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福田国務大臣 いまわが日本の物価がいかにしてかくも混乱状態になったか、こういうことにつきましてはいろいろ議論のあるところでございます。しかし、結果としてはああいう異常な事態になった。その現象面は昨年の下半期、特に石油問題が起きてから、人心は、これは先は品物は
価格は高くなるぞ、この際みんな買っておいたらどうだ、こういうことになって、そこで家庭におきましてもあるいは企業におきましても買いだめあるいはさらに進んで買い占め、土地はじめ諸商品につきましてそういう
傾向が起こっておる。
つまりそこで混乱になるのですが、物価というものはコストプラス適正利潤、これが
基準でありまして、その
基準が需給の
関係によって若干の振れが出てくる。これが正常な
価格体系です。ところが、そういう先高だからこの際買っておけというような思惑によって
需要が起こる、これを仮
需要といわれておりますけれ
ども、これはまさに投機行為でありまして、それによって生まれてくる
価格というものは、これは物価じゃなくて相場であります。投機によってつくり出された相場である。これが昨年の下半期からことしの正月ごろまでにつくり出された、土地はじめ商品の
価格でございます。
つまり、コスト要因というよりはむしろ需給要因、特に
需要の中に仮
需要という投機的な思惑が入り込んだというところが物価の混乱した現象である、こういうふうに、これはどなたもそういうふうに見ておると思いますが、これを一体どういうふうに克服するかということが問題なんです。
そこで、私は三つの段階になってくると思うのですが、
一つは仮
需要の起こらないような、
つまり投機的心理、そういうものを国民全体、家庭からも企業からも取り除くという時期が
一つ必要である。そういう状態を現出するためにはどうするかというと、需給のバランスで供給がやや過剰な状態をつくり出すほかはない。そうしますれば、幾ら物をためましても、あるいは下げましても、これは物はある、したがって先に高くなるはずはない、これはまあみんなそういうふうに
考えるだろう、そういうふうな状態をつくり出す必要がある。
そこで使った手が、総
需要抑制政策です。
つまりその需給を供給過剰の状態に一度持っていく必要を
考える。そういう状態を実現するためには、供給をうんとふやすという手もあるわけです。ところが、供給をふやすこと自体がまたインフレを刺激するということになりますから、その手はあるけれ
ども、使えない。そこで
需要を押えるほかはない。こういうので、まず
政府が率先して
需要を喚起しない政策をとるというので、
予算を思い切って引き締める。また地方公共団体にも協力を求める。また同時に民間に対しても、設備投資はじめ民間の
需要を押える、こういうので、金融を抑制するという政策をとるわけなんです。
そういう総
需要抑制政策をとりだして、いま三カ月半になりますけれ
ども、やっと二月中ごろからそのきき目が顕著にあらわれてきております。二月は高い油の入ってくる月でありますが、この油が、統計の
数字からいいますと、横浜に着きますと、まだ
国内の
経済には何らの影響はない。その横浜に着いたという段階で卸売物価には取り入れられるシステムになっているのです。そういう結果、卸売物価の指数とすると三%何がしか上がっておりますけれ
ども、実質的にはこれは横ばいの状態を現出しておる。三月になりましてからも、そういう状態が続いておる。
まあいろんな角度から人の見方というものを聞いておるのですが、先高である、この際買っておかなければ損だ、買っておけば得になる、こういうような見方をする人は大かたなくなってきておる。私は、いまの総
需要抑制政策がもう一月も続けば、これは土地を持っている人、せっかく買いだめた、高く、何倍にも売れそうだというので土地を持っている人も、これははき出す、こういう状態になってくると思うのです。金利を払って、先高くなる
見通しもないのにそれを保有するそういう方、これはもう私は、そうあるまい、こういうふうに思う。あるいは鉄にいたしましても、昨年の十一月ごろはトン十一万円もした。いま七万円を割る、こういう状態だ。木材にいたしましても下がってきた。セメントは頑強に粘っておりましたけれ
ども、これも下がってきた。あるいは繊維のごときは、三割あるいは三割五分下がってきた。そういうふうに、主要資材はずっと下がってきておるのです。いま大体、新聞にも書いてあるようですが、八割方、狂乱物価討伐戦は成功しておる。
あと二割、もう一月、こういう期間をおきますれば、これは固めができるであろう、こういうふうに見ておるのです。なおその後といえ
ども総
需要抑制政策を進めれば、諸物価は下落の
傾向をずっとたどってくる。
ところが、そういう
傾向をたどるべきである日本
経済の中で、物価を引き上げる要因というものが起きてきておるのです。それが需給面じゃない、コスト面においてであります。まず電力の問題が起きてくる。その次に私鉄の問題がある。次には国鉄の問題がある。そういうふうなコスト引き上げ要因というものが出てきておるわけであります。ですから、私はこの狂乱物価討伐戦は大体今月ぐらいでけじめがつく、こういうふうに見ておりますけれ
ども、その後に続く時期、これは第二段階になる。
つまり、ただいま申し上げましたようなコスト引き上げ要因をいかに克服するかという問題なんです。
その場合におきましてもまた、総
需要抑制政策というのが非常にものをいうのです。この抑制政策がないままにコストが上がりますと、コストが上がっただけ物価が上がってくる、あるいははそうじゃない、それ以上に輪をかけて上がる、こういうことになりかねない。そこで総
需要抑制政策を緊持して、
経済の鎮静をさらに一段と強化する。そういう中におきまして公共料金の改定諸問題を処理する、こういうプログラムを
考えておるわけなんです。
つまり、需給要因から物価は下がる
傾向にある、コスト要因からは上がる
傾向、その交差するところ、それがこれからの物価の安定点というか、新
価格体系というものになってくる、こういうふうに見ておるわけです。
大体、私も
総理も、夏ごろまでには物価は安定するというふうに申し上げておりますが、それは狂乱討伐戦は、春ごろまでには済む、当面四月、そういう時点においては済みそうだ。その後には、第二段階としてそういう公共料金、コストプッシュの要因をさばいていく、そういう時期になる。これをさばき切ったところで新
価格体系というものができる。それで、その後第三段階におきましてどういうふうになるか、こういうと、これはやはり物価政策あるいは国際収支
対策、また
資源の状態、そういうものを十分見て、
かなり引き締めた体制の
経済を続けなければなりませんが、その引き締まった
経済体制、
経済政策の中で新しい日本のこれからの行く手をきめていかなければならぬ、こういう時期になるだろう。そういう新しい展望の芽を出すのが
昭和五十
年度予算、こういうことになってくるであろう、こういうふうに見ておるのであります。
これからもいろいろ変化はありましょうが、そういう時期になりましても、
国内要因ではもうインフレは再び起こさない。ただ、国際要因あるいは為替レートがどうのこうのという問題もあります。これはないことを欲しますけれ
ども、いま国際為替
市場が非常に荒れておる、そういう状況の影響もわが日本には避けられないし、また国際社会が——私は、ことしの国際社会というものは、去年と違って
かなり引き締まった状況で推移すると思うのですが、もし各国が、わが国がとっているような厳正なインフレ抑制
対策をとらないというようなことになると、先進諸国の中に物価高の国が起こるかもしれない。また、物価高の国がないといたしましても、あるいは天気のかげん、そういうようなことで穀物の値段がどうなるか、こういうような問題もある。あるいは
資源を非常に重視するような時期になってきておりますので、
資源保有国がその
資源の値段をどういうふうに操作していくかというような問題もあるいはあるかもしらぬ。そういうことで、
海外からの
輸入価格がわが日本に作用する、これはなかなか避けることはできないと私は思うのです。下がってくれればいい作用をするわけでありますが、この上がった場合の悪い作用、これを拒絶する、こういうわけにいきませんけれ
ども、何とかして、
国内要因で再び
経済をインフレのように混乱させるということは避けていく、これはもう政治のかじのとり方次第でできる問題である、こういうふうに
考えて、いまいろいろ具体的な施策を練っておる、こういうことであります。