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小口参考人 御紹介いただきました総評・
繊維労連の
委員長の
小口でございます。
中小
加工企業に働いている
労働者の
立場を代表して、この
法律に対する
意見を述べたいと思います。要旨はお手元の印刷物にありますので、読みながら
意見を述べたいと思います。
現在の
法律が一九六七年に制定され、今回特定
繊維工業が
繊維工業構造改善臨時
措置法という名前に変わろうとしていますが、やはり
法律にはそれぞれの歴史がありまして、今後の運営についてこの歴史的な変化をどのようにとらえるかという点が
運用の上で非常に重要な点ではないかと思うわけです。この前の段階では、
国際競争力の強化というものを基本政策として制定して、
省力化、
高速化を中心とした
機械設備の投資が中心でございました。ところが、その後この
法律ができました以降に事態は根本的に変わりまして、ニクソン・ショック、為替レートの変更、変動相場制への移行あるいは日米
繊維貿易の覚書協定の調印、これらの
条件が
日本の
繊維産業を取り巻く国際的、
国内的
条件を歴史的に大きく転換しました。当時、政策目標に全然欠けておりまして、とりわけ七二年に外貨準備高が百九十億ドルに達したのを
機会に、東レ、帝人、東洋紡、鐘紡等の海外への資本輸出が一そう拡大しましたし、また極東三国を中心に
繊維製品輸入の急増が目立ちました。
国内の盛んな消費
需要にささえられて二次
加工製品のニットー化、既製服化が進みました。これらの問題は、あげて当時の
構造改善措置法が常に
状況に立ちおくれておった問題でございます。加えて、先ほど
業界の方々からはたいへんに有効であったという御
意見がありましたけれ
ども、私
どもの
立場から見ますと必ずしもそう礼讃ができない
幾つかの問題をかかえております。
第一は、最初に過剰
設備の
廃棄と
省力化を軸として
構造改善政策が進められましたが、ちょうど
法律の議論がされておる段階では構造的な
不況がかなり進みましたが、おりから一九六七年以降に高度成長が進んだために
国内消費の
需要が拡大したことと、輸出が増加したために、過剰
設備の
廃棄は遅々として進まず、かえって合繊紡機、編み立て機、レース編み機、仮撚り機等の
設備投資が進行しました。そして結果的にスクラップ・アンド・
ビルドではなくて、
ビルド・アンド・
ビルド政策に変わったのが実態でございます。
加えて、国際通貨の変動によって有利な交易
条件を得た極東三国、パキスタン等の
繊維製品は、
日本市場になだれ込んできまして、
総合商社もこれを利用しました。こうした過剰投資と急激な
繊維製品の
輸入が今日の
過剰生産の原因となっているのは御承知のとおりであります。このことについて
政府は有効な
措置をとったかといいますと、私たちは公正に見てどうもそうとは思っておりません。
また二番目として、日米
繊維協定の調印、為替レートの変更が
日本の
繊維輸出環境をすっかり変えました。変えたことが、従来続いておりました
ビルド・アンド・
ビルド政策に一定の冷や水を浴びせる作用をしまして、それがまた今日
緊急対策等のいろいろな問題をかかえておるわけです。しかも、国の政策として行ないました
国際競争力の強化を目ざした
スケールメリット政策というのは、その後、国際的な原糸
価格の値上がりで帳消しになって、これによって
消費者が
製品を非常に安く買えたというようなことはあまりないと思います。
綿糸、綿
製品の
輸入が増大となっておりますし、スクラップ政策はやみ
織機の増大となりました。中には
廃棄された
設備が
開発途上国に売られたのです。そして
国内の
織物産地は、確かに
織機が
機械織機に変わったことは事実です。しかし同時に、
中小零細企業の
織物業者の手元には一台当たり三十万から四十万の借金が残り、景気変動のたびにこの商工
委員会は
繊維問題で救済
融資を議論しなければならないということが慢性化する
状態にまでなっておるのです。したがって、前
法律が
繊維産業の
体質を非常に強化し、将来に向かって
国際競争力の上で一定の歴史的な
条件を果たしたというには少し実態が違うんではないかというのが率直な私たちとしての批判でございます。
それでは、そういう現在の情勢に立って提案されています新
構造改善政策に対して、私たちは以下述べますような疑義を率直にいって持っております。
私たちは前
法律、現在の特定
繊維工業の
法律が出されましたときに、次の二点を強調したわけです。
第一は、
政府の言うように
スケールメリット政策、
省力化政策ではなくて、
日本の
繊維産業を取り巻く国際的
条件から考えて、原糸コストの切り下げよりむしろ
付加価値生産性の向上と高級二次
製品の輸出を基本
方針とすべきではないか。それからそのためには
染色整理業、織布業、
縫製業、
メリヤス業に対して資本装備と
技術を飛躍的に高める
近代化投資に体制金融
措置を講ずべきである。そして
自動織機の導入にあたっても
織機と編み機の
設備比率を十分いまから検討すべきである。また、
繊維製品流通機構の合理化を進めて
流通コストの切り下げ
措置を
指導してほしいということを要望しました。これに対して
政府が、その後特定
紡績業と特定織布業のほか
メリヤス製造業、特定染色業に適用を拡大したことはたいへんよいことだったと思います。しかし、今回そのような情勢の変化に対応して、さらに
縫製業、撚糸
加工、サイジング、
流通部門に適用を拡大して、特に中小、
零細企業の
構造改善に
施策の力点を置くことになりましたことはおそきに失した感はありますが、一歩前進と評価したいと思います。
しかし、この
構造改善政策の基本的な考え方は、昨年十月二十五日
繊維工業審議会、
産業構造審議会体制部会による
答申にあらわれておりますが、この
答申の基本的な考え方が二つありまして、国際分業の確立、知識集約産業化、こういう点がございますが、これについても、実は私たちは、そのことばはいろいろありますけれ
ども、今回の
法律に関してその
実施過程における具体的な政策に非常に欠けておるという感じを率直に持っております。
一つは、この
法律の制定後、
施策のいかんによって次の点を危惧するのでございます。
第一は、今日、
国内市場において原料及び
繊維製品の無秩序な
輸入が
繊維市況の
混乱と
滞貨の原因になっていながら、
輸入秩序確立についての政策が明示されていないことでございます。
第二は、知識集約型産業への転換ということばが各所で述べられていますけれ
ども、それは具体的にどういうことなのか、
生産、
流通過程で何をどのようにやろうとしているのかということがきわめてあいまいな点がございます。私
どもは
現状の原糸大手メーカーあるいは
総合商社と
繊維加工業、アパレル産業の
中小零細企業の力
関係では、異業種間の協業とか新
製品の
開発が、かえって原糸メーカー、商社の側の系列支配論理を強め、
付加価値の所得配分に
中小零細企業があずからないのではないか。また、国と地方自治体による
構造改善資金の
融資保証は、本来ならば原糸メーカー、
総合商社がみずから賃
加工系列
企業の育成のため当然払うべき資本負担の肩がわりになっておるのではないかという危惧を持ちます。
以下、この
法律の運営について、次の四点について私
どもは御
配慮を願いたいと思っておるわけでございます。
繊維産業は、化学
繊維製造業、
繊維加工業、服飾産業に従事する
労働者と事業主は、それぞれの分野において
国民の衣食住の要求に応ずるための
生産活動に従事しています。また、その誇りを私たちも持っているわけです。
繊維原料資源と衣服の嗜好にはそれぞれの民族性があります。このことはその国の産業構造政策として
繊維産業をどう考えるかという基本だと思うのです。そのために
政府は、
繊維原料の安定供給と
消費者需要にこたえる
繊維産業の振興強化をはかる義務があると思っています。
また、先ほ
ども述べましたように、慢性的な体制金融なり緊急
融資が行なわれるというような
状況下にあって、私たちは本来、資本主義経済体制下にあっては、
企業経営の責任は各事業主にあり、国は誘導すべき基本政策を示すことが基本ではないか。そういう
意味で全体的にこの体制金融問題が少し無秩序といいますか無節操といいますか、いずれにしましてもこれは
国民の税金でございますので、そういうものが慢性化しているという点について、率直にいって
労働者としては少し不安になります。
具体的にどういうことを
実施してほしいかという点について四点にわたって申し述べたいと思います。
まず第一は、
加工賃の適正化と
取引契約の
近代化でございます。私
どもは
賃金交渉その他で下請
加工業者に会いますと、
小口さん、
製品の値段をきめるのはメーカーとデパート、スーパーだけだ、私たちにとっては織り工賃、染色
仕上げ加工賃、編み工賃がただ配分されるだけで、われわれにとって
加工原価などというものは最初から問題にされないということをよく言っております。現に
流通部門での返品、止め柄制度とか派遣店員とか
機械のあっせんに対する商社の歩引き問題というような非常に不当な商習慣がこの
業界ではまかり通っておるわけです。こういう
状況の中で、政策が掲げるように、
繊維加工業とアパレル産業の下請
企業が
商品開発やファッション性
商品をかりに
生産し、
付加価値を高めていながらも、原糸供給と
商品の展示販売
部門だけが独占利潤をあげているという、こういう
現状を改めない限り、
知識集約化グループ育成
対策は結果的に絵にかいたもちになるのではないか。そういう
意味で、私
どもは下請
企業が人並みの
賃金、労働時間を基礎とする
加工賃原価が保証されて、みずからの
経営活動を通じて
消費者需要の変化に対応できるような
加工賃決定の適正化
措置、
取引契約の
近代化を求めたいと思います。その点で
取引改善委員会においては
加工費の調査とその公開、不当な
加工賃、
取引についての調査機能を強化することを要求したいと思います。
二番目は、最低
賃金法、家内労働法の強化
改善により公正競争の社会的、経済的基盤を整備することです。上のほうが
加工賃を買いたたけば、また
繊維加工業、アパレル産業の事業主はそのしわ寄せを外注分として再下請、再々下請あるいは家内工業に対してこれを
生産の組織化によって収奪し、そのことによってカバーしておるのが実態でございます。こういうような方法では
商品規格とか品質の統一化はもとより、
織物、染色、
縫製技術の向上とか新
商品の開拓などは
期待できないのが実態ではないかと思うのです。そういう
意味で、私たちは当面一時間一ドルの法定最低
賃金制の制定あるいは法定最低工賃制の制定、週休二日週四十時間の普及と労働基準法の完全
実施が通産行政としても
指導方針の基礎となることを求めたいと思います。
次に、
国民の衣料
需要に対し、
繊維原料並びに
繊維製品の秩序ある
輸入規制措置の基準を設定することを求めたいと思います。
国際分業政策というものが、安い
商品はどこからでも買う方式をとれば、
日本の
繊維産業はやがて
日本の農業の二の舞いにならないとは言えないと思います。私たちは
開発途上国の経済自立のために
繊維軽工業を育成するとか、あるいは鉄鋼、自動車、化学肥料、農業
機械等の輸出を伸ばすための見返り
輸入、さらには
日本の海外進出
企業製品の引き取り契約などの必要から安易に国際分業の確立を急ぐことは、結果的に角をためて牛を殺すことになることをおそれます。私たちはガット体制を守りながらセーフガードの基準を設定することが
繊維産業全般の構造政策を進める上で前提
条件であり、本
法律にいうところの基本
方針の中心課題だと思うのです。
最後に、業種、産業転換の
実施は
産地全体を
対象にして、国、地方自治体の協力
指導のもとで計画的かつ長期
対策として行なうことをあげたいと思います。
産地は地域社会の経済共同体的な
生産組織をなしています。しかし、労働力の不足、
開発途上国の追い上げ、
賃金水準の
上昇等によって経済活動がこれに対応できなくなる
産地も将来的に予想されます。このとき、メーカー、
総合商社の系列化政策の貫徹により
産地内個別
企業にねらい打ちをつけていく政策が貫徹していけば、やがて
産地は経済共同体機能が分解して、地域経済は衰退していくと思います。したがって、
生産商品の代替性とか
国際競争力、
国内需要などから見て長期に転換を必要とすると認めた
産地については、国と地方自治体の責任において
行政指導し、業種の選択、
技術再訓練、
設備転換資金の
融資保証、休業または待期期間の
労働者、零細事業主の所得保障
措置などについて計画的かつ長期
対策として進行することを求めたいと思います。
また、責任を持つ産業別労働組合との間に地方自治体、
産地工業協同組合は事前協議協定を結ぶことを求めたいと思います。
長くなりましたが、以上で私の
意見を終わります。(
拍手)