、何とか一年間切り抜け得る、それだけの
エネルギー量である、こういうふうに私自身は思っております。ある本によりますと、一・五トン以上であれば
先進国だ。それ以下であればいわゆる
後進国であるというようなことを書いた本もございますけれ
ども、かりに
後進国程度であったとしても、まず一トンを
国産エネルギーとして確保すべきである、こういうことが前提になると私は思います。
それで、一トンと申しますと、
日本一億の人口に対して一億トン、こういうざっと大づかみな数が出てまいります。その一億トンに対して、
一体何によって
国産エネルギーをまかなうか、そういうことになりますと、それはもう私が申し上げるまでもないのですけれ
ども、いわゆる
水力発電の
水力と、それから
石炭と、この二つに集約されるのじゃないか、そう思います。
水力のほうは、それは
豊水期、
渇水期というような、年によって若干の違いはあると思いますけれ
ども、一応
昭和四十六年、これは若干
豊水期ということもございましたけれ
ども、約九百億キロワット
アワー、そのぐらいの
電力を発生しております。
水力の
開発が進められたとしたら、これは九百億ないし一千億キロワット
アワーの
水力発電の
電力はまかなえるのじゃないかというような、私は
水力の専門でございませんが、そんなような
考えを持ったわけでございます。
そうしますと、大体一キロワット
アワーの電気を発生するのに、
石炭で換算しますと約〇・五キロ、ですから九百億ないし一千億キロワット
アワーの
電力に対して、
石炭に換算しますと大体四千五百万トンから五千万トンというような
数字が出てまいります。その
最低限一億のうちの約半分、五千万トンは
水力をもってこれに充てることができる。
そうすると、残りは
石炭でございます。
石炭は、やはり
国内炭としては五千万トンというのを
一つの
めどに
考えるべきではないか。
石炭産業をそこまで育成していくことが、これはあらゆるリスクに耐える、いわゆる国内の
エネルギーの
考え方ではないか、こういうふうに私ば思っております。
現状、それでは五千万トン出るかという問題は、これは別問題といたしまして、われわれは過去において五千万トン掘ったこともございます。したがって、
可能性という点はこれはゼロではない。したがって、そういう
方向に向かって、
石炭というものは今後
日本の
最低の必要な
エネルギー源としてやはり育成していくべきであろう、こういうふうに思っております。
それから、第二点の埋
炭量、いわゆる
炭田能力というものについて申し上げたいと思います。
埋
炭量というのは、これは非常にむずかしい問題でございます。
昭和三十年ごろにずいぶん
通産省がいろいろな方にコンサルトいたしまして、非常に長期間をかけて鋭意努力をして、
日本の埋
炭量は、いろいろな点、つまり
技術水準あるいは
炭層の可採度、そういったようなものを全部
調査をしまして、約二百億トンという
数字をはじき出しております。これはいわゆる理論可採
埋蔵炭量と申しますか、いわば架空の
炭量といっても差しつかえないような
数字でございますが、
一つの
めどとしてとられる
数字でございます。
その理論可採
埋蔵炭量の中で
一体どれだけ掘れるか、これは純
技術的にのみ申し上げます。その
経費とかあるいは
設備投資とか
炭価とかいう問題を抜きにして申し上げますと、まず一応そこに
安全率というようなものをひとつ
考えなければいけないわけであります。かりに二百億トンあっても、その中でだいじょうぶこれだけあるだろうというような点、あるいはかりにあっても、それはいろいろな
条件で掘れないだろうと
考えられる点、そういうものを差し引くために、
安全率というのを考慮いたします。これには、その
場所、そのところ、それから時期、そういうものによっていろいろ
安全率のとり方が変わっておりまして、一定の方式はございません。大体七、八〇%から四、五〇%の間をふらついている
数字、こういうふうにお思いになればけっこうでございます。そこで私は、この
数字を一応話半分ととりまして、まず
安全炭量は百億トンというふうに
考えてみる。ところが、この
安全炭量百億トンと申しましても、これが全部掘れるわけではございません。やはり
採掘していく途中において断層が出たり、あるいはその他の
事情で放棄しなければならない
炭量もございます。それから、あるだろうと思って行ってみてもやはりなかったという場合もございます。それから、完全に
採掘するということも、これは実は不可能な話でございます。
技術的に不可能でございます。そういう点を見ますと、
実収炭量、実際にどれだけとれるかという
実収率というものをかけなければならない。
そうすると、百億トンに対して
一体どれだけの
実収率をかけるかという問題が出てくるわけでございます。その
実収率も、やはり
採掘の
方法それから
自然条件、そういったようなものによってずいぶん変わってまいります。ある山では、うちでは八十何%の
実収率がありますといい、ある山では、いや私のところは四〇%ぐらいしかありませんと、こういう。そういうように非常に大きな差がございます。そこで、一応私は、この
実収率を六〇%、五〇%、四〇%と三
種類に分けて
考えてみました。それ以上の
実収率は実技上はなかなかむずかしかろうということで、六〇%と見ますと約六十億トン、五〇%と見ると五十億トン、四〇%と見ると四十億トンという
炭量が
考えられる。
それで、これは
昭和三十年ぐらいの
調査でございますので、その後現在まで約二十年、約十億トンぐらい掘っていると思います。それでその分を差し引きますと、現在は大体五十億トンないし三十億トンぐらい、そのぐらいの
炭量が残存している
可能性が強い、これは確実にそれだけあるかということは行ってみなければわからないわけで、掘ってみなければわかりませんけれ
ども、その
可能性は強いというふうに
考えられます。そうしますと、一応年産五千万トン
ベースで維持するとすれば、約百年から六十年、そのぐらいの
炭量が残存しているというふうに
考えられます。百年にしても六十年にしても、これはきわめて
ロングランの、長い
数字でございます。
それで、一応
日本の
炭田能力としては、現在、これから掘っていくのに
一体どのぐらいの可採年数を
考えたらいいだろうかという問題を次に
考えてみたわけです。それは、大体人間の一
世代、いわゆる
働き盛りという期間というのは普通約三十年、これを
ワンゼネレーション、こういうわけであります。その三十年にプラス十五年、いわゆる一・五
世代、四十五年間ぐらい掘れれば、かりに今後
原子力が相当出てくる、あるいはほかの
エネルギーが
開発されるとしても、そのつなぎとしては、四十五年ぐらいの
ロングラン、一・五
世代を見たらよろしいのじゃないか。そうなれば、
炭田能力から
考えて
十分——これは
経費とか
労働力とか、あるいは
開発資金とか、そういうものを論外にして、大体一・五
世代は掘れる
炭量を現存しているであろうということの確率が大きい、こういうふうに申し上げてもよろしいのではないかと思います。
それから三番目は、先ほど申し上げました
炭価でございます。
現在
石炭産業というのが、
石油、そういうものに押されまして非常に苦境に立っております。そういう苦境の
最大の原因は低
炭価、
石炭の
価格が安いのと、それから
一定価格に押えられている。若干は上昇しておりますけれ
ども、ほぼ
一定価格に押えられているというところに
問題点があるわけでございます。これは、この
価格がきめられた時点ではそう安い
価格ではなかったかもしれません。しかし、その後累年の
ベースアップ、それから物価の上昇、そういうものによってその差額はどんどん食われてしまって、それでしばらく前からはそれが逆転してしまって、
炭鉱は
慢性赤字の
累積というような状況になってしまったわけでございます。これは
経済状態その他でやむを得ない点も若干はあると思いますけれ
ども、いわゆる
国産エネルギーの育成という点から
考えてみますと、とにかく
炭鉱が食える
炭価をはじき出してみる。
労務費、
物品費あるいは
償却費、そういったようなものをすべて積算いたしまして、それで
一山、
一山に対して食える
炭価を査定していく、それによって初めて
現有炭鉱が生きられるのではないかと
考えております。
自然条件その他によって、
一つ一つの山の
炭価というのは全然一定されるわけではございません。やはり
一山一山に対して適切な施策、いわゆる
炭価のはじき方というものがなければいけないと思います。それで
総合炭価はどう
考えるかという問題になりますと、これはむしろ
経済ベースの問題で、私
ども技術屋の申し上げることではないので、それは省かせていただきます。そういったことで、今後
ベースアップもあると思います。あるいは物価も猛烈に上昇しております。したがって、
炭価の
赤字幅の
累積はきわめて大きくなって、これだけでも
炭鉱はたぶんやっていけなくなるだろう。この問題をまず個々の山について手当てをしなければいけないだろう、こういうふうに
考えております。
次は、四番目の
労働力の問題でございます。
炭鉱の
労働力というのは、
日本ばかりではございません、世界的に非常に払底しております。
日本もその例に漏れずきわめて払底しておって、それでこれから
石炭が必要だから増産しよう、あるいは
閉山炭鉱を
復活しよう、あるいは新
炭田を
開発しようかという問題になりましても、
労働力の壁に突き当たって、
現状ではとうてい不可能という線を出さざるを得ない状況でございます。
そういった
労働力をいかにして確保するかという問題で、私はこう
考えております。これは若干遠回しの
方法かもしれませんけれ
ども、
公国立、いわゆる公立の
鉱員養成所というものを
全国各地に設置したらよろしいのではないか。幸いに現在、
保安センターというのが
北海道、常磐、九州にございます。こういうところでは、
保安に関する教育、訓練というものを主体にずいぶん活躍をしております。こういったものを拡充強化して、それで
鉱員養成所をつくる。
鉱員養成所は、具体的に申し上げますと、私の私案でございますけれ
ども、三つの段階で
考えたらよろしい。
最初は
中学卒もしくはそれ以上の人を入所させて、二、三年の教育で
後山をつくる。なぜかと申しますと、
炭鉱の
労働者というのは、ぽっと入ってそれでつとまるかというと、決してそれはできないわけであります。
石炭産業というのはいまでもなお
人力産業でありまして、かなり高度の熟練としかも知識が必要な
労働力でございます。これは昔からいわれていたことなんですが、非常に質のいい
労働力というのは、時間をかけて
養成しなければできない
種類のものでございます。それで質の悪い
労働力であるならば、
保安上非常に
問題点が出てくるわけでございます。そんなことで、いわゆる
後山養成所、
後山ということばが悪ければ、
初級鉱員養成所というようなものをつくりまして、そこで教育した人を山に配置する。その教育された人が山で二、三年あるいは数年経験を積んだ後に、その中から
優秀者を選抜して、今度は
上級鉱員養成所というものに入れる。これは一ないし二年くらいの
修業期間で、これを終業した人は先山として
母山に帰す。もちろんこの
上級鉱員養成所は
職種別の
養成方式をとる必要があるだろうと思います。そういった
母山に帰った人々の中から、数年もしくは十年くらい、非常に働きも優秀である、
人物も識見も卓越している人をさらに選抜いたしまして、いわゆる
特級鉱員養成所というようなものに入所させる。これはいかなる困難な仕事にも耐え、あるいは
鉱員の亀鑑と仰がれるだけの
人物の
養成、いわゆる大先山あるいは
特選鉱員というような方々の
養成をはかり、一部それらの方々は
養成所の教員としても採用する、こういう
方法で技能の温存それから展開というものをはかるべきだ。そういったところを卒業した人々というのは、国がオーソライズして、それである資格を与える。賃金、待遇すべてその組織のもとに行なうというような
方法をとるべきではないか。それで
鉱員の身分のままでも、その山の万人の信用を集め、尊敬を受けて、
最大の待遇を受ける人が山に何人かいても決して私はふしぎじゃない、そういうふうに
考えております。そんなようなことを
考えることが
労働力——これはあるいは遠い
方法かもしれませんが、急がば回れ、回り道をしないでまっすぐ行くよりも、かえってそういった
方法をとったほうがいいのじゃないかというふうに
考えております。
それから、第五の問題の新
技術開発でございます。
日本の
炭鉱というのは、いま申し上げたように
炭量が諸外国に比べるときわめて少ない。その
炭量に向かっていどむわけでございますので、どんどん
深部に入ってまいります。そういった
深部に入ってまいりますと、未知の領域に入る。そのほかに
自然条件の悪化が加わるというようなことで、各種の
技術的な問題が出てまいります。主としてこれは
保安的な問題でございます。これが解決できなければ、結局
深部採掘、
深部展開、
炭鉱の延命というものは不可能でございます。そんなことを
考えますと、この
深部対策の
技術、これを確立すること、それからもう
一つは、
日本の場合は非常に
傾斜の強い
炭層、急
傾斜の
炭層が多いわけでございます。これは九州はあまりございませんが、
北海道には非常に急
傾斜が多うございます。こういった急
傾斜の
技術開発というのはまだまだ不十分でございます。これを何とかしなければ、いわゆる
関係者と肩を並べて
石炭の
技術を推進するということはできません。この二点に関して新
技術の
開発を十分推進すべきだと思います。
これにつきましては、役所のほうでも前々から
深部対策委員会とかあるいは
ガス突出対策委員会とかいろいろな
委員会を設けて、現場の方あるいは私
どものような学校の
研究者といった者で討議を重ねてきております。ただ私は、それだけではまだ不十分だ。やはりこういった問題は片手間にできるものじゃない。
通産省内部とかあるいはほかにそういった組織を設けたなら、一年とか二年とか適当な
人物を出向させて、それに専念させる。それで初めてこれが具体化してくるのじゃないかというふうに思っております。そういったことが新
技術開発の私の
考えております要点でございます。個々の突出はどうするとか、あるいは山はねはどうするとか、
ガス爆発はどうするかというような問題は、これは非常にこまかになりますので、一応割愛させていただきます。
最後に、当面の
石炭対策として
一体何を
考えるべきかということでございますが、その第一は、私は、
政府が、いわゆる国が
方針として、
石炭は見捨てないぞ、
石炭は
日本の
基幹エネルギー産業として非常に重要なものであるということを内外にまず公言していただく、これだけでも私はずいぶん違ってくると思います。
それから二番目の問題は、
石炭を将来どうだとか五千万トンとかといっても、何といっても、現在の
炭鉱をいかにして生かしていくか、育成強化していくかという問題が
最大の問題でございます。
現有炭鉱というのは非常に疲弊しておりますし、
累積赤字をかかえて困っております。こういった問題をさしあたってどう解決して、
炭鉱を健全な形に戻してやるかという問題をまず第一に取り上げるべきではないか、こういうふうに思います。
それから三番目は、いわゆる閉山した
炭鉱で
復活の
可能性のあるもの、こういったものを
調査して、
一体どのぐらいの資金をかけてどのぐらいの
労働力をかければどの程度の
生産力まで回復するかというようなことを立案し、さらにそれを実行に移すことだと思います。これで私はおそらく、二、三百万トン、あるいは場合によっては五百万トンぐらいの
復活が可能でないかというふうに
考えております。
それから四番目は、いわゆる
処女炭田、
北海道でいえば天北あるいは釧路というような
処女炭田に大きな
炭鉱を
開発していく。これをいわゆる
プラスアルファとする。ただし、その
プラスアルファ分では、
現有炭鉱もだんだん老齢化して、それで
採掘区域が縮小してついにはなくなってしまうというようなところもございます。そういったようなものに対する
代替鉱にもなります。そういうことで、その
処女炭田の
開発を推進すべきである。これについては、その
処女炭田の
地質調査あるいは
炭量調査、
開発方針の
調査、そういったものを、そのボーリングを含めまして、その他の
気候条件あるいは
消費構造、そういったものも全部勘案して、そういったような進め方をやる。この
閉山炭鉱の
復活と新
炭田の
開発については、これはいわゆる
民間企業ベースでは現在ではどうにもならないだろう。やはりある程度民間の会社が幾つか集まっての
ジョイント、それにユーザーが集まっての
ジョイント、それにいわゆる
政府出資によって、それで
政府がその上に乗っかって、いわゆる準公営もしくは公営の形でスタートすべきでないか、こういうふうに
考えております。
最後に申し上げたいのは、いかに
日本の内部を
調査いたしましても、やはりどうしてもこれ以上の
生産量は望めないといった場合には、今後、
エネルギー対策として、やはり
海外炭田の
開発を
考えなければいけない。その
海外炭田の
開発に対していかなる
方針をとるべきか。いわゆる
海外の
技術屋の
日本での
養成、あるいは
日本の
技術屋の
海外派遣、それから
国際交流というようなものを中心にして、それで
海外開発にひとつ重点を持っていくべきじゃないか。
こういった五つの点を、第六番目の当面の
対策として申し上げたいと思っております。
以上でございます。どうもありがとうございました。