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堀野参考人 ただいま御紹介いただきました
堀野定雄でございます。
皆さまのお手元にあると思いますが、この緑の本を
中心にして私は話を進めさせていただきます。きょうは過
積みの問題でございますけれ
ども、非常に
関連の深い
疲労問題に重点を置きまして私のほうは
お話をきせていただきます。
全交運から
労働科学研究所に
委託がございまして、その
委託研究として学際的な
共同研究として行なわれましたその
研究成果が、この緑の本に
報告の形として出てまいったわけでございます。学際的と申しますのは、
社会科学、
労働法の
専門でございます
労研の
野沢浩先生と
自然科学、
人間工学をやっております私と
共同研究ということで進めてまいったわけでありまして、
トラック労働の肉体的、
精神的負担の様態及び
トラック労働を具体的に規定している社会経済的諸
条件を、
労働力、
労働過程、
労働力再生産の
有機的関連のもとで
把握し、
負担の軽減に必要な
労働と
生活の諸
条件を研究する、そういった観点から
調査研究を進めてまいりました。
そこで、私
たちが持ちました
目的は、最近の
高速道路、深夜
長距離運転労働の
疲労の
実態の
把握、それから
トラック労働者全体の
一般的な
疲労の
実態を
把握すること、及び
過労におちいらないで
安全運転が確保できるための適正な
運転時間制度の確立に資すること、そういったことを
目的として具体的にやったわけであります。
そうしましてとりました
方法は、大きく分けまして
添乗調査と
アンケート調査でありました。
添乗調査は、現行の
営業ダイヤに沿いまして実際にわれわれ
調査員が
助手席に添乗いたしまして、長時間の深夜
運転の
東名高速の
東京から名古屋あるいは大阪を往復しておりますそういった
路線トラックに実際に添乗いたしまして、昨年の十一月十六日から十二月九日にかけて行なわれました二十一便、それに
関係いたしました
トラック運転者二十七名の具体的な各種
人間工学的及び
労働科学的な
調査項目を設けまして、
運転者の
生体の
心身反応の
連続測定及び
車内環境の
測定などを行ないました。
また
アンケート調査では、二千名を
対象にいたしまして、
回収率六二・三%を示すこの
種調査ではかなりいい成績をおさめたわけであります。
そのほかに、約三十名の
運転手の方に
生活時間
調査を実施いたしまして、休日を含む一週間の
生活時間の
刻明な
記録をいただきました。
私
たち疲労を考えます場合に、基本的には、
生体が有機的な
存在体であるということから
単一要因で判断することは問題の
把握をするには不十分であると考えておりまして、
生体の持つ多面的な
生体原則を優先する発想で問題に当たっていっております。
きて、結果でありますけれ
ども、まず
労働環境が非常に劣悪であるということが言えます。
一つ申しますと、この緑の本の三七ページ以降の
図三つにございますが、
車内騒音が非常に高い。常時九十ないし百ホンの
騒音レベルにありまして、これはちょうど
ガード下の電車が通過するあの音と同じであります。また
高速道路に入りますと、市街地よりは下五ホン以上の
騒音レベルの増加がございました。あるいは
永久聴力損失の許容基準すれすれの
高周波成分がございまして、
車内におきます
会話妨害度をはかりますと、とても普通の
状態では話ができないような高い
騒音レベルでありまして、
トラックは
沿線道路住民に
車外騒音をまき散らすということで
加害者でもありますが、自分も
被害者である、こういった
状態がわかりました。
またさらに、冬の期間でございましたので
温熱状況をはかったわけでありますが、
温熱傾斜が非常に高い、大きい、そういったことがわかりました。具体的に申しますと、
運転者の頭の
レベルとそれからすわっております足の
レベルで
温熱の
条件をはかったわけでありますが、頭部におきましては二十三・八度を
中心にいたしまして約二十八度ぐらいまで、それに対しまして足のほうでは二十五・七が
平均値でありましてその範囲が約二十・六度から三十三・三度と
つまり下のほうが暑いわけであります。それは四四ページの図6及び図5にございます。そしてそれらをまとめましたのが四六ページの図8であります。それで見ていただくとわかりますが、温度に関しましては、
車内下部のほうが高くて上にいくほど少し低くなっている。そして外気温はもっと低い。それに対しまして湿度をはかりますと、座席が最近合成樹脂を使っております
関係上、非常に汗ばむほどの高湿度である。それに対しまして
車内上部のほうがやや湿度が高く、下部にいきますと湿度が低い、約二〇%台のものがございます。つまりこれは高温、低湿の
環境条件であります。あのような狭い
車内空間でそういった騒音、
温熱条件の
環境がございまして、これは眠気を誘う
要因として重視すべきであるし、また最近の
トラックがキャブオーバー型になっております
関係上、エンジンの余熱、つまり高速
運転におきますエンジンの余熱で、ヒーターを入れなくてもそういった
条件があります。さらにヒーターを入れますと三十度をこすような状況が実際にございました。四五ページの図を見ていただきますとわかりますが、ほとんどの
状態で快適域をはずれている、そういった
状態がつかめたわけであります。
対策といたしましては、騒音の発生源の解析を進めていくこと、また
車内温熱の分布を均一化するような換気
方法を考えること、そういったことが必要だろうと考えております。またエンジンケースの断熱化といったことも検討に値するのではないかと考えております。
さらに車外
環境ということで、実際に
高速道路を走っております場合の車線変更を逐一観察しましてカウントしたわけでありますが、車線を乗り移ることによって一とカウントいたしますと、
平均いたしまして一・九四分に一回あるいは
距離にいたしますと二・三七キロに一回の割合で車線変更を行なっております。これは各社ともかなり
条件のいい
会社でありまして、安全速度を各社できめておりまして、それを越えないような形で走っております。つまり普通の
状態で走っておりまして、これぐらいの頻度で車線変更をしなければならない。これは逆にいいますと、他車からもそのような頻度で追い越しをされているというわけであります。したがって精神
負担がかなり高まっている。決して無理な追い越しではないわけですけれ
ども、こういった頻度である。したがって、ハンドル、ウインカー、加減速の
操作及びバックミラーによる後方注視あるいは前方注視、そういった作業がたいへんひんぱんにあるということを示しております。もし、居眠りあるいは対向車の光の幻惑によりましてちょっとした誤判断がありますと、かなり重大な
事故が起こると思われますような状況がございました。
それから
労働時間に関しまして見たわけでありますけれ
ども、数年前の
調査報告などと比較いたしますと、非常に
悪化しているということがいえます。
まず、中継、折り返し点におきまして、最近のワンマン
運行は中継乗り継ぎ制をとっておりますが、仮眠休憩を省略する、あるいは途中の休憩時間を省略するといったようなことが常態化しております。それから、自宅睡眠時間が非常に減少しているといった事態がございます。具体的なデータを申しますと四九ページ、五〇ページに、私
たちが実際に添乗いたしまして時間研究を行なったわけでありますが、それの結果を一覧にしてございます。そして五二ページに時間の具体的な数値を表にさせていただきましたが、それを見ますと、ワンマン
運行とツーマン
運行で比較いたしますと、実ハンドル時間、すなわち実際に基地を出ましてから次の基地に着くまでの間に乗っかって実際にハンドルを握った時間を比較いたしますと、ワンマンの場合には八時間五十分、ツーマンの場合には四時間四十二分、これは
平均でありますが、ワンマンはツーマンの一・八八倍になっております。また拘束時間は、ワンマンが十一時間四十七分、ツーマンが十時間三十三分で、ワンマンはツーマンの一・一二倍。拘束時間でハンドル時間を割りました実ハンドル時間率というようなものを計算いたしますと、ワンマンが七五・三%、ツーマンが四四・八%、すなわちワンマンはツーマンの一・六八倍、こういった数値が得られております。
それから休憩から休憩までのハンドル時間、すなわち一連続ハンドル時間を見ますと、ワンマンの場合には三十分から二時間近くに分布しておりますが、ツーマンの場合には一時間以内から六時間近くまで分布したのがございまして、ツーマンにおきましては一連続ハンドル時間が長いといったことが印象づけられます。
それから休憩回数は、ワンマンのほうがツーマンよりは多いということもわかりました。
先ほど睡眠時間のことを申しましたが、
生活時間
調査を行ないまして得られました結果、
労働日におきましては何と三・七時間、これは
平均であります。路線トレーラーを含めます
路線トラックの
運転手さんの
平均でありますが、被験者は六名でございましたけれ
ども、実際に
報告くださった数が少なかったのですが、
平均しまして三・七時間。そして休日になりますと、それが十時間になっております。すなわち、休日に睡眠をとりだめることによって補っている。そういった
実態がございまして、他産業、たとえば電機産業などと比較いたしまして
トラック運転手の睡眠時間が非常にゆがんでいるといったことがわかりました。
それから、そういったことが背景にありまして、
アンケート調査で、眠けに危険感はないかといったことを聞きましたら、たまにあると答えたのが七三・六%、しばしばあると答えたのが七・九%、危険感を経験している人の数は計八一・五%に及んでおります。
それから、ワンマン
運行がだんだん普及化しておりますが、前回、全交運が独自に
調査されましたデータを見ましても五一%ないし七四・七%という数値がありますが、私
どもの
アンケート調査でも五〇%近い四五・七%のワンマン化といったデータが得られております。これは
高速道路を拡張したりあるいは貨物
輸送が長
距離化するとともにこの傾向が大きくなっているように伺っておりますが、今後大きな問題になってくると考えております。
それから、この
調査では
一つの
中心課題でありました一連続ハンドル時間及び休憩に関してデータを紹介きせていただきますと、休憩をすれば非常に
効果があるといったことが、私
たちが行ないましたフリッカー値テスト及びデュアルタスク法、それから
疲労自覚症状、
疲労部位
調査等によりまして裏づけられました。ところが一連続ハンドル時間を長くさせる
要因がたくさんございまして、列挙いたしますと、最近の大都市交通の
規制が自家用車本位に行なわれていることが原因になりまして、
トラック輸送が深夜に集中する。それから通行時間帯が
規制されるために、どうしてもきびしい時間範囲内で仕事をしなくてはならないといったことから、どうしても休憩をカットする方向にいく。それから東名
高速道路のサービスエリアが非常に狭いためにほとんど満車
状態でございまして、せっかく休憩しようとして入ってまいりましても満車でありましてとまれない、そういった状況が非常にございました。それから
荷主の都合な
どもございます。それから一連続ハンドル時間は、
アンケート調査を見ましても二時間と答えた方が約三三%、それからデュアルタスク法で見ましたところ、一・五時間から二時間くらいが適切ではなかろうか、これはまだ断定はできません。デュアルタスク法というのがまだわが国でもあまり応用されておらない
方法でございますので、もう少し解析をする必要がありますが、一時間半から二時間くらいで走行中の
運転手の反応時間が優位性を持って延びるというデータが得られております。それは八二ページの図の29でございますが、三十分刻みで区切って行ないましたところ、九十分から百二十分にかけまして、他の時間帯よりは顕著な反応時間のおくれが見られたわけであります。これを
一つの
根拠にいたしまして、一時間半から二時間くらいが
一つの注目してよろしい時間であろう。さらにそれを裏づけてくれますような資料といたしましては、産業衛生学会で、健康障害のおそれある
業務の
労働時間
規制に関する
意見書というようなものを出しましたが、そこでも、やはり休憩なしで四時間をこえる作業を禁止し、かつ作業の一時的中断が
労働者個々人において不可能ないし困難となる連続作業については、この上限時間を二時間とし、ともに所要休憩時間を定めるべきである、こういった
意見書がことしの二月に出されております。そういったことからも、二時間という線が
一つの注目すべき時間帯であろうと私
たちは考えております。
それから、時間がございませんので先を急がせていただきますが、
高速道路は非常に単調な監視作業の側面があるといったことが、クラッチ
操作頻度の
測定からわかりました。たとえば市街地では〇・二六分に一回、すなわち約十五秒に一回の割りでクラッチの
操作をしておりますが、それが
高速道路に入りますと一・九八分に一回、ざっと二分に一回の割りである。頻度が約一けた落ちるわけであります。つまりそれだけ監視作業的な、非常に
操作する内容が変わってくる。そして視覚的には
夜間でありますので、目に対しましては等質性がありまして、刺激の稀薄さがある、そういったことから単調な監視作業的な側面があります。
そこで、心拍数を連続してはかったわけですが一明け方の四時から五時ごろにかけまして、被験者の安静値よりは低いような値が得られております。これは
生体側ではその時間帯は眠りについてもよろしい、そういうかまえになっている
状態である、そういったことがうかがえるわけでありますが、そういった状況でも注意しながら走っていかなくてはならない。もしそこで何か突発的なことが起こればかなり重大な
事故につながるであろうということがうかがわれるようなデータが得られております。
それから、主観的な
疲労感を見たわけでありますが、肩がこる、目が疲れるといった訴えが非常に高い。それから腰痛と
関連いたしまして、腰、肩あたりにいろいろな身体違和感の訴えが得られております。
さらに驚きましたことは、アンケートでわかったのですが、健康障害であります。これはまだ断定できませんが、歯に変調を来たす人が全体の三二・五%ございます。特に経験年数がふえるとともにこれは着実な増加を見せております。それから腰痛ですが、四七%くらいの人が出ておりまして、重大な問題であると考えております。すなわち災害性ではなくて職業性の腰痛であろうということであります。
さらに安全に
関連いたしまして、ニアミスの体験を
運転手の方から聞いたわけでありますが、全体の二〇%以上の訴えがあった項目、それはこのテキストの一番
最後のところでございますが、付表の
最後のニアミスの経験というところで見ていただければわかりますが、全部で十一項目上がってきたわけでありますが、そのうち分析いたしますと、ぼやっとしていたとか、他車に気をとられていて追突したりあるいは衝突しそうになった、そういった内在的
要因、すなわちこれは全く本人の
責任であると考えられるようなものが二項目でありまして、あとは前車のほろに隠されていたとか、信号の位置が見えなかったとか、あるいは過
積みのために制御判断を誤っただとか、あるいは人、車が急に飛び出した、あるいは雨でスリップしたといったような外在
要因と考えられるものが多うございました。
以上で結果の
報告を終わらしていただきますが、
労働条件、
労働環境条件、
道路施設及び交通行政、つまり
交通規制等におきますところの交通行政などが相互に有機的に
関連いたしまして、
運転をあずかっている一人の人間の
生体にいろいろな影響を及ぼしている、こういったことがわかりましたので、これは
生体原則の発想に基づいてこういった問題を考えていかなければならないと考えております。
これは過
積みをした
状態でないデータでございますが、もし過
積みをしておればもっと重大なことが出てくるだろう、そういったことをうかがわせたデータでございました。
時間が超過いたしまして失礼いたしました。