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山田参考人 私は、
名古屋市
公害対策局長の
山田でございます。
去る三月九日には、諸
先生方が国会中でありながら、わざわざ御来名賜わりまして、
現地視察をしていただきまして厚く
御礼を申し上げます。また本日は貴
委員会で私
どもの話を聞く機会を得させていただいたことを、重ねて
御礼を申し上げる次第でございます。
それでは時間をおかりしまして、
名古屋市における
状況を申し上げたいと思います。
東海道新幹線は
昭和三十九年の十月に
開通以来、現在その
運行本数が
名古屋市内で一日二百八本に達しておるわけでございます。
この
新幹線の
計画でございますけれ
ども、
昭和三十五年の五月に
国鉄から
路線決定の通知を受けまして、種々協議をいたしたわけでございます。そのうち、
公害防止につきましては
鋼げた橋、すなわち
鉄橋でございますが、これの廃止、それから
側道の
設置を申し入れたわけでございます。しかしその当時、オリンピックなど国家的な要請の問題、国家的な事業であるというようなこともございまして、種々の事情によりまして
申し入れどおりの実現を見なかったわけでございます。
こうした
状況下で建設されたわけでございますが、現在の
新幹線の概況を申し上げますと、
市内の
中央部の建物の
密集地を縦断しておりまして、その延長は約十八・九キロ、そのうちの三分の一が
住宅地域を通っておりまして、
あとの三分の二は
工場地域を通っておるわけでございます。
この構造でございますけれ
ども、一部掘り割りがございますが、ほとんどが
スラブ高架と
盛り土高架になっておるわけでございまして、その中に八つの
鋼げた橋と申しますか
鉄橋があるわけでございます。
列車速度につきましては、すべての
列車が
名古屋駅に停車いたしますけれ
ども、
市内の約十キロの
部分は
上下線とも二百キロの
スピードで走行いたしておる
現状でございます。
次に、本市に寄せられました
公害関係の
苦情の
内容でございますけれ
ども、一番多いのは
騒音、
振動でございまして、
騒音につきましては、先ほどの
お話にございましたように、
列車の
通過時の
騒音、それから
夜間に
保線工事を行ないますこれの
騒音の二つがございます。
被害の
訴えとしましては、電話が聞こえないとか、あるいは安眠できないとか、あるいは乳児が乳を飲まないとか、あるいは病気になっても療養ができぬとか、ノイローゼになるとかいったものまでございまして、日常の
生活に
相当の阻害があるということが寄せられておるわけでございます。
振動につきましては、
列車が
通過しておるところが、ほとんどが地質的に申しますと
沖積層でございますので、非常に軟弱でございます。
振動がそれだけにまた激しいわけでございまして、初めは
振動があるというので精神的な
被害として
訴えられておったわけでございますけれ
ども、
開通後七、八年
たちまして、壁が落ちるとか、あるいは物が落ちるなどの
物的被害の
訴えが加わってきておるわけでございます。
そのほか、
テレビ障害でございますとか
高架の下の衛生問題、蚊とかハエとか雑草があるとかいうような問題でございます。それから漏水、上から水が漏るとか、あるいは落石、石が落ちる、あるいは
日照権の問題、あるいは
風圧により戸がびりびりいう、あるいは雪のかたまりなどが飛散するとかいったものがございまして、精神的な
被害の
訴えもございますが、
日照など
生活環境に対する
被害の
訴えがございまして、非常に多種多様になっておるわけでございます。
次に、
公害に対します
住民の
動きでございますが、
昭和三十九年十月に
新幹線の
開通の時点から、
列車が
通過するときの
騒音、
振動につきましては
沿線住民から
苦情があったわけでございますが、正式に
名古屋市に陳情されましたのは
昭和四十年の六月からでございまして、当時いずれも限られた地点において問題があったわけでございます。代表的なものとしましては、古新町、これは
鉄橋でございます。六番町、忠治町などの
鉄橋付近からでございました。その後四十五年の十月に、南区の豊代町で
新幹線によります
テレビの
映像が乱れる、これは
列車の
通過のときに約七秒ばかり
映像がゆれるわけでございますが、この
テレビ障害に抗議する会が発足いたしました。そしてNHKの
テレビ受信料の
不払い運動が始まりまして、これが反響を呼びまして、大
部分の
地区に波及いたしまして、
地区のつながりを持ち始めたということでございます。
その結果、これらの
沿線住民が、
テレビ障害ばかりでなしに、さらに
騒音、
振動による
被害も長年月にわたって受けた、苦痛に悩まされて受忍の限度を越えたということで、
昭和四十六年十月に、
名古屋新幹線公害対策同盟連合会が結成されたわけでございます。それから
新幹線公害に対します活動が非常に激しくなりまして、今後また、ますますエスカレートするだろうというふうに考えるわけでございますが、この
新幹線の
住民の
動きといいますのは、初め点でございましたのが線になり、さらに面になってきたというふうに考えるわけでございます。
先ほ
ども干草会長からの
お話にありましたように、本年の二月三日には、
沿線の
住民五百八十九名が、今後は
裁判で決着をつけるんだということで、それ以外に
解決の道がないというふうに考えられまして
原告団を結成して、三月の末ごろを目標に訴訟の準備を進められておられるわけでございます。
次に、
名古屋市と
国鉄との
折衝経過でございますけれ
ども、
名古屋市としましては、
新幹線の
騒音の
実態をまずつかむことが必要であろうということで、
昭和四十二年の二月に
実態調査をいたしたわけでございます。これをまとめまして、その結果、
鋼げた橋をはじめ
騒音レベルが全般的に高いということもございまして、この
調査結果を添えまして、
国鉄に対しまして
騒音防止についての
善処方を要望したわけでございます。
御
承知のように、当時といたしましては、
新幹線の
公共性というものと、
新幹線の問題が法の
対象外になっておったということもございまして、
折衝するにもなかなか進展を見なかったわけでございます。その後四十五年から四十六年にかけまして、
学校とか
病院などのいわゆる
公共施設、それから
鉄橋二カ所についての
防音対策が
国鉄側において講ぜられたわけでございます。しかし、その結果は、
鋼げた橋におきましては十ホン程度下がったわけでございますが、さらに
学校とか
病院のところでは二、三ホン程度の
減音を見たわけでございますけれ
ども、全体として
騒音レベルが高いということから期待をした
効果がないということで、とうていこれは
住民の納得を得られるものではなかったわけでございます。
この
新幹線対策の
同盟ができまして
運動が活発になりまして、市にも陳情とか
請願がその後相次ぎましたので、
国鉄と
折衝を続けまして、四十七年の七月には、第一に
スピード制限の問題、二番目には
鉄橋の
対策、三番目に
防音壁の
設置、それから四番目には
振動の
実態調査、五番目に
緩衝地帯の
設置、六番目に
テレビ障害の
対策、七番目に
高架下の
環境対策、八番目に深夜
運行の禁止、九番目に
日照妨害の
対策、十番目に
被害補償の十項目にわたりまして、
国鉄に対しまして
善処方を要望して、さらに八月には、市長みずから
国鉄本社に出向きまして、いま申しましたような
内容について要望したわけでございます。
この要望に対しまして
国鉄からは、
スピード制限については、
都市間を高速で結ぶという
新幹線の使命を失うので、
社会的影響も大きいから実施が非常に困難であるという御回答を賜わっております。
緩衝地帯の
設置につきましては、
国鉄だけでは実施しかねるので、市側において行政上特段の配慮をしてほしいということでございます。深夜
運行の禁止につきましては、社会の輸送要請上、深夜
運行を規制することは
国鉄に課せられた公共的な使命を果たすことが著しく困難になるということで、いま申し上げましたような三項目については、きわめて困難であるという回答を得たわけでございます。その他、
鉄橋の
対策でありますとか、
防音壁の
設置、
テレビ障害の
対策、
日照妨害対策などにつきましては、一応検討するとか、あるいは逐次実施していく、あるいは研究するなどの前向きの回答をいただいておるわけでございます。
なお、この間におきまして、
名古屋市議会におきましても、
新幹線公害につきまして、まず第一に、
沿線騒音は道路に面する
地域の環境基準内にしてくれ、二番目には、
効果的な措置がなされないときには
スピードダウンをされたい旨の
意見書を
関係大臣並びに
国鉄総裁あてに提出されておるわけでございます。
九月の回答では、
住民の納得する
対策が見られないので、市では暫定措置としての
スピード制限と、それから根本
対策であります
緩衝地帯の
設置、また博多までの延長に対する深夜
運行の
住民の不安を除くということで深夜運転の禁止、この三点にしぼりまして、四十八年三月に、市の助役が
国鉄本社に出向きまして要請したところでございますけれ
ども、この要請に対しまして回答が寄せられておりますが、前の回答より前進がしていないということでございます。
その後、
振動に対します物的補償の問題について一応実施をするというような回答を得たわけでございますけれ
ども、
国鉄と
住民との間の補償条件に若干の相違がありますし、
住民は適切な補償を求めておったので、四十八年の五月に再び市長が
国鉄本社に出向きまして、前の
スピードダウン、バッファーゾーン、それからもう一つ、深夜
運行の禁止と、これに物的補償を加えて四つを要望したわけでございます。この結果、
国鉄側におかれては、
緩衝地帯の必要性は認めると同時に、また深夜
運行についても慎重に検討する旨の前進した回答は得られた次第でございます。
東海道新幹線について、その概要を述べさしていただいたわけでございますが、現在問題になっております点は、小さい問題でございますが、
国鉄から打ち出された措置として延べ二キロにわたる
防音壁の工事があったわけでございますが、先ほ
どもちょっと
干草会長が触れられたわけですけれ
ども、距離が
相当離れて三ホン程度の
減音がある。しかし
高架に接する
部分、いわゆる
高架の直下ではその
効果がほとんど見られないということで、
沿線住民の反対がございまして、現在工事があまり進捗されていないという問題がございます。
それから、
テレビ障害の問題でございますけれ
ども、これは
個人のアンテナ方式は
解決しておりますけれ
ども、共同アンテナ方式は維持費の負担などの問題で未
解決のところが残されておるわけでございます。
さらに、物的補償の問題でございますけれ
ども、補償金額とか、あるいは認定方法に
国鉄と
住民との間に相違がございまして、まだ
被害調査すらできない状態でございます。
重ねて申し上げるわけでございますけれ
ども、当面の暫定
対策としての
スピードダウンにつきましても、
都市間を高速で結ぶという
新幹線の使命を失うとして、これは譲られておらないわけでございますが、その上また博多までの
新幹線の延長
計画が打ち出されておりまして、
運行が開始されれば深夜
運行が必至だということで、
沿線住民が
現状の
公害を
解決せずに延長
計画を強行する
国鉄側の不誠意に対する怒りとか、あるいは行政に対する不信を高めるのではないかというふうに心配をいたしておるところでございます。
国鉄は、公共的な使命感、それからまた他の影響も考慮して、
スピードダウンや
緩衝地帯の
設置ということを除いての音源
対策については、
鉄橋の改善でございますとか
防音壁で対処するとか、いろいろな努力を払われて、一応認めるわけでございますけれ
ども、従来とられてまいりましたその
対策では、とうてい
住民の期待に沿えないということがわかった現在では、
国鉄はその加害者であるという認識の上に立って、汚染者負担の原則に基づいて抜本的な
対策を考えていただかなければならない時期だというふうに考えておるわけでございます。
ここで、市としてお願いを申し上げたいことは、まず第一に、
新幹線騒音などの環境基準を早急にきめていただきたいということでございます。
これは、
新幹線公害がこのような大きな社会問題に発展してまいったことは、いまでは
公共性が先に優先して通用しなくなったということは言うまでもございませんけれ
ども、
新幹線騒音に対する環境基準がなかったことが原因と思われるわけで、
昭和四十七年の十二月に環境庁長官から運輸大臣に対しまして、
環境保全上緊急を要する
新幹線鉄道騒音などについての勧告をされておりますが、この
鉄道の
騒音基準は八十から八十五ホンという
内容でございまして、私
どもとしては
住民の受忍限度を越えるものというふうに考えておるわけでございます。早急に、これから環境基準をきめていただきたいと思うわけでございます。
また
振動につきましても、先ほど
干草会長のほうからもいろいろ
お話がございましたけれ
ども、これは実は典型七
公害の中の一つにもかかわらず、いまだに
振動規制法というものが制定されておりませんので、これも早期に制定をお願いをいたすと同時に、環境基準とともにお願いできればというふうに考えておるわけでございます。
それから、私、二番目に思いますのは、
新幹線公害の
解決のためには、
国鉄だけじゃなくて、国の
関係機関が総力をあげて、側面からもこれに当たっていただきたいということを申し上げたいと思うわけでございます。
新幹線は、すべての交通機関がそうでございますけれ
ども、高速で大量輸送をするということの要請が実はあるわけでございます。しかも
新幹線の場合は国民に欠かせない交通機関となっておりまして、国においても全国
新幹線網の
計画が推進されておるように聞いておるわけであります。こうしたことから、
新幹線は
日本における大動脈だという国家的な事業だということでございます。したがって、
新幹線公害については
国鉄のみならず、オリンピックのときに、オリンピックの国家要請ということと同時に、国家的な事業であったということからいいましても、やはり国の
関係機関が総力をあげて側面から援助をして、
対策の実現をはかっていただきたいと私は思うわけでありますが、諸
先生方にはこうした面にお力添えをお願いをいたしまして、一日も早く
新幹線公害が
解決いたしまして、
公害を発生させない
新幹線網というものが建設されるならば、この上もない喜びと考える次第であります。
以上、失礼を申し上げました。(
拍手)