○渡部(一)
委員 私は、公明党を代表して、
所得に対する
租税に関する二重
課税の
回避のための
日本国と
スペイン国との間の
条約、並びに
所得に対する
租税に関する二重
課税の
回避及び脱税の防止のための
日本国とアイルランドとの間の
条約に対し、反対の意を表するものであります。
一九七〇年代の
国際経済は、激動の時代に突入し、エネルギー資源問題あるいは食糧危機問題の顕在化は、工業消費国間の協調体制に大きなひび割れを生ぜしめ、今回の国連の資源特別総会に驚ける開発途上国は、経済自立を目ざし新たな
国際経済秩序を求め、独自の歩みを展開し始めております。
このような潮流は、戦後二十五年間の世界経済の運営の原理であった大企業、超大企業による自由、無差別の原則についての基本的な問い直しが行なわれているものであり、それはすなわち、工業的先進国の今日までの経済政策に対する挑戦であり、そして経済成長思想や自由化原則に基づく物的生産の量的極大化や無原則な価格メカニズムに対する挑戦であるのであります。
したがいまして、かかる時期に、
わが国は、GNPの大きさがアメリカに次ぐ規模に到達したという虚構の上に立ち、国民福祉の犠牲の
もとに従来の
国際的ワク組みの中で企業の海外進出を無条件に支持するということについては、十分の反省と検討を要するのであります。
今回
わが国において、アイルランド、スペインとの間で
租税条約を
締結することにより、二十八カ国にのぼる国々とこれらの
条約が
締結されるわけでありますが、これらの背景に対応する
条約であるかどうかにつき基本的な問い直しが行なわれなければならないのであります。私は本
委員会において、これらの諸問題について数々の疑問と問題点を
指摘したのでありますが、いずれにおいても明確なる回答はなく、この問題の大きさを示しているものであります。
すなわち、
わが国が、これら
租税条約を
締結するにあたり、その準拠すべきモデル
条約は現在
OECDの財政
委員会で再検討が行なわれている段階であり、すでに多くの問題点があることは、そのモデル
条約の改定
交渉の途上明らかにされているところであります。
しかも一九七二年五月には、この財政
委員会が
租税委員会に改編され、
租税条約の乱用問題だけの検討のみならず、
租税政策全般に関して広く討議、研究が進められているということは、
国際経済の現状からして当を得たものであります。しかし、その結論は、今日に至るまで依然としてまだ出ていないばかりか、基本的な問題点について不合意である点に留意をしなければならないのであります。このようなときに、数々の問題点を含む本
条約に対し、
わが国政府が率先して本
条約の
締結促進に熱意を示すことは、異常な事態として疑念を抱かざるを得ないのであります。
すなわち、本
国会におけるわが公明党の代表
委員たちの予算
委員会をはじめとする追及において、たとえばトーメン、丸紅、日商岩井等のごとく、世界各地に子会社、支店網等を一社当たり九十カ所から百二十カ所に及ぶ拠点を設けた会社につき種々の追及を行なったわけでありますが、これらの会社は、五百人から八百人に及ぶ人員を派遣し、海外法人を隠れみのとして、裏帳簿による不正利得あるいは経理、価格、在庫操作等による悪質な組織的脱税行為を行なったことが明白にされ、そしてそれは国内法に違反するのみならず、
国際法、特に
租税条約網の陰の中において行なわれたということを注目しなければならないのであります。
すなわち、本社及び支店あるいは親会社対子会社の
関係において、社内移転価格、トランスファープライスが、ある場合にはオーバーインボルビングし、ある場合はアンダーインボルビングし、これら本社あるいは多国籍企業によるところの
国際経済機能に対する打撃というものは、いまや隠微な形で進行するのみか、顕在化し、国民生活に対する打撃となってはね返っているのであります。
すなわち、このような
租税条約網というものは、本来二国間における企業の二重
課税を防止するという
意味合いをもってスタートしたものでありますが、いまやこの
租税条約網は、全世界において多国籍企業が合法的と称する脱税を行なうのにその手をかし、いわんや子会社の株主の利益を損壊するような側面さえも持っているのであります。
また、多国籍企業は、これら
租税条約網のおかげで、国内
同一企業会社よりもはるかに有利なる税法上の特典を受け、そのほか税法上のみならず営業あるいは資金あるいは労務あるいは技術等において、大幅な有利さを持っていることを考慮するならば、多国籍企業問題に対する
わが国政策の基本というものが那辺にあるかを疑われてもやむを得ないものであります。
したがって私は、本
委員会において多国籍企業に対する
わが国通産政策あるいは大蔵政策につき種々
質問をいたしたわけでありますが、これらに対して明確なる回答はなく、むしろ現状の問題の大きさというものにかまけてこれに対して的確な御
答弁がなかったことはきわめて遺憾であります。これら多国籍企業間の問題というものが
国際経済体系の根本を動揺しせめ、
国際的脱税行為をはじめとする不備なる
国際条約の合法面を装った不正行為を次から次へと前進せしめている現段階におきましては、これら
国際的
課税上のトラブルを調整し、
租税負担の公平化をはかるということは、わが一国のみの問題点ではなく、世界的な問題点として、国連的レベルにおける問題点として、あらためて
課税原則というものを再
確認することが必要であると
考えるものであります。
国際間における二重
課税防止をするということの
意味合いが大きいという、そういう一点だけの回答をもって、そして小さな点に問題点を矮小化することによって本
条約を強行し、推し進めるということでは、今後の
わが国の外交の基本方針に対してもなおかつ打撃を与えるものと信ずるものであります。その
意味で、
わが国が今後世界諸国との間で友好親善を促進し、平和外交を推し進める際には、これら一連の
租税条約群に対し、現状時点における
国際情勢の変化を考慮せずにそのまま推し進めるということは、むしろ世界諸国との間に基本的な不信を惹起し、友好を阻害する要因となり、また南北問題を激化せしめる要因になるのではなかろうかと憂えるものであります。
私は、かかる時点において先進工業国の一員としての
わが国が、いわゆる多国籍企業の世界的企業を支援するの形で、こうした形で
国際経済体制を維持擁護する
立場に立つことに対し、深い疑問を持つものであります。そして
わが国は、さらに
わが国の先進大企業に対し、海外巨大企業と化し、先進多国籍企業というものの一環に立つことを推し進めるという方向も、また
わが国の外交方針に対し、一定度の大きな緊張を巻き起こすものになると憂えるものであります。
先日の例によりますれば、ザイールにおいて、ある自動車会社がその国から合法的な形で国有化するべき申し出があったのに対し、その問題は小さな事件ではありましたけれ
ども、問題点は鋭く惹起しているのであります。すなわち多国籍企業はいかなる
国家内における紛争においても、本土側
政府の無条件の支持を取りつけられない、また本国は受け入れ国に対する内政干渉を放棄するという
意味のカルボ原則というものを
わが国は採用すべきであることも私は本
委員会で
指摘をいたしたわけでありますが、外務当局からは検討する旨の
意思表示はありましたけれ
ども、これまた御返事がなかったことはまことに遺憾であります。
これらの原則を幾つか
考えれば、
わが国の外交はいまや手放しで独立権の侵害、後発国に対するところの容赦なき、仮借なき経済収奪への道を直進することにもなりかねないと思うのであります。私は、ここで一転して
わが国外交が世界経済の中の新しい秩序と新しい緊張緩和を目ざすためには、ここで多くの提案が行なわれなければならないと思います。
その第一は、多国籍企業問題につき、国連においてこれについて十分の討議をなすべきこと、多国籍企業に対して情報センターを設け、これを
国際的にその情報を集めること、現在のような一国
租税当局の能力をもってしては多国籍企業のその広範な
租税に対して何ら有効的の措置がとられないことはすでに明らかであり、
政府報告書にさえ明らかであります。したがって、私はそのような
意味の情報センターというものを確立することを
わが国は率先指導すべきであると思うのであります。
それから次に、
わが国の独禁法はすでに国内独禁法としても問題でありますが、
国際的な
立場から見るならば、
国際的な独禁法立法が必要であることはすでに明らかであります。その
国際的な独禁法の検討に対し、
わが国はいま率先して提案々なすべきものであります。
また
わが国は環境規制あるいは
国際的な投資の問題あるいは子会社に対する
課税の問題、そうした問題についても
国際的な十分の討議を提案すべきときが来ていると思うのであり、それらに対して
わが国は今日まで行なったような国内における大企業保護政策というものを
国際的に及ぼすべきものではなく、財務当局、経済
関係当局並びに
外務省の間の十分の討議と検討が行なわれなければならない時期が来ているのではないか、こう提案をいたすべきものであります。
わが党といたしましては、これまでの
租税条約群に賛成した
立場を本
委員会よりこれに対し反対の
意思表示を表するゆえんは、私がいま述べたとおりであります。そしてこの提案は、明らかに今日における
国際的な収奪行為あるいは
国際企業と民衆との間の利益の背反というものに対し鋭く考察いたしますとき、当然の行動ではなかろうかと私はみずから判断をいたすものであります。
その
意味で、私は今回の
租税条約の審議あるいは今後の
租税条約審議に対しましては十分の御検討を賜わり、今回におかれては当局における研究不足はむしろ目立ったのでありますが、この
租税条約群についてはあらためて全面的な再考慮と、
日本外交の中の、経済外交の中の多国籍企業問題に対する明快なる判断というものを今後に要望いたす次第であります。
以上をもちまして公明党を代表し、本二
条約に対する反対の討論といたします。