○森中守義君 私は、日本社会党を代表し、
昭和四十八年度
予算三案に対し、全面的に不満、かつ絶対反対の討論を行ないたいと思います。
まず、三案の内容を問題とする前に、
政府に対し、厳重に警告をいたしたいと思います。
その第一の点は、例年のこととは言え、本年もまた、全般にわたる
政府見解の不統一、失態等々、まゆをひそめるような醜態のために、いたずらに日程を狂わしめ、おのずから年度内成立を不可能なものとし、またまた
財政法三十条をたてに、暫定
予算を提出し、憲法六十条を背景に、自然成立を見越して本院での
審議を大幅に制限せしめたということであります。
本院は、
予算審議が一定期間に拘束されている
現実から、いかに効率的、内容的、高次元的に取り組むべきかは、議長をはじめ全議員が党派をこえ、真剣であることを自負しているところであり、
政府の態度と措置は、二院制のもとにある本院のべつ視であり、かつ、
財政民主主義の原則を破る暴挙であり、あらゆる機会にあらためて問わるべき重大な問題であります。
その第二の点は、
予算審議を通じて浮きぼりにされた官僚の姿勢についてであります。あえて顕著な事例をあげておく必要があります。
その
一つは、防衛庁の施設庁
長官が、指示されていた時間に出席せず、一時間余も
審議に障害を与えたこと。
その二は、
防衛庁防衛局長が、平然とうその
答弁を繰り返し、文民統制の
現状に大いなる疑惑を持たせ、ひいては
政府答弁全体についてその信憑性をあらためて吟味する必要を痛感をしたことであります。
その三は、外務省事務次官が、閣僚
答弁を暗に否定、かつ批判をしたということであります。
第四は、
財政当局が、重要な
財政資料の提出を頑強に拒み続け、その秘密性を貫こうとし、
財政を
予算審議の対象外の観念にあくまで立とうとしたこと。他面、その資料が横流しをされ、あまりにも高価に市販をされ、黒い疑惑を持たしたこと等々であります。
これらは、一党独裁のすき間に官僚の独善が台頭し、議会制度の危機感をいまさらのように知らしめたことであります。
総理をはじめ全閣僚は、
現状を直視し、信賞必罰を具体的に実行すべきことはもちろん、議会制度下における官僚のあるべき姿勢を事実をもって確立さるべきであり、本院はその推移をきわめて重大な関心を持って見守るものであります。
さて、
予算三案の内容についてまず指弾されなければならないことは、
予算編成に対する
政府の基本姿勢についてであります。
政府は四十八年度
予算編成の基本方針として福祉の向上、
物価の安定、
国際収支の改善を三大課題とし、これを同時に達成することが主
目標であるとしているのであります。そして
政府みずからこれをトリレンマの悩みと称し、この困難を乗り切ることが
財政主導型による四十八年度
予算の使命であるとしております。しかし、激動する国際
情勢の中での日本
経済のあり方と、
国民すべての願望をあわせ
考えてみますならば、この三本の柱を同時に達成するとか、トリレンマの悩みという発想自体が根本的に間違っていると言わざるを得ません。
今日、
国民が最も熱望し、かつ世界じゅうのまなこが注がれているのは、日本
経済の見せかけの繁栄、
国民福祉を無視し、その犠牲の上に成り立つ無謀とも言うべき国際競争力を生んだ
経済構造と政策の運営をいかに是正し、転換するかにあることは明々白々なことであります。してみれば、三つの課題の同時達成ではなく、
国民福祉と社会保障の向上一本に政策の基本をしぼり、体質改善を最重点に、思い切った資源配分をすることが、同時に
物価の安定と
国際収支の改善に役立つことになるのは理の当然と言えるでありましょう。
しかるに
政府は、表向きには三本の柱の同時達成という政策を掲げながら、実は列島改造という名のもとに、高度成長維持政策を基本としているところに、国土の荒廃、公害の拡散、
物価暴騰から人心の腐敗に至るまで、今日のあらゆる諸悪の源泉があると断言せざるを得ないのであります。虚構の施策、手順の誤り、優先順位を無視したところの列島改造策、これらを撤回しない限り、福祉も生活安定も、さらには国際的信頼すらもかち得ることは不可能だと
考えるのであります。
次に指摘をしなければならないのは、内外の
情勢についての
見通しの誤り、タイミングを失った無責任な政策運営であります。
昨年秋、すでに
経済成長のいわゆる瞬間風速は一〇%をこえ、景気は回復過程にありながら、円
切り上げ防止には国内景気の早期回復以外にないという硬直的な思考から、公共土木事業を中心とする大型補正
予算を組み、外為会計の大幅黒字に基づく国内通貨の膨張と超
金融緩慢政策を背景に、
金融機関からの巨額な貸し出し増加傾向を放任し、未曽有の量にのぼる過剰流動性資金を発生させたのであります。あまつさえ、内外に対する公約たる円対策の実行をサボり国際通貨
情勢の変化を予想外の事態という口実にすりかえ、無為無策に過ごしてきたのが今日までの
政府の態度であります。
経済見通しの前提がくずれているのに
予算の
修正に応ぜず、さらに超大型のインフレ
予算を発動させることは、あたかも狂った羅針盤を持った大型タンカーを波荒い大海に出航させるようなもので、これでは、ばく大な手元流動性資金を持つ大
企業や商社その他大小もろもろの投機資金保持者が、土地に株式に各種商品に、買い占め、売り惜しみの思惑に出るのは当然のことであります。そして買いだめできるものは買いだめし、もうけるものはすべてもうけるのを見過ごし、平時としては史上たぐいのない
物価暴騰を招来するに至って、
政府は、ようやくこそくな
金融引き締め政策を発動することによりいかにも事態収拾が可能かのような態度をとっているのであります。庶民が生活物資の不足と
物価高騰に悩み、一日も早くインフレ退治を切願するや、
政府はこのようなインフレマインドこそインフレを促進させるものだとの詭弁を弄し、すべてが後手に回った政策の責任を回避しようとする態度は断じて許すことができません。
もし為替の変動相場制が長期化し、円の大幅
切り上げが
現実化しているとき、
金融引き締め政策が当を得ないとすれば、中小
企業は言うに及ばず、
経済界全般の激烈な変動を結果することは火を見るより明らかなことであり、これらの責任はあげて
政府が負わなければならぬことを、いまから指摘をしておくものであります。
昭和四十八年度
予算が生産第一、
輸出優先から福祉向上、社会資本の充実、
国民生活重視型への切りかえをしようとするものであると、
政府はいかに主張いたしましても、当
予算委員会における歳入歳出両面にわたる
審議の過程を通じて、いかに虚偽に満ちているものであるかは明白になりました。いまさら一々具体的
数字をあげて例証する必要はございません。看板と内容とが全く違うものであり、利益団体の圧力に屈し、長期政権の堕性に流れ、硬直的にして大
企業優先の内容を持つインフレ促進
予算案であることは、だれの目にも明らかであります。
最後に指摘する問題の
一つは、わが党多年の主張である
財政投融資計画の国会
審議が実現をしたにもかかわらず、
政府は詳細なる資料の提出を拒み、年金原資の収支不明、大
企業への融資トンネルの実態、その他どんぶり勘定的な運営上の疑問など少しも明らかにされず、国会の
審議権を名目だけにしている点であります。
そしていま
一つは、
予算の執行について憲法九十一条で歳入歳出、公債、借り入れ金及び国有財産の現在高その他
財政に関する一般事項、これらが
義務づけられているのに、これが全然守られておりません。また、四半期ごとに
予算使用の
状況、国庫の
状況その他の
財政の
状況について国会及び
国民に報告すべしと
義務づけられているのに、時期はずれの、しかも文字どおり報告に値しないお茶にごしの報告であって、この面における公然たる
政府の憲法違反の疑義はすみやかなる機会に徹底的に追及される必要があるということであります。
要するに、国政各般にわたり極度な時間の制限を受けていることを見越して、
政府の不誠実きわまりない
答弁のために、すべて疑義が解明されないまま
予算審議の終局を迎えたことを心から遺憾とし、以上をもちまして
昭和四十八年度
予算三案に対し絶対反対の意思を表明いたしまして、私の討論を終わります。(拍手)