○米田正文君 私は、自由民主党を代表いたしまして、今回の
政府の
施政方針演説について、
総理並びに各関係の
大臣に対し若干の質疑を行ないたいと思います。
第一質問は、
田中総理の
政治姿勢についてであります。
〔議長退席、副議長着席〕
昨年暮れの衆議院
選挙は、
田中内閣誕生後、初の総
選挙として、その結果いかんは
国民注視の的でありましたが、わが自由民主党は、改選前に比しましてやや減少を来たしたとはいえ、依然として
国民大多数の支持を得ることができました。二百八十四議席という衆議院の絶対多数を確保し、
政治の安定勢力としての地位を保つことができたのであります。
田中総裁の率いる自由民主党は、
国民の信任を得た
責任政党として、今後いよいよ
国民の期待にこたえるため、全党あげて
選挙公約の実行に最大の
努力をいたさなければならないのであります。特に、人間優先の
福祉社会の建設、公害のない
日本列島改造などの大
政策は、英断をもって進めなければなりません。
田中総理は、施政
演説の中で、私は
国民のための
政治を決断し、実行し、その結果について
責任をとると断言せられました。われわれは、その情熱と信念に対し、深い感銘を受けたのであります。
国民のわが党、
田中内閣に望むものは、その決断と実行であります。
田中内閣が、
国民の信頼をもとに引き続き政権を担当するにあたっての新しき
政治姿勢をここに
田中総理にあらためてお
伺いをいたします。
第二に、
外交・防衛の問題について、
総理、外務
大臣並びに防衛庁長官にお尋ねをいたします。
昨年秋の日
中国交正常化によりまして、北方領土の問題は別といたしまして、戦後
わが国の
外交の大きな懸案は、ほとんど解決をいたしました。また、長い間続いてきた
ベトナム戦争も、当事者の間の粘り強い交渉が実を結びまして、ついにその
終結を見るに至りましたことは、まことに喜びにたえません。これが極東
情勢の
緊張緩和に大きく寄与することを期待してやまないものであります。しかしながら、
ベトナムの
和平協定は、平和への道の入り口であり、
ベトナムに真の平和が訪れるのはまだまだ先のことだと言われております。それは、なお多くの困難な問題が残されておるからであります。極東
情勢は、なお流動的であると言うべきでありましょう。したがって、野党の諸君が、
ベトナム戦争の
終結によって極東
情勢は
緊張緩和に大きく
動き出した、日米
安保条約はこの
情勢にそぐわないとして、その改定ないしは廃棄を主張しておるのは、非現実的な主張と言わなければなりません。かかる
意見は、われわれ
責任政党のとらざるところであります。日米安全保障
条約こそは、わが
日本国土と一億の
日本人の平和と安全をゆるぎなく保障しておる重大な
条約であります。したがって、
日米安保体制は、簡単に
ベトナム情勢の変化を
理由にその存在の
意義を問われるようなものではないのであります。流動的な要素をなお多くかかえておる極東
情勢のもとで、もし万が一、日米
安保条約が消滅するような事態が生ずるならば、それこそ
アジア諸国に大きな不安と動揺を与えることになりましょう。太平洋の二辺を占める
日本と米国とが緊密な
協力関係を維持していることが、
日本自身にとってのみならず、今日の
アジアにとっていかに重要なことかを十分に認識すべきであります。(
拍手)
総理も外務
大臣も、日米
安保条約は
わが国にとって不可欠のものであると言われたのでありますが、その点について、
政府として、
世界の集団安全保障の現況をよく説いて、
国民の理解をさらにさらに深めるような
努力をこの際あらためてなすべきではないでしょうか。
国際情勢の
緊張緩和に関する野党の諸君の過大評価は、
わが国の防衛力の整備に対する反対の
理由ともなっております。国際緊張は緩和したのだから、四次防などは必要ないではないかというのがその言い分であります。しかしながら、防衛力の整備は、もともと一朝一夕にでき上がるようなものではありません。それは、
国際情勢の一張一緩に惑わされることなく、
世界の大勢に即応しつつ、国力、国情に応じて着実に行なわれるべきものであります。
総理は、
わが国が
必要最小限の
自衛力を保持することは
独立国として義務であり
責任でもあると言われました。まさにそのとおりであります。だが、
わが国の自衛隊は、独力ではとうてい国を守り通すことのできる程度のものではありません。四次防は、
必要最小限の防衛力へ近づくための過渡的な整備の一段階にすぎないのであって、
他国から
脅威として受け取られるようなものでは決してないと思いますが、この際、
総理の御
見解をあらためてお
伺いをいたします。
ところで、最近、基地の設置、運用等をめぐって各地でいろいろな問題が発生しております。そのよって来たる原因は、
地域住民の環境改善の要求にあると思いますが、さらに、これらに加うるに、防衛力の維持そのものに反対する
政治的意図がうかがわれるのであります。基地は、本来、
独立国として国の安全を維持する上にも、また
日米安保体制の上からも、必要欠くことのできないものであります。それについて広く
国民の理解を得るとともに、基地周辺の環境整備に関する諸
対策を進めることによって、
地域住民の利益との調和をはかることが必要であります。
なお、現在、立川や那覇において自衛隊員の住民登録拒否が行なわれておるようでありますが、もしこれが長引くと、子弟の学校入学等にも影響し、基本的人権が無視せられることになり、ゆゆしき大事になると思います。これからの基地
対策をいかに考えておられるか、防衛庁長官のお考えを承りたいと思います。
第三に、経済
外交と対外経済の諸問題について、
総理、外務
大臣並びに大蔵
大臣の御所見を
伺いたいと存じます。
これからの
わが国の経済
外交の諸問題の中で最大の比重を占めるものは、申すまでもなく対米通商問題であります。一九七二年一年間の米国の貿易収支は六十四億ドル余りの赤字で、前年に比べて三倍も大きな赤字を記録いたしております。米国に関する限り、七一年十二月の通貨調整の効果はほとんどあらわれておらないように見えます。この赤字の克服を目標とする対外通商交渉が
ニクソン政権の大きな課題になるものと予想されております。その赤字のうち、対日貿易収支の赤字は、四十一億ドル余りと、全体の六割をこえる大きさであります。
わが国が、貿易収支の黒字縮小のため、なし得る限りの
努力を払ってきたにもかかわらず、この始末であります。対米貿易収支の不均衡が日米間の深刻な交渉案件となることは、火を見るよりも明らかであります。この問題は、単なる
外交案件ではなく、より多く経済問題であり、
わが国の産業構造そのものにかかわりのある問題であって、
総理も申されたとおり、その解決は容易なものではありません。わがほうとしては、すでに資本の一〇〇%自由化の方針も打ち出され、関税の大幅な引き下げも行なわれようとしております。また、円の再切り上げを行なえという要求は、非公式ながら
アメリカ側から出されておるとも言われております。
わが国の経済学者の中にも、基礎的不均衡があるのだから、早目に再切り上げを行なったほうがよいと主張する向きもあります。しかし、
田中総理は、円の再切り上げは極力回避したいとたびたび言明をせられております。日米貿易の不均衡問題がいよいよ重大化しつつある今日、
政府がどのような態度で米国
政府との通商交渉に臨むおつもりであるか、交渉にあたってわがほうとしてどのような具体案を用意しておられるのか、できるだけ詳細にお
伺いをいたしたいと思います。
経済
外交において特に留意すべきは、
東南アジア諸国であります。これら諸国との経済関係はますます緊密となってまいりますが、
わが国が工業製品の輸出国であるのに対し、
東南アジア諸国が原材料の供給国であるという関係は、なかなかに改めることができません。今後とも急激な変化は予想されにくい状態であります。その結果としての著しい片貿易、それをどうやって改めていくのか。それはまた、
わが国の
経済協力のあり方とも関係しております。これが第一の問題であります。
次は、
東南アジア諸国における
わが国企業の
姿勢についてであります。
企業利益の追求に熱心なあまり、往々にして現地住民の反感を招いておることは、御承知のとおりであります。タイにおける日貨排斥も、主としてそうした
理由によるものと思われます。他の諸国でも同じような事態が生じないという保証はございません。現状は直ちに改めなければならないのでありますが、
政府としてどのような措置をとるおつもりか、
総理から御所見をお
伺いいたしたいと思います。
次に、今後における対インドシナ
外交について外務
大臣にお尋ねをいたします。
ベトナム戦争の
終結を迎えて、
わが国は、
アジアの一国として、今後
アジアにおける平和維持のために、なし得る限りの積極的な貢献をなすべきであるという使命感は、
わが国朝野を問わず、ますます高まってきております。
政府としてインドシナの安定と復興のために具体的にどのような
協力をなすつもりであるか、お
伺いをいたします。
総理は、
ベトナム和平を定着させるために、
アジア諸国をはじめ
太平洋諸国を網羅した
国際会議開催の
可能性を
検討したいと申されましたが、私はきわめて適切な方針だと存じますので、その早急なる実現に
努力せられんことを切望いたします。
第四に、
政府の経済
政策について、経済企画庁長官と大蔵
大臣にお尋ねをいたします。
わが国の経済は、昨年の春以来、長い不況を脱して回復に向かい、現に着実な
上昇過程にあります。一方、
世界経済も
日本経済と同様に好調に推移することが予想されておりますが、同時に、
世界的な
インフレーションの
傾向も強まるのではないかと言われております。こうした中で最も警戒をしなければならないのは、
インフレであります。これまでかなり長い間、一方で
消費者物価が
上昇を続けたにもかかわらず、
卸売り物価はきわめて安定していたことが、
わが国の
物価の特徴でございました。ところが、昨年来、この
傾向に異変を生じました。
卸売り物価が急激な騰貴をいたしました。昨年後半の
卸売り物価の急騰に最も大きく寄与したのは木材でありました。木材は、国内の供給がそれほどふえないのに、海外の
インフレで輸入材の価格が上がったことと、不況で一時鈍化した住宅建設が再び復調してきたことが重なり合って高値を呼んだと推測されております。だが、
責任は木材だけではなく、繊維も鉄鋼も上がっております。
卸売り物価の
上昇は、全く一時的な現象でしょうか。それとも
卸売り物価上昇の季節が始まったのでしょうか。
卸売り物価安定の
時代はすでに終わったという見方も一部にあるようであります。もしそうだとすれば、それはたいへんなことでありますが、それはまたいかなる原因によるものでありましょうか。その原因を除き、
卸売り物価を安定させる手段は、いかなるものがあるかをお
伺いいたします。
また、それでなくても、
消費者物価は毎年五%台の率で上がってきております。
卸売り物価の騰勢がとまらないとするならば、それが
消費者物価にはね返ってくることは、たびたび言われておるところでございます。これを防止するためにいかなる
物価対策を講ずるおつもりであるかをあわせてお
伺いいたします。
以上の諸点、経済企画庁長官の御所見を
伺いたいと思います。
次に、
予算と
インフレについて、また財政と金融のかね合いについて、大蔵
大臣にお尋ねをいたします。
新年度の一般会計
予算は、その規模十四兆二千八百四十億円、前年度当初より二四・六%増、財政投融資は六兆九千二百四十八億円、二八・三%増と、わが党の公約を織り込んだ積極大型財政であります。大蔵
大臣は、この大型財政の柱として、
福祉の向上、
物価の安定、国際収支の均衡の三つをあげておられます。世上、この三つの柱を評して、三兎を追うものとさえ申しておりますが、たいへんむずかしいこの問題を大蔵
大臣はどう処置していかれようとするのか、お
伺いをいたしたいのでございます。
新年度
予算が決定した翌日の一月十六日、その
内容を報じた新聞記事は、口をそろえて、この
大型予算が
インフレを誘発するおそれがあることをあげておりまして、
インフレ対策こそが新年度の大きな課題であるということを強調しております。私どもも、まさにその心配はいたしております。大蔵
大臣としては、このマスコミの批判に対して、
国民のだれもが納得のいくような反論をこの際加えなければなりません。
私は、
予算規模もさることながら、財源の配分がどうなっておるかということが、より重要な問題だと思います。新年度
予算は、
福祉重視の
予算であります。事実、
国民の
福祉を向上させるため、わが党の公約に従って
社会保障の充実と社会資本の拡充には大幅な経費の増額が行なわれました。このことは、民間設備投資が経済成長のにない手であった段階から脱却して、財政主導型の
福祉優先経済へと軌道を修正するという当面の要請にこたえるものであります。しかしながら、公共投資は、相当な需要誘発効果を持っておるとされております。公共投資の大幅な増額が景気に対し刺激的な要因を含んでおるとするならば、その刺激的効果を相殺する役目をになうべきは、おそらく金融
政策でありましょう。財政の大型化に伴って金融は引き締めぎみに運営するというのがポリシー・ミックスのあるべき姿でありましょう。金融
政策の基調をどこに置くのか、大蔵
大臣の御所見を承りたいと存じます。
金融
政策のことを述べる以上、最近の株価の高騰に触れないわけにはまいりません。最近の株価は異常であります。預金準備率の引き上げも焼け石に水であります。配当の利回りのごときは、全く問題になっておらない状態であります。大蔵
大臣として、最近の株価の高騰をどう見ておられるか、この過熱とも言える状態をどうやって冷却させるのか、具体的な
対策がおありであったら承りたいと思います。
第五に、
福祉政策について
総理にお尋ねをいたします。
昭和四十八年度は、年金の年とも言われ、
福祉元年とさえ言われております。わが党の
福祉政策がいよいよ第一歩を踏み出す年であります。
社会保障関係費は、前年度当初比二八・八%増と大きく伸びて、二兆円の大台をはるかに突破いたしました。
その
内容は、一、五万円年金の実現、二、老齢
福祉年金の大幅増額、三、老齢
福祉年金及び老人医療無料化の扶養義務者の所得制限の大幅な引き上げ、四、生活扶助料基準の引き上げ、五、看護婦の夜勤手当の大幅増額など、わが党の公約を完全に実現をいたしました。
公共事業につきましても、生活環境施設の整備が特に重視されて、六一・四%という大幅な増額が行なわれました。すなわち、下水道は五七・七%増、公園は七六・一%増、環境衛生整備は七一・一%増と、いずれもいままでにない画期的な伸びであります。まさに
田中総理の提唱する
福祉元年にふさわしい
予算であります。
産業面におきましても、小規模
企業の経営改善のために、百万円まで無担保、無保証の融資制度を新設して、小規模
企業に対しあたたかい措置を講じております。
このように、
予算全体を通じて、経済的に力の弱い人々への手厚い
援助についてわが自由民主党の深い配慮がなされておることに注目をすべきであります。(
拍手)
ところが、一部に、健康保険の料率が若干引き上げられることなどをとらえて、
福祉政策の前進そのものの
意義をさえ無視するような論議を行なう者があります。
福祉の向上は要求するが、そのために負担がふえることは一文たりとも許さないというようなごときは、あまりに虫のよすぎる話であります。
社会保障の先進国であるイギリスの例を引くまでもなく、高
福祉は高負担にささえられておることを忘れてはならないのであります。今後とも
福祉の一そうの向上をはかろうとする
わが国において、その長期展望とそれに伴う経費をどうやってまかなうかという問題について、
政府の考え方をお
伺いいたしておきたいと存じます。
最後に、第六として、
日本列島改造問題について
総理にお尋ねをいたします。
総理の提唱された
日本列島改造、すなわち国土の総合開発は、人口、産業の大都市
地域への過度集中を是正し、過密と過疎の同時解消をはかり、
地域社会の
福祉と自然環境の保護に徹した住みよい公害のない
日本国土を建設しようという世紀の大事業であります。
日本列島改造事業は、この七月に国土総合開発庁とその事業を実施する公団を整備して、いよいよ本格的に発足することとなったようであります。
田中総理の
日本列島改造に関するなみなみならぬ決意を示すものとして高く評価をいたします。
日本列島改造は、今回の
選挙を通じて
国民の大多数の支持を得たものと確信いたします。いよいよ、これから計画全体の目標をすみやかに設定することが必要であります。目標の設定にあたりましては、経済成長率をいままでのような高いものでなく、やや低目の安定した成長になるように想定することが肝要であると思います。そうでないと、再び高度経済成長の弊におちいるおそれがあるからでございます。
政府は、
昭和四十五年に決定した経済社会発展計画を近く改定するということでありますが、この計画において今後の経済成長をいかに誘導するお考えであるか、経済企画庁長官からお
伺いをしたいと思います。
経済成長率とともに最も重視すべきは、公害
対策であります。公害につきましては、この際、思い切って官民
一体の徹底的な総合
対策を用意すべきであると思います。そもそも、人口、産業を大都市から地方に分散しようとする
日本列島の改造は、なまやさしい問題ではありません。従来提唱された
地域格差の解消論や過密過疎
対策論が十分な効果をあげなかった原因は、そのための適切な目標設定がなかったからであり、また、
政府の指導助成が弱かったからであります。地方開発のための道路、鉄道等の整備も、
時代の要求におくれがちであり、
土地や水の供給も十分に行なわれず、また、これらについての
政府の助成策、税制上の措置等が足りなかったからであります。これは大いに
反省材料にすべきであります。
総理は、強力に本問題に対処せんとする意図をお示しになりましたが、この際、さらに
総理の御方針をお
伺いいたします。
なお、
列島改造には各種の
公共事業が大規模に行なわれるわけでありますが、現行の会計年度のもとでは、
公共事業の執行が秋から冬場に集中することになり、積雪地帯等では多くの支障を来たしております。その点をも考慮されて、
総理は、昨年夏、会計年度を暦年制に改めることを
検討するよう指示せられたと伝えられておりますが、その
検討はどの程度進行しておるのでありましょうか、大蔵
大臣にお
伺いをいたします。
列島改造問題に関する質問の締めくくりとして、最も緊急かつ重大な問題として、
政府の
土地政策について
総理にお尋ねをいたします。
急激に高騰しつつある
地価を抑制しなければ、
日本列島改造は行き詰まりになるおそれがあります。
政府は、
土地問題の緊急性にかんがみて、先般、閣議において一連の
土地対策を決定したようであります。
土地保有税と
土地譲渡利益税の新設、
土地利用計画の設定、
土地取引の届け出制と投機的な
土地取引の中止勧告、開発行為の規制、
土地の賃貸を促進する措置等、新しい
土地政策はまさに画期的な
内容を含んでおります。私は、ここに
田中内閣の勇断を高く評価いたしたいと思います。
新しい
土地対策は、
地価の高騰を抑制し、
土地の供給をふやすことを目標とするものでありますが、実施にあたって具体的にどのようなやり方によってこの目的を達成しようとするのか、この際、
政府の方針をお
伺いいたします。
以上をもって私の代表質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣田中角榮君登壇、
拍手〕