○
竹田四郎君(続)
大蔵大臣は、去る十三日、
変動相場制移行への決定を発表をしたときの最初の記者会見においては、なるべく早く
固定相場制に返りたい、こういうふうに述べました。その後、自民党首脳との
会議後の記者会見においては、当分の間変動制はかなり続くと、こういうふうに報道をされたわけでありますけれども、わずか数時間にどうしてこういうような心境の変化があったのか、この間の事情について具体的に詳しく説明を求めます。
また、固定制に戻っていくためには、具体的にどういう手続をもって戻っていくのか。国際的な
会議で多国間
調整をするのか、
日本単独の決意でもってやっていくのか、この際明らかにしていただきたいと思います。
この際、
経企庁長官に
お尋ねをいたします。
あなたは、十三日の
経済社会基本計画の閣議決定後、新聞記者会見をいたしまして、今度の新しい基本計画には円の
切り上げ等の
通貨調整済みである、こういうことを記者団に発表になっておりますが、この円の再
切り上げは基本計画の中に具体的にどのくらい
調整をしてあるのか、はっきりと答弁をしていただきたいと思います。
第二に
お尋ねしたいことは、スミソニアン
会議からわずか一年余りで円の
切り上げに追い込まれたことについて、田中
総理の反省を
お尋ねしたいと思います。
私は、田中内閣が
国際経済政策において完全に失敗したと断言してはばからないと思います。しかも、今回は、
日本が特に攻撃の主目標にされたことであります。今回の
通貨危機の主要な原因の
一つは、確かに
アメリカの財政
経済運営の節度のなさにあります。他の
一つは、
日本の
輸出優先、生産第一の
経済貿易構造にあったことは間違いのないところであります。先ほど
通産大臣が申しましたように、
ベトナム戦争を
中心として、
アメリカは
ドルのたれ流しをやりました。多国籍企業をたくさんつくりました。
インフレ政策をやりました。これが今日の
国際通貨危機を招いた主原因であります。しかし、
日本は、この
アメリカに対し、戦車輸送なり、あるいは軍事基地を貸すなり、こうして
ベトナム戦争に協力をしてきたではないですか。この
ベトナム戦争への積極的な協力によって、まさに
ドルは紙っぺらにしかすぎなくなってまいったのであります。私は、いままでの間に、
日本政府は、
アメリカに対して財政
経済の運営の節度を要求し、その節度を守るために金・
ドルの
交換性を当然
アメリカに要求すべきであったと、このように思いますけれども、
総理の
考え方を聞きたいのであります。
国内においては、口では発想の
転換だ、やれ福祉の充実だと、こういうことを言っていながら、実際には超大型の
インフレ予算を編成し、生産基盤の整備と
拡大をはかり、それが
輸出への圧力となり、大きな
黒字基調を定着させてしまったのであります。福祉充実といっても、せいぜい
予算の伸びの範囲内においてしかやらなかったのでありますし、その上に列島改造論を上のせして、まさに生産基盤の
拡大へと財政運営をやったのであります。この結果、
インフレは高進し、所得格差は
拡大し、いまにも社会不安が生まれそうな
国民生活になってしまったのであります。田中
総理は、今日の現実と、このきびしい
通貨危機について、どう反省をしておられるのか、
お尋ねをいたします。
第三番目には、現在審議中の四十八
年度予算案についてであります。
私どもは、今日の
国際通貨危機は根本的な変化であるし、それに対応して
日本の財政
経済の運営のあり方も根本的に変えていかなければならないと思います。今日の
予算原案は、対
ドルレートの変更を考慮していなかったことからいたしまして、当然これは撤回し、新たに編成し直しまして再提出をすべきであります。
予算案と
経済見通しとは一体のものであり、企画庁の計算におきましても、
経済成長率あるいは
卸売り物価指数、
消費者物価指数は、これによって変動をするという計算をしているわけであります。また、今回の
予算も、いままでの理念で組まれているわけでありますから、大いに発想の
転換をこの際しなければならないのであります。
また、
歳出につきましても、先ほど御答弁がありましたけれども、
政府間のものもありますけれども、たとえば、防衛
関係費の武器、車両、航空機の購入費、あるいは
経済協力費、食管会計、産投特別会計、こうしたものは当然に
予算の修正を行なうべきであるわけでありますし、
歳入見積もりにおきましても当然減額になるし、地方財政計画とかあるいは地方交付税の補てんも必要になってまいりますし、先ほど
通産大臣が申されましたように、
中小企業の
関係費もただ融資だけでたえられるような
事態では私どもはないと思います。現実に補助金を出して救済をせざるを得ないというようなものもあるわけでありますから、この際、
予算案を撤回して、組み直しをすべきであろうと思います。
政府は、補正によって切り抜けよう、こういう
考え方のようでありますが、私どもは、
予算の性格そのものを変えなければならないという
観点でございますから、補正によっては
予算の性格を変えていくことが不可能であると思いますから、組み直しを要求いたします。
第四番目には、
総理の政治責任についてであります。
政府・自民党は、円の
変動相場制への
移行は、
ドルの一方的な
切り下げであるから、円の
切り上げではない、こういうふうに強弁をしておりますが、
国民はだれもこの
政府の言を信ずる者はありません。むしろ、その言い分に私ども
国民は怒りをさえ持っているのであります。現実にきのうの東京の
市場を見ましても、
ドルの
切り下げよりも高い二百七十一円という
相場になっておりますし、
米国は露骨にも一〇%の
円切り上げを要求しております。
日本国内におきましても、先ほども申しましたように、一五%前後というのが常識になっているのであります。
政府は、日銀がこれに
介入をしてダーティ・フロートをやる、こういうふうに言っておりますけれども、まさに先ほどの
政府報告は責任のがれの詭弁であると言うほかはありません。田中首相は、最近まで、円の
切り上げに対して外圧はない、こういうふうに言っておりました。しかし、今回、円の
切り上げ方向に追い込まれてまいりますと、豹変して、
わが国には責任はない、外圧だと、こうして自分の責任をたな上げにしているのであります。
総理は、昨年十一月の九日、本院
予算委員会において、わが党委員の
質問に対しまして、
日本経済は
円切り上げにたえられる状態ではない、
円切り上げが避けられなかった場合には相当な政治責任が生ずる、相当なものであると、繰り返して政治責任を負うと答弁しておられます。また、さきの国会の施政
方針演説においても、回避にあらゆる
努力をすると述べたばかりであります。一昨年の八月以来責任あるポストについていた
総理が、この間に、
切り上げ回避のために一体どれだけの
努力をしてきたか、明確にしていただきたいと思います。
また、今回の
措置につきましては、
日本は全く主体性がなかったと言わねばなりません。
通貨危機の責任を負うべき、被告席に立つべき
アメリカが、多国籍企業を使って
ドル売りをしているのを放任し、西欧
各国を攻撃し、最終的には
国民を孤立させ。攻撃目標にしてきているわけであります。この
アメリカにかき回され、その上一〇%の
ドル切り下げというあいくちを突きつけられて、ギブアップという状態に現在押し込められてしまっているではありませんか。金・
ドル交換性が停止されている今日、この
措置は実質的に他国の
通貨の
切り上げをやったのと同じ結果でありまして、名を捨てて実利
主義を
アメリカは発揮したのであります。
円切り上げが現実問題となった今日、首相はどういう政治責任をとるつもりなのか、それとも、へ理屈を並べて責任を回避するつもりなのか。発想の大
転換をはかるために、あなたは総辞職をして野党に政権を担当させてはどうですか。政治責任について具体的に
お尋ねをいたします。
第五は、日銀の
相場介入について、
大蔵大臣に
お尋ねをいたします。
円の
実勢を見るために、そしてまた、
ドルの
切り下げに上積みをするために
変動相場制にするというような御説明でありますが、円の
実勢を探るためであるならば、なぜ日銀の
介入を許すのでありますか。一昨年の
変動相場制においても、西欧諸国は、
日本はダーティ・フロートだといって非難したことは、御存じのとおりであります。日銀と
政府の
態度は、相互に矛盾しているのではありませんか。
政府・自民党のメンツを捨てて早く
実勢相場を見出し、日銀のきたない変動制は避けるべきではありませんか。
さらに、
大蔵大臣に
お尋ねをいたします。
十三日の
米国のシュルツ財務長官の声明の中で、
日本の一〇%以上の
円切り上げを期待する、こう述べておりますが、これについては
日本政府は暗黙の了解を与えているというワシントン電がありますが、真偽のほどは一体どうなんですか。ボルカー次官との会見の席上か、あるいは細見代表を通じてか、その点を明らかにしてほしいと思います。
第六は、円・
ドルレートの
調整による
ドル圏からの
輸入物質の価格についてであります。これは当然
低下するはずであります。この差益は当然に一般
消費者に還元し、価格の
引き下げをはかるべきであります。しかしながら、前回の場合は、全くそれがありませんでした。総代理店制や商社、メーカーがそのメリット分をネコババをして、
消費者に全然還元をしなかったと言ってもよいのであります。たとえば、小麦は安く入ってまいります。その小麦について、私は、それを学童給食の場合にその差益を還元しろ、こう申しました。当時の
大蔵大臣は、それを承認をいたしました。しかし、これも一向にやっていないのであります。今度の場合にも、私はこうしたことがたいへん心配になります。差益を
国民に返す
措置を具体的にどうとるのか、この点をひとつ企画庁長官に明確にしていただきたいと思います。差益でもうけた者に対しては、ペナルティを課するとか、あるいはその差益を全額国庫に納入させるとか、こういう
措置をとるべきであると思うのであります。
第七に、産業
貿易構造の
転換のために、次の
措置をとることを要求いたしますので、御答弁をいただきたいと思います。
第一は、二重価格制を解消すべきだと思います。
輸出の価格は
引き下げて、その分を国内価格を引き上げるというようなことが公然と行なわれているわけでありますが、これを即刻解消させるべきだと思います。
二番目は、商社や大企業が、下請企業、
中小企業のコストを無視して合理化をさせ、あるいは契約をする、こうした
措置をやめて、
中小企業がコスト・プラス適正利潤で経営ができるようにすべきだと思います。
日本の労働者の低賃金は、きのうも衆議院でお話がありましたけれども、労働時間から見ましても、年間を通じて
アメリカの労働者より一カ月半、西独の労働者よりも一カ月、余分に働いているわけであります。こうした低賃金構造をやめて、少なくとも最低時給制度を法制化し、現在のところ時給五百円程度のものにはさすべきだと思います。また、週休二日制を義務づけるべきであると思います。
四番目に、公害等につきましてはP・P
原則を厳守して、公害無過失賠償責任制度を確立し、企業の責任において公害の被害者の医療や生活費を保障するようにすべきだと思います。
五番目には、老齢年金については積み立て方式から即時賦課方式に改め、年金額も一般雇用者
水準に引き上げるべきであると思います。
以上の項目はほんの一部分でありますが、このくらいは実現をしてもらわなければ、
貿易産業構造の
改善の手始めにもならないと思いますけれども、
関係閣僚の決意を伺いたいと思います。
最後に、大企業優先からの
転換をはかるために、資本金一億円以上の大法人の法人税率を西欧
水準並みに引き上げるべきであると思います。かつまた、租税特別
措置を廃止すべきであると思います。
政府の資料によりますと、法人の実効税率は、国・地方を合わせて四五・〇四%になっておりますが、
アメリカはこれが五一・六四、
フランスは五〇・〇〇、西独は四九・〇五、イギリスが四〇・〇〇でありますが、
日本の法人税率は確かに安いのであります。その他、全法人の所得顔と法人税とを比較してみまして、法人の租税負担率を見ますと、平均三一・四七%であり、大法人になりますと、三〇%を割っているのであります。租税特別
措置による減価償却分を所得とみなしてみますと、この割合はさらに低くなります。さらに、階層別に見てみますと、資本金一千万円から五千万円程度の負担率が一番高く、百億円以上の企業百五十九社について四十五
年度で見ますと、平均二八・七八%が実際の租税負担率で、減価償却分を含めますと二五・〇五%、こういう低
水準にあるわけでありますから、一億円以上の大法人の税率を引き上げて、いままでの企業優先の
経済構造を変える、このようにいたすべきであると思います。
以上につきまして、各閣僚の明快な答弁を要求して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣田中角榮君
登壇、
拍手〕