○
工藤良平君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
水銀をはじめといたしました
有毒物質の
汚染の問題につきまして
緊急質問をいたします。
米と魚を常食としてまいりました私
どもが、魚を食べることによって
生命が奪われるとするならば、
自分で海をよごし、
自分で魚を食べられないようにした、それは悲劇と言うべきか、喜劇と言うべきであろうかという、ある
新聞の記事を私は読みました。
水俣病というおそろしい
公害病の
発生は、
人間のしあわせのための
科学が、だれかの利益の追求のみに使われることによって、それが凶器と恐怖に変わるという現実を知らされ、りつ然といたしたのであります。
いま
全国各地で連日のように
怒りに燃えた
漁民の
抗議が続いております。一昨日、大分県の佐賀関町では、二百隻の漁船が港を封鎖をし、
日本鉱業の溶鉱炉の火はとめられました。きのうまた水島でも、
近代設備を誇る
工場が、
漁民の
怒りの
抗議の前に
操業停止という
措置をとらざるを得なくなったのであります。
工場の
責任者がどんなに土下座をしてあやまったとしても、失われた
人間の命は返ってこないのであります。おかされたからだはもとに戻らないのであります。
漁民の積年の恨みは消えないのであります。
企業の今日まで犯してきた
人類への責めと事の
重大性を、いまあらためて認識しなければならないのであります。
水銀をはじめカドミウムなど重金属が、米や野菜、そうして魚など、口を通じて人の体内に入り、蓄積をされ、人の
生命までもおかすというメカニズムが明らかにされて、すでに十数年の歳月が流れているのであります。その間も
被害は拡大をしました。つい先ごろ、
有明海沿岸における第三の
水俣病の
発生が確認をされ、そうして第四、第五と数限りなくその危険が迫るにつれて、
政府もようやく本格的な
対策を講ずるポーズを示しつつあるのであります。今日までたゆまぬ努力によって
研究を進められた良識ある医師と住民からの告発によって、
対策を迫られるに至った行政の怠慢はおおうべくもございません。
総理は、ここに
被害者をはじめ全
国民の前に深い反省を示すべきであると思いますが、いかがでございますか。
第二の問題は、今回
厚生省より示されました
魚介類における
水銀の
暫定基準についてであります。
昭和三十一年、
水俣病の
発生が確認されて以来、実に十七年目のことであります。しかも、それはあくまで安全の目安であり、
安全基準そのものではないという
注釈つきのものであります。一説によれば、きわめて短期間に
検討されたとも伝えられておりますが、今回の
基準が、一応
国民の間に広がっている不安をやわらげ、
漁民の強い
抗議の行動に対処するためのものであるとするならば、事は重大であります。WHOで定められている
水銀の
暫定基準は、
体重六十キロの人の一週間の
メチル水銀許容摂取量は〇・二ミリグラムであり、これを
体重五十キロに換算すると、ほぼ今回の
暫定基準に近いといわれております。百七十マイクログラムの
週間摂取許容量から割り出した
数値は〇・二二三
PPMになり、それを〇・三
PPMに切り上げたことも問題があると指摘をされております。さらに、
自然汚染の高いといわれる
マグロや
川魚などが除外されておりますが、これらは
政治的判断のにおいが強く、
科学的判断がゆがめられているのではないかといわれているのであります。
また、今回の
基準設定にあたっては、
メチル水銀が脳から
排出される期間を二百三十日とすべきであると主張をした武内熊大教授の新説は、裏づけとなるデータがないとの理由で退けられ、結局従来どおり七十日説が採用され、問題を今後に残しているのであります。今回の
基準は、WHOの
数値に権威づけを求めた感が強いものといわれておりますが、
水俣病をはじめ
人類史上例のない残虐な
公害病の人体実験という悲劇の中で積み重ねられた貴重な資料をもとにした最高の権威ある
基準とすべきではなかったかと思うのでありますが、この点いかがでございますか。
さらに、
汚染地域や
汚染魚の
調査は一部の地先や一部の魚に限定をされておりますので、これをもって画一的に評価することは困難と思われます。この
暫定基準の例示は、
汚染度〇・三
PPMを仮定し、各魚の一種だけ食べる場合の量が示されています。魚以外の他の
有毒物質を含む食物との関連は配慮する必要はないのでありましょうか。もし配慮する必要があるとするならば、この
暫定基準はいつごろまでのもので、当然安全
基準が示されると思いますが、その展望について明らかにしていただきたいと思います。
第三の問題は、
被害者の発見に全力をあげなければならないということであります。
水俣病認定患者五百五十八人をはじめとして、重金属による
汚染された認定患者は、予想を上回るきわめて多数にのぼっているのであります。しかもそれは、死者までいたという第三
水俣病の確認は、
国民に大きなショックを与えました。このような相次ぐ新患者の発見は、潜在的患者を含めますと、かなり広範な分布になっていると
判断をされます。同時にまた、
水銀だけでなく、
PCB、BHC、カドミウムなどあらゆる
汚染物質で全
国民が
汚染されており、その
汚染度は
世界の百倍とも言われているのであります。
汚染源の徹底的な究明はもとより論をまちませんが、患者の把握は人道的問題としても重大であります。
政府はこれまでにどのような方策で患者の発見に当たり、そしてまたその
対策を講じてこられましたか。潜在患者
対策も含め、広範な
地域で一斉検診等によりその
対策に万全を期するべきであると
考えますが、いかがでございましょう。
第四は、
国民の不安を取り除くための
対策についてであります。
今回の
暫定基準は、不安と恐怖におののく
水銀、
PCBをはじめとした重金属
汚染に一服の鎮静剤の役割りを果たし得たかもわかりません。しかし、今回の
基準を示しただけでは問題の解決にはならないと
考えます。当然、今日まで積極的な手だてを講ずることなく、
被害者救済をサボリ、逆に
企業擁護の立場にあった
政府の
責任は、
企業責任とともにきびしく糾弾されなければならないのであります。(
拍手)
それと同時に、いま
政府の緊急
対策の樹立を
国民が強く望んでいます。
その一つは、通産省は先般、
水銀を触媒としたアセトアルデヒド製造
工場、塩化ビニール製造
工場の使用
水銀の未回収量などについて
発表いたしました。苛性ソーダ製造法には、
水銀を使わない
方法と
水銀を使う
水銀法とがありますが、戦後は特に
水銀法が多く用いられ、四十七年の苛性ソーダ生産量三百万トンのうち九五%は
水銀法が使われております。アセトアルデヒド製造
工場は四十三年五月から
水銀を使わないエチレン法にかえていますが、それまでに使用されました
水銀のうち、七仕入
工場で三百五十二トンの
水銀が未回収とされております。これらから
判断されることは、
調査が進むにつれてその
水銀の使用量は増大をし、未回収量も全くつかめないという
現状にあります。そのことはまた
汚染のひどさを物語るものであって、第四、第五の
水俣病の
発生へとつながるものであります。
衆議院公害環境保全特別委員会における参考人の
発言は、このことを裏書きするものでありまして、通産省といたしましては、
水銀をはじめとした
有毒物質の製造、使用、たれ流しの的確なる把握を急ぐとともに、使用禁止等の
措置について万全の
対策を行なう必要があると思いますが、いかがでございますか。
その二は、その流出が明らかになっている
有毒物質の回収とヘドロの処理等を急ぐことであります。
広い海は意外に狭く、予想以上に
汚染が進んでいたのであります。すでに使用が中止された
水銀も
PCBも海へ流れ込んだあとであります。海の中の
有毒物質は、いわゆる生物濃縮を続け、人の体内に入ってきています。高度成長に伴う大量生産、大量
消費の
排出物は、海の持つ自然浄化
作用の限度を越えて、沿岸の海中に蓄積をされ、それが
被害拡散の原因をつくり出しているのであります。一たびよごされた海は戻らないともいわれます。しかし、あらゆる
科学、あらゆる総合力を発揮して、
水銀、
PCBなどの回収のため、
技術の開発とその処理について万全を期すべきであると
考えます。
その三は、
汚染水域における漁業を中止させ、その安全性を確保するとともに、さらに密度の高い
水域調査を実施する体制をとることであります。
六月四日
発表された
水産庁の
PCB汚染調査は、大分川河口のウナギ一三〇
PPMを最高に、敦賀湾のボラ一一〇
PPMなど、
PCBの
汚染が一般の予想を上回って広がっていることを示したものとして注目しなければなりません。
水銀をはじめ
PCB、カドミウムと、二重三重の
汚染は、すでにからだまでおかされている直接の
被害者は言うまでもありませんが、漁業を生活の柱として生活をささえてきた
漁民にとっても、最大の
被害者であることを何人も否定することはできません。魚を常食としてきたという健康面の不安がつきまとっているということ、
汚染をされた
水域の魚はもちろん、他の
水域でとれた安全な魚といえ
ども、その識別が困難であるということから
汚染魚というらく印を押され、買いたたかれ、あるいは廃棄処分にしなければならないという現実に
漁民の皆さんは突き当たっているのであります。これらの犠牲ははかり知れないのであります。
汚染魚の識別の
方法、検査
制度の充実、表示の
方法等、安全性確認の方策に緊急な
対策を講ずる必要があると思いますが、その点について伺います。
その四は、
汚染源の徹底的な追及と、
加害者への補償を行なわせなければならないということであります。
「渡良瀬川沿岸に
被害あるは事実なれ
どもその原因明らかならず」とは、かつて田中正造代議士の
質問に対する
政府の
答弁書の内容であります。すでに一世紀に近い年月を経た今日といえ
ども、その原因究明の本質は変わっていないのであります。
魚をとってはいけない
水域は示されました。食ぜんに供しては悪い
基準も示されました。しかし、
汚染源は
発表されてはいないのであります。異常に発達した高度成長のしわ寄せが、
漁民といろ弱い者の犠牲の上に積み重ねられ、それが泣き寝入りのまま済まされてはならないのであります。すでに住民の告発の前に、
企業の横暴は許されない情勢となっているのであります。
被害のあるところ必ず
原因者があります。それは徹底的に究明され、明らかにされなければなりません。そして、事態の深刻さを
国民各層に知らせ、
対策を立てることこそが必要であります。漁業補償を見舞い金などの安易な形で妥協するのではなく、
漁民補償における法的
措置を講ずる必要があると思います。(
拍手)
次に、
汚染された
水域の予防
対策と救済
対策についてであります。
その一つは、今回の
基準が示していますように、それはあくまでも
暫定基準であって、安全
基準ではないといわれております。この
基準が不安定要素を持っている以上、これ以上海をよごしてはいけないという予防
措置が必要となります。これだけ水質が汚濁され、大気の
汚染が進んでいる中で、経済の不均衡是正という名のもとに
工場の地方分散が進められ、
公害が拡散をされています。この際、既成工業地帯はもちろんのこと、新産業都市
指定地域の総点検を行なうとともに、新規の埋め立てを中止させ、立地
企業の再
検討が行なわれなければならないと思いますが、その点についての御見解、さらに、
汚染物質の総量規制についてもすみやかにその
対策を講ずる必要があると思いますが、いかがでございますか。
その二は、今日もなお漁業における重要な部門を占める沿岸漁業
対策についての
所見を伺いたいのであります。
近年、魚族の減少は著しく、かろうじて養殖漁業によってささえられてきました。今回の
汚染は、養殖漁業にさえも決定的に打撃を与えようとしております。
関係漁民には死活の問題であります。当面する沿岸漁業の
対策を示すとともに、恒久
対策の樹立についての方針を明らかにしていただきたいと思います。
その三は、
漁業者に対する当面の生活再建の
救済措置であります。
さきにも述べましたように、
汚染魚の問題が
発生して以来、各地の
漁民は出漁を停止し、国の
対策に期待しつつ、
企業への
抗議を続けております。高度経済成長の犠牲を一身に受けながら、耐えるだけ耐えてはきたものの、働く場所を失うという追い詰められた
状況の中で、いま必死になって戦っている
漁民に対して、すでに二百五十億のつなぎ資金が準備されているとは言いますが、それは単なる申しわけにしかすぎません。前に述べましたように、長期安定した恒久
対策とともに、生活補償、損害補償に対する緊急
措置についての態度について伺います。
最後に、
わが国の食生活の中で、たん白資源の危機について触れなければなりません。大豆の自給率はわずかに三%にしかすぎません。国際
市場の逼迫は、常に価格の不安定を来たし、投機の対象にさえなっております。畜産についても、もちろん素畜の減少傾向と、濃厚飼料の八〇%を
外国に依存しているという
現状から、飼料の自給体制は危機に瀕しております。さらに、農薬、土壌
汚染によって飼料や肉類の
汚染が高まり、現在のまま推移すれば供給増は望めないという見通しであります。加えて、たん白の唯一の供給源である魚の
汚染は、今後の
食糧対策にきわめて重大な
影響を及ぼすものであると
考えます。
輸入食糧依存の政策は、
世界の
食糧事情の供給不安定から、国内自給の大方針へと転換しなければならない時期に立ち至っております。きわめて安全な
食糧を十分に供給し得る体制の確立は、
日本の
食糧危機が
世界の
食糧危機とともに深刻になりつつあるときだけに、声を大にして叫ばなければなりません。
重ねて申し上げます。たん白資源の開発について、その抜本策を最後にお伺いいたしまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣田中角榮君
登壇、
拍手〕