○金子(み)
委員 趨勢を伺いたかったわけでございますが、私は手元に、WHOが一九七一年にまとめました人工妊娠中絶に関する世界の
法律というものがございます。
一つ一つを申し上げるわけではもちろんございませんけれ
ども、日本の立場、日本の位置づけというものをわかるために、これはたいへんに役に立つと思うわけです。合法的な人工中絶の
適用例というのがいろいろな分類で報告されておりますけれ
ども、その
適用例は、大きく分ければ、医学的
適用、それからその次は優生保護的
適用、それから次は人道的
適用、これは倫理的というふうな
意味合いになります。それから、たとえば強姦とかあるいは近親相姦などによる妊娠の場合に人道的
適用というのが使われております。それからその次に医学的及び社会的
適用、そして最後に純粋に社会的
適用、こういうふうに分類されているということが報告されております。
医学的
適用という分類は、非常に厳格な
法律で、中絶が女性の生命を救うのに必要と認められた場合にのみ許可するというので、最近ではこれだけの
法律を使っている国というのは非常に少なくなっている。
次の優生保護的
適用、これは遺伝的疾患が世代的に遺伝するのを防ぐというのと、精神あるいは肉体的疾患にかかりやすい子供の出産を避けるというのを中心につくられている
法律でございます。日本はこの中に位置づけが
一つされております。
それから倫理的
適用というのは、
先ほど申し上げましたように、強姦とか近親相姦あるいは未成年、精神薄弱者との
関係による妊娠、この問題を合法的に中絶する場合の合法的な
適用、日本はこれは入っておりません。それから、医学及び社会的
適用、日本はここにも入っております。ここは非常にたくさんの国が、一番この
適用例を活用して
法律をつくっているようでございます。特に文明国といいますか先進国と申しますか、発達しておりますスカンジナビアの国々あるいはヨーロッパ、アメリカ等の国々におきましてはこれを使っておりますが、これは当該妊娠以前に、数回にわたって短年月の間に出産があったかどうかというようなことですとか、あるいは子供が多いために家事が困難かどうか、あるいは家庭経済が困難かどうか、家庭の中に病人はいるかいないかというようなことまで考慮に入れて
考えられておりまして、女性が営むべき日常生活の条件を含む環境のすべてが評価されている。妊婦の生活に何か特別の困難があるのかどうか、また健康を阻害するような他の環境についても考慮に入れる、あるいは身体的、精神的破綻を来たすと思われる生活条件及び環境、こういうものを考慮に入れる、そして妊婦の現実的あるいは合理的に推測され得る将来の環境までも考慮に入れて、中絶を合法的に
考えられているのが医学的及び社会的
適用例でございまして、これが最も多い。
それで、最後の純粋に社会的
適用だけを利用する者、これは中絶を合理化する
根拠として取り入れているわけでございますが、おもに内容といたしましては子供の数が多いか少ないかという問題、子供が三人以上ある婦人の場合とかあるいは四人以上であるとかいうふうなぐあいに、子供の数が基本に
考えられているようでございます。あるいはそのほか、夫が死亡したあるいは不具である、あるいは家庭が破壊されたというふうな問題、妊娠のために困窮した、困った女性というようなものが
考えられているわけでございますけれ
ども、これはそんなにたくさんの国が
適用されてはいないわけです。
これらの五つの糖類の
適用例にそれぞれ該当しておりますが、日本の場合は医学的及び社会的
適用というのと、優生保護的
適用というのに位置づけされているわけでございまして、世界的な趨勢からいきますと、大体世界の動きが中絶を緩和するという方向に向かっているわけでございまして、現在の日本の
優生保護法の現状でまいりますれば、まさしくその世界の趨勢に一致しているということができると思うわけです。ところが、今回
改正をするということになりますと、日本の位置づけはだいぶ変わってくるのではないかと思います。
現状では日本の場合は、これは
厚生省からいただいた資料でございますが、優生保護
実態調査に基づいた数字で拝見いたしますと、いまの
適用例の場合の例で日本の場合をとってみますと、医学的及び社会的
適用、それから純粋に健康上の訴えというのがございますから、これはたぶん医学的
適用というところに該当させればいいと
考えますが、これ等を合わせますと八一・三%になるわけでございまして、日本における中絶の八一・三%までが今日医学的並びに社会的
適用によって行なわれているということで、これは世界の趨勢とほぼ同じような歩き方をしているということで、現状では私は問題はないと思うわけです。それが今回
改正されるということになりますと、だいぶ様子が変わってまいります。
たとえば、WHOが人工妊娠中絶に関して
法律の
適用事由というものを定義しておりますが、六棟類のことを定義しております。その
一つは母親の生命を救うため、二つ目は母親の肉体的、精神的な健康のため、三つ目は先天性奇形などの防止、四つ目は暴力による妊娠、五つ目は子供の数などによる医学的、社会的理由、六つ目が本人が希望するだけでできる人工妊娠中絶、こういうのがあるわけです。これだけ、これはWHOがきめた、定義している
適用事例でございます。日本の場合に、世界の趨勢と同じような歩みをいたしておりますのにもかかわりませず、今回
改正をいたしますと、WHOがいっておりますこの中で、医学的、社会的理由というところに位置づけされていた日本の分を、今度はいわゆる医学的事由だけの位置づけに戻すことになる、逆行する形になるわけなのでありますが、こういうふうなことになると、世界の国々が緩和する方向に進んでいるときに、ひとり日本だけが逆行するという結果になると思うのでございますが、それはいかがお
考えでございますか。