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白木義一郎君 私は、公明党を代表して、このたびの
金大中氏強制連行
事件に対し、
総理並びに
関係大臣に
緊急質問を行なうものであります。
本
事件は、
わが国民を大いに驚かしており、また、日を追って世論は高まっているのであります。かねて
治安の良好なことにおいては
世界に評価の高かった
日本の
首都東京で、組織的な
外国人犯罪者により、白昼公然と誘拐されたこの
事件は、わが司法
警察権に対する信頼をそこない、法治国
日本の威信を傷つけたことにおいて、前代未聞の怪
事件であります。
われわれがその
真相究明を強く要求し、
政府の
責任を追及してやまない理由は何か。
その第一は、この
事件は
わが国の
主権が
侵害された
疑いがきわめて濃厚であることを
考えるとき、われわれ
国民はこれを黙視することができないからであります。
その第二は、この
事件は
人間の存在にとって最も基本的な人身の自由が
侵害されたという点において、ゆるがせにできないものがあるからであります。
しかも、いまや
日韓関係の基本的なあり方が討議され、新たな
段階を迎えようとしている現在、日米首脳会談における
朝鮮半島の平和と安定の促進に貢献することを共通の意思として確認し合った
わが国にとって、このたびの問題をどう
解決するか、
世界各国の注目するところであります。したがって、
政府は、一切の疑惑を晴らし、さらに将来ともに正常なる
日韓両国の
友好のいしずえを築くためにも、積極的な
姿勢をもって
事件の
解決に臨んでいくべきだと、最初に強く要望するものであります。
さて、
事件発生以来はや一カ月、
日韓両国の
事件解明の
努力もむなしく、すべては暗礁に乗り上げております。その最大の原因は、初動
捜査のおくれもさることながら、
金大中、
金東雲両氏をはじめとする
関係者がすべて
韓国にいるからにほかなりません。その上、
日本からのたびたびの
捜査協力の
要請にもかかわらず、
韓国政府の
態度は一向に変化が見られないのであります。しかし、そこには、
日韓両国の
友好という美名に隠れた、
日本政府の
事件解明への消極的な
態度を見のがすことができないのでありますが、今後可及的すみやかにこの
事件を
解決するため、
政府がどのような具体策を検討されているのか、まずお伺いしたい。
いまもしいままでのように、何の
対策もないまま、この
事件の
解決がおくれればおくれるほど、
わが国民は、
韓国政府に対してはもとより、
わが国政府に対しても大きな不信感を持ち、かえって真の
友好がそこなわれるのであります。
総理、あなたは
わが国政府の最高
責任者であります。この
国民感情をどう認識されているかを、あらためてお聞きしたいものであります。
さらに、警視庁特捜本部の
捜査結果により、
韓国大使館の
金東雲一等書記官をはじめ数人の
韓国政府機関員が介入していることが、ほぼ明らかであります。しかるに、
政府は、これまで「国家の
主権が
侵害されたとは言えない」との
答弁を何回も繰り返しているのであります。それでは、
政府は
日本警察の
捜査結果は信用できないとおっしゃるのですか。このたびの
真相は、
捜査当局がたどりついた真実の
一つであり、この真実は絶対にゆるがせにできない事実なのであります。なぜかならば、ホテルに残された
指紋と
金書記官の
指紋が一致するというこの動かしがたい事実を見るならば、国家の
主権が
侵害されたことは明々白々であると思うものであります。
総理の明快なる
答弁を重ねて
お尋ねいたします。
また
政府は、
公権力が介入したと断定できなければ
主権の
侵害にはならないと答えられております。しかし、
関係者の
金大中氏及び
金東雲一等書記官等の再
来日のめ
ども立たない今日、
捜査当局が直接
関係者を調べずして、
公権力の介入を
証拠立て得る可能性があるのかどうか、
お尋ねしたい。もし可能性がないとするならば、いかなる方法をもって
主権の
侵害であったかどうかを断定するのか、
国民の
納得いく
答弁をお願いしたいのであります。なぜならば、この一件が、
証拠不十分のまま
両国間の政治的レベルの妥協によってうやむやのうちに
処理されてしまうことをわれわれは最もおそれるからでありますが、いかがでしょうか。
次に、
金大中氏並びに
事件関係者の再
来日の件について
お尋ねいたします。
事態の進捗が見られた今日、
政府は再度
後宮大使を召喚し、事情を聴取する必要があると思うのであります。そして
金書記官及び
関係者の
来日はもとより、
金大中氏の生命の安全を保障し、一切の条件をつけることなく再
来日させるよう、
韓国政府に対して強く申し入れるべきであると思いますが、
総理の見解をお聞きしたいのであります。
もし、それでも
事件の
解決に手間どるようであるならば、
韓国に対し直接に
特使を派遣する必要があると
考えられますが、簡単にございませんという御
返事ですが、理由もおっしゃらずに、ないということは、
政府自民党にそのような大論士がいないのか、人材がいないのか、もしいないとすれば、わが
野党には幾らも人材がいるということを申し上げたいのであります。
また、
金大中氏等の再
来日が決定的に不可能となった場合には、
政府はいかなる処置をとるのか、その具体的
措置を明らかにしていただきたいのであります。
日本国の
主権の
侵害を論ずることは、もとより最大の必要事でありますが、その前に、金氏をはじめ家族全員の生命の安全をはかることこそ肝要でありましょう。私は
政府に対して、強力なる
姿勢をもってこの問題に対処するよう強く要望するものであります。
次に、南北
朝鮮政策について
お尋ねいたします。
南北
朝鮮の自主的な平和統一を目ざす南北共同声明が発表されて以来、一年有余を経ておりますが、この間、
朝鮮半島をめぐる諸情勢は大きく変化を遂げております。しかし、このたび起こっだ
金大中氏
事件は、情勢の変化に拍車をかけるだけでなく、南北
朝鮮の統一を望む民衆の声に越えがたきみぞをつくったばかりでなく、自主的な平和統一の道を逆戻りさせた感を免れないのであります。
総理は、この事に対して、
事件発生の当事国の
責任者として、どのような
所見を持っておられるか、
お尋ねしたいのであります。
政府としては、今日までとり続けてきた
朝鮮政策、すなわち
韓国を
朝鮮にある唯一の合法
政府とした国連決議に基づく
日韓基本条約の締結、佐藤・ニクソン共同声明におけるいわゆる
韓国条項、さらには、無原則、無制限の
経済援助など一連の
韓国へのてこ入れ政策が、
朝鮮民族の共通の
願望である平和的統一を妨げてきたばかりか、むしろ、同半島の緊張を高めてきたことを考慮するならば、いまこそ
わが国の対
韓政策を再検討すべきときであると思いますが、いかがでありましょうか。
さらに、このような
状況のもとでは、このたびの
事件の
解決を見ない限り、
日韓閣僚会議は無期延期をすべきであると
考えますが、あわせて
総理のお
考えを伺いたい。
次に、
警察当局の今後の
捜査についてお伺いします。
すでに、
事件発生後における初動
捜査については、数多くの失態があったことは明らかな事実であります。すなわち、
捜査当局が全国の空港、港湾並びにそれに通ずる主要道路の検問を指示したのは、
事件発生後一時間半もたった後だったではありませんか。しかも犯
人たちが
世界最高を誇る
わが国警察の検問をくぐり抜けたことは、本
事件に対する
警察庁の甘さか、あるいは
韓国情報機関に対する
政治的配慮があったのかどうか、はなはだ疑問とするところであります。このような
当局の緩慢な
動きは深く反省すべきであると思いますが、国家公安委員長の
責任ある
答弁をお聞きしたいのであります。また、その後
捜査当局の手によって判明した新事実についても、この際
政府から詳しく説明をしていただきたい。
さらに八日朝、法務省大阪入国管理事務所伊丹空港出張所が明らかにした安竜徳氏の
出国について
お尋ねいたします。
警察庁が安竜徳氏に対し、金氏の証言をもとに
任意出頭を求めていたことは明らかであります。しかるに何の返答もないまま、再入国の手続もとらず帰国したことは、
捜査上の大きなマイナスになることは明らかであります。このように
警察当局の
任意出頭を求める
人たちが何の断わりもなく次々と
出国していくことは、今度の
事件に関し、
わが国政府に対する
韓国政府の
姿勢を如実に示していると言えるではありませんか。このように、気がついたときはすでに
関係者等は国内におらず、
金東雲一等書記官のように、再び
捜査の困難と遅延を招く結果になるのであります。そこで私は、
犯罪グループとして
容疑のかかっているメンバーや、あるいは重要参考人と認められている者の中で
外交官特権を有していない者に対しては、早急に
任意出頭を求めて取り調べることが必要であると思うものでありますが、この点に対して
責任ある
答弁をお伺いしたい。
政府は、
法治国家として国際上の信用を取り戻すかどうかのせとぎわに立っていることを認識し、積極的な手配をされることを強く望むものであります。
最後に、
韓国政府により発表された
日本の企業による巨大投資申請について
お尋ねをいたします。
報道によりますと、この投資申請は三井グループ等から出されており、十一億三千万ドルにものぼるとされております。現在、
金大中氏誘拐
事件により
日韓両国間の緊張が高まっており、
経済援助問題が
論議されているおりから、
わが国企業の投資申請は十分に注意をしなければならないと思うものであります。しかも、この重大な時期を迎えているときに
韓国政府より発表されたことは、当
政府が今回の
事件を政治問題と切り離し、
経済問題の重要性を強調したものと
考えられるのであります。
本来、一国と一国の
友好とは、政治
経済等すべてが
一体となってはじめて
両国間の
友好関係が結ばれるものであります。
わが国政府は、
日韓関係を
韓国政府と同様、政治と
経済を切り離して
考えられているのかどうか、
総理並びに通産大臣の明快なる
答弁をお願いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣
田中角榮君
登壇、
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